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3『過去の聖戦』

3 第二章第十話「天地谷、頂上にて」

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エイラ
 段々と天地谷の頂上が見えてきていた。
 全く、高過ぎやしませんか。
 悪魔族特有の黒翼で飛べるとはいえ、天地谷の頂上へ向かうのはそれでも大変だった。何と言っても天地谷の頂上は雲の遥か上。必死に羽ばたいて漸く辿り着ける場所だ。
 そういうわけで、必死に黒翼を動かして漸く天地谷の頂上へ到着した。天地谷の頂上はかなり細く、山脈に沿ってどうにか人一人分着地出来そうな道が続いているだけだった。
 ここがゼノとセラ・ハートの合流場所……。
 合流場所にしてはあまりに苛酷な場所であるが、だからこそ選ばれたのかもしれない。とりあえずはその道にゆっくりと着地した。
気付けば既に夜になっており、夜空には無数の星が煌めている。今日は雲が多い為、地上じゃこの景色は見られない。
 必至に登ったご褒美とでも言えそうな美しい景色に見惚れていた時だった。
???:
「っ、悪魔族!」
 突如叱声のようなものが飛んできた。
 折角浸ってたのに……。
 夜空にお別れを告げ、声の方へ視線を向ける。するとそこには、天使族の女の姿があった。
 ……セラ・ハートではありませんね。
 セラの容貌は大体覚えている。が、今目の前にいる天使族は同じ金髪でもストレート、私を睨みつける目はかなり鋭い。どう見ても別人であった。
 ですが、ここにわざわざ来ているということは、セラ・ハートの関係者ですかね。
 観光で天地谷の頂上へは来ないだろう。
 私は、その女へ声をかけてみた。
エイラ:
「すみませんが、セラ・ハートはどちらに? 彼女に用があるのですが」
女:
「悪魔族に答える義理はない!」
 女は既に腰に差した剣を抜いており、今すぐにでも斬りつけてきそうな形相だった。
 その様子に私はため息をつく。
 やはり、天使族とはお話になりませんか……。
 悪魔族と天使族は遥か昔から敵対していた。顔を合わせれば殺し合いは当たり前、そんな関係なのだ。女の態度は当然と言える。
 しかし、改めてこの関係性を考えると、セラ・ハートと話し合いに持ち込むことは難しいかもしれない。お互いに手を組まないか、と言って果たして聞いてくれるだろうか。
 私も人族を解放しようと思ってる、なんて信じてくれないですよね……。何か証拠となるものを持ってくるべきでしたか。でも、何が証拠になるのやら……。
 一瞬、ゼノの顔が脳裏をよぎった。彼を連れて来れば案外うまくいく、そんな気がしたのだ。少し会っただけなのに、彼ならば私の話を信じて、ついて来てくれる気がするから不思議なものだ。
 つい顔に笑みが浮かんでしまう。女はその笑みが気に食わなかったらしい。
女:
「笑っていられるのも今の内だ!」
 細い道にも関わらず颯爽と駆け出してきた。どうやら女は天使族の中でもそれなりの実力者のようで、一瞬にして眼前まで踊り込んでくる。
エイラ:
「《悪意ある拒絶!》」
 目の前に黒盾を生成した直後、剣がそれに衝突する。かなりギリギリのタイミングだった。
女:
「ちっ!」
 盾に思いっきり弾かれ、女が宙に舞う。が、すぐに白翼をはためかせて体勢を立て直していた。私もそれに倣って宙へと舞う。
 セラ・ハートの関係者であるなら、彼女も人族解放には賛成のはず。どうにかこうにか話を聞いてもらえないでしょうか。
 考えた挙句、とりあえずゼノの名前を持ち出してみることにした。
 ゼノの知り合いだと分かってもらえれば、意外と話は上手くいくかもしれません。
エイラ:
「私はエイラ・フェデル。ゼノと同じ志を持つものです」
 ゼノの名前を持ち出すと、女は眼を見開いた。
女:
「ゼノだと!? ラフルスで反乱を起こしたあいつか!」
 だが、予想に反して女の語気が強くなった。
女:
「信用に値するかまだ判断途中だったが、悪魔とグルだったとはな! やはり信用のならない男だったか!」
 あれ……。
 むしろ失敗だったようだ。元々女にとってゼノは良い存在ではなかったのかもしれない。
 やはりとか言われていますし……。何したんですか、あの人は。
女:
「どうやら、ここへの合流も私達を誘い出す罠だったようだな!」
エイラ:
「いえ、それは違い――」
女:
「聞く耳を持たないな!」
 再び女が斬りかかってくる。
 ……とりあえず動けなくしますか。話はそれからですね。
エイラ:
「《水の形・薙ぎ払い》」
 水で出来た薙刀で、剣撃を受け止める。
エイラ:
「五月蠅いので、あなたには少し黙ってもらいますね」
女:
「貴様が永遠に黙れ! 《神速剣!》」
 女の姿が一瞬で目の前からいなくなった。
 これはまた厄介な……!
 あまりに速すぎて目では捉えられない。直感で薙刀を首の前で構えると、そこに甲高い音と共に剣がぶつかっていた。女が舌打ちをする。
女:
「勘のいい女だ!」
エイラ:
「殺す気しかないようですね! 《グラビティインパクト!》」
 女へと下向きの重力をかける。咄嗟に女が身を引こうとするが、水の薙刀が剣を内に捕らえ、放さなかった。そのままモロに重力を浴び、女が山脈に激突する。
女:
「ぐっ!」
 どうにか立ち上がろうともがく女だったが、万が一もあり得ないように重力をより強くしておいた。そのお陰で女がそこから立ち上がることはない。
 さて、ようやく大人しくなりましたか。これで、セラ・ハートの居場所やらを聞けます。
女:
「くそっ、悪魔め!」
エイラ:
「はいはい、罵倒はご自由に。それより、あなたにいくつか答えていただきたいことがあります」
女:
「誰が答えるか!」
エイラ:
「捕らえても五月蠅いですね……」
 いっそここで殺してしまいますか? 悪魔族への偏見も拭えないようじゃ私達の邪魔になりますし。ここで殺しても誰にも文句は言われ……ますね。殺してはセラ・ハートとも話し合いになりそうにありません。なら、寝ていてもらいますか。
 せめて話し合いが円滑に進むよう気絶してもらうことにした。
そして、女に近づいた時だった。
???:
「何をしておる」
 こんな場所には似合わない、老人の声が聞こえてきたのだ。
エイラ:
「っ」
 すぐにそちらへ振り向くと、空中に全身をローブに包んだ老人が浮かんでいた。その背中には翼などなく、見た目は人族そのものだ。
 いつの間に現れ、近づいたのか。四魔将の私ですら気配は感じなかった。
 この人族は一体……。
 不思議な威圧感に、思わず薙刀を構えてしまう。相手が老人で、しかも何も持ち合わせていないにも関わらずだ。
 その老人が再び声を発する。
老人:
「何をしておると聞いているのだっ」
 老人の形相は厳しいものだった。
老人:
「静かに寝ていれば、上でガチャガチャやりおって! うるさくて寝られもせん!」
 そう語る老人の身体からは、私に匹敵する、いやそれ以上の魔力が溢れ出ていた。もし老人が人族であるとすれば、本当に信じられない光景だ。ゼノのような存在が人族にも、それもこのようなご老体が。
 だが、老人に対する認識は間違っていた。
老人:
「戦うなら余所でやれ!」
 その瞬間、老人の身体から眩い光が解き放たれ、真夜中の空を明るく照らした。
エイラ:
「うっ!」
 あまりの眩しさに目も開けられない。目を閉じてなお光が瞼から漏れていた。
 その時、重力から女が抜け出したのを感じ取った。私の注意が逸れ、重力が甘くなっていたのだ。
エイラ:
「しまった!」
女:
「隙だらけだぞ!」
 背後に殺気が迫る。この眩い状況下で女は的確に私の位置を把握していた。
エイラ:
「っ!」
 勢いよく振り向こうとする。だが、それは凄まじい音量の怒号に止められた。
老人:
「【だから、うるさいと言っているんだ!】」
 鼓膜が破れそうだった。まるで目の前で爆発が起きたような、そんな感覚。背後に迫っていた殺気も一瞬にして掻き消されていた。
 ようやく眩しい光も消え、ゆっくりと眼を開ける。すると、眼前には巨大な怪物が浮かんでいた。
 一つ一つが巨大な赤い鱗、私達など一瞬で握りつぶせそうな巨大な腕、そして爪。大きく開いた翼はその巨体の威圧感をさらに増し、尻尾は苛立ちを表現するがごとく天地谷へ打ち付けられていた。
 そう、いつの間にか赤い竜が目の前に現れていた。
エイラ:
「竜、ですか……」
女:
「まさか実在するとは……」
 これには私も、女も驚きを隠すことが出来ず、ただただ立ち尽くしていた。
 そんな私達を、全てを貫くような双眸が睨んでいる。
老人→竜:
「【天使も悪魔も儂は嫌いなんじゃ。五月蠅くした罰だ、ここで死ね!】」
 言下、竜の喉が赤く光る。気のせいか周囲の気温が一気に上昇している気がする。
 私と女は一度顔を合わせた。
女:
「おい、一度休戦にしないか」
エイラ:
「そう、ですね。その方がお互い都合がいいかもしれません」
 先程とは打って変わって、今私達の意志は一つになっていた。緊急事態の今、天使や悪魔だのと言っていられない。
 しかし、どうしたものか。力を合わせてもこの竜に勝てる気がしない。逃げるにしたって逃がしてくれるかどうか。
 死ぬなら天使の手か、王の手かと思っていましたが、まさか竜とは想定外過ぎますよ。
 思わず苦笑してしまう。
竜:
「【さあ、焼け死ね!】」
 そして、竜が大きく口を開けた時だった。
???:
「待て!」
???:
「待ってください!」
 私と女、そして竜の間に何者かがそれぞれ別々の方向から飛び出して来た。その影は二つ。
 その内の一つを捉えると、不思議と安堵が身体を襲った。本当に不思議な感覚である。一回戦っただけなのに、もう彼という存在が信頼できる存在となってしまっているのだから。
エイラ:
「……ナイスタイミングですね、ゼノ」
 それは、ゼノとセラ・ハートの両名だった。
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