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3『過去の聖戦』
3 第三章第三十三話「ビンゴ」
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ゼノ
セラに、届いただろうか。
いや、届いてなければ問題ではあるのだが。
セラに見えるように遥か上空へと浮遊させ、無数に生成した雷球を少しずつ収束させて大きな球を作り出した。
本当はそれだけで合図として十分だったとは思うけれど、俺はセラに約束を下から。
でっかい花火を上げるって。
だから、その巨大な雷球めがけて炎を打ち上げた。そのまま雷球の中心まで侵入させ、一気に爆発させる。ただ爆発させるのではなく、優しく澄んだ音が出るように気を付けながら。
と、同時に収束していた巨大な雷球が再び無数に上空へ散らばっていく。
シノとエクセロはどうやら一度下がったようだ。まあ好都合と言えば好都合ではあるが、そのままセラの方に向かわないようにしないと。
周囲の兵士達も頭上に光って浮かぶ雷球に目を奪われていた。先程の破裂音にハッとしてすぐさま臨戦態勢を取っているがもう遅い。
ゼノ:
「二人共、眼と耳塞げ! あと動くなよっ」
シロ:
「注文が多いわね!」
エイラ:
「一応私がお守りしますから!」
言葉通りシロの元へエイラが辿り着く。
うん、それは俺も安心だ。これで万が一もない。
ゼノ:
「それじゃあ、《雷嵐流星群》、行くぜっ!」
瞬間、頭上の雷球から勢いよく雷が降り注いだ。無数の落雷が轟音と眩むような光と共に大地を揺らす。その全てがエイラとシロを避けて周囲の兵士達を直撃していた。
兵士:
「……っ!」
次々と兵士達が倒れていく。勿論、殺さないように加減はしているつもりだが、気絶くらいはしてもらわなくては。だから痛みはそれなりにあるだろう。
ハ―ティス城へは落雷を落とさないけれど、崩した外壁の隙間からエントランスホールは狙える。
つまり、下がったシノとエクセロのいる場所も攻撃範囲だ。
勢いよく彼女達に落雷を放つが、エクセロが片手をかざすと、落雷が反射してこちらへ飛んできた。
エイラ:
「本当に面倒な相手ですねっ。黙って眼と耳を塞がせてくれませんかね!」
エイラがシールドを張ってどうにか防いでくれる。
シロ:
「代わりに私が塞いであげるから大丈夫よ!」
エイラ:
「何がですか!? 攻撃何も見えないんですけど!?」
エイラとシロがわいわいやってる。結局動いてしまっているが、まぁこちらが気を付ければ頭上から当てることはない、と思う。
雷を返されると分かっていながら、それでも彼女達への攻撃を止めるわけにはいかなかった。彼女達には絶対攻撃を向ける必要があった。
何故なら、
エクセロ:
「っ、これは……!」
エクセロが視線を俺達から別の場所へ向ける。焦りはより一層濃いものになっている。
シノ:
「どうしたの?」
シノの問い。しかし、エクセロはそれに答えることなく俺達へ視線を移した。
轟音が鳴り響く中にも関わらず、エクセロの言葉は理解できた。
エクセロ:
「こちらは囮……!?」
その言葉に、思わず微笑んでしまった。
エクセロが反応している。つまり、結界を通過してセラが王都へ突入したということだ。
ここまでは全て前座だったと言っていい。
そして、ここからが本番だ。
今は雷で押し留めているが、それも長くは続かない。勘のいいエクセロはセラ達の存在に気付いた時点で俺達が囮であることにも気付いている。ならば、狙いがアイだと気付かれるのも時間の問題だ。
ゼノ:
「エイラ、シロ!」
俺の声に二人が振り向く。何も言わなくても頷いているところを見るに、二人も気付いたようだ。
気付いているなら話は早い。
ゼノ:
「正直この魔法のせいで疲れた! 後任せていい?」
エイラ:
「馬鹿なんですか!?」
シロ:
「駄目に決まってるでしょ!」
ゼノ:
「いや、冗談なんだけどね、そんな本気で怒らなくてもね」
二人共今すっごい顔で睨んできた。俺が本気でそこまでやると思っているのだろうか。まぁ疲れたのは本当だけど。
エイラ:
「ゼノのことだから本当にやりそうで怖いんですよ!」
シロ:
「異議なし!」
ゼノ:
「……」
本当に思われているらしいので、ここはしっかりしたところを見せなくては。
もう雷も十分だろ。
落雷を止めるのと同時にその場を飛び出した。
ゼノ:
「シロは残った兵士の相手を頼む! 多分城の中にもまだいるはずだ! 後は言わなくても分かるな!」
シロ:
「ええ!」
そう言いながら、奇跡的に落雷を回避していた兵士の脳天にシロは手刀を振り下ろしていた。この調子で兵士を倒し、アイの元へ向かわないようにしてもらおう。
ゼノ:
「エイラは俺と一緒に王女様達を楽しませる役だ!」
エイラ:
「つまり、ゼノを虐めたらいいんですね!」
ゼノ:
「お前の楽しませ方には問題しかないな!」
まだ、上空には雷球がいくつか残っている。
ゼノ:
「《雷帝剣!》」
それらを一気に手元へと収束させ、長剣の形へと変貌させた。練った魔力が魔力なだけに、高濃度の雷剣が生成出来た。
エイラと共に跳躍し、エントランスホールへと向かう。
ゼノ:
「エイラはエクセロを! 俺がシノをやる!」
エイラ:
「……楽したいわけじゃないでしょうね」
言い方からして、エイラもエクセロの方が手強いと分かっているようだ。だからこそ、エクセロは彼女に任せたい。
ゼノ:
「全てを成功させるためだ、頼む」
セラが無事アイと話せるだけの時間があるようにするために、今の俺じゃエクセロを止められるとは思えない。兵士の数が数で本当に疲れているのだ。疲れている俺じゃなく、エイラじゃなくては。
エイラ:
「……分かりましたよ」
エイラの言葉と共に、エントランスホールへと到達する。
視線の先でシノとエクセロが俺達を睨んでいた。
シノ:
「……何が目的なのよ、あんた達は」
察するに、既にシノにも新たな侵入者の存在は告げられているらしい。
エクセロ:
「上手く誘い出されました。あなた達は私達をここに縛り付けるための囮だったのでしょう」
冷静にエクセロが尋ねてくる。
意外だった。
ゼノ:
「何だ、慌てて別の方に向かうかと思ってたよ」
エクセロ:
「どうせ行かせようとしない癖に」
重たい口調と鋭い視線を向けられる。見た目が御淑やかに見えるだけに、より強く感じられた。
エクセロ:
「別に不思議ではありませんわ。兵士達は既になぎ倒され、さらに――」
その時、上階の方で大きな音がした。と、同時にガラガラと瓦礫が外へ崩れ落ちていく。
チラッと先程までいた広場を見ると、もうそこにシロはいない。既に広場は制圧できたと見え、今度は城内の兵士の元へ向かったのだろう。きっと広場に人数を消費してしまい、城内にそれほどの人数はいないはず。シロ一人でも制圧できるに違いない。
エクセロもチラッと上階を見つめ、直ぐに冷たい視線を戻した。
エクセロ:
「そう、たかが三人の侵入者に対し、既にこれ程の損害を出してしまいました。決してこの国の兵士が甘いわけではありません。いえ、もしかしたら腑抜けてしまっていたかもしれませんが、それでも三人相手に制圧されかけている。残念ながら、あなた達は予想以上に強いようです」
ゼノ:
「そりゃどうも」
エクセロ:
「加えて、別の方向から新たな侵入者まで現れました。あなたの口ぶりからしてやはりその侵入者とも繋がっているのでしょう。強力な相手を前にして後手に回っている時点で全てを守り切るのは不可能なのですよ」
……やはり意外、というか変だった。
全てを守り切ることが不可能だから、ここを動かないとでも言いたげだ。
ゼノ:
「……良いのかよ、あんた等の母さんもこの城にいるんだろ」
別に向かわせようというわけではない。ただただ不思議なのだ。一国の女王を何よりも守ろうとするのは当然ではないだろうか。
だが、エクセロはそれを否定する。
エクセロ:
「守るべきはお母様の時間。お母様自体は守る必要すらありません。天使族随一の実力を有しているのですから。万が一新たな侵入者の目的がお母様だとすれば、私達が心配する必要すらありません」
それはつまり、今目の前にいるエクセロ以上に強いという事に他ならない。エクセロですら俺達よりも強いかもしれないというのに。
……セラ。
穏便に会話で済めばいいが。
エクセロ:
「そして、全てを守り切ることが出来ない以上、私にはお母様の時間以上に守らなければいけないものがある、だから私はここを動かないのです」
やはり不思議だ。最初こそアイの祈祷の邪魔をさせない為に出てきたはずだが、今となってはそれ以上に大事なことがあるという。
そして、言い方からして恐らく二人の見解ではない。
シノ:
「エクセロ、でも私は……」
シノがエクセロへ視線を向ける。そこには迷いというか戸惑いというか。
それに対してエクセロに迷いはなかった。そして、シノの迷いを分かっている。
エクセロ:
「お姉様、お姉様はお母様が誰かに負けるとお思いですか?」
シノ:
「そんなことは絶対にないわ。……でも、母様にとって聖堂の時間は何よりも大事だということはエクセロも分かっているでしょ。それを守れないということは、きっと私達は母様に怒られるわ」
ほんの少し、遠くから見てもシノの身体が震えていた。何を思って震えているのだろう。
ただ分かることは、エクセロと違ってシノはアイの元へ向かいたがっている。
その震える手を、エクセロが強く握りしめた。
エクセロ:
「その時は一緒に怒られましょう。大丈夫です、私がいます。それに、この被害の時点で怒られるのは避けられませんわ」
優しくエクセロが微笑む。今の俺達は蚊帳の外だが、セラの方へ向かわないのであれば、むしろ時間を使ってもらって構わない。
微笑まれてなお、シノは迷っていた。
シノ:
「……でも――」
エクセロ:
「私は、実は少しお母様に怒っているのです」
シノ:
「えっ」
これは俺も驚きだ。シノやエクセロはアイを慕っているものとばかり。
エクセロ:
「だって、お母様は私に一言もなくお姉様をセラの元へ向かわせたんですもの。そしてお姉様は怪我をして帰って来ました。もう私はお姉様に怪我をしてほしくないんです」
前にセラとシノが戦って、どうにかシノを撃退したという話は聞いていた。
そう言えば、セラは前にこうも言っていた。
シノはアイに従順だから不満を垂れているところを見たことも無いし、エクセロもシノが大好きだから結果的にアイに従う、と。
エクセロが真剣な表情でシノへと伝える。
エクセロ:
「私は、何よりもお姉様が大事なのですっ」
シノ:
「エクセロ……」
エクセロにとっては、アイ以上にシノが大切だった。そのシノが慕っているからエクセロもアイには逆らわないのである。
ゼノ:
「はー、いい姉妹愛だなー」
エイラ:
「そこにセラ様がいないのが問題なんですけどね」
ゼノ:
「そうだな、入れてやりたいな」
それが、セラの願いだと思う。俺達はそれを叶えてやりたい。
視線を二人から逸らすことなく会話をしていると、逆にシノとエクセロが凄い勢いでこちらへ視線を向けてきた。
シノ:
「今、セラって言った?」
エクセロ:
「もしかして、あなた達はセラと関係があるのですか?」
信じられないといったような表情と声音だ。無理もない、ただでさえ人と悪魔が共にいるというのに、加えてセラという天使まで加わったら訳が分からなくなるだろう。
エクセロ:
「あなた達の目的は一体……」
ふむ、どうやって答えればいいだろうか。エイラと顔を合わせる。
……。
そして、決めた。
ゼノ:
「一つ尋ねたい」
シノとエクセロに対して、これを尋ねるのは一番意味があるのではないだろうか。
シノはアイを慕っている。逆に言えば、尤もアイに近しい。
エクセロは決してアイを慕っているわけではない。何かを知っているとして、シノよりも口を割りやすい。
だから、俺は懐から一枚の紙を取り出した。それをシノ達に見せつけながら尋ねる。
ゼノ:
「昔、アイ・ハートと共にいたこの黒髪の少女を知らないか?」
そこに描かれているのは聖堂にいるアイと、黒髪の少女。
つまり、メアだ。
メアの存在がアイと関係あるのは既に把握済みだ。後はどんな関係なのか。
メアにない記憶の断片。それがここにある。
それを確かめるのも俺達の目的の一つだった。アキの意志を継いだ俺達の。
持ってきた絵はメアの描いたものだから、決して上手いとは言えない。けれど、それを見ただけで分かる者は分かるはずだ。それこそ当事者であろうアイは言葉だけで分かるだろう、だからこの絵は俺達が預かった。
視線の先で、エクセロが鋭い視線を向けてくる。
エクセロ:
「何ですか、その幼稚な絵は。その絵が何だと――」
だが、エクセロの言葉は続かない。
異常に震える身体、激しい呼吸、無意識のうちに足は後ずさってしまっている。
エクセロ:
「……お姉様?」
そう、
シノは青ざめた表情でメアの描いた絵を見つめていた。
あまりの様子にエクセロも言葉を中断していた。
エクセロ:
「どうしたのですか、お姉様!」
声をかけられるも、シノは反応することなくずっとこの絵を見つめている。
それだけで十分確信できた。それはエイラも同じのようだ。
エイラ:
「ゼノ」
ゼノ:
「ああ、ビンゴだ」
まさかこんな早くに情報に出会えるなんて。
聞いて正解だった。
シノは、メアについて何かを知っている。
セラに、届いただろうか。
いや、届いてなければ問題ではあるのだが。
セラに見えるように遥か上空へと浮遊させ、無数に生成した雷球を少しずつ収束させて大きな球を作り出した。
本当はそれだけで合図として十分だったとは思うけれど、俺はセラに約束を下から。
でっかい花火を上げるって。
だから、その巨大な雷球めがけて炎を打ち上げた。そのまま雷球の中心まで侵入させ、一気に爆発させる。ただ爆発させるのではなく、優しく澄んだ音が出るように気を付けながら。
と、同時に収束していた巨大な雷球が再び無数に上空へ散らばっていく。
シノとエクセロはどうやら一度下がったようだ。まあ好都合と言えば好都合ではあるが、そのままセラの方に向かわないようにしないと。
周囲の兵士達も頭上に光って浮かぶ雷球に目を奪われていた。先程の破裂音にハッとしてすぐさま臨戦態勢を取っているがもう遅い。
ゼノ:
「二人共、眼と耳塞げ! あと動くなよっ」
シロ:
「注文が多いわね!」
エイラ:
「一応私がお守りしますから!」
言葉通りシロの元へエイラが辿り着く。
うん、それは俺も安心だ。これで万が一もない。
ゼノ:
「それじゃあ、《雷嵐流星群》、行くぜっ!」
瞬間、頭上の雷球から勢いよく雷が降り注いだ。無数の落雷が轟音と眩むような光と共に大地を揺らす。その全てがエイラとシロを避けて周囲の兵士達を直撃していた。
兵士:
「……っ!」
次々と兵士達が倒れていく。勿論、殺さないように加減はしているつもりだが、気絶くらいはしてもらわなくては。だから痛みはそれなりにあるだろう。
ハ―ティス城へは落雷を落とさないけれど、崩した外壁の隙間からエントランスホールは狙える。
つまり、下がったシノとエクセロのいる場所も攻撃範囲だ。
勢いよく彼女達に落雷を放つが、エクセロが片手をかざすと、落雷が反射してこちらへ飛んできた。
エイラ:
「本当に面倒な相手ですねっ。黙って眼と耳を塞がせてくれませんかね!」
エイラがシールドを張ってどうにか防いでくれる。
シロ:
「代わりに私が塞いであげるから大丈夫よ!」
エイラ:
「何がですか!? 攻撃何も見えないんですけど!?」
エイラとシロがわいわいやってる。結局動いてしまっているが、まぁこちらが気を付ければ頭上から当てることはない、と思う。
雷を返されると分かっていながら、それでも彼女達への攻撃を止めるわけにはいかなかった。彼女達には絶対攻撃を向ける必要があった。
何故なら、
エクセロ:
「っ、これは……!」
エクセロが視線を俺達から別の場所へ向ける。焦りはより一層濃いものになっている。
シノ:
「どうしたの?」
シノの問い。しかし、エクセロはそれに答えることなく俺達へ視線を移した。
轟音が鳴り響く中にも関わらず、エクセロの言葉は理解できた。
エクセロ:
「こちらは囮……!?」
その言葉に、思わず微笑んでしまった。
エクセロが反応している。つまり、結界を通過してセラが王都へ突入したということだ。
ここまでは全て前座だったと言っていい。
そして、ここからが本番だ。
今は雷で押し留めているが、それも長くは続かない。勘のいいエクセロはセラ達の存在に気付いた時点で俺達が囮であることにも気付いている。ならば、狙いがアイだと気付かれるのも時間の問題だ。
ゼノ:
「エイラ、シロ!」
俺の声に二人が振り向く。何も言わなくても頷いているところを見るに、二人も気付いたようだ。
気付いているなら話は早い。
ゼノ:
「正直この魔法のせいで疲れた! 後任せていい?」
エイラ:
「馬鹿なんですか!?」
シロ:
「駄目に決まってるでしょ!」
ゼノ:
「いや、冗談なんだけどね、そんな本気で怒らなくてもね」
二人共今すっごい顔で睨んできた。俺が本気でそこまでやると思っているのだろうか。まぁ疲れたのは本当だけど。
エイラ:
「ゼノのことだから本当にやりそうで怖いんですよ!」
シロ:
「異議なし!」
ゼノ:
「……」
本当に思われているらしいので、ここはしっかりしたところを見せなくては。
もう雷も十分だろ。
落雷を止めるのと同時にその場を飛び出した。
ゼノ:
「シロは残った兵士の相手を頼む! 多分城の中にもまだいるはずだ! 後は言わなくても分かるな!」
シロ:
「ええ!」
そう言いながら、奇跡的に落雷を回避していた兵士の脳天にシロは手刀を振り下ろしていた。この調子で兵士を倒し、アイの元へ向かわないようにしてもらおう。
ゼノ:
「エイラは俺と一緒に王女様達を楽しませる役だ!」
エイラ:
「つまり、ゼノを虐めたらいいんですね!」
ゼノ:
「お前の楽しませ方には問題しかないな!」
まだ、上空には雷球がいくつか残っている。
ゼノ:
「《雷帝剣!》」
それらを一気に手元へと収束させ、長剣の形へと変貌させた。練った魔力が魔力なだけに、高濃度の雷剣が生成出来た。
エイラと共に跳躍し、エントランスホールへと向かう。
ゼノ:
「エイラはエクセロを! 俺がシノをやる!」
エイラ:
「……楽したいわけじゃないでしょうね」
言い方からして、エイラもエクセロの方が手強いと分かっているようだ。だからこそ、エクセロは彼女に任せたい。
ゼノ:
「全てを成功させるためだ、頼む」
セラが無事アイと話せるだけの時間があるようにするために、今の俺じゃエクセロを止められるとは思えない。兵士の数が数で本当に疲れているのだ。疲れている俺じゃなく、エイラじゃなくては。
エイラ:
「……分かりましたよ」
エイラの言葉と共に、エントランスホールへと到達する。
視線の先でシノとエクセロが俺達を睨んでいた。
シノ:
「……何が目的なのよ、あんた達は」
察するに、既にシノにも新たな侵入者の存在は告げられているらしい。
エクセロ:
「上手く誘い出されました。あなた達は私達をここに縛り付けるための囮だったのでしょう」
冷静にエクセロが尋ねてくる。
意外だった。
ゼノ:
「何だ、慌てて別の方に向かうかと思ってたよ」
エクセロ:
「どうせ行かせようとしない癖に」
重たい口調と鋭い視線を向けられる。見た目が御淑やかに見えるだけに、より強く感じられた。
エクセロ:
「別に不思議ではありませんわ。兵士達は既になぎ倒され、さらに――」
その時、上階の方で大きな音がした。と、同時にガラガラと瓦礫が外へ崩れ落ちていく。
チラッと先程までいた広場を見ると、もうそこにシロはいない。既に広場は制圧できたと見え、今度は城内の兵士の元へ向かったのだろう。きっと広場に人数を消費してしまい、城内にそれほどの人数はいないはず。シロ一人でも制圧できるに違いない。
エクセロもチラッと上階を見つめ、直ぐに冷たい視線を戻した。
エクセロ:
「そう、たかが三人の侵入者に対し、既にこれ程の損害を出してしまいました。決してこの国の兵士が甘いわけではありません。いえ、もしかしたら腑抜けてしまっていたかもしれませんが、それでも三人相手に制圧されかけている。残念ながら、あなた達は予想以上に強いようです」
ゼノ:
「そりゃどうも」
エクセロ:
「加えて、別の方向から新たな侵入者まで現れました。あなたの口ぶりからしてやはりその侵入者とも繋がっているのでしょう。強力な相手を前にして後手に回っている時点で全てを守り切るのは不可能なのですよ」
……やはり意外、というか変だった。
全てを守り切ることが不可能だから、ここを動かないとでも言いたげだ。
ゼノ:
「……良いのかよ、あんた等の母さんもこの城にいるんだろ」
別に向かわせようというわけではない。ただただ不思議なのだ。一国の女王を何よりも守ろうとするのは当然ではないだろうか。
だが、エクセロはそれを否定する。
エクセロ:
「守るべきはお母様の時間。お母様自体は守る必要すらありません。天使族随一の実力を有しているのですから。万が一新たな侵入者の目的がお母様だとすれば、私達が心配する必要すらありません」
それはつまり、今目の前にいるエクセロ以上に強いという事に他ならない。エクセロですら俺達よりも強いかもしれないというのに。
……セラ。
穏便に会話で済めばいいが。
エクセロ:
「そして、全てを守り切ることが出来ない以上、私にはお母様の時間以上に守らなければいけないものがある、だから私はここを動かないのです」
やはり不思議だ。最初こそアイの祈祷の邪魔をさせない為に出てきたはずだが、今となってはそれ以上に大事なことがあるという。
そして、言い方からして恐らく二人の見解ではない。
シノ:
「エクセロ、でも私は……」
シノがエクセロへ視線を向ける。そこには迷いというか戸惑いというか。
それに対してエクセロに迷いはなかった。そして、シノの迷いを分かっている。
エクセロ:
「お姉様、お姉様はお母様が誰かに負けるとお思いですか?」
シノ:
「そんなことは絶対にないわ。……でも、母様にとって聖堂の時間は何よりも大事だということはエクセロも分かっているでしょ。それを守れないということは、きっと私達は母様に怒られるわ」
ほんの少し、遠くから見てもシノの身体が震えていた。何を思って震えているのだろう。
ただ分かることは、エクセロと違ってシノはアイの元へ向かいたがっている。
その震える手を、エクセロが強く握りしめた。
エクセロ:
「その時は一緒に怒られましょう。大丈夫です、私がいます。それに、この被害の時点で怒られるのは避けられませんわ」
優しくエクセロが微笑む。今の俺達は蚊帳の外だが、セラの方へ向かわないのであれば、むしろ時間を使ってもらって構わない。
微笑まれてなお、シノは迷っていた。
シノ:
「……でも――」
エクセロ:
「私は、実は少しお母様に怒っているのです」
シノ:
「えっ」
これは俺も驚きだ。シノやエクセロはアイを慕っているものとばかり。
エクセロ:
「だって、お母様は私に一言もなくお姉様をセラの元へ向かわせたんですもの。そしてお姉様は怪我をして帰って来ました。もう私はお姉様に怪我をしてほしくないんです」
前にセラとシノが戦って、どうにかシノを撃退したという話は聞いていた。
そう言えば、セラは前にこうも言っていた。
シノはアイに従順だから不満を垂れているところを見たことも無いし、エクセロもシノが大好きだから結果的にアイに従う、と。
エクセロが真剣な表情でシノへと伝える。
エクセロ:
「私は、何よりもお姉様が大事なのですっ」
シノ:
「エクセロ……」
エクセロにとっては、アイ以上にシノが大切だった。そのシノが慕っているからエクセロもアイには逆らわないのである。
ゼノ:
「はー、いい姉妹愛だなー」
エイラ:
「そこにセラ様がいないのが問題なんですけどね」
ゼノ:
「そうだな、入れてやりたいな」
それが、セラの願いだと思う。俺達はそれを叶えてやりたい。
視線を二人から逸らすことなく会話をしていると、逆にシノとエクセロが凄い勢いでこちらへ視線を向けてきた。
シノ:
「今、セラって言った?」
エクセロ:
「もしかして、あなた達はセラと関係があるのですか?」
信じられないといったような表情と声音だ。無理もない、ただでさえ人と悪魔が共にいるというのに、加えてセラという天使まで加わったら訳が分からなくなるだろう。
エクセロ:
「あなた達の目的は一体……」
ふむ、どうやって答えればいいだろうか。エイラと顔を合わせる。
……。
そして、決めた。
ゼノ:
「一つ尋ねたい」
シノとエクセロに対して、これを尋ねるのは一番意味があるのではないだろうか。
シノはアイを慕っている。逆に言えば、尤もアイに近しい。
エクセロは決してアイを慕っているわけではない。何かを知っているとして、シノよりも口を割りやすい。
だから、俺は懐から一枚の紙を取り出した。それをシノ達に見せつけながら尋ねる。
ゼノ:
「昔、アイ・ハートと共にいたこの黒髪の少女を知らないか?」
そこに描かれているのは聖堂にいるアイと、黒髪の少女。
つまり、メアだ。
メアの存在がアイと関係あるのは既に把握済みだ。後はどんな関係なのか。
メアにない記憶の断片。それがここにある。
それを確かめるのも俺達の目的の一つだった。アキの意志を継いだ俺達の。
持ってきた絵はメアの描いたものだから、決して上手いとは言えない。けれど、それを見ただけで分かる者は分かるはずだ。それこそ当事者であろうアイは言葉だけで分かるだろう、だからこの絵は俺達が預かった。
視線の先で、エクセロが鋭い視線を向けてくる。
エクセロ:
「何ですか、その幼稚な絵は。その絵が何だと――」
だが、エクセロの言葉は続かない。
異常に震える身体、激しい呼吸、無意識のうちに足は後ずさってしまっている。
エクセロ:
「……お姉様?」
そう、
シノは青ざめた表情でメアの描いた絵を見つめていた。
あまりの様子にエクセロも言葉を中断していた。
エクセロ:
「どうしたのですか、お姉様!」
声をかけられるも、シノは反応することなくずっとこの絵を見つめている。
それだけで十分確信できた。それはエイラも同じのようだ。
エイラ:
「ゼノ」
ゼノ:
「ああ、ビンゴだ」
まさかこんな早くに情報に出会えるなんて。
聞いて正解だった。
シノは、メアについて何かを知っている。
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