カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

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3『過去の聖戦』

3 第三章第三十話「いざ家庭訪問」

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ゼノ
ゼノ:
「はぁ~……」
 お湯に身体を沈める。疲れた身体に適温が染み渡っていき、不思議と抜けた声が出てしまった。
ゼノ:
「あー、極楽極楽ぅ……」
 全く、良い温度設定にしてくれたもんだ。ぜんっぜん出る気が起きない。女性陣の帰りが遅かった理由がよく分かる。
ゼノ:
「これは出られないわー……」
 岩に腰かけて湯気越しに空を見上げる。先程まで夕方だったのに、もう藍色に染まり始めていた。もうすぐ真っ暗になるだろう。
 心地よさに浸っていると、隣から不気味な声が聞こえてきた。
アグレシア:
「はぁはぁ、セラ様が、セラ様が浸かっていたお湯ぅ……」
 急に現実に引き戻された。ため息をついてそちらへ視線を向けると、アグレシアがお湯を掬ってじっと見つめていた。息遣いも目をおかしくなっている。
 元々おかしいと思っていたが、これ程とは。セラも大変な奴を従者にしてるな。
ゼノ:
「ちなみに、お湯は張り替えたってエイラが言ってたぞ」
アグレシア:
「あの悪魔めええええええええええええ!」
 アグレシアがこの世の終わりとばかり叫んだ。勢いよくお湯に拳を叩きつけている。飛沫がこちらまで飛んできた。
ゼノ:
「さっきまで大事そうに見つめていたろうに、俺とおまえが入っただけのお湯を」
アグレシア:
「危うく飲むところだったぞ!」
ゼノ:
「普通に気持ち悪いな、おまえ……」
 それをしてしまったが最後、間違いなくシェーンによって肉塊へと変えられるだろう。
 にしても、シェーンとアグレシアの関係は完全に犬猿の仲だと思う。それでもセラに尽くそうという点では二人は共通している。
 ふと、気になって尋ねてみることにした。
ゼノ:
「……なぁ、アグレシアは何でセラの従者やってるんだ?」
アグレシア:
「え、何でって……」
 アグレシアが当然と言いたげに首を傾げ、
アグレシア:
「一目惚れしたからに決まっているだろう」
 そう答えた。結構なエピソードがあるかなと思っていたら、決してそんなことはなく。
ゼノ:
「……それだけ?」
アグレシア:
「それだけとはまた酷いね。それが全てだよ」
意外な気もしたが、普段のアグレシアを見ていて納得出来る気もする。本当にただ純粋にセラが好きなのだろう。
アグレシア:
「初めて城仕えになって見た時に、ビビビッと来たんだ。あ、この人に生涯を捧げなくちゃと」
 無くちゃって。使命感なのだろうか。
 セラについて語るアグレシアは、憧れの存在を語るが如く目をキラキラさせていた。
アグレシア:
「誰もが羨む美貌はさることながら、その内に眩しく輝く何かを見た。あの輝きを維持しなくてはならない、失わせてはならないと思ったんだ」
ゼノ:
「……何となく言わんとすることは分かる」
 言葉にするのは難しい。でも、近づいた者を無意識の間に温もりと優しさで包み込むような、アグレシアのいう所の輝きで未来を照らしてくれるような感じ。
 あの輝きは失わせてはいけない、俺もそう思う。
ゼノ:
「真っ直ぐなんだろうなぁ、だから綺麗に見える」
アグレシア:
「ふむ、君の眼は節穴じゃないようだね。でも、城にいるほとんどの奴は違った。アイ様やシノ様、エクセロ様もだ」
 アグレシアが真剣な表情を見せる。こんな表情も出来るんだと思った。天使族の女王であるアイ、その娘であるシノやエクセロをもその眼が節穴だと語っていた。
アグレシア:
「誰もセラ様の輝きに気付かない。それどころかセラ様を迫害するかのようだ」
ゼノ:
「……」
 セラはアイに構ってほしいが為に幾度となく違反を犯している。そのせいでセラは問題児のようなレッテルを張られているのだろう。アイや他の姉妹との関係も芳しくはない。そのようなセラに近づこうとする者はいないのかもしれない。もしセラと仲良くすればその分自分の立場が危うくなるかもしれないのだから。
アグレシア:
「だから私は正直あの城が、そしてあそこに住まう天使族が嫌いだ。セラ様を認めない者達が。そのような者達からセラ様を守るためにも、私は傍にいなくては」
ゼノ:
「アグレシア、おまえ……」
 ……アグレシアの存在がどれだけセラの助けになったことだろう。セラの状況を分かっていても、それでもずっと傍にいてくれる。支えてくれる。
 たかが一目惚れだろうと関係ない。理由なんて実際それほど大事なわけじゃなく。大事なのはその後の行動だ。
 俺は、お前を見くびっていたよ。ただの変態なんだと思っていた。でも、そんなことは決してなかったんだな。
ゼノ:
「アグレシアは、セラの騎士なんだな」
 セラを守る盾にも矛にもなり得る、彼女直属の騎士。
アグレシア:
「そう、その通り!」
 急にいつもの調子に戻るアグレシア。騎士と言われたのが嬉しかったに違いない。そのままビシッと指を指してきた。
アグレシア:
「だから、君が介入する余地はこれっぽっちもないからね!」
 介入て。
ゼノ:
「別に介入するつもりはないさ。セラにとってもアグレシアは大切な存在と思うし。取って代われるもんじゃない」
アグレシア:
「ほー、意外と君は話が分かるじゃないか!」
 急に近づいてきて肩を回してくる。急に馴れ馴れしいな。
 その様子に笑ってしまうが、本当に介入するつもりは無い。
 俺は誰でもない俺として、セラとやっていくだけさ。
誰かに代わる存在なんてこの世界にはいないと思う。例えばメアだって、最初は皆サクの代わりだと思っていたかもしれない。でも、やっぱりメアはメアだった。
誰かの欠落は埋めたり補ったりできるものじゃない。もしそう見えている時は、埋めてくれているのでも補っているのでもなく、前に進む新たな道を作ってくれているのだと思う。
誰だってその存在は、誰かにとってかけがえのないものだと本当に思う。
セラにとっての俺も、そうだといいな……。
 似合わないことを考えて思わず苦笑してしまう。アグレシアといるとセラのことばかり考えてしまうな。反省反省。
ゼノ:
「でも、セラが反乱を起こした時は傍にいられなかったもんな、アグレシアは」
 気分を変えるつもりで話しかけると、先程までの上機嫌から一転、ふくれっ面になっていた。
アグレシア:
「それはシェーンが悪い! 奴が向こうでセラ様が呼んでたっていうからずっと待ってたのに、気付けば始まっていたんだ! 二日も待ち続けた私の苦労を返して欲しいよ、まったく!」
ゼノ:
「まず常識を覚えた方がいいな」
 呼び出していおいて二日も遅れる奴はいない。セラのことになるとイカレてんな、ホント。
ゼノ:
「でも、そうか。セラの騎士なら今回も守り通さないとな」
 一世一代のセラの大勝負。全力で支えてやんないと。
微笑むと、アグレシアも自信満々の笑みを見せた。
アグレシア:
「当然! 誰にもセラ様の柔肌は触れさせないよ! たとえシェーンでも!」
ゼノ:
「……誰にもの中に自分も入れてることを期待しておくよ」
 セラへの感情が行き過ぎているとは思うが、本物なのは間違いない。
 セラがこれ以上辛い思いをしないように、俺達は精一杯のことを成していくんだ。
 覚悟を胸に、ようやく重い腰をあげた。
ゼノ:
「さて、女性陣が御飯作ってくれてるし、さっさと行こうぜ」
アグレシア:
「はっ、セラ様の手料理ぃ!」
 勢いよく湯船から飛び出すアグレシアに、やはり苦笑する他なかった。
………………………………………………………………………………
エイラ
 隠れ家を飛び出してから三日後、遂に私達は王都ハート前に辿り着いた。
 しかし、まだ中へは入らない。何でもエクセロというセラの姉が王都全体を結界で囲っており、通過すれば感知されるんだとか。真っ向から入国しても、魔力の質が人族、天使族、悪魔族では違うから検査ですぐバレてしまう。天使族特有の聖天魔法と悪魔族の暗黒魔法のように。
 侵入は明日にし、今日は近くに洞穴を掘ってそこで最終確認を行っていた。ここまでの近さとなると野営も危ない。
 で、とゼノが話を進めていく。今は円の形になって、シェーンの唱えてくれた光を囲んで座っていた。
ゼノ:
「まず、第一目的はセラがセラの母さんと接触すること。思う存分想いの丈をぶつけてこい」
セラ:
「はい」
 セラが覚悟を決めた顔で頷く。その顔は少し緊張しているように見えた。それも仕方が無い事だろう。悪く転がれば明日で、セラは家族との縁を切ってしまうかもしれないのだから。
 すると、ゼノが優しく微笑んで隣にいるセラの頭を撫でた。いや、掻きまわしたと言った方がいいかもしれない。セラから可愛らしい悲鳴が聞こえてくる。
セラ:
「ひゃあっ!? ちょ、ゼノ!?」
ゼノ:
「緊張しなさんな。大丈夫だ、万事上手くいくって」
セラ:
「……その根拠は?」
 乱れた髪を押さえながら上目遣いで尋ねるセラに、ゼノがニッコリ笑う。
ゼノ:
「自分で探してみろよ。その方が綺麗な世界が見えてくるさ」
 綺麗な世界……?
 何の話かと思ったが、セラには通じたみたいで。
セラ:
「っ、はい!」
元気に返事をしたかと思うと、既に目を閉じて根拠探しをしていた。
 何やらあの一瞬は二人だけの世界というか何というか。
 少し、いや、かなり羨ましいと思った。
 セラが考えている間にシェーンとアグレシアからの罵倒がゼノへ向けられていた。
シェーン:
「貴様! 何を気安くセラ様に触れている! 斬られたいのか!」
ゼノ:
「減るもんじゃないし、別にいいだろ。てか、触れさせたくないなら座席順を考えろ! 自分が努力してから物を言え!」
アグレシア:
「ゼノ! 私は誰にもセラ様の柔肌には触れさせないと宣言したよね! 君の横で!」
ゼノ:
「それは……すまん! 忘れてた!」
アグレシア:
「すまんじゃ済まされないよ! こうなったら私もセラ様の髪に――」
シェーン:
「どうなったらそうなる、変態めが!」
 実際に手を伸ばそうとしていたアグレシアをシェーンが止めに入る。シェーンは全力で押さえにいっていた。
 何ですかね、この緊張感のなさは。いや、らしいと言えばらしいですが。
 ゼノの方へ視線を向けると、ゼノは苦笑して両手をあげて肩をすくめていた。
 いや、あなたが引き起こしたんですけどね。
シロ:
「いいわよ、もっとやりなさい」
 シェーンとアグレシアのやり取りをシロは笑って見ていた。どちらも全力でやり合っているから、一層おかしく見えるのだ。
 こんな状態でセラ様は考えられるのでしょうか……。
 周囲の五月蠅さに辟易していないかと思ってセラの方を見ると、セラは既に目を開けていた。シェーンとアグレシアのやり取りを見て無邪気に笑っている。
セラ:
「ふふふ、考えてみたら案外すぐに答えが見つかりました」
 見つけた答えが幸せだったのだろうか。嬉しそうで幸せそうで。
ゼノ:
「して、その根拠は?」
 ゼノの問いに、セラがハッキリと答える。その答えを聞くべくシェーンもアグレシアも動きを止めていた。
セラ:
「私にはここにいる皆さんがいてくれます。一緒に笑ったり泣いたりしてくれる皆さんがいてくれます。だから、大丈夫。だって、ここにいる皆さんが私を助けてくれますもの。挫けそうな時も支えてくれますから。だから、大丈夫。私が諦めることは絶対にありませんっ」
 セラが全員の顔を見渡して、微笑む。
セラ:
「私が諦めなければ、お母様との関係は断ち切られませんっ。だから皆さん、いつもみたいに弱い私を助けて下さいね!」
 そう語るセラからは、絶対的な信頼を向けられている気がした。もうそこに緊張などはなく、しっかり前を向いているセラがいる。
 弱いどころか強いと思いますよ、私は。
 誰かを信用することは決して簡単なことではないのだから。何にだって疑おうと思えば疑える世界で、ここまで全幅の信頼を向けられるのは彼女が自分の弱さを自覚して前を向こうとしているからではないだろうか。弱さを知っているからこそ、自分の限界を知っているからこそ周りへしっかり頼ることが出来るのである。
 その信頼に応えないものなどいない。
シェーン:
「必ずや力になります!」
アグレシア:
「もちろん私の方が力になりますけどね!」
 シェーンとアグレシアがお互いを押しのけ合いながら力強く頷く。私達も当然と言わんばかりに頷いた。その様子にセラが嬉しそうに笑う。
 素敵な空間にいる、素敵な仲間達だと思った。ここに自分がいられることがとても嬉しい。
 この全てをゼノが繋いでくれている、そんな気がするのは彼への恋心のせいだろうか。
ゼノ:
「んで、じゃあどうやってセラを助けるかって話だけど、まず俺とエイラ、シロで一気に侵入して城門前或いは中で暴れ回る……で、いいんだよな、シロ」
 話を戻したゼノだったが、最後だけ心配そうな声音だった。それはシロへと向けられている。
ゼノ:
「やっぱりシロはアキ達と一緒に待機で良かったんじゃないか? ほら、魔力もないし危ないだろ」
シロ:
「大丈夫だって言ってるでしょ。それにセインは私が近くにいた方が力を増すし」
 その会話は既に何度かゼノとシロの間で行われたものだ。ゼノの心配は尤もで、これから向かうのは言わば天使族の本拠地なのだ。魔力のないシロが戦っていけるわけもなく。
 ……と思っていたのですが。
 今となっては、心配しているのはゼノだけだった。
エイラ:
「……たぶん、シロなら大丈夫ですよ」
セラ:
「そう、ですね」
シェーン:
「セラ様と同意見です」
ゼノ:
「ええ!?」
 まさかの女性陣の判断にゼノは驚いていた。まぁゼノは見てないですからね。
 先日のことを思い返してみる。私を片手でぶん投げた怪力や、シェーンをも上回る速度。
 つまり、シロは類稀なる身体能力の持ち主なのだ。
 何故なのか分からない。シロは決して天使族や悪魔族ではなく人族側のはずだ。それともソウルス族がセインの他にそのような力を持っているのだろうか。
 理由は分からないけれど、私達以上の力であることは間違いないのだから、並の天使族には負けることはないだろう。
ゼノ:
「前までは俺側だっただろ!」
セラ:
「……後で力比べしてみてください」
ゼノ:
「何で?」
 セラの提案にゼノが首を傾げるが、それで私達の言わんとすることが分かると思う。
 ゼノを置いて話を先へ進めよう。
エイラ:
「それで、私達が天使族の注意を引いている間にセラ様、シェーン、アグレシアが女王様と接触するんですよね」
セラ:
「はい、お母様は聖堂へ特定の時間に入ります。そのタイミングを狙って私達は聖堂への侵入を試みます。お母様が聖堂へ入っている間はお姉様方が代わりにゼノ達を対処するはずです。並の天使族では手に負えませんからね。ゼノ達にはどうにかしてシノお姉様とエクセロお姉様を留めておいて欲しいんです。ゼノ達がお姉様方に接触したタイミングで私達も結界を通過しますから」
 シノ達が警告しに行かないほどアイにとって聖堂での時間は大切だという事なのだろう。同様に、アイも滅多なことがなければ聖堂からは動かないと考えていい。
エイラ:
「そちらへ向かわないようにすればいいんですね。接触した際の合図はどうしましょうか」
 城の近くから王都の外まで分かる合図。かなりの距離になるし、場合によっては城内にいる場合もある。となると、視覚よりも聴覚だろうか。
ゼノ:
「それなら俺の雷魔法で行こう」
 いつの間にやらゼノが話に戻ってきていた。
ゼノ:
「会うまで使わないからさ。会った時に滅茶苦茶五月蠅いのお見舞いしてやるわ。絶対聞こえるようにするよ」
シロ:
「ゼノ、私とエイラは近くにいるんだから程々にしなさいよ」
ゼノ:
「やる時教えるから自力でどうにかしてくれ」
 グッとサムズアップしてくるゼノ。もう彼の中では確定事項らしい。眩しい笑顔がそれを物語っている。
エイラ:
「シロ、私が音防ぎますから……」
シロ:
「ゼノの近くにいると苦労が絶えないわね……」
 視線でお互いを労った。なんて人を好きになってしまったのだろう。
 シロと一緒にため息をつく。すると、その間にセラがゼノを呼んだ。
セラ:
「……ゼノ」
 その表情はどこか複雑そうだった。
ゼノ:
「ん、なんだ」
セラ:
「……無理難題を言うようで申し訳ありません。でも……」
 目を閉じて逡巡しているセラ。言おうかどうか迷っているようで。
 でも、やがて懇願するようにセラは告げた。
セラ:
「あまり、お姉様方を傷付けないでくださいね」
 セラのそれはあまりに難しい話だとは思う。傷付けないようにしながら、その場に留めなければならない。相手は殺す気で来るはずだ。
セラ:
「もちろん、ゼノ達にも傷付いて欲しくはありません……でも!」
ゼノ:
「分かってるって」
セラ:
「っ」
 でも、ゼノは即答した。迷うことなく笑顔で、優しい声音でそっと答える。
ゼノ:
「セラの家族だ。大切な家族なんだ、傷付けたりなんてしないよ」
きっとゼノはセラの感情全てを理解している。だから、これ程までに即答できるのだろう。
セラ:
「ゼノ……!」
 セラの顔に笑顔の花が咲いていく。それはとても嬉しそうで幸せそうで。見ているだけでこちらにも伝播して来そうな。
セラ:
「ありがとうございます! ちゃんと、私もメアちゃんのことを聞いてきますから!」
 そう、それが第二目的。メアとアイが何かしらの関係を持っていることは確かだ。記憶のないメアの為にも、聞いて来なくては。アキとの約束だ。
ゼノ:
「無理はするなよ。最優先はセラとセラの母さんの関係だぞ」
セラ:
「でも、きっとそこにメアちゃんは関係してきますから。どちらにせよ聞くことになると思います」
ゼノ:
「そうか……じゃあ、頼んだ」
セラ:
「はい!」
 ゼノとセラが微笑み合う。
 ……。
 私が気にし過ぎなのだろうか。分からないけれど、やはりどこか二人だけの世界があるような気がしてならない。
 ……ずるいです。
 シロに言われてから、少しずつゼノともまた話せるようになってきたけれど、やはり私に対する接し方とセラへの接し方は違うと思う。
 それは当然と言えば当然かもしれないけれど。やはり羨ましく思ってしまうものだ。
 何が羨ましいと言われれば、少し難しい。だけど、ゼノは少しセラを特別扱いしているような。
 そのせいで、本当にセラはゼノのことを好いていないかとか、変な詮索をしてしまう。
 ……いえ、いけませんね。
 これは単なる嫉妬だ。これほど醜い事はない。自分が嫌になって来た。
ゼノ:
「ん、エイラ、どうした?」
エイラ:
「えっ」
 ボーっとしていたのか、ゼノが不思議そうに尋ねてきた。
 いけない、顔にも出ていたかもしれない。ここは平常を装わないと。
エイラ:
「いいえ、何も」
ゼノ:
「そうか? なら良いんだけど。明日は頼りにしてんだからな、体調が悪いならしっかり休めよ」
 ゼノの言葉はいつも温かい。ふざけている時だって温かく感じる。私の主観が入っているのかもしれないけれど、彼の傍はいつだって。
エイラ:
「ゼノ」
ゼノ:
「ん?」
 だからだろう。こんな甘えたことを言うつもりはなかったのに。
エイラ:
「私のこともしっかり守ってくださいね」
 悪魔の中でも四魔将の私が何を言っているんだという話だ。
 ゼノも一瞬目を丸くして笑った。
ゼノ:
「守られるようなタイプじゃないくせに」
エイラ:
「……そう、ですよね。すみません、変なことを――」
 ゼノの言葉が少し悲しくて、苦笑しながら引き下がろうとしてしまう。
ゼノ:
「けど、そうだな……」
 でも、まさか言葉が続くと思っていなくて、驚いた顔でゼノを見つめてしまった。
 ゼノはニッと笑った。
ゼノ:
「そういう時は言えよ、いつでも守りに行ってやるからさ」
 その言葉だけで嬉しく思ってしまうのだから、本当に単純な自分が嫌になる。
 ゼノにとって私は四魔将とか悪魔とか関係ないのだと素直に思える。自分が一人の女性だと思えてしまう。
先程までの嫌な気持ちは吹き飛んでしまうのだから、本当に変な話だ。
 思わずにやけてしまいそうになる口元を押さえながら、どうにか言葉を返す。
エイラ:
「ゼノに守られるのは屈辱ですからね、頑張ることにしますよ」
ゼノ:
「お前が守ってくださいって言ったのにね!?」
 素直になれない自分も嫌いだけど、今のこの距離感は好きだ。
 急がなくていいんだと思う。誰かを好きになったとしても、その感情に焦ることはない。
 自分の思う歩幅で、自分らしく私はゼノへ歩んでいこう。
ゼノ:
「まったく、まあ元気そうで何よりだよ」
 ゼノが立ち上がって全員を見渡す。それに合わせて私達も立ち上がった。
 今ここにいる全員の心は一つ。
ゼノ:
「さて、それじゃあ明日、全員生還、全目的達成の万々歳で乗り切ってやろうぜ!」
エイラ:
「はい!」
 各々が声を上げていく。薄暗い洞穴に声が響き渡っていった。
………………………………………………………………………………
 そして、決戦当日。快晴の空から差し込む光が目の前にいる天使族達を照らしていた
 既に侵入がエクセロから知らされているのだろう。大勢の天使族が甲冑を着て待っている。国民にまでまだ知らせる余裕が無かったようで、近くには国民がいた。巻き込まないようにしなくては。
ゼノ:
「こりゃ大歓迎だな」
エイラ:
「主役の登場ですからね」
シロ:
「パーティグッズにしてはギラギラしてるけれどね」
 ここは王都ハート、ハ―ティス城の城門前広場。
 大勢の天使族を前に、ゼノが不敵に笑って告げる。
ゼノ:
「さて、それじゃあ家庭訪問と行きますかっ」
 遂に、セラの命運をかけた戦いが始まった。
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