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これからは2人の問題①

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 外から聞こえるにわか雨の音に耳が覚め、胸の中でモソモソと動く物体に身体が覚めてその物体が何かを考える為に脳が働き出す。

 胸の中でモソモソと……胸の中でモソモソと……?

 少なすぎる情報では理解できなかった俺の脳は物体を確認するために目を開けるよう命令する。
 まだ眠たい目をうっすらと開け、胸の中の物体を確認してみると、そこには赤紫髪の少女が俺の胸に顔を押し付けていた。
 ちょうどそのタイミングで目が覚めたのか、顔を胸から離した少女がうっとりとした目で俺を見上げてくる。
 その前髪の間から見える目と顔に見覚えがあった俺は無意識に口を開ける。

「公園の……お姉さん……?」

 お姉さんも気がついたのか、うっとりとした目のままほのかに笑って言葉を返してくる。

「公園のお兄さんだぁ……なんでここにいるのぉ?」

 公園のお姉さんの質問に寝起きの脳を回転させて1つの答えが出る。

「俺にもわかんないけど……多分夢だよ……」
「あぁ……夢かぁ……」

 俺もほのかに笑いながら赤紫の少女もとい公園のお姉さんと夢の中でそんな会話をする。
 するともう一度俺の胸に顔を埋めた公園のお姉さんが俺の背中に手を回してグリグリと頭を押し当ててくる。

「夢なら少しぐらいね……」

 公園のお姉さんの行動に不思議な感情が一瞬湧き上ってきたが、夢の中なのだから気のせいだろうと思った俺は公園のお姉さんの意見に同意してそっと背中に手を回して頭を撫でる。
 10秒……30秒……1分……時間が経つにつれて意識が遠のいていくはずの俺の脳はどんどん活性化していき、逆に今の状況がわからなくなってくる。

「あの……これって夢ですよね?」

 公園のお姉さんも意識がはっきりしてきたのか、顔を埋めながら今俺が思っていることを聞いてくる。

「夢のはずですけど……俺の横腹抓んでみてくれません?」
「いいんですか……?」
「夢なら痛くないはずですから」

 俺の背中に回している手がゆっくりと横腹に添えられ、人差し指と親指がゆっくりと横腹の少ないお肉を引っ張り上げる。

「いて……」
「あ、ごめん……大丈夫?」
「うん……大丈夫」
「代わりになんだけど、私のほっぺも抓んで見て……?」

 目を閉じて俺の胸から顔を離して俺を見上げてくる公園のお姉さんにまたもや不思議な感情が湧いてくるが、夢でなくともこの感情がわからない俺は公園のお姉さんに言われたとおりに頬をすっごく軽く抓る。

「痛い?」

 公園のお姉さんに問いかけると、ゆっくりと目を開けて俺の目を見つめてくる。

「力が弱くて痛みは感じない……だけど不思議な感情が湧いてるから夢じゃないかも……」
「俺も不思議な感情湧いてるから夢じゃないな……」

 完全に脳が活性化した俺は公園のお姉さんの頭から手を離して公園のお姉さんから目を逸らしながら声をかける。

「とりあえず……座り直しましょうか」
「そう……ですね……」

 目を逸らし合いながらゆっくりと体を起こし、ベッドの上で正座で座り込み合う。

「まず、頭を撫でてしまってすみません」

 深々と頭を下げて公園のお姉さんに謝ると、顔の前であたふたと手を振りながら公園のお姉さんが口を開く。

「いえいえ!私が先にやってしまったんですから謝る必要なんてありません!こちらが謝る立場ですよ!ほんとうに申し訳ございません!」

 公園のお姉さんはそう言いながら深々と頭を下げて謝り返してくる。
 逆に頭を下げられてしまった俺はどうすればいいのかわからず、あたふたと手を振りながら言葉を探して口を開く。

「全然大丈夫ですから!公園のお姉さんはなにも悪くありませんよ!」
「私の方こそ全然大丈夫ですから!公園のお兄さんがそんなに謝る必要はありませんよ!」

 お互いに手を振り合っていると、この会話の中でとあることに気づく。
 お兄さんお姉さんならまだわかるものの、その前に『公園の』がついているのは不自然すぎる。せっかくだしこの機会に名前を聞くのもありかもしれない。
 そうすればこの不思議な感情も少しは晴れるだろう。

「あ、あの、突然ですけど名前って聞けたりしますか?お互いに公園のお姉さんや公園のお兄さんと呼び合うのは流石に不自然だと思うので……」

 不安ながらも公園のお姉さんに申し出をだしてみると、先程までの申し訳無さそうな顔が花が咲くように顔が明るくなってくる。

「大丈夫ですよ!私は星澤紗夜と申します!」
「星、澤……?」
「はい!」

 公園のお姉さんからの発言に固まってしまった俺の体と一緒に一瞬だけ思考も停止してしまう。

 え?星澤紗夜……?確かにアイツは公園のお姉さんと一緒の髪色だし声も少しだけ似ている。でも見た目は全く違うぞ?アイツはこんなに可愛くない。絶対に違う。絶対に違う!!

 一応、一応念の為に違うことを証明しようと鎌をかけてみることにする。

「学校では顔を隠してるあの星澤さん……?」
「え!認知してくれているんですか!?」
「もしかして俺と同じ髪色の男と付き合ってたり……」

 満面の笑みを浮かべていた公園のお姉さんだったが、俺の次々に来る質問に疑問を持ち出したのか少しだけ小首をかしげる。

「そうですけど、どこで知りましたか?」

 そこまで聞いた俺は信じたくなかった疑惑から確信へと変わり、ゆっくりと頭を下げてベッドに頭を押し当てる。

「ど、どうしました!?横腹をつねったのが今効いてきましたか!?」
「いや、そういうわけじゃなくて……俺、聡善勇なんだよな……」
「……はい?もう一度言ってくれますか?」

 一回だけでは理解できなかったのか、声のトーンを少し下げて聞き直してくる。
 俺もあまりのショックで気が気じゃなかったので声のトーンを数段下げて言う。

「星澤紗夜の彼氏の聡善勇です」

 一瞬動きを止めて口をパクパクさせた後、やっと理解したのか俺の頭上で朝とは思えないほどの叫び声を上げる。

「はぁ!!」
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