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3『過去の聖戦』
3 第一章第二話「反乱の狼煙」
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セラ
岩で囲まれた暗い通路を抜けて、ようやくデグラの魔石採掘場へと辿り着いた。そろそろ勤務終了のようで、人族は片づけを始めていた。
私達の姿を見つけて監視役の天使達が驚きを露わにする。
天使:
「セラ様!? それにシェーン様も!」
その声に反応して人族も私達を見つけ、同じく驚いていた。滅多に接触がないとはいえ、人族も天使族の王家に属する私の存在は知っているようだ。
穏やかな表情で駆け寄ってきた天使へ話しかける。
セラ:
「すみません、連絡も無しに。抜き打ちの視察です」
天使:
「し、視察ですか」
セラ:
「どうぞ私達に構わず、いつも通りお過ごしください」
天使:
「は、はぁ」
突然の訪問にさぞ困惑しているようで、まだ私達のことをじろじろ見つめている。無理もないだろう。本来王族であるハート家の者が訪れる場所ではないのだ。
軽く会釈をしてその横を通る。そのまま人族へと視線を向けた。もう片付けして帰るだけではあるのだが、表情は暗い。疲れのせいなのか、それとも絶望のせいなのか。
足を引きずるようにして帰路へと着くその姿は、やはり見ていられないものがある。
セラ:
「やはり、許せません」
シェーン:
「セラ様、眉間に皺が寄ってますよ」
指摘されて眉間を揉む。
小さい頃から外見には気を使えとよく言われていましたね。
そんなすぐに癖になるとは思わないが、一応気を付けておこう。
人族は採掘場の端にある通路へと姿を消していく。
セラ:
「あそこが集落への道でしょうか」
シェーン:
「おそらく。どうします、もう行きますか?」
セラ:
「はい、早速ですが。あまり時間もかけていられません」
デグラへの訪問がいつバレるか分かったものではない。
シェーン:
「作戦は予定通り魔石を使う方向でいいのですね」
セラ:
「はい、集められている魔石の場所は後で確認しましょう」
シェーン:
「わかりました」
そうして、私達は人族の住まう集落へと足を向けたのだった。
………………………………………………………………………………
ゼノ
ラフルスにある人族の集落には、一つだけかなり大きく作られた家がある。そこはいわゆる集会所のようなもので、人々はそこで集まって話をしたり交流するのだ。その集会所の二階にある大きな部屋に、かなりの人数が集まっていた。全員明日行う予定の反乱に協力的な人達だ。
そこにアキの姿はない。
ゼノ:
「まず、この地下から地上への道は一本しかない。だから、ここから出るにはそこへ行くしかないってことだ。でも、その前には悪魔共の駐屯地がある。きっと逃がさないためってのと圧力だろうな」
壁に大きく手書きの地図を貼って説明する。
人1:
「ラフルス全体を占拠して籠ってもいずれは別の悪魔が来るし、地上に出ることは絶対条件だよな。どちらにせよ、その駐屯地をどうにかしなきゃいけないってことだろ?」
人2:
「どうにか出来るものなのか?」
当然のように上がる質問。悪魔族と人族では魔力と筋力など全てにおいて差があるのだ。普通に立ち向かえば勝てるわけがない。勝てても一体の悪魔族につき数人の人族が必要であり、生憎ラフルスにいる悪魔族と人族の人数比は同じ位であった。
だが、そこを考えていない俺ではない。
ケレア:
「どうにかするために、これまで皆に集めてもらったんだよ」
そして、ケレアが皆の目の前に大きな箱を置いた。その中には大量の魔石が入っている。
ケレア:
「皆で集めた魔石だ。魔石自体かなり希少なものだけど、皆が一生懸命集めてくれたおかげでこんなに多くなったんだ」
前々から魔石は集めてもらっていた。悪魔族は人族が魔石を使っても所詮反乱は成功しないものと高を括っている。そのため、俺達の持ち物など一切気にすることはなく、お陰で魔石を持ち帰るのは簡単だった。
魔石を一つ掴んで作戦を話す。
ゼノ:
「知ってたか? 魔石ってつまりは魔力を溜めているものなんだ」
人々:
「知ってるよ!」
当然だろ、と全員が声に出す。
まぁ、そりゃそうか。
ゼノ:
「じゃあ、これは?」
掴んだ魔石を一度机の上に置き、もう一つ掴んで今度は魔石にほんの少し魔力を与えてみた。すると、掴んでいる魔石が込められた魔力に呼応して青色に淡く光った。
そして、置いたはずの魔石も光り始めたのである。
人々:
「なんだ? どうなってんだ?」
これは知らなかったらしく、皆が驚いた顔をしていた。驚いていないのは事前に話していたケレアだけである。
ケレアが得意げに説明した。
ケレア:
「こういう風に魔石って実は共鳴するんだ。例えば爆発魔法分の魔力を魔石に籠めるだろ? そしたら、近くの魔石もそれに共鳴して同じように蓄積されている魔力が爆発魔法のものに変わるんだ。そのまま一つ爆発させたら連鎖的に他の魔法もドカーンってわけ」
光る二つの魔石を珍しそうに見つめる一同。
こんなこと思いつかないしな。
俺が気付いたのも、反乱の仕方を模索している時に偶然共鳴しただけだった。
すると、一人昂奮したように声を荒げた。
人3:
「おいおい! じゃあいっつも魔石を渡す時に爆発魔法を籠めれば、渡された悪魔族は散り散りになるんじゃねえか!」
人4:
「確かに!」
その提案に同調する者が出てくるが、そう簡単に行くものでもない。
ゼノ:
「待て待て、魔力を籠めたら魔石に変化が起きる。今だって光ってるだろ? だから、そのやり方じゃ駄目だ」
人3:
「なんだよ……」
光る魔石を見て項垂れる提案者。
ゼノ:
「それにもう一つ特徴があって、一つの魔石に籠めた魔力量によって共鳴する個数も変わってくるんだ。ほら、箱の中の魔石は別に光ってないだろ? 共鳴できる程の魔力が籠められてないのさ」
箱の中の魔石は一つも光ることはなく、そこに佇んでいた。
俺の説明を受けて、皆が頭を捻る。
人5:
「なぁ、どうやってじゃあ反乱を起こすんだよ」
じれったそうに問い詰めてくる。
そろそろ教えてやるか。
ケレアと顔を合わせ頷いた。
ケレア:
「簡単だよ。夜になれば駐屯地に悪魔達が大半は帰ってくる。駐屯地に悪魔族が一番いるタイミングで駐屯地を囲むようにこの魔石を置くだろ? で、ここに爆発魔法をありったけ籠める。で、爆発させるわけだ。もしかしたら駐屯地の中にも魔石があってそれも共鳴して爆発するかもな」
人6:
「けどよ、駐屯地を囲めるほど魔石を置くって、んなこと出来んのかよ。即バレそうなもんだ。それに、籠める魔力量によって共鳴する量は変わるんだろ? 人族の魔力量なんて底が知れてるぞ。そんな囲めるほどなんて無理だろ」
出てきた懸念は尤もだ。駐屯地自体かなり大きい。それを囲むほどの魔石を置くということはそれだけ魔力を籠めなければならない。そして、駐屯地にも見張りはいる。その見張りにバレることなく魔石を置くのは至難の技だろう。
だが、その懸念をケレアが一蹴しようと試みる。
ケレア:
「大丈夫だ。ちゃんと考えてある」
人6:
「考えって?」
尋ねられたケレアはチラッと俺の方を見た後、告げた。
ゼノ:
「その点についてはゼノがどうにかする……らしい」
最後、だいぶ語気が弱弱しくなったな。
その様子に苦笑している間にも、皆の視線が俺に向けられる。心配するような目から疑うような目など様々な視線が向けられていた。
その視線に、安心しろと告げるため笑顔を作る。
ゼノ:
「任せとけって。俺がどうにかするから」
ケレア:
「俺も心配なんだが、ゼノは大丈夫の一点張りなんだ」
ケレアも呆れた視線を俺に向けてくる。
仕方がないだろう。
言ったって信じてもらえるかどうか。実際に見せるのは悪魔族にバレそうだしな。
向けられる視線が居たたまれなくなり、俺はもう一度声を上げた。
ゼノ:
「いいから! 任せとけって! ちゃんと綺麗に爆破して来るから! だから、爆発音と煙が見えたら反乱の狼煙だと思ってくれ。少ないけど駐屯所以外にも悪魔はいるからな。狼煙が見えたら複数人で当たって撃破って流れで頼むぞ!」
そのまま話を続けて、チームと担当する悪魔を分けようとしたその時だった。
バンっと強い音を立てて、締まっていた部屋の扉が突如開け放たれたのだ。
そして、そこにはアキがかなり厳しい表情で立っていた。
ゼノ・ケレア:
「ア、 アキ……」
俺とケレアの情けない呟きの間にも、アキがずかずか入ってくる。
アキには反乱のことを告げていない。アキが反対することは目に見えているからだ。
アキは集まっている人々の間を通り抜け、俺とケレアの目の前まで辿り着いた。その視線は壁に貼られた地図と集められた魔石に向けられ、より一層険しいものへと変わる。
アキ:
「ちょっと、どういうことなの? 本当に反乱を起こす気なのね?」
アキの気迫に誰もが口を開けずにいた。
アキ:
「いいじゃない、このままでも。こんな状態でも私はゼノやケレア、メア、他の皆と一緒に過ごす日々が楽しいって思う。幸せだって感じちゃうよ。それじゃあ駄目なの?」
気付けばアキは真っ直ぐに俺の方を向いていた。
アキ:
「私達が生まれた世界はこういう世界なのよ。悪魔の下で生きるのが当然なの。なら、その中で生きていかなくちゃ。その中で楽しみや幸せを見出しちゃ駄目なの?」
アキの眼は潤んでいるように見えた。その視線が、言葉が心に突き刺さる。
でも、その突き刺さる全てを引き抜かなければならない。
ゼノ:
「確かに何だかんだ皆と過ごす日々は楽しいよ。俺だって幸せだって思う時もあるさ」
アキ:
「じゃあ――」
ゼノ:
「でも!」
アキの言葉を遮って、俺は思っていることを吐露する。
ゼノ:
「でもさ、その幸せの前には全部この言葉がつくんじゃないか? アキもさっき言ってた『こんな状態でも』とかさ」
アキ:
「……っ」
その言葉を聞いて、アキは押し黙ってしまった。
別に説き伏せたいわけじゃない。俺達はきっと同じように幸せを願っているんだ。でも、俺の方がわがままで強欲なだけ。
ゼノ:
「確かに、悪魔の下で生きるのが当然の世界だよ。でもそんな当然、俺はうんざりだ。世界は変えられるんだよ、アキ。こんな世界になったのも昔の人族のせいなら、新たな、心から楽しさや幸せを想える世界にも出来るはずだ」
真っ直ぐにアキを見つめる。アキも変わらず俺も見つめていた。ただ、その眼は微かに揺らいでいるように見える。何かに迷っているようだ。
でも、その迷いを断ち切るようにアキは告げた。
アキ:
「ゼノ達が反乱を起こしたら、このラフルスにいる全員が悪魔達の敵になるんじゃないの? ゼノは皆の命を背負えるの?」
ガツンと頭を殴られた気分だった。
反乱に賛成の者がいれば、当然アキのように反対の者もいる。もし、反乱を起こせば反対派も必然的に危険に晒してしまうことになるのだ。
アキはこの問いが俺を苦しめると分かっていて、悩んだ挙句言ったのだろう。
本当に、アキは優しいな。きっと、その問いで一番傷ついているのはおまえだろうに。
アキの言っていることは尤も。そんなことは分かっている。何度も悩んだことだ。
そして、毎回答えは同じだった。
ゼノ:
「背負うよ、絶対誰も見捨てない。全部背負って、この世界を変えるんだ」
アキ:
「っ」
アキは泣きそうに顔を歪めた。
俺は諦められない。自由も皆の命も。わがままなのは分かっている。綺麗事なのも、敵わない夢なのかもしれない。それでも、この気持ちは変わらない。
アキ:
「……そう」
アキは俯くとそのまま走って集会所を出て行ってしまった。皆が呆然といなくなったアキの方を見つめる。
ケレア:
「……追いかけなくていいのか?」
ケレアの問いに、俺は頷いた。
ゼノ:
「お互い時間が必要だよ、きっとな」
集会所を飛び出すアキの姿が見える。その眼からは光るものが零れているようにみえた。
その姿を見るのが辛くて、でも、余計に覚悟を決められた。
俺の本心を言うならば、出来れば悪魔も殺したくはなかった。もちろん、俺自身かなり痛い目に遭わされているが、今俺達を統治している悪魔族もただ当然のことをしているだけなのだ。世界のあり方に則って人族を管理しているに過ぎない。そこに悪気や何かがあるわけではない。俺はそう思う。
だから、出来れば殺したくはなかった。殺したって何も生まない。負の連鎖だけだ。
でも、世界を変えたくて、皆の命も守りたくて。そして、アキをもう泣かせたくなくて。
それら全てを成すために、俺は覚悟を決めなければならない。
命を殺す覚悟を。そして、殺した命を背負う覚悟を。
全部背負って、背負った命の為に俺は世界を変えたい。
決意を新たに、俺は前を向いた。
そのための一歩なんだ。
そして、改めて明日の反乱について話を再開したのだった。
………………………………………………………………………………
エイラ
一日近くかけてようやくラフルスへと到着する。時刻は既に深夜だった。深夜だからかラフルスへと続く洞窟の前に見張りがいない。
たるんでますね。
尤も、見張りを立ててはいるが外部から襲ってくるものなどほとんどいない。天使族と悪魔族は綺麗に領地を分けており、お互い干渉はしない。唯一襲ってきそうな人族も内部であるため、外部に対する見張りはいらないとも言える。
ですが、これは後でお仕置きですね。
それでも仕事なのだから、しっかりやってもらわなければ。
そのまま洞窟に入り、ラフルスへと向かう。悪魔族は夜目が効くため、別に暗い洞窟でも光は要らない。
何分か進むとようやく大きな広間に出た。私の目の前には検問所があり、その左手に大きな駐屯地がある。
だが、妙だった。
エイラ:
「……居眠りですか?」
検問所にいる悪魔達が皆寝ているのだ。先程と同様怠けているのであれば、かなりの処置が必要であるが、内部までそうとは考えにくい。第一、反乱の兆しがあると連絡してきたのはここにいる悪魔達なのだ。
私が来ることも連絡済みのはず……。
にも関わらず、この状態は少し変であった。
……とりあえず起こしてみますか。
そうして眠っている悪魔へ足を向けたその時だった。
不意に強い魔力を感じたのだ。すぐに駐屯地の方へ目を向ける。魔力はそこから感じた。
エイラ:
「今の魔力は一体……」
駐屯地の周りには大きな岩が転がっている。地下を掘って出来たのだから、それ自体は違和感ないはずなのだが。
不思議と今はその岩が不自然に見えた。
悪魔を起こすのをやめ、岩へと足を向ける。その内の一つに手を伸ばしてみた。
その時だった。
突如岩が揺らぐ。それはまるで陽炎のように揺れ動くと、そのまま別の何かに変わった。
そこには、四つん這いになり頭を抱えて蹲っている男がいた。
エイラ:
「擬態魔法!? それも私を騙せるほどの……!」
突然の出来事に一瞬思考が停止するが、そこで気付く。
伸ばした手が、その男の尻に触れていた。気付いた瞬間、一気に背筋にぞわっとした衝撃が走った。
男が焦ったような表情で振り向き、私へ笑いかける。
???:
「ど、どうもー」
エイラ:
「っ、何者ですか!」
すぐさま汚れてしまった手を引いて、男へ臨戦態勢を取る。
???:
「ちくしょう! 《ボルケーノ!》」
だが、直後に男が爆発魔法を唱えた。
すると次の瞬間、検問所の周囲、そして駐屯所の周囲、さらに駐屯所の中から青白い光が漏れ、そのまま大爆発を起こした。その威力は凄まじく、男共々私は爆発に巻き込まれたのだった。
岩で囲まれた暗い通路を抜けて、ようやくデグラの魔石採掘場へと辿り着いた。そろそろ勤務終了のようで、人族は片づけを始めていた。
私達の姿を見つけて監視役の天使達が驚きを露わにする。
天使:
「セラ様!? それにシェーン様も!」
その声に反応して人族も私達を見つけ、同じく驚いていた。滅多に接触がないとはいえ、人族も天使族の王家に属する私の存在は知っているようだ。
穏やかな表情で駆け寄ってきた天使へ話しかける。
セラ:
「すみません、連絡も無しに。抜き打ちの視察です」
天使:
「し、視察ですか」
セラ:
「どうぞ私達に構わず、いつも通りお過ごしください」
天使:
「は、はぁ」
突然の訪問にさぞ困惑しているようで、まだ私達のことをじろじろ見つめている。無理もないだろう。本来王族であるハート家の者が訪れる場所ではないのだ。
軽く会釈をしてその横を通る。そのまま人族へと視線を向けた。もう片付けして帰るだけではあるのだが、表情は暗い。疲れのせいなのか、それとも絶望のせいなのか。
足を引きずるようにして帰路へと着くその姿は、やはり見ていられないものがある。
セラ:
「やはり、許せません」
シェーン:
「セラ様、眉間に皺が寄ってますよ」
指摘されて眉間を揉む。
小さい頃から外見には気を使えとよく言われていましたね。
そんなすぐに癖になるとは思わないが、一応気を付けておこう。
人族は採掘場の端にある通路へと姿を消していく。
セラ:
「あそこが集落への道でしょうか」
シェーン:
「おそらく。どうします、もう行きますか?」
セラ:
「はい、早速ですが。あまり時間もかけていられません」
デグラへの訪問がいつバレるか分かったものではない。
シェーン:
「作戦は予定通り魔石を使う方向でいいのですね」
セラ:
「はい、集められている魔石の場所は後で確認しましょう」
シェーン:
「わかりました」
そうして、私達は人族の住まう集落へと足を向けたのだった。
………………………………………………………………………………
ゼノ
ラフルスにある人族の集落には、一つだけかなり大きく作られた家がある。そこはいわゆる集会所のようなもので、人々はそこで集まって話をしたり交流するのだ。その集会所の二階にある大きな部屋に、かなりの人数が集まっていた。全員明日行う予定の反乱に協力的な人達だ。
そこにアキの姿はない。
ゼノ:
「まず、この地下から地上への道は一本しかない。だから、ここから出るにはそこへ行くしかないってことだ。でも、その前には悪魔共の駐屯地がある。きっと逃がさないためってのと圧力だろうな」
壁に大きく手書きの地図を貼って説明する。
人1:
「ラフルス全体を占拠して籠ってもいずれは別の悪魔が来るし、地上に出ることは絶対条件だよな。どちらにせよ、その駐屯地をどうにかしなきゃいけないってことだろ?」
人2:
「どうにか出来るものなのか?」
当然のように上がる質問。悪魔族と人族では魔力と筋力など全てにおいて差があるのだ。普通に立ち向かえば勝てるわけがない。勝てても一体の悪魔族につき数人の人族が必要であり、生憎ラフルスにいる悪魔族と人族の人数比は同じ位であった。
だが、そこを考えていない俺ではない。
ケレア:
「どうにかするために、これまで皆に集めてもらったんだよ」
そして、ケレアが皆の目の前に大きな箱を置いた。その中には大量の魔石が入っている。
ケレア:
「皆で集めた魔石だ。魔石自体かなり希少なものだけど、皆が一生懸命集めてくれたおかげでこんなに多くなったんだ」
前々から魔石は集めてもらっていた。悪魔族は人族が魔石を使っても所詮反乱は成功しないものと高を括っている。そのため、俺達の持ち物など一切気にすることはなく、お陰で魔石を持ち帰るのは簡単だった。
魔石を一つ掴んで作戦を話す。
ゼノ:
「知ってたか? 魔石ってつまりは魔力を溜めているものなんだ」
人々:
「知ってるよ!」
当然だろ、と全員が声に出す。
まぁ、そりゃそうか。
ゼノ:
「じゃあ、これは?」
掴んだ魔石を一度机の上に置き、もう一つ掴んで今度は魔石にほんの少し魔力を与えてみた。すると、掴んでいる魔石が込められた魔力に呼応して青色に淡く光った。
そして、置いたはずの魔石も光り始めたのである。
人々:
「なんだ? どうなってんだ?」
これは知らなかったらしく、皆が驚いた顔をしていた。驚いていないのは事前に話していたケレアだけである。
ケレアが得意げに説明した。
ケレア:
「こういう風に魔石って実は共鳴するんだ。例えば爆発魔法分の魔力を魔石に籠めるだろ? そしたら、近くの魔石もそれに共鳴して同じように蓄積されている魔力が爆発魔法のものに変わるんだ。そのまま一つ爆発させたら連鎖的に他の魔法もドカーンってわけ」
光る二つの魔石を珍しそうに見つめる一同。
こんなこと思いつかないしな。
俺が気付いたのも、反乱の仕方を模索している時に偶然共鳴しただけだった。
すると、一人昂奮したように声を荒げた。
人3:
「おいおい! じゃあいっつも魔石を渡す時に爆発魔法を籠めれば、渡された悪魔族は散り散りになるんじゃねえか!」
人4:
「確かに!」
その提案に同調する者が出てくるが、そう簡単に行くものでもない。
ゼノ:
「待て待て、魔力を籠めたら魔石に変化が起きる。今だって光ってるだろ? だから、そのやり方じゃ駄目だ」
人3:
「なんだよ……」
光る魔石を見て項垂れる提案者。
ゼノ:
「それにもう一つ特徴があって、一つの魔石に籠めた魔力量によって共鳴する個数も変わってくるんだ。ほら、箱の中の魔石は別に光ってないだろ? 共鳴できる程の魔力が籠められてないのさ」
箱の中の魔石は一つも光ることはなく、そこに佇んでいた。
俺の説明を受けて、皆が頭を捻る。
人5:
「なぁ、どうやってじゃあ反乱を起こすんだよ」
じれったそうに問い詰めてくる。
そろそろ教えてやるか。
ケレアと顔を合わせ頷いた。
ケレア:
「簡単だよ。夜になれば駐屯地に悪魔達が大半は帰ってくる。駐屯地に悪魔族が一番いるタイミングで駐屯地を囲むようにこの魔石を置くだろ? で、ここに爆発魔法をありったけ籠める。で、爆発させるわけだ。もしかしたら駐屯地の中にも魔石があってそれも共鳴して爆発するかもな」
人6:
「けどよ、駐屯地を囲めるほど魔石を置くって、んなこと出来んのかよ。即バレそうなもんだ。それに、籠める魔力量によって共鳴する量は変わるんだろ? 人族の魔力量なんて底が知れてるぞ。そんな囲めるほどなんて無理だろ」
出てきた懸念は尤もだ。駐屯地自体かなり大きい。それを囲むほどの魔石を置くということはそれだけ魔力を籠めなければならない。そして、駐屯地にも見張りはいる。その見張りにバレることなく魔石を置くのは至難の技だろう。
だが、その懸念をケレアが一蹴しようと試みる。
ケレア:
「大丈夫だ。ちゃんと考えてある」
人6:
「考えって?」
尋ねられたケレアはチラッと俺の方を見た後、告げた。
ゼノ:
「その点についてはゼノがどうにかする……らしい」
最後、だいぶ語気が弱弱しくなったな。
その様子に苦笑している間にも、皆の視線が俺に向けられる。心配するような目から疑うような目など様々な視線が向けられていた。
その視線に、安心しろと告げるため笑顔を作る。
ゼノ:
「任せとけって。俺がどうにかするから」
ケレア:
「俺も心配なんだが、ゼノは大丈夫の一点張りなんだ」
ケレアも呆れた視線を俺に向けてくる。
仕方がないだろう。
言ったって信じてもらえるかどうか。実際に見せるのは悪魔族にバレそうだしな。
向けられる視線が居たたまれなくなり、俺はもう一度声を上げた。
ゼノ:
「いいから! 任せとけって! ちゃんと綺麗に爆破して来るから! だから、爆発音と煙が見えたら反乱の狼煙だと思ってくれ。少ないけど駐屯所以外にも悪魔はいるからな。狼煙が見えたら複数人で当たって撃破って流れで頼むぞ!」
そのまま話を続けて、チームと担当する悪魔を分けようとしたその時だった。
バンっと強い音を立てて、締まっていた部屋の扉が突如開け放たれたのだ。
そして、そこにはアキがかなり厳しい表情で立っていた。
ゼノ・ケレア:
「ア、 アキ……」
俺とケレアの情けない呟きの間にも、アキがずかずか入ってくる。
アキには反乱のことを告げていない。アキが反対することは目に見えているからだ。
アキは集まっている人々の間を通り抜け、俺とケレアの目の前まで辿り着いた。その視線は壁に貼られた地図と集められた魔石に向けられ、より一層険しいものへと変わる。
アキ:
「ちょっと、どういうことなの? 本当に反乱を起こす気なのね?」
アキの気迫に誰もが口を開けずにいた。
アキ:
「いいじゃない、このままでも。こんな状態でも私はゼノやケレア、メア、他の皆と一緒に過ごす日々が楽しいって思う。幸せだって感じちゃうよ。それじゃあ駄目なの?」
気付けばアキは真っ直ぐに俺の方を向いていた。
アキ:
「私達が生まれた世界はこういう世界なのよ。悪魔の下で生きるのが当然なの。なら、その中で生きていかなくちゃ。その中で楽しみや幸せを見出しちゃ駄目なの?」
アキの眼は潤んでいるように見えた。その視線が、言葉が心に突き刺さる。
でも、その突き刺さる全てを引き抜かなければならない。
ゼノ:
「確かに何だかんだ皆と過ごす日々は楽しいよ。俺だって幸せだって思う時もあるさ」
アキ:
「じゃあ――」
ゼノ:
「でも!」
アキの言葉を遮って、俺は思っていることを吐露する。
ゼノ:
「でもさ、その幸せの前には全部この言葉がつくんじゃないか? アキもさっき言ってた『こんな状態でも』とかさ」
アキ:
「……っ」
その言葉を聞いて、アキは押し黙ってしまった。
別に説き伏せたいわけじゃない。俺達はきっと同じように幸せを願っているんだ。でも、俺の方がわがままで強欲なだけ。
ゼノ:
「確かに、悪魔の下で生きるのが当然の世界だよ。でもそんな当然、俺はうんざりだ。世界は変えられるんだよ、アキ。こんな世界になったのも昔の人族のせいなら、新たな、心から楽しさや幸せを想える世界にも出来るはずだ」
真っ直ぐにアキを見つめる。アキも変わらず俺も見つめていた。ただ、その眼は微かに揺らいでいるように見える。何かに迷っているようだ。
でも、その迷いを断ち切るようにアキは告げた。
アキ:
「ゼノ達が反乱を起こしたら、このラフルスにいる全員が悪魔達の敵になるんじゃないの? ゼノは皆の命を背負えるの?」
ガツンと頭を殴られた気分だった。
反乱に賛成の者がいれば、当然アキのように反対の者もいる。もし、反乱を起こせば反対派も必然的に危険に晒してしまうことになるのだ。
アキはこの問いが俺を苦しめると分かっていて、悩んだ挙句言ったのだろう。
本当に、アキは優しいな。きっと、その問いで一番傷ついているのはおまえだろうに。
アキの言っていることは尤も。そんなことは分かっている。何度も悩んだことだ。
そして、毎回答えは同じだった。
ゼノ:
「背負うよ、絶対誰も見捨てない。全部背負って、この世界を変えるんだ」
アキ:
「っ」
アキは泣きそうに顔を歪めた。
俺は諦められない。自由も皆の命も。わがままなのは分かっている。綺麗事なのも、敵わない夢なのかもしれない。それでも、この気持ちは変わらない。
アキ:
「……そう」
アキは俯くとそのまま走って集会所を出て行ってしまった。皆が呆然といなくなったアキの方を見つめる。
ケレア:
「……追いかけなくていいのか?」
ケレアの問いに、俺は頷いた。
ゼノ:
「お互い時間が必要だよ、きっとな」
集会所を飛び出すアキの姿が見える。その眼からは光るものが零れているようにみえた。
その姿を見るのが辛くて、でも、余計に覚悟を決められた。
俺の本心を言うならば、出来れば悪魔も殺したくはなかった。もちろん、俺自身かなり痛い目に遭わされているが、今俺達を統治している悪魔族もただ当然のことをしているだけなのだ。世界のあり方に則って人族を管理しているに過ぎない。そこに悪気や何かがあるわけではない。俺はそう思う。
だから、出来れば殺したくはなかった。殺したって何も生まない。負の連鎖だけだ。
でも、世界を変えたくて、皆の命も守りたくて。そして、アキをもう泣かせたくなくて。
それら全てを成すために、俺は覚悟を決めなければならない。
命を殺す覚悟を。そして、殺した命を背負う覚悟を。
全部背負って、背負った命の為に俺は世界を変えたい。
決意を新たに、俺は前を向いた。
そのための一歩なんだ。
そして、改めて明日の反乱について話を再開したのだった。
………………………………………………………………………………
エイラ
一日近くかけてようやくラフルスへと到着する。時刻は既に深夜だった。深夜だからかラフルスへと続く洞窟の前に見張りがいない。
たるんでますね。
尤も、見張りを立ててはいるが外部から襲ってくるものなどほとんどいない。天使族と悪魔族は綺麗に領地を分けており、お互い干渉はしない。唯一襲ってきそうな人族も内部であるため、外部に対する見張りはいらないとも言える。
ですが、これは後でお仕置きですね。
それでも仕事なのだから、しっかりやってもらわなければ。
そのまま洞窟に入り、ラフルスへと向かう。悪魔族は夜目が効くため、別に暗い洞窟でも光は要らない。
何分か進むとようやく大きな広間に出た。私の目の前には検問所があり、その左手に大きな駐屯地がある。
だが、妙だった。
エイラ:
「……居眠りですか?」
検問所にいる悪魔達が皆寝ているのだ。先程と同様怠けているのであれば、かなりの処置が必要であるが、内部までそうとは考えにくい。第一、反乱の兆しがあると連絡してきたのはここにいる悪魔達なのだ。
私が来ることも連絡済みのはず……。
にも関わらず、この状態は少し変であった。
……とりあえず起こしてみますか。
そうして眠っている悪魔へ足を向けたその時だった。
不意に強い魔力を感じたのだ。すぐに駐屯地の方へ目を向ける。魔力はそこから感じた。
エイラ:
「今の魔力は一体……」
駐屯地の周りには大きな岩が転がっている。地下を掘って出来たのだから、それ自体は違和感ないはずなのだが。
不思議と今はその岩が不自然に見えた。
悪魔を起こすのをやめ、岩へと足を向ける。その内の一つに手を伸ばしてみた。
その時だった。
突如岩が揺らぐ。それはまるで陽炎のように揺れ動くと、そのまま別の何かに変わった。
そこには、四つん這いになり頭を抱えて蹲っている男がいた。
エイラ:
「擬態魔法!? それも私を騙せるほどの……!」
突然の出来事に一瞬思考が停止するが、そこで気付く。
伸ばした手が、その男の尻に触れていた。気付いた瞬間、一気に背筋にぞわっとした衝撃が走った。
男が焦ったような表情で振り向き、私へ笑いかける。
???:
「ど、どうもー」
エイラ:
「っ、何者ですか!」
すぐさま汚れてしまった手を引いて、男へ臨戦態勢を取る。
???:
「ちくしょう! 《ボルケーノ!》」
だが、直後に男が爆発魔法を唱えた。
すると次の瞬間、検問所の周囲、そして駐屯所の周囲、さらに駐屯所の中から青白い光が漏れ、そのまま大爆発を起こした。その威力は凄まじく、男共々私は爆発に巻き込まれたのだった。
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