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5『冥々たる紅の運命』
5 第五章第八十一話「生者と死者」
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「……んぇ?」
寝ぼけた声と共に、カイは瞳を開けた。そして、視界に広がる青空。雲間を貫く眩しい日差しに、開いた瞳をすぐに閉じたくなる。
その後聞こえてくるのは小鳥の鳴き声。風に揺られた木々のざわめき。
横たわった身体を支えているのは色とりどりの花畑で、蝶が華麗に飛び回っている。
……なんだ、ここ。
とても幻想的で綺麗な世界に感じるのだが、生憎こんな場所は知らない。
いまだ覚醒しない脳みそだが、働かないなりに思考する。
確かさっきまで《冥界》にいて、それでオルシェと戦っていて……。
……。
「え、俺もしかして死んだか!?」
カイは慌てて跳び起きた。
そう言えば一度心臓を失うような大穴を開けられて死んだのだった。《吸命ヴァイア》で何とか生き返った、つもりでいたが、あくまで多少の延命に過ぎなかったのかもしれない。
《冥界》とはあまりに違う光景に、死んだ説が濃厚になっていく。
だが、その説は彼女の嬉しそうな言葉で掻き消えた。
「カイ!」
言葉と共に背後から抱きつかれるカイ。途端香る良い匂いは、周囲に咲いているどの花よりも好きなものだった。
「イデア……」
後ろから抱きつかれたせいでイデアの顔は見えないけれど、イデアであるのは間違いない。声も香りも、その温かさに背中に当てられる柔らかさも――。
「気が付いたんだね……本当に良かった……!」
そう語るイデアの声は震えていて、涙で肩口が濡れていくのが分かった。
イデアもいるし、感覚もあるってことは。
そう思って、致命傷だった胸に手を当ててみる。
いつの間にか上半身は裸だったが、そこに大穴は開いていない。
《吸命ヴァイア》の存在もなく、多少主張のある胸筋が元に戻っていた。
「あれ、何で……」
後ろ手にイデアの頭を撫でながら、現状を理解できないカイへ、新たな言葉がかけられる。
「何でも何も、シャーロットもそうだったろう」
「トーデル」
いつの間にか黒ローブから白い鎧に姿を変えていたトーデルが、ゆっくりと向かってきていた。
「《吸命ヴァイア》が心臓の代わりをしているあいだに、肉体にある致命傷は徐々に回復していく。今回は特に、《吸命ヴァイア》側が協力を惜しまなかったからな。戦いが終わった頃には既に元通りだったよ」
「そう、なんだ……――てか戦いだよ! 結局どうなった!? オルシェは!? てかここはどこだ!?」
カイが慌ただしくキョロキョロと周囲を観察する。何回見ても先程までいた《冥界》ではなさそうだ。
だが。
「あ――」
カイは動かしていた瞳を一点で留めた。
少女の黒髪が風に優しく揺られている。巫女装束の周りにはたくさんの小鳥の姿。鳥達と楽しそうに触れ合い、赤い袴が元気に踊る。
少女を初めて見るはずなのに、不思議と少女が誰かカイには分かった。カイが少女を見つけたのをトーデルも気づいたのだろう、先程のカイへ答え合わせをする。
優しく、それでいて潤んだ瞳でカイの視線を追いながら。
「ここは変わらず《冥界》だ。――いや、違うか。ようやく本来の姿を取り戻した《冥界》だ」
トーデルの言葉の意味をカイは真に理解している。
だって、彼女は《冥界》そのものだから。
真っ暗闇に緋色の死をまき散らしていた世界から。
色彩豊かに、魂達の揺り籠のような世界へ変わっていた。
《冥界》が変わったということは。
彼女が変わったということ。
「カイ、お前が救ったオルシェの心そのものだよ」
少女がカイの覚醒に気づく。ばっちり互いに目が合い、少女は一瞬気まずそうに視線を逸らした。少し俯き、そして悩んだような素振りで上目遣いを送り。
オルシェは、少し照れくさそうにはにかんだ。
「――良かったぁ」
「カイ!?」
突然カイが横に倒れこんだので、慌てて心配するイデア。まだ傷があったんじゃないかと触診するも、カイは脱力したように呟いた。
「生きててくれたぁ……」
その呟きを聞いて、イデアも安心したように微笑んだ。
カイの言葉は、ちゃんとオルシェに届いていた。
彼女の表情と、《冥界》そのものが証拠だった。
死にたいと言っていた少女を救うことができた。
救えて、本当に良かった。
オルシェの微笑を見て、カイは心からそう思った。
※※※※※
「――そうしてお前は力を使い果たしたかのように倒れた。あの時は周りが五月蠅くて敵わなかったぞ。どちらが勝ったのか分からんくらいだ」
「それは……何というか心配かけたな」
オルシェの言葉に、カイは座ったままイデアとトーデルへ面目なさそうに首を垂れる。
カイとオルシェの戦いはカイの勝利で終わった。《吸命ヴァイア》の力でオルシェの力をほとんど吸収したからである。
だが、直後にカイが死んだように倒れてしまったらしい。
「本当だよ! もう心配過ぎて心臓いくらあっても足らないよ! これ以上無茶するなら離婚だからね! 離婚!」
カイの隣でイデアが怒ったように頬を膨らませる。
「イデア!? それだけは頼むよ……! ごめん、ごめんな。本当に今回は、たくさん心配かけた」
「……もう離れないでって、置いてかないでって言ったのに」
イデアの唇が震え出した。少し収まっていた涙がまた溢れ始める。カイはその涙を義手で拭い、今度はこちらから彼女の肩を抱き寄せた。
「ああ、本当にごめん」
「謝っても許さないから。カイに頼んでも勝手にどこか行っちゃうから、私がどんな時でもずっとカイの傍に居ることにする。それがカイへの罰!」
そう言ってイデアがカイを力強く抱きしめる。
「それは罰なのか、頑張ったご褒美なのか――」
「本当に悪いと思っているの!?」
「思ってます、すみませんでした!」
カイとイデアのやり取りをトーデルは微笑んで聞いていた。
二人がこうやって言葉を交わすことができて。
カイの命が無事繋がって、本当に良かった。
「……そういや、《吸命ヴァイア》は?」
「何だ、分からないのか。お前は聡いのか鈍いのか分からないな」
本心を理解されたオルシェが苦笑しながら、座っているカイを見下ろす。トーデルも察しが悪いカイに呆れていた。
「どうしてオルシェが《冥界》を変えられたと思っている。お前に力の大元を吸収されたというのに」
「……てことは今――」
カイの視線にオルシェが頷き、その胸に手を当てる。
「元は此方の一部から生み出された《冥具》。戻るべき鞘に収まった、それだけだ」
《吸命ヴァイア》はオルシェの善性を《女王》が作り替えた存在。オルシェの元に還るのは当然の帰結ともいえる。そして、《吸命ヴァイア》は多くの魂を内包し、彼女自身の力も蓄えていた。
つまり、オルシェはカイ達に削られた分の力を取り戻し、本来の力を振るっていることになる。だからこそ《冥界》自体作り替えることが可能だった。
「安心しろ。此方が吸収した魂達は全て元に戻した」
「ああ、分かるよ。大丈夫、もう、大丈夫なんだもんな」
《女王》に力が全て戻ったと聞けば、これまでの感覚だと絶望以外の何物でもないが。
この力を振るっているのは《女王》ではなくオルシェだから。
もう大丈夫、その言葉にオルシェは強く頷いた。
「未来がどうなるか分からんし、もしかするとまた絶望に支配されるときは来るかもしれない。……だが、どうしても此方に生きてほしいと願う魂がいた。そう願う者がいる限り、無様でも生きることにした」
「……ありがとな」
オルシェが誰を指しているかなど、聞かなくても分かる。
魂の幸せを願う彼女だからこそ、きっとその願いも汲んでくれたのかもしれない。
カイの感謝をオルシェは鼻で笑った。
「何に感謝している。此方が勝手にそう決めただけだ。第一、恨まれこそすれ、感謝される覚えはない」
「いや、何というか、そうだな……あ、《吸命ヴァイア》はつまりオルシェの一部なわけだろ? それのお陰で俺は救われたんだ。だから、ありがとう」
「何を馬鹿なことを。お前を死なせたのも此方なんだぞ」
「いいんだよ、とにかくアンタに礼を言いたいんだよ」
「変な奴だ」
そう言うオルシェも微笑んでいた。
きっと常人であれば、オルシェを生かそうなどとは思わない。多くの命を弄び、全ての魂を掻き消そうとした彼女を、どうして生きてほしいなどと願うだろうか。
それでも生きてほしいというカイはやはり変わり者なのだろう。
そして、その変わり者に救われたのだ。
誰もが違いを持つからこそ、今この魂は生きようと思えているのだと思う。
「――そう言えば」
ふと、カイは浮かべていた微笑みを消した。
全てが終わったような気もするが、終わらせていいわけでもない。
「レゾンは、どうしたんだ」
カイ的に、レゾンのことはまだよく理解できていなかった。
元締めはオルシェだったかもしれないが、レゾンが生界に死をまき散らしていたのは事実で、昔の話を聞いても魂の扱いが他の《冥界の審判員》とは違ったように思えた。
何故そこまで魂に対する扱いが悪いのか分からないが、知らないままではいたくない。
レゾンという言葉が出て、それでもなおオルシェは微笑んでいた。
「レゾンなら、ここにいる」
そう言ってオルシェが手を持ち上げる。その終着点には、一匹の緋色の蝶々。掌程度の大きさの蝶々は、オルシェの周りをぐるぐると周りながら飛んでいた。
まさかとは思うが。
「その蝶が、レゾンか?」
「ああ、今も五月蠅く此方に話しかけているよ」
オルシェが頷いた。
間違いなく、緋色の蝶がレゾンなのであった。
「これは恐らくだが――」
オルシェは語る。
「レゾンはきっと此方が死にたいと願っているのを知っていた。そして、理解していたのだと思う。だから、魂を弄び、その価値がないのだと証明してくれていたのではないだろうか」
オルシェの言葉に反応するように、緋色の蝶が縦横無尽に飛び回る。それは肯定なのか否定なのか。カイ達に声は聞こえないが、オルシェには蝶が発している言葉が聞こえているらしい。
「――よい。お前は本心を隠すからな。此方の価値観でお前を語ることにする」
蝶に向かって話すオルシェはどこか周囲の風景に混じって幻想的だった。
「とにかく、此方のせいでレゾンも振り回してしまった。如何にこれまでの所業が許されるものではなくても、此方が奴を諦めるのは間違っていると思う」
指を曲げて蝶に乗るよう仕向けるが、嫌がっているのだろう。一向に乗る気配がない。
それでもオルシェの微笑みは変わらない。
「カイ、お前が此方を肯定してくれたように、此方もレゾンを肯定したいのだ」
「オルシェ……」
その柔らかな笑みがカイへ向けられ、思わずカイは瞳が熱くなった。
「とはいえ、レゾンは此方が元に戻ってなお、つまらんと、魂を弄ぼうと唆してくる。流石にそれを看過するわけにもいくまい。だから、今此方の傍から離れられないようにしている」
オルシェはそう話した後、緋色の蝶へと視線を向けた。きっとレゾンから何かを話されているのだろう。
彼女がため息をつく。
「お前はどうしてそこまで悪役になり切ろうとする。どれだけ言葉を述べても、あの時お前の言葉が《冥界》を救ったのは間違いないだろう」
あの時、という言葉がいつを指すのか、カイも何となく理解できる。
べグリフ達の存在で魂の輪郭が危ぶまれた時、レゾンが四つの魂を掻き消そうと提案した。きっと、誰もが辿りたくなくて避けていた答えを、レゾンが口にしてくれたのである。
「あの時、それ以外の答えには辿りつけなかった。お前だけが魂のことを想って現実的な答えを導き出したのだ」
蝶が動きを止めたのは、オルシェの言葉に思うところがあるからか。
「あの答えが正しかったかどうかは今も分からない。魂を犠牲にした選択を正しいとは思いたくない。――だが、それでもあの時、お前の言葉が此方達を、魂達の未来を支えたのは間違いない」
指に止まってくれなくても、オルシェが両手で救い上げるように蝶を目の前まで持ち上げる。
「これからもお前なりの言葉で、此方を支えてくれ。お前だからこそ導き出せる解を教えてくれ。此方達にはない視点だからこそ、此方とお前の魂が違うからこそ――答えが一つではないからこそ、此方達は間違いながら、それでも何かを得ては先に進めるのだと思う」
――。
オルシェの真っすぐな視線を受けて。
はぁ、最悪なエピローグだと。
彼女のそばを離れていく緋色の蝶がそう呟いたように感じたのだった。
「――本当に大丈夫そうだな」
カイが蝶を追いかけながら口にする。
「お前が大丈夫だと言ったんだろう」
オルシェが苦笑する。
でも、言葉で聞けて、改めてカイはもう《冥界》は大丈夫だと思えたのだった。
「よいっしょ、と」
膝に手を当て、疲労感からか気怠い身体をどうにか立ち上がらせる。一緒に座っていたイデアが支えてくれたお陰で、難なく立つことができた。
カイは周囲を見渡した。相変わらず変わらない美しい景色。
ただ、探している姿が見当たらない。
「あれ、親父達はどうした」
ここにはカイ、イデア、トーデル、オルシェ、レゾンの姿しかない。ゼノにシロ、べグリフにレイニー、ザドにシャーロットの姿が見えなかった。
「……最後の挨拶だよ」
「――そうか」
トーデルの言葉に、カイは何となく察した。
ここは《冥界》。死した魂達の最後の安らぎの場所。
だからこそ、帰らなくてはならない。
生きている魂は帰らなければならない。
しなければならない別れがある。
「――カイ」
トーデルの横にオルシェが並ぶ。一瞬、何かを問うようにオルシェがトーデルを見つめ、彼女は頷いた。
それを合図に、オルシェが口を開いた。
「お前は此方の命を未来へ繋いだ。だが、やはり此方がやってきたことが無くなるわけではない」
「……ああ、そうだな」
カイが肯定する。そこを見失っては、それこそこれまでの全てが無駄になってしまう。
オルシェもそれを分かっていて、カイの頷きに微笑んだ。
「それでも、少しでも償いたい。此方がしてしまった過ちに、弄んだ魂に。……だから――」
そうして、オルシェが自身の罪を償う方法をカイへと告げていく。
言葉を紡ぐ彼女の声は、少し迷っていた。
これが正しい道なのか。選ぼうとして、また間違ってしまうのではないかと。
だから、彼女にとっての光である彼に聞くのだ。
彼の言葉が全て正しいわけでもないだろう。
だが、自分を変えてくれた彼ならば。
彼に背中を押してもらえれば、少しでも胸を張って生きられると思うのだ。
「――オルシェ」
話し終えたオルシェへ、カイが笑いかける。
「やっぱり、《冥界》のことをアンタに頼んで良かった」
「――」
これまでとはかけ離れた幻想郷。魂達の最後の安息の地。
色鮮やかで魂の幸福を願った世界。
その創造主である《女王》
彼女の涙が世界を彩る。
柔らかな笑みが温かい光を世界へ差す。
泣き笑うオルシェは。
やはり生きてみて良かったと思うのだった。
※※※※※
その日、世界には不思議なことが起きていた。
「――エグウィス、様?」
呟くルーファのその先に、エグウィス・ディスペラードは半透明なまま立っていた。
ここは王城セレスタの一室。世界が陰り、部屋の明かりが煌々と光る中、疲労感から眠りに誘われていた彼女の目の前に、エグウィスが唐突に出現していた。
夢……?
いつの間にか眠ってしまったのかもしれない。
カイ達が《冥界》へ向かうのを見送ってから、ルーファとカルラはそれはもう大忙しだった。現状の把握に情報の共有。生界側の黒幕であった王都グランデロードの女王ウェンの対応についても現状まだ全てが決まったわけではない。第一、王都リバディは死の都と化してしまったし、王都グランデロードの女王は黒幕として捕縛されている。
王都ディスペラードだけの問題ではない。
三王都全てが、今後の動きに追われていた。
流石に今日だけでどうにもなるものではなくて、とりあえず最低限を済ませてルーファは仮眠を取らせてもらうことにしたのだ。代わりにカルラはまだ対応を続けてくれていて、数時間後には交代する手筈となっている。
だから仮眠を取ろうとして寝てしまい、結果夢を見ているに違いなかった。
そうでなくては、既に死んでしまった彼のことをこの眼が捉えることはない。
きっとこれは、彼をまだ愛している自分が生んだ幻想だ。
ただ、夢にしてはあまりに現実味があって、先程から心臓の鼓動が止まらない。古典的な方法で頬をつねってみるも、生憎世界はそのままだった。
それでもまだ信じられないルーファへ届く声。
「元気そうじゃねえの、ルーファ」
「本、物なの……?」
届けられた声も、言葉と共に浮かべる不敵な笑みも、手で掻き上げられた金髪も、彼女の知っているもので。
「ああ、無様にも命を落とした、ダセえ王様だよ」
「どうして……?」
本当はもっと言葉にしたいものがあるのに、心がまだ疑っているのかそんな言葉しか出て来ない。
エグウィスは首をすくめた。
「向こう側の償い、らしい。こんなことで償えると思われちゃ困るが……まぁ、確かに悪くない方法だ」
「向こう側って――」
「これもカイ・レイデンフォートのお陰だな」
「――エグウィス様!」
彼の名が証明かのように、気づけばルーファはエグウィスへ駆け出し、抱きついていた。そこに身体はなく、ただ魂が身体の輪郭を象っているにすぎないのに、確かな感触がルーファに届く。ぶっきらぼうで、言葉も荒いけれど、でも確かに温かい彼の心が。
ルーファの心が、エグウィスの存在を確かに感じていた。
「エグウィス様っ! エグウィス様ぁああああ!」
「おーおー、俺の前でそんなに泣くのは、流石に初めてじゃないか?」
困ったように笑いながら、エグウィスは半透明な手でルーファの頭を撫でた。
「何だ、そんなに俺のこと恋しかったのか?」
「――当たり前ですっ!」
ガバッと顔を上げる泣き顔のルーファに、驚いた様子でエグウィスは目を瞠っていた。
「どれだけあなたの存在が私の中で大きいと思っているんですか!」
「ルーファ……」
「あなたがいなくなってから、どれだけ私が悲しんだと思っているんですか! あなたのことをどれだけ想っていると思っているんですか!」
「……悪かった、勝手に死んぢまって」
「会いたかったです、ずっと――ずっとっ!」
泣きじゃくるルーファをあやすようにエグウィスは頭を撫で続けた。
「私、頑張ったんですよ! エグウィス様がいなくても、あなたが目指した国を作れるようにって!」
「ああ、知ってる。聞いたし、見せてもらったからな」
誰に聞いて、どうやって死後自分を見てくれたかなんて分からない。でも、見ていたなら分かるはずだ。
「でも、私は中途半端でした! 自分を愛したくても、愛せなかったんです! 怖くて、怯えていて、自分に自信がなかったから、あなたに想いを打ち明けられなかった! 自分が本当に願っていたことを果たせなかった……!」
誰もが自分に自信を持ち、何にも囚われることのない、自分を愛せる国。それを願ったエグウィスの想いを背負うことは、真の意味でルーファにはできなかった。
でも今、だからこそ今。
もう迷わない。ここまでの道程が。出会った人々が。
カイが、イデアが。
カルラが。
自信を繋いでくれたから。
涙で潤んだ瞳で、ルーファはエグウィスを捉え、叫んだ。
「大好きです、エグウィス様! ずっとずっと! ずうううううっと愛していましたっ!」
未練だった。後悔だった。
でも、ようやく。
もしこれが夢だったとしても、ようやくルーファの心は前に進める。
ようやく、ルーファは自分のことを好きになれる。
ようやく、自分の想いから解放される。
「――」
叫んだ想いは部屋の中に響き渡った後、静寂を呼び覚ました。
静寂の中、ルーファは目を瞠っていた。
半透明で顔色なんて分からない。
でも、エグウィスは今確かに。
「――あー、未練で死ぬに死にきれないだろ、これ」
ルーファから顔を背け、口元を腕で隠していた。
照れ、てる……?
間違いなく、エグウィスは頬を赤く染めているようにルーファは感じた。
この反応じゃ、まるで……。
再び早鐘を打つ心臓。
「――前、ルーファにこの国を託したこと、あっただろ」
唐突に話始めるエグウィス。
もちろんルーファだって覚えている。エグウィスが死ぬ少し前の話だ。悪魔族との戦闘は避けられなくて、それに対して三王都が傍観者の立ち位置に居た頃。縁起の悪い話だったから忘れるわけない。
「あの時、確か親父の話もしたはずだよな。何であの人たらしが共生反対派の三王都にいるんだって」
「は、はい」
「ルーファの言う通りだった。アイツ、色んな奴に託されたんだ。大好きで、愛している人々に託されて、だからここに残ったんだって、さっき言ってやがった」
「……?」
さっき、という発言にルーファは首を傾げてしまう。まるで亡くなっている先王センドリルと話してきたかのようだ。
エグウィスは続ける。
「じゃあ親父は俺に何か託したのかって聞いたらよ、あの野郎、託された側が自分で考えろだとよ。受け取っていれば託されているし、特に何も思わなければ託されたことにはならないって。……じゃあよ、ルーファ。俺はお前に何か託すことはできたか?」
「っ、当たり前です!」
同じ言葉をもう一度ルーファはエグウィスへ返した。
「あなたを追いかけて私はこの王都で頑張ってきました! 託すどころじゃない、私の生きる指針があなただったんですよ!」
全ての行動の根幹に、エグウィスがいたのだ。
「私、ちゃんと受け取ってます! エグウィス様が求めた形かは分からないですが、ちゃんと繋いでいます! だから、だから――」
その時、エグウィスの半透明な身体が段々とより薄くなっているのが分かった。
今日のこれは奇跡。ずっと目の前に居てくれるわけではないのだと、嫌でも理解してしまう。
「――だから、安心してください」
もうどこにも行かないでほしい。傍に居てほしい。自分のことを見ていてほしい。
でも、どの言葉よりもその言葉が出た。
無理にでも微笑んで。きっと無様な表情になっているかもしれないけれど。
「この国は、王都ディスペラードは、エグウィス様のおかげでまだ前に進めます……!」
ルーファの微笑の先。
エグウィスも優しく微笑んでいた。
「やっぱり、ルーファに託して正解だった」
そして、唐突に重なる唇。
ルーファは目を瞠った。半透明だけど、確かな温もりが唇に当たっている。
少しして、離れたエグウィスが愛しそうにルーファを見た。
「誰にでも託せるわけじゃない。どうでもいい奴に託すわけがないだろ」
「エグ、ウィス様……」
零れていく涙を拭うことなく、潤んだ瞳で彼女は視線を返す。
視界がぼやけてしまって分からないけれど、その心はちゃんと伝わってくる。
もう一度ルーファへと近づく顔。彼女の濡れた頬に手を添えて。
「愛してる、ルーファ。この国が、お前の進む未来を明るくしてくれるよう、願っている」
そうして再び交わる影。
その日、世界では不思議なことが起こっていた。
現実世界に、あるいは夢の中に。
生者の元へ死者が会いに来ていた。
特別な相手が。愛した人が。離れてしまった家族が。
二度と会えない命達が。
今夜この時間限りで再会していく。
そして、生きとし生ける魂達に告げるのだ。
どれだけ理不尽だろうと、不平等だろうと。
絶望の中にいようとも。
必死にもがいて、それでも進めと。
光の中を進んで行けと。
生きてくれと。
灯台のように光を生者へ伝えていく。
燃え尽きそうな炎に命をくべていく。
ゆえに命は終わらない。
世界は終わらない。
脈々と受け継がれていく光が。炎が。
魂が。
ほんの少し、たった僅かでも。
足跡を重ねていく限り。
※※※※※
「――お前は、いいのかよ。俺達のところにいて」
「何がだ?」
「俺達は、お前の隠し子だ。隠さなきゃならない忌み子で正しい存在じゃない。お前には本当の息子がいるだろ」
シャーロットの頭を優しく撫でているセンドリルが、破顔した。
「本当も何もないだろ。どっちも俺の大切な子だ。……何だ、そんなことを気にしていたのか」
戦場だった孤島はすっかり色づき、先程まで溶岩で満たされていた周囲は日差しを反射して輝く湖に変わっていた。
その孤島が一望できる湖の縁に腰かけていたセンドリル。その膝の上に座るシャーロットは撫でられて嬉しそうにしていた。
唯一ザドだけが険しい表情を浮かべている。
「どうりであれから一度も親父と呼んでくれないわけだ」
「……」
「安心しろ、エグウィスとは《吸命ヴァイア》の中で既に話した。ザドに似てつっけんどんな感じだったよ。……二人揃ってツンツンしていることを考えると、俺の遺伝子が悪いのか?」
尋ねられても分かるわけがない問いに、ザドは沈黙で答えた。
そんな彼にシャーロットが視線を送る。
「お兄ちゃん、いいの? 私達はもう少しで生界に戻らなくちゃいけないんだよ? もうお父さんには会えなくなっちゃうんだよ?」
シャーロットの言葉通りだった。
シャーロットとザドは生者であり死者の為の《冥界》には、本来いてはならない存在である。カイが目を覚まし次第、二人は帰らなければならなかった。
シャーロットの瞳が、お父さんに甘えないの?と聞いているのだが、生憎もう二十歳で父親に甘えるも何もないと思う。
それに。
「俺に、そんな資格はない」
「資格って何の?」
「俺は人殺しだから。……実の親が築き上げた国で人を殺し続けた。俺は、お前を親父と呼ぶ資格も、触れる資格もない」
「それなら私だって――」
「シャーロットは巻き込まれただけだ。自分の意志じゃない。でも俺は、自分の意志で殺すと決めて、確かに命を奪ったんだ」
思わずザドは両手を見つめた。この手は血で汚れている。殺した魂に呪われている。
もう、真っ当な道を進むことはできないだろう。
「はぁ、今更思春期か? ザド」
「なんだと?」
呆れたように溜息をつくセンドリル。
「何に言い訳しているんだ。何を使って言い訳しているんだ。それこそお前のソレは、奪ってきた命に失礼だろう」
「それは……」
「怖がっているだけだろ。花瓶を割って怒られるのを怖がっている子供と一緒だ」
「っ、そんな程度の話をしているんじゃ――」
「一緒だ」
そう言って、センドリルはシャーロットを伴って立ち上がった。ゆっくりとザドへ歩いていく。
「たとえ何をしてしまっても。例えば世界全てがザド一人のせいで壊れてしまったとしても。仮にお前が世界最悪の極悪人になってしまったとしても――」
後ずさるザドのその両手を、センドリルとシャーロットが掴み、そして二人とも彼を抱きしめた。
「それでも家族だ」
「――」
「ずっと家族だ。家族に、資格なんて求めるなよ」
「俺は……」
「俺にとって何があろうとお前は素直になれない息子で、シャーロットは可愛くて仕方がない娘だ」
「私にとってもお兄ちゃんは何があってもずっとお兄ちゃんだよ」
「シャーロット……」
センドリルとシャーロットが伝えてくる温もりに、瞳が熱くなる。
「変わらないさ、ずっと。だってそうだろ――なぁ、レイラ」
「え」
その名前に、ザドの目が見開かれた。
先に見つけたシャーロットがザドから離れて彼女の元へと走っていく。シャーロットを追うようにザドは振り向いた。
ここは《冥界》。死者の魂が集う世界だった。
「そうよ、ザド。途中で死んでしまった不甲斐ない母親だけど、それでも私はずっとあなた達のお母さんなんだから」
飛び込んできたシャーロットを抱きしめ、緋色の髪を揺らしながら笑う彼女。彼女の姿に呆然と立ち尽くす息子の背を、センドリルは優しく押した。
「怖がるな、ザド」
「……」
「愛されることに、怖がるな」
「ほら、ザド!」
「お兄ちゃん!」
皆が彼の名前を呼ぶ。
家族が、彼の名前を呼ぶ。
どうしてこんなにも。名前を呼ばれるだけで。
こんなも想いが溢れてくるのだろうか。
いいんだろうか、こんな俺が愛されても。
人を殺して生きてきた俺が。
何に言い訳しているんだと、センドリルは言った。
きっと、自分自身に言い訳している。
自分が一番、自分の行いを許していない。
だから、家族に合わせる顔がない。
――のに。
ああ、くそっ。
別に自分の行いを許したわけじゃない。許せるわけがない。
でも、だからこそ。
そんな最悪な自分に向けてくれる心からの愛に。
ちゃんと向き合いたい。
伝えるのって、本当に大事なんだから!とレイラはよく言っていた。だから、食卓を囲む時はいつも各々への感謝を口にさせられていた。
懐かしいその情景を思い出して、瞳から零れていく雫。
伝えられるときに伝えなきゃいけない。それを痛感している。
「うるせえよ、親父……」
言葉の中に込められているものに、センドリルはやはり素直になれないなと苦笑して。
そうして、ザドは光へと駆け出した。
※※※※※
「どうだった、俺の息子は」
「昔のゼノを見ているようだったよ」
「昔の俺はあんなにアホだったと?」
「何だ、自覚なかったのか」
「俺のアホエピソードなんてないだろ」
「そうか? 奴隷時代、アキが身体拭いている場面に遭遇したことあっただろ」
「……あー、強烈な一撃を顔面に食らった奴な」
「あれ、何でお前だけ顔面にグーパンチだったか覚えてないのか?」
「……記憶が思い出すのを嫌がっているらしい」
「俺含め他数名はすぐに逃げ出そうと駆け出した。命が惜しかったからな」
「賢明な判断だ」
「けど、ゼノだけその場に留まり続けたんだよ。そして一言、「背中は俺が拭いてやろっか」って言ったんだ」
「し、親切心じゃないか」
「出来心の方が正しいだろ、エロガキ」
「そ、そんなことを言ったら、ケレアだってそうだろ!」
「何だよ、俺がエロガキな根拠を言えよ」
「お前、アキが寝ている布団に潜り込もうとしたことあったよな」
「……」
「気づいた俺が命懸けで止めたの、覚えてるだろ」
「ああ、今となっては感謝してるよ。あのまま潜り込んだら秒で《冥界》行きだった。しょうもない未練で、すぐさま記憶も消えてただろうな」
「……――なぁ」
「……何だよ」
「もう、未練はないのか」
「ああ、お前に会えたからな」
「会うだけで十分なのかよ」
「だけじゃないだろ。俺達の最後の別れ方を思い出してみろ。仲違いして別れて、こちとら悪魔に操られて仲間を皆殺しにして、そしてゼノにも刃を向けたんだ。んで、最後には志半ばに殺されちまった」
「……」
「でも、お前の息子を生界に送れたし、こうやって協力して《女王》を倒すこともできた。微力だったかもしれないけど、ようやく俺はお前の役に立てた、そんな気がするんだ」
「俺の役に立つことが、ケレアにとっての未練だったのか?」
「そうだなぁ、役に立つ……とか、そういう話じゃないと思う」
「……」
「俺は、もっとゼノと生きたかったんだ」
「――」
「親友と、まだ世界を駆け抜けたかった。ただ、それだけ」
「…………なら、もっと生きればいいだろ」
「ゼノ……」
「未練がないなんて、言うなよ。十分に生きたなんて、嘘だろ」
「そんな贅沢、言えるわけないだろ」
「言えよっ!」
「――」
「俺は、俺だって! もっとケレアと生きたい! 生きたいに決まってるだろ!」
「ゼノ」
「何満足したように言ってんだ! 俺は嫌だ、嫌だよ!」
「ゼノ」
「俺だって、ずっと後悔していたんだ! どうすればケレアを救えたのか! どうすればあの時喧嘩別れしなかったのか! どうすれば変わらず幸せな日々を送れたのかって! 俺は――」
「ゼノっ!」
「っ」
「……この言葉、あんまし好きじゃないんだけどさ。俺は、運命だと思うんだよ」
「……」
「一つでも何かが違えば、きっと今はないんだ。俺達が革命を起こそうとしなければ世界は変わらなかったし、あの時俺達が喧嘩しなけりゃ、きっと俺はお前の息子を救えてない」
「……でも」
「運命的で奇跡的だと思わないか。あんな別れ方した俺達が、あれから二十五年以上経った先で、こうして並んで話せているんだから」
「……」
「そういう意味で、俺は確かに満足しているよ。確かに魂は十七歳の時に死んだ。けど、《冥界》に来てからもずっと戦っていた。いつか、この戦いがゼノへ繋がると信じてな。――だから今日という日まで、死んでからもずっと、俺は確かに生きていたんだ」
「ケレア……」
「十分生きたんだよ、ゼノ。お前のお陰で、死んでも生きようと思えたんだ」
「……っ」
「ゼノが泣くところなんて、俺が死ぬとき以来だな」
「お前も、だろ」
「お前が泣くから、もらっちまったんだよ」
「……」
「……」
「はぁ、分かったよ。本当に未練はないんだな」
「ああ」
「……じゃあ、盛大に送ってやるよ」
「何だ? 花火でもあげてくれるのか?」
「誰が野郎と花火見て喜ぶんだよ」
「違いない」
「――ケレア!」
「急に立ち上がってどうし――」
「今までありがとう!」
「――」
「奴隷の日々もお前のお陰で楽しかったし! アキに怒られるときはいつも二人で分け合ってたし! お陰で本当に楽しかった!」
「お前っ……」
「それに、ケレアのお陰で俺は世界を変えようと思えたんだ! ケレアの存在があったから、俺はここまで頑張って突き進むことができた! ケレアは大切な親友で、俺にとって光で、英雄だった!」
「……っ!」
「だから、だから――ずっと俺と一緒に生きてくれて、ありがとおおおおおおおおおおおお!」
木霊していく声。震えながらも、力強く放たれた言葉は《冥界》の青空へ飲み込まれていく。
力の限り叫ぶ彼の横で、青年は涙と共に微笑を浮かべていた。
その身体は、既に淡く白い光を放ち始めている。
嬉しくないわけがない。
彼だって、自分にとって英雄だったのだから。英雄からの言葉に、心が震えないわけがない。
隣で涙を流しながら、精一杯に送り出そうとしてくれる彼の横顔。くしゃくしゃだけど、あの表情を自分がさせているのだと思うと、気分が良い。
英雄にとって、俺は英雄だった。
その事実だけで。
やっぱり十分だ。
生きていて、良かった。
未練を抱えて、無様にでも生きていて良かった。
ゼノに会えて、良かった。
ようやくゼノが息を吸う。身体を折って、肺の空気を吐き出した分だけどうにか取り込む。
苦しい。
苦しいけど。
彼が未練から解放されたのなら。
どんな形でも、幸せを感じてくれたのなら。
もう、ゼノの隣には誰もいない。
見上げた青空に白い光が向かっていく。ゼノの言葉を追うように、真っすぐ、ひたすら真っすぐに。
俺も、ケレアに会えて本当に良かった。
最後に聞こえていた彼の言葉に、涙と共に言葉を返して、ゼノはいつまでも青空を見上げていたのだった。
次回「5 エピローグ」
寝ぼけた声と共に、カイは瞳を開けた。そして、視界に広がる青空。雲間を貫く眩しい日差しに、開いた瞳をすぐに閉じたくなる。
その後聞こえてくるのは小鳥の鳴き声。風に揺られた木々のざわめき。
横たわった身体を支えているのは色とりどりの花畑で、蝶が華麗に飛び回っている。
……なんだ、ここ。
とても幻想的で綺麗な世界に感じるのだが、生憎こんな場所は知らない。
いまだ覚醒しない脳みそだが、働かないなりに思考する。
確かさっきまで《冥界》にいて、それでオルシェと戦っていて……。
……。
「え、俺もしかして死んだか!?」
カイは慌てて跳び起きた。
そう言えば一度心臓を失うような大穴を開けられて死んだのだった。《吸命ヴァイア》で何とか生き返った、つもりでいたが、あくまで多少の延命に過ぎなかったのかもしれない。
《冥界》とはあまりに違う光景に、死んだ説が濃厚になっていく。
だが、その説は彼女の嬉しそうな言葉で掻き消えた。
「カイ!」
言葉と共に背後から抱きつかれるカイ。途端香る良い匂いは、周囲に咲いているどの花よりも好きなものだった。
「イデア……」
後ろから抱きつかれたせいでイデアの顔は見えないけれど、イデアであるのは間違いない。声も香りも、その温かさに背中に当てられる柔らかさも――。
「気が付いたんだね……本当に良かった……!」
そう語るイデアの声は震えていて、涙で肩口が濡れていくのが分かった。
イデアもいるし、感覚もあるってことは。
そう思って、致命傷だった胸に手を当ててみる。
いつの間にか上半身は裸だったが、そこに大穴は開いていない。
《吸命ヴァイア》の存在もなく、多少主張のある胸筋が元に戻っていた。
「あれ、何で……」
後ろ手にイデアの頭を撫でながら、現状を理解できないカイへ、新たな言葉がかけられる。
「何でも何も、シャーロットもそうだったろう」
「トーデル」
いつの間にか黒ローブから白い鎧に姿を変えていたトーデルが、ゆっくりと向かってきていた。
「《吸命ヴァイア》が心臓の代わりをしているあいだに、肉体にある致命傷は徐々に回復していく。今回は特に、《吸命ヴァイア》側が協力を惜しまなかったからな。戦いが終わった頃には既に元通りだったよ」
「そう、なんだ……――てか戦いだよ! 結局どうなった!? オルシェは!? てかここはどこだ!?」
カイが慌ただしくキョロキョロと周囲を観察する。何回見ても先程までいた《冥界》ではなさそうだ。
だが。
「あ――」
カイは動かしていた瞳を一点で留めた。
少女の黒髪が風に優しく揺られている。巫女装束の周りにはたくさんの小鳥の姿。鳥達と楽しそうに触れ合い、赤い袴が元気に踊る。
少女を初めて見るはずなのに、不思議と少女が誰かカイには分かった。カイが少女を見つけたのをトーデルも気づいたのだろう、先程のカイへ答え合わせをする。
優しく、それでいて潤んだ瞳でカイの視線を追いながら。
「ここは変わらず《冥界》だ。――いや、違うか。ようやく本来の姿を取り戻した《冥界》だ」
トーデルの言葉の意味をカイは真に理解している。
だって、彼女は《冥界》そのものだから。
真っ暗闇に緋色の死をまき散らしていた世界から。
色彩豊かに、魂達の揺り籠のような世界へ変わっていた。
《冥界》が変わったということは。
彼女が変わったということ。
「カイ、お前が救ったオルシェの心そのものだよ」
少女がカイの覚醒に気づく。ばっちり互いに目が合い、少女は一瞬気まずそうに視線を逸らした。少し俯き、そして悩んだような素振りで上目遣いを送り。
オルシェは、少し照れくさそうにはにかんだ。
「――良かったぁ」
「カイ!?」
突然カイが横に倒れこんだので、慌てて心配するイデア。まだ傷があったんじゃないかと触診するも、カイは脱力したように呟いた。
「生きててくれたぁ……」
その呟きを聞いて、イデアも安心したように微笑んだ。
カイの言葉は、ちゃんとオルシェに届いていた。
彼女の表情と、《冥界》そのものが証拠だった。
死にたいと言っていた少女を救うことができた。
救えて、本当に良かった。
オルシェの微笑を見て、カイは心からそう思った。
※※※※※
「――そうしてお前は力を使い果たしたかのように倒れた。あの時は周りが五月蠅くて敵わなかったぞ。どちらが勝ったのか分からんくらいだ」
「それは……何というか心配かけたな」
オルシェの言葉に、カイは座ったままイデアとトーデルへ面目なさそうに首を垂れる。
カイとオルシェの戦いはカイの勝利で終わった。《吸命ヴァイア》の力でオルシェの力をほとんど吸収したからである。
だが、直後にカイが死んだように倒れてしまったらしい。
「本当だよ! もう心配過ぎて心臓いくらあっても足らないよ! これ以上無茶するなら離婚だからね! 離婚!」
カイの隣でイデアが怒ったように頬を膨らませる。
「イデア!? それだけは頼むよ……! ごめん、ごめんな。本当に今回は、たくさん心配かけた」
「……もう離れないでって、置いてかないでって言ったのに」
イデアの唇が震え出した。少し収まっていた涙がまた溢れ始める。カイはその涙を義手で拭い、今度はこちらから彼女の肩を抱き寄せた。
「ああ、本当にごめん」
「謝っても許さないから。カイに頼んでも勝手にどこか行っちゃうから、私がどんな時でもずっとカイの傍に居ることにする。それがカイへの罰!」
そう言ってイデアがカイを力強く抱きしめる。
「それは罰なのか、頑張ったご褒美なのか――」
「本当に悪いと思っているの!?」
「思ってます、すみませんでした!」
カイとイデアのやり取りをトーデルは微笑んで聞いていた。
二人がこうやって言葉を交わすことができて。
カイの命が無事繋がって、本当に良かった。
「……そういや、《吸命ヴァイア》は?」
「何だ、分からないのか。お前は聡いのか鈍いのか分からないな」
本心を理解されたオルシェが苦笑しながら、座っているカイを見下ろす。トーデルも察しが悪いカイに呆れていた。
「どうしてオルシェが《冥界》を変えられたと思っている。お前に力の大元を吸収されたというのに」
「……てことは今――」
カイの視線にオルシェが頷き、その胸に手を当てる。
「元は此方の一部から生み出された《冥具》。戻るべき鞘に収まった、それだけだ」
《吸命ヴァイア》はオルシェの善性を《女王》が作り替えた存在。オルシェの元に還るのは当然の帰結ともいえる。そして、《吸命ヴァイア》は多くの魂を内包し、彼女自身の力も蓄えていた。
つまり、オルシェはカイ達に削られた分の力を取り戻し、本来の力を振るっていることになる。だからこそ《冥界》自体作り替えることが可能だった。
「安心しろ。此方が吸収した魂達は全て元に戻した」
「ああ、分かるよ。大丈夫、もう、大丈夫なんだもんな」
《女王》に力が全て戻ったと聞けば、これまでの感覚だと絶望以外の何物でもないが。
この力を振るっているのは《女王》ではなくオルシェだから。
もう大丈夫、その言葉にオルシェは強く頷いた。
「未来がどうなるか分からんし、もしかするとまた絶望に支配されるときは来るかもしれない。……だが、どうしても此方に生きてほしいと願う魂がいた。そう願う者がいる限り、無様でも生きることにした」
「……ありがとな」
オルシェが誰を指しているかなど、聞かなくても分かる。
魂の幸せを願う彼女だからこそ、きっとその願いも汲んでくれたのかもしれない。
カイの感謝をオルシェは鼻で笑った。
「何に感謝している。此方が勝手にそう決めただけだ。第一、恨まれこそすれ、感謝される覚えはない」
「いや、何というか、そうだな……あ、《吸命ヴァイア》はつまりオルシェの一部なわけだろ? それのお陰で俺は救われたんだ。だから、ありがとう」
「何を馬鹿なことを。お前を死なせたのも此方なんだぞ」
「いいんだよ、とにかくアンタに礼を言いたいんだよ」
「変な奴だ」
そう言うオルシェも微笑んでいた。
きっと常人であれば、オルシェを生かそうなどとは思わない。多くの命を弄び、全ての魂を掻き消そうとした彼女を、どうして生きてほしいなどと願うだろうか。
それでも生きてほしいというカイはやはり変わり者なのだろう。
そして、その変わり者に救われたのだ。
誰もが違いを持つからこそ、今この魂は生きようと思えているのだと思う。
「――そう言えば」
ふと、カイは浮かべていた微笑みを消した。
全てが終わったような気もするが、終わらせていいわけでもない。
「レゾンは、どうしたんだ」
カイ的に、レゾンのことはまだよく理解できていなかった。
元締めはオルシェだったかもしれないが、レゾンが生界に死をまき散らしていたのは事実で、昔の話を聞いても魂の扱いが他の《冥界の審判員》とは違ったように思えた。
何故そこまで魂に対する扱いが悪いのか分からないが、知らないままではいたくない。
レゾンという言葉が出て、それでもなおオルシェは微笑んでいた。
「レゾンなら、ここにいる」
そう言ってオルシェが手を持ち上げる。その終着点には、一匹の緋色の蝶々。掌程度の大きさの蝶々は、オルシェの周りをぐるぐると周りながら飛んでいた。
まさかとは思うが。
「その蝶が、レゾンか?」
「ああ、今も五月蠅く此方に話しかけているよ」
オルシェが頷いた。
間違いなく、緋色の蝶がレゾンなのであった。
「これは恐らくだが――」
オルシェは語る。
「レゾンはきっと此方が死にたいと願っているのを知っていた。そして、理解していたのだと思う。だから、魂を弄び、その価値がないのだと証明してくれていたのではないだろうか」
オルシェの言葉に反応するように、緋色の蝶が縦横無尽に飛び回る。それは肯定なのか否定なのか。カイ達に声は聞こえないが、オルシェには蝶が発している言葉が聞こえているらしい。
「――よい。お前は本心を隠すからな。此方の価値観でお前を語ることにする」
蝶に向かって話すオルシェはどこか周囲の風景に混じって幻想的だった。
「とにかく、此方のせいでレゾンも振り回してしまった。如何にこれまでの所業が許されるものではなくても、此方が奴を諦めるのは間違っていると思う」
指を曲げて蝶に乗るよう仕向けるが、嫌がっているのだろう。一向に乗る気配がない。
それでもオルシェの微笑みは変わらない。
「カイ、お前が此方を肯定してくれたように、此方もレゾンを肯定したいのだ」
「オルシェ……」
その柔らかな笑みがカイへ向けられ、思わずカイは瞳が熱くなった。
「とはいえ、レゾンは此方が元に戻ってなお、つまらんと、魂を弄ぼうと唆してくる。流石にそれを看過するわけにもいくまい。だから、今此方の傍から離れられないようにしている」
オルシェはそう話した後、緋色の蝶へと視線を向けた。きっとレゾンから何かを話されているのだろう。
彼女がため息をつく。
「お前はどうしてそこまで悪役になり切ろうとする。どれだけ言葉を述べても、あの時お前の言葉が《冥界》を救ったのは間違いないだろう」
あの時、という言葉がいつを指すのか、カイも何となく理解できる。
べグリフ達の存在で魂の輪郭が危ぶまれた時、レゾンが四つの魂を掻き消そうと提案した。きっと、誰もが辿りたくなくて避けていた答えを、レゾンが口にしてくれたのである。
「あの時、それ以外の答えには辿りつけなかった。お前だけが魂のことを想って現実的な答えを導き出したのだ」
蝶が動きを止めたのは、オルシェの言葉に思うところがあるからか。
「あの答えが正しかったかどうかは今も分からない。魂を犠牲にした選択を正しいとは思いたくない。――だが、それでもあの時、お前の言葉が此方達を、魂達の未来を支えたのは間違いない」
指に止まってくれなくても、オルシェが両手で救い上げるように蝶を目の前まで持ち上げる。
「これからもお前なりの言葉で、此方を支えてくれ。お前だからこそ導き出せる解を教えてくれ。此方達にはない視点だからこそ、此方とお前の魂が違うからこそ――答えが一つではないからこそ、此方達は間違いながら、それでも何かを得ては先に進めるのだと思う」
――。
オルシェの真っすぐな視線を受けて。
はぁ、最悪なエピローグだと。
彼女のそばを離れていく緋色の蝶がそう呟いたように感じたのだった。
「――本当に大丈夫そうだな」
カイが蝶を追いかけながら口にする。
「お前が大丈夫だと言ったんだろう」
オルシェが苦笑する。
でも、言葉で聞けて、改めてカイはもう《冥界》は大丈夫だと思えたのだった。
「よいっしょ、と」
膝に手を当て、疲労感からか気怠い身体をどうにか立ち上がらせる。一緒に座っていたイデアが支えてくれたお陰で、難なく立つことができた。
カイは周囲を見渡した。相変わらず変わらない美しい景色。
ただ、探している姿が見当たらない。
「あれ、親父達はどうした」
ここにはカイ、イデア、トーデル、オルシェ、レゾンの姿しかない。ゼノにシロ、べグリフにレイニー、ザドにシャーロットの姿が見えなかった。
「……最後の挨拶だよ」
「――そうか」
トーデルの言葉に、カイは何となく察した。
ここは《冥界》。死した魂達の最後の安らぎの場所。
だからこそ、帰らなくてはならない。
生きている魂は帰らなければならない。
しなければならない別れがある。
「――カイ」
トーデルの横にオルシェが並ぶ。一瞬、何かを問うようにオルシェがトーデルを見つめ、彼女は頷いた。
それを合図に、オルシェが口を開いた。
「お前は此方の命を未来へ繋いだ。だが、やはり此方がやってきたことが無くなるわけではない」
「……ああ、そうだな」
カイが肯定する。そこを見失っては、それこそこれまでの全てが無駄になってしまう。
オルシェもそれを分かっていて、カイの頷きに微笑んだ。
「それでも、少しでも償いたい。此方がしてしまった過ちに、弄んだ魂に。……だから――」
そうして、オルシェが自身の罪を償う方法をカイへと告げていく。
言葉を紡ぐ彼女の声は、少し迷っていた。
これが正しい道なのか。選ぼうとして、また間違ってしまうのではないかと。
だから、彼女にとっての光である彼に聞くのだ。
彼の言葉が全て正しいわけでもないだろう。
だが、自分を変えてくれた彼ならば。
彼に背中を押してもらえれば、少しでも胸を張って生きられると思うのだ。
「――オルシェ」
話し終えたオルシェへ、カイが笑いかける。
「やっぱり、《冥界》のことをアンタに頼んで良かった」
「――」
これまでとはかけ離れた幻想郷。魂達の最後の安息の地。
色鮮やかで魂の幸福を願った世界。
その創造主である《女王》
彼女の涙が世界を彩る。
柔らかな笑みが温かい光を世界へ差す。
泣き笑うオルシェは。
やはり生きてみて良かったと思うのだった。
※※※※※
その日、世界には不思議なことが起きていた。
「――エグウィス、様?」
呟くルーファのその先に、エグウィス・ディスペラードは半透明なまま立っていた。
ここは王城セレスタの一室。世界が陰り、部屋の明かりが煌々と光る中、疲労感から眠りに誘われていた彼女の目の前に、エグウィスが唐突に出現していた。
夢……?
いつの間にか眠ってしまったのかもしれない。
カイ達が《冥界》へ向かうのを見送ってから、ルーファとカルラはそれはもう大忙しだった。現状の把握に情報の共有。生界側の黒幕であった王都グランデロードの女王ウェンの対応についても現状まだ全てが決まったわけではない。第一、王都リバディは死の都と化してしまったし、王都グランデロードの女王は黒幕として捕縛されている。
王都ディスペラードだけの問題ではない。
三王都全てが、今後の動きに追われていた。
流石に今日だけでどうにもなるものではなくて、とりあえず最低限を済ませてルーファは仮眠を取らせてもらうことにしたのだ。代わりにカルラはまだ対応を続けてくれていて、数時間後には交代する手筈となっている。
だから仮眠を取ろうとして寝てしまい、結果夢を見ているに違いなかった。
そうでなくては、既に死んでしまった彼のことをこの眼が捉えることはない。
きっとこれは、彼をまだ愛している自分が生んだ幻想だ。
ただ、夢にしてはあまりに現実味があって、先程から心臓の鼓動が止まらない。古典的な方法で頬をつねってみるも、生憎世界はそのままだった。
それでもまだ信じられないルーファへ届く声。
「元気そうじゃねえの、ルーファ」
「本、物なの……?」
届けられた声も、言葉と共に浮かべる不敵な笑みも、手で掻き上げられた金髪も、彼女の知っているもので。
「ああ、無様にも命を落とした、ダセえ王様だよ」
「どうして……?」
本当はもっと言葉にしたいものがあるのに、心がまだ疑っているのかそんな言葉しか出て来ない。
エグウィスは首をすくめた。
「向こう側の償い、らしい。こんなことで償えると思われちゃ困るが……まぁ、確かに悪くない方法だ」
「向こう側って――」
「これもカイ・レイデンフォートのお陰だな」
「――エグウィス様!」
彼の名が証明かのように、気づけばルーファはエグウィスへ駆け出し、抱きついていた。そこに身体はなく、ただ魂が身体の輪郭を象っているにすぎないのに、確かな感触がルーファに届く。ぶっきらぼうで、言葉も荒いけれど、でも確かに温かい彼の心が。
ルーファの心が、エグウィスの存在を確かに感じていた。
「エグウィス様っ! エグウィス様ぁああああ!」
「おーおー、俺の前でそんなに泣くのは、流石に初めてじゃないか?」
困ったように笑いながら、エグウィスは半透明な手でルーファの頭を撫でた。
「何だ、そんなに俺のこと恋しかったのか?」
「――当たり前ですっ!」
ガバッと顔を上げる泣き顔のルーファに、驚いた様子でエグウィスは目を瞠っていた。
「どれだけあなたの存在が私の中で大きいと思っているんですか!」
「ルーファ……」
「あなたがいなくなってから、どれだけ私が悲しんだと思っているんですか! あなたのことをどれだけ想っていると思っているんですか!」
「……悪かった、勝手に死んぢまって」
「会いたかったです、ずっと――ずっとっ!」
泣きじゃくるルーファをあやすようにエグウィスは頭を撫で続けた。
「私、頑張ったんですよ! エグウィス様がいなくても、あなたが目指した国を作れるようにって!」
「ああ、知ってる。聞いたし、見せてもらったからな」
誰に聞いて、どうやって死後自分を見てくれたかなんて分からない。でも、見ていたなら分かるはずだ。
「でも、私は中途半端でした! 自分を愛したくても、愛せなかったんです! 怖くて、怯えていて、自分に自信がなかったから、あなたに想いを打ち明けられなかった! 自分が本当に願っていたことを果たせなかった……!」
誰もが自分に自信を持ち、何にも囚われることのない、自分を愛せる国。それを願ったエグウィスの想いを背負うことは、真の意味でルーファにはできなかった。
でも今、だからこそ今。
もう迷わない。ここまでの道程が。出会った人々が。
カイが、イデアが。
カルラが。
自信を繋いでくれたから。
涙で潤んだ瞳で、ルーファはエグウィスを捉え、叫んだ。
「大好きです、エグウィス様! ずっとずっと! ずうううううっと愛していましたっ!」
未練だった。後悔だった。
でも、ようやく。
もしこれが夢だったとしても、ようやくルーファの心は前に進める。
ようやく、ルーファは自分のことを好きになれる。
ようやく、自分の想いから解放される。
「――」
叫んだ想いは部屋の中に響き渡った後、静寂を呼び覚ました。
静寂の中、ルーファは目を瞠っていた。
半透明で顔色なんて分からない。
でも、エグウィスは今確かに。
「――あー、未練で死ぬに死にきれないだろ、これ」
ルーファから顔を背け、口元を腕で隠していた。
照れ、てる……?
間違いなく、エグウィスは頬を赤く染めているようにルーファは感じた。
この反応じゃ、まるで……。
再び早鐘を打つ心臓。
「――前、ルーファにこの国を託したこと、あっただろ」
唐突に話始めるエグウィス。
もちろんルーファだって覚えている。エグウィスが死ぬ少し前の話だ。悪魔族との戦闘は避けられなくて、それに対して三王都が傍観者の立ち位置に居た頃。縁起の悪い話だったから忘れるわけない。
「あの時、確か親父の話もしたはずだよな。何であの人たらしが共生反対派の三王都にいるんだって」
「は、はい」
「ルーファの言う通りだった。アイツ、色んな奴に託されたんだ。大好きで、愛している人々に託されて、だからここに残ったんだって、さっき言ってやがった」
「……?」
さっき、という発言にルーファは首を傾げてしまう。まるで亡くなっている先王センドリルと話してきたかのようだ。
エグウィスは続ける。
「じゃあ親父は俺に何か託したのかって聞いたらよ、あの野郎、託された側が自分で考えろだとよ。受け取っていれば託されているし、特に何も思わなければ託されたことにはならないって。……じゃあよ、ルーファ。俺はお前に何か託すことはできたか?」
「っ、当たり前です!」
同じ言葉をもう一度ルーファはエグウィスへ返した。
「あなたを追いかけて私はこの王都で頑張ってきました! 託すどころじゃない、私の生きる指針があなただったんですよ!」
全ての行動の根幹に、エグウィスがいたのだ。
「私、ちゃんと受け取ってます! エグウィス様が求めた形かは分からないですが、ちゃんと繋いでいます! だから、だから――」
その時、エグウィスの半透明な身体が段々とより薄くなっているのが分かった。
今日のこれは奇跡。ずっと目の前に居てくれるわけではないのだと、嫌でも理解してしまう。
「――だから、安心してください」
もうどこにも行かないでほしい。傍に居てほしい。自分のことを見ていてほしい。
でも、どの言葉よりもその言葉が出た。
無理にでも微笑んで。きっと無様な表情になっているかもしれないけれど。
「この国は、王都ディスペラードは、エグウィス様のおかげでまだ前に進めます……!」
ルーファの微笑の先。
エグウィスも優しく微笑んでいた。
「やっぱり、ルーファに託して正解だった」
そして、唐突に重なる唇。
ルーファは目を瞠った。半透明だけど、確かな温もりが唇に当たっている。
少しして、離れたエグウィスが愛しそうにルーファを見た。
「誰にでも託せるわけじゃない。どうでもいい奴に託すわけがないだろ」
「エグ、ウィス様……」
零れていく涙を拭うことなく、潤んだ瞳で彼女は視線を返す。
視界がぼやけてしまって分からないけれど、その心はちゃんと伝わってくる。
もう一度ルーファへと近づく顔。彼女の濡れた頬に手を添えて。
「愛してる、ルーファ。この国が、お前の進む未来を明るくしてくれるよう、願っている」
そうして再び交わる影。
その日、世界では不思議なことが起こっていた。
現実世界に、あるいは夢の中に。
生者の元へ死者が会いに来ていた。
特別な相手が。愛した人が。離れてしまった家族が。
二度と会えない命達が。
今夜この時間限りで再会していく。
そして、生きとし生ける魂達に告げるのだ。
どれだけ理不尽だろうと、不平等だろうと。
絶望の中にいようとも。
必死にもがいて、それでも進めと。
光の中を進んで行けと。
生きてくれと。
灯台のように光を生者へ伝えていく。
燃え尽きそうな炎に命をくべていく。
ゆえに命は終わらない。
世界は終わらない。
脈々と受け継がれていく光が。炎が。
魂が。
ほんの少し、たった僅かでも。
足跡を重ねていく限り。
※※※※※
「――お前は、いいのかよ。俺達のところにいて」
「何がだ?」
「俺達は、お前の隠し子だ。隠さなきゃならない忌み子で正しい存在じゃない。お前には本当の息子がいるだろ」
シャーロットの頭を優しく撫でているセンドリルが、破顔した。
「本当も何もないだろ。どっちも俺の大切な子だ。……何だ、そんなことを気にしていたのか」
戦場だった孤島はすっかり色づき、先程まで溶岩で満たされていた周囲は日差しを反射して輝く湖に変わっていた。
その孤島が一望できる湖の縁に腰かけていたセンドリル。その膝の上に座るシャーロットは撫でられて嬉しそうにしていた。
唯一ザドだけが険しい表情を浮かべている。
「どうりであれから一度も親父と呼んでくれないわけだ」
「……」
「安心しろ、エグウィスとは《吸命ヴァイア》の中で既に話した。ザドに似てつっけんどんな感じだったよ。……二人揃ってツンツンしていることを考えると、俺の遺伝子が悪いのか?」
尋ねられても分かるわけがない問いに、ザドは沈黙で答えた。
そんな彼にシャーロットが視線を送る。
「お兄ちゃん、いいの? 私達はもう少しで生界に戻らなくちゃいけないんだよ? もうお父さんには会えなくなっちゃうんだよ?」
シャーロットの言葉通りだった。
シャーロットとザドは生者であり死者の為の《冥界》には、本来いてはならない存在である。カイが目を覚まし次第、二人は帰らなければならなかった。
シャーロットの瞳が、お父さんに甘えないの?と聞いているのだが、生憎もう二十歳で父親に甘えるも何もないと思う。
それに。
「俺に、そんな資格はない」
「資格って何の?」
「俺は人殺しだから。……実の親が築き上げた国で人を殺し続けた。俺は、お前を親父と呼ぶ資格も、触れる資格もない」
「それなら私だって――」
「シャーロットは巻き込まれただけだ。自分の意志じゃない。でも俺は、自分の意志で殺すと決めて、確かに命を奪ったんだ」
思わずザドは両手を見つめた。この手は血で汚れている。殺した魂に呪われている。
もう、真っ当な道を進むことはできないだろう。
「はぁ、今更思春期か? ザド」
「なんだと?」
呆れたように溜息をつくセンドリル。
「何に言い訳しているんだ。何を使って言い訳しているんだ。それこそお前のソレは、奪ってきた命に失礼だろう」
「それは……」
「怖がっているだけだろ。花瓶を割って怒られるのを怖がっている子供と一緒だ」
「っ、そんな程度の話をしているんじゃ――」
「一緒だ」
そう言って、センドリルはシャーロットを伴って立ち上がった。ゆっくりとザドへ歩いていく。
「たとえ何をしてしまっても。例えば世界全てがザド一人のせいで壊れてしまったとしても。仮にお前が世界最悪の極悪人になってしまったとしても――」
後ずさるザドのその両手を、センドリルとシャーロットが掴み、そして二人とも彼を抱きしめた。
「それでも家族だ」
「――」
「ずっと家族だ。家族に、資格なんて求めるなよ」
「俺は……」
「俺にとって何があろうとお前は素直になれない息子で、シャーロットは可愛くて仕方がない娘だ」
「私にとってもお兄ちゃんは何があってもずっとお兄ちゃんだよ」
「シャーロット……」
センドリルとシャーロットが伝えてくる温もりに、瞳が熱くなる。
「変わらないさ、ずっと。だってそうだろ――なぁ、レイラ」
「え」
その名前に、ザドの目が見開かれた。
先に見つけたシャーロットがザドから離れて彼女の元へと走っていく。シャーロットを追うようにザドは振り向いた。
ここは《冥界》。死者の魂が集う世界だった。
「そうよ、ザド。途中で死んでしまった不甲斐ない母親だけど、それでも私はずっとあなた達のお母さんなんだから」
飛び込んできたシャーロットを抱きしめ、緋色の髪を揺らしながら笑う彼女。彼女の姿に呆然と立ち尽くす息子の背を、センドリルは優しく押した。
「怖がるな、ザド」
「……」
「愛されることに、怖がるな」
「ほら、ザド!」
「お兄ちゃん!」
皆が彼の名前を呼ぶ。
家族が、彼の名前を呼ぶ。
どうしてこんなにも。名前を呼ばれるだけで。
こんなも想いが溢れてくるのだろうか。
いいんだろうか、こんな俺が愛されても。
人を殺して生きてきた俺が。
何に言い訳しているんだと、センドリルは言った。
きっと、自分自身に言い訳している。
自分が一番、自分の行いを許していない。
だから、家族に合わせる顔がない。
――のに。
ああ、くそっ。
別に自分の行いを許したわけじゃない。許せるわけがない。
でも、だからこそ。
そんな最悪な自分に向けてくれる心からの愛に。
ちゃんと向き合いたい。
伝えるのって、本当に大事なんだから!とレイラはよく言っていた。だから、食卓を囲む時はいつも各々への感謝を口にさせられていた。
懐かしいその情景を思い出して、瞳から零れていく雫。
伝えられるときに伝えなきゃいけない。それを痛感している。
「うるせえよ、親父……」
言葉の中に込められているものに、センドリルはやはり素直になれないなと苦笑して。
そうして、ザドは光へと駆け出した。
※※※※※
「どうだった、俺の息子は」
「昔のゼノを見ているようだったよ」
「昔の俺はあんなにアホだったと?」
「何だ、自覚なかったのか」
「俺のアホエピソードなんてないだろ」
「そうか? 奴隷時代、アキが身体拭いている場面に遭遇したことあっただろ」
「……あー、強烈な一撃を顔面に食らった奴な」
「あれ、何でお前だけ顔面にグーパンチだったか覚えてないのか?」
「……記憶が思い出すのを嫌がっているらしい」
「俺含め他数名はすぐに逃げ出そうと駆け出した。命が惜しかったからな」
「賢明な判断だ」
「けど、ゼノだけその場に留まり続けたんだよ。そして一言、「背中は俺が拭いてやろっか」って言ったんだ」
「し、親切心じゃないか」
「出来心の方が正しいだろ、エロガキ」
「そ、そんなことを言ったら、ケレアだってそうだろ!」
「何だよ、俺がエロガキな根拠を言えよ」
「お前、アキが寝ている布団に潜り込もうとしたことあったよな」
「……」
「気づいた俺が命懸けで止めたの、覚えてるだろ」
「ああ、今となっては感謝してるよ。あのまま潜り込んだら秒で《冥界》行きだった。しょうもない未練で、すぐさま記憶も消えてただろうな」
「……――なぁ」
「……何だよ」
「もう、未練はないのか」
「ああ、お前に会えたからな」
「会うだけで十分なのかよ」
「だけじゃないだろ。俺達の最後の別れ方を思い出してみろ。仲違いして別れて、こちとら悪魔に操られて仲間を皆殺しにして、そしてゼノにも刃を向けたんだ。んで、最後には志半ばに殺されちまった」
「……」
「でも、お前の息子を生界に送れたし、こうやって協力して《女王》を倒すこともできた。微力だったかもしれないけど、ようやく俺はお前の役に立てた、そんな気がするんだ」
「俺の役に立つことが、ケレアにとっての未練だったのか?」
「そうだなぁ、役に立つ……とか、そういう話じゃないと思う」
「……」
「俺は、もっとゼノと生きたかったんだ」
「――」
「親友と、まだ世界を駆け抜けたかった。ただ、それだけ」
「…………なら、もっと生きればいいだろ」
「ゼノ……」
「未練がないなんて、言うなよ。十分に生きたなんて、嘘だろ」
「そんな贅沢、言えるわけないだろ」
「言えよっ!」
「――」
「俺は、俺だって! もっとケレアと生きたい! 生きたいに決まってるだろ!」
「ゼノ」
「何満足したように言ってんだ! 俺は嫌だ、嫌だよ!」
「ゼノ」
「俺だって、ずっと後悔していたんだ! どうすればケレアを救えたのか! どうすればあの時喧嘩別れしなかったのか! どうすれば変わらず幸せな日々を送れたのかって! 俺は――」
「ゼノっ!」
「っ」
「……この言葉、あんまし好きじゃないんだけどさ。俺は、運命だと思うんだよ」
「……」
「一つでも何かが違えば、きっと今はないんだ。俺達が革命を起こそうとしなければ世界は変わらなかったし、あの時俺達が喧嘩しなけりゃ、きっと俺はお前の息子を救えてない」
「……でも」
「運命的で奇跡的だと思わないか。あんな別れ方した俺達が、あれから二十五年以上経った先で、こうして並んで話せているんだから」
「……」
「そういう意味で、俺は確かに満足しているよ。確かに魂は十七歳の時に死んだ。けど、《冥界》に来てからもずっと戦っていた。いつか、この戦いがゼノへ繋がると信じてな。――だから今日という日まで、死んでからもずっと、俺は確かに生きていたんだ」
「ケレア……」
「十分生きたんだよ、ゼノ。お前のお陰で、死んでも生きようと思えたんだ」
「……っ」
「ゼノが泣くところなんて、俺が死ぬとき以来だな」
「お前も、だろ」
「お前が泣くから、もらっちまったんだよ」
「……」
「……」
「はぁ、分かったよ。本当に未練はないんだな」
「ああ」
「……じゃあ、盛大に送ってやるよ」
「何だ? 花火でもあげてくれるのか?」
「誰が野郎と花火見て喜ぶんだよ」
「違いない」
「――ケレア!」
「急に立ち上がってどうし――」
「今までありがとう!」
「――」
「奴隷の日々もお前のお陰で楽しかったし! アキに怒られるときはいつも二人で分け合ってたし! お陰で本当に楽しかった!」
「お前っ……」
「それに、ケレアのお陰で俺は世界を変えようと思えたんだ! ケレアの存在があったから、俺はここまで頑張って突き進むことができた! ケレアは大切な親友で、俺にとって光で、英雄だった!」
「……っ!」
「だから、だから――ずっと俺と一緒に生きてくれて、ありがとおおおおおおおおおおおお!」
木霊していく声。震えながらも、力強く放たれた言葉は《冥界》の青空へ飲み込まれていく。
力の限り叫ぶ彼の横で、青年は涙と共に微笑を浮かべていた。
その身体は、既に淡く白い光を放ち始めている。
嬉しくないわけがない。
彼だって、自分にとって英雄だったのだから。英雄からの言葉に、心が震えないわけがない。
隣で涙を流しながら、精一杯に送り出そうとしてくれる彼の横顔。くしゃくしゃだけど、あの表情を自分がさせているのだと思うと、気分が良い。
英雄にとって、俺は英雄だった。
その事実だけで。
やっぱり十分だ。
生きていて、良かった。
未練を抱えて、無様にでも生きていて良かった。
ゼノに会えて、良かった。
ようやくゼノが息を吸う。身体を折って、肺の空気を吐き出した分だけどうにか取り込む。
苦しい。
苦しいけど。
彼が未練から解放されたのなら。
どんな形でも、幸せを感じてくれたのなら。
もう、ゼノの隣には誰もいない。
見上げた青空に白い光が向かっていく。ゼノの言葉を追うように、真っすぐ、ひたすら真っすぐに。
俺も、ケレアに会えて本当に良かった。
最後に聞こえていた彼の言葉に、涙と共に言葉を返して、ゼノはいつまでも青空を見上げていたのだった。
次回「5 エピローグ」
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