侯爵令息の数奇な運命

野咲

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第二章

公爵のにおい☆

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 僕は恐る恐る公爵の部屋へ続く階段を上り、一応ノックしてから扉を開けた。中には誰もいなくて、僕はほっとする。公爵のベッドの換えられたシーツが床に落ちている。僕はそれを両手に抱えて持ち上げた。すると、ふわっと公爵の匂いが鼻腔をくすぐった。
「あ……」
 公爵の、アルファの匂い……。
 それを意識した瞬間、僕の身体が燃え上がるように熱くなり、僕はうずくまった。
「え?」
 発情期が来たのだ。どうして? 本来なら発情期はまだ先のはずだ。それに徐々に体調に変化があらわれるのではなく、こんなに一瞬で劇烈に症状が重くなるのもおかしい。
「はっ、はぁう……」
 僕は無意識にシーツに顔を寄せ、すんすんと匂いを嗅いだ。公爵の匂いが、あまりに気持ちいい。今まで嗅いだ、どのアルファの匂いとも違う気がする。
「うっ、うううぅ」
 お腹の奥がぎゅうっと締まるような感じがして、切ない。はやくここを離れなければ。そう思うけれど、全然身体が思うように動かない。
(公爵……。ああ、公爵が、欲しい……!)
 後から冷静に考えて分かったことだが、僕は前にトマスに発情剤を使わされたから、そのせいでホルモンが乱れて発情の周期が狂ったのだと思う。しかし、この劇烈な反応は、多分公爵のせいだった。グラニフ公爵は、今まで僕が出会ったどのアルファとも違った。他の自分勝手で、強欲で、オメガのことなんて性欲処理の道具としか思っていないようなアルファどもと彼は違うのだ。だから僕の身体はこの素晴らしいアルファを求めて、勝手にうずく。
 僕はますますシーツに顔をうずめ、すんすんと匂いを嗅いだ。こんなことをしてはいけないと理性では分かっているのだが、オメガの本能が公爵を求めてしまう。
「あっ、公爵さまっ! 欲しいっ!」
 でも公爵様は、僕のことを嫌っている。僕を淫乱で問題のあるオメガだと思っている。彼が僕を抱くことは、万に一つもないのだ。
「うっ、ううぅ」
 それを悲しい、むなしいと思いながらも、大好きなアルファの匂いに包まれて、僕の興奮は止まらない。勝手に勃起するペニスをどうにかしようと、服の上からぎゅうっと抑えつけてしまった。
「はあんっ!」
 ビクビクッ
 ただそれだけの刺激で、僕はイってしまった。
「やだ、どうしよう……」
 さらに自分のホルモンが濃くなっているのが分かる。さらなる刺激を求めて、手が勝手にズボンの中に入り、性器を弄ってしまう。そして、その奥できゅんきゅん疼いているお尻の穴にも……。
「あっ、はぁ!」
 指をアナルに入れて、くるくるとかき混ぜる。
「やらぁ! もっと奥ぅ!」
 僕はもう我を忘れていた。僕はとうとうズボンと下着をずり下ろし、夢中で自分のアヌスをかき回し始めた。
 グチュッ グチュッ
 濡れそぼった穴は嫌らしい音を立てて指を飲み込む。
「はあっ! ああああん!」
 僕はいつの間にかひとり遊びに夢中になり、周囲を警戒することを怠っていた。だから、公爵の部屋のドアが静かに空いたのにも、全く気付かなかったのだ。
「何をしている!」
 僕がはっとして後ろを振り返ると、そこにはグラニフ公爵がいた。
「あっ!」
 僕は慌てて立ち上ろうとして、自分が脱ぎ捨てたズボンに絡まってつまずき、グラニフ公爵の方に倒れ込んだ。
「っ!!」
 公爵は驚きながらも、僕を受け止めてくれた。シーツとはくらべものにならないほど濃い、公爵の香りが僕をつつんだ。
「ああっ!」
 僕はもう、完全に理性を失って公爵の腕にしがみつくと、熱い吐息を彼に吐きかけた。
「あっ、あ、公爵様、公爵様ぁ」
 公爵の爽やかな香りが変質し、草いきれのような力強い匂いがぶわっとあふれ出した。
「あっ!」
 公爵は僕から顔を背け、突き放そうとした、ようだったが、僕の肩を掴んだ手には痛いほどの力がこもり、結局突き放されることはなかった。
「くっ!」
 公爵は僕をベッドに突き飛ばし、自分もベッドの上に乗り上げた。ギラギラとした目で、公爵は僕をにらみつけていた。公爵はラットに陥りかけていた。
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