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第一章 誘拐される王女
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《スピリットチルドレン》。
それは、精霊の力を魂に刻まれた子供達。その優れた能力は、製造や医療、軍事など、あらゆる分野で求められ、利用されてきた。
スピリットチルドレンは、この世に存在する六精霊、火の精霊サラマンダー、水の精霊ウンディーネ、地の精霊ノーム、風の精霊シルフ、光の精霊 ウィル・オー・ウィスプ、闇の精霊シェイドの属性ごとに一人ずつ、合計六人存在する。一つの属性において、二人以上のスピリットチルドレンが同時に存在したことは、これまでに一度もない。
しかし近年、その優れた力を手に入れるため、人工的にスピリットチルドレンを生み出そうとする非人道的な組織が活動を活発化させている。
それらの組織は、自我が芽生え始める二歳から三歳の子供たちを誘拐して実験に利用したり、スピリットチルドレンだった人間を攫って解剖したりと、聞くに堪えないことを平気で行っているらしい。
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ギギーっという鉄扉の開く音が、とある施設の屋上に響き渡る。
「レイ、いつまで寝てるつもりだよ」
レイは閉じていた瞼を開き、横になっているベンチから身体を起こした。そして、声のした方向に視線を移す。
「やぁ、ラック。わざわざ迎えに来てくれたのかい」
声の主はラック・ルーカス。ツンツンとした赤髪に赤い瞳。腰には一本の大剣をぶらさげ、軽装な鎧を身に着けている。
「午後からの仕事をサボられたら困るからな。様子を見に来ただけだ」
「それは残念。悪いんだけどラック、先に行っててくれないか? 自分はもう少し風にあたってから向かうよ」
レイはベンチからゆっくり立ち上がりながら言った。
「了解。んじゃ、先に行ってるわ」
ラックは、レイが立ち上がるのを確認すると、その場を去っていった。
レイは、瞼を閉じてから大きく深呼吸をする。そして、再び瞼を開き周囲を見渡した。眼前にはエメラルドグリーンの海が広がり、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。後方には、区画整理された綺麗な街並みが広がり、活気に満ちた住民の様子を見渡すことができる。
この都市の名は、水の都《アームシェイド》。大陸の北東に位置し、そのほとんどが海岸に面していることから、海水を活用した様々な技術と漁業で発展した都市だ。
南の正門から、この北の展望台までは、中央通りと呼ばれる大きな一本道が続き、中央広場を挟んで東通りや西通りへと繋がっている。
この展望台の屋上は、海から吹く潮風が心地よく、レイが一人で考え事をするときにはよく足を運ぶのだ。
「さて、そろそろ行きますか」
レイは小声でそう呟いてから、展望台を後にした。
展望台を出てからは、中央通りを進み中央広場へと向かう。
中央通りには、野菜や果物、肉や魚などを売る多くの露店が立ち並び、レストランや喫茶店、アンティークショップなどのお洒落なお店も見受けられる。
「あら? レイじゃない」
レイは後ろを振り返り、声のした方向を見る。そこには、野菜や果物などの食料品が入れられた買い物袋を両手で抱えている少女の姿があった。
「これからお父さんのところに行くの?」
「ああ、シャルは買い物帰り?」
「そうよ」
満面な笑顔でそう答える彼女の名は、シャル・フォルセット。サラサラで綺麗な金髪をポニーテールにまとめ、鮮やかな緑色の瞳をしている。左腕には複数の宝石が装飾された腕輪をつけ、右手の人差し指には、透明感のある淡い青の宝石が装飾された指輪をはめている。
レイは、シャルが追いつくのを待ってから再び歩き始めた。
「午後の依頼からは私も参加するからよろしくね」
「お店の手伝いは、もういいの?」
「この買い物で今日のお手伝いは終了。午後の依頼は大変だから、あなた達に協力するように言われてるの。お父さんからね 」
シャルは、西通りに店を構える武器屋の娘で、火、地、闇の三属性の適正を有する優れた魔導士だ。
魔法の適正属性には、親からの遺伝で受け継がれる先天的なものと、精霊と契約して力を授かる後天的なものがあり、シャルは母親からそれらの属性を受け継いでいる。
「ブラッドさんから依頼の内容は聞いてるの?」
「それはまだ。三人揃ってから話すって」
シャルの父親は、ブラッド・フォルセットという鍛冶職人で、このアームシェイドでは一二を争う腕の持ち主だ。
レイとラックは二カ月前にこの都市を訪れ、ギルドで対処できない依頼をブラッドから受注している。ブラッドは武器屋の店主でありながら、その人望の厚さから、国やギルドの重鎮とも顔が利くのだ。
「そっか。それにしても、シャルが依頼に参加するのは久しぶりだね」
「そうね。大抵のことならレイとラックで十分だと思うんだけど……。どんな依頼なのかしら」
レイは首をかしげるシャルから、重そうな買い物袋をさりげなく受け取り、中央広場に向けて再び歩き始めた。
中央広場には、直径十メートルほどの円形の噴水が、十字を描くように四箇所設置され、数秒ごとに複数の水柱が空に向かって立ち上っている。周囲には、喫茶店やレストランなどの飲食店のほか、酒場や宿屋が店を構えている。
レイ達は、時折噴水から飛び散る水しぶきを浴びながら、西通りへと足を運んだ。西通りに入ると、すぐに大きな看板が目に入る。二本の剣がクロスされたその看板は、一目見ただけで武器屋であることがわかる。
「あれ、閉まってるみたいだけど……」
レイは、入り口に吊るされている《close》と書かれた板を指さしながらシャルを見た。
「ああ、気にしないで入っていいわよ。鍵は開いてると思うから。お昼にはあなた達が来るからって、店を閉めているのよ」
店に入ると、壁に掛けられた剣や槍、弓などの武器が目に入る。壁際に置かれたショーケースには、指輪や腕輪、髪飾りなど、数種類のアクセサリーが並んでいる。
「おっ、ようやく来やがったか」
カウンターに凭れ掛かりながら声を掛けてきたこの男がブラッド・フォルセットである。武器屋の店主にしてシャルの父親だ。筋骨隆々でスキンヘッドというヤバそうな外見をしているが、実際に話してみるとそういう印象は一切ない。
ブラッドの横では、ラックがカウンター前の丸椅子に座ってこちらを見ている。
「すみません。遅れてしまって」
「いや、気にしなくていいさ。ところで……どうしてお前さんがシャルに頼んだ買い出しを――」
「ただいま、お父さん」
シャルが少し遅れて店に入る。
「おう、お帰り。これで役者は揃ったな」
ブラッドは、レイとシャルをカウンター前の丸椅子に座るよう首を振って促した。そして、瞬く間に真剣な表情へと変わる。
「単刀直入に言うぞ――」
ブラッドは三人へ視線を配りながら少しの間を置き、再び口を開く。
「お前達への依頼はこの国の王女、リア・アスフェリアを国外に連れ出すことだ」
リア・アスフェリア。髪型は銀髪のショート。透き通るような青い瞳に青い宝石が装飾された髪飾りをつけている。このアスフェリア王国の第一王女にして、数少ない精霊使いの一人だ。
精霊使いとは、各地に点在する精霊石から精霊を呼び起こし、精霊の力を人へと導くことができる唯一の存在だ。つまり、先天的に受け継いだ属性以外は、精霊使いの力がなければ扱うことができない。
「それ……まじなのか?」
数秒間の沈黙をラックが遮った。
「そうだ。これは国王からの依頼だ……レイ、お前に対してのな。これを見てみろ――今日の早朝に届いた封書だ」
レイはブラッドから封筒を受け取り、記載されている内容を確認した。差出人の名前はなく、あて先はブラッド・フォルセットと記載されている。封筒から中身を取り出し、三つ折りになった手紙を開く。
「んっ……これは……」
手紙に記載された宛名を見て眉を顰める。
「どうしたの……レイ?」
心配そうな表情で、シャルがレイの顔を覗き込む。
「封筒の宛名はブラッドさんだけど――中の手紙はレイ・ランタール様。自分の名前になってるんだよ」
手にしている手紙の文面をシャルとラックに見えるようにして答える。
「ほんとね。でもどうしてこんなことするのかしら……。それに、その手紙が本当に国王の手によって書いたものとは限らないんじゃない?」
「まあ、俺とレイは元騎士団の一員で、あのクソ騎士団長から追い出された身だからな。表立って手紙を送るとかできないんじゃねえの? それに――」
ラックはニヤリと笑みを浮かべながら、シャルに向けていた視線をレイに移す。
「リア王女を連れ出すなら、王女の傍付き騎士だったレイが適任だろ?」
「いや、そもそも追い出されたのは自分だけで、お前は勝手についてきただけだろ。自分から騎士団を脱退するとかどうかしてると思うぞ」
レイとラックの二人は、このアームシェイドでブラッドからの依頼を受ける前、騎士団の一員として国に仕えていた。しかし、レイは騎士団長であるトルフェス・アングレウスとのトラブルをきっかけに、騎士団を脱退することになったのだ。そして、騎士団を脱退する前日、国王からの言伝を受けていたリアから、ブラッドの元へ行くようにと指示を受けていたのだ。
ラックはというと、特に何かをしたわけではないのだが――。レイが脱退するなら俺も。という理由で、騎士団を脱退したのだ。
「ちなみに、この手紙は国王が自ら書いたもので間違いないぞ」
ブラッドはレイの手から手紙を取り、差出人である国王の名前の隣に刻まれた刻印を指さした。
「これはアスフェリア王国の国鳥なんだが、この刻印は普通に使用されているものとは微妙に違っていてな。知っているのは国内でもほんの一握り、国王の信頼を得てる者だけだ。それに、早朝この手紙を届けに来たのは、国王直轄の隠密部隊だった。ほぼ間違いないだろう」
「それって、おっちゃんが国王から信頼されてるってことだよな……。いろいろ顔も利くみたいだし、いったい何者なんだよ……マジで」
「それは教えらんねえなあ。それに、俺が言わなくたって追々わかるだろうよ」
ブラッドが笑いながら答えると、レイは無言のままシャルに視線を移す。視線に気づいたシャルは、軽く瞼を閉じて首を左右に振る。
「でもお父さん、リア王女を国外に連れ出して、その後はどうするの? 私達……もしかして誘拐犯になったりしないよね?」
シャルの声が微妙に引きずっている。
「なるだろうな……間違いなく。だがなあシャル、お前はレイとラックに同行すべきだ。こいつらが仮に誘拐犯になった場合……お前は絶対に拘束されるぞ。こいつらがお前を見捨てるわけがないからな」
ブラッドは真剣な眼差しでシャルを見つめている。
「でも、お父さんはどうするの? お父さんだって危ないんじゃないの?」
「ははっ、俺なら問題ねえさ。さっきも言ったが、俺は国王からの信頼も厚い。心配すんな!」
そう言いながらブラッドがシャルの頭に手を載せて、ポンポンっと軽く叩いた。そして、今度はニヤリと笑みを浮かべながらレイとラックに視線を移す。
「それに、リア王女だって困るだろうさ。こんなむさい男二人と逃亡生活なんてな」
「うん……わかった」
シャルは視線を落としながら弱々しく答えた。
「でもさ、どうしてリア王女なんだ? 第一王子や第二王子だっているんだぜ?」
ラックはブラッドに向けていた視線を一度外し、宙を見据えながら言葉を続ける。
「まあ、三カ月前ぐらいから貴族連中の指金で、あの騎士団長やら胡散臭い研究者やらがやってきて、おかしな感じはしてたんだけどさあ……」
「俺もそこがわからねえんだ。なんか特別な理由でもあるんじゃねえかと思ったんだが……。レイ、お前は心当たりねえのか?」
「……」
レイは瞼を閉じて思考する。
(ラックの言っていたとおり、貴族連中の企みが何かしら関係してるんだろうな……。ありえるとしたら、リア王女を騎士団長や研究者の目から遠ざけたかったから……か。万が一精霊使いだと知られたときに、どのような扱いを受けるのかを危惧して……とか)
「もし、貴族連中の狙いが軍事力や技術力の強化発展で、国王がそのやり方に何かしらの問題があると感じているのだとしたら、リア王女は遠ざけたいと思うかもしれない」
言い終えてから瞼を開くと、三人の視線がレイに集まっていた
「それって、どういうこと?」
シャルが不安気に尋ねる。
「リア王女は精霊使いなんだよ。軍事力の強化だけじゃなくて、最悪……彼女自身が研究対象になるかもしれない」
「リア王女が精霊使い……。マジかよ……」
ラックが普段はあまり見せない真剣な表情で言葉を零す。そして、顎に右手を当てたブラッドが口を開く。
「そいつは驚きだぜ。王女が精霊使いだったとはな……。だがレイ、どうしてお前はそんなことを知ってんだ?」
「多分このことを知ってるのは、自分と国王だけだと思う。リア王女は当時傍付き騎士になった自分を見て、すぐに気づいたんだよ……普通の人間との違いに」
「普通の人間……との違い?」
シャルが息を呑みながらゆっくりと繰り返す。
「そう。自分はこの世界に六人しか存在しないスピリットチルドレンの一人なんだよ」
数秒の沈黙が流れた後、ブラッドは右手で頭を掻きながら、困惑した様子で答えた。
「こりゃ魂消たな……。精霊使いにスピリットチルドレンとはな……」
ラックとシャルは驚きのあまり口を開けたまま固まっている。
「自分の魂には光の精霊ウィスプの力が刻まれてる。そして……精霊使いであるリア王女は、その精霊の力を感じ取ることができた。同時に、自分も彼女が精霊使いであることに気づいた」
「なるほどな」
ブラッドは瞼を閉じて腕を組み、深く頷いた。そして、瞼を開いて力強く言葉を続ける。
「だったら決まりだ」
「えっと……私、まだ整理できてないんだけど……」
「シャル……安心しろ。俺もだ」
ラックはシャルに向けていた焦りの視線を、今度はレイに向けた。
「まあ、詳しいことは後で教えてもらうとして、これからどうするんだ? リア王女を連れ出すにしてもここから王都までは遠いし、王城に忍び込むのだって――」
「いいえラック、王都まで行く必要はないわよ。だって、リア王女は今日の夕方にはアームシェイドに来るんだもの」
シャルがラックの言葉を遮ってそう言うと、ラックが右手で左の掌をポンっと叩いた。
「そっか、明日は視察だ」
そう。この国に属する都市や村は、年に一度王族による視察が入る。そして、ここアームシェイドの視察を担当するのがリアなのだ。今日の夕方頃には到着して、夜は貴族達との会食。その後宿舎で一泊し、明日の朝から視察が始まる。視察を終えて王都に戻るのは明々後日の朝になる。
「問題はいつ、どうやって連れ出すかだな。騎士団が護衛につくだろうから、深夜や早朝を狙ってもあまり効果はない。それに街の中を走って外に出るのは――」
「だったら会食中だな」
ニヤリと笑みを浮かべながらラックがレイの言葉を遮る。そして、ズボンのポケットからキーホルダーを取り出し、ジャラジャラと鳴らして見せる。よく見ると鍵にはそれぞれアルファベットと番号が振られている。
「これは地下シェルターに続く扉の鍵だ。そしてこれが――」
今度は胸ポケットから四つ折りにされた一枚の紙を開いて見せる。見たところアームシェイドの地図のようだが、これにもアルファベットと数字が記載されている。そしてそれらは迷路のように線で繋がれていた。
「――それぞれの鍵に該当する入口の場所だ。会食の場所は展望台近くのこの施設だろ。そしてここには地下シェルターに続く扉がある。扉の鍵はギルドが管理していて一般には貸し出されないし、ほとんど使われていないしな」
「なんでラックがギルドで管理している鍵を持ってるのかっていう疑問はこの際置いとくとして、この地図凄いわね。まるで迷路みたい」
「だろ、俺もコンプリートするまで苦労したぜ」
ラックは腕を組みながら瞼を閉じ、懐かしむように数回頷く。それを見ていたブラッドは、やれやれと溜息を付きながら呆れた口調で言った。
「依頼完了の報告がやけに遅い日があると思ったら、こんなことをしてやがったのか」
「ははっ……。でも、これならいけるかもしれない」
レイはカウンターに置かれていた白紙の紙とペンを手に取り、図を書きながら説明を始める。
「まずは二手に分かれる。リア王女を会食の席から連れ出し、施設内の地下通路へと続く扉の前まで案内する役。それと別の地下通路から入って、施設の地下通路へと続く扉の前で待機する役だ。リア王女は自分が近づけばすぐにわかるだろうから、会食の席には自分が潜入する。二人は地下通路の扉の前で、自分が合図を送るまで待っていてくれ」
「わかったわ」
「了解。けどレイ、潜入ってどうするつもりなんだ? 騎士団が警備してるだろうから無理なんじゃないか。それに危険――」
「大丈夫だよ」
レイはラックの言葉を遮り、指をパチンと鳴らす。すると、レイが座っている辺りの空間が歪み、三人の視界から姿が消えた。三人は驚いた表情を浮かべて数秒固まる。しかし、我に返ったシャルが口を開く。
「えっ、どういうこと!? 今、どうやって魔法を発動させたの!?」
魔導士であるシャルだからこそ発せられたこの疑問。魔導士にとっては当然の反応なのだ。何故なら、レイが行使した今の魔法の一連の流れには、マナの動きが一切感じられないのだから。
一般的に生物が魔法を行使する場合、自身の精神力を発動に必要なマナへと変換する必要がある。そして、感知能力の高いものであれば、このマナの変換量から魔法の規模を推定することができるのだ。
当然、シャルの疑問の意図を理解しているレイは、魔法を解除して姿を現してから、その疑問に答える。
「スピリットチルドレンは、対象となる属性のマナを大量に保有しているから、マナを変換する行程を飛ばして、ほぼ全ての魔法を即時発動することができる。これがスピリットチルドレンの強さの一つだよ」
「凄い! それって最強じゃない!」
シャルが目を輝かせながら両手でガッツポーズをするが、レイは首を左右に振って答える。
「そうでもないよ。スピリットチルドレンはその特性上、対象属性以外の魔法適正を得ることができないし、マノの制御を誤ると魔法が暴発する場合もあるからね。自分も最初は苦労したよ」
「そっか……」
はしゃぎ過ぎたことを後悔したシャルが、視線をカウンターに落とす。そんな様子を見ていたラックが、わざとらしく咳払いをする。
「よし、これで役割分担は決定だな。あとは……えっと……」
「脱出ルートだな。これはお前さんのほうが詳しいだろ?」
そう言いながらブラッドがラックの頭を鷲掴みにする。ラックは煩わしそうに顔をゆがめたが、気にせず話を続ける。
「そうだなあ、とりあえず都市の外に出られる出口は二箇所だな。一つは南門を出て西、森の中にある小屋の井戸。もう一つが門を出て南、王都を囲む山脈の中にある洞窟だな。早く国外に出るなら西の森じゃないか」
「そうね。そのまま西に進めばルゼニア教国だし、あそこなら私達を匿ってくれると思うわ。流石に教国まで追っては来ないでしょうし」
カウンターに大陸図を広げたシャルが、アームシェイドからルゼニア教国までの道のりをスーっと指でなぞる。
ルゼニア教国は、癒しの女神バナケイアを信仰する国で、例え犯罪者であっても庇護を求める者は受け入れられ、教国の民として生活することができる。故に、他国が政治的あるいは軍事的に介入してくることは滅多にない。
「そうだね。アームシェイドを出たら、まずはルゼニア教国を目指そうか。後のことは、リア王女の話も聞いてみてから決めよう」
「異議なし! それじゃあ早速、準備しようぜ!」
「わかったわ。後のことまで気にしてもしょうがないし、それでいきましょ」
三人の意見がまとまったところで、ブラッドが腕組みをしながら大きく頷く。
「よし、話はまとまったみてえだな。それじゃあ、各自準備を済ませて改めてここに集合だ。今は二時過ぎだから四時でいいだろう」
「了解! おっちゃんも娘との最後の別れをちゃんと済ませろよな」
「馬鹿野郎。縁起でもないこと言ってんじゃねえ。それになあ――」
そこまで言うと言葉を切ってから瞼を閉じる。そして数秒間の沈黙が流れた後、再び瞼を開いてレイとラックに強い眼差しを向けた。
「シャルを任せたぞ。そんで、全員生きて帰ってこい!」
「わかった」
レイは一言だけ言葉を返し、大きく頷く。ラックはブラッドの真剣な表情に調子を崩したのか、ブラッドから視線を外して照れくさそうに、当然だろっと小さく呟く。
「大丈夫よお父さん。私だって魔法の鍛錬をちゃんと続けてきたのよ。二人のサポートぐらい立派に務めてみせるわ」
シャルは、ブラッドの手を握りながら力強く答える。
「行こうかラック」
立ち上がりながらラックの肩をポンっと叩き、二人の親子に視線を向けたまま言葉を続ける。
「それじゃあ、また後で」
レイは二人の返事を待たずに振り返り、出入口へと歩き出す。
「あ、おいレイ。二人ともまた後でな」
ラックも慌てて別れを告げると、レイの後に続いた。
武器屋を出ると、二人は現在生活している東通りの宿舎へと向かった。その途中、ラックは呆れた様子で肩をすくめて口を開く。
「あの親子って、ほんとに仲がいいよな」
「まぁ、シャルは小さい時に母親を亡くしてるしね。唯一の家族を大事に思う気持ちはわかる気がするよ」
そう言いながら、レイはゆっくりと視線を空に向ける。そして、ラックの世間話に適当な言葉を返しつつ、現在アスフェリア王国で何が起きているのか、これから何を為すべきなのか、頭の中で整理し始めるのだった。
2
現在時刻は十五時三十分。レイは身支度を済ませ、部屋に備え付けられた鏡を見る。黒いコートに片手剣を一本背負い、左腕には赤い宝石が装飾された腕輪。そして、胸ポケットには国王からの手紙を入れている。
レイは装備の確認を終えてから部屋を一周見渡し、よしっと頷いてから部屋を出た。廊下から受付や食堂がある広めのフロアに入ると、メイド服を着た少女が受付カウンターから手を振って声をかけてくる。
「やっほー、レイ。もう準備はできたの?」
彼女の名はアスティー・ルーベル。長い黒髪をツインテールにまとめ、黒い瞳をしている。身長が低く、口調や立ち居振る舞いからも一見幼く見えるが、実際にはレイやラック、シャルと同い年である。
「うん。えっと、ラックはまだみたいだね」
受付カウンターに近づきながらフロアを見渡し、レイが答える。
「えーっと、そうみたいだねぇ」
カウンターに置かれた宿泊者リストを見ながら答えると、視線をレイに戻す。
「それにしても、三人とも大変だねぇ。まぁ、こっちのことは僕とブラッドに任せてよ!」
肩を竦めながらそう言うと、アスティーは受付カウンターから身を乗り出し、レイの肩をポンポンっと軽く叩く。
同い年ということもあって、レイ達も気兼ねなく接しているが、実際には経歴不詳の謎多き少女である。何故かブラッドのことを呼び捨てにしており、ブラッド本人もそれを当然のように受け入れている。
過去にラックは、アスティーが何者なのかを暴くため、何回か身辺調査を試みたが、尾行中に突然意識を失い、気付いたら宿舎のベットで目を覚ましたという。最終手段として、アスティー本人に直接尋ねたところ、満面の笑顔で白を切られたとのことだった。
さらに、アスティーは今回の一連の出来事について、既にブラッドから話を聞かされているのだが、一見楽しんでいるようにすら見受けられる。
「うん。お願いするよ。それより、アスティーは今回のことどう思ってる?」
「そうだねぇ……。詳しいことは教えられないなぁ。でもまぁ、君と王女様は当分の間、アスフェリア王国には近づかないことをお勧めするかなぁ。そ・れ・と――」
そこで一旦言葉を区切り、アスティーは獲物を狙う暗殺者のような鋭い目つきに変わる。そして、レイの耳元にゆっくりと顔を近づけ、息を含んだ色っぽい声で言葉を続ける。
「情報がほしいならぁ、それなりの――」
レイは自分の背筋に冷汗が流れるのを感じた。そして一瞬の沈黙の後、アスティーの表情が元に戻る。
「なーんてね。もう、ビビりすぎだよレイ」
先ほどと同じようにアスティーがレイの肩を叩くと、張りつめていた空気が元に戻った。
「忠告ありがとう……。肝に銘じておくよ……」
苦笑いを浮かべながらレイが答えると、聞きなれた男の声が割り込んでくる。
「おっす、レイ。もう準備はできたのか?」
「ああ、そっちも終わったみたいだね」
レイは心の中で安堵する。あのアスティーの鋭い視線を受け続けるのは、例え戦闘慣れしたレイであっても遠慮したかったからだ。そして、ラックのタイミングの悪さと、空気が読めない性格に感謝する。
「やっほー、ラック。相変わらずだねぇ。あまり度が過ぎると大変なことになっちゃうよ!」
「えっ、何の話……?」
満面の笑顔と釣り合わないアスティーの言葉に、ラックが一歩身を引く。
「んっ? どうしたのラック。僕、何かおかしなこと言ったかな?」
「えーっと……」
空気が張りつめていくのを感じたラックが、助けを求めるように視線をレイに移す。
「ごめん、アスティー。もう待ち合わせの時間なんだ。そろそろ行くよ」
レイは慌ててラックの腕を掴むと、アスティーの返事を待たずに宿舎の出入口へと足を進める。ちっという舌打ちが微かに聞き取れたが反応しない。
「二人とも元気でねぇ!」
そんな陽気な声が、最後に二人を送り出した。
現在時刻は十五時四十五分、宿舎を出たレイとラックは中央広場にある雑貨屋で、非常用食料やポーションなどの最低限の買い物を済ませてから武器屋へと向かう。
西通りに入ると、武器屋の前でこちらに手を振るシャルの姿があった。待たせるのも悪いと思い、歩くスピードを少し上げる。そして、声の届く範囲まで近づくとシャルが口を開いた。
「準備はもういいの?」
「ばっちりだぜ。そっちはどうなんだ?」
「こっちも平気。さぁ、中に入って」
そう言いながら、シャルは出入口のドアを開いた。
中に入ると、数時間前に来た時と同じように、ブラッドがカウンターに凭れ掛かってこちらを見ている。
「おっ、来たな。とりあえずそこに座ってくれ」
ブラッドは軽く首を振り、カウンター前の丸椅子に座るよう合図する。そして、全員が座るのを確認してから、一枚の紙をカウンターに置いた。
「これは……今回の視察スケジュールか。 どうやってこんなの入手したんだよ?」
一通り目を通してから、呆れた口調でラックが問いかけた。
「さっきギルドに顔を出した時に貰っておいたんだ。という訳で、これから最終確認をするぞ。俺はこの後、またギルドに行かなきゃなんねえから手短に済ませるぞ」
ブラッドは、視察団がこちらに来る時間や会食が始まる時間など、大まかな流れを説明した。しかし、護衛に入る騎士団の人数や警備体制までは分からないらしい。
「――とまあ、こんなところだな」
「どうせなら、警備体制まで分かってれば少しは楽なんだけどなぁ」
「そんな極秘情報が、簡単に手に入るわけねぇだろ」
そう言いながら、ブラッドは軽口をたたくラックの頭を鷲掴みにし、前後に軽く振る。そんな光景に目もくれず、今度はレイが口を開く。
「できれば、騒ぎになる前にアームシェイドを出たいかな」
「そうね。会食が六時から七時半までだから、七時ぐらいには席を外すように誘導できればベストじゃないかしら」
「それでいいんじゃねえか。会場から目的の出口までは軽く走っても十五分は掛かる。道が少し入り組んでるから距離にすると結構あるんだ。まあ、万が一見つかったとしても、途中から一本道だし挟み撃ちにされる心配はないと思うけどさぁ」
頭を振ってブラッドの手を振り払ったラックが、胸ポケットから取り出した地下通路の地図を見ながらシャルの言葉に続いた。そして、顎に右手を当てて考え込んでいたレイが、軽く頷いてから口を開く。
「わかった。それでいこう。自分は七時までにリア王女を連れて、地下通路前の扉に着くようにするよ」
「オッケー! 扉を開ける合図はどうする? ノックの回数とかにするか?」
「そうだね。まずは自分が四回ノックする。そしたらラックは一回ノックを返す。その後自分が二回ノックするから、その後扉を開けてくれるか」
ラックの話によると、地下通路へと続く扉の鍵は特殊で、鍵を差し込み捻った状態を維持しつつ、握り部分を押すか引くかしなければ開かないという。故に、鍵を常に開放状態にすることが困難な作りになっているのだ。
「了解!」
二人の会話がまとまったところで、シャルがカウンターに面した壁に設置された時計に視線を向ける。そして、今度はその視線をカウンターに置かれたスケジュール表へと移して口を開いた。
「会食の施設が解放されるのが五時丁度で、王女様の到着が五時半。私達は、一度地下通路に入って通路の確認とか、出口の確認とかしておきたいんだけど、レイはどうする?」
「自分も会場には早めに潜入しておきたいかな。シャルの準備がよければ出発しようか」
「私は問題ないわよ」
そう言いながらシャルは立ち上がり、カウンター横のショーウィンドウを開き、身の丈ほどのスタッフを取り出した。
そのスタッフは、眩い白銀の柄がスラっと伸び、三日月形に装飾された先端部分へと繋がっている。そして、その三日月部分の中心には、スカイブルーのように透き通る円形状の宝石が嵌め込まれている。
「あれっ、シャルがスタッフを使うのは久しぶりなんじゃないか? 普段は使わないだろ?」
「まぁね、でも、今回はどんな敵に遭遇するかわからないじゃない。強力な魔法を行使するならこれがあった方が便利だわ」
ラックの質問に、シャルがスタッフの柄をトンっと地面に打ち付けてから答えた。
魔導士が魔法を行使する方法には幾つかのパターンが存在する。一つ目は、体内の精神力を魔法の行使に必要な量だけマナに変換する方法。魔法の発動時間や扱いやすさを考えるとこれが一般的な方法である。二つ目は、体内で生成した一定量のマナをスタッフやアクセサリーに流し込み、魔法の行使に必要な量まで増幅、制御する方法である。精神力の消費は抑えられるがマナの制御が難しく、場合によっては暴発する恐れがあるので、マナの制御に自信がある者しか利用できない。三つ目は、特殊な製法により作られたアクセサリーを使用するものである。体内の精神力をアクセサリーに流し込むことによってマナが自動生成され、組み込まれた魔法を行使することができる。ただし、アクセサリーに組み込める魔法は一つで、膨大なマナを必要とする魔法は組み込むことができない。
「それじゃぁ二人とも、そろそろ行こうか」
「よっしゃ! ミッションスタートだな!」
右手の拳を左の掌に打ち付けたラックがレイの言葉に続き、勢いよく立ち上がる。そして、腕組みをしながら話を聞いていたブラッドが最後に口を開いた。
「レイ。俺もこれからギルドに向かわなきゃなんねぇ。三人とも姿を消して一緒に外に出ろ」
「わかりました。こっちは任せてください」
「それじゃぁ、行ってきます」
「んじゃ、行ってくるわ!」
レイとラック、シャルの三人は、それぞれブラッドに別れの挨拶を告げてから、顔を見合わせて頷きあう。そして、三人はスーっと姿を消した。
三人の姿が消えたことを確認したブラッドは、出入口へと歩みだし扉を開く。そして、先ほどまで三人が立っていた場所に視線を向けてから外へと首を振る。ラック、シャル、レイの順番で敷居を跨いだところで、ブラッドの呟くような声がレイの耳に届いた。
「シャルを任せたぞ」
レイは振り返ることなく歩みを続け、ブラッドと同じく呟くような声で、はいっと言葉を返してから、夕焼けに彩られた茜色の街へと溶け込んでいった。
現在時刻は十六時三十分。レイ、ラック、シャルの三人は、西通りの路地裏にある地下通路へと繋がる扉の前に来ていた。地下通路へと繋がる扉は、アームシェイド内に複数あるが、人の視線が極力少ない場所を選ぶことが重要だからだ。幾らレイの魔法で姿を晦ましているとはいえ、誰もいない状態で扉が開くところを目撃されれば、その情報がいずれ拡散され、不利な状況に追い込まれる可能性がある。
「今から扉を開く。自分から離れると魔法が解けるから、扉を閉めるまでは念のため自分から離れないようにしてくれ」
扉の前で立ち止り、ラックとシャルに視線を向けたレイが、小声で言葉を発した。そして、同じく小声で二人も言葉を返す。
「わかったわ。誰の目があるかわからないものね」
「了解だ。それじゃぁ、開けるぜ」
ラックはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。そして、周囲を確認してから扉を開く。扉の隙間は人が一人入れる程度のもので、まずはシャルが中に入った。その後、開いている扉をレイが抑え、鍵を引き抜いたラックがそれに続く。そして、最後に一言だけレイに語りかけた。
「レイ、無理はするなよ」
扉は無音で閉まり、内部で鍵が閉まるカチンっという小さな音だけが鳴り響いた。そして、レイは聞こえていないはずのラックに言葉を返すように、わかってるさっと小さく呟いた。
現在時刻は十七時、レイは姿を晦ました状態でアームシェイドの北側、展望台近くの会食会場へと足を運び、建物の影に身を隠していた。会食会場の出入口は、両開きの大扉が解放されており、上品なドレスコードに身を包んだ貴族やギルドの役人が複数出入りしている。
出入口には四名の騎士団員が二名ずつ、両脇に控えて警備をしている。その内の二名は魔導士で、魔法の行使がなされていないかを探知しているようだった。本来であれば、姿を晦ますような半永続的な魔法は、常時精神力をマナへと変換する必要があるため、すぐに魔法を探知されてしまうのだが、スピリットチルドレンであるレイは例外である。
レイは念のため、複数の人間が出入口を通過するタイミングを見計らい、それにまぎれるようにして会場内へ潜入。騎士団の反応を数秒伺い、異常がないことを確認してからエントランスにある物陰に身を潜めた。
「なんだか今年は、すごい警備体制ですわね」
出入口を通過する貴族夫妻の会話がレイの耳に届く。
「そうだねぇ。聞いた話だと、国内で不穏な動きをする者がいるとかで、警備を強化しているみたいだよ」
「やだ、そうなの。今年はリア王女が来られるのでしょ? 何事もなければいいのだけど……」
驚きと不安の表情から発せられた貴族夫妻の言葉を聞き、レイは瞼を閉じて思案する。
(自分達の行動が既に漏れているのか? いや、だとしたら警備網が狭すぎる。外部の襲撃なんかも警戒しているなら、都市内ももっと厳重に警備するはずだ。だとしたら、現状警戒しているのは内部にいる何者かの襲撃か……。まぁ、どちらにせよ、先に地下通路の扉を確認したほうがよさそうだ)
レイは一旦そこで思考を止めてから瞼を開き、エントランスを見渡しながら警備体制を確認する。
エントランスから左右に伸びる廊下の両脇に一名ずつ。前方上り階段の両脇に一名ずつ。そして、階段を上った正面の会食会場となる大広間、前方と後方それぞれの大扉の両脇に一名ずつ。合計十名の騎士団員が配備されていた。
地下通路へと繋がる扉は、左右の廊下の先にある階段から地下に降り、中央の十字に分岐した廊下の南側へ進んだ先にある。
「さぁ、ミッションスタートだ」
レイは小さいが力強い声でそう言うと、周囲を警戒しながら立ち上がり、人の往来に紛れて左の廊下へと足を進めた。
廊下の中間地点と奥の階段踊場に入る通路の両脇には、同じく騎士団員が一名ずつ配備されていた。一階の各部屋は、高位の貴族が控室として利用していたり、一般の休憩所としても利用されているため、騎士達も時折首を左右に振りながら、怪しいものがいないかを監視しているのである。
レイは周囲への警戒を強めつつ廊下を渡り、階段から地下へと降りた。
地下は電気が消えており、通路の途中に設置されている非常灯の光だけが、薄っすらと周囲を照らしている。人の気配はなく、罠が仕掛けられている形跡もない。警備の範囲を狭めるため、地下に通じる場所にのみ騎士団員を配置しているようだった。
レイは廊下中央の分岐点を南へと進み、地下通路へと繋がる扉の前まで辿り着いた。
「ここか……。それにしても暗いな……」
そう言いながら扉に軽く触れ、周囲を見渡しながら小さく呟く。そして、異常がないことを確認してから、レイは会場入り口へと戻るのだった。
3
現在時刻は十七時三十分。二頭の馬に引かれた豪華な馬車が三台、中央通りをゆっくりと進んでいる。馬車にはアスフェリア王国の紋章が刻まれており、通りを往来する人々は馬車を見つめながら道を開け、その場に立ち止まっていた。
「王女様が来たわよ。顔を出してくれないかしら」
「俺、王女様の大ファンなんだよなぁ」
通りの人々は口々に同じような言葉を発しており、リアが国民から敬愛されていることが伺える。リアの人を思いやる心と柔らかく美しい声は、国民にこれ以上にない癒しを与えているのだ。
中央通りを進む三台の馬車のうち、先頭と後方の馬車には護衛のための騎士団員が乗車し、中央の馬車にはリア専属の侍女と傍付き騎士、そして、リア本人が乗車している。
傍付き騎士の名はヴィドル・アシファー。レイの後任でリアの傍付き騎士になった男で、白を基調とした衣に身を包んでいる。髪は銀髪で身長は高くないが、優れた瞬発力と敏捷性を有しており、現在の騎士団員の中では一二を争うほどの剣士だ。
「リア王女、間もなく到着しますよ」
ヴィドルは、窓のカーテンを少しめくり、外の様子を確認しながら口を開いた。そして、リアも窓へと視線を移し、柔らかい穏やかな口調で言葉を返す。
「わかったわ、ヴィドル。ありがとう」
そう言ってから視線を正面に戻すと、リアはゆっくり瞳を閉じた。そして、それから数秒間の沈黙が流れたあたりで、メイド服を着用しているリア専属の侍女であるエリッサ・ヘンリエルが口を開く。
「リア様、準備はよろしいですか?」
「大丈夫よ、エリッサ」
三人は、お互いに短い言葉を何度か交わし、再び口をつぐむ。決して仲が悪いわけではないのだが、今日という日の重要性をそれぞれが理解し、少なからず緊張しているのだ。
現在、レイ達が決行している作戦については、詳しい内容までは知らないものの、当然のことながらリア本人は把握している。さらには、リアの信頼が厚い、専属侍女のエリッサと傍付き騎士のヴィドルも把握している。故に、どこで誰が聞き耳を立てているかわからないこの状況下では、多くのことを語ることができないのだ。
三人のぎこちない会話が、数回繰り返されたころ、馬車は速度を緩めて停車し、ゆっくりと馬車の扉が開かれた。
「リア王女、到着いたしました!」
扉の外から大きな騎士団員の声が響き、ヴィドルが席から立ち上がる。そして、ご苦労様ですっと小声で挨拶しながら馬車を降りた。
「リア様、行きましょう」
エリッサの言葉を聞くと同時に、リアは閉じていた瞳を開いて立ち上がる。そして、ゆっくりと歩き出して馬車を降りると、本日の会食会場であり、大きな変革の始まりの地とも言える施設へと歩みを続けるのだった。
現在時刻は十八時。会食会場の大広間には、冒険者ギルドと商業ギルドの役員や多くの貴族が集まり、リアの到着を心待ちにしている。大広間には複数の丸テーブルが配置され、アームシェイドの特産品である海産物の料理が並べられており、そこを高貴な服装で身を包んだ貴族が囲んでいた。中には年長者だけではなく、成人を迎えたであろう若い者の姿も散見される。
会場の警備状況と脱出ルートを確認し終えたレイは、既に大広間内部へと潜入しており、周囲に悟られないよう最大限の警戒をしている。大広間の前方と後方にある大扉は、騎士団監視のもと開放されているが、姿を晦ましているレイにとって潜入は容易だった。
そして、場内が前方の大扉付近を起点として静寂に包まれていき、全ての視線がある一点に集中する。リアの到着である。リアは侍女のエリッサと傍付き騎士のヴィドルとともに入場し、場内前方に配置された長テーブルの中央まで歩みを続け、一呼吸おいてからゆっくりと正面に向き直った。エリッサとヴィドルは、リアの後方に控えるようにして立っている。
「皆様、本日はご来場いただきありがとうございます。明日からは、視察団によるアームシェイドの視察が行われます。冒険者ギルドや商業ギルドの皆様、そして、この度ご来場いただきました貴族の皆様におかれましては、円滑に視察を遂行するためのご協力をお願いいたします」
リアはここで言葉を区切り、軽く頭を下げる。すると、一斉に拍手が沸き起こり、場内を満たした。その後、リアは乾杯の音頭をとるため、テーブルに置かれたグラスを手に取るように促し、乾杯の合図とともに会食が始まった。
「リア王女、お初にお目にかかります。私、このアームシェイドを統治する、レイグス家が嫡男。ラキアス・レイグスと申します。以後、お見知りおきを」
「お会いできて光栄です。ラキアス卿の功績は、私の耳にも届いております。今後も我が国のためにご尽力をお願いいたします」
レイグス家は、長くこのアームシェイドを統治している伯爵位の貴族で、住民からの信頼も厚く、この都市の発展に務めてきた。ラキアスは、目鼻立ちの整った金髪の青年で、優れた知略の持ち主だ。
ラキアスはリアと数回言葉を交わすと、レイグス夫妻の元へと戻り、改めて周囲の貴族と会話を始めた。そして、その後も多くの貴族がリアの元へと訪れては、体裁に沿った会話を続けている。
レイはというと、場内の窓際後方、人があまり寄り付かない位置から周囲の状況を観察していた。そして、とある人物を目視してから視線を止める。
(あれは確か……王国に仕えることになった研究者だったかな……。そんな男がラキアスと何を話してるんだ)
レイと会話をしている二人との距離はそれなりに離れており、話している内容までは聞き取ることができない。だが、研究者の男が主導権を握るかのように、身振り手振りをしながら話しているのは見て取れた。
アームシェイドには、海水を活用した様々な技術があるため、そこに興味を持ったのかとも思ったが、ラキアスは相手の話に対して相槌を打つばかりで、私領について話しているようには見えなかったのだ。
そしてレイは気づく、視界の端に捉えていたリアの視線が、自分のところで一瞬止まったことに。
現在時刻は十八時三十分。貴族との挨拶を一通り終えたリアは、一呼吸置いてから瞳を閉じる。
(もし、今日のうちにレイが私を連れ出すつもりなら、きっともう――)
そう思案してからゆっくりと瞳を開き、注意深く周囲を見渡す。そして……窓際後方の一点で一瞬動きを止め、すぐに動きを再開して場内を一周した。
(いまので伝わったかしら……)
リアは、中央に向き直るとゆっくりと視線を落とし、心の中で不安気に呟きながら、丁寧な所作でテーブルに並べられた皿に手をつける。誰の監視を受けているか分からないこの状況において、リアができる行動は限られており、下手に動くことはできないのだ。
当然のことながらリアは気付いている。窓際後方にレイが身をひそめていることを。リアの目にははっきりと見えているのだ。淡く発光する黄色い蝶が、人型をかたどり漂っていることに。
「なるほど……あんなところに……」
(流石は先輩。隠密行動はお手のものっすねぇ)
リアの一連の行動を視界に捉えていたヴィドルは、わずかに頬を緩ませ、自分にしか聞こえないであろう小さな声で呟く。ヴィドルは大広間に入ってからずっと、リアの警護という任務を遂行しながらレイがどこに潜んでいるかを探していた。故に、リアが見せた一瞬の動きさえ見逃すことはなかったのだ。
(にしても、どうして気付いたんすかねぇ……。僕にはまったく分からなかったんすけど……)
そして、それから数分経過したころ、状況が動き出す。
「エリッサ、少し疲れたわ。一度控室に戻りたいのだけれど、いいかしら?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
リアの言葉にすぐさま反応したエリッサが一つ頭を下げる。そして、割と近場のテーブルで立食していた各ギルドの重鎮とレイグス夫妻の元へと歩み寄り、数回言葉を交わしてから頭を下げ、リアの元へと戻ってから口を開く。
「リア様、それでは参りましょう」
エリッサの言葉を聞いてから、リアはゆっくりと立ち上がり、場内に目を配ることなく大広間前方の大扉へと向き直る。ヴィドルは、リアの進行を妨げないよう一歩後ろに下がり、リアが歩き出してから、その後ろにエリッサとともに付き従う。
大広間前方の大扉は、リアが立ち上がると同時に開かれ、大扉の両脇に控える騎士達の警戒レベルが一層強まる中を、リア達三人は臆することなくゆっくりと通過する。そして、大扉は三人が通過してから再び閉ざされ、リアがいなくなったという騒ぎが起こるまで開かれることはなかった。
現在時刻は十八時四十五分。リアの控室を一周し、盗聴の類がされていないことを確認したレイは、リア達三人の視界の先まで歩み寄ってから魔法を解いた。すると、その場の空間が歪み、レイの姿が現れる。
ヴィドルはこうなることを予見していたため驚きはしていなかったが、エリッサに至ってはそうはいかなかった。控室に入ってからずっと、リアが何もない空間を目で追っていたため、何かあるのだとは気付いていたものの、目の前の空間がいきなり歪み、人が現れれば驚くのは当然だ。
エリッサは、驚きの表情を見せてはいるが、声を出さないよう必死に自らの口を両手で抑えている。
「レ……」
レイは、歩み寄りながら口を開こうとするリアに向かって、ゆっくりと右手の人差し指を口元に立ててそれを静止し、それから左手の掌を地面に向けて魔法陣を展開、淡く輝いた黄色い光がレイの半径二メートル程度まで半球状に広がり、結界が生成される。
ヴィドルは慌てて扉に視線を向け、廊下に控える騎士の反応を警戒したが、何も起こる気配は感じられない。ほっと胸を撫で下ろしたヴィドルが、再びレイに視線を向けると、右手で手招きをしながら結界に入るように促していた。
「リア王女、お久しぶりです」
レイは、最初に結界へ足を踏み入れたリアに声をかけた。そして、リアも微笑みながらすぐさま言葉を返す。
「レイ、お久しぶりですね。またお会いできて嬉しく思います。ところでこちらは……」
そう言いながら、リアは生成された結界をぐるりと見渡した。
「これはただの遮音結界です。声が外に漏れないよう、念のためにと思いまして。それと、エリッサさんもお久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「レイ様もお元気そうで何よりです」
エリッサは、リアの後方に控える位置で歩みを止めると、深くお辞儀をした。そして、数秒遅れて結界内に入り込んだヴィドルの声が、レイの耳に届く。
「先輩、お久しぶりです。いろいろと聞きたいことはありますが、それはまた今度にさせてもらうとして、まずは要件をお願いできますか?」
「やぁ、ヴィドル。随分と騎士が板に付いてきたみたいだね」
「ははっ、相変わらずですね、先輩は。俺達も先輩が何をしているのかは国王から聞いています」
ヴィドルの言葉にリアとエリッサが頷き、それを確認したレイがさらに頷く。
「話が早くて助かります。今からリア王女を国外に連れ出します。この施設の地下からアームシェイドを抜けて、西のサリエラの街を経由してルゼニア教国に入る予定です。それと、自分の他にもラックとシャルが同行します。二人は今、アームシェイドの地下通路からこちらに向かい、この施設と地下通路とを繋ぐ扉の前で待機しているはずです」
「話は理解しました。ですが、ここからどのようにして地下通路まで行くのですか? エリッサとヴィドルをここに残して私が消えてしまえば、お二人が疑われてしまいます」
レイの説明を一通り聞いて納得したリアであったが、自分のためにエリッサやヴィドルに責任が及ぶことを許容することはできないのだ。
「リア様がご無事であれば、私の身などどうなろうと――」
「それ以上、言葉を発することを禁じます」
エリッサの反射的な訴えに対し、リアは穏やかだが力強い口調で言い放った。そして、そんなやり取りを予想していたかのように、レイがズボンの後ろポケットから四つ折りにされた紙切れを取り出し口を開く。
「問題ありません。エリッサさんには、これから冒険者ギルドに行って、この手紙をブラッドさんに届けてもらいます。それと、ヴィドルはエリッサさんと一緒に部屋を出て、扉の前にいる騎士の一人と警護を代わってもらってくれ。そうだなぁ……侍女が戻るまでの間、部屋で休憩される、とか言えば何とかなるだろ?」
「そうですねぇ……多少不自然ではありますが、何とかなるレベルではありますね……。ところで先輩達はどうするんですか?」
「自分とリア王女は、これから魔法で姿を晦まして、二人と一緒に部屋を出る。そしたら、そのまま地下通路へと抜けて、ラックとシャルに合流、そのままアームシェイドから脱出する」
「なるほど、そういうことですか。了解です。こっちは異論ないです」
ヴィドルの了解を得たレイは、瞳を閉じたまま聞いていたリアに視線を移す。一瞬の沈黙の後、リアは瞳を開く。
「分かりました。私にも異論はありません。エリッサもいいですね?」
「はい。リア様がそう仰るのであれば、私に異論はありません」
エリッサは、リアの呼びかけに対して深々と頭を下げる。
「それでは、今から遮音結界を解いて、自分とリア王女は姿を消します。以降は不要な会話をしないようにしてください」
そう告げると、レイはリアの後方へと回り込む。そして、失礼しますと一言声をかけてから、リアを抱き抱えた。
「えっ!?」
リアは突然の出来事に、普段は見せることのない驚きの表情を浮かべ、見る見るうちに顔を赤くする。
「リア王女。少しの間、ご無礼をお許しください」
突然の出来事ではあったが当然である。リアの今の装いはドレス姿、幾ら姿が見えなくなるとはいえ、誰かがドレスに触れてしまえば違和感に気付く者が現れるだろう。幸いなことにリア王女が身に着けているアクセサリーは、青い宝石の髪飾りのみなので、レイは問題ないと判断していた。
「それでは結界を解きます」
レイの言葉に、抱き抱えられて真っ赤な顔をしているリアを残し、エリッサとヴィドルが頷く。すると、間もなくして半球状の結界は消失、続いてレイが立っていた空間が歪み、リアとともに姿が消えた。
(やっぱり、先輩はただものじゃないっすねぇ。僕は探知系の能力が不得手だから仕方ないとしても、外にいる連中はその手の専門だっていうのに……)
二人の姿が消え、誰もいなくなった空間を見つめながら、ヴィドルはそう思うのだった。
4
現在時刻は十九時。手筈通りに控室を抜け出したレイは、リアを抱き抱えたまま何の問題も起こすことなく、地下通路へと続く扉の前に到着していた。
レイは周囲に人の気配がないことを確認してからリアを下ろし、事前にラックと示し合わせていた通りに扉を四回ノックする。すると、すぐにノックが一回返され、レイは再び扉を二回ノックした。そして、ガシャっという鍵が差し込まれる音がしてから、扉が音を立てないようにゆっくりと開かれた。
人が一人通れるほどに開かれた隙間を、まずはリアが通過し、レイがその後に続く。
「ラック。もう閉じていいよ」
レイとリアの姿を認識できていないため、扉を開いたままにしているラックにレイが声をかけ、それと同時に二人の姿が現れた。
「おう! 二人とも無事だったか!」
ラックは扉をゆっくりと閉めながら、レイとリアに視線を移し、やや興奮気味に言葉を発した。シャルはというと、リアに歩み寄り、リアの右手を胸の高さまで持ち上げてから、両手で強く握りしめている。
「リア王女、ご無事で何よりです」
「ありがとうございます、シャル。でも、レイが護衛してくれていたから問題はありませんでした」
潤んで泣き出しそうな目を向けてくるシャルに、リアは優しく言葉を返す。シャルは武具を納品するために何度も王城を訪れており、リアが気を許せる者の一人にはなっていたのだ。
「えっと……。感動の再開をしているところ悪いんだけど、あまり時間はないだろうし、出発したいんだが……」
「そうですね、ラック。まずは落ち着ける場所までいきましょう。話はそれからです」
ラックの言葉に頷くと、リアはシャルの手を優しくほどいた。
「ところでレイ、そっちのほうは特に問題なしか?」
「ああ、問題ない。リア王女の失踪が公になるまでにはまだ時間があるだろうし、それまでにアームシェイドを脱出しよう」
「レイ、ちょっと待って。リア王女の服装だと、この通路を走るのは無理よ」
今後のことについて話し合う二人の会話に、シャルが割り込んで現状の問題点を指摘する。
「サリエラの街で服を購入するまでは、レイが抱き抱えて走るとかしないと……」
そう言いながらシャルがリアに視線を向けると、恥ずかしさを堪えながらも平静を装い、口を開く。
「そ、そうですね。レイ、お願いできますか?」
「もちろんです。窮屈な思いをさせてしまいますがご容赦ください」
リアは、レイの返答に頬を少し赤くしながら頷き、さらに言葉を続ける。
「それと……皆さん。ここから先、私は王女であることをできる限り隠していきたいと考えています。えっと、ですので……敬語は使わずに、皆さんがいつも話している口調で接してもらえればと……」
数秒の沈黙がその場の空気を支配した後、空気の読めないラックが、堂々とその空気をぶち破った。
「そっか。それじゃこれからよろしくな、リア」
「ちょとラック! 少しは遠慮しなさいよね!」
シャルが透かさず言い放ち、ラックの脇腹を肘で小突く。思いのほか痛かったのか、ラックは小突かれた脇腹を摩りながら少し前のめりになった。そんな二人のやり取りに、ふふっと笑みを浮かべてリアが口を開く。
「いいんですよ、シャル。同年代の人達とこうして笑い合えることなどありませんでしたから、ラックのような方がいてくれて安心しました」
シャルはやや不満げな表情を浮かべつつも納得し、ゴホンっと態とらしく咳払いをする。そして、ぎこちない口調で言葉を返す。
「そ、それじゃぁ……リア。これからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「ところでさぁ、リアの喋り方が敬語のままなのは問題ないのか? って、痛い痛い!」
問答無用でシャルの肘がラックの脇腹に突き刺さり、今度はレイがフォローを入れる。
「いいんじゃないか。貴族の令嬢なんかは敬語で話す人のほうが多いし、そうでなくても普段から敬語で話す人はいるだろ?」
「そう言われてみれば、確かにそうだな」
「という訳で、リア。これからよろしく」
「はい。レイとラックも、これからよろしくお願いします」
そう言いながら、リアは深々とお辞儀をしてから、普段は見せることのない満面な笑顔を三人に向けた。
それから四人は、ラックの案内に従って地下通路を進み、西の森へと続く出口に向かっていた。都市の地下部分に該当する通路は、複数の出入口とを繋ぐため、レイが創造する以上に入り組んでいたが、南門を過ぎたであろう辺りからは一本道となっていた。
「みんな止まってくれ!」
もう少しでアームシェイドの外へと繋がる出口に到着しようとしていた頃、焦りのこもったレイの声が通路に響く。そして、レイは抱き抱えていたリアを下ろしてから、後方に鋭い視線を向ける。ラックとシャルも後方から接近してくる数人の足音に気付いたのか、振り返りながらそれぞれの武器を手に取った。
「こんなに早く追手が来る訳ないんだけどな……」
「まぁ、来ちゃったものは仕方ないだろ」
そう言いながら、ラックはレイの横に並ぶように歩み寄り、大剣を構えた。そしてシャルは、リアの一歩前に歩を進め、リアを庇うようにしてスタッフを構える。
「いたぞ! 逃がすな!」
後方から接近する者達の叫び声が響くと同時に、直径十五センチ程の水弾が複数放たれた。
水弾は、ウォーターボールという魔法で、一つ一つの威力は高くないが、この狭い通路内で複数同時に対処するのは困難である。
「私にお任せください」
それにすぐさま反応したのはリアで、両手をウォーターボールに向けて伸ばした。すると、伸ばした両手の先に直径一メートル程の魔法陣が生成され、先頭に立つレイとラックの正面に、玉虫色に透き通る水の障壁、アクアシェルがウォーターボールを阻んだ。
アクアシェルは水属性魔法の一つで、魔法攻撃に耐性のある防護障壁である。
「もう逃がさないぞ! リア王女を返してもらおう」
後方から接近していたのは五人で、全員が騎士団の証である白を基調とした衣に身を包んでいた。そして、その中にはレイやラック、リアがよく知る人物も含まれている。
「追いつけないかと思いましたよ、先輩」
そう言いながら、ヴィドルが腰に下げていた直剣を引き抜き、レイの前まで歩み出た。
ヴィドルは、レイとラックが騎士団の師団に所属していた時の後輩で、よく任務を共にしていたこともあり、性格も含めてよく知っている。シャルとはほとんど面識がなく、城内で数回すれ違うことがあったという程度だ。
「何のつもりだお前!」
最初に口火を切ったのは、レイの横に立つラックだった。
「お久しぶりですね、ラックさん。私もこんなことはしたくないんですが、これも仕事なんです」
ヴィドルは、軽く溜息を吐きながら首を振り、同じく後方にて剣を構えて待機する騎士に向かって言葉を続ける。
「先輩がいる以上、リア王女を取り戻すことはできません。私が先輩の相手をしますので、援護をお願いします」
「いいだろう」
後方に控える騎士の中で、体格の良い高身長の男がそう答えると、その騎士は左右に目配せをしてから直剣を鞘へ戻し、追撃時に使用したウォーターボールの発動へと切り替える。そして、ラックやシャル、リアが目の前の光景に困惑している間に状況は動き出した。
ヴィドルは直剣を握る右手を上段に引きながら剣先をレイに向け、地面を強く蹴った。レイもすぐさまそれに反応し、直剣を下段に構えたまま地面を蹴ってヴィドルを迎え撃つ。下段から振り上げられたレイの剣と上段から振り降ろされたヴィドルの剣が交差し、ギンっという鈍い金属が通路に響く。そして、そのまま剣を数回打ち合ってから鍔迫り合いへと縺れ込む。
「流石は先輩っすね」
ヴィドルから発せられた言葉は、これまでの丁寧な言葉遣いとは裏腹に、上品さの欠片もないものだった。しかし、レイはヴィドルの変化に何の動揺も見せることなく言葉を返す。
「ヴィドルもやるじゃないか。で、これはどういうことだい?」
「さっきもいいましたが、これが僕の仕事なんっすよ」
鍔迫り合いのまま言葉を交わしてから、ヴィドルが打ち当てていた直剣を離し、後方へと跳躍する。そして、その間に騎士達が発動させたウォーターボールは、リアのウォーターシェルによって再び阻まれていた。シャルはというと、スタッフを力強く地面に打ち立て、騎士達の足元に魔法陣を展開、ロックスパイクと呼ばれる地属性魔法で、地面から突き出す鋭利な岩石で攻撃していた。
シャルの魔法攻撃により数人の騎士が体制を崩しているが、無傷であることを確認してから、高身長の騎士が再び口を開く。
「くそっ! ダメだな。あの後方にいる魔導士が邪魔か」
そう吐き捨てると、今度はヴィドルに視線を向けて言葉を続ける。
「ヴィドル。貴様は引き続き奴の相手をしろ。俺達で後方の連中を鎮圧する」
「大丈夫ですか? ラックさんはああ見えて強いですよ」
「安心しろ。左右二名ずつに分かれて一斉に攻撃を仕掛ける。幾ら強くとも、左右から同時に仕掛けられれば対処はできまい」
「分かりました。ご武運を」
二人の会話を聞いていたラックは、少し見構えたが、ヴィドルに突っ込まずにはいられなかったのか、おいっと叫びながら割って入る。
「ヴィドル。お前さっきから俺のことちょいちょい馬鹿にしてるだろ!」
「そんなことはありませんよ。同じ師団にいた頃はお世話になりましたしね。そんなことよりも、油断しているとやられてしまいますよ」
ヴィドルは、唇の端をやや釣りあげながら笑みを浮かべる。そして、それと同時にヴィドルの後方から、左右に分かれた騎士達四人が一斉にシャルとリアに向かって走り出した。
レイは、ヴィドルと向き合いながらも、後方に騎士達を通してはならないという直感をもとに、左翼の騎士二名に向かって地面を蹴った。当然のことながら、レイの動きを視界に捉えていたラックは、右翼の騎士達へと地面を蹴る。右翼と左翼の騎士四人は、立ち塞がるレイとラックに動揺して足を止めたが、一方で、ヴィドルを牽制するものはない。
「それじゃぁ、これで終わりっすね」
(くぅっ、このままヴィドルがシャル達に突っ込んだとしても、この距離ならギリギリ間に入れるはずだ……。なっ――)
視界の端でヴィドルの動きを捉え、いつでも対処できるように備えていたレイは、ヴィドルの取った行動に動揺し、思考が一瞬停止した。
ヴィドルは、構えていた直剣の剣先を真っすぐ正面、シャルとリアに向けて突き出し、直径一メートル程の魔法陣を生成、魔法陣が強く発光し、青白い四本の雷光が一直線に走る。そして、雷光が直撃した四人の騎士は、その場に崩れるようにして倒れ込んだ。
中級風属性魔法であるライトニングは、他の中級魔法に比べて威力は高くないが、対象者の耐性が低い場合、ほぼ例外なく身体が麻痺して動けなくなる。故に、殺傷目的ではなく、拘束する目的で使用される魔法なのだ。
レイとラックは、すぐさま後方へ下がり、シャルとリアを庇うようにして剣を構える。そんな中、地面に倒れ込み、どうにか身体を動かそうと藻掻く高身長の騎士が口を開く。
「どういうつもりだ……ヴィドル。貴様……我々を裏切る……つもりか?」
ヴィドルは、地面に倒れ込む騎士の襟首を掴み、通路の中央に引き釣りながら言葉を返す。
「いやいや、僕は初めからあなた達の味方になったつもりはないっすよ。先輩達がリア王女を国外に連れ出すことが決まった時点で、僕がこの国に留まる理由はなくなったんすから」
「何だと……。貴様……どこの国の……諜報員だ……?」
「察しがいいっすね。ただ、それはこれから行けばわかることなんで、それまでのお楽しみっすね」
そう言いながら騎士を一箇所に集め終わると、ヴィドルは武器を構えたまま警戒態勢を崩さないレイ達に視線を移す。
「大丈夫っすよ、先輩。僕は先輩達の味方になるかどうか分からないっすけど、敵になることはないっすから」
「どういうことだ、ヴィドル。ちゃんと説明しろ! お前は何者だ!」
言葉を返したのは、レイではなくラックだった。苛立ちを露に発せられた言葉だったが、ヴィドルは動じることなく言葉を返す。
「いやぁー、本当に悪かったとは思ってるっすよ。ただ、僕が何者かはそのうち分かると思うんで、それまで待っていてもらえればと」
ヴィドルはそう言いながら、ポケットから赤く透き通った結晶石を取り出し、それを握りしめて破壊する。すると、ヴィドルを中心に直径二メートルほどの広範囲の魔法陣が生成された。
「あぁ、それと先輩。心配しなくとも追手はこれ以上来ないんで、安心していいっすよ。今回の件は、こいつらしか知らないんで」
ヴィドルがそう告げたところで魔法陣は強く発光し、中心に向かって魔法陣が収束しながらヴィドルと騎士団の一行は姿を消した。そして、何もない空間をレイ達は静かに見つめていたが、シャルが魔法陣が生成されていた場所に数歩近づきながら口を開く。
「あれ……転移結晶よね?」
「そうだね。あらかじめ登録した場所に転移できる結晶石……。あれは錬金術でしか作り出せないからとても貴重な物のはずだけど……」
「だよね……」
レイがシャルの問いに答えると、自らの認識に誤りがないかを確認するように大きく頷いた。そして、再び数秒の沈黙が続いた後、今度はリアが口を開いた。
「レイ、ヴィドルは何者なのでしょうか?」
リアは、レイならば知っているのではないかという淡い期待を持って問いかける。
「ごめん。それは自分にも分からない。けど、剣を交えて分かったよ。ヴィドルには敵意はなかった」
「そう……ですか。それならよかったです」
短い期間とはいえ、自身の傍付きを務めていた騎士が敵ではないと知って、リアはほっと胸を撫で下ろす。そして、次に口を開いたのはラックだった。
「それにしてもヴィドルの奴。俺に対して言いたい放題言いやがって、次にあったらただじゃおかねぇからな!」
これまでとは軽色の違う内容に、ふふっと笑みを零したレイが、ラックの言葉に続く。
「まぁ、ヴィドルもまた会えるみたいなことを言ってたし、その時に色々と聞くことにするとして、今はこの通路を抜けてサリエラの街に行くことを優先しよう」
「そうね、そうしましょう!」
シャルは、気を取り戻すように元気よく返事をしてから大きく頷く。すると、ラックとリアも軽く笑顔を浮かべて頷いた。そして、四人は物資の調達とリアの変装を行うため、サリエラの街へ向けて、通路を再び走り出したのだった。
それは、精霊の力を魂に刻まれた子供達。その優れた能力は、製造や医療、軍事など、あらゆる分野で求められ、利用されてきた。
スピリットチルドレンは、この世に存在する六精霊、火の精霊サラマンダー、水の精霊ウンディーネ、地の精霊ノーム、風の精霊シルフ、光の精霊 ウィル・オー・ウィスプ、闇の精霊シェイドの属性ごとに一人ずつ、合計六人存在する。一つの属性において、二人以上のスピリットチルドレンが同時に存在したことは、これまでに一度もない。
しかし近年、その優れた力を手に入れるため、人工的にスピリットチルドレンを生み出そうとする非人道的な組織が活動を活発化させている。
それらの組織は、自我が芽生え始める二歳から三歳の子供たちを誘拐して実験に利用したり、スピリットチルドレンだった人間を攫って解剖したりと、聞くに堪えないことを平気で行っているらしい。
1
ギギーっという鉄扉の開く音が、とある施設の屋上に響き渡る。
「レイ、いつまで寝てるつもりだよ」
レイは閉じていた瞼を開き、横になっているベンチから身体を起こした。そして、声のした方向に視線を移す。
「やぁ、ラック。わざわざ迎えに来てくれたのかい」
声の主はラック・ルーカス。ツンツンとした赤髪に赤い瞳。腰には一本の大剣をぶらさげ、軽装な鎧を身に着けている。
「午後からの仕事をサボられたら困るからな。様子を見に来ただけだ」
「それは残念。悪いんだけどラック、先に行っててくれないか? 自分はもう少し風にあたってから向かうよ」
レイはベンチからゆっくり立ち上がりながら言った。
「了解。んじゃ、先に行ってるわ」
ラックは、レイが立ち上がるのを確認すると、その場を去っていった。
レイは、瞼を閉じてから大きく深呼吸をする。そして、再び瞼を開き周囲を見渡した。眼前にはエメラルドグリーンの海が広がり、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。後方には、区画整理された綺麗な街並みが広がり、活気に満ちた住民の様子を見渡すことができる。
この都市の名は、水の都《アームシェイド》。大陸の北東に位置し、そのほとんどが海岸に面していることから、海水を活用した様々な技術と漁業で発展した都市だ。
南の正門から、この北の展望台までは、中央通りと呼ばれる大きな一本道が続き、中央広場を挟んで東通りや西通りへと繋がっている。
この展望台の屋上は、海から吹く潮風が心地よく、レイが一人で考え事をするときにはよく足を運ぶのだ。
「さて、そろそろ行きますか」
レイは小声でそう呟いてから、展望台を後にした。
展望台を出てからは、中央通りを進み中央広場へと向かう。
中央通りには、野菜や果物、肉や魚などを売る多くの露店が立ち並び、レストランや喫茶店、アンティークショップなどのお洒落なお店も見受けられる。
「あら? レイじゃない」
レイは後ろを振り返り、声のした方向を見る。そこには、野菜や果物などの食料品が入れられた買い物袋を両手で抱えている少女の姿があった。
「これからお父さんのところに行くの?」
「ああ、シャルは買い物帰り?」
「そうよ」
満面な笑顔でそう答える彼女の名は、シャル・フォルセット。サラサラで綺麗な金髪をポニーテールにまとめ、鮮やかな緑色の瞳をしている。左腕には複数の宝石が装飾された腕輪をつけ、右手の人差し指には、透明感のある淡い青の宝石が装飾された指輪をはめている。
レイは、シャルが追いつくのを待ってから再び歩き始めた。
「午後の依頼からは私も参加するからよろしくね」
「お店の手伝いは、もういいの?」
「この買い物で今日のお手伝いは終了。午後の依頼は大変だから、あなた達に協力するように言われてるの。お父さんからね 」
シャルは、西通りに店を構える武器屋の娘で、火、地、闇の三属性の適正を有する優れた魔導士だ。
魔法の適正属性には、親からの遺伝で受け継がれる先天的なものと、精霊と契約して力を授かる後天的なものがあり、シャルは母親からそれらの属性を受け継いでいる。
「ブラッドさんから依頼の内容は聞いてるの?」
「それはまだ。三人揃ってから話すって」
シャルの父親は、ブラッド・フォルセットという鍛冶職人で、このアームシェイドでは一二を争う腕の持ち主だ。
レイとラックは二カ月前にこの都市を訪れ、ギルドで対処できない依頼をブラッドから受注している。ブラッドは武器屋の店主でありながら、その人望の厚さから、国やギルドの重鎮とも顔が利くのだ。
「そっか。それにしても、シャルが依頼に参加するのは久しぶりだね」
「そうね。大抵のことならレイとラックで十分だと思うんだけど……。どんな依頼なのかしら」
レイは首をかしげるシャルから、重そうな買い物袋をさりげなく受け取り、中央広場に向けて再び歩き始めた。
中央広場には、直径十メートルほどの円形の噴水が、十字を描くように四箇所設置され、数秒ごとに複数の水柱が空に向かって立ち上っている。周囲には、喫茶店やレストランなどの飲食店のほか、酒場や宿屋が店を構えている。
レイ達は、時折噴水から飛び散る水しぶきを浴びながら、西通りへと足を運んだ。西通りに入ると、すぐに大きな看板が目に入る。二本の剣がクロスされたその看板は、一目見ただけで武器屋であることがわかる。
「あれ、閉まってるみたいだけど……」
レイは、入り口に吊るされている《close》と書かれた板を指さしながらシャルを見た。
「ああ、気にしないで入っていいわよ。鍵は開いてると思うから。お昼にはあなた達が来るからって、店を閉めているのよ」
店に入ると、壁に掛けられた剣や槍、弓などの武器が目に入る。壁際に置かれたショーケースには、指輪や腕輪、髪飾りなど、数種類のアクセサリーが並んでいる。
「おっ、ようやく来やがったか」
カウンターに凭れ掛かりながら声を掛けてきたこの男がブラッド・フォルセットである。武器屋の店主にしてシャルの父親だ。筋骨隆々でスキンヘッドというヤバそうな外見をしているが、実際に話してみるとそういう印象は一切ない。
ブラッドの横では、ラックがカウンター前の丸椅子に座ってこちらを見ている。
「すみません。遅れてしまって」
「いや、気にしなくていいさ。ところで……どうしてお前さんがシャルに頼んだ買い出しを――」
「ただいま、お父さん」
シャルが少し遅れて店に入る。
「おう、お帰り。これで役者は揃ったな」
ブラッドは、レイとシャルをカウンター前の丸椅子に座るよう首を振って促した。そして、瞬く間に真剣な表情へと変わる。
「単刀直入に言うぞ――」
ブラッドは三人へ視線を配りながら少しの間を置き、再び口を開く。
「お前達への依頼はこの国の王女、リア・アスフェリアを国外に連れ出すことだ」
リア・アスフェリア。髪型は銀髪のショート。透き通るような青い瞳に青い宝石が装飾された髪飾りをつけている。このアスフェリア王国の第一王女にして、数少ない精霊使いの一人だ。
精霊使いとは、各地に点在する精霊石から精霊を呼び起こし、精霊の力を人へと導くことができる唯一の存在だ。つまり、先天的に受け継いだ属性以外は、精霊使いの力がなければ扱うことができない。
「それ……まじなのか?」
数秒間の沈黙をラックが遮った。
「そうだ。これは国王からの依頼だ……レイ、お前に対してのな。これを見てみろ――今日の早朝に届いた封書だ」
レイはブラッドから封筒を受け取り、記載されている内容を確認した。差出人の名前はなく、あて先はブラッド・フォルセットと記載されている。封筒から中身を取り出し、三つ折りになった手紙を開く。
「んっ……これは……」
手紙に記載された宛名を見て眉を顰める。
「どうしたの……レイ?」
心配そうな表情で、シャルがレイの顔を覗き込む。
「封筒の宛名はブラッドさんだけど――中の手紙はレイ・ランタール様。自分の名前になってるんだよ」
手にしている手紙の文面をシャルとラックに見えるようにして答える。
「ほんとね。でもどうしてこんなことするのかしら……。それに、その手紙が本当に国王の手によって書いたものとは限らないんじゃない?」
「まあ、俺とレイは元騎士団の一員で、あのクソ騎士団長から追い出された身だからな。表立って手紙を送るとかできないんじゃねえの? それに――」
ラックはニヤリと笑みを浮かべながら、シャルに向けていた視線をレイに移す。
「リア王女を連れ出すなら、王女の傍付き騎士だったレイが適任だろ?」
「いや、そもそも追い出されたのは自分だけで、お前は勝手についてきただけだろ。自分から騎士団を脱退するとかどうかしてると思うぞ」
レイとラックの二人は、このアームシェイドでブラッドからの依頼を受ける前、騎士団の一員として国に仕えていた。しかし、レイは騎士団長であるトルフェス・アングレウスとのトラブルをきっかけに、騎士団を脱退することになったのだ。そして、騎士団を脱退する前日、国王からの言伝を受けていたリアから、ブラッドの元へ行くようにと指示を受けていたのだ。
ラックはというと、特に何かをしたわけではないのだが――。レイが脱退するなら俺も。という理由で、騎士団を脱退したのだ。
「ちなみに、この手紙は国王が自ら書いたもので間違いないぞ」
ブラッドはレイの手から手紙を取り、差出人である国王の名前の隣に刻まれた刻印を指さした。
「これはアスフェリア王国の国鳥なんだが、この刻印は普通に使用されているものとは微妙に違っていてな。知っているのは国内でもほんの一握り、国王の信頼を得てる者だけだ。それに、早朝この手紙を届けに来たのは、国王直轄の隠密部隊だった。ほぼ間違いないだろう」
「それって、おっちゃんが国王から信頼されてるってことだよな……。いろいろ顔も利くみたいだし、いったい何者なんだよ……マジで」
「それは教えらんねえなあ。それに、俺が言わなくたって追々わかるだろうよ」
ブラッドが笑いながら答えると、レイは無言のままシャルに視線を移す。視線に気づいたシャルは、軽く瞼を閉じて首を左右に振る。
「でもお父さん、リア王女を国外に連れ出して、その後はどうするの? 私達……もしかして誘拐犯になったりしないよね?」
シャルの声が微妙に引きずっている。
「なるだろうな……間違いなく。だがなあシャル、お前はレイとラックに同行すべきだ。こいつらが仮に誘拐犯になった場合……お前は絶対に拘束されるぞ。こいつらがお前を見捨てるわけがないからな」
ブラッドは真剣な眼差しでシャルを見つめている。
「でも、お父さんはどうするの? お父さんだって危ないんじゃないの?」
「ははっ、俺なら問題ねえさ。さっきも言ったが、俺は国王からの信頼も厚い。心配すんな!」
そう言いながらブラッドがシャルの頭に手を載せて、ポンポンっと軽く叩いた。そして、今度はニヤリと笑みを浮かべながらレイとラックに視線を移す。
「それに、リア王女だって困るだろうさ。こんなむさい男二人と逃亡生活なんてな」
「うん……わかった」
シャルは視線を落としながら弱々しく答えた。
「でもさ、どうしてリア王女なんだ? 第一王子や第二王子だっているんだぜ?」
ラックはブラッドに向けていた視線を一度外し、宙を見据えながら言葉を続ける。
「まあ、三カ月前ぐらいから貴族連中の指金で、あの騎士団長やら胡散臭い研究者やらがやってきて、おかしな感じはしてたんだけどさあ……」
「俺もそこがわからねえんだ。なんか特別な理由でもあるんじゃねえかと思ったんだが……。レイ、お前は心当たりねえのか?」
「……」
レイは瞼を閉じて思考する。
(ラックの言っていたとおり、貴族連中の企みが何かしら関係してるんだろうな……。ありえるとしたら、リア王女を騎士団長や研究者の目から遠ざけたかったから……か。万が一精霊使いだと知られたときに、どのような扱いを受けるのかを危惧して……とか)
「もし、貴族連中の狙いが軍事力や技術力の強化発展で、国王がそのやり方に何かしらの問題があると感じているのだとしたら、リア王女は遠ざけたいと思うかもしれない」
言い終えてから瞼を開くと、三人の視線がレイに集まっていた
「それって、どういうこと?」
シャルが不安気に尋ねる。
「リア王女は精霊使いなんだよ。軍事力の強化だけじゃなくて、最悪……彼女自身が研究対象になるかもしれない」
「リア王女が精霊使い……。マジかよ……」
ラックが普段はあまり見せない真剣な表情で言葉を零す。そして、顎に右手を当てたブラッドが口を開く。
「そいつは驚きだぜ。王女が精霊使いだったとはな……。だがレイ、どうしてお前はそんなことを知ってんだ?」
「多分このことを知ってるのは、自分と国王だけだと思う。リア王女は当時傍付き騎士になった自分を見て、すぐに気づいたんだよ……普通の人間との違いに」
「普通の人間……との違い?」
シャルが息を呑みながらゆっくりと繰り返す。
「そう。自分はこの世界に六人しか存在しないスピリットチルドレンの一人なんだよ」
数秒の沈黙が流れた後、ブラッドは右手で頭を掻きながら、困惑した様子で答えた。
「こりゃ魂消たな……。精霊使いにスピリットチルドレンとはな……」
ラックとシャルは驚きのあまり口を開けたまま固まっている。
「自分の魂には光の精霊ウィスプの力が刻まれてる。そして……精霊使いであるリア王女は、その精霊の力を感じ取ることができた。同時に、自分も彼女が精霊使いであることに気づいた」
「なるほどな」
ブラッドは瞼を閉じて腕を組み、深く頷いた。そして、瞼を開いて力強く言葉を続ける。
「だったら決まりだ」
「えっと……私、まだ整理できてないんだけど……」
「シャル……安心しろ。俺もだ」
ラックはシャルに向けていた焦りの視線を、今度はレイに向けた。
「まあ、詳しいことは後で教えてもらうとして、これからどうするんだ? リア王女を連れ出すにしてもここから王都までは遠いし、王城に忍び込むのだって――」
「いいえラック、王都まで行く必要はないわよ。だって、リア王女は今日の夕方にはアームシェイドに来るんだもの」
シャルがラックの言葉を遮ってそう言うと、ラックが右手で左の掌をポンっと叩いた。
「そっか、明日は視察だ」
そう。この国に属する都市や村は、年に一度王族による視察が入る。そして、ここアームシェイドの視察を担当するのがリアなのだ。今日の夕方頃には到着して、夜は貴族達との会食。その後宿舎で一泊し、明日の朝から視察が始まる。視察を終えて王都に戻るのは明々後日の朝になる。
「問題はいつ、どうやって連れ出すかだな。騎士団が護衛につくだろうから、深夜や早朝を狙ってもあまり効果はない。それに街の中を走って外に出るのは――」
「だったら会食中だな」
ニヤリと笑みを浮かべながらラックがレイの言葉を遮る。そして、ズボンのポケットからキーホルダーを取り出し、ジャラジャラと鳴らして見せる。よく見ると鍵にはそれぞれアルファベットと番号が振られている。
「これは地下シェルターに続く扉の鍵だ。そしてこれが――」
今度は胸ポケットから四つ折りにされた一枚の紙を開いて見せる。見たところアームシェイドの地図のようだが、これにもアルファベットと数字が記載されている。そしてそれらは迷路のように線で繋がれていた。
「――それぞれの鍵に該当する入口の場所だ。会食の場所は展望台近くのこの施設だろ。そしてここには地下シェルターに続く扉がある。扉の鍵はギルドが管理していて一般には貸し出されないし、ほとんど使われていないしな」
「なんでラックがギルドで管理している鍵を持ってるのかっていう疑問はこの際置いとくとして、この地図凄いわね。まるで迷路みたい」
「だろ、俺もコンプリートするまで苦労したぜ」
ラックは腕を組みながら瞼を閉じ、懐かしむように数回頷く。それを見ていたブラッドは、やれやれと溜息を付きながら呆れた口調で言った。
「依頼完了の報告がやけに遅い日があると思ったら、こんなことをしてやがったのか」
「ははっ……。でも、これならいけるかもしれない」
レイはカウンターに置かれていた白紙の紙とペンを手に取り、図を書きながら説明を始める。
「まずは二手に分かれる。リア王女を会食の席から連れ出し、施設内の地下通路へと続く扉の前まで案内する役。それと別の地下通路から入って、施設の地下通路へと続く扉の前で待機する役だ。リア王女は自分が近づけばすぐにわかるだろうから、会食の席には自分が潜入する。二人は地下通路の扉の前で、自分が合図を送るまで待っていてくれ」
「わかったわ」
「了解。けどレイ、潜入ってどうするつもりなんだ? 騎士団が警備してるだろうから無理なんじゃないか。それに危険――」
「大丈夫だよ」
レイはラックの言葉を遮り、指をパチンと鳴らす。すると、レイが座っている辺りの空間が歪み、三人の視界から姿が消えた。三人は驚いた表情を浮かべて数秒固まる。しかし、我に返ったシャルが口を開く。
「えっ、どういうこと!? 今、どうやって魔法を発動させたの!?」
魔導士であるシャルだからこそ発せられたこの疑問。魔導士にとっては当然の反応なのだ。何故なら、レイが行使した今の魔法の一連の流れには、マナの動きが一切感じられないのだから。
一般的に生物が魔法を行使する場合、自身の精神力を発動に必要なマナへと変換する必要がある。そして、感知能力の高いものであれば、このマナの変換量から魔法の規模を推定することができるのだ。
当然、シャルの疑問の意図を理解しているレイは、魔法を解除して姿を現してから、その疑問に答える。
「スピリットチルドレンは、対象となる属性のマナを大量に保有しているから、マナを変換する行程を飛ばして、ほぼ全ての魔法を即時発動することができる。これがスピリットチルドレンの強さの一つだよ」
「凄い! それって最強じゃない!」
シャルが目を輝かせながら両手でガッツポーズをするが、レイは首を左右に振って答える。
「そうでもないよ。スピリットチルドレンはその特性上、対象属性以外の魔法適正を得ることができないし、マノの制御を誤ると魔法が暴発する場合もあるからね。自分も最初は苦労したよ」
「そっか……」
はしゃぎ過ぎたことを後悔したシャルが、視線をカウンターに落とす。そんな様子を見ていたラックが、わざとらしく咳払いをする。
「よし、これで役割分担は決定だな。あとは……えっと……」
「脱出ルートだな。これはお前さんのほうが詳しいだろ?」
そう言いながらブラッドがラックの頭を鷲掴みにする。ラックは煩わしそうに顔をゆがめたが、気にせず話を続ける。
「そうだなあ、とりあえず都市の外に出られる出口は二箇所だな。一つは南門を出て西、森の中にある小屋の井戸。もう一つが門を出て南、王都を囲む山脈の中にある洞窟だな。早く国外に出るなら西の森じゃないか」
「そうね。そのまま西に進めばルゼニア教国だし、あそこなら私達を匿ってくれると思うわ。流石に教国まで追っては来ないでしょうし」
カウンターに大陸図を広げたシャルが、アームシェイドからルゼニア教国までの道のりをスーっと指でなぞる。
ルゼニア教国は、癒しの女神バナケイアを信仰する国で、例え犯罪者であっても庇護を求める者は受け入れられ、教国の民として生活することができる。故に、他国が政治的あるいは軍事的に介入してくることは滅多にない。
「そうだね。アームシェイドを出たら、まずはルゼニア教国を目指そうか。後のことは、リア王女の話も聞いてみてから決めよう」
「異議なし! それじゃあ早速、準備しようぜ!」
「わかったわ。後のことまで気にしてもしょうがないし、それでいきましょ」
三人の意見がまとまったところで、ブラッドが腕組みをしながら大きく頷く。
「よし、話はまとまったみてえだな。それじゃあ、各自準備を済ませて改めてここに集合だ。今は二時過ぎだから四時でいいだろう」
「了解! おっちゃんも娘との最後の別れをちゃんと済ませろよな」
「馬鹿野郎。縁起でもないこと言ってんじゃねえ。それになあ――」
そこまで言うと言葉を切ってから瞼を閉じる。そして数秒間の沈黙が流れた後、再び瞼を開いてレイとラックに強い眼差しを向けた。
「シャルを任せたぞ。そんで、全員生きて帰ってこい!」
「わかった」
レイは一言だけ言葉を返し、大きく頷く。ラックはブラッドの真剣な表情に調子を崩したのか、ブラッドから視線を外して照れくさそうに、当然だろっと小さく呟く。
「大丈夫よお父さん。私だって魔法の鍛錬をちゃんと続けてきたのよ。二人のサポートぐらい立派に務めてみせるわ」
シャルは、ブラッドの手を握りながら力強く答える。
「行こうかラック」
立ち上がりながらラックの肩をポンっと叩き、二人の親子に視線を向けたまま言葉を続ける。
「それじゃあ、また後で」
レイは二人の返事を待たずに振り返り、出入口へと歩き出す。
「あ、おいレイ。二人ともまた後でな」
ラックも慌てて別れを告げると、レイの後に続いた。
武器屋を出ると、二人は現在生活している東通りの宿舎へと向かった。その途中、ラックは呆れた様子で肩をすくめて口を開く。
「あの親子って、ほんとに仲がいいよな」
「まぁ、シャルは小さい時に母親を亡くしてるしね。唯一の家族を大事に思う気持ちはわかる気がするよ」
そう言いながら、レイはゆっくりと視線を空に向ける。そして、ラックの世間話に適当な言葉を返しつつ、現在アスフェリア王国で何が起きているのか、これから何を為すべきなのか、頭の中で整理し始めるのだった。
2
現在時刻は十五時三十分。レイは身支度を済ませ、部屋に備え付けられた鏡を見る。黒いコートに片手剣を一本背負い、左腕には赤い宝石が装飾された腕輪。そして、胸ポケットには国王からの手紙を入れている。
レイは装備の確認を終えてから部屋を一周見渡し、よしっと頷いてから部屋を出た。廊下から受付や食堂がある広めのフロアに入ると、メイド服を着た少女が受付カウンターから手を振って声をかけてくる。
「やっほー、レイ。もう準備はできたの?」
彼女の名はアスティー・ルーベル。長い黒髪をツインテールにまとめ、黒い瞳をしている。身長が低く、口調や立ち居振る舞いからも一見幼く見えるが、実際にはレイやラック、シャルと同い年である。
「うん。えっと、ラックはまだみたいだね」
受付カウンターに近づきながらフロアを見渡し、レイが答える。
「えーっと、そうみたいだねぇ」
カウンターに置かれた宿泊者リストを見ながら答えると、視線をレイに戻す。
「それにしても、三人とも大変だねぇ。まぁ、こっちのことは僕とブラッドに任せてよ!」
肩を竦めながらそう言うと、アスティーは受付カウンターから身を乗り出し、レイの肩をポンポンっと軽く叩く。
同い年ということもあって、レイ達も気兼ねなく接しているが、実際には経歴不詳の謎多き少女である。何故かブラッドのことを呼び捨てにしており、ブラッド本人もそれを当然のように受け入れている。
過去にラックは、アスティーが何者なのかを暴くため、何回か身辺調査を試みたが、尾行中に突然意識を失い、気付いたら宿舎のベットで目を覚ましたという。最終手段として、アスティー本人に直接尋ねたところ、満面の笑顔で白を切られたとのことだった。
さらに、アスティーは今回の一連の出来事について、既にブラッドから話を聞かされているのだが、一見楽しんでいるようにすら見受けられる。
「うん。お願いするよ。それより、アスティーは今回のことどう思ってる?」
「そうだねぇ……。詳しいことは教えられないなぁ。でもまぁ、君と王女様は当分の間、アスフェリア王国には近づかないことをお勧めするかなぁ。そ・れ・と――」
そこで一旦言葉を区切り、アスティーは獲物を狙う暗殺者のような鋭い目つきに変わる。そして、レイの耳元にゆっくりと顔を近づけ、息を含んだ色っぽい声で言葉を続ける。
「情報がほしいならぁ、それなりの――」
レイは自分の背筋に冷汗が流れるのを感じた。そして一瞬の沈黙の後、アスティーの表情が元に戻る。
「なーんてね。もう、ビビりすぎだよレイ」
先ほどと同じようにアスティーがレイの肩を叩くと、張りつめていた空気が元に戻った。
「忠告ありがとう……。肝に銘じておくよ……」
苦笑いを浮かべながらレイが答えると、聞きなれた男の声が割り込んでくる。
「おっす、レイ。もう準備はできたのか?」
「ああ、そっちも終わったみたいだね」
レイは心の中で安堵する。あのアスティーの鋭い視線を受け続けるのは、例え戦闘慣れしたレイであっても遠慮したかったからだ。そして、ラックのタイミングの悪さと、空気が読めない性格に感謝する。
「やっほー、ラック。相変わらずだねぇ。あまり度が過ぎると大変なことになっちゃうよ!」
「えっ、何の話……?」
満面の笑顔と釣り合わないアスティーの言葉に、ラックが一歩身を引く。
「んっ? どうしたのラック。僕、何かおかしなこと言ったかな?」
「えーっと……」
空気が張りつめていくのを感じたラックが、助けを求めるように視線をレイに移す。
「ごめん、アスティー。もう待ち合わせの時間なんだ。そろそろ行くよ」
レイは慌ててラックの腕を掴むと、アスティーの返事を待たずに宿舎の出入口へと足を進める。ちっという舌打ちが微かに聞き取れたが反応しない。
「二人とも元気でねぇ!」
そんな陽気な声が、最後に二人を送り出した。
現在時刻は十五時四十五分、宿舎を出たレイとラックは中央広場にある雑貨屋で、非常用食料やポーションなどの最低限の買い物を済ませてから武器屋へと向かう。
西通りに入ると、武器屋の前でこちらに手を振るシャルの姿があった。待たせるのも悪いと思い、歩くスピードを少し上げる。そして、声の届く範囲まで近づくとシャルが口を開いた。
「準備はもういいの?」
「ばっちりだぜ。そっちはどうなんだ?」
「こっちも平気。さぁ、中に入って」
そう言いながら、シャルは出入口のドアを開いた。
中に入ると、数時間前に来た時と同じように、ブラッドがカウンターに凭れ掛かってこちらを見ている。
「おっ、来たな。とりあえずそこに座ってくれ」
ブラッドは軽く首を振り、カウンター前の丸椅子に座るよう合図する。そして、全員が座るのを確認してから、一枚の紙をカウンターに置いた。
「これは……今回の視察スケジュールか。 どうやってこんなの入手したんだよ?」
一通り目を通してから、呆れた口調でラックが問いかけた。
「さっきギルドに顔を出した時に貰っておいたんだ。という訳で、これから最終確認をするぞ。俺はこの後、またギルドに行かなきゃなんねえから手短に済ませるぞ」
ブラッドは、視察団がこちらに来る時間や会食が始まる時間など、大まかな流れを説明した。しかし、護衛に入る騎士団の人数や警備体制までは分からないらしい。
「――とまあ、こんなところだな」
「どうせなら、警備体制まで分かってれば少しは楽なんだけどなぁ」
「そんな極秘情報が、簡単に手に入るわけねぇだろ」
そう言いながら、ブラッドは軽口をたたくラックの頭を鷲掴みにし、前後に軽く振る。そんな光景に目もくれず、今度はレイが口を開く。
「できれば、騒ぎになる前にアームシェイドを出たいかな」
「そうね。会食が六時から七時半までだから、七時ぐらいには席を外すように誘導できればベストじゃないかしら」
「それでいいんじゃねえか。会場から目的の出口までは軽く走っても十五分は掛かる。道が少し入り組んでるから距離にすると結構あるんだ。まあ、万が一見つかったとしても、途中から一本道だし挟み撃ちにされる心配はないと思うけどさぁ」
頭を振ってブラッドの手を振り払ったラックが、胸ポケットから取り出した地下通路の地図を見ながらシャルの言葉に続いた。そして、顎に右手を当てて考え込んでいたレイが、軽く頷いてから口を開く。
「わかった。それでいこう。自分は七時までにリア王女を連れて、地下通路前の扉に着くようにするよ」
「オッケー! 扉を開ける合図はどうする? ノックの回数とかにするか?」
「そうだね。まずは自分が四回ノックする。そしたらラックは一回ノックを返す。その後自分が二回ノックするから、その後扉を開けてくれるか」
ラックの話によると、地下通路へと続く扉の鍵は特殊で、鍵を差し込み捻った状態を維持しつつ、握り部分を押すか引くかしなければ開かないという。故に、鍵を常に開放状態にすることが困難な作りになっているのだ。
「了解!」
二人の会話がまとまったところで、シャルがカウンターに面した壁に設置された時計に視線を向ける。そして、今度はその視線をカウンターに置かれたスケジュール表へと移して口を開いた。
「会食の施設が解放されるのが五時丁度で、王女様の到着が五時半。私達は、一度地下通路に入って通路の確認とか、出口の確認とかしておきたいんだけど、レイはどうする?」
「自分も会場には早めに潜入しておきたいかな。シャルの準備がよければ出発しようか」
「私は問題ないわよ」
そう言いながらシャルは立ち上がり、カウンター横のショーウィンドウを開き、身の丈ほどのスタッフを取り出した。
そのスタッフは、眩い白銀の柄がスラっと伸び、三日月形に装飾された先端部分へと繋がっている。そして、その三日月部分の中心には、スカイブルーのように透き通る円形状の宝石が嵌め込まれている。
「あれっ、シャルがスタッフを使うのは久しぶりなんじゃないか? 普段は使わないだろ?」
「まぁね、でも、今回はどんな敵に遭遇するかわからないじゃない。強力な魔法を行使するならこれがあった方が便利だわ」
ラックの質問に、シャルがスタッフの柄をトンっと地面に打ち付けてから答えた。
魔導士が魔法を行使する方法には幾つかのパターンが存在する。一つ目は、体内の精神力を魔法の行使に必要な量だけマナに変換する方法。魔法の発動時間や扱いやすさを考えるとこれが一般的な方法である。二つ目は、体内で生成した一定量のマナをスタッフやアクセサリーに流し込み、魔法の行使に必要な量まで増幅、制御する方法である。精神力の消費は抑えられるがマナの制御が難しく、場合によっては暴発する恐れがあるので、マナの制御に自信がある者しか利用できない。三つ目は、特殊な製法により作られたアクセサリーを使用するものである。体内の精神力をアクセサリーに流し込むことによってマナが自動生成され、組み込まれた魔法を行使することができる。ただし、アクセサリーに組み込める魔法は一つで、膨大なマナを必要とする魔法は組み込むことができない。
「それじゃぁ二人とも、そろそろ行こうか」
「よっしゃ! ミッションスタートだな!」
右手の拳を左の掌に打ち付けたラックがレイの言葉に続き、勢いよく立ち上がる。そして、腕組みをしながら話を聞いていたブラッドが最後に口を開いた。
「レイ。俺もこれからギルドに向かわなきゃなんねぇ。三人とも姿を消して一緒に外に出ろ」
「わかりました。こっちは任せてください」
「それじゃぁ、行ってきます」
「んじゃ、行ってくるわ!」
レイとラック、シャルの三人は、それぞれブラッドに別れの挨拶を告げてから、顔を見合わせて頷きあう。そして、三人はスーっと姿を消した。
三人の姿が消えたことを確認したブラッドは、出入口へと歩みだし扉を開く。そして、先ほどまで三人が立っていた場所に視線を向けてから外へと首を振る。ラック、シャル、レイの順番で敷居を跨いだところで、ブラッドの呟くような声がレイの耳に届いた。
「シャルを任せたぞ」
レイは振り返ることなく歩みを続け、ブラッドと同じく呟くような声で、はいっと言葉を返してから、夕焼けに彩られた茜色の街へと溶け込んでいった。
現在時刻は十六時三十分。レイ、ラック、シャルの三人は、西通りの路地裏にある地下通路へと繋がる扉の前に来ていた。地下通路へと繋がる扉は、アームシェイド内に複数あるが、人の視線が極力少ない場所を選ぶことが重要だからだ。幾らレイの魔法で姿を晦ましているとはいえ、誰もいない状態で扉が開くところを目撃されれば、その情報がいずれ拡散され、不利な状況に追い込まれる可能性がある。
「今から扉を開く。自分から離れると魔法が解けるから、扉を閉めるまでは念のため自分から離れないようにしてくれ」
扉の前で立ち止り、ラックとシャルに視線を向けたレイが、小声で言葉を発した。そして、同じく小声で二人も言葉を返す。
「わかったわ。誰の目があるかわからないものね」
「了解だ。それじゃぁ、開けるぜ」
ラックはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。そして、周囲を確認してから扉を開く。扉の隙間は人が一人入れる程度のもので、まずはシャルが中に入った。その後、開いている扉をレイが抑え、鍵を引き抜いたラックがそれに続く。そして、最後に一言だけレイに語りかけた。
「レイ、無理はするなよ」
扉は無音で閉まり、内部で鍵が閉まるカチンっという小さな音だけが鳴り響いた。そして、レイは聞こえていないはずのラックに言葉を返すように、わかってるさっと小さく呟いた。
現在時刻は十七時、レイは姿を晦ました状態でアームシェイドの北側、展望台近くの会食会場へと足を運び、建物の影に身を隠していた。会食会場の出入口は、両開きの大扉が解放されており、上品なドレスコードに身を包んだ貴族やギルドの役人が複数出入りしている。
出入口には四名の騎士団員が二名ずつ、両脇に控えて警備をしている。その内の二名は魔導士で、魔法の行使がなされていないかを探知しているようだった。本来であれば、姿を晦ますような半永続的な魔法は、常時精神力をマナへと変換する必要があるため、すぐに魔法を探知されてしまうのだが、スピリットチルドレンであるレイは例外である。
レイは念のため、複数の人間が出入口を通過するタイミングを見計らい、それにまぎれるようにして会場内へ潜入。騎士団の反応を数秒伺い、異常がないことを確認してからエントランスにある物陰に身を潜めた。
「なんだか今年は、すごい警備体制ですわね」
出入口を通過する貴族夫妻の会話がレイの耳に届く。
「そうだねぇ。聞いた話だと、国内で不穏な動きをする者がいるとかで、警備を強化しているみたいだよ」
「やだ、そうなの。今年はリア王女が来られるのでしょ? 何事もなければいいのだけど……」
驚きと不安の表情から発せられた貴族夫妻の言葉を聞き、レイは瞼を閉じて思案する。
(自分達の行動が既に漏れているのか? いや、だとしたら警備網が狭すぎる。外部の襲撃なんかも警戒しているなら、都市内ももっと厳重に警備するはずだ。だとしたら、現状警戒しているのは内部にいる何者かの襲撃か……。まぁ、どちらにせよ、先に地下通路の扉を確認したほうがよさそうだ)
レイは一旦そこで思考を止めてから瞼を開き、エントランスを見渡しながら警備体制を確認する。
エントランスから左右に伸びる廊下の両脇に一名ずつ。前方上り階段の両脇に一名ずつ。そして、階段を上った正面の会食会場となる大広間、前方と後方それぞれの大扉の両脇に一名ずつ。合計十名の騎士団員が配備されていた。
地下通路へと繋がる扉は、左右の廊下の先にある階段から地下に降り、中央の十字に分岐した廊下の南側へ進んだ先にある。
「さぁ、ミッションスタートだ」
レイは小さいが力強い声でそう言うと、周囲を警戒しながら立ち上がり、人の往来に紛れて左の廊下へと足を進めた。
廊下の中間地点と奥の階段踊場に入る通路の両脇には、同じく騎士団員が一名ずつ配備されていた。一階の各部屋は、高位の貴族が控室として利用していたり、一般の休憩所としても利用されているため、騎士達も時折首を左右に振りながら、怪しいものがいないかを監視しているのである。
レイは周囲への警戒を強めつつ廊下を渡り、階段から地下へと降りた。
地下は電気が消えており、通路の途中に設置されている非常灯の光だけが、薄っすらと周囲を照らしている。人の気配はなく、罠が仕掛けられている形跡もない。警備の範囲を狭めるため、地下に通じる場所にのみ騎士団員を配置しているようだった。
レイは廊下中央の分岐点を南へと進み、地下通路へと繋がる扉の前まで辿り着いた。
「ここか……。それにしても暗いな……」
そう言いながら扉に軽く触れ、周囲を見渡しながら小さく呟く。そして、異常がないことを確認してから、レイは会場入り口へと戻るのだった。
3
現在時刻は十七時三十分。二頭の馬に引かれた豪華な馬車が三台、中央通りをゆっくりと進んでいる。馬車にはアスフェリア王国の紋章が刻まれており、通りを往来する人々は馬車を見つめながら道を開け、その場に立ち止まっていた。
「王女様が来たわよ。顔を出してくれないかしら」
「俺、王女様の大ファンなんだよなぁ」
通りの人々は口々に同じような言葉を発しており、リアが国民から敬愛されていることが伺える。リアの人を思いやる心と柔らかく美しい声は、国民にこれ以上にない癒しを与えているのだ。
中央通りを進む三台の馬車のうち、先頭と後方の馬車には護衛のための騎士団員が乗車し、中央の馬車にはリア専属の侍女と傍付き騎士、そして、リア本人が乗車している。
傍付き騎士の名はヴィドル・アシファー。レイの後任でリアの傍付き騎士になった男で、白を基調とした衣に身を包んでいる。髪は銀髪で身長は高くないが、優れた瞬発力と敏捷性を有しており、現在の騎士団員の中では一二を争うほどの剣士だ。
「リア王女、間もなく到着しますよ」
ヴィドルは、窓のカーテンを少しめくり、外の様子を確認しながら口を開いた。そして、リアも窓へと視線を移し、柔らかい穏やかな口調で言葉を返す。
「わかったわ、ヴィドル。ありがとう」
そう言ってから視線を正面に戻すと、リアはゆっくり瞳を閉じた。そして、それから数秒間の沈黙が流れたあたりで、メイド服を着用しているリア専属の侍女であるエリッサ・ヘンリエルが口を開く。
「リア様、準備はよろしいですか?」
「大丈夫よ、エリッサ」
三人は、お互いに短い言葉を何度か交わし、再び口をつぐむ。決して仲が悪いわけではないのだが、今日という日の重要性をそれぞれが理解し、少なからず緊張しているのだ。
現在、レイ達が決行している作戦については、詳しい内容までは知らないものの、当然のことながらリア本人は把握している。さらには、リアの信頼が厚い、専属侍女のエリッサと傍付き騎士のヴィドルも把握している。故に、どこで誰が聞き耳を立てているかわからないこの状況下では、多くのことを語ることができないのだ。
三人のぎこちない会話が、数回繰り返されたころ、馬車は速度を緩めて停車し、ゆっくりと馬車の扉が開かれた。
「リア王女、到着いたしました!」
扉の外から大きな騎士団員の声が響き、ヴィドルが席から立ち上がる。そして、ご苦労様ですっと小声で挨拶しながら馬車を降りた。
「リア様、行きましょう」
エリッサの言葉を聞くと同時に、リアは閉じていた瞳を開いて立ち上がる。そして、ゆっくりと歩き出して馬車を降りると、本日の会食会場であり、大きな変革の始まりの地とも言える施設へと歩みを続けるのだった。
現在時刻は十八時。会食会場の大広間には、冒険者ギルドと商業ギルドの役員や多くの貴族が集まり、リアの到着を心待ちにしている。大広間には複数の丸テーブルが配置され、アームシェイドの特産品である海産物の料理が並べられており、そこを高貴な服装で身を包んだ貴族が囲んでいた。中には年長者だけではなく、成人を迎えたであろう若い者の姿も散見される。
会場の警備状況と脱出ルートを確認し終えたレイは、既に大広間内部へと潜入しており、周囲に悟られないよう最大限の警戒をしている。大広間の前方と後方にある大扉は、騎士団監視のもと開放されているが、姿を晦ましているレイにとって潜入は容易だった。
そして、場内が前方の大扉付近を起点として静寂に包まれていき、全ての視線がある一点に集中する。リアの到着である。リアは侍女のエリッサと傍付き騎士のヴィドルとともに入場し、場内前方に配置された長テーブルの中央まで歩みを続け、一呼吸おいてからゆっくりと正面に向き直った。エリッサとヴィドルは、リアの後方に控えるようにして立っている。
「皆様、本日はご来場いただきありがとうございます。明日からは、視察団によるアームシェイドの視察が行われます。冒険者ギルドや商業ギルドの皆様、そして、この度ご来場いただきました貴族の皆様におかれましては、円滑に視察を遂行するためのご協力をお願いいたします」
リアはここで言葉を区切り、軽く頭を下げる。すると、一斉に拍手が沸き起こり、場内を満たした。その後、リアは乾杯の音頭をとるため、テーブルに置かれたグラスを手に取るように促し、乾杯の合図とともに会食が始まった。
「リア王女、お初にお目にかかります。私、このアームシェイドを統治する、レイグス家が嫡男。ラキアス・レイグスと申します。以後、お見知りおきを」
「お会いできて光栄です。ラキアス卿の功績は、私の耳にも届いております。今後も我が国のためにご尽力をお願いいたします」
レイグス家は、長くこのアームシェイドを統治している伯爵位の貴族で、住民からの信頼も厚く、この都市の発展に務めてきた。ラキアスは、目鼻立ちの整った金髪の青年で、優れた知略の持ち主だ。
ラキアスはリアと数回言葉を交わすと、レイグス夫妻の元へと戻り、改めて周囲の貴族と会話を始めた。そして、その後も多くの貴族がリアの元へと訪れては、体裁に沿った会話を続けている。
レイはというと、場内の窓際後方、人があまり寄り付かない位置から周囲の状況を観察していた。そして、とある人物を目視してから視線を止める。
(あれは確か……王国に仕えることになった研究者だったかな……。そんな男がラキアスと何を話してるんだ)
レイと会話をしている二人との距離はそれなりに離れており、話している内容までは聞き取ることができない。だが、研究者の男が主導権を握るかのように、身振り手振りをしながら話しているのは見て取れた。
アームシェイドには、海水を活用した様々な技術があるため、そこに興味を持ったのかとも思ったが、ラキアスは相手の話に対して相槌を打つばかりで、私領について話しているようには見えなかったのだ。
そしてレイは気づく、視界の端に捉えていたリアの視線が、自分のところで一瞬止まったことに。
現在時刻は十八時三十分。貴族との挨拶を一通り終えたリアは、一呼吸置いてから瞳を閉じる。
(もし、今日のうちにレイが私を連れ出すつもりなら、きっともう――)
そう思案してからゆっくりと瞳を開き、注意深く周囲を見渡す。そして……窓際後方の一点で一瞬動きを止め、すぐに動きを再開して場内を一周した。
(いまので伝わったかしら……)
リアは、中央に向き直るとゆっくりと視線を落とし、心の中で不安気に呟きながら、丁寧な所作でテーブルに並べられた皿に手をつける。誰の監視を受けているか分からないこの状況において、リアができる行動は限られており、下手に動くことはできないのだ。
当然のことながらリアは気付いている。窓際後方にレイが身をひそめていることを。リアの目にははっきりと見えているのだ。淡く発光する黄色い蝶が、人型をかたどり漂っていることに。
「なるほど……あんなところに……」
(流石は先輩。隠密行動はお手のものっすねぇ)
リアの一連の行動を視界に捉えていたヴィドルは、わずかに頬を緩ませ、自分にしか聞こえないであろう小さな声で呟く。ヴィドルは大広間に入ってからずっと、リアの警護という任務を遂行しながらレイがどこに潜んでいるかを探していた。故に、リアが見せた一瞬の動きさえ見逃すことはなかったのだ。
(にしても、どうして気付いたんすかねぇ……。僕にはまったく分からなかったんすけど……)
そして、それから数分経過したころ、状況が動き出す。
「エリッサ、少し疲れたわ。一度控室に戻りたいのだけれど、いいかしら?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
リアの言葉にすぐさま反応したエリッサが一つ頭を下げる。そして、割と近場のテーブルで立食していた各ギルドの重鎮とレイグス夫妻の元へと歩み寄り、数回言葉を交わしてから頭を下げ、リアの元へと戻ってから口を開く。
「リア様、それでは参りましょう」
エリッサの言葉を聞いてから、リアはゆっくりと立ち上がり、場内に目を配ることなく大広間前方の大扉へと向き直る。ヴィドルは、リアの進行を妨げないよう一歩後ろに下がり、リアが歩き出してから、その後ろにエリッサとともに付き従う。
大広間前方の大扉は、リアが立ち上がると同時に開かれ、大扉の両脇に控える騎士達の警戒レベルが一層強まる中を、リア達三人は臆することなくゆっくりと通過する。そして、大扉は三人が通過してから再び閉ざされ、リアがいなくなったという騒ぎが起こるまで開かれることはなかった。
現在時刻は十八時四十五分。リアの控室を一周し、盗聴の類がされていないことを確認したレイは、リア達三人の視界の先まで歩み寄ってから魔法を解いた。すると、その場の空間が歪み、レイの姿が現れる。
ヴィドルはこうなることを予見していたため驚きはしていなかったが、エリッサに至ってはそうはいかなかった。控室に入ってからずっと、リアが何もない空間を目で追っていたため、何かあるのだとは気付いていたものの、目の前の空間がいきなり歪み、人が現れれば驚くのは当然だ。
エリッサは、驚きの表情を見せてはいるが、声を出さないよう必死に自らの口を両手で抑えている。
「レ……」
レイは、歩み寄りながら口を開こうとするリアに向かって、ゆっくりと右手の人差し指を口元に立ててそれを静止し、それから左手の掌を地面に向けて魔法陣を展開、淡く輝いた黄色い光がレイの半径二メートル程度まで半球状に広がり、結界が生成される。
ヴィドルは慌てて扉に視線を向け、廊下に控える騎士の反応を警戒したが、何も起こる気配は感じられない。ほっと胸を撫で下ろしたヴィドルが、再びレイに視線を向けると、右手で手招きをしながら結界に入るように促していた。
「リア王女、お久しぶりです」
レイは、最初に結界へ足を踏み入れたリアに声をかけた。そして、リアも微笑みながらすぐさま言葉を返す。
「レイ、お久しぶりですね。またお会いできて嬉しく思います。ところでこちらは……」
そう言いながら、リアは生成された結界をぐるりと見渡した。
「これはただの遮音結界です。声が外に漏れないよう、念のためにと思いまして。それと、エリッサさんもお久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「レイ様もお元気そうで何よりです」
エリッサは、リアの後方に控える位置で歩みを止めると、深くお辞儀をした。そして、数秒遅れて結界内に入り込んだヴィドルの声が、レイの耳に届く。
「先輩、お久しぶりです。いろいろと聞きたいことはありますが、それはまた今度にさせてもらうとして、まずは要件をお願いできますか?」
「やぁ、ヴィドル。随分と騎士が板に付いてきたみたいだね」
「ははっ、相変わらずですね、先輩は。俺達も先輩が何をしているのかは国王から聞いています」
ヴィドルの言葉にリアとエリッサが頷き、それを確認したレイがさらに頷く。
「話が早くて助かります。今からリア王女を国外に連れ出します。この施設の地下からアームシェイドを抜けて、西のサリエラの街を経由してルゼニア教国に入る予定です。それと、自分の他にもラックとシャルが同行します。二人は今、アームシェイドの地下通路からこちらに向かい、この施設と地下通路とを繋ぐ扉の前で待機しているはずです」
「話は理解しました。ですが、ここからどのようにして地下通路まで行くのですか? エリッサとヴィドルをここに残して私が消えてしまえば、お二人が疑われてしまいます」
レイの説明を一通り聞いて納得したリアであったが、自分のためにエリッサやヴィドルに責任が及ぶことを許容することはできないのだ。
「リア様がご無事であれば、私の身などどうなろうと――」
「それ以上、言葉を発することを禁じます」
エリッサの反射的な訴えに対し、リアは穏やかだが力強い口調で言い放った。そして、そんなやり取りを予想していたかのように、レイがズボンの後ろポケットから四つ折りにされた紙切れを取り出し口を開く。
「問題ありません。エリッサさんには、これから冒険者ギルドに行って、この手紙をブラッドさんに届けてもらいます。それと、ヴィドルはエリッサさんと一緒に部屋を出て、扉の前にいる騎士の一人と警護を代わってもらってくれ。そうだなぁ……侍女が戻るまでの間、部屋で休憩される、とか言えば何とかなるだろ?」
「そうですねぇ……多少不自然ではありますが、何とかなるレベルではありますね……。ところで先輩達はどうするんですか?」
「自分とリア王女は、これから魔法で姿を晦まして、二人と一緒に部屋を出る。そしたら、そのまま地下通路へと抜けて、ラックとシャルに合流、そのままアームシェイドから脱出する」
「なるほど、そういうことですか。了解です。こっちは異論ないです」
ヴィドルの了解を得たレイは、瞳を閉じたまま聞いていたリアに視線を移す。一瞬の沈黙の後、リアは瞳を開く。
「分かりました。私にも異論はありません。エリッサもいいですね?」
「はい。リア様がそう仰るのであれば、私に異論はありません」
エリッサは、リアの呼びかけに対して深々と頭を下げる。
「それでは、今から遮音結界を解いて、自分とリア王女は姿を消します。以降は不要な会話をしないようにしてください」
そう告げると、レイはリアの後方へと回り込む。そして、失礼しますと一言声をかけてから、リアを抱き抱えた。
「えっ!?」
リアは突然の出来事に、普段は見せることのない驚きの表情を浮かべ、見る見るうちに顔を赤くする。
「リア王女。少しの間、ご無礼をお許しください」
突然の出来事ではあったが当然である。リアの今の装いはドレス姿、幾ら姿が見えなくなるとはいえ、誰かがドレスに触れてしまえば違和感に気付く者が現れるだろう。幸いなことにリア王女が身に着けているアクセサリーは、青い宝石の髪飾りのみなので、レイは問題ないと判断していた。
「それでは結界を解きます」
レイの言葉に、抱き抱えられて真っ赤な顔をしているリアを残し、エリッサとヴィドルが頷く。すると、間もなくして半球状の結界は消失、続いてレイが立っていた空間が歪み、リアとともに姿が消えた。
(やっぱり、先輩はただものじゃないっすねぇ。僕は探知系の能力が不得手だから仕方ないとしても、外にいる連中はその手の専門だっていうのに……)
二人の姿が消え、誰もいなくなった空間を見つめながら、ヴィドルはそう思うのだった。
4
現在時刻は十九時。手筈通りに控室を抜け出したレイは、リアを抱き抱えたまま何の問題も起こすことなく、地下通路へと続く扉の前に到着していた。
レイは周囲に人の気配がないことを確認してからリアを下ろし、事前にラックと示し合わせていた通りに扉を四回ノックする。すると、すぐにノックが一回返され、レイは再び扉を二回ノックした。そして、ガシャっという鍵が差し込まれる音がしてから、扉が音を立てないようにゆっくりと開かれた。
人が一人通れるほどに開かれた隙間を、まずはリアが通過し、レイがその後に続く。
「ラック。もう閉じていいよ」
レイとリアの姿を認識できていないため、扉を開いたままにしているラックにレイが声をかけ、それと同時に二人の姿が現れた。
「おう! 二人とも無事だったか!」
ラックは扉をゆっくりと閉めながら、レイとリアに視線を移し、やや興奮気味に言葉を発した。シャルはというと、リアに歩み寄り、リアの右手を胸の高さまで持ち上げてから、両手で強く握りしめている。
「リア王女、ご無事で何よりです」
「ありがとうございます、シャル。でも、レイが護衛してくれていたから問題はありませんでした」
潤んで泣き出しそうな目を向けてくるシャルに、リアは優しく言葉を返す。シャルは武具を納品するために何度も王城を訪れており、リアが気を許せる者の一人にはなっていたのだ。
「えっと……。感動の再開をしているところ悪いんだけど、あまり時間はないだろうし、出発したいんだが……」
「そうですね、ラック。まずは落ち着ける場所までいきましょう。話はそれからです」
ラックの言葉に頷くと、リアはシャルの手を優しくほどいた。
「ところでレイ、そっちのほうは特に問題なしか?」
「ああ、問題ない。リア王女の失踪が公になるまでにはまだ時間があるだろうし、それまでにアームシェイドを脱出しよう」
「レイ、ちょっと待って。リア王女の服装だと、この通路を走るのは無理よ」
今後のことについて話し合う二人の会話に、シャルが割り込んで現状の問題点を指摘する。
「サリエラの街で服を購入するまでは、レイが抱き抱えて走るとかしないと……」
そう言いながらシャルがリアに視線を向けると、恥ずかしさを堪えながらも平静を装い、口を開く。
「そ、そうですね。レイ、お願いできますか?」
「もちろんです。窮屈な思いをさせてしまいますがご容赦ください」
リアは、レイの返答に頬を少し赤くしながら頷き、さらに言葉を続ける。
「それと……皆さん。ここから先、私は王女であることをできる限り隠していきたいと考えています。えっと、ですので……敬語は使わずに、皆さんがいつも話している口調で接してもらえればと……」
数秒の沈黙がその場の空気を支配した後、空気の読めないラックが、堂々とその空気をぶち破った。
「そっか。それじゃこれからよろしくな、リア」
「ちょとラック! 少しは遠慮しなさいよね!」
シャルが透かさず言い放ち、ラックの脇腹を肘で小突く。思いのほか痛かったのか、ラックは小突かれた脇腹を摩りながら少し前のめりになった。そんな二人のやり取りに、ふふっと笑みを浮かべてリアが口を開く。
「いいんですよ、シャル。同年代の人達とこうして笑い合えることなどありませんでしたから、ラックのような方がいてくれて安心しました」
シャルはやや不満げな表情を浮かべつつも納得し、ゴホンっと態とらしく咳払いをする。そして、ぎこちない口調で言葉を返す。
「そ、それじゃぁ……リア。これからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「ところでさぁ、リアの喋り方が敬語のままなのは問題ないのか? って、痛い痛い!」
問答無用でシャルの肘がラックの脇腹に突き刺さり、今度はレイがフォローを入れる。
「いいんじゃないか。貴族の令嬢なんかは敬語で話す人のほうが多いし、そうでなくても普段から敬語で話す人はいるだろ?」
「そう言われてみれば、確かにそうだな」
「という訳で、リア。これからよろしく」
「はい。レイとラックも、これからよろしくお願いします」
そう言いながら、リアは深々とお辞儀をしてから、普段は見せることのない満面な笑顔を三人に向けた。
それから四人は、ラックの案内に従って地下通路を進み、西の森へと続く出口に向かっていた。都市の地下部分に該当する通路は、複数の出入口とを繋ぐため、レイが創造する以上に入り組んでいたが、南門を過ぎたであろう辺りからは一本道となっていた。
「みんな止まってくれ!」
もう少しでアームシェイドの外へと繋がる出口に到着しようとしていた頃、焦りのこもったレイの声が通路に響く。そして、レイは抱き抱えていたリアを下ろしてから、後方に鋭い視線を向ける。ラックとシャルも後方から接近してくる数人の足音に気付いたのか、振り返りながらそれぞれの武器を手に取った。
「こんなに早く追手が来る訳ないんだけどな……」
「まぁ、来ちゃったものは仕方ないだろ」
そう言いながら、ラックはレイの横に並ぶように歩み寄り、大剣を構えた。そしてシャルは、リアの一歩前に歩を進め、リアを庇うようにしてスタッフを構える。
「いたぞ! 逃がすな!」
後方から接近する者達の叫び声が響くと同時に、直径十五センチ程の水弾が複数放たれた。
水弾は、ウォーターボールという魔法で、一つ一つの威力は高くないが、この狭い通路内で複数同時に対処するのは困難である。
「私にお任せください」
それにすぐさま反応したのはリアで、両手をウォーターボールに向けて伸ばした。すると、伸ばした両手の先に直径一メートル程の魔法陣が生成され、先頭に立つレイとラックの正面に、玉虫色に透き通る水の障壁、アクアシェルがウォーターボールを阻んだ。
アクアシェルは水属性魔法の一つで、魔法攻撃に耐性のある防護障壁である。
「もう逃がさないぞ! リア王女を返してもらおう」
後方から接近していたのは五人で、全員が騎士団の証である白を基調とした衣に身を包んでいた。そして、その中にはレイやラック、リアがよく知る人物も含まれている。
「追いつけないかと思いましたよ、先輩」
そう言いながら、ヴィドルが腰に下げていた直剣を引き抜き、レイの前まで歩み出た。
ヴィドルは、レイとラックが騎士団の師団に所属していた時の後輩で、よく任務を共にしていたこともあり、性格も含めてよく知っている。シャルとはほとんど面識がなく、城内で数回すれ違うことがあったという程度だ。
「何のつもりだお前!」
最初に口火を切ったのは、レイの横に立つラックだった。
「お久しぶりですね、ラックさん。私もこんなことはしたくないんですが、これも仕事なんです」
ヴィドルは、軽く溜息を吐きながら首を振り、同じく後方にて剣を構えて待機する騎士に向かって言葉を続ける。
「先輩がいる以上、リア王女を取り戻すことはできません。私が先輩の相手をしますので、援護をお願いします」
「いいだろう」
後方に控える騎士の中で、体格の良い高身長の男がそう答えると、その騎士は左右に目配せをしてから直剣を鞘へ戻し、追撃時に使用したウォーターボールの発動へと切り替える。そして、ラックやシャル、リアが目の前の光景に困惑している間に状況は動き出した。
ヴィドルは直剣を握る右手を上段に引きながら剣先をレイに向け、地面を強く蹴った。レイもすぐさまそれに反応し、直剣を下段に構えたまま地面を蹴ってヴィドルを迎え撃つ。下段から振り上げられたレイの剣と上段から振り降ろされたヴィドルの剣が交差し、ギンっという鈍い金属が通路に響く。そして、そのまま剣を数回打ち合ってから鍔迫り合いへと縺れ込む。
「流石は先輩っすね」
ヴィドルから発せられた言葉は、これまでの丁寧な言葉遣いとは裏腹に、上品さの欠片もないものだった。しかし、レイはヴィドルの変化に何の動揺も見せることなく言葉を返す。
「ヴィドルもやるじゃないか。で、これはどういうことだい?」
「さっきもいいましたが、これが僕の仕事なんっすよ」
鍔迫り合いのまま言葉を交わしてから、ヴィドルが打ち当てていた直剣を離し、後方へと跳躍する。そして、その間に騎士達が発動させたウォーターボールは、リアのウォーターシェルによって再び阻まれていた。シャルはというと、スタッフを力強く地面に打ち立て、騎士達の足元に魔法陣を展開、ロックスパイクと呼ばれる地属性魔法で、地面から突き出す鋭利な岩石で攻撃していた。
シャルの魔法攻撃により数人の騎士が体制を崩しているが、無傷であることを確認してから、高身長の騎士が再び口を開く。
「くそっ! ダメだな。あの後方にいる魔導士が邪魔か」
そう吐き捨てると、今度はヴィドルに視線を向けて言葉を続ける。
「ヴィドル。貴様は引き続き奴の相手をしろ。俺達で後方の連中を鎮圧する」
「大丈夫ですか? ラックさんはああ見えて強いですよ」
「安心しろ。左右二名ずつに分かれて一斉に攻撃を仕掛ける。幾ら強くとも、左右から同時に仕掛けられれば対処はできまい」
「分かりました。ご武運を」
二人の会話を聞いていたラックは、少し見構えたが、ヴィドルに突っ込まずにはいられなかったのか、おいっと叫びながら割って入る。
「ヴィドル。お前さっきから俺のことちょいちょい馬鹿にしてるだろ!」
「そんなことはありませんよ。同じ師団にいた頃はお世話になりましたしね。そんなことよりも、油断しているとやられてしまいますよ」
ヴィドルは、唇の端をやや釣りあげながら笑みを浮かべる。そして、それと同時にヴィドルの後方から、左右に分かれた騎士達四人が一斉にシャルとリアに向かって走り出した。
レイは、ヴィドルと向き合いながらも、後方に騎士達を通してはならないという直感をもとに、左翼の騎士二名に向かって地面を蹴った。当然のことながら、レイの動きを視界に捉えていたラックは、右翼の騎士達へと地面を蹴る。右翼と左翼の騎士四人は、立ち塞がるレイとラックに動揺して足を止めたが、一方で、ヴィドルを牽制するものはない。
「それじゃぁ、これで終わりっすね」
(くぅっ、このままヴィドルがシャル達に突っ込んだとしても、この距離ならギリギリ間に入れるはずだ……。なっ――)
視界の端でヴィドルの動きを捉え、いつでも対処できるように備えていたレイは、ヴィドルの取った行動に動揺し、思考が一瞬停止した。
ヴィドルは、構えていた直剣の剣先を真っすぐ正面、シャルとリアに向けて突き出し、直径一メートル程の魔法陣を生成、魔法陣が強く発光し、青白い四本の雷光が一直線に走る。そして、雷光が直撃した四人の騎士は、その場に崩れるようにして倒れ込んだ。
中級風属性魔法であるライトニングは、他の中級魔法に比べて威力は高くないが、対象者の耐性が低い場合、ほぼ例外なく身体が麻痺して動けなくなる。故に、殺傷目的ではなく、拘束する目的で使用される魔法なのだ。
レイとラックは、すぐさま後方へ下がり、シャルとリアを庇うようにして剣を構える。そんな中、地面に倒れ込み、どうにか身体を動かそうと藻掻く高身長の騎士が口を開く。
「どういうつもりだ……ヴィドル。貴様……我々を裏切る……つもりか?」
ヴィドルは、地面に倒れ込む騎士の襟首を掴み、通路の中央に引き釣りながら言葉を返す。
「いやいや、僕は初めからあなた達の味方になったつもりはないっすよ。先輩達がリア王女を国外に連れ出すことが決まった時点で、僕がこの国に留まる理由はなくなったんすから」
「何だと……。貴様……どこの国の……諜報員だ……?」
「察しがいいっすね。ただ、それはこれから行けばわかることなんで、それまでのお楽しみっすね」
そう言いながら騎士を一箇所に集め終わると、ヴィドルは武器を構えたまま警戒態勢を崩さないレイ達に視線を移す。
「大丈夫っすよ、先輩。僕は先輩達の味方になるかどうか分からないっすけど、敵になることはないっすから」
「どういうことだ、ヴィドル。ちゃんと説明しろ! お前は何者だ!」
言葉を返したのは、レイではなくラックだった。苛立ちを露に発せられた言葉だったが、ヴィドルは動じることなく言葉を返す。
「いやぁー、本当に悪かったとは思ってるっすよ。ただ、僕が何者かはそのうち分かると思うんで、それまで待っていてもらえればと」
ヴィドルはそう言いながら、ポケットから赤く透き通った結晶石を取り出し、それを握りしめて破壊する。すると、ヴィドルを中心に直径二メートルほどの広範囲の魔法陣が生成された。
「あぁ、それと先輩。心配しなくとも追手はこれ以上来ないんで、安心していいっすよ。今回の件は、こいつらしか知らないんで」
ヴィドルがそう告げたところで魔法陣は強く発光し、中心に向かって魔法陣が収束しながらヴィドルと騎士団の一行は姿を消した。そして、何もない空間をレイ達は静かに見つめていたが、シャルが魔法陣が生成されていた場所に数歩近づきながら口を開く。
「あれ……転移結晶よね?」
「そうだね。あらかじめ登録した場所に転移できる結晶石……。あれは錬金術でしか作り出せないからとても貴重な物のはずだけど……」
「だよね……」
レイがシャルの問いに答えると、自らの認識に誤りがないかを確認するように大きく頷いた。そして、再び数秒の沈黙が続いた後、今度はリアが口を開いた。
「レイ、ヴィドルは何者なのでしょうか?」
リアは、レイならば知っているのではないかという淡い期待を持って問いかける。
「ごめん。それは自分にも分からない。けど、剣を交えて分かったよ。ヴィドルには敵意はなかった」
「そう……ですか。それならよかったです」
短い期間とはいえ、自身の傍付きを務めていた騎士が敵ではないと知って、リアはほっと胸を撫で下ろす。そして、次に口を開いたのはラックだった。
「それにしてもヴィドルの奴。俺に対して言いたい放題言いやがって、次にあったらただじゃおかねぇからな!」
これまでとは軽色の違う内容に、ふふっと笑みを零したレイが、ラックの言葉に続く。
「まぁ、ヴィドルもまた会えるみたいなことを言ってたし、その時に色々と聞くことにするとして、今はこの通路を抜けてサリエラの街に行くことを優先しよう」
「そうね、そうしましょう!」
シャルは、気を取り戻すように元気よく返事をしてから大きく頷く。すると、ラックとリアも軽く笑顔を浮かべて頷いた。そして、四人は物資の調達とリアの変装を行うため、サリエラの街へ向けて、通路を再び走り出したのだった。
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