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4『理想のその先へ』
4 第三章第三十六話「そして雷は繋いでいく・前編」
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ふと気付けば、いつの間にかエリスはシオルンと共に見知った場所に転移させられていた。
「えっ、……え?」
余りに唐突な事態に思考が全く追い付かず、エリスは隣にいるシオルンへ視線を向けたが、当然彼女も同じ様子。
チェイル王国にいたはずの彼らは、いつの間にかアルガス大国にいた。それも、大国の象徴であるクロックキャッスルの塔上。微妙に傾いた屋根ゆえに、脚を滑らせたら一発で落ちてしまうだろう。
すぐにシオルンの腰に手を回して、重心を動かして体勢を取る。
……どう考えてもカイの転移魔法、だよな。
カイが無意味に転移させるとは考えにくい。何か理由が……いや、悪戯でやっていてもおかしくないか。
一瞬カイを疑ったエリスだったが、徐々に自分達に影が差していくことに気付き、上を見上げ、そして驚愕した。
見上げた青空には大きな亀裂が走っており、ガラスのように割れた穴から大量に悪魔族が押し寄せて来ているのだ。
「何で悪魔族が!?」
本来ならこちらから魔界へ攻めに行くはずだったのに。
この時点で色々と想像を超える状況である事は理解できた。だからこそ、カイは自分達をここに送ったのだとも理解できた。
ということは、確信こそ持てないがチェイル王国は無事なのだろう。アルガス大国が狙われているからこその転移。
やらなきゃいけない事が何となく見えてきた。シンプルで良かったなぁ。
「要は、悪魔族を倒せば良いんだな!」
「ですね!」
シオルンからセインを受け取る。とりあえず、シオルンはここから下ろした方がいいか。塔の上とか普通に危ないし。何でこんな所に転移させたんだ。
「シオルン、とりあえず一回降りるぞ」
「え、あ、はい」
何か言いたげなシオルンを抱き寄せて塔から飛び降りようとする。
その時だった。
降りようとしたエリス達の眼前を何かが勢いよく昇って来たのだ。
「うわっ」
「きゃっ」
急に出てこられたものだから驚いてよろめいてしまう。危うく落下しそうになったが、どうにか踏ん張った。
そんなエリス達の隣に誰か着地した。勢いよく昇って来ていたのは人だったらしい。
その誰かさんへと視線を向け、エリスとシオルンは三度驚いた。
「げっ」
エリスは心底嫌そうな声を上げ、
「えーっと……」
シオルンは困惑した表情を見せる。
だが、嫌そうな表情を見せたのは相手も同じだった。
「何故お前がここにいる」
そう、ウェルムは言った。
ウェルム・ウィンドル。ウィンドル王国の現国王であり、以前このアルガス大国へと戦争を仕掛けた張本人でもある。あと一歩のところで大国女王マキナ・アルガスの首を取れそうだったが、そこにエリス達が乱入。戦いに発展した。
エリスとウェルムは、互いに王族としての在り方に不満を感じている。ウェルムはエリスの事を王族としての責務を全うしない放蕩王子であると認識しているし、エリスもまた王族としての立場にがっちがちに縛られている頑固極まりない王だと思っている。
これまた、その後お互いに王族の在り方について多少の柔軟性を手に入れてはいるものの、当然交流などするわけがない。結果、以前と相手は変わらないだろうと思ってしまい、馬が合わないのである。
「お前こそ何でここに――」
「《きっとどちらもカイさんが送って下さったのですよ》」
ふと下から機械を通したような声が聞こえてくる。そして、再び下から何かが昇って来た。
現れたのは巨大な人型機械、通称レグルス。機械国家アルガス大国においても、現状一機しかないもの。手には極大剣に大盾。更に、両肩には砲台が二つ搭載されている。
以前のウェルムとの戦いによって唯一の一機が破損していたが、その後どうにかこうにか修復にまで至っていた。
その胸部のコクピットに女王マキナは座っていた。
「《お久しぶりです、エリスさん、シオルンさん。その節は本当にありがとうございました。あなた方は私達の命の恩人です》」
空中に浮遊したまま、レグルスがゆっくりと頭を下げる。巨大な機械が礼をするものだから、とんでもない迫力だ。
別に大したことはしていないと、エリス達は首を横に振った。
「グレイさんは元気ですか?」
「《はい、何とか一命は取り留めました。今はまだ療養中ですが》」
アルガス大国の宰相グレイは先日の戦闘でウェルムによって致命傷を与えられていたが、どうにか命は繋ぐことが出来たようだ。
「ところで、コイツもカイが送ったって?」
エリスが親指でウェルムを指差す。
「《はい、急に目の前にウェルムさんがいらしたものですから、こちらも驚きました》」
悪魔族の襲来にいち早く気付いていたマキナはすぐに防衛機構と共に民をシェルターに避難させ、同時にレグスを起動していた。その過程で突如眼前にウェルムが現れたのである。
どこか不機嫌そうにウェルムが腕を組む。
「ふん、アイツがここに送ったということは、そういうことなのだろう」
「そういうことって……あぁ、属国扱いとしての役目を果たせってか」
ウィンドル王国は先の戦争に敗北したため、現在アルガス大国の旗下、つまり支配下にあるのである。
前回の責任をここで果たせ、というカイからのメッセージなのだろう。
とはいえ、マキナも当然複雑な心境ではある。
大切な人を殺されかけ、自分自身あと一歩のところで首を刎ねられるところだった。そんな相手を信用していいものだろうか。
もしかしたら、また急に裏切られるかもしれない。
ただ、そういう可能性を考えずにカイが送ってきたとは考えにくい。カイとはほんの少ししか接していないけれど、信用に足る過程が今までにある。
そんなカイがその可能性を理解した上で、ウェルムを送ってきたのだとすれば。
少しは信じてみていいのかもしれない。現に、アルガス大国で拘留されていた時は、随分大人しくなっていたし、今回も抵抗もせず従ってくれるようである。
今はこの面々を主として悪魔族を退けていきましょう。
頭上を見上げると、既に飛行型レグスが悪魔族と戦闘を開始しているところだった。
だが、ここで悪魔族が不思議な行動を見せる。
「何だ、仲間割れか?」
突然赤布を付けた悪魔族が他の悪魔を攻撃し始めたのだ。
突然の事態に一瞬動揺するが、マキナはすぐにコクピット中でレグスの行動プログラムを書き換えた。
理由は分からないが、今悪魔族の中で約半数程度が裏切ったのは確か。悪魔側を裏切るということは、こちらへ危害を加えるつもりはないと考えていい。
赤布をつけた悪魔族は攻撃しないように、レグスのプログラムを書き換えたのである。元もレグスはマキナが作ったものであり、そのような緻密な操作も可能であった。
「《良く分かりませんが便乗しましょう。あちらの裏切った悪魔に加えてレグス、そして私達さえいれば、容易く乗り切れるはずです》」
「よし! てか、とりあえずシオルンは移動させて?」
「こ、この際エリスが抱っこしてくれれば別に……」
シオルンが上目遣いでそう言うが、エリスは簡単に頷けはしなかった。
「いや流石にそのままは危――」
「させるなら早くしろ」
ウェルムの冷たい言い方に、エリスがムッとする。
「何だよ、まるでシオルンが邪魔みたいに。言っとくけどなぁ、シオルンがいるから俺は強く――」
だが、ウェルムは全くエリスの方を向くことなく、ただただ上を見上げ。
そして、険しい表情をしていた。
「生憎、容易くは行かなそうだ」
その視線をエリス達が追う。
混戦する空中。悪魔族とレジスタンスとレグスが入り乱れて、端から見ると何が何だか分からないくらいだ。
だが、その時何者かが穴から現れた。
その者はその巨躯からか周りの悪魔よりも一際存在感を放っている。
それだけが理由ではない。
レグスの装甲を容易く断ち、レジスタンスも悉く斬り裂いていく。その様まさに一騎当千。バッタバッタとこちら側の勢力が削がれていく。
「何だよ、アイツ……!」
「《なんて強さなの……!?》」
エリスとシオルン、マキナが驚愕の表情を浮かべる。
だが、ただ一人ウェルムはその正体を知っていた。
三メートルを超える巨躯。両の手に握られた大剣。
その大剣は見た目以上に質量を持っているはずなのに、まるで奴は棒切れを扱うように素早く振るう。ウェルムによる高速の剣戟すらも、容易く受け止めて見せた。
あの時、ウェルム以外にカイがいて、ヴァリウスがいて、セラがいて、シェーンがいて、そしてアグレシアが居たにも関わらず、全く歯が立たなかった相手。
唯一ゼノだけが太刀打ちできた相手。
容易いなんてとんでもない。
この三人だけで勝てるとは到底思えない。
奴の存在もあって、ウェルムは悪魔族に勝てないと思ったのだ。
絶望の名を、ウェルムが告げる。
「四魔将、アッシュだ」
アッシュの登場は、容易くこちらの全滅を予想させた。
「この戦い、奴を倒さねば勝ち目がないぞ」
アッシュだけでアルガス大国全てを滅ぼしてしまうだろう。
突如訪れた最悪の力。
そして、もうレジスタンスやレグスを相手にするのは充分だと思ったのか、アッシュがこちらを視線で捉える。
「っ」
「……行くぞ」
エリス達が臨戦態勢を取るのと、アッシュが混戦した中から飛び出してくるのは同時だった。
「えっ、……え?」
余りに唐突な事態に思考が全く追い付かず、エリスは隣にいるシオルンへ視線を向けたが、当然彼女も同じ様子。
チェイル王国にいたはずの彼らは、いつの間にかアルガス大国にいた。それも、大国の象徴であるクロックキャッスルの塔上。微妙に傾いた屋根ゆえに、脚を滑らせたら一発で落ちてしまうだろう。
すぐにシオルンの腰に手を回して、重心を動かして体勢を取る。
……どう考えてもカイの転移魔法、だよな。
カイが無意味に転移させるとは考えにくい。何か理由が……いや、悪戯でやっていてもおかしくないか。
一瞬カイを疑ったエリスだったが、徐々に自分達に影が差していくことに気付き、上を見上げ、そして驚愕した。
見上げた青空には大きな亀裂が走っており、ガラスのように割れた穴から大量に悪魔族が押し寄せて来ているのだ。
「何で悪魔族が!?」
本来ならこちらから魔界へ攻めに行くはずだったのに。
この時点で色々と想像を超える状況である事は理解できた。だからこそ、カイは自分達をここに送ったのだとも理解できた。
ということは、確信こそ持てないがチェイル王国は無事なのだろう。アルガス大国が狙われているからこその転移。
やらなきゃいけない事が何となく見えてきた。シンプルで良かったなぁ。
「要は、悪魔族を倒せば良いんだな!」
「ですね!」
シオルンからセインを受け取る。とりあえず、シオルンはここから下ろした方がいいか。塔の上とか普通に危ないし。何でこんな所に転移させたんだ。
「シオルン、とりあえず一回降りるぞ」
「え、あ、はい」
何か言いたげなシオルンを抱き寄せて塔から飛び降りようとする。
その時だった。
降りようとしたエリス達の眼前を何かが勢いよく昇って来たのだ。
「うわっ」
「きゃっ」
急に出てこられたものだから驚いてよろめいてしまう。危うく落下しそうになったが、どうにか踏ん張った。
そんなエリス達の隣に誰か着地した。勢いよく昇って来ていたのは人だったらしい。
その誰かさんへと視線を向け、エリスとシオルンは三度驚いた。
「げっ」
エリスは心底嫌そうな声を上げ、
「えーっと……」
シオルンは困惑した表情を見せる。
だが、嫌そうな表情を見せたのは相手も同じだった。
「何故お前がここにいる」
そう、ウェルムは言った。
ウェルム・ウィンドル。ウィンドル王国の現国王であり、以前このアルガス大国へと戦争を仕掛けた張本人でもある。あと一歩のところで大国女王マキナ・アルガスの首を取れそうだったが、そこにエリス達が乱入。戦いに発展した。
エリスとウェルムは、互いに王族としての在り方に不満を感じている。ウェルムはエリスの事を王族としての責務を全うしない放蕩王子であると認識しているし、エリスもまた王族としての立場にがっちがちに縛られている頑固極まりない王だと思っている。
これまた、その後お互いに王族の在り方について多少の柔軟性を手に入れてはいるものの、当然交流などするわけがない。結果、以前と相手は変わらないだろうと思ってしまい、馬が合わないのである。
「お前こそ何でここに――」
「《きっとどちらもカイさんが送って下さったのですよ》」
ふと下から機械を通したような声が聞こえてくる。そして、再び下から何かが昇って来た。
現れたのは巨大な人型機械、通称レグルス。機械国家アルガス大国においても、現状一機しかないもの。手には極大剣に大盾。更に、両肩には砲台が二つ搭載されている。
以前のウェルムとの戦いによって唯一の一機が破損していたが、その後どうにかこうにか修復にまで至っていた。
その胸部のコクピットに女王マキナは座っていた。
「《お久しぶりです、エリスさん、シオルンさん。その節は本当にありがとうございました。あなた方は私達の命の恩人です》」
空中に浮遊したまま、レグルスがゆっくりと頭を下げる。巨大な機械が礼をするものだから、とんでもない迫力だ。
別に大したことはしていないと、エリス達は首を横に振った。
「グレイさんは元気ですか?」
「《はい、何とか一命は取り留めました。今はまだ療養中ですが》」
アルガス大国の宰相グレイは先日の戦闘でウェルムによって致命傷を与えられていたが、どうにか命は繋ぐことが出来たようだ。
「ところで、コイツもカイが送ったって?」
エリスが親指でウェルムを指差す。
「《はい、急に目の前にウェルムさんがいらしたものですから、こちらも驚きました》」
悪魔族の襲来にいち早く気付いていたマキナはすぐに防衛機構と共に民をシェルターに避難させ、同時にレグスを起動していた。その過程で突如眼前にウェルムが現れたのである。
どこか不機嫌そうにウェルムが腕を組む。
「ふん、アイツがここに送ったということは、そういうことなのだろう」
「そういうことって……あぁ、属国扱いとしての役目を果たせってか」
ウィンドル王国は先の戦争に敗北したため、現在アルガス大国の旗下、つまり支配下にあるのである。
前回の責任をここで果たせ、というカイからのメッセージなのだろう。
とはいえ、マキナも当然複雑な心境ではある。
大切な人を殺されかけ、自分自身あと一歩のところで首を刎ねられるところだった。そんな相手を信用していいものだろうか。
もしかしたら、また急に裏切られるかもしれない。
ただ、そういう可能性を考えずにカイが送ってきたとは考えにくい。カイとはほんの少ししか接していないけれど、信用に足る過程が今までにある。
そんなカイがその可能性を理解した上で、ウェルムを送ってきたのだとすれば。
少しは信じてみていいのかもしれない。現に、アルガス大国で拘留されていた時は、随分大人しくなっていたし、今回も抵抗もせず従ってくれるようである。
今はこの面々を主として悪魔族を退けていきましょう。
頭上を見上げると、既に飛行型レグスが悪魔族と戦闘を開始しているところだった。
だが、ここで悪魔族が不思議な行動を見せる。
「何だ、仲間割れか?」
突然赤布を付けた悪魔族が他の悪魔を攻撃し始めたのだ。
突然の事態に一瞬動揺するが、マキナはすぐにコクピット中でレグスの行動プログラムを書き換えた。
理由は分からないが、今悪魔族の中で約半数程度が裏切ったのは確か。悪魔側を裏切るということは、こちらへ危害を加えるつもりはないと考えていい。
赤布をつけた悪魔族は攻撃しないように、レグスのプログラムを書き換えたのである。元もレグスはマキナが作ったものであり、そのような緻密な操作も可能であった。
「《良く分かりませんが便乗しましょう。あちらの裏切った悪魔に加えてレグス、そして私達さえいれば、容易く乗り切れるはずです》」
「よし! てか、とりあえずシオルンは移動させて?」
「こ、この際エリスが抱っこしてくれれば別に……」
シオルンが上目遣いでそう言うが、エリスは簡単に頷けはしなかった。
「いや流石にそのままは危――」
「させるなら早くしろ」
ウェルムの冷たい言い方に、エリスがムッとする。
「何だよ、まるでシオルンが邪魔みたいに。言っとくけどなぁ、シオルンがいるから俺は強く――」
だが、ウェルムは全くエリスの方を向くことなく、ただただ上を見上げ。
そして、険しい表情をしていた。
「生憎、容易くは行かなそうだ」
その視線をエリス達が追う。
混戦する空中。悪魔族とレジスタンスとレグスが入り乱れて、端から見ると何が何だか分からないくらいだ。
だが、その時何者かが穴から現れた。
その者はその巨躯からか周りの悪魔よりも一際存在感を放っている。
それだけが理由ではない。
レグスの装甲を容易く断ち、レジスタンスも悉く斬り裂いていく。その様まさに一騎当千。バッタバッタとこちら側の勢力が削がれていく。
「何だよ、アイツ……!」
「《なんて強さなの……!?》」
エリスとシオルン、マキナが驚愕の表情を浮かべる。
だが、ただ一人ウェルムはその正体を知っていた。
三メートルを超える巨躯。両の手に握られた大剣。
その大剣は見た目以上に質量を持っているはずなのに、まるで奴は棒切れを扱うように素早く振るう。ウェルムによる高速の剣戟すらも、容易く受け止めて見せた。
あの時、ウェルム以外にカイがいて、ヴァリウスがいて、セラがいて、シェーンがいて、そしてアグレシアが居たにも関わらず、全く歯が立たなかった相手。
唯一ゼノだけが太刀打ちできた相手。
容易いなんてとんでもない。
この三人だけで勝てるとは到底思えない。
奴の存在もあって、ウェルムは悪魔族に勝てないと思ったのだ。
絶望の名を、ウェルムが告げる。
「四魔将、アッシュだ」
アッシュの登場は、容易くこちらの全滅を予想させた。
「この戦い、奴を倒さねば勝ち目がないぞ」
アッシュだけでアルガス大国全てを滅ぼしてしまうだろう。
突如訪れた最悪の力。
そして、もうレジスタンスやレグスを相手にするのは充分だと思ったのか、アッシュがこちらを視線で捉える。
「っ」
「……行くぞ」
エリス達が臨戦態勢を取るのと、アッシュが混戦した中から飛び出してくるのは同時だった。
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