カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

文字の大きさ
上 下
279 / 296
5『冥々たる紅の運命』

5 第四章第五十三話「王都リバディ道中記」

しおりを挟む
《角って……》


イデア「私達の乗っている魔獣、何という名前なんですか?」

ルーファ「ユニコーンよ。馬に似ているかもしれないけれど、緊急時に出せる速度は馬を遥かに凌駕するわ」

イデア「なるほど。確かに危険な旅ではありますからね。……それにしても立派な角ですね。間違って刺さってしまいそうです」

ルーファ「あまり触らない方がいいわ。そこ、彼ら的にはデリケートな場所だから」

イデア「そうなのですか」

カルラ「交尾の際はまず角同士を擦り合わせるところから始まるらしいよ」

イデア・ルーファ「……」

カルラ「流石に私達人間としては、角に欲情はしないよね」

イデア「で、デリケートって、あの、何と言うかそういう……」

ルーファ「私は繊細な場所って言いたかっただけっ!」

カルラ「というか、視界にソレが常に映ってるってどういう気持ちなんだろうね」

ルーファ「……あなたね、ユニコーンの角のことを何だと思っているのよ」

カルラ「え? 人間で言う生殖器みたいなものでしょ?」

ルーファ「ぜ、全然違うわよっ!!」

カルラ「どうしたんだい、ルーファ。そんなに顔を真っ赤にして。照れてるのかい?」

ルーファ「会話を台無しにしたあなたに怒りを覚えているのよ!」

イデア「あ、あはは……」

ゼノ「……」

イデア「……お義父様?」

ゼノ「ん? 何だ」

イデア「いえ、何か視線が気になって……」

ゼノ「俺のことは何も気にすることはない。そのまま会話を続けてくれ。ユニコーンの角が何だって?」

イデア・ルーファ「……」

カルラ「え、だから生しょ――」

ルーファ「言うな! というか違うって言ってるでしょ!!」

シロ「ゼノ、あなたとんでもないセクハラしているの、分かってる?」

ゼノ「シロ……これ、良い旅だな」

シロ「何しみじみ言っているのよ……。後でセラに言いつけるから」

ゼノ「ごめんなさいでした!」

シャーロット「あ、あの、ザ、あっ、お、お兄ちゃん? どうして私の耳を塞いでくるんですか?」

ザド「気にするな。お前は知らなくていい」

シャーロット「……え? 何て??」









《魂的に無理》




イデア「トーデルさんの好きな食べ物って何かありますか?」

トーデル「何だ、藪から棒に」

イデア「いえ、私まだトーデルさんのことをあんまり詳しく知らないなと」

トーデル「私に好き嫌いなどの概念はない。そもそもとして、人に必要な機能も私は要らないからな。なにせ魂だけの存在だ。食事も行う意味がない」

イデア「……そういうものですか。でも、今はカイの身体にいるのですから、しっかりご飯を食べてくださいね」

トーデル「む、それもそうか」

シャーロット「み、皆さーん、今日の晩御飯が出来上がりましたよー!」

イデア「確かに良い匂いが……あれ?」

ゼノ「気づいたか、イデアちゃん」

イデア「これは……!」

ゼノ「今日の晩御飯当番はルーファちゃんにシャーロットちゃん、そしてシロだった。どうやら各々が一品作ったようなんだが……」

イデア「……一つだけ、えと、その」

ザド「地獄を表現した料理があるな」

シロ「こら、作った二人に失礼でしょ!」

ゼノ「いやお前のだよっ! 何だこのどろっどろのくせに沸騰している生臭い食べ物は!」

シロ「何よ、おいしそうでしょ?」

ゼノ「……こいつ、そう言えばタイタンの胃袋の中で百年食事してたんだった」

イデア「凄い勢いでルーファさんとシャーロットさんの料理が無くなっていく!?」

カルラ「こんなところで死にたくないからね」

ザド「右に同じ」

トーデル「……イデア」

イデア「どうしました?」

トーデル「私には好き嫌いなどの概念がないと思っていたが……これは駄目だ。魂が受け付けない」

シロ「酷い言い草ね!? ……良いわよ、私が一人で食べるから」

イデア「シロさん……」

ゼノ「……はぁ、全く。ほらシロ、スプーン貸せよ」

シロ「ゼノっ……!」

ゼノ「はい、あーん」

シロ「っ、あーん!」

ゼノ「どうだ?」

シロ「あーん効果で百倍旨いわ!」

ゼノ「そうか、そうか。よし、もっと食えもっと!」

シロ「うん!」

イデア「……あーんばかりでお義父様一度も口にしないですね」

トーデル「そもそも、マイナスを百倍してもマイナスなのでは……」







《男なら》



ゼノ「なあ、トーデル」

トーデル「なんだ」

ゼノ「……いつ、行く?」

トーデル「何の話だ」

ゼノ「何のって、そりゃこの状況でする話なんて決まってるだろ」

トーデル「……?」

ゼノ「覗きだよっ。いつ彼女達の風呂を覗きに行くかって話だ!」

トーデル「……何故そんなことをする?」

ゼノ「何故って……トーデル、お前それでも男かよ!?」

トーデル「私を性別で分けるのなら女の部類だ」

ゼノ「そうだった。カイの身体が喋っているせいで男だと思ってた」

トーデル「それで、どうしてそんなことをする?」

ゼノ「どうしてって……そりゃそこにロマンがあったら追いかけるだろ。山があったら登るし、据え膳食わぬは男の恥って言うし!」

トーデル「女性陣の誰も据え膳のつもりはないと思うが」

ゼノ「……というか、ザドはどこに行った?」

トーデル「確かに、姿が見えないな」

ゼノ「まさかアイツ、俺達を置いて先に行きやがったな!? 許せん!!」

トーデル「あ、おいっ……行ってしまった」

ザド「何だ、緊急事態か?」

トーデル「……何してたんだ」

ザド「火にくべるものを集めていた。今日はここで野宿だからな。あるに越したことはないだろ」

トーデル「……くべるものならこれからできるからもう大丈夫だ」

ザド「どういうことだ?」

トーデル「間違いなく大炎上だよ」

※※※※※

ゼノ「皆、大丈夫か!」

ルーファ・シャーロット「キャアッ!?」

イデア「お、お義父様!?」

ゼノ「(あれ、ザドの姿が見当たらないぞ。気配もない……まさか《生霊の仮面》を!? アイツ、とんだチートを使いやがって……!)」

シロ「……ゼノ、きょろきょろしているところ悪いけど」

ゼノ「え?」

カルラ「何か弁明はあるかな?」

ルーファ・シャーロット「じー……」

ゼノ「……」

イデア「お義父様……」

ゼノ「……えー、ゴホンっ」

シロ「……」

ゼノ「……私はトーデルだ。今はゼノの身体を借りているに過ぎない」

イデア「あ、そうだったんですか?」

シロ「んなわけないでしょうがっ!」

ゼノ「ぐふっ!?」

カルラ「ルーファの裸は安くないよ!」

ゼノ「がはっ!?」

ルーファ「カルラ、それでも一国の王様よ」

シャーロット「それでもって……」

イデア「……後日お義母様に報告させていただきますねっ」

ゼノ「そ、んな……殺生、な……ガクッ」

シロ「たった二日の道程でどれだけ報告案件作る気なのよ……」







《学園トーク》



ザド「……何だ、そんなジロジロと」

ルーファ「別に。何だか不思議なだけ。あなたとこうして行動しているのが」

カルラ「確かにね。ザドは年中サボってばかりのレアキャラだったから。余計に変な感じするなぁ」

ルーファ「今となっては事情も分かっているけれど……。でも、あなたがバトルロイヤルに参加し始めたのって半年くらい前からでしょ? それより以前もあなた、結構サボってなかった?」

イデア「え、そうなんですか?」

シャーロット「言われてみれば、探しても全然見当たらない日の方が多かったです」

ザド「……朝、苦手なんだよ」

ルーファ「事情関係なしにサボりだったってことね」

ザド「それに授業に出なくてもテストは大体解けるからな」

シャーロット「そういえば、毎回三十位以内に入っていましたね」

イデア「それはすごいですねっ」

シャーロット「でも、できるだけ学園に出てきてほしかったです。折角の会える機会が……あ、いや、何でもないです!」

ザド「……これから善、処は、する」

ルーファ「ところでイデア、知ってた? カルラってこれでも高等部二年で学力一位なのよ?」

イデア「ええ!?」

カルラ「今日一の声量出たね……」

イデア「あ、ごめんなさい。でも、文武両道とはまさにこのことですね。凄いです」

カルラ「そうなんだ。私ってね、何でもできるんだよ。魔法以外は」

ルーファ「悔しいのよね。毎回私は二位で、カルラが一位なの」

カルラ「ルーファに勉強教えられるようになりたくてね。それで勉強は頑張ってるんだ」

ルーファ「その結果、先生たちにも認められて風紀委員長になってるわけ」

イデア「風紀委員って何するんですか?」

カルラ「何って、気に食わない生徒を片っ端から弾圧するのさ」

シャーロット「しょ、職権乱用……」

カルラ「半分冗談だけどね。でも、この肩書きのお陰で好き勝手は出来ているかな」

イデア「そういえばシャーロットさんも何か委員会に入ってませんでしたっけ」

シャーロット「美化委員ですね。学園内を綺麗にすることが目的なんです」

カルラ「そういう意味ではね、風紀委員と似た部分があるんだ。美化委員には校舎を綺麗にしてもらって、我々風紀委員は生徒を掃除しているわけだね」

ルーファ「一緒にするの、どうかと思うわよ」

ゼノ「……」

シロ「また無言で見つめてる。どうしたのよ」

ゼノ「いや、何か、良いなってさ。学生達が」

シロ「……そうね、イデアも楽しそうだわ」

ゼノ「こんなことにはなってしまったが、イデアちゃんの笑顔を見ていると何だか救われる気分になるよ」

シロ「カイも助けて、嬉し泣き笑いさせてやりましょう」

ゼノ「ああ、絶対にな」









《王族》



ルーファ「これまた不思議な話だけれど」

カルラ「何だい」

ルーファ「私達、今王族二人と一緒にいるのよね」

カルラ「イデアとゼノ様かい? 確かにそうだね。それにザドとシャーロットを入れたら四人だし、ヴァリウス、じゃなかった、カイのことも混ぜたら五人だ」

ルーファ「何だか、王族と言っても色々いるのね……」

カルラ「それは、良い意味悪い意味どっちかな?」

ルーファ「勿論良い意味よ。王族だからこうでなければならない、みたいなことはないんだなって」

カルラ「うん。カイもイデアも、一緒に学園で生活していて王族だなって気づかなかったもんね。王族だけど、でも私達と同じなのかもしれない」

ルーファ「得難い経験だわ」

ゼノ「イデアちゃん、前にも増して綺麗になったな!」

イデア「えーと、ありがとうございます……」

ゼノ「ほんとほんと、カイに勿体ないくらいだよ」

イデア「そんなことっ。私はカイと結ばれて本当に幸せだなって思っています」

ゼノ「そうか、俺も君みたいな娘ができて幸せだよ……ところで結ばれると言えばさ、イデアちゃんとカイはもうやることやって――」

シロ「セクハラ親父が!」

ゼノ「ふっ、甘い!」

シロ「なにっ」

ゼノ「俺は成長し続ける男。如何にシロと言えど、拳の一発二発は避けられるさ」

シロ「なら、何発も打つだけよ!」

ゼノ「え、いや、ちょっ、待って!?」

シロ「問答無用よ! おらおらおらおらおらおらおら!」

ゼノ「くっ、このままじゃ……! い、イデアちゃん!」

イデア「お義父様っ」

ゼノ「お、俺は、俺は! 早く孫が見たいんだぁあああああああああああああああっがはああああああああ」

イデア「……///」

シロ「よし、ようやく当たったわ!」

トーデル「……やはり声をかける相手を間違えたか」

ザド「親あっての子あり、か」

シャーロット「そ、そうですね……」

ルーファ「……ほんと、得難い経験だわ」

カルラ「そんな眉間を押さえて言われても」







《犬っぽい》



ルーファ「イデアはつまり、カイと結婚しているのよね」

イデア「はい、そうですよ」

ルーファ「どうなの、結婚生活は」

イデア「どう、というのは……」

カルラ「ルーファが聞きたいのは夜の営み的な――」

ルーファ「シロさん、お願い」

シロ「任せろ」

カルラ「い、嫌だ! ゼノ様と同じポジションは嫌だあああああああ」

ルーファ「自業自得でしょ……。えっとね、幸せなのって話」

イデア「ああ、それなら、そうですね。凄く幸せです」

シャーロット「わあああ、今のイデアちゃんの笑顔、とっても素敵でした!」

ルーファ「どういう時にそう思うのかしら」

イデア「そうですね……カイってどこかワンちゃんみたいなんです」

ルーファ「犬ってこと?」

イデア「私を見かけたらすぐに笑顔で駆け寄ってきて、楽しそうに今日あった出来事とかこれからの予定とか、とにかくいろいろなことを話してくれるんです。カイのそんな様子を見ていると、ああ、幸せだなぁってなっちゃうんですよね」

ルーファ「……確かに尻尾を振ってる姿が目に浮かぶわ。彼、あなたのことが大好きなのね」

シャーロット「イデアちゃんもカイさんのこと、大好きですもんね!」

イデア「はいっ、心から愛しています……!」

ルーファ「何だか、聞いているこっちまで幸せな気持ちになるわね」

シャーロット「二人の馴れ初め、聞いてもいいですか!」

イデア「いいですよ。……最初は私の一目惚れから始まったんです。あれは二年前――」

ゼノ「……何だか、イデアちゃん吹っ切れたか」

シロ「吹っ切れるって何に」

ゼノ「ああ、シロはあんまり居なかったからな。ほら、イデアちゃん、カイのこと結構避けてただろ。ミーア曰く好き避けってやつ」

シロ「あー、そういえばそうだったわね」

ゼノ「でも、今の彼女は真正面からカイのこと想えているみたいだ」

シロ「間違いなく今回のがきっかけでしょうね」

ゼノ「まさしく雨降って地固まる、だな」

シロ「でも、惚気が凄いことになるわね」

ゼノ「本人達が聞きたがってるんだから、良いだろ」

カルラ「あのー、ところでシロさん。いつまで私の上に乗ってるんでしょうか」

シロ「イデア達が話し終えるまで」

ゼノ「カルラ、ドンマイだ」

カルラ「ゼノ様に言われるのは何か違くないですか?」








《恋の形》



ザド「シャーロット、そろそろ寒くなってきたからコレを羽織れ」

シャーロット「え、あ、ありがとうございます……!」

ザド「シャーロット、口元に付いてるぞ」

シャーロット「わ、じ、自分で取れますよ!?」

ザド「シャーロット、体調は大丈夫か? ……何か顔が赤い気がするが」

シャーロット「そ、それは顔が近いからですよぅ……」

ルーファ「……何かザドがシャーロットへぐいぐい行ってるわね」

カルラ「もう関係が露呈したからね、これまで遠慮していた分が爆発してるんじゃない?」

ルーファ「にしても、兄妹ってあんなに仲が良いものなの? 距離感おかしくないかしら」

イデア「私は兄が一人居ますが、すごく優しいですよ?」

ルーファ「まぁイデアは、優しくされてそうというか、優しくしたくなるから分かるわ」

イデア「それにカイだって、妹のミーアには何だかんだ優しい気がします」

ゼノ「優しいって言っていいか分からんがな。逆にミーアの方がカイに優しくない気ぃするし」

ルーファ「何だか羨ましいわね。私、一人っ子だから」

カルラ「全部が全部良いってわけでもないさ。そんなに欲しかったらうちの弟をプレゼントしよう」

イデア「え、カルラさんって弟がいるんですか?」

カルラ「うん、九歳のね。これがやんちゃ坊主でさ。好き勝手やりたい放題で手を焼いているんだ」

ルーファ「あの自由奔放加減はまさしくカルラの弟よね。大丈夫、間に合っているわ」

カルラ「有無を言わさぬ笑顔……」

シャーロット「い、イデアちゃん……!」

イデア「あれ、シャーロットさん、どうしたんですか?」

シャーロット「お兄ちゃんの距離が近すぎておかしくなっちゃいます……!」

イデア「でも、シャーロットさんも嬉しそうな顔してますよ?」

シャーロット「それはっ……そうなんですけどね。でも心臓がもちません……!」

イデア「っ! それ、もしかして好き避けというやつでは! 私もこの前までカイに対してそうだったんです!」

シャーロット「あの、別に避けてはいないんですが……」

ルーファ「というか、そうだったの? 結婚しているのに?」

イデア「何か、こう、好きって気持ちが溢れちゃって、傍に居るとドキドキが止まらないというか、何と言うか……」

シャーロット「あ、そのドキドキは分かる気がします! 好きな人の傍にいると――」

ザド「っ、シャーロットに好きな人だと!? 一体誰だ!?」

シャーロット「え!?」

ザド「馬鹿な……これまでずっと陰から見ていたというのに、そんな特定な人物がいるだなんて……」

シャーロット「えっと、そ、それは……!」

ザド「誰だか知らんが、場合によっては俺が出なければ……!」

シャーロット「っ、私のこと、そこまで……!!」

イデア「……シャーロットさん幸せそうですけど、前途多難なの、分かっているんでしょうか」

カルラ「行き過ぎた兄妹愛も考えものだね」

ルーファ「そっとしておきましょう。事情は違うにせよ、傍に居られて二人とも幸せなのよ」

イデア「ちなみにつかぬ事を伺いますが、お二人は兄妹間での恋愛はOK派ですか?」

ルーファ「それは勿論……」

カルラ「なしでしょ」

ルーファ「ありよ」

ルーファ・カルラ「……」

カルラ「ルーファ、それは君が一人っ子だから言えることだよ。考えてもごらん、あの弟と恋愛しろってかい? 百回生まれ変わっても無理だね」

ルーファ「それはあなたの姉弟の話でしょ? 別にいいじゃない、そういう関係のところがあったって。お互いに好いているのなら、周りがどうこう言うものじゃないわ」

カルラ「それは、そうかもしれないけど。……じゃあ、ルーファは私が君のことを恋愛的な意味で好きだと言っても、OKなんだね?」

ルーファ「何よそれ……別にその気持ちを否定するつもりはないわ。応えられるかは別にしてね」

カルラ「えー、応えてくれないのかい?」

ルーファ「その時が来ないと分からないわよ。第一、あなた本気で言ってないでしょ」

カルラ「……本気って言ったらどうする?」

ルーファ「……」

カルラ「……」

イデア「……」

ゼノ「……」

シロ「ゼノ、真顔で混じるのやめなさい」

ゼノ「いや、女性同士というのもありなのかと思って。よし、イデアちゃん、シロとかどうだ」

イデア「いや、あの。えっと……」

シロ「ここで選ばれても複雑だし、選ばれなくても何かショックでしょ!!」

ゼノ「自信をもて。お前にも魅力あるよ」

シロ「何に自信もてって言うのよ。……で、どこよ」

ゼノ「え?」

シロ「私の魅力よ! 百個言うまで今日は寝させないから!」

ゼノ「お前、自分に魅力百個あると思ってんのかよ……」

シロ「なっ、私はゼノの魅力百個言えるけどね!」

ゼノ「じゃあ言ってみろよ」

シロ「良いわよ! まずはね……あれ」

ゼノ「一つ目で撃沈すな!」

シロ「あなたの魅力って……何?」

ゼノ「俺に聞くな!!」







《必ず一緒に》



ゼノ「ところでシロ、最近は何してたんだ?」

シロ「何って、変わらないわよ。百年前に消失した私の故郷探し。……私自身、もう百年前の人達が生きているとは思っていないんだけれどね」

ゼノ「進捗はどうだ」

シロ「全然ね。あの意味の分からない神様みたいな奴は『消えたソウルス族は次元の狭間にいる』って言ってたけど」

ゼノ「ああ、《観測者》な。アイツも結局何だったのか良く分かんないしな」

シロ「でも、凄い力よね。時は止めるわ一瞬で天界と魔界を作り出すわ。おかげで第一次聖戦は何とか終わったし」

ゼノ「《観測者》のお陰でこの世界はまだ続いているのは間違いない」

シロ「本当はまた会って、もう一回話をしたいところだけど」

ゼノ「無理だろうなぁ。あの時俺達に干渉したせいで、もう手出しできないって言ってたし、自分たちの力でどうにかするしかないだろう」

シロ「自分たちの力って言われてもね。次元の狭間にどう行けばいいのやら」

ゼノ「これまでどんなやり方で試してきたんだ?」

シロ「天界や魔界と通じる門があるでしょ。あれは次元を繋ぐ扉だから、その道中であちこちに飛び出してみたりとか」

ゼノ「結構厳ついことやってるな……」

シロ「でも、駄目だったわ。強制力が強くて、次元に戻されちゃうのよ。狭間ってところには辿り着かないの」

ゼノ「難解だな……。次元繋ぎに関しちゃべグリフが有識者な気がするが、あいつも今いないしな」

シロ「そうね……冥界へ行くついでにべグリフも救出するの?」

ゼノ「出来ればな。第一目標はカイを救うこと。次点で《女王》とか呼ばれる訳の分からん冥界のトップを倒すこと。その過程であの生意気な奴がいたら、救ってやらんこともない」

シロ「そんなこと言ってると、『あの子』、王都に来てくれないわよ?」

ゼノ「むしろ来てくれないと、助けてやらないけどな。……でもまぁ、シロの助けになるんなら、べグリフのことも助けないとだな」

シロ「べグリフは嫌がりそうね」

ゼノ「違いない。……絶対次元の狭間とやらに行こうぜ。俺も気になるし」

シロ「できれば二人きりが良いわ。デートで行きましょ」

ゼノ「見栄えの良い場所だったらな」

シロ「大丈夫よ。私の故郷だもの」

ゼノ「楽しみにしているよ」

シロ「……だからどうか、これ以上無茶をしないでね」









《同じ人を想って》



イデア「……」

トーデル「どうした、私に何か用か?」

イデア「いや、あ、え、ごめんなさい!」

トーデル「そうか、私をというより、この身体を見ていたわけだな」

イデア「えっと、あの……そうです」

トーデル「……元気もなさそうだな」

イデア「……カイの身体はまだ魂と繋がっているんですよね?」

トーデル「ああ、安心しろ。だから、今私はカイの身体を借りることができているんだ」

イデア「私、不安なんです。急にその繋がりが消えてしまったとしたら……」

トーデル「イデア……」

イデア「そもそも本当にカイがまだ生きているのかどうか……これまでの話は全部憶測にすぎません。カイはもしかしたらもう……」

トーデル「……」

イデア「すみ、ません……夜って駄目ですね。どうしても良くない想像をしてしまいます……」

トーデル「……一つ、昔話をしていいだろうか」

イデア「?」

トーデル「私は、奇跡を見たことがある」

イデア「奇跡、ですか?」

トーデル「そうだ。本来一つの身体には一つの魂。それがこの世の摂理だ。だが、彼女の想いがそうさせたのか、そもそもの親和性があったのか。彼女が生前結合力の研究をしていたからか。……あるいは君の先天的な想いの力のお陰なのか」

イデア「……」

トーデル「決して、私が君に彼女を導いたわけではない。彼女が君を選び、そして彼女は新たに生まれ変わるのではなく、イデア、君という魂に共存する形で冥界から生界へ戻っていったんだ」

イデア「もしかして、フィグルさんのことですか……!」

トーデル「そうだ。イデア、君にフィグルが宿ったことは十分奇跡だったんだ」

イデア「……!」

トーデル「でも、それで止まらなかった。君はやがてカイに出会い、そして冥界の力を手に入れたべグリフをも倒してみせた。奇跡は、終わっていなかった。フィグルが君に宿ったことも、君がカイに出会ったことも、君たちがべグリフを討ち倒したことも……そして、力を失い死にぞこないだった私が、こうして君と話していることも。奇跡はまだ続いているんだ」

イデア「トーデルさん……」

トーデル「だから大丈夫だ。その奇跡の中心にいつも君がいる。君が諦めない限り、この奇跡は終わらないよ」

イデア「……ありがとう、ございます」

トーデル「それに、あのカイが冥界でジッとしていると思えない。イデア、今君の手元にセインはないのだろう? なら、カイもまだ生界との繋がりを理解しているはずだ」

イデア「……そうですね。カイなら絶対止まっていられません。もしかしたら、私達が救おうとする前に勝手に出てきそうですね」

トーデル「……ようやく笑ったな」

イデア「トーデルさんのお陰で少し元気になりました。……私、フィグルさんに聞いていたんです、死んでいた自分を生界へ戻してくれた方がいたって。トーデルさんのことだったんですね」

トーデル「私にとって彼女は希望だったから……フィグルとは、仲が良かったのか?」

イデア「勿論! 私のことをずっと支えてくれていました……」

トーデル「良かったら、君と過ごしてきた彼女のこと、教えてくれないか」

イデア「はい、私もお話したいです! えっとですね……――」

トーデル「(あの時、君を選んだのは間違いではなかったよ、フィグル……)」

しおりを挟む

処理中です...