自分隠しのナルシスト達は付き合いたくないようなので、告白します。

せにな

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彼シャツ?

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「……」

 声の割に大したことのない出来事に呆れて言葉が出ない勇は冷たい目を向けた。

「ちょっ、なんでそんな目を向けてくるの!?大事件じゃん!」
「んなわけあるか。ただ洗濯してなかっただけだろ。俺の立場から見ればノックもなしに勝手に俺の部屋に入ってくるほうが事件だわ」
「それはごめん!でも私、今日ずっとこの服なのやだー」
「今から洗濯するからそれまで我慢しろ」
「やだやだやだやだやだーーー」

 首をブンブンと横に振りながら駄々をこねる紗夜に「子供すぎだろ……」と、再度呆れたような冷めた視線を送る勇は、新たにタンスから1枚の大きめの白いTシャツ取り出して紗夜の頭に乗せるように渡した。

「これ着とけ。ズボンは今履いてるやつで我慢しろ。残念ながら俺の部屋には女物の下着はないからそのままサラシ巻いとけ」

 いきなりのことと、大量の情報で頭が混乱する紗夜だが、あまりにも慣れている手付きに頬を膨らませて問い詰めるかのように腕を掴む。

「すっごい慣れてるじゃん。私以外の女子にもこういう事したんだ?」
「……したことねーよ。てか、仮のカップルだと言うのに嫉妬してんのか?」

 勇の言葉にハッとした紗夜は慌てて掴んだ手を離し、今度は勇を追い出すように背中を押しだす。

「ち、違うから!嫉妬なんてしてない!ただ気になっただけだから!」
「あっそ」

 勇はそう言い残すと紗夜に押し出される前に自分から部屋から出て、ドアをゆっくりと背中で締めた。
(なんで悪い気しないんだ……。変な気がある?いやいやいやいや……あいつの素を見たのは今日が初めてだぞ?この俺がそんな、一目惚れだなんてあるわけ無いだろ……)
 まだ腕に残る紗夜の手の感覚をそっと握り、起きたときと同じ気持ちに胸が囚われながら勇はリビングへと戻っていく。
(私のバカ!なんであんな事したの!?てか、なんで嫉妬紛いなこと思ったの!?)
 勇にドアを閉められた紗夜は壁に頭を押し当てて自分を咎めるように自問自答をする。
 だが、今までに味わったことのない気持ちが今すぐに解決するわけもなく、紗夜は頭を悩ませながらも勇に渡された服に着替えだす。

「てかこれ、彼シャツ?一応あいつも仮の彼氏なんだし、これも彼シャツになるのかな」

 そう考えると、自然と紗夜の顔にはニヤケ笑みが浮かび上がってき、謎の幸福感に包まれ始める。
 そんな紗夜が着替え終えると用事を思い出したのか、戻ってきた勇がドアをノックする。

「着替えれたか?」
「うん」
「ん、それじゃあ洗濯物するから脱いだ服もらうぞ」
「え、私の服も洗うの?」
「そりゃそうだろ。一気に洗いたいんだよ」
「やだ。私の下着とかも入ってるんだから」
「わがまま言うなよ……なら、お前が洗濯するか?」
「……できない……」

 本当に子供のように拗ねたような声で言う紗夜に、ドアを開けて宥めるような声色で話しかける勇。

「洗濯のやり方教えてやるから洗面所行くぞ?ほら、自分の脱いだ服持って」
「なんでそんな子供みたいな扱い方するの!?」
「だって子供じゃん」
「ちがうから!」
「そういうところだろ。とりあえず洗濯しに行くぞ」
「わかってるから」

 不服気な紗夜はじっと勇を睨みつけるが、勇自身は特に気にしていないようで先ほど脱いだ自分の服を持って洗面所に向かい出す。その後ろを追いかけるように自分の服を持った紗夜も慌てて洗面所に向かうのだった。
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