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5『冥々たる紅の運命』

5 第四章第五十四話「《霊門》の番人」

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 べグリフは冥界を駆け抜けていた。相変わらず真っ暗闇にいるはずなのに、周囲の風景は縁どられたようにくっきりしていて、暗いと感じることはない。

 だからだろう。遠くにある集落がはっきりと確認できていた。

 そこに行けば、何かが解決するわけではないだろうことをべグリフは理解していた。間違いなくあの集落は冥界に無数ある内の一つでしかなく、べグリフが追い求めているものがある確率はほぼないに等しい。

 それでも、彼の足はどうしてもその集落へと向いてしまった。

 ケレアの話を聞いて、べグリフはジッとしていられなかった。何故なら、彼の話した内容は、べグリフに一つの事実を確かに突き付けていたのだから。

 近くに赤い溶岩が流れているようで、集落は光源には困っていない様子だった。

 集落の周囲、またそこまで至る道中に死兵が大量に湧いていたが、ケレアの《霊魂の加護》のお陰か、べグリフから攻撃しない限り狙われることはなかった。死兵はどれだけ攻撃しても死ぬことはないのだから、わざわざ攻撃して面倒を起こす意味もない。べグリフは死兵を無視して、何なくその集落へたどり着くことができた。

「……」

 べグリフは無言で周囲を見渡した。簡素な出来の家屋が幾らか集まっていて、道のあちこちにその家主であろう魂達が窺える。人の輪郭をした者や、動物を象ったものまで、魂の形は千差万別。

 ただ、等しく魂は何をするでもなくゆっくりと、淡々と、静かに過ごしていた。

「おや、新入りかい」

 掛けられた声にべグリフが振り向く。そこには老人が一人佇んでいた。

「ようこそ、我が集落へ。家ならその辺の家を借りると良い。どうせ君も彼らのように使わなくなるのだろうが。ここでは睡眠という行為も、食事という行為も必要ない。生きていた頃に行っていた当たり前を必要としないんだ。そして、今度はそれが当たり前になる」

 集落という割に畑などは一切ない理由は、食事が必要ないからと見える。それにどうやら家屋も見かけだけで、実際に使用している魂は少ないようだった。

「……では、お前たちはここで何をしているんだ」

 べグリフの問いに、老人は当然だろうと言いたげに答えた。

「もちろん、『何もしていない』。何もする必要がないからね。ただボーっと、生きていた頃の記憶を思い出しながら過ごしているだけさ。……尤も、だんだんと思い出せなくなっていくがね。……ほら、丁度だ」

 そう言って、老人がある方向を指差す。

 その先で、先程人の輪郭をしていた魂の一つが徐々に光を放ち始めた。その輪郭はだんだんと曖昧なものになっていき、やがてただの光の玉となる。

 光の玉はふわふわと宙に浮いていたが、やがてある方角へ向けてゆっくりと進みだした。

「我々は何もやることがない。できることがない。だから、惰性で過ごしている内にいろんなものを諦め、捨てて、忘れていくんだ。そうして記憶も魔力も、何もかもを洗われた魂は、ああやって輪郭すらも失い、真っ新な魂の受け皿となるんだ。そして、次の生、新たな魂を得るために《霊門》へと向かっていくんだよ」

 魂に蓄積された情報を失い、最早何者だったかすら思い出せない魂は、形すらも必要なくなるのだろう。

「《霊門》とは何だ」

「ああ、《霊門》は光の玉となった魂の受け皿に、新たな魂を宿して世界に戻す場所のことを言うんだ。私もまだだけれど、《霊門》をくぐることで命を得るらしい。ここに住む魂はいずれ全員、自分が何者だったかを忘れ、《霊門》で新たな生を得て再び何食わぬ顔で世界を生きていくんだ。もちろん、君もね」

「……」

「ところで君、不思議だね。初めてこの世界に来た人は皆動揺や困惑の様子を見せるものだが……」

 老人が本当に不思議そうにべグリフを見つめる。べグリフとしても冥界という世界のことを知らなければ、この死した世界に適応はできなかっただろうが、生憎前から存在は知っていたし、そもそも冥界歴も長い。

 今更何も困惑することはなかった。

 しかし、ケレアの言葉には確かに動揺したのだ。

「……人を、探している」

 そう、べグリフはとある人を探している。

『そうだ。そして、それが《女王》達の魂感知を阻害するのさ。一つの魂でありながら、二つの魂を有しているからこそ、魂の輪郭があやふやになる。結局正しく魂を読み取ることができない』

『カイとべグリフ、二人には既に《霊魂の加護》を付与している。俺の魂が二人に重なっているからこそ、正しく魂を認知することはできないのさ』

 これらのケレアの言葉から推し量れるものがあった。

 当然と言えば当然の事実。

 ケレアによる《霊魂の加護》が必要ということは。

 この身体には、べグリフの魂しか宿っていない。



 彼女の、『夢』の魂は宿っていない。



 分かっていた。あの時、冥界へ連れ去られる直前、心象世界で《紋章》と化していた彼女と出会い、そして彼女は消えていった。

 でも、夢は言っていたから。

『これからも、ちゃんと貴方の中にいますから。《言霊》の中に、私がいますから』

『貴方が迷った時は、声を掛けにいきますから』

 彼女は《言霊の代行者》だから。だから、もしかしたらこの魂に彼女の魂が宿っているのではないか。そんな一縷の望みを持ち、そして無意識のうちに縋ってしまっていたのだろう。

 ただ、今のべグリフの魂に自身の魂しかないのなら。彼女の魂はあの時《紋章》に解放されて、冥界に送られたと考えるのが筋だ。



 つまり、夢は今冥界にいる。



 べグリフの最終目的は今でも変わらない。《女王》を倒し、冥界から生界へ帰還すること。

 でも、彼女がこの世界に居るのなら。この地獄のような世界で、彼女は転生する瞬間を待っているのなら。

 べグリフはこの世界から彼女を救い出したかった。

 だから、飛び出してきたのだ。当てがなくても、彼女を探すために。

「人を……? ……もしかして君は、他の集落から来たのかい!? どうやってあの兵達を……!」

 老人が慌てたようにべグリフを見る。

「こ、困るよ! 我々はただ大人しく魂の終わりを待っているだけなんだ! ただでさえ、死んだんだ。厄介ごとを持ち込まないでくれ!」





「俺なら、お前が探している人をすぐに見つけられるよ」





 だが、老人の懇願虚しく既に事態は発展しようとしていた。

 声が聞こえてきたのは集落の中心。そこに黒いコートに身を纏った男が立っていた。白銀の短髪に、目の何もかもが真っ赤な男。

 彼から溢れる冥力に、老人含め近くに居た魂達が、死したはずの彼らが確かに危険を感じてこぞって傍を離れていく。

「……誰だ、貴様は」

「そう言えば初対面か。レゾンだ、どうもお見知りおきを。魔王様」

 かくして、べグリフはレゾンと邂逅した。

 確かに初対面だったが、レゾンが冥界における主要人物であることは溢れ出る冥力から理解していた。

「……」

 だからだろう。奴の言う言葉を戯言だと無視できないのも。

「全く。冥獄から脱獄したと聞いて探していたが、随分時間がかかったものだ。……少しは自覚してほしいな。自分が特別だということを」

 やれやれと手振りした後、レゾンは手を差し出した。

「で、どうだ。人探し、手伝ってやるよ」

「何が目的だ」

「酷いな、純粋な人助けさ。……まぁ、そこまで言うなら対価を示してもいいけどな」

 冷笑を浮かべながら、軽快な足取りでレゾンはべグリフへと近づいていく。



「なあ、手を組まないか」



 唐突に、淡々と奴は言う。

「お前はこれまで数々の命を蹂躙し、魂をこちらに送ってきた。命の生死を司り、その魂の運命を力をもって決めてきたはずだ。《ハドラ》を使ってな。……それでこそ《冥具》の使い手だ!!」

「……」

「俺とお前は同じなんだよ、べグリフ。自分の好き勝手に魂を弄び、愉悦に浸ろうじゃないか!」

 レゾンの語るべグリフ像を、べグリフ自身は至極真っ当な評価であり、事実だと受け止めていた。

 冥界へ送られるまでの百年間、べグリフは自身に宿る《魔》の紋章で命を無限に殺してきた。レゾンの言う通り好き勝手に、自分の為に。力を証明し、自身を証明するために。

 命を、魂を蹂躙してきた。

 そこに愉悦が無かっと言えば嘘にもなる。力に溺れていたがゆえに、その証明は継ぎ接ぎだらけの心を確かに維持してきた。

「偶然お前をこちらに送ったカイ・レイデンフォートの魂もこちらにある。手始めに共に殺しに行こうじゃないか!」

 だが、レゾンは理解していないのだろう。

「貴様は二つほど勘違いしているようだな……」

「勘違い?」

 レゾンが足を止め、眉をひそめてべグリフを見る。一方でべグリフはどこか不敵な笑みを浮かべながら言った。

「第一に、俺は先程までカイ・レイデンフォートと共にいた。そのことを知らない貴様が人探しを手伝うだと? 信憑性が欠けてきたな」

「……」

 魂の場所は全て《女王》に捕捉されているというが、目の前のレゾンという男も同様に把握しているわけではないのだろう。

「カイ・レイデンフォートは、最早俺の敵ではない。理解はできないだろうがな」

 確かに命を賭けて斬り結び、結果としてべグリフは《冥界》へと送られた。しかし、その過程でべグリフは夢と邂逅することができたのだ。気は進まないが感謝こそすれど、恨むようなことはない。

 確かに奴は、俺が俺自身にかけていた呪いを解いてみせたのだから。

「第二に」

 そう言いながら、べグリフは手元に漆黒の剣を生成する。

「俺は彼女と約束をした」

 夢の《言霊》は、ずっとこの魂に刻まれている。まるで《紋章》のように、この魂と一つになっている。

『想一郎は違うと言うかもしれませんが、そう考えるとこれまでの貴方の所業の半分は私にも責任があると思っています』

『仮に違うのだとしても、私にも背負わさせてください。私はずっと貴方の中で《紋章》として、同じ光景を見て、同じものを体験してきたのですから』

『この先、貴方を何が待っている何もかもを二人で背負いましょう。二人で贖いましょう』

 これまでの罪に向き合い、贖う。

 そう彼女と約束をしたのだから。

 これからの罪も、彼女の罪になってしまうのだから。

 もうこれ以上、綺麗な彼女を穢さないために。

 決意と共に、べグリフは言い放った。





「俺は、もう二度と命を殺さない」





 蹂躙してきた数だけ、いや数以上に。

 命を救うのだ。

「貴様は別だがなっ!」

 言下、べグリフが一瞬で距離を詰めて剣を一閃させた。

「っ」

 咄嗟に空中へと避けたレゾンへとべグリフが告げる。

「命を弄ぶ貴様の魂をかき消すことで、贖罪の一歩としよう!」

 驚いたようにべグリフを見ていたが、やがてレゾンも同じように不敵な笑みを浮かべ、その手に《死神サリエル》を出現させた。

 大鎌が命を求めて紅く光を放つ。

「後悔しても知らないぞ……勘違いしないことだ! 全ての命を裁定するのは、俺達だ!」

「ならば、さっさと自分を裁くことだ! 俺直々に手伝ってやろう!」

「思い上がるなよ、死んだ魂風情が!」

 レゾンが勢いよくべグリフへと飛び掛かった。





※※※※※





「なあ、単純な疑問だけど、《霊門》をくぐれば元の身体に戻れるって保証はあるのか?」

 黒い背景の中、黒から切り離された色の中をカイはケレアとエルの三人で駆けていた。エルの速度は案外青年二人に引けを取らない。《霊魂の加護》のおかげで、存在に気づかない死兵達の横を通り抜け、枯れた木々の間をひたすら前に進んでいく。

 カイの質問に、ケレアが答える。

「保証って言い方をされると、難しいところだ。なにせ、今《冥界》にいる誰も《霊門》を通ったことがないんだから」

「あー、そりゃそうか」

 《霊門》を通れば生界へ生まれ変われるのなら、《冥界》にいるわけがないのだ。

「ただ、《冥界》にいる誰よりも、お前達二人は元の身体に戻ることができる、と思う。まだ魂が肉体との結びつきを持っているからな。くぐった先のことは分からないが、案外肉体へ直通かもしれないぞ」

「頑張ろうね、ヴァリウスお兄ちゃん!」

 エルがにっこり元気な笑顔を向けてくる。それに頷いて返すものの、カイの質問はまだ終わってはいなかった。

「勿論頑張るつもりだけどさ、この三人で攻め込むのか? 《霊門》の前には厄介な番人がいるんだろ?」

 《霊門》を通れば生界へ生き返られる。未練のある命ほど、それを知っていて動き出さない者はいないだろう。だが、《冥界》における要所にそう易々と踏み込めるわけではないようで。エルだって戦闘員として数えられないから、実質二人だ。

「一応、一部の協力者には伝えているが、まぁそうなるだろうな」

「……大丈夫なのかよ」

 厄介な番人をカイとケレアの二人で相手取らなければいけない。《冥界》攻略において重要な局面で、その人数で大丈夫とはとてもじゃないけれど思えない。こちらの実力を買ってくれているのなら悪い気はしないが、生憎魔力はなく、手元に残されたセインだけだ。セイン自体も力こそ与えてくれるが、イデアが傍に居る時ほどの力はない。

 ただ、ケレアだって無策なわけではなかった。

「いや、むしろ少人数の方がいい」

「……どういう意味だよ」

「着いたら否が応でも分かるさ。今伝えると、変に考えて余計な事態になりかねないからな」

 変に考えて……?

 ケレアの言っている意味は分からなかったが、《霊門》の番人が特殊な存在であることは分かった。大人数だとかえって攻略しにくいのだろう。

「ほら、近づいてきたぞ。《霊門》だ」

 言下、枯れ果てた森林地帯を抜け、視界が一気に開ける。

 真っ白な巨大な光の柱が、真っ暗闇を引き裂くように天高く昇っていた。光の柱は縦が続く限りに永遠に伸びていて、その端が見当たらない。

 光の柱自体遠くから見えていたが、あれが《霊門》……。

 てっきり門の形をしているのかと思ったが、そういう訳ではないらしい。

 光の柱は丘の上で煌々と輝いており、その柱を目指すようにして光の玉が無数に列をなしていた。

「あの光の玉は、もしかして洗われた魂か?」

「そうだ。記憶も魔力も何もかもを濯がれ、真っ白になった魂達だ」

 カイの視線の先で、先頭にいた光の玉が光の柱へと近づいていく。そして、光の柱へ飲み込まれたかと思うと、そのまま柱の中を上昇していった。

「ああやって、光の柱が生界へと連れて行ってくれるんだ」

「つまり、俺とエルはあの光に飛び込めばいいわけだな」

「そういうことだ……だが」

 先頭を走っていたケレアが足を止める。合わせてカイとエルも止まり、光の柱から前方へと視線を向ける。



 小さな紅い鏡が、行く手を遮るように浮かんでいた。



 光の玉たちが織り成す長蛇の列の手前、そこには草木も岩石もなく、ただ真っ黒な地面がただただ広がっていた。

 そのど真ん中に、紅鏡が鏡面をこちらへ向けて佇んでいる。しかし、鏡面には何も映っておらず深淵が永遠に続いていた。

「ちっ、やはり《霊魂の加護》でも騙せないか。……魂の持つ記憶に反応しているのか」

 そう言って、ケレアが手元に魔力で槍を生成する。
如何にも戦闘態勢のケレアに戸惑いながら、カイもセインを構え、エルを守るように前に出た。

「おいおい、まさかとは思うが、これか?」

「……ああ、こいつが《番人》だ」

 まさに、この紅鏡こそが《霊門》を守る番人だとケレアは言う。てっきり、番人と言うのだから人の形をしているものだと思っていたが。

 この紅鏡を、ケレアは厄介と言っているのだ。

「ただの鏡、なわけはないか。なあ、ケレア――」

「っ、来るぞ!」

 その瞬間、紅鏡の鏡面が妖しく赤い光を放ち、カイ達三人を光で包み込んでいく。

「っ、くそ!」

 何の攻撃かも分からず、光から逃れようとカイが飛び退こうとして。

 何故だか脳裏に浮かぶ記憶の欠片に思わず動きを止めた。これまで過ごしてきた人生をこの一瞬で振り返るかのように、強制的に脳が記憶を思い起こす。

「なんだ、これ、は……!」

 処理しきれていないのか、酷く頭が痛む。

 そして、理解した。



 あの紅い鏡に記憶を覗かれているんだ。



 カイと同じように、頭を押さえその場に蹲るケレアとエル。

「エ、ル! 大丈夫か……!」

「な、なん、と、か……」

 やがて赤い光が徐々に引き始める。紅鏡は発光源であり、姿がまだ見えないままだ。

 引いていく頭痛に身体を起こしながら、カイがケレアへと叫ぶ。

「おい、何なんだ、こいつは……!」

「……《魔鏡デモン》。こいつは対象の記憶を読み取り、その人生において最も忌避する者へと姿を変える。要は、トラウマだった者を疑似的に模倣して、心を抉ってくるわけだ」

 視線の先で、だんだんと紅鏡が姿を見せる。

 だが、最早鏡では無くなっていた。

「なんだ、あれ……」

 カイが唖然とした様子でソレを見る。

 目の前に映るソレは人のようでいて、間違いなく化け物の類で。

「……問題は、対象が複数だった場合、奴はその全員のトラウマを一つの生命体に変える。その力も、性質も持った上でな。……俺が、少人数の方が良いって言った理由が分かったか」

 ソレは、カイ達より一回りも二回りも大きな体躯で、鋭利な爪を四肢の先から伸ばし、口端からも牙を尖らせ、その頭から黒い双角をねじれるように二本生やしていた。皮膚は紅く固く、まるで鎧のように光沢を見せ、その背で巨大な手のような漆黒の翼が羽ばたく。そして、腰回りには人の腕ほどの太さを持つ触手が何本もうねうね動いていた。

 どう見ても異形。

 エルの記憶からは《海禍レオスケイサ》と暴走状態の《シャーロット》の二つが選ばれた。死した後、シャーロットの目を通して見てきたその光景が、エルにとっては一生拭うことのできない記憶として頭にこびりついている。あの鋭利な爪や紅い皮膚、触手がそれを物語っていた。
そして、カイとケレアが記憶から思い起こした忌避したい相手は奇しくも同じだった。

 しかし、カイの感情以上にケレアのそれが色濃く目の前に反映されている。如何にも悪魔的な見た目なのは、ケレアにとって奴の象徴がまさしく悪魔だからだろう。

「お前は……!」

 カイとケレアが無意識のうちに拳を強く握りしめる。





 異形と化した、グリゼンドが目の前に居た。





 元四魔将が一人、ケレアを殺し、ヴァリウスを殺したグリゼンドが。

「さて、どうやって殺そうかぁ!?」

 カイ達へと下卑た笑みを浮かべていた。
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