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3『過去の聖戦』

3 第一章第三話「ゼノVSエイラ」

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ゼノ
 爆発魔法を唱えた直後にシールドを張っていたため、大したダメージは無かったが、爆風に大きく吹き飛ばされた。
ゼノ:
「うおおっ!?」
 そのまま駐屯所横の大きな広場へと転がり込む。検問所や駐屯所は激しく燃え上がっており、確実に不意を突いたため生き残っている悪魔族はいないだろう。
 目下の問題は、俺に気付いた悪魔の存在だった。
 狼煙を上げたけど、ちょっとヤバいかもな。
ゼノ:
「っ」
 そう考えていた直後、殺気が全身に降り注ぐ。咄嗟に横に転がって回避すると同時に元いた場所に雷が落ち、地面が砕けた。
 転がりつつ雷の魔力を辿り、そちらへ視線を向ける。
 そこには、先程の悪魔女が立っていた。体中に砂埃はついているが、目立った外傷はない。
ゼノ:
「あー、やっぱりやられてないかー」
???:
「あなた、一体何者ですか?」
 悪魔女が黒髪についた埃を払いながら尋ねてくる。
悪魔とはいえ、髪に砂埃がつくのは女性としてアウトなのな。
ゼノ:
「何者って、俺はあんた達に酷使されているただの人族だよ」
 だが、その返答が納得いかないようで、悪魔女はそれを否定してきた。
???:
「ただの奴隷があれほどの魔力を持っているわけがありません」
ゼノ:
「ああ、この爆発なら魔石の力を大半――」
???:
「いえ、あなた自身の力が大きいはずです。誤魔化さないでください」
 決めつけるように悪魔女が告げる。
 うわー、やりづらいな、この悪魔。
 おそらく、目の前に立つこの悪魔はかなりの実力を持っているに違いない。見た目の上品さも他の悪魔達とは一線を画している。
 良い育ち、良いご身分ってことか。
 そう思うと、少しイラっとした。それがそのまま声に乗る。
ゼノ:
「大体、ただの奴隷だの何だの、つまりは人族を舐めてたってことだろ! どうだ、人族舐めんな! ていうか俺の尻触んな!」
???:
「べ、別に触りたくて触ったわけじゃ――」
ゼノ:
「いいや、もう触った事実は変えられないね! 本当は触れて嬉しかったんだろ! この変態め!」
???:
「そんなことありません! あなただって本当は触られて嬉しかったんじゃありませんか!」
ゼノ:
「そ、そんなこと……ない!」
 本当は少しだけ興奮しました。あいつ普通に美女だし。
 そんなことを思っていると、悪魔女はとても嫌そうに顔を歪めた。
???:
「うわー、きもいですね」
ゼノ:
「心読んだの!?」
???:
「その顔見たら分かりますよ」
 いや、どんな顔してんだよ俺は。
 悪魔女は視線を俺から周囲へと向けた。燃えている駐屯所と検問所。その赤い炎が俺達を照らしている。
???:
「……少なくとも、あなたが反乱者であることは確かですね。排除させてもらいますよ」
 言下、悪魔女からおぞましい魔力が噴き出した。
 こいつ、思った以上に出来るかも。
 しかし、反乱を成功させるためには悪魔女を倒さなくてはならないだろう。彼女の後ろに唯一地上へと繋がる道があるのだ。尤も、今は検問所爆破の際に炎で塞がれているが。
 戦うべく構えながら問う。
ゼノ:
「おまえ、ただの悪魔じゃないな」
 その問いに、当然とばかりに悪魔女が答えた。
???→エイラ:
「それはそうですよ、私は四魔将の一人ですから。エイラ・フェデル、聞いたことありませんか?」
ゼノ:
「生憎ここに生まれて十七年経つけど、一度も聞いたこと無いな。悪魔共がこっそりあんたの名前に情報規制でもかけてるんじゃないか?」
エイラ:
「その軽口もここまでです! 《空気の拒絶!》」
 直後、何かが俺に飛んできた。目には見えないが俺の直感がそう告げている。
ゼノ:
「っ」
 咄嗟に横に飛ぶ。すると、俺の背後にあった大岩が一瞬にして砕け散った。
 っ、空気を圧縮して飛ばしているのか。
 見えないために厄介この上ない。だが、避けられないわけでもない。
ゼノ:
「《ライトニング・太刀の型!》」
 手元に雷で出来た刀を出現させ、エイラへと飛び込む。
 距離を取ると厄介だ。接近戦で片を付ける!
 雷を纏い高速で突っ込んだ。
………………………………………………………………………………
エイラ
 私へと高速で向かってくる男。
その手に握られている雷の刀は、普通の人族でも出せる魔法。でも、この加速は……!
咄嗟に魔法を唱えた。
エイラ:
「《悪意ある拒絶!》」
 目の前に薄く黒い正方形が出現し、そこに男の刀がぶつかる。甲高い音が響くが、すぐさま男は後方へと吹き飛ばされた。
???:
「うわっ!」
 男が宙にいる間に魔法を唱える。
エイラ:
「《スプラッシュトルネード!》」
 水の槍が回転しながらいくつも男へと殺到していく。
???:
「このっ!」
 男はそれを全て雷の刀で切り捨て、地上に降りた。
 剣術もなかなかの腕前ですね。
エイラ:
「《水の形・薙ぎ払い》」
 手に水で出来た薙刀を生成し、男へと飛び出す。そのまま男の雷刀と私の薙刀が交わった。
人族の癖に私の筋力についてきますか。
 人族と悪魔族では筋力すら違う。にもかかわらず、彼は私の筋力と同等だった。
 魔力で筋力を補っているようですね。
 それほど繊細な魔力の使い方が出来るのだ。やはり人族にしては稀有な存在だ。
 鍔迫り合いの状態で、私は尋ねる。
エイラ:
「あまり、本気を出しているようには見えませんね!」
???:
「言うて、もう十分本気だけどな!」
エイラ:
「そうですか? 躊躇いが感じられますよ!」
???:
「っ、本当にやりにくい奴!」
 そのまま何回も武器を交わらせ、十回目くらいで男が距離を取った。
???:
「おまえだって、全然本気じゃないんだろ?」
 男の問いに私は笑った。
エイラ:
「あなた程度、本気を出すまでもないんですよ」
 だが、男は分かっているように告げる。
???:
「そうか? どうも俺は試されてるような気がするぞ」
エイラ:
「っ」
 ……この男。
 もしかすれば、私の真意に気付いているのかもしれない。
 男は不敵に笑っていた。
???:
「図星か? ポーカーフェイスは苦手みたいだな」
エイラ:
「あなたも十分やりにくいですね!」
 再び駆け出そうとしたその時だった。
人族:
「ゼノ!」
 採掘場の方から突如大勢の人族が姿を現わしたのである。
………………………………………………………………………………
ゼノ
ゼノ:
「ケレア! 皆も!」
 急に集まった彼らの姿を見て、やはり狼煙のタイミングを間違ったと改めて思った。
 ここに来たということは、他の悪魔達はどうにか倒したということだろう。ほとんどが駐屯所にいたために、少ない見張りを倒すのは彼等でも大丈夫だったようだ。
 だが、今は目の前にエイラがいる。かなりの実力者だ。ケレア達じゃひとたまりもないだろう。守って戦う自信もない。
 とりあえず……遮っとくか。
ゼノ:
「《グランドゾーン!》」
 俺達とケレア達の間に、巨大な赤い半透明の壁が出現した。それは地下を完全に二分しており、もはやお互い行き来することは出来ない。
ケレア:
「ゼノ!?」
 突然の行動に、人族側から声が漏れる。
 その中に、聞き覚えのある声がした。
ゼノ:
「あれ、アキ!?」
 視線を向けると、チラチラと赤髪が見えた。人混みに紛れて見えにくいが、アキもいるようだ。
 何でアキがここに……。
 そう思っている間に、アキが最前列まで出てくる。
アキ:
「ゼノ!」
ゼノ:
「アキ、お前どうしてここに……」
アキ:
「それは……」
 アキが少し答えにくそうに躊躇いを見せる。
 すると、人族側から再び声が上がった。
人族1:
「うわ、悪魔だ!」
 ようやく、エイラの存在に気付いたらしい。
 エイラの方を見ると、彼女は半透明な壁をじろじろと見ていた。
エイラ:
「あの壁、一見普通の魔力の壁に見えますが、凄まじい量の魔力が練られていますね。私でも破れるかどうか……。あなた、やはり何者ですか?」
 向けられる視線。やはり、それはどちらかと言えば興味や好奇心の類じゃあるまいか。
ゼノ:
「言ったろ、ただの人族だって。ただし、こっから本気出させてもらうぞ。仲間も見てるんでな、こっから先の不安を全部拭えるくらいの実力を見せてやらなくちゃな!」
 そして、俺は魔力を全開放した。
………………………………………………………………………………
エイラ
 ゼノと呼ばれる男から絶大な魔力を感じた。地下がその魔力で震えている。それは今の四魔将に匹敵するほどの魔力で流石の私も驚きを隠せなかった。
エイラ:
「これほどの魔力を人族が……!」
???→ゼノ:
「何だか知らんけど俺は生まれつきこんなに魔力を持ってたんだよ」
ゼノの魔力に、人族の面々も驚いた表情をしていた。おそらく、彼らの前で解放したのは初めてなのだろう。
人族:
「ゼノ、その魔力……!」
ゼノ:
「ケレア、アキ、ちょっと待ってろ。こいつ片付けて地上に出ような」
 そして、ゼノが雷の刀を構える。
 だが、そこで尋ねてきた。
ゼノ:
「……何で笑ってるんだよ」
 ゼノは私に言っているようだ。
エイラ:
「笑っていますか?」
ゼノ:
「ああ、いい笑顔だ」
 どうやら無意識の内に笑っていたようだ。
 だが、その理由も分かる。
エイラ:
「普通に感動してるんですよ。人族でもあなたのような魔力を秘めた者がいるということに」
ゼノ:
「……やっぱりお前――」
 ゼノが何かを言おうとしたが、私はそれを遮った。
エイラ:
「さて、あなたが全力で来るのでしたら、私も全力で行かせていただきます!」
 私もまた全魔力を解放したのだった。
………………………………………………………………………………
ゼノ
 魔力を解放したエイラは、その背に黒い翼をはためかせ、眼の色も人間のそれとは大きく変わった。人間における白い部分が黒く、瞳孔も紅く細長い。
 エイラの魔力は俺に匹敵するほどで、地下の揺れが一層強くなった。
 落盤しても洒落にならんぞ。
ゼノ:
「初めて出会ったよ。俺と同じ位の魔力の奴」
エイラ:
「でしょうね、これほどの魔力の持ち主は滅多にいません」
 エイラが言うのであればそうなのだろう。つまり、この力があれば地上に出てもやっていけるに違いない。
ゼノ:
「……でもあれだな、さっきの姿の方が俺は可愛くて好きだぞ」
エイラ:
「なっ!?」
 エイラの顔に一瞬赤みが混じる。
エイラ:
「馬鹿なんですか、阿呆なんですか。……まったく、あなた、人族にしては変わってますね、魔力も性格も」
ゼノ:
「そうか? 可愛さ美しさは世界共通だってことだろ。それに、変わってるのはおまえも同じだ」
 再び俺とエイラが武器を構えて向かい合う。
エイラ:
「始めましょうか」
ゼノ:
「おう」
 地面が魔力に呼応して鳴動し揺れる。パラパラと頭上から砂が零れて来ていた。
ゼノ:
「生き埋めはホント洒落にならんから、早期決着と行こうぜ!」
 そして俺は雷を纏い、エイラは翼を広げ、お互い高速で飛び出していった。
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