カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

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3『過去の聖戦』

3 第四章第四十六話「再生の日」

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エイラ

天使族による本格的な人族解放は、あの激しい戦いから二か月後。つまりゼノが目覚めてから一か月後に行われた。目覚めてからというもの、ゼノも全力でそちらへ取り組み、遂に実現へと至ったのである。

天使族は人族を解放し、いくつかの都市を人族へと提供した。都市の選定はセラ達ハート家が行ってくれた。集落から近く、多くの人数を住まわせることの出来る都市を五つ。そして、新たに二つの都市を開発してくれた。計七つ。

そのおかげで、漸く人族は陽の光を浴びることが出来るようになった。

突然放り出されても自給自足は難しいとの判断から、一定の期間における物資の補給も約束された。

この一定の期間という設定はゼノの提案だった。

「いつまで経ってもおんぶに抱っこじゃな。解放されたと言ってもずっと天使族から恵んでもらってたら結局天使族の下についているようなもんだ。自分の足で進めるようにならなきゃ、真の意味で解放とは言えないさ。俺は横並びになって欲しいんだよ」

彼の言葉を聞いて、否定するものは誰もいなかった。物資の面から継続した援助が難しいという理由もあったが、

「大丈夫、これまでずっと耐えてきた奴らだ。強いよ、絶対に」

何よりゼノが人族を信じているのが伝わってきたのだ。

こうして人族解放計画は着実に進められていき、実現に至った。

が、当然実現するまでに問題点もあった。

第一に、天使族への説明である。人族解放は反感を買う。貴族や諸侯達は特に顕著だと思われた。都市を明け渡し、物資を提供するというメリットどころかデメリットしかない人族解放に賛成する方がおかしいともいえる。

この問題を解決するために必要なことを、ゼノは民心の掌握だと語った。心に訴えかけ、誠意を見せ、少しずつ時間をかけていくしかないと。少なくとも過半数以上の賛成派は必要だった。そうすれば、デメリットについてもこれまで人族を奴隷として扱っていた報いとすることが出来るとハート家は考えていた。

つまり、現在必要なのは民心の賛成である。

そこで、戴冠式が行われた。

ずっと忙しく、シノの王位への就任は後回しにされていた。だが、民心を掌握するのにこれ程お誂え向きな機会もない。このタイミングで、人族解放を告げるしか方法はなかった。

ハート家の三姉妹が公の場に登場するということで、ハーティス城の前の広場は天使族でごった返していた。これまでずっと隠されていた彼女等が漸く姿を見せるのだから、この熱狂的な雰囲気も仕方ないものだった。

やがて、バルコニーからアイに続いて三姉妹が登場すると、一気に歓声が沸き上がった。

全員が煌びやかなドレスを着ており、彼女らが元から持っている美しさとも相まって神々しくも見えるほどだった。

何万という民衆、そしてセラとエクセロが傍で見守る中、アイからシノへと王位が渡された。

王冠と、そして八芒星のペンダントと共に。

驚いたようにシノがアイを見つめていたのを今でもよく覚えている。だから、八芒星のペンダントを受け取るとは思っていなかったのだろう。

八芒星のペンダント。アイがずっと大切に持っていたペンダント。八芒星は変わり続ける世界を指し、可能性や、再生の循環を象徴すると以前セラが言っていた。

今まさに世界を変えようとしている、無限の可能性の前に立つシノ達へのアイなりの後押しだった。

シノは涙ぐみ、それを必死に堪えて民衆の方を向いた。もしかしたら、アイから何かを贈られたのは初めてなのかもしれない。それでも泣くまいと潤んだ瞳を強い覚悟と共に向けていた。

そして、新女王の口から人族解放が告げられたのである。

当然、先程まで歓喜に沸き上がっていた民衆は、一気に困惑の表情を浮かべざわついていた。新女王の方針に疑心を抱かずにはいられなかったのだろう。

それでもシノは語った。

「我々は失うのではない。生を手にするのだ。人族はどんなに辛く厳しい状況でも、必死に生きようとする。我々に奴隷としてぞんざいな扱いを受けていても、諦めずに立ち上がろうとする。彼らには生きようとする、立ち上がろうとする程の希望が、意志がある。家族や友人、もしくは自分自身。或いはそれ以外の何かが希望や意志となって彼らを突き動かしている。……彼らの命はとても輝いている。誰よりも命に、希望に、意志に溢れている。我々だって何かの為に生きている。だが、彼らほど命は輝いていない。我々は命を淘汰している。輝きを放つ命を排除している。最早我々の輝きはくすんでしまった。淘汰を当然とし、命を選ぶ我々のどこに希望が、意志があるというのだろう。我々はただ当然のようにそこに生き、立っているだけ。命を淘汰する理由を考えず、そういうものだと口をそろえて言うだけ。生きようとする意志が、立ち上がろうとする希望がない。……それでは死んでいるのと何も変わらない。だから、もう一度我々は輝きを取り戻す。息を吹き返す。生きようとする意志を手に入れる。己を手に入れる。その為には淘汰してきた命を救わなければならない。我々が地獄へと突き落としてきた命を、我々と同じ世界まで引き上げなければならない。それが、我々が我々として生き始める第一歩となる。光り輝く命が、くすんでしまった我々の世界を明るく照らしてくれる。その瞬間が我々の再生だ。命を知って、生きる意味を考え、生きようとする意志を手にするのだ。……ゆえに、我々は人族を解放する!」

しんと静まり返った城前広場。シノは民衆をじっと見つめていた。

堪えていたはずの涙はいつの間にかシノの瞳から流れていた。それでも毅然とした態度で彼女は前を見続ける。

彼女の想いは十分に込められていた。

彼女にはもう意志があるのだから。

静寂が続く中、突然誰かが叫んだ。

「女王陛下、万歳!」

すると、段々とそれが周囲へと伝播していく。

「女王陛下、万歳!」

「女王陛下、万歳!」

やがてそれは大合唱のように国中に鳴り響いた。

彼女の想いは伝わった。誰もが彼女の名前を呼ぶ。きっと全員納得したわけではない。いまだに反対派がいることだろう。けれど、声を上げてくれている賛成派の民衆の全員が、尊敬の眼差しで彼女を見つめていた。

私の隣で、ゼノは笑っていた。

「少しずつ時間をかけていかなきゃって思ってたんだけどな。流石セラのお姉さんだ」

シノはやはり涙を流しながらギュッと八芒星のペンダントを握った。

再生の循環。

八芒星に込められた願いは、届いたのだろう。

 

その歴史的な日は、後に「再生の日」と呼ばれるようになる。

 

「再生の日」を境に、国々で人族解放に対する議論が行われるようになったという。だが、シノの演説のお陰か賛成派が大多数だったようだ。お陰で貴族諸侯の反対派も大きく出てこれない。

全員が納得できる答えを出せないのが酷くもどかしいとゼノとセラは言っていた。私もそう思う。けれど、アイはそれを笑って一蹴した。

「大丈夫よ。反対しているのも今のうち。実際に人族解放が起きたら起きたですぐに彼らは順応するわ。貴族諸侯なんかは特にね」

切り替えが早いというか強いというか、ズルいというか。

人族解放が起きたら新たに利益を求めるだけなのだろう。

こうして天使族の心も掌握し、遂に天使族は人族を解放した。

そこに第二の問題も関わってくるのだが、そこはゼノの尽力で事なきを得た。

第二の問題とは、人族側の問題である。散々奴隷として扱われた挙句、突然解放すると言われたところで、はいそうですかとなるわけがない。

人族の中には当然天使族を恨んでいる者もいるだろう。当たり前だと思う。ただ、恨みや憎しみは簡単に消せるものではない。実際に天使族と接していく内に少しずつ変わっていくものだろう。

また、都市や物資の提供が、結局奴隷の延長線上だという意見もあった。それを考慮しての期間の設定だったが、まだ足りなかったのである。

つまり、まずは天使族と人族が対等であることの強調、加えて人族と天使族の接する機会が必要不可欠であった。

そこで、ゼノが人族と天使族のパイプ役となったのだ。

最初は天使領土の集落をゼノが一つずつ訪れ、事情を説明していただけだった。当然天使族を嫌うものもいたが、共通点として奴隷からの解放を皆が大層喜んでいた。当たり前だろう。漸く彼らは自由に生きることが出来る。外に出ることが出来るのだ。

こうしてゼノが何度も集落を回っていると、やがて人族の中でゼノを人族の長に立てようと話が持ち上がったという。

ゼノとしてはあまり嬉しくなさそうだったが、今後のことを考えると人族にも長がいた方が円滑に人族へと話をしやすい。

ということで、パイプ役としてゼノは人族の長となった。

そして、《ヴィジョン》を通して様々な公約と共に、女王陛下シノと人族の長ゼノが握手を交わす瞬間が天使領全土に公開された。

その瞬間、確かに人族は解放され、天使族と対等になった。

そこからは怒涛の忙しさだった。

ゼノは人族の長としてあちこちの都市へ引っ張りだこ。セラ達も様々にあがってくる問題に対処したり、反対派の反乱を鎮めたりと本当に大忙しだった。まさか反乱を起こすとは思っていなくてあの時は本当に驚いた。

私は悪魔族であるため、バレないように魔力を殺しながらセラ達の手伝いをしたり、シロは上手く天使族と人族の仲を取り持ってくれたりしていた。ジェガロも問題点があれば、すぐに連絡をしてくれる。

こうして慌ただしい日々を送っていく。

 

そして、「再生の日」から半年が経った。



半年も経つと、段々と天使族も人族も新たな状況に慣れ、問題も減ってきたように思える。……無いわけではないが。

とにかく一段落して、ふぅと息を吐きながら自室へと戻る。疲れが溜まっているようで、肩も凝っている気がする。

本当に忙しいですからね……。

自室の扉を開け、ふらふらとベッドへダイブする。

私はハーティス城に一室を借りていた。基本的にハーティス城から出ることはない。私が悪魔族であることを知っているのは城内の者だけである。兵士は当然最初は殺意を向けてきていたが、女王及び王女達の眼もあり、加えて私が真剣に問題に対処しているところを見て、最近は鳴りを潜めている気がする。

うつ伏せから仰向けへと体勢を変えて天井を見つめる。ただの一室の癖に、何やら天井に絵が描かれていた。

……これで、後は悪魔族ですか。

この時点で、私達の理想は半分叶ったと言っていい。誰もが平等に暮らせる世界。最初はフィグルと二人で目指していた理想もいつしかゼノやセラ、シロにシェーン、アグレシアまで目指してくれている。こんなに嬉しいことはない。

フィグル様、今頃何をしているのでしょうか。

フィグルは今、ケレア達と共に行動しているはずだ。共にと言っても、バレないようにではあるが。きっとフィグルのお陰でケレア達もそれほど危険な目に合わずに済んでいるだろう。何故ならフィグルが四魔将であり、悪魔族を裏切っていることはまだバレていないからだ。

しかし、フィグルと別れてからもう八、九か月程経とうとしていた。

季節も変わり、春だったあの頃から打って変わって冬になろうとしている。最近は外も寒く、この前なんて雪も降った。

温かくしているといいですけど……。

そんなことを考えながらベッドに横たわっていると、コンコンと扉がノックされた。

続いて、

「セラです、エイラいますか?」

と、セラの声が聞こえてくる。

何の用だろうと思いながら、慌ててベッドから起きて扉を開けに行く。

「いますよ、どうしたんですか?」

扉を開けるとセラと……シロがいた。

「あら、シロまで」

「久しぶりね」

本当に久しぶりだ。忙しくて全然二人と話す機会がなかった。

セラは、昔と違って動きやすそうな格好ではない。王女だから当然といえるが、綺麗な薄桃色と白のドレスを着て何やらあちこちに装飾品をつけていた。私が着たら着られているように見えるだろうそれも、セラが着るととても美しく見えるから凄い。

シロもこれまた意外とオシャレが好きだった。前までタイタスの胃の中で生活していた為に服なんてものはなかったが、服さえあれば色々なコーディネートを楽しんでいる。最近は忙しくて動きやすさが重視なのか、長めの白Tシャツにクリーム色のハーフパンツを着ていた。Tシャツには何やら刺繍も入っている。

どうやら呼びに来たというよりは話に来たようで、とりあえず二人を部屋の中まで通した。セラは椅子を引っ張ってきてその上に、シロはベッドの上に腰を下ろしていた。

私もシロの横に腰を下ろして二人へ視線を向ける。

「それで、何の用事ですか?」

二人の様子からしてある程度雑務は片付いているようで、仕事の内容でもなさそうだった。

すると、

「いや、私も分からないのよ。セラに呼ばれたから来ただけで」

シロが首を傾げながらセラへ視線を向けていた。

セラが……?

ということは、私とシロにセラから話があるということだろうか。

一体何の話だろうと思ってセラを見つめる。

私達の視線に対し、セラはどこか悲しそうにしていた。眉をひそめ、申し訳なさそうな……。

一瞬視線を逸らし、何やら逡巡したかと思うと。

突然セラが立ち上がって頭を下げた。

「ごめんなさい!」

突然の謝罪にシロと顔を見合わせる。

生憎、謝られる理由が両者に思いつかなかった。

でも、セラはとても真剣に謝っていた。だから、きっと何かの間違いなんかじゃないのだろう。

「ごめんって、何が?」

恐る恐るといった感じで、シロが尋ねる。

「本当は、もっと早くにお二人には伝えなきゃと思っていたのですが、機会を作れなくて……」

顔を上げたセラは、やはりどこか申し訳なさそうだった。

機会が作れなかったのはお互い忙しかったから仕方ないとして。

そんな前からセラが何か言いたがっていたなんて気づかなかった。

「どうしたんですか? 別に謝られるようなことはされてませんが……」

「いいえ、したんです」

ふるふるとセラが首を振る。綺麗な金髪が左右に舞っていた。

そこまで言うとは。

内容が分からないだけに緊張してしまう。

シロと共に緊張しながらセラを見つめる。

時間が止まったかと思うほど緊張の一瞬。ごくりと喉を鳴らす音すら容易く聞こえるような静寂の中。

彼女は告げた。

 

「私……ゼノに告白しちゃいました!」

 

……。

……?

……告、白?

再びシロと顔を見合わせる。そして、

「えええええええええ!?」

同時に叫んだ。

「告白って、え、告白ですか!? あの白を告げる方の告白!?」

「告発じゃなくて!? ゼノ相手なら何でも適当に告発できそうだし――」

「いえ、そのっ、あ、愛していますって方の……告白です」

セラが頬を赤らめながら確かにそう言った。

な、なんてことでしょう……。

愛している、という言葉の圧とセラの恥ずかし気な表情に押されてシロと二人でベッドに倒れこむ。

呆然とした様子で私達は天井を見つめた。

予想外だった。

いや、ある種の予感はあった。

もしかしたらいずれセラもゼノの事を好きになるんじゃないかって。

予感はあったけれど、でも告白って……。

好きになるどころかその先まで行っている。私よりも更に先へと進んでいた。

「ごめんなさい、お二人の気持ちを知っているのに私、抜け駆けを……」

だからセラは悲しそうで申し訳なさそうだったのだろう。

でも、この問答は以前もどこかでしたような気がした。確か私の好意が皆にバレた時だ。

「……まぁ、好きなら遠慮はしないでって前に言ったわ」

「そ、そうですよ。むしろ凄いと思います!」

「そう、簡単に出来ることじゃないわ。それだけ本気ってことなのね」

二人して身体を起こす。

本当に凄いと思う。

告白なんて、私にはそんな勇気がない。

シロがボソッと呟く。

「まさかこんなところに伏兵がいるなんて、ね」

全く同感である。

「それでゼノの答えは!?」

ここだけ綺麗にシロと声が重なった。両者共に非常にそこを気にしているのだ。

答え次第では、私達の想いは届かないことが確定する。

以前、シロが何やら一夫多妻制がどうのと言っていた気がするが、ゼノはたぶんそういう人じゃない。もっと誠実で、素敵な……。

言い出したシロもそれが分かっているから、こんなにも強く答えを聞きたがっているのだろう。

セラはそこでゆっくりと……苦笑した。

 

「それが、保留、だそうです」

 

「ほ、保留!?」

また二人してベッドに倒れる。

ある意味ホッとしたが心臓に悪い。どれだけドキドキしていたと思っているんだ。

にしても保留って。

セラの告白を保留にする意味が分からない。

「保留って何でですか!」

再び体を起こして尋ねる。不思議と私の声が大きくなっている気がする。興奮しているのだろう。

セラが首を傾げ、答える。

「やらなければならないことがあるって。それが終わったら答えるって言われました」

悲し気にセラが笑う。

当たり前だ。セラは精一杯勇気を出して告白をした。それを保留って……。

ゼノには告白する側の気持ちをもっと考えてあげてほしい。

でも、保留ですか……。

そういう理由ということは、ゼノの中でももう気持ちは固まっていると考えていい。断るなら告白された時点で断っているだろう。

つまり、ゼノはセラの事を……。

シロも同じ結論に至っているようで、どこか悲しそうにしていた。きっと私の顔も悲愴にくれていることだろう。

失恋って、こんな気分なんでしょうか……。

それで、とシロがどうにか言葉を紡ぐ。

「やらなければいけないことって何なのかしら」

「それが、まだ聞いてなくて……。もしかして、理想の実現なんでしょうか」

暗い声でセラは話していた。

理想の実現だとしたら、それはどれだけ先の話になるのだろうか。理想が叶うと決まっているわけでもないのに。仮にそこまで待たされるのだとしたら、あまりにセラが可哀相だ。

すると、俯くセラを横目にシロがこっそりと耳打ちしてきた。

「これはチャンスよ」

「え?」

「タイムリミットは分からないけれど、まだゼノはセラに告白の返事をしない。その間に猛アピールをして、ゼノの意識をこちらへ向けさせるの」

「それは……」

なかなかセラに対して酷い。横から奪い取るようなものだ。

表情からそれが伝わったのか、シロが言う。

「お互い遠慮はしないって言ったわよね。それに、そんな簡単に諦められる気持ちなのかしら」

「っ」

シロの言葉が心に突き刺さる。

簡単に諦められる感情なのか。

そんなの……。

「ゼノは私の想いを知っている。だから、本当にセラの事が好きならまず早い段階で私の元へ断りに来るはずだわ。でも来ていないということは私にも、そしてエイラにもチャンスがあるということなのよ」

シロはまだ諦めていなかった。心の中で闘志を燃やしている。

私は……。

その時、唐突に扉がノックされた。

「っ!」

三人に視線が扉へと向けられる。

すると、

「エイラ、俺だ、ゼノだ。いるか?」

まさに話題の男が現れたのである。

話題が話題だっただけに、沈黙が部屋を支配する。

私達はすぐさまアイコンタクトを取り、

「は、はい、いますよ」

何もなかったかのように表情を作り、その場を取り繕った。

「悪いな。失礼するよ」

そして、ゼノが部屋へと入ってきた。

「いやな、セラもいないしシロや他の皆もどこに行ったんだかって……あれ、なんだ三人で集まってたのか」

私達を見つけてゼノが苦笑する。

「こうやって集まるのも久しぶりだもんな」

「そ、そうですね……」

セラがニコリと微笑むが、どこかぎこちなく見えるのは気のせいではない。

立ったまま、ゼノが私達を見渡す。

「実は皆に話があってさ」

「っ」

三人の背筋が一気にピシッと伸びた。

ゼノから話……!

先程までの会話のせいだろうか。もしかするとセラへの答えを言おうとしているのかもしれない。私達の前でそれを伝えるのは、シロや私へ断るため!? というか、私の気持ちはバレていた!?

急な事態に頭の中がごちゃごちゃになってしまう。

何を話されるんだろう。

ゼノを見つめると、ゼノもどこか歯切れが悪そうだった。どこか申し訳なさそうで……。

申し訳なさそうと言うことは、やはり私達を振りに……!?

そして、

「悪いんだけどさ」

ゼノが遂にセラへ答えを……。

 

「そろそろケレアとフィグルに会いに行こうと思うんだ」

 

「……え?」

私達三人は脳内が恋愛に染まっていたのだろう。

全く関係のない内容に、三人揃って情けない声を上げていた。

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