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5『冥々たる紅の運命』
5 第一章第五話「共生派VS王貴派」
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「向こうの様子は」
「準備万端、といった様子です。後はこちらの出方を窺っているのかと」
「……よし、行こうか」
深雪を踏みしめ、仲間たちの間を掻き分けながら最前線へ。視線いっぱい雪に包まれた更地が地平線まで続いている。元々は魔界最大の王都アイレンゾードだったのだから、当然か。
その地平線の彼方に何とか視認できるぐらいの黒い影。
王貴派だ。
これ程の人間が未だ王貴派なのか、と思ってしまうほどに、向こうの陣営には無数の武装した兵士たちが見えた。
ただ、そう単純な話ではないのだろう。
ドライルは隣に立つエイラへと尋ねた。
「あの中のどれだけが王貴派に脅され操られている平民だろうな」
「さあ、腐った思考がすることですから、あまり想像できませんね。ただ、見たところ幸の薄そうな顔がちらほらありますし、間違いなくいるでしょうね」
「幸薄そうって、おまえな……」
だが、エイラの言わんとしていることも分かる。向こうの陣営の中に、明らかにボロボロの防具をつけ、戦う前から既に疲弊して見える者がいくらかいるのだ。それこそ生気があるのかどうかすら疑わしいほどに。
「あなたの言う通り何かしら弱みを握られているのは確かなのでは。こちらに逃げることもままならないほどに。例えば最愛の者の命、とか」
「確かに腐った思考だ」
「え、今のはその思考に辿り着いた私に言ったんですか?」
「んなわけないだろ……」
「ですよね、あぁ良かった。危うくこちら側の総大将の首が戦闘前に飛ぶところでした」
「縁起の悪いこと言うな。戦闘中も戦闘後も飛ばす予定はないぞ」
いつもの軽口を交わしながら、今度は自陣へ視線を向ける。既にいつでも出陣できると全員が視線でドライルを見つめてきていた。
ここにいる誰もが、この日を待ちわびていた。王貴派を下し、すべての悪魔族が階級などという縛りから解放される瞬間を。
中にリノの姿が見えた。彼女はいつも危険な戦場だろうと何だろうと、必ずドライルの参加する戦いについてくる。こちらがひやひやするからやめてもらいたいものだが、向こうも待ってるだけは嫌だと言い張って平行線、最後にはいつもドライルが負けるのだった。
リノが頷き、元気な赤いポニーテールが揺れる。応えるようにドライルは頷いた。
きっと待っているのだろう、総大将の言葉というものを。
何も全く考えていなかったわけではないが、ここに来るまでにまとまらなかった。
でも今、こんなに沢山の同じ志を持つ者に囲まれて、ドライル自身高揚する気持ちを止められなかった。
もっと自惚れてください。
この前のエイラの言葉が思い返される。
英雄だからついてきてくれたのではなく、俺だから一緒に戦ってくれるのならば。
ドライルは黒い翼を広げて飛翔し、自軍全体が見える位置まで上昇した。
共生派四万、王貴派六万。
二万の兵力差は大きいだろう。けれど、負けることはないという自負があった。
ゆっくりと深呼吸し、やがてドライルは拳を突き上げた。
「ここにいることを必ず後悔させない! 俺についてきたことを必ず後悔させない! 俺を信じて突き進め! 今こそ大願を果たすときだ! 階級なんてくだらないものをかなぐり捨てて、すべての悪魔族を今ここに解放するぞ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ドライルの叫ぶような声に呼応するように、四万の命が雄たけびを上げ、大地も空気も鳴動する。
それが開戦の合図となった。
「行くぞ!!!」
四万の誰よりも早く、ドライルが前へと躍り出る。総大将自ら単騎突撃するその姿に、鼓舞されない味方はいない。ドライルを追いかけるように各部隊前へと飛び出し始めた。
何もない地平をすさまじい速度でドライルは駆け抜けていく。
目指すは向こうの総大将だ。
魔王べグリフがいなくなり、統率が取れなくなったはずの王貴派をまとめ上げた者。つまり、事実上周りを黙らせるだけの力を有しているということ。
ディクソン・デンバンダン。
先日、向こうの総大将について報告を受けた。デンバンダン家と言えば確かに王貴派ではあったが、つい最近まで目立った動きをしていなかったように思える。そもそもとして、六万という兵をまとめ上げるだけの実力があるようには思えなかった。
何か、裏がある。それだけは確かだった。
ちょうど昨日、カイから一報が入った。
「天界で冥界絡みの事件があったらしい」
冥界。
その言葉を聞くだけで、ドライルは身体が緊張するのを感じた。それは、魔王べグリフとの死闘を思い出させる。
「話に聞くところだと、何でも黒ローブに身を纏った男が冥界の武具を適当な奴に無償提供しようとしていたそうだ」
冥界の武具。べグリフの有していた《大剣ハデス》もその一つだろう。そんな強力なものを譲り渡している、危険思想甚だしい奴がいるという信じられない話だった。
「この前飲んだ時の話を思い出してさ。ドライルがいること分かってて戦いを挑んでくるってことは、そいつには自信があるってことだ。絶対って確証があるわけじゃないけど、万が一もある。警戒しろよ」
カイが何を伝えようとしているのか、即座に理解した。
つまり、向こうの総大将であるディクソンが冥界の武具を持っている可能性がある、ということだった。
もしそうならば、余計にドライルが対処しなくては。違ったとしても、総大将を打ち取れば一気に終戦へと向かうことができる。
先ほどの雄たけびが聞こえていたのだろう、王貴派の陣営も進軍していた。
もう少しでドライルと王貴軍が激突する。
その寸前の出来事だった。
王貴派の陣営から、真紅の光弾が流れ星のように空を駆けた。
ドライルの頭上を通り、そのまま共生軍の方へ。
体に駆け抜ける力の波動。直に感じたことがあるから分かる。
間違いない。
あの力は。
冥界のものだ。
「っ、エイラ!」
「カイ様の悪い予感はよく当たりますね!!」
後方、ドライルに呼ばれるよりも前に、エイラは魔力を解放していた。眼球が黒く染まり、瞳は赤く変わる。
「《悪意ある拒絶!》」
真紅の光弾を遮るように漆黒の壁が形成される。直後、着弾。
「――――っ!!」
想像以上の力がエイラを襲い、慌てて両手を伸ばし全力で耐える。
この、力は……!
エイラが本気を出してなお、必死に壁が壊させないようにするのが限界だった。
だが、その視界を通り抜けるように、巨大な真紅の光弾が複数自軍に飛来した。
「そんなっ」
一つを押さえている間に、残りが自軍に襲い掛かる。突如飛んできた光弾を避けられない者が多かった。
次の瞬間、着弾した箇所全てが凍り付いていた。巻き込まれた共生派の兵士たちも、大地も、それどころか積もっていた雪すらも。何もかもが完全に凍り付き、その動きを停止させている。
「くっ……!」
防いでいる壁自体も、着弾している部分も凍り付き、徐々に侵食してきていた。このままでは漆黒の壁を破壊されてしまう。
「ならば!」
凍らされてしまうのであれば、物量で勝負。凍る側から新たに魔力を送り、どうにか均衡を保ち続けることに成功した。
やがて光弾の威力が収まり、霧散して消えていった。息も絶え絶えではあるが何とか一つを防ぎ切り、エイラは凍った地点へ急ごうとする。だが、凍った箇所は徐々に周囲へと侵食しており、凍った仲間を助けようと近づいた者すらも凍らせていた。
急襲でこちらの動きが緩慢になったことを、王貴軍は見逃さない。
「今だ!! 奴らは動揺している、この機に畳みかけろ!!!」
すぐさまこちらの陣営へと突撃を開始しており、前線が遂に激突。先ほどの攻撃が敵の士気を上げており、元々の兵力差もある。徐々に前線が押され始めていた。
そうしている間にも、また真紅の光弾が自軍へと降り注いでいく。
っ、ドライルは……!
最前線にいたはずのドライル。その目の前には中年に差し掛かるくらいの男が立っていた。
その手に、刀身の紅い大斧を担いで。
「っ、そういう事ですね……!」
ドライルは既に冥界の武具を持つ者と対峙している。一方で止まらない真紅の光弾。
つまり、敵軍には二人、冥界の力を有している者がいるということだった。
ドライルが一人を食い止めてくれるのならば、こちらがやらなければならないことは一つ。
真紅の光弾は王貴軍の最後方より飛んで来ている。
それを、止めればいいのでしょう!
「エイラ!」
声に振り向くと、そこにはリノとその部隊がいた。
「あれを止めに行って! 道は私たちで作る!」
「ありがとうございます! でも無理はしないで!」
応答にリノが頷くのを見て、エイラは前を見た。
どんどん前線が押され、いつの間にか視界一杯に敵軍が溢れていた。
「……傷は勲章って言いますし、多少は許してくださいね!」
リノ達が飛び出すと同時に、エイラは進軍を開始した。
※※※※※
エイラが敵陣を一気に蹴散らしていくのが横目に見えた。
あの光弾はエイラに任せればいいだろう。
「よそ見とは、流石英雄様は余裕があるなぁ」
今は俺がコイツの相手をしなくては。
ドライルを前にして、ディクソン・デンバンダンこそ余裕を見せていた。いきなり斬りかかるわけでもなく、まるでドライルを嘲笑うかのように視線を向けてくる。少し太った体躯と中途半端に伸ばした金髪。戦えるようにはあまり見えなかった。
周囲では既に戦闘が始まっているというのに、まるで戦況には興味がないかのようだ。
「……その力、どこで手に入れた」
何を差しているのか、ディクソンは分かっている。肩に担いでいた大斧を高々と掲げ、下卑た笑みを浮かべていた。
「俺は選ばれたのさ。命を選定する力を! 命を好きにできる力を!! 俺はそういう運命にあった! 最初から決まっていた!」
随分と高揚した様子で語るディクソン。
だが、こちらには時間がない。こうしている間にも自軍が危機に晒されているのだ。
「問いの答えになっていないな!」
隙だらけのディクソンの懐に一瞬で入り、一気に黒獣化した拳を叩きつける。
その一撃を、ディクソンは大斧の側面で軽々と受け止めていた。
「なっ」
大斧は高々と掲げられ、悦に浸るように語っていたはずだ。確かにそれは隙で、確実に決まったと思ったのに。
「おいおいその程度か、英雄って奴はぁ!」
「っ」
そのまま勢いよく側面を叩きつけられた。一気に脳が揺れ、視界が一瞬弾ける。次の瞬間には、アイレンゾード跡地を軽々と突き抜け、周囲の森林へ吹き飛ばされていた。
すべての骨が砕けてしまったんじゃないかと思えるほどに、体中が軋む。衝撃で噛んだのか、唇からは血が流れて雪を紅く染めていく。
ぼーっとする頭に、クロの声が響く。
「《おい、気を抜くな。魔王でなくても、向こうは冥界の力を持ってるんだぞ》」
「ああ、悪い……」
ゆらゆらと体を起こしている間に、ディクソンの声が聞こえてくる。
「いい、いいぞ! これがあれば俺は英雄をも超えられる……! この《死斧ヘルメス》があれば!!」
吹き飛んだドライルへ、ディクソンが飛び出す。
「英雄英雄五月蠅いな……!」
応じるように、ドライルもまた前へと飛び出した。
※※※※※
「はぁ、はぁ……ようやく、見つけました」
息も絶え絶えの中、リノたちの協力もあってエイラはようやく敵軍を抜け出し、目的の相手と対峙していた。
そして一瞬驚く。カイとそんなに変わらないような青年だったのだ。金髪を短く刈り上げており、服装からも随分と豪勢な暮らしをしているのだと分かる。
「途中から見えてはいたが、よく抜けてこれたもんだ。元気があるメイドもいいな、ベッドの上ではさぞ楽しませてくれるんだろう」
「……流石にカイ様に悪いですね、同じにするのは」
今の発言で、エイラの中の加減は一瞬にして消え去った。
とりあえずエイラが到着したことで、自軍を襲う真紅の光弾は無くなった。とはいえ元々の戦力差がある。早く戻るに越したことはない。
その青年の手には真紅に光る弓が見えた。どうやらそれで、これまでの光弾を打ち出していたらしい。
エイラの視線に気づいた青年が、自慢するように弓を持ち上げる。
「いいだろう、父上曰く、《零命ケルビエル》と言うらしい。何もかもを静止させる力さ。今にお前も俺のコレクションに入れてやる」
「父上ということは、デンバンダン家のご子息なのですね」
「ギャズだ」
「可哀そうに、デンバンダン家はあなたで最後ですね」
「なんだとっ」
「そのコレクションとやらを今のうちに愛でに帰ったら如何です? もう会えなくなるんですから」
嘲笑を浮かべるエイラに、ギャズは青筋を額に浮かべていた。
「メイド風情が、その口凍らせてやる!」
次の瞬間、目の前からギャズが姿を消した。驚くエイラだったが、すぐにその姿を見つけた。いつの間にかエイラからかなり離れた位置で、弓を絞っていたのだ。
近くまで来られても勝つ自信があったから、ここに来るまで手を出して来なかったのだと思ってはいたが、それ程の速度を出せるとは。
どうやら冥界の力は使う者の身体能力も上げるようですね。
セインと似ているが、その実際はあまりにかけ離れている。
きっと冥界の力は《命》を奪うためにあるのだから。
「喰らえ!」
放たれる真紅の光弾。距離が今までよりもずっと近いため、速度が上昇したように感じる。
「《重圧逆巻く怒号!》」
先ほどのような漆黒の壁を形成し、それに前方向の重力をかける。すぐに壁へ光弾が衝突するが、重力が壁を支え続けていた。
その間に横を通り抜け、ギャズへと飛び出す。
「《グラビティ・インパクト!》」
動きが速いならば、捕らえればいい。
「当たるかよっ」
だが、重力の発生よりも早くギャズはその場を飛び去っていた。いつの間にか周囲を縦横無尽に移動しており、エイラは四方八方からいつでも狙われる形になる。
あちこちからギャズの声が聞こえてくる。
「今謝るなら許してやろう、代わりに俺へ一生尽くしてもらうがな」
「生憎ですが――」
危機に瀕しているというのに、エイラは微笑んだ。
「私が尽くす人はとうに決めていますから」
「それを略奪するのがいいんだろ!」
「性癖をぶつけてこないでください。気持ちが悪――」
その時だった。
あまりに獰猛な咆哮がアイレンゾード跡地に響き渡った。
その場にいた誰もが、聞こえてきた方へと視線を向ける。
エイラも例外ではなく。ドライルも例外ではなく。
なぜなら目の前に対峙している相手以上の力の波動を感じ取ったからだ。
魔界に漂う赤紫色の雲。そこからゆっくりと顔を出すように。
白銀の竜が姿を現していた。
アイレンゾード跡地を容易く覆えるほどの体躯が、ここにいる全ての頭上に突如として出現したのだ。
「何、ですか、あれは……!?」
唖然とするエイラ。下からではあまりに大きすぎて全貌が分からない。
エイラの意識は完全に頭上の化け物へと注がれていた。
注がれてしまった。
「っ!?」
突如として鋭い痛みがエイラの右手を襲う。
視線を向けると、そこは凍っていた。
ギャズが笑う。
「戦いの最中によそ見は厳禁だろ。ま、俺のコレクションになりたいって言うなら別だが」
「……っ!」
痛みが引くことはなく、更に凍った箇所からどんどん広がっていく。右手だけだったのに、もう肘まで上がってきていた。
「さあ、絶体絶命。俺に命乞いでもしたらどうだ? どちらにせよ、あの化け物が出てきたんだ。勝ち目はないさ」
エイラは唇を噛み、痛みに耐えながら問う。
「……あれは何なんですか」
「ん、ああ。この竜か。俺も父上から聞いてただけでビビったが、あれは――」
※※※※※
「――《冥竜ドラゴノート》という化け物さ」
得意げに語るディクソン。体のあちこちから血が流れているが、何も気にした様子ではなく、変わらず高揚していた。
「戦局次第で貸してくれると言っていたんだ。分かるか、最初から俺たちの負けなどあり得なかったんだ」
「…誰が、貸してくれた、んだ……」
その視界の先に、ドライルは倒れこんでいた。体中ボロボロで、地面を転がったのか、あちこちに雪をつけている。時々咳き込んでは血を吐いていた。
その様子にディクソンは嬉しくて仕方がなかった。
「ふん、誰かなんて関係ないだろう。大切なのは今、俺が、お前を蹂躙している! ただそれだけだ!」
「っ」
ドライルはよろよろと立ち上がり、ディクソンを睨みつけた。
決してこちらの攻撃が通じていないわけではない。当たっているはずなのに、応えた様子を見せないのだ。それどころか、奴の力がどんどん増していく始末。
十中八九あの《死斧ヘルメス》の仕業なのだろうが。
《冥竜ドラゴノート》とか言う化け物も出てきてしまった。
戦況は最悪だ。まさかここまでの状況にさせられるとは。
カイの言う通り、警戒したつもりではあったが、想像をはるかに超えてきていた。
三つの冥界の力が、戦局を大きく変えていた。
くそ、どうする……。
その時、ドライルとエイラを襲う既知の魔力。
「え……」
ドライルもエイラも、再び視線を目の前の相手から逸らす。ギャズが再びエイラへと攻撃を加えようとするも、どこからか飛んできた魔弾に遮られていた。
何で……。
援軍は必要ないって言ったのに。
二人の視線の遥か先、既に王貴派優勢で進んでいる戦場のど真ん中に。
彼女達は突如として姿を現した。
戦場には似合わない少女たちの出現に、戦場は一瞬時が止まった。
「もう始まってしまっています。お二人とも、分かっていると思いますが無茶だけは――」
「いいねぇ、久々の戦いだー! ボコボコにするぞ!!」
「……ふん」
「……無用な心配でしたね」
後ろで一つに結い上げた白髪が揺れ、困ったように彼女が笑う。群青色のミニスカートが上衣の白に良く映え、スラっと伸びる両脚を黒いニーハイソックスが包んでいる。
「私的にはむしろそっちこそ気を付けてくれよ。もし怪我でもしたらカイに絶対どやされる」
「私は覚悟してきましたから、大丈夫です!」
「というか、風邪ひかないか? その恰好」
「戦いなので動きやすいようにと思ったのですが、確かに寒い……」
「馬鹿だな」
「む、お二人だって薄着じゃないですか!」
「私は気合で何とかなる!」
「何ですかそれ……」
「もういい? さっさと始めたいんだけど」
相変わらず彼女は黒髪を無造作に跳ねらせながら、両手に大剣を出現させた。
「それに関しては私も賛成だ!」
拳を構え、今にも飛び出しそうな様子に、彼女も。
イデアも長銃を二本構えた。
「では、お互い怪我しないように、風邪もひかないように、そして怪我させないように頑張りましょう!」
「無茶を言うな」
「さあ、かかってこーーーーい!!」
共生派対王貴派の戦場。
三つの冥界の力が戦局を動かすこの場所に。
イデア、シーナ、レイニーの三人が到着したのだった。
「準備万端、といった様子です。後はこちらの出方を窺っているのかと」
「……よし、行こうか」
深雪を踏みしめ、仲間たちの間を掻き分けながら最前線へ。視線いっぱい雪に包まれた更地が地平線まで続いている。元々は魔界最大の王都アイレンゾードだったのだから、当然か。
その地平線の彼方に何とか視認できるぐらいの黒い影。
王貴派だ。
これ程の人間が未だ王貴派なのか、と思ってしまうほどに、向こうの陣営には無数の武装した兵士たちが見えた。
ただ、そう単純な話ではないのだろう。
ドライルは隣に立つエイラへと尋ねた。
「あの中のどれだけが王貴派に脅され操られている平民だろうな」
「さあ、腐った思考がすることですから、あまり想像できませんね。ただ、見たところ幸の薄そうな顔がちらほらありますし、間違いなくいるでしょうね」
「幸薄そうって、おまえな……」
だが、エイラの言わんとしていることも分かる。向こうの陣営の中に、明らかにボロボロの防具をつけ、戦う前から既に疲弊して見える者がいくらかいるのだ。それこそ生気があるのかどうかすら疑わしいほどに。
「あなたの言う通り何かしら弱みを握られているのは確かなのでは。こちらに逃げることもままならないほどに。例えば最愛の者の命、とか」
「確かに腐った思考だ」
「え、今のはその思考に辿り着いた私に言ったんですか?」
「んなわけないだろ……」
「ですよね、あぁ良かった。危うくこちら側の総大将の首が戦闘前に飛ぶところでした」
「縁起の悪いこと言うな。戦闘中も戦闘後も飛ばす予定はないぞ」
いつもの軽口を交わしながら、今度は自陣へ視線を向ける。既にいつでも出陣できると全員が視線でドライルを見つめてきていた。
ここにいる誰もが、この日を待ちわびていた。王貴派を下し、すべての悪魔族が階級などという縛りから解放される瞬間を。
中にリノの姿が見えた。彼女はいつも危険な戦場だろうと何だろうと、必ずドライルの参加する戦いについてくる。こちらがひやひやするからやめてもらいたいものだが、向こうも待ってるだけは嫌だと言い張って平行線、最後にはいつもドライルが負けるのだった。
リノが頷き、元気な赤いポニーテールが揺れる。応えるようにドライルは頷いた。
きっと待っているのだろう、総大将の言葉というものを。
何も全く考えていなかったわけではないが、ここに来るまでにまとまらなかった。
でも今、こんなに沢山の同じ志を持つ者に囲まれて、ドライル自身高揚する気持ちを止められなかった。
もっと自惚れてください。
この前のエイラの言葉が思い返される。
英雄だからついてきてくれたのではなく、俺だから一緒に戦ってくれるのならば。
ドライルは黒い翼を広げて飛翔し、自軍全体が見える位置まで上昇した。
共生派四万、王貴派六万。
二万の兵力差は大きいだろう。けれど、負けることはないという自負があった。
ゆっくりと深呼吸し、やがてドライルは拳を突き上げた。
「ここにいることを必ず後悔させない! 俺についてきたことを必ず後悔させない! 俺を信じて突き進め! 今こそ大願を果たすときだ! 階級なんてくだらないものをかなぐり捨てて、すべての悪魔族を今ここに解放するぞ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ドライルの叫ぶような声に呼応するように、四万の命が雄たけびを上げ、大地も空気も鳴動する。
それが開戦の合図となった。
「行くぞ!!!」
四万の誰よりも早く、ドライルが前へと躍り出る。総大将自ら単騎突撃するその姿に、鼓舞されない味方はいない。ドライルを追いかけるように各部隊前へと飛び出し始めた。
何もない地平をすさまじい速度でドライルは駆け抜けていく。
目指すは向こうの総大将だ。
魔王べグリフがいなくなり、統率が取れなくなったはずの王貴派をまとめ上げた者。つまり、事実上周りを黙らせるだけの力を有しているということ。
ディクソン・デンバンダン。
先日、向こうの総大将について報告を受けた。デンバンダン家と言えば確かに王貴派ではあったが、つい最近まで目立った動きをしていなかったように思える。そもそもとして、六万という兵をまとめ上げるだけの実力があるようには思えなかった。
何か、裏がある。それだけは確かだった。
ちょうど昨日、カイから一報が入った。
「天界で冥界絡みの事件があったらしい」
冥界。
その言葉を聞くだけで、ドライルは身体が緊張するのを感じた。それは、魔王べグリフとの死闘を思い出させる。
「話に聞くところだと、何でも黒ローブに身を纏った男が冥界の武具を適当な奴に無償提供しようとしていたそうだ」
冥界の武具。べグリフの有していた《大剣ハデス》もその一つだろう。そんな強力なものを譲り渡している、危険思想甚だしい奴がいるという信じられない話だった。
「この前飲んだ時の話を思い出してさ。ドライルがいること分かってて戦いを挑んでくるってことは、そいつには自信があるってことだ。絶対って確証があるわけじゃないけど、万が一もある。警戒しろよ」
カイが何を伝えようとしているのか、即座に理解した。
つまり、向こうの総大将であるディクソンが冥界の武具を持っている可能性がある、ということだった。
もしそうならば、余計にドライルが対処しなくては。違ったとしても、総大将を打ち取れば一気に終戦へと向かうことができる。
先ほどの雄たけびが聞こえていたのだろう、王貴派の陣営も進軍していた。
もう少しでドライルと王貴軍が激突する。
その寸前の出来事だった。
王貴派の陣営から、真紅の光弾が流れ星のように空を駆けた。
ドライルの頭上を通り、そのまま共生軍の方へ。
体に駆け抜ける力の波動。直に感じたことがあるから分かる。
間違いない。
あの力は。
冥界のものだ。
「っ、エイラ!」
「カイ様の悪い予感はよく当たりますね!!」
後方、ドライルに呼ばれるよりも前に、エイラは魔力を解放していた。眼球が黒く染まり、瞳は赤く変わる。
「《悪意ある拒絶!》」
真紅の光弾を遮るように漆黒の壁が形成される。直後、着弾。
「――――っ!!」
想像以上の力がエイラを襲い、慌てて両手を伸ばし全力で耐える。
この、力は……!
エイラが本気を出してなお、必死に壁が壊させないようにするのが限界だった。
だが、その視界を通り抜けるように、巨大な真紅の光弾が複数自軍に飛来した。
「そんなっ」
一つを押さえている間に、残りが自軍に襲い掛かる。突如飛んできた光弾を避けられない者が多かった。
次の瞬間、着弾した箇所全てが凍り付いていた。巻き込まれた共生派の兵士たちも、大地も、それどころか積もっていた雪すらも。何もかもが完全に凍り付き、その動きを停止させている。
「くっ……!」
防いでいる壁自体も、着弾している部分も凍り付き、徐々に侵食してきていた。このままでは漆黒の壁を破壊されてしまう。
「ならば!」
凍らされてしまうのであれば、物量で勝負。凍る側から新たに魔力を送り、どうにか均衡を保ち続けることに成功した。
やがて光弾の威力が収まり、霧散して消えていった。息も絶え絶えではあるが何とか一つを防ぎ切り、エイラは凍った地点へ急ごうとする。だが、凍った箇所は徐々に周囲へと侵食しており、凍った仲間を助けようと近づいた者すらも凍らせていた。
急襲でこちらの動きが緩慢になったことを、王貴軍は見逃さない。
「今だ!! 奴らは動揺している、この機に畳みかけろ!!!」
すぐさまこちらの陣営へと突撃を開始しており、前線が遂に激突。先ほどの攻撃が敵の士気を上げており、元々の兵力差もある。徐々に前線が押され始めていた。
そうしている間にも、また真紅の光弾が自軍へと降り注いでいく。
っ、ドライルは……!
最前線にいたはずのドライル。その目の前には中年に差し掛かるくらいの男が立っていた。
その手に、刀身の紅い大斧を担いで。
「っ、そういう事ですね……!」
ドライルは既に冥界の武具を持つ者と対峙している。一方で止まらない真紅の光弾。
つまり、敵軍には二人、冥界の力を有している者がいるということだった。
ドライルが一人を食い止めてくれるのならば、こちらがやらなければならないことは一つ。
真紅の光弾は王貴軍の最後方より飛んで来ている。
それを、止めればいいのでしょう!
「エイラ!」
声に振り向くと、そこにはリノとその部隊がいた。
「あれを止めに行って! 道は私たちで作る!」
「ありがとうございます! でも無理はしないで!」
応答にリノが頷くのを見て、エイラは前を見た。
どんどん前線が押され、いつの間にか視界一杯に敵軍が溢れていた。
「……傷は勲章って言いますし、多少は許してくださいね!」
リノ達が飛び出すと同時に、エイラは進軍を開始した。
※※※※※
エイラが敵陣を一気に蹴散らしていくのが横目に見えた。
あの光弾はエイラに任せればいいだろう。
「よそ見とは、流石英雄様は余裕があるなぁ」
今は俺がコイツの相手をしなくては。
ドライルを前にして、ディクソン・デンバンダンこそ余裕を見せていた。いきなり斬りかかるわけでもなく、まるでドライルを嘲笑うかのように視線を向けてくる。少し太った体躯と中途半端に伸ばした金髪。戦えるようにはあまり見えなかった。
周囲では既に戦闘が始まっているというのに、まるで戦況には興味がないかのようだ。
「……その力、どこで手に入れた」
何を差しているのか、ディクソンは分かっている。肩に担いでいた大斧を高々と掲げ、下卑た笑みを浮かべていた。
「俺は選ばれたのさ。命を選定する力を! 命を好きにできる力を!! 俺はそういう運命にあった! 最初から決まっていた!」
随分と高揚した様子で語るディクソン。
だが、こちらには時間がない。こうしている間にも自軍が危機に晒されているのだ。
「問いの答えになっていないな!」
隙だらけのディクソンの懐に一瞬で入り、一気に黒獣化した拳を叩きつける。
その一撃を、ディクソンは大斧の側面で軽々と受け止めていた。
「なっ」
大斧は高々と掲げられ、悦に浸るように語っていたはずだ。確かにそれは隙で、確実に決まったと思ったのに。
「おいおいその程度か、英雄って奴はぁ!」
「っ」
そのまま勢いよく側面を叩きつけられた。一気に脳が揺れ、視界が一瞬弾ける。次の瞬間には、アイレンゾード跡地を軽々と突き抜け、周囲の森林へ吹き飛ばされていた。
すべての骨が砕けてしまったんじゃないかと思えるほどに、体中が軋む。衝撃で噛んだのか、唇からは血が流れて雪を紅く染めていく。
ぼーっとする頭に、クロの声が響く。
「《おい、気を抜くな。魔王でなくても、向こうは冥界の力を持ってるんだぞ》」
「ああ、悪い……」
ゆらゆらと体を起こしている間に、ディクソンの声が聞こえてくる。
「いい、いいぞ! これがあれば俺は英雄をも超えられる……! この《死斧ヘルメス》があれば!!」
吹き飛んだドライルへ、ディクソンが飛び出す。
「英雄英雄五月蠅いな……!」
応じるように、ドライルもまた前へと飛び出した。
※※※※※
「はぁ、はぁ……ようやく、見つけました」
息も絶え絶えの中、リノたちの協力もあってエイラはようやく敵軍を抜け出し、目的の相手と対峙していた。
そして一瞬驚く。カイとそんなに変わらないような青年だったのだ。金髪を短く刈り上げており、服装からも随分と豪勢な暮らしをしているのだと分かる。
「途中から見えてはいたが、よく抜けてこれたもんだ。元気があるメイドもいいな、ベッドの上ではさぞ楽しませてくれるんだろう」
「……流石にカイ様に悪いですね、同じにするのは」
今の発言で、エイラの中の加減は一瞬にして消え去った。
とりあえずエイラが到着したことで、自軍を襲う真紅の光弾は無くなった。とはいえ元々の戦力差がある。早く戻るに越したことはない。
その青年の手には真紅に光る弓が見えた。どうやらそれで、これまでの光弾を打ち出していたらしい。
エイラの視線に気づいた青年が、自慢するように弓を持ち上げる。
「いいだろう、父上曰く、《零命ケルビエル》と言うらしい。何もかもを静止させる力さ。今にお前も俺のコレクションに入れてやる」
「父上ということは、デンバンダン家のご子息なのですね」
「ギャズだ」
「可哀そうに、デンバンダン家はあなたで最後ですね」
「なんだとっ」
「そのコレクションとやらを今のうちに愛でに帰ったら如何です? もう会えなくなるんですから」
嘲笑を浮かべるエイラに、ギャズは青筋を額に浮かべていた。
「メイド風情が、その口凍らせてやる!」
次の瞬間、目の前からギャズが姿を消した。驚くエイラだったが、すぐにその姿を見つけた。いつの間にかエイラからかなり離れた位置で、弓を絞っていたのだ。
近くまで来られても勝つ自信があったから、ここに来るまで手を出して来なかったのだと思ってはいたが、それ程の速度を出せるとは。
どうやら冥界の力は使う者の身体能力も上げるようですね。
セインと似ているが、その実際はあまりにかけ離れている。
きっと冥界の力は《命》を奪うためにあるのだから。
「喰らえ!」
放たれる真紅の光弾。距離が今までよりもずっと近いため、速度が上昇したように感じる。
「《重圧逆巻く怒号!》」
先ほどのような漆黒の壁を形成し、それに前方向の重力をかける。すぐに壁へ光弾が衝突するが、重力が壁を支え続けていた。
その間に横を通り抜け、ギャズへと飛び出す。
「《グラビティ・インパクト!》」
動きが速いならば、捕らえればいい。
「当たるかよっ」
だが、重力の発生よりも早くギャズはその場を飛び去っていた。いつの間にか周囲を縦横無尽に移動しており、エイラは四方八方からいつでも狙われる形になる。
あちこちからギャズの声が聞こえてくる。
「今謝るなら許してやろう、代わりに俺へ一生尽くしてもらうがな」
「生憎ですが――」
危機に瀕しているというのに、エイラは微笑んだ。
「私が尽くす人はとうに決めていますから」
「それを略奪するのがいいんだろ!」
「性癖をぶつけてこないでください。気持ちが悪――」
その時だった。
あまりに獰猛な咆哮がアイレンゾード跡地に響き渡った。
その場にいた誰もが、聞こえてきた方へと視線を向ける。
エイラも例外ではなく。ドライルも例外ではなく。
なぜなら目の前に対峙している相手以上の力の波動を感じ取ったからだ。
魔界に漂う赤紫色の雲。そこからゆっくりと顔を出すように。
白銀の竜が姿を現していた。
アイレンゾード跡地を容易く覆えるほどの体躯が、ここにいる全ての頭上に突如として出現したのだ。
「何、ですか、あれは……!?」
唖然とするエイラ。下からではあまりに大きすぎて全貌が分からない。
エイラの意識は完全に頭上の化け物へと注がれていた。
注がれてしまった。
「っ!?」
突如として鋭い痛みがエイラの右手を襲う。
視線を向けると、そこは凍っていた。
ギャズが笑う。
「戦いの最中によそ見は厳禁だろ。ま、俺のコレクションになりたいって言うなら別だが」
「……っ!」
痛みが引くことはなく、更に凍った箇所からどんどん広がっていく。右手だけだったのに、もう肘まで上がってきていた。
「さあ、絶体絶命。俺に命乞いでもしたらどうだ? どちらにせよ、あの化け物が出てきたんだ。勝ち目はないさ」
エイラは唇を噛み、痛みに耐えながら問う。
「……あれは何なんですか」
「ん、ああ。この竜か。俺も父上から聞いてただけでビビったが、あれは――」
※※※※※
「――《冥竜ドラゴノート》という化け物さ」
得意げに語るディクソン。体のあちこちから血が流れているが、何も気にした様子ではなく、変わらず高揚していた。
「戦局次第で貸してくれると言っていたんだ。分かるか、最初から俺たちの負けなどあり得なかったんだ」
「…誰が、貸してくれた、んだ……」
その視界の先に、ドライルは倒れこんでいた。体中ボロボロで、地面を転がったのか、あちこちに雪をつけている。時々咳き込んでは血を吐いていた。
その様子にディクソンは嬉しくて仕方がなかった。
「ふん、誰かなんて関係ないだろう。大切なのは今、俺が、お前を蹂躙している! ただそれだけだ!」
「っ」
ドライルはよろよろと立ち上がり、ディクソンを睨みつけた。
決してこちらの攻撃が通じていないわけではない。当たっているはずなのに、応えた様子を見せないのだ。それどころか、奴の力がどんどん増していく始末。
十中八九あの《死斧ヘルメス》の仕業なのだろうが。
《冥竜ドラゴノート》とか言う化け物も出てきてしまった。
戦況は最悪だ。まさかここまでの状況にさせられるとは。
カイの言う通り、警戒したつもりではあったが、想像をはるかに超えてきていた。
三つの冥界の力が、戦局を大きく変えていた。
くそ、どうする……。
その時、ドライルとエイラを襲う既知の魔力。
「え……」
ドライルもエイラも、再び視線を目の前の相手から逸らす。ギャズが再びエイラへと攻撃を加えようとするも、どこからか飛んできた魔弾に遮られていた。
何で……。
援軍は必要ないって言ったのに。
二人の視線の遥か先、既に王貴派優勢で進んでいる戦場のど真ん中に。
彼女達は突如として姿を現した。
戦場には似合わない少女たちの出現に、戦場は一瞬時が止まった。
「もう始まってしまっています。お二人とも、分かっていると思いますが無茶だけは――」
「いいねぇ、久々の戦いだー! ボコボコにするぞ!!」
「……ふん」
「……無用な心配でしたね」
後ろで一つに結い上げた白髪が揺れ、困ったように彼女が笑う。群青色のミニスカートが上衣の白に良く映え、スラっと伸びる両脚を黒いニーハイソックスが包んでいる。
「私的にはむしろそっちこそ気を付けてくれよ。もし怪我でもしたらカイに絶対どやされる」
「私は覚悟してきましたから、大丈夫です!」
「というか、風邪ひかないか? その恰好」
「戦いなので動きやすいようにと思ったのですが、確かに寒い……」
「馬鹿だな」
「む、お二人だって薄着じゃないですか!」
「私は気合で何とかなる!」
「何ですかそれ……」
「もういい? さっさと始めたいんだけど」
相変わらず彼女は黒髪を無造作に跳ねらせながら、両手に大剣を出現させた。
「それに関しては私も賛成だ!」
拳を構え、今にも飛び出しそうな様子に、彼女も。
イデアも長銃を二本構えた。
「では、お互い怪我しないように、風邪もひかないように、そして怪我させないように頑張りましょう!」
「無茶を言うな」
「さあ、かかってこーーーーい!!」
共生派対王貴派の戦場。
三つの冥界の力が戦局を動かすこの場所に。
イデア、シーナ、レイニーの三人が到着したのだった。
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