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3『過去の聖戦』
3 第二章第十一話「忘却の結果」
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ゼノ
必死に天地谷を駆け上がった。一刻も早く頂上にいるはずのセラとエイラに、タイタスが迫っていることを告げないと。頂上の方からは雲のせいでタイタスの存在が見えていないはずだ。
だから急いだ。最悪の状況を避けるために急いだのに、見えてきた頂上の光景ったらもっと酷いものだった。
なんだよアレ!
頂上では、エイラと天使族と思わしき奴が巨大な怪物に襲われていた。天使族の方はセラとの通信の時に後ろの方に映っていたような気がするが、あの怪物を見たのは初めてだ。赤い鱗に巨大なかぎ爪。脈打つ大きな尻尾は威圧感を倍増させていた。そして、幾つもの鋭い牙に噛みつかれてしまっては死を避けることは不可能だろう。
あぁもう、タイタスと怪物、どっちを優先すりゃいいんだ!
タイタスは馬鹿でかい。俺だけで勝つのは難しいだろう。だから、セラとエイラの力を借りようと思ってきたのに、肝心のセラもいないし、怪物もいるし。
でも、怪物にとってもタイタスは脅威に違いない。もしかしたら……。
怪物がエイラ達に何かしらの攻撃をしようとしていた。口元にかなりの魔力を集めているらしい。
間に合えっ……!
全速力で空を翔け、怪物とエイラ達の間に突っ込む。だが、もしかしたら間に合わないかもしれない。俺の存在を知らせ、注意を引くために命一杯叫んだ。
ゼノ:
「待て!」
???:
「待って下さい!」
その叫びのお陰なのか分からないが、少なくとも怪物の攻撃は止んだ。そして、頂上に着いた時、俺の隣にはもう一人いた。俺と同タイミングでこの場所に辿り着いたようだ。
っ、セラ……!
気付けば隣にセラが駆けつけていた。右肩に包帯を巻いている様子から見て、どうやら何者かと戦闘したに違いない。だから、最初からこの場所にいなかったのだろう。
俺とセラの登場に、一度場の動きが止まる。その間にエイラが声をかけてきた。
エイラ:
「良いタイミングですが、ゼノは何故ここに?」
ゼノ:
「ん? フィグルに頼まれたんだよ」
エイラ:
「フィグル様にですか!?」
その様子だと、フィグルが俺と接触することを彼女は知らなかったらしい。となると、フィグルは独断で俺に会いに来たようだ。それほどエイラが心配だったという事か。フィグルとは会ったことがないが、エイラと繋がっているのだから俺のことを知っていても可笑しくはない。
エイラは、フィグルの名前を出すだけである程度の状況を理解したようだ。
エイラ:
「なるほど……フィグル様は本当に聡明な方ですね。言わなくても理解してくださります。ということは、私達の目的も聞いたのですね」
ゼノ:
「そーゆーことだ、おまえも話が早くて助かる」
エイラ:
「今はそんな悠長な時間、ありませんからね」
ゼノ:
「……そりゃそうだ」
エイラの視線の先には、怪物が佇んでいた。全てを貫くような眼光は、何故だか俺だけを捉えているように見える。
ゼノ:
「こいつは一体なんだ?」
エイラ:
「知らないのですか? これは竜と言うんです」
ゼノ:
「竜……」
伊達に地下生活が長くない。初めて見る生き物だ。すると、その竜が何やら告げた。
竜:
「【まさか、人族も来るとはな】」
言下、竜の全身が光に包まれ、次の瞬間には怪物の姿がいなくなっていた。代わりに、そこには年老いた老人が立っていたのだ。
ゼノ:
「えっ、竜が消えて爺さんが出てきた!?」
エイラ:
「あのお爺さんが先程の竜ですよ」
ゼノ:
「へー! 竜は爺さんになれんのか!」
世界は広いんだなぁ。知らないことだらけだ。
だが、そういうわけでもないらしい。
竜→ジェガロ:
「我が名はジェガロ。生憎じゃがその認識は間違っておるぞ。ワシが人化の魔法で人になっているだけじゃ」
ゼノ:
「え、じゃあその老人の姿は?」
ジェガロ:
「威厳が出るじゃろう」
ゼノ:
「なるほど!」
エイラ:
「なに納得してるんですか。理由が俗っぽくて私はビックリですよ」
エイラが呆れた顔でジェガロを見ている。言われてみれば確かに俗っぽい。
ゼノ:
「竜っててっきりそういう種族なのかと」
エイラ:
「まさか。竜は伝説の存在ですよ。私も初めて見たんですから」
ほう、エイラですら初めてか。ってか、なら良くついさっき「知らないのですか?」とか言ってきたな。おまえだって知識だけで見たこと無かったくせに。
そのくせして、エイラは言葉を続ける。
エイラ:
「ゼノ、本とかもっと読んでくださいよ。知識が足らなすぎです」
ゼノ:
「無茶言うなよ。ずっと地下にいたんだし。まぁ本はあったけどさ」
エイラ:
「あぁ、そもそも読まないんですね」
ゼノ:
「よくお分かりで!」
エイラと軽口を交わす。会ったのはたったの一度きりだったが、不思議なことにいつも話していたような、そんな感覚があった。
……変な奴。
だが、そう思ってたのは俺だけじゃないらしい。ジェガロは、不思議なことに人型になってなお俺のことを見ていた。今はプラスして随分訝し気だ。
ジェガロ:
「……何故、人と悪魔が親しそうに話しとるんじゃ」
普通に考えればおかしい状況か。本来悪魔は人を奴隷としているのだから。
ゼノ:
「んー、まぁ同じ志を持ち合わせててな」
エイラ:
「簡単に言えばそういうことです」
ジェガロ:
「どういう経緯でそうなるのじゃ」
訝しげなのはジェガロだけじゃなかった。
天使族の女:
「貴様! 何故悪魔と親しそうに話している!」
剣の切っ先を俺に向けながら、例の天使族が鋭い目で睨みつけてくる。その隣でセラが何やら複雑そうな表情をしていた。つまり、エイラ以外の全ての目が俺に向けられていると言っていい。
それもそうか。悪魔族のエイラと仲良くしてるんだ。敵対している天使族からしたら、意味分からない光景だよな。
残念ながら、フィグルの懸念は当たったようだ。セラは俺と同盟を組もうと思っていたはずだから、俺とエイラの2ショットはそりゃ複雑になる。
セラ:
「ゼノ、と言いましたね」
セラが眉間に皺を寄せ、疑うように声をかけてくる。
セラ:
「これは一体、どういう状況なのでしょうか」
問いただすような声音。さて、どのように説明しようか。
そう思っていた時だった。
視界の隅を何かがよぎる。
……あ。すっかり忘れてた。
突如、他の面々が声を上げ始めた。
天使族の女:
「何だあれは!?」
セラ:
「ここ、かなりの高さですよね……!」
ジェガロ:
「馬鹿な!?」
エイラ:
「っ、あの剣……!」
俺達の目の前には、巨大な大刀がそびえ立っていた。エイラは見たことがあるようだがそれもそのはず。それは同じ四魔将タイタスの大刀なのだから。
うわー、すっかり忘れてた。
ジェガロという竜の存在といい、エイラ達が絶体絶命だったのもあって、タイタスのことをいつの間にかすっかりさっぱり忘れていたのだ。
ゼノ:
「悪い、話は後で! 今タイタスっていう悪魔側の魔将が向かって来てるんだ!」
エイラ:
「向かって来てるっていうか、今にも攻撃するつもりですよね」
高々と掲げられた大刀は優に天地谷の頂上を超えていた。ただでさえタイタスが馬鹿でかいのだ。その身長ほどある大刀が掲げられたならば、世界一高いと言われている天地谷すら超えてしまう。雲から赤黒い大腕が突き出ていた。
天使族の女:
「何故もっと早く言わない!」
ゼノ:
「色々衝撃的すぎて忘れてたんだよ!」
セラ:
「言い合ってる場合じゃありません!」
セラの言う通りだった。その大刀が少し振りかぶられる。ということはつまり、次の瞬間には思いっきり振り下ろされるという事だ。あの大刀が振り下ろされたら、その破壊力は想像を容易に超えてくるだろう。
ゼノ:
「タイタスは凄いでかい! あいつを倒すにはここにいる皆の力が必要だ! セラもそこ天使も、ジェガロもいいから力を貸してくれ! じゃなきゃ勝てないぞ!」
逆に言えば、ここで全員が強力出来ればタイタスを倒すことが出来るはずだ。
だが、ジェガロが言葉を遮る。
ジェガロ:
「悪いが、わしは人に力を貸さないことにしておる」
ゼノ:
「なっ、そんなことを言っている場合じゃ――」
エイラ:
「ゼノ、来ます!」
エイラに襟元を引っ張られる。その直後だった。
勢いよく大刀が振り下ろされる。あまりに巨大で凄まじい重量感。近づいてきているはずなのに、巨大なせいでまるで近づいている気がしない。最初から大きすぎるのだ。だが、気付けば一瞬だった。目の前に金属の塊が迫っていた。
斬られるというか、潰される。
俺とエイラ、ジェガロは左へ、そして、セラともう一人の天使が右へ急いで飛び込む。
その瞬間、大刀が天地谷を的確に捉えた。
そして、天地谷は今確かに真っ二つに裂けた。
必死に天地谷を駆け上がった。一刻も早く頂上にいるはずのセラとエイラに、タイタスが迫っていることを告げないと。頂上の方からは雲のせいでタイタスの存在が見えていないはずだ。
だから急いだ。最悪の状況を避けるために急いだのに、見えてきた頂上の光景ったらもっと酷いものだった。
なんだよアレ!
頂上では、エイラと天使族と思わしき奴が巨大な怪物に襲われていた。天使族の方はセラとの通信の時に後ろの方に映っていたような気がするが、あの怪物を見たのは初めてだ。赤い鱗に巨大なかぎ爪。脈打つ大きな尻尾は威圧感を倍増させていた。そして、幾つもの鋭い牙に噛みつかれてしまっては死を避けることは不可能だろう。
あぁもう、タイタスと怪物、どっちを優先すりゃいいんだ!
タイタスは馬鹿でかい。俺だけで勝つのは難しいだろう。だから、セラとエイラの力を借りようと思ってきたのに、肝心のセラもいないし、怪物もいるし。
でも、怪物にとってもタイタスは脅威に違いない。もしかしたら……。
怪物がエイラ達に何かしらの攻撃をしようとしていた。口元にかなりの魔力を集めているらしい。
間に合えっ……!
全速力で空を翔け、怪物とエイラ達の間に突っ込む。だが、もしかしたら間に合わないかもしれない。俺の存在を知らせ、注意を引くために命一杯叫んだ。
ゼノ:
「待て!」
???:
「待って下さい!」
その叫びのお陰なのか分からないが、少なくとも怪物の攻撃は止んだ。そして、頂上に着いた時、俺の隣にはもう一人いた。俺と同タイミングでこの場所に辿り着いたようだ。
っ、セラ……!
気付けば隣にセラが駆けつけていた。右肩に包帯を巻いている様子から見て、どうやら何者かと戦闘したに違いない。だから、最初からこの場所にいなかったのだろう。
俺とセラの登場に、一度場の動きが止まる。その間にエイラが声をかけてきた。
エイラ:
「良いタイミングですが、ゼノは何故ここに?」
ゼノ:
「ん? フィグルに頼まれたんだよ」
エイラ:
「フィグル様にですか!?」
その様子だと、フィグルが俺と接触することを彼女は知らなかったらしい。となると、フィグルは独断で俺に会いに来たようだ。それほどエイラが心配だったという事か。フィグルとは会ったことがないが、エイラと繋がっているのだから俺のことを知っていても可笑しくはない。
エイラは、フィグルの名前を出すだけである程度の状況を理解したようだ。
エイラ:
「なるほど……フィグル様は本当に聡明な方ですね。言わなくても理解してくださります。ということは、私達の目的も聞いたのですね」
ゼノ:
「そーゆーことだ、おまえも話が早くて助かる」
エイラ:
「今はそんな悠長な時間、ありませんからね」
ゼノ:
「……そりゃそうだ」
エイラの視線の先には、怪物が佇んでいた。全てを貫くような眼光は、何故だか俺だけを捉えているように見える。
ゼノ:
「こいつは一体なんだ?」
エイラ:
「知らないのですか? これは竜と言うんです」
ゼノ:
「竜……」
伊達に地下生活が長くない。初めて見る生き物だ。すると、その竜が何やら告げた。
竜:
「【まさか、人族も来るとはな】」
言下、竜の全身が光に包まれ、次の瞬間には怪物の姿がいなくなっていた。代わりに、そこには年老いた老人が立っていたのだ。
ゼノ:
「えっ、竜が消えて爺さんが出てきた!?」
エイラ:
「あのお爺さんが先程の竜ですよ」
ゼノ:
「へー! 竜は爺さんになれんのか!」
世界は広いんだなぁ。知らないことだらけだ。
だが、そういうわけでもないらしい。
竜→ジェガロ:
「我が名はジェガロ。生憎じゃがその認識は間違っておるぞ。ワシが人化の魔法で人になっているだけじゃ」
ゼノ:
「え、じゃあその老人の姿は?」
ジェガロ:
「威厳が出るじゃろう」
ゼノ:
「なるほど!」
エイラ:
「なに納得してるんですか。理由が俗っぽくて私はビックリですよ」
エイラが呆れた顔でジェガロを見ている。言われてみれば確かに俗っぽい。
ゼノ:
「竜っててっきりそういう種族なのかと」
エイラ:
「まさか。竜は伝説の存在ですよ。私も初めて見たんですから」
ほう、エイラですら初めてか。ってか、なら良くついさっき「知らないのですか?」とか言ってきたな。おまえだって知識だけで見たこと無かったくせに。
そのくせして、エイラは言葉を続ける。
エイラ:
「ゼノ、本とかもっと読んでくださいよ。知識が足らなすぎです」
ゼノ:
「無茶言うなよ。ずっと地下にいたんだし。まぁ本はあったけどさ」
エイラ:
「あぁ、そもそも読まないんですね」
ゼノ:
「よくお分かりで!」
エイラと軽口を交わす。会ったのはたったの一度きりだったが、不思議なことにいつも話していたような、そんな感覚があった。
……変な奴。
だが、そう思ってたのは俺だけじゃないらしい。ジェガロは、不思議なことに人型になってなお俺のことを見ていた。今はプラスして随分訝し気だ。
ジェガロ:
「……何故、人と悪魔が親しそうに話しとるんじゃ」
普通に考えればおかしい状況か。本来悪魔は人を奴隷としているのだから。
ゼノ:
「んー、まぁ同じ志を持ち合わせててな」
エイラ:
「簡単に言えばそういうことです」
ジェガロ:
「どういう経緯でそうなるのじゃ」
訝しげなのはジェガロだけじゃなかった。
天使族の女:
「貴様! 何故悪魔と親しそうに話している!」
剣の切っ先を俺に向けながら、例の天使族が鋭い目で睨みつけてくる。その隣でセラが何やら複雑そうな表情をしていた。つまり、エイラ以外の全ての目が俺に向けられていると言っていい。
それもそうか。悪魔族のエイラと仲良くしてるんだ。敵対している天使族からしたら、意味分からない光景だよな。
残念ながら、フィグルの懸念は当たったようだ。セラは俺と同盟を組もうと思っていたはずだから、俺とエイラの2ショットはそりゃ複雑になる。
セラ:
「ゼノ、と言いましたね」
セラが眉間に皺を寄せ、疑うように声をかけてくる。
セラ:
「これは一体、どういう状況なのでしょうか」
問いただすような声音。さて、どのように説明しようか。
そう思っていた時だった。
視界の隅を何かがよぎる。
……あ。すっかり忘れてた。
突如、他の面々が声を上げ始めた。
天使族の女:
「何だあれは!?」
セラ:
「ここ、かなりの高さですよね……!」
ジェガロ:
「馬鹿な!?」
エイラ:
「っ、あの剣……!」
俺達の目の前には、巨大な大刀がそびえ立っていた。エイラは見たことがあるようだがそれもそのはず。それは同じ四魔将タイタスの大刀なのだから。
うわー、すっかり忘れてた。
ジェガロという竜の存在といい、エイラ達が絶体絶命だったのもあって、タイタスのことをいつの間にかすっかりさっぱり忘れていたのだ。
ゼノ:
「悪い、話は後で! 今タイタスっていう悪魔側の魔将が向かって来てるんだ!」
エイラ:
「向かって来てるっていうか、今にも攻撃するつもりですよね」
高々と掲げられた大刀は優に天地谷の頂上を超えていた。ただでさえタイタスが馬鹿でかいのだ。その身長ほどある大刀が掲げられたならば、世界一高いと言われている天地谷すら超えてしまう。雲から赤黒い大腕が突き出ていた。
天使族の女:
「何故もっと早く言わない!」
ゼノ:
「色々衝撃的すぎて忘れてたんだよ!」
セラ:
「言い合ってる場合じゃありません!」
セラの言う通りだった。その大刀が少し振りかぶられる。ということはつまり、次の瞬間には思いっきり振り下ろされるという事だ。あの大刀が振り下ろされたら、その破壊力は想像を容易に超えてくるだろう。
ゼノ:
「タイタスは凄いでかい! あいつを倒すにはここにいる皆の力が必要だ! セラもそこ天使も、ジェガロもいいから力を貸してくれ! じゃなきゃ勝てないぞ!」
逆に言えば、ここで全員が強力出来ればタイタスを倒すことが出来るはずだ。
だが、ジェガロが言葉を遮る。
ジェガロ:
「悪いが、わしは人に力を貸さないことにしておる」
ゼノ:
「なっ、そんなことを言っている場合じゃ――」
エイラ:
「ゼノ、来ます!」
エイラに襟元を引っ張られる。その直後だった。
勢いよく大刀が振り下ろされる。あまりに巨大で凄まじい重量感。近づいてきているはずなのに、巨大なせいでまるで近づいている気がしない。最初から大きすぎるのだ。だが、気付けば一瞬だった。目の前に金属の塊が迫っていた。
斬られるというか、潰される。
俺とエイラ、ジェガロは左へ、そして、セラともう一人の天使が右へ急いで飛び込む。
その瞬間、大刀が天地谷を的確に捉えた。
そして、天地谷は今確かに真っ二つに裂けた。
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