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5『冥々たる紅の運命』
5 第三章第三十四話「VSジョー① 繋がる希望」
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イデア・フィールス。フィールス王国の第一王女で英雄カイ・レイデンフォートの妻。先の第二次聖戦ではカイ・レイデンフォートと共に魔王べグリフと戦い、戦争を終結まで導いた立役者の一人である。
その彼女が今、フィグルと名乗っていたはずの彼女が今シャーロットの前に立っていた。
「ふぃ、フィグル、ちゃん……!?」
綺麗だった金髪は色を変え、純白に。金髪だった頃より似合っているように見えるのは、やはりそれが地の色なのだろうか。
シールド内はどこも動揺を隠せずにいた。イデア・フィールスという名前は今やカイ・レイデンフォートと同じくらい誰もが知っている名前だ。容姿端麗でいて、それでいて聖母のような性格だと彼女と出会った人は言う。そんな彼女とこれまで学園生活を送ってきたというのか。
そもそも何故他国の王女がこの王都に潜入していたか、という疑念も生まれるべきであるが、今は何よりも。
彼女の存在が、この絶望的な状況に光をくれていた。
「イデア・フィールス……? おいおい、情報にはなかったな」
ジョーが見極めるようにイデアを見る。周りを安心させるために虚言を言っているだけかもしれないが、それにしてはこの状況で堂々としていやがる。
……試してみるか。
「キメラ、そこのガキをやれ」
ジョーのその言葉を待っていましたと言わんばかりに、キメラと呼ばれたイデアの前の巨大な魔獣が涎ダラダラの状態でイデアを狙う。これまではまるで躾のように目の前の餌達への飛びつきを許してもらえていなかった。
その鋭い爪は飛び出す際の動作で容易く大地を抉る。それだけの膂力、それだけの鋭さ。
人一人殺すことなど、このキメラには容易過ぎた。
「《エナジーズ・ギフト!》」
全身に薄水色の紋様が浮かび上がり、イデアの身体能力が活性化する。そのまま飛び込んできていたキメラの懐に素早く潜り込み、勢いよく蹴り上げた。
「遠慮は、しませんっ!」
「ギャッ!?」
巨体が軽々と宙を浮く。それを追いかけるようにイデアは跳躍し、両手に持っていた二丁の長銃へと魔力を込める。
「《エナジーズ・ギフト!》」
銃声と共に放たれた七つの魔弾。一つは黒色で、浮かんだキメラを遠くへと吹き飛ばした。残りの六つ眩いくらい白く光りながら、生徒達を包むシールドへと向かっていく。
わざわざ味方のいる方向への攻撃にジョーは思考するが、すぐに理解する。
「なるほど、こいつは確かに本物かもな」
白色の魔弾はシールドに炸裂したかと思うと、シールドの硬度を何倍にも膨れ上がらせていた。イデアもシールドの耐久力が低いことに気づいていたのである。そこへ活性の力を働かせて無理やり耐久力を増強、加えてイデアの魔力がシールドの所有権を無理やりに奪い取っていた。
相手の魔法の所有権を奪い取るなど、常人ができる技ではない。
「前払いが良かった理由をもう少し考えるべきだったか。……キメラ」
ジョーの言葉で、周りにいた他のキメラが一斉に自分の担当しているシールドへと凶爪を振り下ろす。これまで傍観を示していたキメラ達の突然の強襲に絶望の悲鳴が上がるが、シールドに触れた瞬間、その爪がバキンと折れてしまった。
「ガウッ!?」
元々は人質の檻という意味合いで張っていたシールドが、今や人質のための盾となってしまっている。イデアに状況を逆手に取られてしまったのだった。
地面に着地し、イデアはジョーを見上げる。
「これで作戦は台無しですよね」
「ああ、予定とは違う。が、まだ修正が効かないほどじゃない」
ジョーが指を鳴らすと、残りのキメラ五体がイデアを囲む。元々キメラは檻の番犬として存在していたわけだが、檻が盾に変わってしまった以上、番犬以外の使い方をすればいい。
「お前を殺せば、作戦は元に戻る。手間は増えるがな」
一国の王女を前にしても、ジョーの態度は変わらない。その姿がこれまでたくさんの修羅場を掻い潜ってきたのだと、イデアに思わせるには十分だった。
イデアは辺りを見渡した。自分を囲むように魔獣が五体。先程吹き飛ばしたはずの一体も然程効いていないのか、体を起こしてこちらへと戻ってきているところだった。
そして、ジョーの持つ《真鎖タフムーラス》。《冥具》ということは、ジョー自体の身体能力も向上させていることだろう。
それを全て一人で対処できるのか。
……ううん、やらなきゃ。
何のために飛び出してきた。ここにいる人々を守るため。絶望に希望を見出してもらうためだ。
イデアから先程の純白とは正反対の、漆黒の魔力が溢れていく。
イデアの中を流れる魔力は、元はフィグルの魔力である。
つまり、悪魔族の魔力である。
イデアが唱える。
「《リベリオン》」
次の瞬間、イデアの背に漆黒の翼が生えた。更に純白だった長髪が今度は黒色へと変わっていく。
《リベリオン》。体内で魔力を何度も循環させることで、魔力の質を上昇させる、悪魔族が作り出した魔法。元はレイニーの魔力硬度を見てべグリフが発案したものであり、皮膚を硬質化させることで、循環させた魔力が漏れ出ないようにするというもの。だから、シーナやこれまでの四魔将などは全身が金属のように硬質化されていた。
しかし、その硬質化の特徴がイデアには見られない。また、本気を出した悪魔族は瞳の白い強膜が黒へ、双眸は鋭く縦長い赤へと変貌するが、イデアは強膜はそのままに双眸のみが赤く鋭くなっていた。
それでも、傍から見ても魔力量が一気に上昇したのは明らかであった。
ストレートに流していた長髪を後ろでポニーテールにして束ね、魔力で硬質化させてまとめる。これなら動きやすく、激しい動きをしても視界を遮らない。
髪を結び始めたイデアを見て、隙だと判断したキメラ達が全方位から一斉に襲い掛かる。
「《黒火花》」
次の瞬間、六体とも二つある顔の一つを撃ち抜かれていた。
「――!?」
あまりの早業にキメラは反応できず、気づいたときには片割れが舌をだらしなく放り出して沈んでいた。
動揺するキメラを無視して、イデアはそのまま勢いよく上空のジョーへと飛び出した。
「これでも躾に時間がかかるんだ。アイツに俺が怒られるだろ」
「知ったことでは、ありません!」
アイツとは誰のことなのか分からないが、気にしている余裕はない。
長銃から魔弾を放つ。当然リベリオン前よりも強力な一撃。先程はキメラを吹き飛ばす程度だったが、今や撃ち抜くことができるほどだ。
それでも、《真鎖タフムーラス》が魔弾を弾く。まるで盾のように束になった鎖が魔弾を通すことはなかった。
「っ」
以前魔界で戦ったギャズとは練度が違う。同じ《冥具》使いでも、目の前にいるジョーラインという男は何倍も上であった。
「流石は英雄様の正妻だ。こいつを貰ってなかったら負けてただろう」
「誰が正妻ですか! 正も側もありません! 私だけがカイの妻っ……な、なんです!」
ジョーから真紅の鎖が無尽蔵にイデアへと伸びていく。その中を掻い潜るように飛行しながら何度も魔弾を放つが、やはり鎖が魔弾を防いでしまっていた。
もっと力を込めないと!
「《黒霊――》」
黒の長銃に魔力を込めようとした時だった。
「グアオオオオオオオ!!」
「っ」
すぐそこまでキメラ達が迫ってきていた。
そういえば、キメラの背には確かに白い翼が生えている。決して見せかけなどではなく、あの巨体を浮かせられるのだ。
「もう一回……!」
もう一度、早撃ちで残りの顔を撃ち抜こうとするも、先程と違ってキメラは不規則な動きをしながら、飛び掛かってきていた。
先程は分かりやすく飛び掛かってきたからこそ、正確に撃ち出すことができたけれど、あそこまで不規則で且つ自分自身も飛び回っているとなると、精度はがくんと下がってしまう。
キメラは片割れの消失に怒りながらも、先程の経験から成長しているのだった。
「キメラは人と同じで思考する魔獣だ。同じ手が通用すると思わない方がいいぞ」
「それならこれでどうですか! 《イグニッションブラスト!》」
黒の長銃の引き金を引く。銃声が鳴るも視界に何も変化はなく。不発弾かと思われたその時、キメラ達を巻き込むようにして多段的に魔力による爆発が広範囲に広がっていた。
目で捉えられないほど小型の魔弾をバラまくように放ち、タイミングよく破裂させたのである。
爆発に巻き込まれてキメラ達が墜落していく。
「見事だが」
「っ」
「果たして優先順位は正しいか?」
気づけばイデアの背後にジョーが迫っていた。咄嗟に振り返るが、既に間合いはジョーのものであった。
ジョーの拳を覆う赤黒い魔力。その魔力もあって、ジョーの拳は何倍にも大きく見えた。
「《レイジ》」
振るわれる拳。イデアは魔力で両腕を黒く硬質化させ、交差させてその一撃を防ぐが、勢いよく大地へと叩きつけられてしまった。
「――っ!」
体を活性化させ、硬質化もしているというのに一撃が重い。まるで両腕の骨が折れてしまったのではないかと思うくらい、腕がジンジンと痛む。
あの人、やっぱり強い。
《冥具》のお陰でもあるのかもしれないが、それでも戦闘センスがあるのだ。《真鎖タフムーラス》をどうにかしない限りダメージも通らない。
このままでは防戦一方になってしまうかもしれない。
状況の苦しさと共にイデアがジョーを睨むように見上げる。遅れてキメラ達が墜落してくるが、その先でジョーもまたイデアを睨んでいた。
……妙だな。さっき鎖を繋いだと思ったんだが。
イデアの背後に回った時、実は気づかれないように振り返ったイデアの背後から《真鎖タフムーラス》を繋いだのだ。《真鎖タフムーラス》の能力は繋いだ相手の動きを奪うこと。だが、イデアは両腕をクロスさせて攻撃を防いだ。
要は動くことができていたのだ。
「不良品を噛まされたか……?」
そうは言うが、それでも《冥具》の力で助けられている点は大きい。《冥具》が無ければイデアとの実力差は大きかっただろうとジョーは思っていた。
もう一度試してみればいい、か。
そうして、イデアへと大量に真紅の鎖を伸ばそうとしたジョーの背後に。
ザドがいた。
「《炎雷刀・円天!》」
高速で振るわれたザドの横殴りの一撃は、ジョーの首に到達する前に真紅の鎖に防がれてしまった。
「ちっ!」
「ガキにしちゃ首を取ることに躊躇がないな。そういう教育でもされてんのか」
「さっさと死んで、アイツを解放しろ!」
ザドはカイと同じく寮で昼過ぎも寝ていたのである。やはり深夜のゲームで疲労しているために、日中は起きていることが難しいのであった。だからこそ、最初ザドは厩舎の爆発すらも気づかずに寝ていた。熟睡していた。
そんな彼が起きたのは、近くから強烈な力の波動を感じたからだ。
忘れることはない、真っ赤に怪しく光る死の波動。
アイツを変えた、最悪の力だ。
「アイツって何だ。あの中にお前の好きな奴でもいるのか。若いってのは色恋に夢中でいけないな」
「ほざけっ!」
一度押し出るようにして離れながら、ザドが斬撃をジョーへと放つが、斬撃が束になった鎖を越えてジョーを切り裂くことはない。
「夢中で、相手との力量も計れないんだ。若いっていうのは罪なもんだ」
「……!」
無尽蔵の鎖がザドへと素早く伸びていく。一本一本なら斬ることができるが、束になった鎖には刃が通らない。
弾かれた刀。隙が生まれるザドへと命を止めるための鎖が伸びていく。
しかし、下から勢いよく魔弾が飛び出してきて鎖を貫いた。
「早く、離れてください!!」
「お前は……!」
イデアが叫ぶ。ザドはまだ《真鎖タフムーラス》の恐ろしさを知らない。たかが鎖一本と高を括っているかもしれないが、その一本が命を奪うのである。
そうして、イデアの意識がザドに向いてしまったことで、ほんの隙が生まれる。墜落してきていたキメラの一匹がその勢いのままイデアへと側面から飛び掛かったのだ。
「っ!」
ザドの元へ向かおうと跳躍したイデアが、その気配を感じて振り向こうとして。
キメラが何者かの手によって、勢いよく吹き飛んでいった。
先程までキメラがいた場所には、見知った顔が。
その姿を見て叫んだのはルーファだった。
「カルラ!?」
「助けに来たよ、お姫様」
カルラが魔力で生成された槍を振り回しながら、ルーファへとウィンクをしてきた。
おかしいとは思っていたのだ、姿を探しても全然見当たらないから。事情は知らないが、学園で爆発があった時に学園にはいなかったのだろう。
「で、これは一体どういう状況かな? そして、この隣にいる黒髪ポニーテールちゃんも誰だろう」
「こっち見る前に前見なさい!」
「おっと!」
カルラへとキメラが何体か向かってきていたのだった。
ただ、これは好機だ。ザドの実力が高いことは知っている。カルラも。そして、イデアも想像以上の力を有していることが分かった。
自分から出たイデアは別としても、この三人がシールドの外にいるのは奇跡と言えるだろう。人数が増えた分だけ、キメラの負担も分担される。
私も、出たいのだけれど……!
このシールド、中からも全く壊せる気がしないのである。イデアは守るために硬度を上げたのだろうが、ルーファとしてはありがた迷惑であった。
「ちょっと、フィグル……じゃなかった、イデア!」
カルラの登場で若干余裕の出たイデアへとルーファが叫ぶ。
「私をこのシールドから出しなさい!」
「な、何を言ってるんですか! 命の危険があるんです! 絶対に駄――」
「じゃあ絶交ね!」
「ええっ!?」
驚くイデアの横に、吹き飛ばされるようにザドが着地する。
「くそっ」
見上げた先で、ジョーはまだ無傷のままだった。
「多少は命のやり取りをしたことがある、というところか。だが、まだ青いな。ごり押しでこれまでやってこれたんだろう。見れば分かる。お前は実力を過信しているな」
「さっきから、何様だ貴様は!」
「人生の先輩様、とでも言っておこう。若い頃はミスをしてもまだ許されるが、大人になればミスは命取りだ。若い芽には今のうちに水をやらないと枯れてしまうんだ」
何個目かの葉巻に火を点け、ふぅと煙を辺りにまき散らしながら眼下の様子を見る。下にはキメラとやり合うイデア達。
キメラでは倒せないだろうが……。
「とはいえ、今は芽を摘む側だ。なぁ、ガキ共。向かってくるのは構わないが……死ぬ覚悟はできてるんだろうな」
ぎろりと向けられたジョーの視線に不思議と身体が震える。その言葉の圧に空気が震えているような感覚に襲われる。
やはり、ここは今命のやり取りをする場なのだと改めて実感させられる。
そんなところに、ルーファを巻き込みたくはない。できることなら、隣にいるザドもカルラも早く逃げてほしい。
そんなイデアの思考を呼んだのか、ルーファがイデアへ叫ぶ。
「協力するって言ったはずよ!」
「でも!」
「でもも何もないのよ! もう嫌なの、何か出来たんじゃないかって後悔するのは!」
「……!」
ルーファの声がどうしてか泣き叫ぶようにイデアには聞こえた。彼女の後悔が何を指しているのか、イデアだけが分かる。
誰を想って、彼女が叫んでいるのかが分かる。
気づいたら、ルーファのいるシールドに魔弾を打っていた。
「絶対、絶対に死なないでください!」
「当たり前じゃない!」
どうやっているのか分からないが、ルーファが透過するようにしてシールドの外に出る。そして次の瞬間には、もうシールドは元の硬度に戻っていた。
「あと絶交もなしでお願いします!」
「……あなたって意外と執着あるわよね」
出てきたルーファの元にカルラも合流を果たす。
「駄目じゃないか、お姫様は守られていないと」
「あなたの隣に本物のお姫様がいるわよ」
「何を言って……え、本当に?」
これで四人VS一人&六匹。状況は前よりも遥かに良くなっているはず。
「さて、後悔させてやろうじゃない。この学園を襲ったことをね!」
「覚悟は、出来ているということでいいんだな」
広がる真紅の鎖。襲い掛かってくる六体の巨大な魔獣。
相手の状況は何も変わらない。
だが、イデアから生まれた希望は少しずつ紡がれ始めていた。
その彼女が今、フィグルと名乗っていたはずの彼女が今シャーロットの前に立っていた。
「ふぃ、フィグル、ちゃん……!?」
綺麗だった金髪は色を変え、純白に。金髪だった頃より似合っているように見えるのは、やはりそれが地の色なのだろうか。
シールド内はどこも動揺を隠せずにいた。イデア・フィールスという名前は今やカイ・レイデンフォートと同じくらい誰もが知っている名前だ。容姿端麗でいて、それでいて聖母のような性格だと彼女と出会った人は言う。そんな彼女とこれまで学園生活を送ってきたというのか。
そもそも何故他国の王女がこの王都に潜入していたか、という疑念も生まれるべきであるが、今は何よりも。
彼女の存在が、この絶望的な状況に光をくれていた。
「イデア・フィールス……? おいおい、情報にはなかったな」
ジョーが見極めるようにイデアを見る。周りを安心させるために虚言を言っているだけかもしれないが、それにしてはこの状況で堂々としていやがる。
……試してみるか。
「キメラ、そこのガキをやれ」
ジョーのその言葉を待っていましたと言わんばかりに、キメラと呼ばれたイデアの前の巨大な魔獣が涎ダラダラの状態でイデアを狙う。これまではまるで躾のように目の前の餌達への飛びつきを許してもらえていなかった。
その鋭い爪は飛び出す際の動作で容易く大地を抉る。それだけの膂力、それだけの鋭さ。
人一人殺すことなど、このキメラには容易過ぎた。
「《エナジーズ・ギフト!》」
全身に薄水色の紋様が浮かび上がり、イデアの身体能力が活性化する。そのまま飛び込んできていたキメラの懐に素早く潜り込み、勢いよく蹴り上げた。
「遠慮は、しませんっ!」
「ギャッ!?」
巨体が軽々と宙を浮く。それを追いかけるようにイデアは跳躍し、両手に持っていた二丁の長銃へと魔力を込める。
「《エナジーズ・ギフト!》」
銃声と共に放たれた七つの魔弾。一つは黒色で、浮かんだキメラを遠くへと吹き飛ばした。残りの六つ眩いくらい白く光りながら、生徒達を包むシールドへと向かっていく。
わざわざ味方のいる方向への攻撃にジョーは思考するが、すぐに理解する。
「なるほど、こいつは確かに本物かもな」
白色の魔弾はシールドに炸裂したかと思うと、シールドの硬度を何倍にも膨れ上がらせていた。イデアもシールドの耐久力が低いことに気づいていたのである。そこへ活性の力を働かせて無理やり耐久力を増強、加えてイデアの魔力がシールドの所有権を無理やりに奪い取っていた。
相手の魔法の所有権を奪い取るなど、常人ができる技ではない。
「前払いが良かった理由をもう少し考えるべきだったか。……キメラ」
ジョーの言葉で、周りにいた他のキメラが一斉に自分の担当しているシールドへと凶爪を振り下ろす。これまで傍観を示していたキメラ達の突然の強襲に絶望の悲鳴が上がるが、シールドに触れた瞬間、その爪がバキンと折れてしまった。
「ガウッ!?」
元々は人質の檻という意味合いで張っていたシールドが、今や人質のための盾となってしまっている。イデアに状況を逆手に取られてしまったのだった。
地面に着地し、イデアはジョーを見上げる。
「これで作戦は台無しですよね」
「ああ、予定とは違う。が、まだ修正が効かないほどじゃない」
ジョーが指を鳴らすと、残りのキメラ五体がイデアを囲む。元々キメラは檻の番犬として存在していたわけだが、檻が盾に変わってしまった以上、番犬以外の使い方をすればいい。
「お前を殺せば、作戦は元に戻る。手間は増えるがな」
一国の王女を前にしても、ジョーの態度は変わらない。その姿がこれまでたくさんの修羅場を掻い潜ってきたのだと、イデアに思わせるには十分だった。
イデアは辺りを見渡した。自分を囲むように魔獣が五体。先程吹き飛ばしたはずの一体も然程効いていないのか、体を起こしてこちらへと戻ってきているところだった。
そして、ジョーの持つ《真鎖タフムーラス》。《冥具》ということは、ジョー自体の身体能力も向上させていることだろう。
それを全て一人で対処できるのか。
……ううん、やらなきゃ。
何のために飛び出してきた。ここにいる人々を守るため。絶望に希望を見出してもらうためだ。
イデアから先程の純白とは正反対の、漆黒の魔力が溢れていく。
イデアの中を流れる魔力は、元はフィグルの魔力である。
つまり、悪魔族の魔力である。
イデアが唱える。
「《リベリオン》」
次の瞬間、イデアの背に漆黒の翼が生えた。更に純白だった長髪が今度は黒色へと変わっていく。
《リベリオン》。体内で魔力を何度も循環させることで、魔力の質を上昇させる、悪魔族が作り出した魔法。元はレイニーの魔力硬度を見てべグリフが発案したものであり、皮膚を硬質化させることで、循環させた魔力が漏れ出ないようにするというもの。だから、シーナやこれまでの四魔将などは全身が金属のように硬質化されていた。
しかし、その硬質化の特徴がイデアには見られない。また、本気を出した悪魔族は瞳の白い強膜が黒へ、双眸は鋭く縦長い赤へと変貌するが、イデアは強膜はそのままに双眸のみが赤く鋭くなっていた。
それでも、傍から見ても魔力量が一気に上昇したのは明らかであった。
ストレートに流していた長髪を後ろでポニーテールにして束ね、魔力で硬質化させてまとめる。これなら動きやすく、激しい動きをしても視界を遮らない。
髪を結び始めたイデアを見て、隙だと判断したキメラ達が全方位から一斉に襲い掛かる。
「《黒火花》」
次の瞬間、六体とも二つある顔の一つを撃ち抜かれていた。
「――!?」
あまりの早業にキメラは反応できず、気づいたときには片割れが舌をだらしなく放り出して沈んでいた。
動揺するキメラを無視して、イデアはそのまま勢いよく上空のジョーへと飛び出した。
「これでも躾に時間がかかるんだ。アイツに俺が怒られるだろ」
「知ったことでは、ありません!」
アイツとは誰のことなのか分からないが、気にしている余裕はない。
長銃から魔弾を放つ。当然リベリオン前よりも強力な一撃。先程はキメラを吹き飛ばす程度だったが、今や撃ち抜くことができるほどだ。
それでも、《真鎖タフムーラス》が魔弾を弾く。まるで盾のように束になった鎖が魔弾を通すことはなかった。
「っ」
以前魔界で戦ったギャズとは練度が違う。同じ《冥具》使いでも、目の前にいるジョーラインという男は何倍も上であった。
「流石は英雄様の正妻だ。こいつを貰ってなかったら負けてただろう」
「誰が正妻ですか! 正も側もありません! 私だけがカイの妻っ……な、なんです!」
ジョーから真紅の鎖が無尽蔵にイデアへと伸びていく。その中を掻い潜るように飛行しながら何度も魔弾を放つが、やはり鎖が魔弾を防いでしまっていた。
もっと力を込めないと!
「《黒霊――》」
黒の長銃に魔力を込めようとした時だった。
「グアオオオオオオオ!!」
「っ」
すぐそこまでキメラ達が迫ってきていた。
そういえば、キメラの背には確かに白い翼が生えている。決して見せかけなどではなく、あの巨体を浮かせられるのだ。
「もう一回……!」
もう一度、早撃ちで残りの顔を撃ち抜こうとするも、先程と違ってキメラは不規則な動きをしながら、飛び掛かってきていた。
先程は分かりやすく飛び掛かってきたからこそ、正確に撃ち出すことができたけれど、あそこまで不規則で且つ自分自身も飛び回っているとなると、精度はがくんと下がってしまう。
キメラは片割れの消失に怒りながらも、先程の経験から成長しているのだった。
「キメラは人と同じで思考する魔獣だ。同じ手が通用すると思わない方がいいぞ」
「それならこれでどうですか! 《イグニッションブラスト!》」
黒の長銃の引き金を引く。銃声が鳴るも視界に何も変化はなく。不発弾かと思われたその時、キメラ達を巻き込むようにして多段的に魔力による爆発が広範囲に広がっていた。
目で捉えられないほど小型の魔弾をバラまくように放ち、タイミングよく破裂させたのである。
爆発に巻き込まれてキメラ達が墜落していく。
「見事だが」
「っ」
「果たして優先順位は正しいか?」
気づけばイデアの背後にジョーが迫っていた。咄嗟に振り返るが、既に間合いはジョーのものであった。
ジョーの拳を覆う赤黒い魔力。その魔力もあって、ジョーの拳は何倍にも大きく見えた。
「《レイジ》」
振るわれる拳。イデアは魔力で両腕を黒く硬質化させ、交差させてその一撃を防ぐが、勢いよく大地へと叩きつけられてしまった。
「――っ!」
体を活性化させ、硬質化もしているというのに一撃が重い。まるで両腕の骨が折れてしまったのではないかと思うくらい、腕がジンジンと痛む。
あの人、やっぱり強い。
《冥具》のお陰でもあるのかもしれないが、それでも戦闘センスがあるのだ。《真鎖タフムーラス》をどうにかしない限りダメージも通らない。
このままでは防戦一方になってしまうかもしれない。
状況の苦しさと共にイデアがジョーを睨むように見上げる。遅れてキメラ達が墜落してくるが、その先でジョーもまたイデアを睨んでいた。
……妙だな。さっき鎖を繋いだと思ったんだが。
イデアの背後に回った時、実は気づかれないように振り返ったイデアの背後から《真鎖タフムーラス》を繋いだのだ。《真鎖タフムーラス》の能力は繋いだ相手の動きを奪うこと。だが、イデアは両腕をクロスさせて攻撃を防いだ。
要は動くことができていたのだ。
「不良品を噛まされたか……?」
そうは言うが、それでも《冥具》の力で助けられている点は大きい。《冥具》が無ければイデアとの実力差は大きかっただろうとジョーは思っていた。
もう一度試してみればいい、か。
そうして、イデアへと大量に真紅の鎖を伸ばそうとしたジョーの背後に。
ザドがいた。
「《炎雷刀・円天!》」
高速で振るわれたザドの横殴りの一撃は、ジョーの首に到達する前に真紅の鎖に防がれてしまった。
「ちっ!」
「ガキにしちゃ首を取ることに躊躇がないな。そういう教育でもされてんのか」
「さっさと死んで、アイツを解放しろ!」
ザドはカイと同じく寮で昼過ぎも寝ていたのである。やはり深夜のゲームで疲労しているために、日中は起きていることが難しいのであった。だからこそ、最初ザドは厩舎の爆発すらも気づかずに寝ていた。熟睡していた。
そんな彼が起きたのは、近くから強烈な力の波動を感じたからだ。
忘れることはない、真っ赤に怪しく光る死の波動。
アイツを変えた、最悪の力だ。
「アイツって何だ。あの中にお前の好きな奴でもいるのか。若いってのは色恋に夢中でいけないな」
「ほざけっ!」
一度押し出るようにして離れながら、ザドが斬撃をジョーへと放つが、斬撃が束になった鎖を越えてジョーを切り裂くことはない。
「夢中で、相手との力量も計れないんだ。若いっていうのは罪なもんだ」
「……!」
無尽蔵の鎖がザドへと素早く伸びていく。一本一本なら斬ることができるが、束になった鎖には刃が通らない。
弾かれた刀。隙が生まれるザドへと命を止めるための鎖が伸びていく。
しかし、下から勢いよく魔弾が飛び出してきて鎖を貫いた。
「早く、離れてください!!」
「お前は……!」
イデアが叫ぶ。ザドはまだ《真鎖タフムーラス》の恐ろしさを知らない。たかが鎖一本と高を括っているかもしれないが、その一本が命を奪うのである。
そうして、イデアの意識がザドに向いてしまったことで、ほんの隙が生まれる。墜落してきていたキメラの一匹がその勢いのままイデアへと側面から飛び掛かったのだ。
「っ!」
ザドの元へ向かおうと跳躍したイデアが、その気配を感じて振り向こうとして。
キメラが何者かの手によって、勢いよく吹き飛んでいった。
先程までキメラがいた場所には、見知った顔が。
その姿を見て叫んだのはルーファだった。
「カルラ!?」
「助けに来たよ、お姫様」
カルラが魔力で生成された槍を振り回しながら、ルーファへとウィンクをしてきた。
おかしいとは思っていたのだ、姿を探しても全然見当たらないから。事情は知らないが、学園で爆発があった時に学園にはいなかったのだろう。
「で、これは一体どういう状況かな? そして、この隣にいる黒髪ポニーテールちゃんも誰だろう」
「こっち見る前に前見なさい!」
「おっと!」
カルラへとキメラが何体か向かってきていたのだった。
ただ、これは好機だ。ザドの実力が高いことは知っている。カルラも。そして、イデアも想像以上の力を有していることが分かった。
自分から出たイデアは別としても、この三人がシールドの外にいるのは奇跡と言えるだろう。人数が増えた分だけ、キメラの負担も分担される。
私も、出たいのだけれど……!
このシールド、中からも全く壊せる気がしないのである。イデアは守るために硬度を上げたのだろうが、ルーファとしてはありがた迷惑であった。
「ちょっと、フィグル……じゃなかった、イデア!」
カルラの登場で若干余裕の出たイデアへとルーファが叫ぶ。
「私をこのシールドから出しなさい!」
「な、何を言ってるんですか! 命の危険があるんです! 絶対に駄――」
「じゃあ絶交ね!」
「ええっ!?」
驚くイデアの横に、吹き飛ばされるようにザドが着地する。
「くそっ」
見上げた先で、ジョーはまだ無傷のままだった。
「多少は命のやり取りをしたことがある、というところか。だが、まだ青いな。ごり押しでこれまでやってこれたんだろう。見れば分かる。お前は実力を過信しているな」
「さっきから、何様だ貴様は!」
「人生の先輩様、とでも言っておこう。若い頃はミスをしてもまだ許されるが、大人になればミスは命取りだ。若い芽には今のうちに水をやらないと枯れてしまうんだ」
何個目かの葉巻に火を点け、ふぅと煙を辺りにまき散らしながら眼下の様子を見る。下にはキメラとやり合うイデア達。
キメラでは倒せないだろうが……。
「とはいえ、今は芽を摘む側だ。なぁ、ガキ共。向かってくるのは構わないが……死ぬ覚悟はできてるんだろうな」
ぎろりと向けられたジョーの視線に不思議と身体が震える。その言葉の圧に空気が震えているような感覚に襲われる。
やはり、ここは今命のやり取りをする場なのだと改めて実感させられる。
そんなところに、ルーファを巻き込みたくはない。できることなら、隣にいるザドもカルラも早く逃げてほしい。
そんなイデアの思考を呼んだのか、ルーファがイデアへ叫ぶ。
「協力するって言ったはずよ!」
「でも!」
「でもも何もないのよ! もう嫌なの、何か出来たんじゃないかって後悔するのは!」
「……!」
ルーファの声がどうしてか泣き叫ぶようにイデアには聞こえた。彼女の後悔が何を指しているのか、イデアだけが分かる。
誰を想って、彼女が叫んでいるのかが分かる。
気づいたら、ルーファのいるシールドに魔弾を打っていた。
「絶対、絶対に死なないでください!」
「当たり前じゃない!」
どうやっているのか分からないが、ルーファが透過するようにしてシールドの外に出る。そして次の瞬間には、もうシールドは元の硬度に戻っていた。
「あと絶交もなしでお願いします!」
「……あなたって意外と執着あるわよね」
出てきたルーファの元にカルラも合流を果たす。
「駄目じゃないか、お姫様は守られていないと」
「あなたの隣に本物のお姫様がいるわよ」
「何を言って……え、本当に?」
これで四人VS一人&六匹。状況は前よりも遥かに良くなっているはず。
「さて、後悔させてやろうじゃない。この学園を襲ったことをね!」
「覚悟は、出来ているということでいいんだな」
広がる真紅の鎖。襲い掛かってくる六体の巨大な魔獣。
相手の状況は何も変わらない。
だが、イデアから生まれた希望は少しずつ紡がれ始めていた。
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