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同級生ユウキ 5
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ユウキが帰ってこない。
怒りのあまり、確かにさっきはしばらく顔も見たくないと言ったが、アキラの言う「しばらく」は放課後研究をしている間の四、五時間のことであって、寮に帰れば当然ユウキがいると思っていた。
他の男に犯されて、とろけきった顔で自ら腰を動かしていたユウキを思い出すと未だにはらわたが煮えくり返るが、だからといってユウキを部屋から追い出すつもりはなかった。
もう消灯時間も過ぎた。深夜まで研究室にいることもあるアキラの部屋には在室点呼がないが、ユウキは外にいるところを見つかったらまずいだろう。探しにいってやるべきか。いや、でも俺にそこまでやってやる義務があるか?
まだ怒りの冷めないアキラの胸中は複雑だった。
「藤堂、いるか?」
ドアのノックに応えて出ると、見慣れない教師が立っていた。アキラは知らないが、その教師はユウキの性実技担当教官だ。
「ほら、入れ!」
教師に突き飛ばされて床に這いつくばったのはユウキである。
「下前?」
「こいつ、ご主人様のお世話もほったらかしてこんな時間に学内をふらついてたから連れてきたんだ。ほら、ご主人様に謝れ」
教師に蹴られて、ユウキは土下座の格好を取る。
「ご主人様、勝手な行動を取って申し訳ありません」
ユウキの声は恐怖からか震えていた。ユウキの左頬が真っ赤に腫れているのを見つけて、アキラは驚いた。この教師、下前のことを殴ったんだろうか。そう思うと、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「どうする? 許してやる? キツめに教訓を与えとくんなら手伝うけど。ムチ打ちでもするか?」
当たり前のように言う教師の言葉に、ユウキがびくりと震えた。
「……いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
教師を追い出して扉を閉め、床に正座したまま小さくなっているユウキを見下ろした。
「床、冷たいだろ。いすに座れよ」
アキラが言うと、ユウキはふるふると声もなく首を振った。アキラはなんだかかわいそうになって、急速に怒りがしぼんでいくのを感じていた。
「大丈夫か? 殴られた?」
そっと頬に手を当てると、ユウキは怯えた目をアキラに向けた。
「いえ、大丈夫です」
そして小さい声で「ごめんなさい」とつぶやく。
「俺が顔見たくないって言ったから出て行ったのか?」
「……あ、そ、そうです」
「そっか。悪かった。お前行くとこないのに」
「藤堂さま、オレ、オレ……」
そう言ったまま声を詰まらせて泣くユウキをよしよしと撫でてやる。呼び方が藤堂さまになっているのは、怯えているからだろう。アキラに捨てられるのではないかと思っているのかもしれない。そうしたらユウキは学校を辞めるしかなくなる。
「なあ、なんであんなヤツらに抱かれたんだ」
怒りがしぼんだ代わりに悔しさが募ってきた。よりによって秋月なんかに。あいつは前から一度でいいからユウキを貸してくれとしつこくて、そろそろ縁を切ろうかと思っていたようなやつなのに。
ん?
そこまで考えて違和感に気づく。本当に誘ったのはユウキのほうなのか? 無理やり迫ったのは秋月のほうじゃないのか? しかもアイツらは三人だった。暴れられても一人が犯している間、二人がかりで押さえ込める、レイプには最適の人数だ。
ユウキはしゃくりあげながら答えた。
「藤堂さまが借金を俺の体で返す約束をしたって言われて、」
「それ信じたのか」
「ごめんなさい……」
「信用ねぇな、俺」
俺が下前を人に貸すなんてこと、絶対にないのに。
「イヤだったけど、怖かったけど、ご主人様の命令だからと、思って…」
三人に襲われて怖かったのは本当だろう。でもユウキは勃起して、気持ちよさそうに自分で腰を動かしていた。
「下前は、イヤな相手とでも寝れるんだな」
それはそうだろう。そうでないと、寄付金の営業なんてできない。抱くと気持ちよさそうにするから、俺のこと好きになったんじゃないかって勘違いしてたけど、本当は俺と寝るのもイヤだったんじゃないだろうか。そう思って、アキラは暗い気持ちになった。俺、もしかしてコイツにとんでもないことしてたんじゃ。
「そんなこと……!」
「いや、責めてんじゃないんだ。ともかく、俺はお前を人に貸したりしない。そもそもお前は俺の所有物じゃない。下前、お前はもっと自分を大切にしろ」
アキラはユウキの目を覗き込んで、真剣に言った。
「俺はお前のご主人様じゃない。いやなことはいやだって言ってくれ。お前が何を言っても追い出したりしないから。な?」
ユウキの目から涙がこぼれた。ユウキはこくりとうなずいた。
「なあ、下前」
アキラはごくりとつばを飲み込んだ。ちゃんと言えるだろうか。
「こんなこと言ってお前を困らせるかもしれないけど、俺は、お前のことが、好きだよ。その……、俺は、お前と一緒の部屋になって楽しかった。どんどんお前のこと好きになった。お前はご主人様としての俺にはすごく尽くしてくれる。でも俺はそれじゃイヤだ。真剣にお前のこと好きだから。だからお前も本当の気持ちを教えてくれ。俺に遠慮して嘘をつくのは逆に俺を傷つけることになるよ。だから、お前の本当の気持ち、教えて」
すがりつくような瞳で見つめられて、ユウキの心は歓喜で震えた。こんな幸せなことがあっていいんだろうか。ユウキはアキラの震える手を取って、握り締めた。
アキラはとても優しい。でも最後のところでずっとユウキは信じられずにいた。いつかこの人はオレに飽きるんじゃないか、捨てられるんじゃないか。それが怖くて、アキラが対等な関係を望んでいるのを知っていても、ご主人様と部屋子の関係を崩せなかった。そうすれば何も考えないでアキラの言うことを聞いていればいい、全ての責任をアキラに預けていられるから。でもそれはずるい方法だ。こんなに真摯に思ってくれる人にやっていいことじゃない。
「ねぇ、藤堂くん。信じてもらえないかもしれないけど、オレは誰とでも寝れるほど器用じゃないんだよ。秋月くんたちにヤられてる時も苦しくて、辛くて、だからずっと藤堂くんのこと考えてたんだ。これが終わったら藤堂くんに優しくしてもらえるって、キスして、ハグして、それから、その……。ともかく、オレは、藤堂くん以外とは、その、できないと思う」
「それって、つまり……」
多分そういうことなんだろう。でも、はっきり言ってもらわないとアキラは不安だった。
「つまり、どういうこと? 俺のこと好きなの?」
「こんなかっこいい人、好きにならないわけがないよ!」
そう叫んで、ユウキはアキラにキスした。それは生まれて初めての、ユウキが自分からしたキスだった。
怒りのあまり、確かにさっきはしばらく顔も見たくないと言ったが、アキラの言う「しばらく」は放課後研究をしている間の四、五時間のことであって、寮に帰れば当然ユウキがいると思っていた。
他の男に犯されて、とろけきった顔で自ら腰を動かしていたユウキを思い出すと未だにはらわたが煮えくり返るが、だからといってユウキを部屋から追い出すつもりはなかった。
もう消灯時間も過ぎた。深夜まで研究室にいることもあるアキラの部屋には在室点呼がないが、ユウキは外にいるところを見つかったらまずいだろう。探しにいってやるべきか。いや、でも俺にそこまでやってやる義務があるか?
まだ怒りの冷めないアキラの胸中は複雑だった。
「藤堂、いるか?」
ドアのノックに応えて出ると、見慣れない教師が立っていた。アキラは知らないが、その教師はユウキの性実技担当教官だ。
「ほら、入れ!」
教師に突き飛ばされて床に這いつくばったのはユウキである。
「下前?」
「こいつ、ご主人様のお世話もほったらかしてこんな時間に学内をふらついてたから連れてきたんだ。ほら、ご主人様に謝れ」
教師に蹴られて、ユウキは土下座の格好を取る。
「ご主人様、勝手な行動を取って申し訳ありません」
ユウキの声は恐怖からか震えていた。ユウキの左頬が真っ赤に腫れているのを見つけて、アキラは驚いた。この教師、下前のことを殴ったんだろうか。そう思うと、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「どうする? 許してやる? キツめに教訓を与えとくんなら手伝うけど。ムチ打ちでもするか?」
当たり前のように言う教師の言葉に、ユウキがびくりと震えた。
「……いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
教師を追い出して扉を閉め、床に正座したまま小さくなっているユウキを見下ろした。
「床、冷たいだろ。いすに座れよ」
アキラが言うと、ユウキはふるふると声もなく首を振った。アキラはなんだかかわいそうになって、急速に怒りがしぼんでいくのを感じていた。
「大丈夫か? 殴られた?」
そっと頬に手を当てると、ユウキは怯えた目をアキラに向けた。
「いえ、大丈夫です」
そして小さい声で「ごめんなさい」とつぶやく。
「俺が顔見たくないって言ったから出て行ったのか?」
「……あ、そ、そうです」
「そっか。悪かった。お前行くとこないのに」
「藤堂さま、オレ、オレ……」
そう言ったまま声を詰まらせて泣くユウキをよしよしと撫でてやる。呼び方が藤堂さまになっているのは、怯えているからだろう。アキラに捨てられるのではないかと思っているのかもしれない。そうしたらユウキは学校を辞めるしかなくなる。
「なあ、なんであんなヤツらに抱かれたんだ」
怒りがしぼんだ代わりに悔しさが募ってきた。よりによって秋月なんかに。あいつは前から一度でいいからユウキを貸してくれとしつこくて、そろそろ縁を切ろうかと思っていたようなやつなのに。
ん?
そこまで考えて違和感に気づく。本当に誘ったのはユウキのほうなのか? 無理やり迫ったのは秋月のほうじゃないのか? しかもアイツらは三人だった。暴れられても一人が犯している間、二人がかりで押さえ込める、レイプには最適の人数だ。
ユウキはしゃくりあげながら答えた。
「藤堂さまが借金を俺の体で返す約束をしたって言われて、」
「それ信じたのか」
「ごめんなさい……」
「信用ねぇな、俺」
俺が下前を人に貸すなんてこと、絶対にないのに。
「イヤだったけど、怖かったけど、ご主人様の命令だからと、思って…」
三人に襲われて怖かったのは本当だろう。でもユウキは勃起して、気持ちよさそうに自分で腰を動かしていた。
「下前は、イヤな相手とでも寝れるんだな」
それはそうだろう。そうでないと、寄付金の営業なんてできない。抱くと気持ちよさそうにするから、俺のこと好きになったんじゃないかって勘違いしてたけど、本当は俺と寝るのもイヤだったんじゃないだろうか。そう思って、アキラは暗い気持ちになった。俺、もしかしてコイツにとんでもないことしてたんじゃ。
「そんなこと……!」
「いや、責めてんじゃないんだ。ともかく、俺はお前を人に貸したりしない。そもそもお前は俺の所有物じゃない。下前、お前はもっと自分を大切にしろ」
アキラはユウキの目を覗き込んで、真剣に言った。
「俺はお前のご主人様じゃない。いやなことはいやだって言ってくれ。お前が何を言っても追い出したりしないから。な?」
ユウキの目から涙がこぼれた。ユウキはこくりとうなずいた。
「なあ、下前」
アキラはごくりとつばを飲み込んだ。ちゃんと言えるだろうか。
「こんなこと言ってお前を困らせるかもしれないけど、俺は、お前のことが、好きだよ。その……、俺は、お前と一緒の部屋になって楽しかった。どんどんお前のこと好きになった。お前はご主人様としての俺にはすごく尽くしてくれる。でも俺はそれじゃイヤだ。真剣にお前のこと好きだから。だからお前も本当の気持ちを教えてくれ。俺に遠慮して嘘をつくのは逆に俺を傷つけることになるよ。だから、お前の本当の気持ち、教えて」
すがりつくような瞳で見つめられて、ユウキの心は歓喜で震えた。こんな幸せなことがあっていいんだろうか。ユウキはアキラの震える手を取って、握り締めた。
アキラはとても優しい。でも最後のところでずっとユウキは信じられずにいた。いつかこの人はオレに飽きるんじゃないか、捨てられるんじゃないか。それが怖くて、アキラが対等な関係を望んでいるのを知っていても、ご主人様と部屋子の関係を崩せなかった。そうすれば何も考えないでアキラの言うことを聞いていればいい、全ての責任をアキラに預けていられるから。でもそれはずるい方法だ。こんなに真摯に思ってくれる人にやっていいことじゃない。
「ねぇ、藤堂くん。信じてもらえないかもしれないけど、オレは誰とでも寝れるほど器用じゃないんだよ。秋月くんたちにヤられてる時も苦しくて、辛くて、だからずっと藤堂くんのこと考えてたんだ。これが終わったら藤堂くんに優しくしてもらえるって、キスして、ハグして、それから、その……。ともかく、オレは、藤堂くん以外とは、その、できないと思う」
「それって、つまり……」
多分そういうことなんだろう。でも、はっきり言ってもらわないとアキラは不安だった。
「つまり、どういうこと? 俺のこと好きなの?」
「こんなかっこいい人、好きにならないわけがないよ!」
そう叫んで、ユウキはアキラにキスした。それは生まれて初めての、ユウキが自分からしたキスだった。
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