上 下
36 / 58

どんぐりの背比べ

しおりを挟む
「お前さっき、洗濯できないって言ってたけど家ではどうしてんだ?親がやってるのか?」

 洗濯機を操作する紗夜に、後ろで様子を見る勇は話しかける。

「家では私がやってるよ?ただこの家の洗濯機がわからないだけ」
「やり方自体は他のやつと変わらんと思うが……」
「私の家はドラム式だけど、あんたの家のは縦型じゃん。こっちの洗濯機難しくてわかんない」
「なら俺が全部やるのに」
「それはなんかやだ」

 勇に劣りたくないのか、はたまたプライドが高いのか、勇に教えてもらいながらも操作を譲ろうとしない紗夜はスタートボタンを押した。

「プライドが高いところも子供だな」
「うるさい。あなただってプライド高いくせに」
「お前ほどじゃない」
「絶対ウソ。私より高い」
「んなわけないだろ」
「んなわけがあるのよ」
「まぁプライドはあることは認めるとして、俺よりかはお前のほうが上だな」
「ごめんそれはないね。あなたのほうが上よ?」

 自分が上になることだけは譲れないのか、身長差を生かして紗夜を見下す勇と、負けじと背伸びをしながら胸を張る紗夜はお互いを睨み合う。

「そういうところが子供なんだよ!」
「そういうところが子供なのよ!」

 口を揃えて言う勇と紗夜は顔を背け合い、2人して同じ扉からリビングに向かい出す。どんぐりの背比べだということも気づかず、お互いがプライドが高いと決めつけた2人はそれぞれ自分のしたいことを始めた。
 勇は紗夜が机に残した食器を台所に持って行って洗い物を始め、紗夜は我が家のように改めてソファーに寝転び、テレビをつけて服の中に手を入れる。

「ねぇ、サラシ外していい?」
「なんでだよ」
「だってきついんだもん」
「毎日つけてるだろ。それぐらい我慢しろ?」
「やだ。もう隠す必要ないのに付ける意味ないじゃん」
「あっそ。なら外してどうぞ」
「どもども~。あ、でも、サラシを外したからって私の胸見ないでよ」
「見ねぇから」

 自分の胸を隠すように体を抱く紗夜は洗い物中の勇をじっと睨みつける。だが、紗夜の胸なんかに興味がないのか、勇は見向きもせずに冷たく反応する。
 見るなとは言ったものの、自分の胸に自信があった紗夜は冷たい反応をされて少し不服気な表情を浮かべた。

「つまんなーい」
「知るか」
「こんな可愛い彼女の胸が見れるチャンスなんだよー?」
「仮だろ仮。あとお前も見せる気ないだろ」
「そりゃ見せないでしょ。ほぼ初対面なのに」
「だな」
「まぁ外すには外すんだけどね~」
「ご勝手にどうぞ」

 服の中に入れた手で慣れた手付きでサラシを手早く外し、勇には見せないように自分とソファーの間に挟んだ。
 勇はそんなサラシになんて興味がないのか、淡々と洗い物を済ませて自分の部屋に戻ろうとリビングを出ようとする。

「どこ行くの?」
「本取りに行くだけ」
「へ~私も見たい」
「……お前文字読めんのか?」
「それは馬鹿にしすぎじゃない!?」
「だって馬鹿だろ」
「あなたより馬鹿じゃないでーす」

 腕を組んで言う紗夜の様子を見た勇はとりあえず文字が読めると判断し、とある質問を投げつける。

「家では本読むのか?」
「うん読むよ」
「まじ?」

 紗夜の言葉に興味を示した勇は若干体を前のめりにして更に質問を投げつける。

「どのくらい読むんだ?」
「んー匠海の漫画を嗜む程度だねぇ。あっ、もしかして私と語り合いた――」
「そんなもんか。本取ってくるから寝とけ」

 分かりやすく興味を失った勇は紗夜の言葉を最後まで聞くこともなく、冷たい反応を取ってリビングを出るのだった。

「え?なにあいつ。自分と気が合わないと思った瞬間あの態度ってすごいイラつく」

 紗夜も分かりやすく機嫌を損ねてしまい、勇が出ていった扉を頬杖を付きながら鋭く睨みつける。

「あっ、そうだ。良いこと思いついた~」

 呟いた紗夜は先程までとは違い、不敵な笑みを浮かべながら扉を見やる。
 そして一応、勇にサラシを見られるのは嫌なので、紗夜の下敷きになっていたサラシを昨日背負ってきたリュックの中に詰めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...