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5『冥々たる紅の運命』
5 第五章第七十八話「VSオルシェ③ レゾンとトーデル 不平等と公平」
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レゾンが《死神サリエル》をトーデルへと薙ぐ。紅い一閃はトーデルの持つ両大鎌に防がれた。弾ける火花。睨み合う二人の表情は対照的で、レゾンは怪しく笑いトーデルは険しかった。
「ザド!」
トーデルを飛び越えるようにして、ザドが《大剣ハドラ》をレゾンへと叩きつける。その攻撃を飛び退いて回避するレゾン。
距離を取ったはずなのに、頭上から《死斧ヘルメス》が降ってきていた。
「随分扱いがなっているじゃないか!」
レゾンが楽しそうに笑う。
視線の先、《死斧ヘルメス》の柄に《真鎖タフムーラス》が巻き付いていた。その鎖を辿った先で、ザドが鎖を巧みに操っているのが見える。ザドが鎖の遠心力を使って《死斧ヘルメス》を振り下ろしていたのである。
迫る紅い大斧を全く同じ大斧で弾き返す。目には目を、歯には歯を。
《死斧ヘルメス》には《死斧ヘルメス》を。
「伊達に命を刈り取ってないな!」
「抜かせ!」
ザドはバトルロイヤルやジョーライン、ウェンとの戦闘で経験を積んでいるものの、その実ただの学生でしかない。レゾンの前では無力に等しい彼が、それでもレゾンと拮抗するためには、否が応でも《冥具》を手にするしかなかったのだった。
弾かれた勢いそのままに振り回してもう一度、今度は横から《死斧ヘルメス》を叩きつける。その逆側からトーデルがレゾンへ飛び出していた。
「《ヘルメス!》」
トーデルが叫ぶと同時に、レゾンの持っていた《死斧ヘルメス》が突如として重量を増した。
「っ」
急に持ち上がらなくなる大斧。レゾンは即座に手放したが、右手側から《死斧ヘルメス》、左手側からトーデルが襲い掛かってきていた。
「厄介だな、トーデル!」
「ここでお前は果てろ!」
「そういう訳には行かないだろうっ!」
突如としてレゾンの身体から紅いオーラが溢れ出す。濃くなる死の気配。間欠泉のように飛び出していく冥力が、《死斧ヘルメス》を弾き飛ばす。
「ちっ」
すぐさまトーデルも飛び込むのをやめて距離を取る。ザドの隣に下がった頃には、あまりの冥力でレゾンの姿が見えなかった。
「こっからが楽しいってのに、今終わる馬鹿がどこにいるんだ?」
「――お前は何がしたいんだ、レゾン!」
まだ姿を見せぬレゾンへ、怒気を孕んでトーデルが叫ぶ。
そうだ、ずっと疑問だった。理解が及ばなかった。
同じ《冥界の審判員》で、《冥界》で共に過ごしてきたというのに。
「どうしてお前は裏切った! どうしてお前は命を脅かす!」
魂は平等だと言っていたオルシェは姿なく、残っていたのは命を無情にも選別し、価値づけする、変わり果てた《女王》だった。それも死者たちだけでなく、《冥界の審判員》をも《冥具》に変えてしまう非情さ。
元に戻ってほしくて、トーデル含め残りの《冥界の審判員》は《女王》へ反旗を翻した。
なのに、途中でレゾンが裏切り、トーデル達は全滅した。
それからも酷い話だ。レゾンは生界で好き勝手に命を蹂躙した。天界でも、魔界でも、三王都でもだ。
我々は魂の為に存在していたのではないのか。実際、そうやって過ごしてきたじゃないか。
「どうして、変わってしまったんだ!」
悲痛にも似たトーデルの叫びを、姿の見えぬレゾンの嘲笑がかき消す。
「馬鹿を言うな、俺はずっと変わらない! 前にも言ったはずだぞ、魂は平等だと本当に思っているのかと!」
「――っ」
レゾンのその言葉をトーデルは覚えていた。忘れることはできなかった。あの時のレゾンの言葉があったからこそ、最終的にオルシェは魂を四つ消し去ることに決めたのだから。
あれから、《女王》はおかしくなってしまったのだから。
「価値観の相違だよ、トーデル。魂が平等なんてあり得ないのさ。お前も分かってるだろう。あの日、お前が俺の言葉に詰まったようにな」
レゾンも同じ日を思い出していたのだろう。
我々《冥界の審判員》と《女王》の魂は平等か?
レゾンに問われた言葉に、トーデルは言葉を返せなかった。
答えを持っていなかった。魂は平等だと宣っておきながら、その理想に殉じることができなかった。
価値が違うと思ってしまった。《女王》と《冥界の審判員》の価値は違うと。
そして、今もなお答えは出ていない。
やがて噴き出していた冥力が徐々に形を帯びていく。まるで旗のように靡きながら広がっていく紅い力。
「トーデル、魂がなぜ平等にならないか教えてやろうか? 単純だ、魂に平等に与えられているもの、それこそが「不平等」に他ならないだからだ」
冥力はやがて巨大な赤い幽霊を生み出していた。紅い装束に包まれている身体は全て白骨化しており、最早目など存在していない。だが、その目が愉悦に歪んでいるのが分かる。
その骸骨がレゾンであることは疑いようもない事実だった。
カラカラカラと、トーデルを見下ろしてレゾンが笑う。
「生まれも育ちも人間関係ですら、同じ魂なんて存在しない。片や裕福な日々を過ごす者もいれば、貧しくひもじい思いをする命だってある。お前達も分かっていたはずだ! だから、《冥界》ではせめて幸福をと願ったんだろう!」
「……!」
トーデルは何も言葉を返せなかった。
レゾンの言うように、生界の命には様々な淘汰、不条理、理不尽が「不平等」に襲い掛かる。だからこそ《冥界》は平等であるべき、あってほしいとオルシェは願った。トーデルもそれで良いと思っていた。
魂は不平等である。そう認めているのと何も変わりはなかった。
「俺は、その「不平等」にこそ、魂の価値はあると思っているわけだ。……そういう意味じゃ、トーデルの考えにも悪くない部分はある」
「何だと?」
「《女王》に聞いたぞ、魂が最も輝く瞬間は何かを乗り越えようとした時。そう言ったらしいな。――それについては俺も賛成だよ!」
レゾンが両手を広げる。装束のせいで胴体が見えないのかと思ったが、そうではない。骸骨に最初から胴体など存在しないのだ。あるのは頭部と両の手だけ。まるで宙に浮いているかのようだ。
赤い幽霊はその手に同じく巨大な鎌を生成していた。
「平等じゃ命は争わない。他者と同じでは命に向上心は芽生えない。違うからこそ、不平等だからこそ、数多の心が芽生え、行動に変わり、魂の価値を作り上げるんだ。平等なんて与えてしまえば、それは魂の成長を奪い、価値を下げているのと同義だ。だから、俺は「不平等」を、理不尽を命へ押し付けるのさ!」
「っ、それで魂を死なせては意味がないだろっ!」
作り出された巨大な鎌が振りかぶられる。間違いない、あの巨大な力の塊を振り下ろそうとしている。
「《真鎖!》」
ザドが紅い鎖をすぐさま目の前の亡霊へとけしかける。そのまま巻き付いて拘束しようとするも、全て突如として破壊された。
「なっ」
何かした素振りも無く全壊。目の前のレゾンが先程までの存在とは違うのは明らかだった。
「今の俺は所有している《冥具》を己に取り込んだのさ! トーデルの前で《冥具》は通用しないからな。どうだ、《女王》とお揃いだろ!」
「レゾンっ!」
怒りと共に飛び出したトーデルへ、白骨化した口元が笑いかける。
「さっきの続きだが、そこで死ぬなら死ぬ程度の価値しかない、ただそれだけだ。……お前の言っていることもこういうことだろ!」
「違うっ」
「違わないさ!」
トーデルが両大鎌を振るうも腕一つで防がれてしまう。骨のはずなのに、トーデルの一撃を防げるほどの硬度。取り込んだ《冥具》の力がレゾンを強くしていた。
「魂には試練が必要だと、そう言いたいんだろ! 抗うことこそが美徳だと、そう言いたいんだろ!」
「っ、私は――」
「その通りだ! 抗うことこそ美徳! そこで抗って死ぬにしたって、それは名誉な死だと思わないか!」
防いでいた腕をレゾンが振るう。トーデルは勢いを止められずに、隆起した大地から吹き飛び、荒れ地を転がった。
そして、残るはレゾンとザド、そして力をカイ達に送るシャーロットだった。
「というわけで、名誉な死だぞ!」
振りかぶられていた巨大な鎌の矛先は、シャーロットだった。
「――」
ザドは駆け出した。
シャーロットの盾にならなければならない。シャーロットは《女王》打倒の鍵だから。ここでシャーロットを失えば、未来はない。
実際、そんな打算的な考えが浮かんだわけではなく。
とにかくシャーロットに生きてほしい。ただそれだけだった。
その為に全部をかなぐり捨てる覚悟をしたんだろ、ザド・リダルト。
全てを捨ててでも一つを守る約束をしたんだろ、ザド・シャルリリス。
約束の時だ。
シャーロットを庇うように立ち、ザドは両手を前に突き出した。
そして、叫ぶ。
だから、力を貸しやがれ……!
「クソ親父!」
振り絞った叫びの先で、紫色の防御壁が巨大なレゾンの攻撃を防いでいた。
首を傾げる亡霊の先で、二人の声がする。
「《――初めてか? 俺のことを親父と呼んでくれたのは。 いつも「あんた」って他人みたいに言ってたもんな》」
「クソって付いてるの、忘れんなよ」
ザドの傍で揺らめく紅い光。温かい光はまるでその身体を支えるように人の形を成していた。最期に見た時と変わらず長々と白髭を伸ばしている中年の男は、ザドの物言いに嬉しそうに笑う。
センドリル・ディスペラードが顕現していた。
決戦が始まる前、シャーロットはトーデルとザドにそれぞれ一つ魂の力を渡していた。
いざ戦いが始まってしまえば、シャーロットはカイ達の方に付きっきりになってしまう。二人に付与する冥力の余裕もないのは目に見えていて、だからこそトーデルとザドは自分達だけの力でレゾンを討ちとらなければならなかった。
そんな二人に送られた二つの魂。
ザドに送られたのは、センドリルの魂だった。
ザドも薄々シャーロットの中に父親の魂が存在しているのは気づいていた。例えばオルシェと最初戦闘を行った時、シャーロットはトーデルを守るために魔法を唱えていた。《九護神領域・過剛》。あれは、遊覧船イカロスで《海禍レオスケイサ》の攻撃を防いだセンドリルの魔法だった。
それに、シャーロットは愛おしそうに「あの人がいるから」と言っていた。あの人がいるから、保管している魂達は協力してくれていると。どこぞの王が娘の為に尽力しているのだと、ザドも理解したのだった。
それもそうだろう。
シャーロットが《吸命ヴァイア》で初めて奪った命がセンドリルなのだから。
できれば使わないに越したことはなかった。
今更何を話していいかもわからないし、今更どんな顔をすればいいか分からない。託された瞬間に母を失い、妹は人を殺す怪物へと成り果てて、そして自分自身もただの殺人鬼と何も変わらなかった。
それでも今、そういう感情を全部抜きにして守らなければならない。
愛しい妹を、全力で。
そう約束した。他の全てを犠牲にしてでも、これだけは譲ってやらない。
「シールド、保つんだろうな!」
「《保たせるに決まってるだろう! 愛娘のためだぞ!》」
言下、シャーロットを包み込むようにして紫色のシールドが広がっていく。
センドリルの生み出すシールドは元々青色だった。それが今紫である理由は、冥力が混じっているからである。長い間《吸命ヴァイア》にいた結果冥力に親和性が生まれたセンドリルは、ザドを介して《冥具》の冥力をシールドに変換していた。
ザドとセンドリル、二人の力がシャーロットへと伸びていた凶刃を防ぎ切っていた。
あの日の後悔を力に変えて、あの日の約束を形にするために。
レゾンが苛立たし気に骨を鳴らす。
「はっ! この程度が本気だと思われてもこま――」
「レゾン!」
次の瞬間、どこからか飛来した真っ白な光がレゾンを吹き飛ばした。
「――っ」
ほぼ実体のない紅い亡霊が大地から飛び出す。すぐさま体勢を整え、前を向く。レゾンは驚いていた。白光の素早さだけではない。巨大な体躯を持つレゾンを吹き飛ばしたのは人程の大きさの光だったからだ。
暗黒に包まれた世界の中で、際立って輝き続ける彼女。黒衣に包まれていたはずの身体はいつの間にか白銀の甲冑を纏い、純白のロングスカートが風に揺れていた。まるで清廉潔白を身体が表しているかのよう。洗われた魂達のような純真無垢な光も兼ね備えていた。
彼女の手には、真っ白に輝く両大鎌。何者も寄せ付けない聖なる刃だった。
「……レゾン、お前の言葉に返せる言葉はあまり多くない」
トーデルは俯きながらそう零した。彼女の言葉を聞いて、骸骨が嬉しそうに笑った。
「そうだろ! やはり俺とお前はおな――」
「だが、やはり私とお前は決定的に違うのだ」
レゾンの言葉を遮り、トーデルは真っすぐに奴を見た。
正直、レゾンの言葉に納得してしまった部分もある。
魂は平等だ。これまで言い続けてきたその言葉は、きっとそうであってほしいという願いなのだと思う。
でも、魂にはきっとそれぞれ「価値」がある。この事実はきっと認めなければならない。トーデルにとって《女王》であるオルシェが何にも代えられない存在であるように、《冥界》にとってオルシェの存在が必要なように。
ただ、その価値はきっと簡単に変わってしまうものだ。関係性だったり環境だったり、言動一つで容易に変わってしまう。誰かにとって価値があっても、誰かにとって同じ価値にはなり得ないように。
そういう意味で、確かに「不平等」なのだろう。
魂には不平等に価値がある。
なぜなら魂が不平等に価値を付けるからだ。
それはレゾンの言う通り、生まれや育ち、環境が不平等であるからこそ、魂達の価値観も違ったものに変わってしまう。
そう、「不平等」とは「違い」なのだ。
だとすれば当然だろう。
オルシェも言っていた。
『これまで接してきた魂の中に、一つとして同じ魂は存在していたか?』
オルシェの問いに、トーデルはその時沈黙で返していた。
一つとして同じ魂が存在しないのは、魂一つ一つが違うから。不平等な世界で違いをもって生まれたから。
違うのは当たり前なのだから、不平等も当たり前。
レゾンの言わんとすることは理解したし、その先の言葉も分かる。
『他者と同じでは命に向上心は芽生えない。違うからこそ、不平等だからこそ、数多の心が芽生え、行動に変わり、魂の価値を作り上げるんだ。平等なんて与えてしまえば、それは魂の成長を奪い、価値を下げているのと同義だ』
レゾンの言葉に似た問いを、トーデルもオルシェへ投げかけた。
『多くを与えずとも魂は自らの手で幸福を生み出すだろう。苦労の先に希望を見出すだろう。それが生きるということだと、生活とはそういうものだと、私は思っている』
違うからこそ、不平等だからこそ、魂達はそれでも同じ未来を目指そうと手を伸ばす。
ゼノ達がそうして世界を変えようとしたように、カイ達がその想いを受け継ぎ進むように。人族も天使族も悪魔族も、不平等な世界でも皆が手を取って歩みだせるように。
平等じゃなくてもいい。平等にならなくてもいい。
それでも同じ平和を目指せるように。
それでも同じ平和を享受できるように。
違う魂と同じ歩幅を目指していく。
不平等の中に「公平」が宿ると信じて進んで行く。
そうだ、魂は不平等でいて、公平なんだ。不平等だからこそ、公平なんだ。
違うからこそ同じ平和を、共に過ごせる未来を求める。
「公」が「平」和な世界を希うんだ。
そうして不平等を越えていく魂に、不平等に抗って突き進む魂に。
レゾンが言ったように、トーデルはどうしようもなく魅力を感じてしまうのは間違いなかった。
死に抗おうとする意志も、次へ想いを繋ごうとする意志も、不平等を越えようとする意志も、平和を願う意志も。どれもが美徳だと思えてならない。
そう考えれば、トーデルとレゾンの違いなんて簡単だった。
根本から違っていた。
「『不平等を、理不尽を命へ押し付ける』とお前は言った。そうして、お前は理不尽に命を奪っていく。魂達に混沌をもたらす。……だが、私は違う。私が願っているのは最初からずっと変わらない」
清々しい表情で、トーデルは微笑んだ。何も悩むことも、迷うこともなかった。
「私はただ、不平等だからこそ、魂達に平和に暮らしてほしいんだよ」
どうしてオルシェが魂達に与えていた幸福のことを与え過ぎだと考えたのか、ようやく理解できた。
幸福は素敵なもので、誰かに与えたり与えられたりするものだ。
違う魂同士が関わり合うことで生まれるものだ。不平等な魂達が生み出すからこそ、幸せなのだと思う。無条件に自分達が与えて良いものではないのだと思う。
「それが、つまらないと言っているんだろっ!」
巨大な鎌を白骨化したレゾンが振るう。トーデルはそれを白銀の両大鎌で容易く受け止めてみせた。
「っ、何だその力は!」
「何と言われてもな、最初から私の力だっ!」
凄まじい膂力で弾き返され、赤い亡霊が体勢を崩す。そこへトーデル飛び出した。
何度も斬り結ぶトーデルとレゾン。だが、レゾンは劣勢に立たされていた。
トーデルがシャーロットに渡された魂は、文字通り自分の魂だった。
トーデルは《女王》に反旗を翻した際、自分の存在を保つことすら難しくなるほど力を奪われてしまった。その奪う力こそが、《女王》オルシェの善性によって最初に生み出された《冥具》――《吸命ヴァイア》だったのである。
カイ達と《冥界》に訪れた時は、周囲に溢れている冥力で自信を保管して力を取り戻していた。だが、こうしてシャーロットから自分本来の力を返してもらった今。
《冥界の審判長》は誰にも止められない。
神々しい光が空中に軌跡を残していく。振るわれた先から浄化していくように、レゾンの冥力がかき消されていた。
「ぐっ、甘く、甘く見るなああああああ!」
身体を纏っていたはずの冥力も全て巨大な大鎌へと凝縮していく。
間違いない、この一閃でレゾンは決着をつけるつもりだ。
その時だった。
一面の闇が緋色に変わる。
驚いたようにトーデルとザドは周囲を見た。
真っ暗だったはずの背景が真っ赤に染め上がる。溶岩はあちこちで噴火し、大地は悉く地割れを起こしていた。大気は紅い暴風となって吹き荒れていく。
何かが起きていた。《冥界》に。
オルシェに。
時間をかけていられないのはこちらも同じらしい。
レゾン渾身の一撃を前に、トーデルは振り返ることなくザドへ叫んだ。
「ザド! 信じてるぞ!」
「余裕だ、気にせず突っ込め!」
「――ああ!」
トーデルは不思議と上がる口角そのままにレゾンへ駆け出した。
信じられる魂がいる。その美しさに心が震えていた。
不平等だろうと何だろうと、信じることができる。支え合うことができる。
それが生きるということなのだろう。
全ての力を集めたレゾンに纏っていた衣はなく、無様に骨だけが宙に浮かんでいた。
「消え失せろおおおおおおおおお!」
頭上から振り下ろされる巨大な大鎌は、隆起した大地を一振りで容易くかき消すことができるだろう。それくらい圧倒的な力の圧で、死の圧だった。
だが、直前に再び紫色の防護壁がその行く手を遮った。
「《ザド、正念場だぞ!》」
「気ぃ抜くなよ、クソ親父――!」
先程張ったものよりも分厚く、局所的なシールドが巨大な大鎌の先端を受け止めた。
瞬間に弾ける大気。直接触れていないにもかかわらず、大地に亀裂が走っていく。
「ぐっ、ううっ」
突き出している両腕から血が噴き出していく。力に耐えきれず血管が破裂してしまったのだろう。骨も軋み罅が入っているに違いない。いつ折れてもおかしくなかった。
「《ザド!》」
「この、命に、代えても――」
後ろにいるシャーロットだけは、絶対に――。
生きなさい、シャーロットさんのために。
ふと、イデアの言葉を思い出した。
土下座をし、全てを捨てても、自分の命を売ってでもシャーロットを救ってほしいと願ったザドに、イデアがそう言ったんだった。
思わず笑ってしまう。
そうだ、死ぬわけには行かない。
「シャーロットと、一緒に生きるんだああああああ!」
押されていたはずの防護壁が一瞬均衡を保つ。
生きたいという意志が、力に変わる。
「レゾン、これが生きるということだ!」
トーデルはいつの間にかレゾンの目の前に姿を見せた。ザドが必死に耐えてくれている間に、力を蓄えながらレゾンの頭蓋骨、その目と鼻の先まで移動していたのである。
「トオオオオオオデルウウウウウウウ!!!」
「《罪浄・閃白(センバク)!》」
白骨化した頭部をカチ割るように白銀の大鎌が一閃を繰り出す。
その一撃は全ての罪を掻き消す断罪の光。
眩いくらいの力を前に、レゾンは成す術がなかった。
「――――ああ、くそっ」
眩い光に包まれたかと思えば、レゾンはいつの間にか大地に転がっていた。《冥力》は使い果たしたのか、トーデルの一撃で掻き消されたのか。白骨化していたはずの身体は元に戻り、近くには取り込んだはずの《冥具》がばら撒かれている。
《冥具》に手を届かせればまだ戦えたかもしれないが、如何せん身体が動かせない。
決着はついてしまった。
「……レゾン、お前に聞きたいことがあったんだ」
トーデルが地に伏せたレゾンを見下ろしていた。いつの間にかレゾンの身体に《真鎖タフムーラス》が巻き付いて動きを封じている。
「早く殺せばいい。それもまた、エンタメだろ」
「なら、《吸命ヴァイア》をシャーロットに埋め込んだのもエンターテインメントか?」
「……」
「お前は分かっていたんじゃないか? 《吸命ヴァイア》が《女王》の一部を切り離したものだって」
いつか、こうして自分達に牙を剥くんじゃないかって。
確信がなかったから、最後の言葉は飲み込んでトーデルはレゾンを見た。
「お前は何がしたかったんだ」
途中にした質問をもう一度だけ。
レゾンは力ない身体で、馬鹿にするように鼻で笑った。
「エンタメだぞ、《観客》に喜劇なり悲劇なり見せたかった、それだけだ」
「《観客》だと?」
意味が分からないとトーデルは顔をしかめた。一体誰のことを観客と呼んでいるのだろうか。
「逆に問うが、《女王》や俺達《冥界の審判員》はどうやって生まれたと思ってるんだ。当然、生み出した何者かがいるに決まっている。自然発生的に生み出されたにしては、システム化され過ぎだとは思わないか」
レゾンの言葉に、トーデルは眼を見開いた。
確かに自分達の発生、起源については分からないところが多い。だが、レゾンはその理由を考えていたのか。
「……お前は、つまり我々を生み出した何者かが、今もなおこの世界の出来事を見ていると言うのか」
「そうだ。まるで本を読むように、劇を観覧するように、俺達の一挙手一投足を《観客》――俺達やこの世界を生み出した誰かは見ている。明確な根拠はないが、強いて言うならば俺達が根拠だ」
確信を持ったようにレゾンはそう告げる。
「だから、折角生み出してもらったんだ。そいつらに生み出した価値があったと証明してやらないとな」
「じゃあ、お前が命を蹂躙したのも、《吸命ヴァイア》をシャーロットに埋め込んだのも――」
「《女王》すら知ったことか。俺含めこの世界の魂全てが演者で、見世物なんだ。どうなろうが知ったこっちゃない。喜劇だろうが悲劇だろうが、名作でも駄作でもとにかく物語として価値をつけたかった。それだけだ」
そう言って瞳を閉じるレゾン。
「さて、どんな結末になるのか」
その口元はまだ歪んだ笑みを浮かべていた。
「えっ――」
その時、シャーロットの声が聞こえてきた。驚いたような、信じられないようなか細い声音。
ザドも一足先にシャーロットの傍に戻っていたが、その表情はどこか。
絶望しているようで。
「嘘、だろ――」
その言葉が何を意味しているのか、何を意味してしまうのか。
トーデルも二人の視線を追う。
「――……!」
信じられない光景に目を見開いた。
トーデル達が戦っていた大地の遥か先、激しい戦闘でただでさえ荒れていた大地は凹凸激しく、それだけで戦闘の過激さを物語っていた。
あちこちで立つ土煙。そして、対峙している両陣営。
その中に、血が溢れる。
傷つきすぎて身体も気づいていないのか、最初はぽたぽたと落ちていたそれは、やがて噴き出すように周囲を染めていく。まるで自分の領域だと主張するように、紅く広がり続けていく。
夥しい血の中に、立っていたはずの身体が傾げた。その身体は必死に刃を突き立てて抗おうとするも、徐々に滑るようにして血だまりに沈んでいった。抗っていたのが嘘のように、もはや力なく人形のように無造作に四肢が投げ出される。
仰向けに倒れ伏した彼の胴体には大きな穴が開いていた。真っ二つにする勢いで、穴が開いていた。
逃れようのない、死の穴が開いていた。
「《女王》、良い結末を期待しているよ」
レゾンの呟きも聞こえない。
目の前の光景以外、トーデルには何の情報も入ってこなかった。
その情報を整理したいのか、或いは認めたくなくて呼んだのか。
「カ、イ――?」
物理的、現実的にも。その声に元気な声は返ってくることはなく。
光なく瞳は見開かれ、口元からもとめどなく血を溢れさせながら。
心臓もろとも撃ち抜かれて。
血の海に、カイが沈んでいた。
まだ結末には至らない。
しかし、最低最悪な結末に一歩踏み出していた。
「ザド!」
トーデルを飛び越えるようにして、ザドが《大剣ハドラ》をレゾンへと叩きつける。その攻撃を飛び退いて回避するレゾン。
距離を取ったはずなのに、頭上から《死斧ヘルメス》が降ってきていた。
「随分扱いがなっているじゃないか!」
レゾンが楽しそうに笑う。
視線の先、《死斧ヘルメス》の柄に《真鎖タフムーラス》が巻き付いていた。その鎖を辿った先で、ザドが鎖を巧みに操っているのが見える。ザドが鎖の遠心力を使って《死斧ヘルメス》を振り下ろしていたのである。
迫る紅い大斧を全く同じ大斧で弾き返す。目には目を、歯には歯を。
《死斧ヘルメス》には《死斧ヘルメス》を。
「伊達に命を刈り取ってないな!」
「抜かせ!」
ザドはバトルロイヤルやジョーライン、ウェンとの戦闘で経験を積んでいるものの、その実ただの学生でしかない。レゾンの前では無力に等しい彼が、それでもレゾンと拮抗するためには、否が応でも《冥具》を手にするしかなかったのだった。
弾かれた勢いそのままに振り回してもう一度、今度は横から《死斧ヘルメス》を叩きつける。その逆側からトーデルがレゾンへ飛び出していた。
「《ヘルメス!》」
トーデルが叫ぶと同時に、レゾンの持っていた《死斧ヘルメス》が突如として重量を増した。
「っ」
急に持ち上がらなくなる大斧。レゾンは即座に手放したが、右手側から《死斧ヘルメス》、左手側からトーデルが襲い掛かってきていた。
「厄介だな、トーデル!」
「ここでお前は果てろ!」
「そういう訳には行かないだろうっ!」
突如としてレゾンの身体から紅いオーラが溢れ出す。濃くなる死の気配。間欠泉のように飛び出していく冥力が、《死斧ヘルメス》を弾き飛ばす。
「ちっ」
すぐさまトーデルも飛び込むのをやめて距離を取る。ザドの隣に下がった頃には、あまりの冥力でレゾンの姿が見えなかった。
「こっからが楽しいってのに、今終わる馬鹿がどこにいるんだ?」
「――お前は何がしたいんだ、レゾン!」
まだ姿を見せぬレゾンへ、怒気を孕んでトーデルが叫ぶ。
そうだ、ずっと疑問だった。理解が及ばなかった。
同じ《冥界の審判員》で、《冥界》で共に過ごしてきたというのに。
「どうしてお前は裏切った! どうしてお前は命を脅かす!」
魂は平等だと言っていたオルシェは姿なく、残っていたのは命を無情にも選別し、価値づけする、変わり果てた《女王》だった。それも死者たちだけでなく、《冥界の審判員》をも《冥具》に変えてしまう非情さ。
元に戻ってほしくて、トーデル含め残りの《冥界の審判員》は《女王》へ反旗を翻した。
なのに、途中でレゾンが裏切り、トーデル達は全滅した。
それからも酷い話だ。レゾンは生界で好き勝手に命を蹂躙した。天界でも、魔界でも、三王都でもだ。
我々は魂の為に存在していたのではないのか。実際、そうやって過ごしてきたじゃないか。
「どうして、変わってしまったんだ!」
悲痛にも似たトーデルの叫びを、姿の見えぬレゾンの嘲笑がかき消す。
「馬鹿を言うな、俺はずっと変わらない! 前にも言ったはずだぞ、魂は平等だと本当に思っているのかと!」
「――っ」
レゾンのその言葉をトーデルは覚えていた。忘れることはできなかった。あの時のレゾンの言葉があったからこそ、最終的にオルシェは魂を四つ消し去ることに決めたのだから。
あれから、《女王》はおかしくなってしまったのだから。
「価値観の相違だよ、トーデル。魂が平等なんてあり得ないのさ。お前も分かってるだろう。あの日、お前が俺の言葉に詰まったようにな」
レゾンも同じ日を思い出していたのだろう。
我々《冥界の審判員》と《女王》の魂は平等か?
レゾンに問われた言葉に、トーデルは言葉を返せなかった。
答えを持っていなかった。魂は平等だと宣っておきながら、その理想に殉じることができなかった。
価値が違うと思ってしまった。《女王》と《冥界の審判員》の価値は違うと。
そして、今もなお答えは出ていない。
やがて噴き出していた冥力が徐々に形を帯びていく。まるで旗のように靡きながら広がっていく紅い力。
「トーデル、魂がなぜ平等にならないか教えてやろうか? 単純だ、魂に平等に与えられているもの、それこそが「不平等」に他ならないだからだ」
冥力はやがて巨大な赤い幽霊を生み出していた。紅い装束に包まれている身体は全て白骨化しており、最早目など存在していない。だが、その目が愉悦に歪んでいるのが分かる。
その骸骨がレゾンであることは疑いようもない事実だった。
カラカラカラと、トーデルを見下ろしてレゾンが笑う。
「生まれも育ちも人間関係ですら、同じ魂なんて存在しない。片や裕福な日々を過ごす者もいれば、貧しくひもじい思いをする命だってある。お前達も分かっていたはずだ! だから、《冥界》ではせめて幸福をと願ったんだろう!」
「……!」
トーデルは何も言葉を返せなかった。
レゾンの言うように、生界の命には様々な淘汰、不条理、理不尽が「不平等」に襲い掛かる。だからこそ《冥界》は平等であるべき、あってほしいとオルシェは願った。トーデルもそれで良いと思っていた。
魂は不平等である。そう認めているのと何も変わりはなかった。
「俺は、その「不平等」にこそ、魂の価値はあると思っているわけだ。……そういう意味じゃ、トーデルの考えにも悪くない部分はある」
「何だと?」
「《女王》に聞いたぞ、魂が最も輝く瞬間は何かを乗り越えようとした時。そう言ったらしいな。――それについては俺も賛成だよ!」
レゾンが両手を広げる。装束のせいで胴体が見えないのかと思ったが、そうではない。骸骨に最初から胴体など存在しないのだ。あるのは頭部と両の手だけ。まるで宙に浮いているかのようだ。
赤い幽霊はその手に同じく巨大な鎌を生成していた。
「平等じゃ命は争わない。他者と同じでは命に向上心は芽生えない。違うからこそ、不平等だからこそ、数多の心が芽生え、行動に変わり、魂の価値を作り上げるんだ。平等なんて与えてしまえば、それは魂の成長を奪い、価値を下げているのと同義だ。だから、俺は「不平等」を、理不尽を命へ押し付けるのさ!」
「っ、それで魂を死なせては意味がないだろっ!」
作り出された巨大な鎌が振りかぶられる。間違いない、あの巨大な力の塊を振り下ろそうとしている。
「《真鎖!》」
ザドが紅い鎖をすぐさま目の前の亡霊へとけしかける。そのまま巻き付いて拘束しようとするも、全て突如として破壊された。
「なっ」
何かした素振りも無く全壊。目の前のレゾンが先程までの存在とは違うのは明らかだった。
「今の俺は所有している《冥具》を己に取り込んだのさ! トーデルの前で《冥具》は通用しないからな。どうだ、《女王》とお揃いだろ!」
「レゾンっ!」
怒りと共に飛び出したトーデルへ、白骨化した口元が笑いかける。
「さっきの続きだが、そこで死ぬなら死ぬ程度の価値しかない、ただそれだけだ。……お前の言っていることもこういうことだろ!」
「違うっ」
「違わないさ!」
トーデルが両大鎌を振るうも腕一つで防がれてしまう。骨のはずなのに、トーデルの一撃を防げるほどの硬度。取り込んだ《冥具》の力がレゾンを強くしていた。
「魂には試練が必要だと、そう言いたいんだろ! 抗うことこそが美徳だと、そう言いたいんだろ!」
「っ、私は――」
「その通りだ! 抗うことこそ美徳! そこで抗って死ぬにしたって、それは名誉な死だと思わないか!」
防いでいた腕をレゾンが振るう。トーデルは勢いを止められずに、隆起した大地から吹き飛び、荒れ地を転がった。
そして、残るはレゾンとザド、そして力をカイ達に送るシャーロットだった。
「というわけで、名誉な死だぞ!」
振りかぶられていた巨大な鎌の矛先は、シャーロットだった。
「――」
ザドは駆け出した。
シャーロットの盾にならなければならない。シャーロットは《女王》打倒の鍵だから。ここでシャーロットを失えば、未来はない。
実際、そんな打算的な考えが浮かんだわけではなく。
とにかくシャーロットに生きてほしい。ただそれだけだった。
その為に全部をかなぐり捨てる覚悟をしたんだろ、ザド・リダルト。
全てを捨ててでも一つを守る約束をしたんだろ、ザド・シャルリリス。
約束の時だ。
シャーロットを庇うように立ち、ザドは両手を前に突き出した。
そして、叫ぶ。
だから、力を貸しやがれ……!
「クソ親父!」
振り絞った叫びの先で、紫色の防御壁が巨大なレゾンの攻撃を防いでいた。
首を傾げる亡霊の先で、二人の声がする。
「《――初めてか? 俺のことを親父と呼んでくれたのは。 いつも「あんた」って他人みたいに言ってたもんな》」
「クソって付いてるの、忘れんなよ」
ザドの傍で揺らめく紅い光。温かい光はまるでその身体を支えるように人の形を成していた。最期に見た時と変わらず長々と白髭を伸ばしている中年の男は、ザドの物言いに嬉しそうに笑う。
センドリル・ディスペラードが顕現していた。
決戦が始まる前、シャーロットはトーデルとザドにそれぞれ一つ魂の力を渡していた。
いざ戦いが始まってしまえば、シャーロットはカイ達の方に付きっきりになってしまう。二人に付与する冥力の余裕もないのは目に見えていて、だからこそトーデルとザドは自分達だけの力でレゾンを討ちとらなければならなかった。
そんな二人に送られた二つの魂。
ザドに送られたのは、センドリルの魂だった。
ザドも薄々シャーロットの中に父親の魂が存在しているのは気づいていた。例えばオルシェと最初戦闘を行った時、シャーロットはトーデルを守るために魔法を唱えていた。《九護神領域・過剛》。あれは、遊覧船イカロスで《海禍レオスケイサ》の攻撃を防いだセンドリルの魔法だった。
それに、シャーロットは愛おしそうに「あの人がいるから」と言っていた。あの人がいるから、保管している魂達は協力してくれていると。どこぞの王が娘の為に尽力しているのだと、ザドも理解したのだった。
それもそうだろう。
シャーロットが《吸命ヴァイア》で初めて奪った命がセンドリルなのだから。
できれば使わないに越したことはなかった。
今更何を話していいかもわからないし、今更どんな顔をすればいいか分からない。託された瞬間に母を失い、妹は人を殺す怪物へと成り果てて、そして自分自身もただの殺人鬼と何も変わらなかった。
それでも今、そういう感情を全部抜きにして守らなければならない。
愛しい妹を、全力で。
そう約束した。他の全てを犠牲にしてでも、これだけは譲ってやらない。
「シールド、保つんだろうな!」
「《保たせるに決まってるだろう! 愛娘のためだぞ!》」
言下、シャーロットを包み込むようにして紫色のシールドが広がっていく。
センドリルの生み出すシールドは元々青色だった。それが今紫である理由は、冥力が混じっているからである。長い間《吸命ヴァイア》にいた結果冥力に親和性が生まれたセンドリルは、ザドを介して《冥具》の冥力をシールドに変換していた。
ザドとセンドリル、二人の力がシャーロットへと伸びていた凶刃を防ぎ切っていた。
あの日の後悔を力に変えて、あの日の約束を形にするために。
レゾンが苛立たし気に骨を鳴らす。
「はっ! この程度が本気だと思われてもこま――」
「レゾン!」
次の瞬間、どこからか飛来した真っ白な光がレゾンを吹き飛ばした。
「――っ」
ほぼ実体のない紅い亡霊が大地から飛び出す。すぐさま体勢を整え、前を向く。レゾンは驚いていた。白光の素早さだけではない。巨大な体躯を持つレゾンを吹き飛ばしたのは人程の大きさの光だったからだ。
暗黒に包まれた世界の中で、際立って輝き続ける彼女。黒衣に包まれていたはずの身体はいつの間にか白銀の甲冑を纏い、純白のロングスカートが風に揺れていた。まるで清廉潔白を身体が表しているかのよう。洗われた魂達のような純真無垢な光も兼ね備えていた。
彼女の手には、真っ白に輝く両大鎌。何者も寄せ付けない聖なる刃だった。
「……レゾン、お前の言葉に返せる言葉はあまり多くない」
トーデルは俯きながらそう零した。彼女の言葉を聞いて、骸骨が嬉しそうに笑った。
「そうだろ! やはり俺とお前はおな――」
「だが、やはり私とお前は決定的に違うのだ」
レゾンの言葉を遮り、トーデルは真っすぐに奴を見た。
正直、レゾンの言葉に納得してしまった部分もある。
魂は平等だ。これまで言い続けてきたその言葉は、きっとそうであってほしいという願いなのだと思う。
でも、魂にはきっとそれぞれ「価値」がある。この事実はきっと認めなければならない。トーデルにとって《女王》であるオルシェが何にも代えられない存在であるように、《冥界》にとってオルシェの存在が必要なように。
ただ、その価値はきっと簡単に変わってしまうものだ。関係性だったり環境だったり、言動一つで容易に変わってしまう。誰かにとって価値があっても、誰かにとって同じ価値にはなり得ないように。
そういう意味で、確かに「不平等」なのだろう。
魂には不平等に価値がある。
なぜなら魂が不平等に価値を付けるからだ。
それはレゾンの言う通り、生まれや育ち、環境が不平等であるからこそ、魂達の価値観も違ったものに変わってしまう。
そう、「不平等」とは「違い」なのだ。
だとすれば当然だろう。
オルシェも言っていた。
『これまで接してきた魂の中に、一つとして同じ魂は存在していたか?』
オルシェの問いに、トーデルはその時沈黙で返していた。
一つとして同じ魂が存在しないのは、魂一つ一つが違うから。不平等な世界で違いをもって生まれたから。
違うのは当たり前なのだから、不平等も当たり前。
レゾンの言わんとすることは理解したし、その先の言葉も分かる。
『他者と同じでは命に向上心は芽生えない。違うからこそ、不平等だからこそ、数多の心が芽生え、行動に変わり、魂の価値を作り上げるんだ。平等なんて与えてしまえば、それは魂の成長を奪い、価値を下げているのと同義だ』
レゾンの言葉に似た問いを、トーデルもオルシェへ投げかけた。
『多くを与えずとも魂は自らの手で幸福を生み出すだろう。苦労の先に希望を見出すだろう。それが生きるということだと、生活とはそういうものだと、私は思っている』
違うからこそ、不平等だからこそ、魂達はそれでも同じ未来を目指そうと手を伸ばす。
ゼノ達がそうして世界を変えようとしたように、カイ達がその想いを受け継ぎ進むように。人族も天使族も悪魔族も、不平等な世界でも皆が手を取って歩みだせるように。
平等じゃなくてもいい。平等にならなくてもいい。
それでも同じ平和を目指せるように。
それでも同じ平和を享受できるように。
違う魂と同じ歩幅を目指していく。
不平等の中に「公平」が宿ると信じて進んで行く。
そうだ、魂は不平等でいて、公平なんだ。不平等だからこそ、公平なんだ。
違うからこそ同じ平和を、共に過ごせる未来を求める。
「公」が「平」和な世界を希うんだ。
そうして不平等を越えていく魂に、不平等に抗って突き進む魂に。
レゾンが言ったように、トーデルはどうしようもなく魅力を感じてしまうのは間違いなかった。
死に抗おうとする意志も、次へ想いを繋ごうとする意志も、不平等を越えようとする意志も、平和を願う意志も。どれもが美徳だと思えてならない。
そう考えれば、トーデルとレゾンの違いなんて簡単だった。
根本から違っていた。
「『不平等を、理不尽を命へ押し付ける』とお前は言った。そうして、お前は理不尽に命を奪っていく。魂達に混沌をもたらす。……だが、私は違う。私が願っているのは最初からずっと変わらない」
清々しい表情で、トーデルは微笑んだ。何も悩むことも、迷うこともなかった。
「私はただ、不平等だからこそ、魂達に平和に暮らしてほしいんだよ」
どうしてオルシェが魂達に与えていた幸福のことを与え過ぎだと考えたのか、ようやく理解できた。
幸福は素敵なもので、誰かに与えたり与えられたりするものだ。
違う魂同士が関わり合うことで生まれるものだ。不平等な魂達が生み出すからこそ、幸せなのだと思う。無条件に自分達が与えて良いものではないのだと思う。
「それが、つまらないと言っているんだろっ!」
巨大な鎌を白骨化したレゾンが振るう。トーデルはそれを白銀の両大鎌で容易く受け止めてみせた。
「っ、何だその力は!」
「何と言われてもな、最初から私の力だっ!」
凄まじい膂力で弾き返され、赤い亡霊が体勢を崩す。そこへトーデル飛び出した。
何度も斬り結ぶトーデルとレゾン。だが、レゾンは劣勢に立たされていた。
トーデルがシャーロットに渡された魂は、文字通り自分の魂だった。
トーデルは《女王》に反旗を翻した際、自分の存在を保つことすら難しくなるほど力を奪われてしまった。その奪う力こそが、《女王》オルシェの善性によって最初に生み出された《冥具》――《吸命ヴァイア》だったのである。
カイ達と《冥界》に訪れた時は、周囲に溢れている冥力で自信を保管して力を取り戻していた。だが、こうしてシャーロットから自分本来の力を返してもらった今。
《冥界の審判長》は誰にも止められない。
神々しい光が空中に軌跡を残していく。振るわれた先から浄化していくように、レゾンの冥力がかき消されていた。
「ぐっ、甘く、甘く見るなああああああ!」
身体を纏っていたはずの冥力も全て巨大な大鎌へと凝縮していく。
間違いない、この一閃でレゾンは決着をつけるつもりだ。
その時だった。
一面の闇が緋色に変わる。
驚いたようにトーデルとザドは周囲を見た。
真っ暗だったはずの背景が真っ赤に染め上がる。溶岩はあちこちで噴火し、大地は悉く地割れを起こしていた。大気は紅い暴風となって吹き荒れていく。
何かが起きていた。《冥界》に。
オルシェに。
時間をかけていられないのはこちらも同じらしい。
レゾン渾身の一撃を前に、トーデルは振り返ることなくザドへ叫んだ。
「ザド! 信じてるぞ!」
「余裕だ、気にせず突っ込め!」
「――ああ!」
トーデルは不思議と上がる口角そのままにレゾンへ駆け出した。
信じられる魂がいる。その美しさに心が震えていた。
不平等だろうと何だろうと、信じることができる。支え合うことができる。
それが生きるということなのだろう。
全ての力を集めたレゾンに纏っていた衣はなく、無様に骨だけが宙に浮かんでいた。
「消え失せろおおおおおおおおお!」
頭上から振り下ろされる巨大な大鎌は、隆起した大地を一振りで容易くかき消すことができるだろう。それくらい圧倒的な力の圧で、死の圧だった。
だが、直前に再び紫色の防護壁がその行く手を遮った。
「《ザド、正念場だぞ!》」
「気ぃ抜くなよ、クソ親父――!」
先程張ったものよりも分厚く、局所的なシールドが巨大な大鎌の先端を受け止めた。
瞬間に弾ける大気。直接触れていないにもかかわらず、大地に亀裂が走っていく。
「ぐっ、ううっ」
突き出している両腕から血が噴き出していく。力に耐えきれず血管が破裂してしまったのだろう。骨も軋み罅が入っているに違いない。いつ折れてもおかしくなかった。
「《ザド!》」
「この、命に、代えても――」
後ろにいるシャーロットだけは、絶対に――。
生きなさい、シャーロットさんのために。
ふと、イデアの言葉を思い出した。
土下座をし、全てを捨てても、自分の命を売ってでもシャーロットを救ってほしいと願ったザドに、イデアがそう言ったんだった。
思わず笑ってしまう。
そうだ、死ぬわけには行かない。
「シャーロットと、一緒に生きるんだああああああ!」
押されていたはずの防護壁が一瞬均衡を保つ。
生きたいという意志が、力に変わる。
「レゾン、これが生きるということだ!」
トーデルはいつの間にかレゾンの目の前に姿を見せた。ザドが必死に耐えてくれている間に、力を蓄えながらレゾンの頭蓋骨、その目と鼻の先まで移動していたのである。
「トオオオオオオデルウウウウウウウ!!!」
「《罪浄・閃白(センバク)!》」
白骨化した頭部をカチ割るように白銀の大鎌が一閃を繰り出す。
その一撃は全ての罪を掻き消す断罪の光。
眩いくらいの力を前に、レゾンは成す術がなかった。
「――――ああ、くそっ」
眩い光に包まれたかと思えば、レゾンはいつの間にか大地に転がっていた。《冥力》は使い果たしたのか、トーデルの一撃で掻き消されたのか。白骨化していたはずの身体は元に戻り、近くには取り込んだはずの《冥具》がばら撒かれている。
《冥具》に手を届かせればまだ戦えたかもしれないが、如何せん身体が動かせない。
決着はついてしまった。
「……レゾン、お前に聞きたいことがあったんだ」
トーデルが地に伏せたレゾンを見下ろしていた。いつの間にかレゾンの身体に《真鎖タフムーラス》が巻き付いて動きを封じている。
「早く殺せばいい。それもまた、エンタメだろ」
「なら、《吸命ヴァイア》をシャーロットに埋め込んだのもエンターテインメントか?」
「……」
「お前は分かっていたんじゃないか? 《吸命ヴァイア》が《女王》の一部を切り離したものだって」
いつか、こうして自分達に牙を剥くんじゃないかって。
確信がなかったから、最後の言葉は飲み込んでトーデルはレゾンを見た。
「お前は何がしたかったんだ」
途中にした質問をもう一度だけ。
レゾンは力ない身体で、馬鹿にするように鼻で笑った。
「エンタメだぞ、《観客》に喜劇なり悲劇なり見せたかった、それだけだ」
「《観客》だと?」
意味が分からないとトーデルは顔をしかめた。一体誰のことを観客と呼んでいるのだろうか。
「逆に問うが、《女王》や俺達《冥界の審判員》はどうやって生まれたと思ってるんだ。当然、生み出した何者かがいるに決まっている。自然発生的に生み出されたにしては、システム化され過ぎだとは思わないか」
レゾンの言葉に、トーデルは眼を見開いた。
確かに自分達の発生、起源については分からないところが多い。だが、レゾンはその理由を考えていたのか。
「……お前は、つまり我々を生み出した何者かが、今もなおこの世界の出来事を見ていると言うのか」
「そうだ。まるで本を読むように、劇を観覧するように、俺達の一挙手一投足を《観客》――俺達やこの世界を生み出した誰かは見ている。明確な根拠はないが、強いて言うならば俺達が根拠だ」
確信を持ったようにレゾンはそう告げる。
「だから、折角生み出してもらったんだ。そいつらに生み出した価値があったと証明してやらないとな」
「じゃあ、お前が命を蹂躙したのも、《吸命ヴァイア》をシャーロットに埋め込んだのも――」
「《女王》すら知ったことか。俺含めこの世界の魂全てが演者で、見世物なんだ。どうなろうが知ったこっちゃない。喜劇だろうが悲劇だろうが、名作でも駄作でもとにかく物語として価値をつけたかった。それだけだ」
そう言って瞳を閉じるレゾン。
「さて、どんな結末になるのか」
その口元はまだ歪んだ笑みを浮かべていた。
「えっ――」
その時、シャーロットの声が聞こえてきた。驚いたような、信じられないようなか細い声音。
ザドも一足先にシャーロットの傍に戻っていたが、その表情はどこか。
絶望しているようで。
「嘘、だろ――」
その言葉が何を意味しているのか、何を意味してしまうのか。
トーデルも二人の視線を追う。
「――……!」
信じられない光景に目を見開いた。
トーデル達が戦っていた大地の遥か先、激しい戦闘でただでさえ荒れていた大地は凹凸激しく、それだけで戦闘の過激さを物語っていた。
あちこちで立つ土煙。そして、対峙している両陣営。
その中に、血が溢れる。
傷つきすぎて身体も気づいていないのか、最初はぽたぽたと落ちていたそれは、やがて噴き出すように周囲を染めていく。まるで自分の領域だと主張するように、紅く広がり続けていく。
夥しい血の中に、立っていたはずの身体が傾げた。その身体は必死に刃を突き立てて抗おうとするも、徐々に滑るようにして血だまりに沈んでいった。抗っていたのが嘘のように、もはや力なく人形のように無造作に四肢が投げ出される。
仰向けに倒れ伏した彼の胴体には大きな穴が開いていた。真っ二つにする勢いで、穴が開いていた。
逃れようのない、死の穴が開いていた。
「《女王》、良い結末を期待しているよ」
レゾンの呟きも聞こえない。
目の前の光景以外、トーデルには何の情報も入ってこなかった。
その情報を整理したいのか、或いは認めたくなくて呼んだのか。
「カ、イ――?」
物理的、現実的にも。その声に元気な声は返ってくることはなく。
光なく瞳は見開かれ、口元からもとめどなく血を溢れさせながら。
心臓もろとも撃ち抜かれて。
血の海に、カイが沈んでいた。
まだ結末には至らない。
しかし、最低最悪な結末に一歩踏み出していた。
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