カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

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2『天使と悪魔』

2 第三章第三十七話「ゼノVSベグリフ(仮)」

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 それは、ゼノの目の前に宿敵が現れる所まで遡る。
 突如ゼノの前に現れたベグリフ。その姿に敵味方関係なく驚いていた。
アッシュ:
「王! 何故ここに!」
 ウルとアッシュが背後で跪く。ベグリフは振り向くことなく答えた。
ベグリフ:
「少し退屈が過ぎたのでな。それに、ゼノ・レイデンフォートの魔力を感じた。退屈しのぎには丁度良い相手だ」
ゼノ:
「……暇だから遊びに来たってことだろ要は。友達感覚か」
 ゼノのツッコミを無視して、ベグリフがウル達へ告げる。
ベグリフ:
「おまえ達は先に魔界に戻れ。俺もその内帰る。奴の言う通り、少し遊んでからな」
ウル:
「仰せのままに、王よ」
 そう告げた途端に、ウルとアッシュが背の黒い翼をはためかせて飛び立つ。
シェーン:
「行かせるか! アグレシア!」
アグレシア:
「当然だ!」
 それを見ていたアグレシアとシェーンが二人を追おうとする。ゼノがアッシュと戦っている間に自身で応急処置は終わらせていた。
 だが、その前にゼノが飛び出し制止した。
ゼノ:
「駄目だ! 動くな!」
シェーン:
「何故――」
 制止を振り切ろうとするシェーン達だったが、その言葉の先は続かない。
 直後、凄い勢いで黒い斬撃が飛んできたのだ。一目見て分かるほど、それには大量の魔力が籠められており、シェーン達が受け止めようものなら剣ごと両断されていた、その自覚がシェーン達にはあった。
 それを、ゼノがセインで振り向きざまに一蹴する。
ゼノ:
「……こうなるからだよ」
 ベグリフは、いつの間にか腰に差していた黒い剣を抜いていた。そして、視線はシェーン達へ。
ベグリフ:
「俺は奴らに戻れと言ったんだ。それを妨げるつもりか?」
シェーン:
「……っ!」
 シェーンとアグレシアはその重圧に押し潰されそうであった。彼女ら程の実力者がその眼力に耐えられないのである。
 そうこうしている間に、ウルとアッシュはベグリフが使用した黒い靄の中に消えていなくなった。。
 それを見ていたゼノが、シェーンとアグレシアに告げた。
ゼノ:
「二人共、動けるならこの国の奴を全員国外へ放り出してくれ」
シェーン:
「な、なにを――」
ゼノ:
「おまえ達ですらそんなんなんだぞ? 他の奴らじゃどうだ? ペチャンコだよペチャンコ。だから、頼む」
 ゼノが笑ってそう告げる。シェーンとアグレシアは逡巡していたが、
ベグリフ:
「そうだな、邪魔が入るのはつまらん。ゼノ・レイデンフォート以外去るが良い」
ゼノ:
「……だってさ。野郎と二人きりってのは気が引けるんだが」
シロ:
「(あたしもいるわよ)」
ゼノ:
「それでも気が引けるっての。いいから、アイツもそれを望んでるんだ。これが、一番被害が出ないんだよ」
 ゼノとベグリフの二人からそう言われ、シェーンとアグレシアは従わざるを得なかった。何より、先程の斬撃をゼノはセインを一振りするだけで掻き消したのだ。次元が違い過ぎた。いるだけで邪魔になるのは明らかだった。
 シェーンはセラの元へと向かい、どうにか立ち上がらせる。
シェーン:
「セラ様、行きましょう」
セラ:
「……はい」
 セラは悔しそうに顔を歪めながら意外にもあっさりと頷いた。セラは分かっていたのである。ここにいれば足手纏いになることが。ただ、それでもゼノの助けになれないことが悔しかった。
セラ:
「っ、ゼノ! 無茶だけは――」
ゼノ:
「しないように努めるよ。……努めるだけだけど」
シロ:
「(言い切りなさいよっ)」
ゼノ:
「さっきよりはマシになっただろ。努めるようになっただけさ。でも、シロだって分かってるだろ? 無茶せずに戦える奴でもないさ」
 ベグリフからは既に禍々しい魔力が溢れ出ていた。その様子にゼノが苦笑する。
ゼノ:
「おまえとの遊びは命懸けだから嫌だなー」
ベグリフ:
「遊びというのはそういうものだろう」
ゼノ:
「どこで育ったらそういう価値観になるんだよっ!」
 セラは数秒間だけ手を合わせてゼノに祈りを捧げていた。
セラ:
「(どうか、どうかゼノが無事に帰ってきますように……!)」
 それが伝わってたのだろうか。ゼノが手をひらひらと振っていた。
セラはそれを見て、祈祷を終わらせるとすぐにその場を後にした。それを追うようにシェーンとアグレシアが飛び立っていく。
 シャイスから全員いなくなるには少し時間がかかりそうであった。
ゼノ:
「待ってくれるんだろ? 律儀にもさ」
ベグリフ:
「本当は蟻共のことなどどうでも良いんだがな、それのせいでおまえが集中できないのはつまらん」
ゼノ:
「集中ねー、他のことなんて気にかけるほどの余裕、今の俺にはないよ」
 そういうゼノは、既に臨戦態勢であった。集中は途切れることなく、むしろ深くなっている。
 その中で、ゼノが問うた。
ゼノ:
「そういや、おまえとさっきの四魔将達が使ってるあの移動方法、なんだよ。折角俺達が力合わせて必死に作った魔界の扉が無駄じゃないか」
 実際、あの移動方法があれば悪魔族は天地谷にある魔界の扉を使うことなく自由に人界に出入りが出来るという事だった。
 それには、意外にもベグリフが親切に答えてくれた。
ベグリフ:
「あれか。それは簡単な話だ。魔界の次元とここの次元を繋げただけのことだ」

「」
 元々人界と天界、そして魔界を繋ぐ扉はその間の次元を繋ぐパイプの役割を施していた。その応用でベグリフは新たに天界と魔界を繋ぐ次元のパイプを作ったということだろう。
 だが、
ゼノ:
「あの扉はあの時のメンバー全員の魔力で漸く繋げられる程のもんだったはずだ。次元繋げるのはそんな簡単じゃないだろう」
ベグリフ:
「そうだ。だから、これを繋ぐことが出来るのは俺だけだ。それに、通過できるのも四魔将程の魔力を持つものに限られるわけだが」
 ベグリフの答えに、ゼノは眼を見開く。その答えを、信じるわけには行かなかった。
ゼノ:
「なら、なんだ? 今のおまえはあの時のメンバーの全員分と同等の魔力があるってか? 俺もおまえもいたんだぞ?」
ベグリフ:
「そう言っているんだ、ゼノ・レイデンフォート」
ゼノ:
「……!」
 あの扉が作られたのは、ちょうど二十五年前。経緯はともかくとして、当時のゼノとベグリフと、その他たくさんの人の魔力を以てして作られたのがあの扉だった。その全員の魔力を足した分を、今ベグリフは持っているというのだ。つまり、以前のベグリフとはそれこそ次元が違い過ぎる。
 ゼノの額を汗が流れる。ゼノはセインを強く握りしめた。
ゼノ:
「シロ」
シロ:
「(……ええ、分かったわ)」
 言葉にすることなく意思が疎通される。
 そして、
ベグリフ:
「そろそろ、人がいなくなった頃合いか」
ゼノ:
「まだ二人くらいいるみたいだが」
ベグリフ:
「一人二人はいないのと変わらん。もう待ちくたびれた。そろそろ始めようではないか。遊びを」
 楽しそうに口角を上げ、剣をだらりと構えるベグリフ。その様子にため息をつくと、ゼノはセインを構え、ベグリフと対峙した。
………………………………………………………………………………
 その頃、エリスとシーナはようやくウルの魔法から抜け出していた。
シロ:
「ああ! もう! 何だってんだ!」
 二人の身体は黒い箱の中に入る前よりボロボロになっていた。
シロ:
「無駄に体力使った!」
エリス:
「それよりアイツはどこに――」
 その時だった。シャイスの中心から凄まじい勢いで衝撃波が飛んできたのだ。
エリス:
「うおっ!? 何だ!?」
 その衝撃波はシャイスの中心から来ているらしく、建物を悉く破壊していく。エリスとシーナもその衝撃波に巻き込まれて宙に吹き飛ばされていた。
 宙を舞う中で、エリスは信じ難いほどの魔力を感知していた。
エリス:
「おいおい、何だこの化け物みたいな魔力は!?」
 一方で、シーナは言葉なくある方向を見続けている。
エリス:
「おい、シーナ! こりゃあ――」
シーナ:
「……早くこの国を出た方がいい、死ぬ前にな」
 そう告げるシーナの身体は震えていた。戦いを求めるシーナにおいて、初めての体験であった。
戦いに恐怖を覚えるなんて。
 シーナの視線の先で、ゼノとベグリフが第二撃を交える。
シーナ:
「この国は一分も持たない。化け物と化け物が集まったからな」
 その瞬間、交わった衝撃で再びシャイス全体を衝撃波が襲ったのだった。
………………………………………………………………………………
 ゼノとベグリフが幾度となくセインと剣を交える、その際に発生する衝撃波によってシャイスは中心から外へ向かって徐々に更地と化していた。
 お互い一切退くことなく相手へ向かって行く。双方の身体に斬り傷が刻み込まれていくが、ベグリフの場合は一瞬にして治癒していた。
ゼノ:
「自動回復たぁ随分せこいな、おい!」
ベグリフ:
「ふっ、この程度の傷しかつけられないおまえが悪い」
 ベグリフがゼノの憤慨を一蹴する。
ベグリフ:
「それよりも、おまえの本気はその程度か?」
ゼノ:
「おまえの眼は節穴か? んなわけねえだろ!」
 ベグリフの剣を弾いて、ゼノが叫ぶ。
ゼノ:
「シロ!」
シロ:
「(はいはい)」
ゼノ・シロ:
「《豪破斬!》」
 魔力を乗せてゼノが一閃させる。
 だが、ベグリフは容易くそれを掻き消した。
 片手でだ。
ゼノ:
「っ!」
 流石にこれにはゼノも驚いていた。《豪破斬》はアッシュの数十本ある腕を魔法ごと全て両断した技だった。実質、ウルが介入しなければアッシュにとどめをさせていただろう。その攻撃をベグリフは素手で掻き消したのだ。
 つまり、アッシュ含め四魔将とベグリフの間には、埋めることの出来ない溝があるということだった。
 そして、ベグリフがつまらなそうに告げる。
ベグリフ:
「二十五年という月日は、想像以上に俺達の溝を深くしたようだな」
ゼノ:
「……っ、言ってくれる!」
 そう返すも、ゼノは動揺していた。
 ここまでベグリフが強くなっているとは。
シロ:
「(ゼノ、集中なさい!)」
ゼノ:
「っ!」
 動揺している間にベグリフが眼前まで迫っていた。振り下ろされる凶刃を受け止めるゼノだったが、受け止めきれずに強く吹き飛ばされた。
シロ:
「(ゼノ! 本当にこのまま――)」
ゼノ:
「シロこそ集中しろよ、来るぞ!」
 何やら言いたそうなシロを遮り、空中で体勢を立て直す。そのすぐ横にベグリフが出現した。
ベグリフ:
「どうやら、本当に俺とおまえの差は広がってしまったようだ」
 そう言いながら、黒い剣を振るうベグリフ。ゼノはまたもや吹き飛ばされた。
ゼノ:
「だーかーら! 俺がこれで本気だって思ったら大間違いだっての! シロ!」
シロ:
「(これは本気でやりなさいよ! じゃなきゃ――)」
ゼノ:
「分かってる!」
 ゼノがセインへ魔力を全力で籠めていく。赤いセインが更に真紅に染まっていた。
 そして、ゼノが思い切り薙ぐ。
ゼノ・シロ:
「《神白烈斬!》」
 薙いだ軌跡から凄まじく厚い、白い斬撃がベグリフへと高速で伸びていく。
 ベグリフを飲み込まんとするその斬撃。
 それを、
ベグリフ:
「……興覚めだ」
 ため息交じりに一閃することで、ベグリフは容易く掻き消した。
ゼノ:
「なっ……!」
 ゼノの眼に驚愕の色が浮かぶ。それはシロも同じ心境だった。
シロ:
「(嘘、でしょ……!?)」
 今のは、間違いなく本気で放っていた。それこそ《豪破斬》など比べにならないほどに。それを軽々と掻き消されてしまったのだ。
 ベグリフは、その目に失望を灯してゼノを見つめていた。
ベグリフ:
「ゼノ・レイデンフォート。おまえは唯一俺と対等に渡り合った男だ。前回の聖戦でおまえと刃を交えた時の高揚感は今でも忘れられん。忘れられんからこそ、今のおまえが残念でならない。おまえには失望したぞ」
 と、同時に増すベグリフから放たれる重圧が増した。ゼノの身体がいつのまにか震えていた。これが武者震いでないことをゼノは分かっていた。それでも、どうにか笑みを浮かべる。
ゼノ:
「はっ、勝手に失望されてもな。おまえの気持ちに応える義理はないね」
ベグリフ:
「……ならばいい、ここで死ね」
 直後、ベグリフの掌に禍々しい魔力がどんどん溜まっていく。最初は小さく黒い魔力の球だったが、やがてそれは拡大していき、遂にはゼノの視界を覆うほどの大きさまでになっていた。
 それを見てゼノは瞬時に理解した。
ゼノ:
「あの魔力量、凝縮はマズい!」
 籠められた魔力の量に比例するのであれば、あの球は間違いなくこの天界全体に広がっていてもおかしくないほどの魔力を籠められていた。それを、シャイス程にまで抑えている、凝縮しているのだ。
 それを、ベグリフが手放す。ゆっくりとその塊が落下していった。
ベグリフ:
「さらばだ昔の英雄、ゼノ・レイデンフォート」
 そう言うと、黒い靄を出現させてベグリフがその中へ消えていった。ゼノの方を見向きすることなく。
ゼノ:
「っ、死に際は見る必要ないってか……!」
 苦笑するゼノだったが、シロが叫ぶ。
シロ:
「(笑ってる場合じゃないわ! どうするのよ!)」
ゼノ:
「どーするって、こーするしかないだろ!」
 ゼノが魔力を練り始める。
 その間にも、黒く大きな球は残っていた建物を掻き消しながら落下していた。
 そして、それの表面が地面と接触した瞬間、どす黒い魔力の爆発が起きた。
 一瞬にしてシャイスはそれに飲み込まれ、周辺にまで広がった。
 セラ達は万が一のためにかなり遠くへ離れていたが、十キロ離れたセラ達の目の前にまでそれは広がっていた。
セラ:
「っ、ゼノ……!」
 セラが祈るようにその黒を見つめる。
 それはまるで天変地異のごとく。夕暮れ時であったにもかかわらず、辺り一面暗くなっていた。
 それも幾分か経って、ようやく収縮し、やがて消えて無くなる。
 跡には何も残っておらず、巨大なクレーターのみがそこにあった。
セラ:
「っ、ゼノ! どこなの、ゼノ!」
シェーン:
「セラ様!」
 ゼノの姿が見えず、セラがすぐさまクレーターへと飛び出す。慌ててシェーンとアグレシアが飛び出した。ベグリフがいないことは魔力で分かっていたが、それでも警戒を解いていいわけではなかった。
セラ:
「ゼノー!」
 呼びかけるセラ。だが、その声が木霊するだけで辺りはすぐ静寂に包まれた。
セラ:
「ゼ、ゼノ……」
 ゼノの魔力を感じられず、セラが膝から崩れ落ちた。
セラ:
「そんな……!」
その瞳から零れる涙。
シェーン:
「セラ様……」
 シェーンとアグレシアにはかける言葉がなかった。
 項垂れるセラ。その目の前で、声が響いた。
ゼノ:
「くっそー、マジかー」
シロ:
「(どうすんのよ、これから!)」
ゼノ:
「そうだなー」
セラ:
「っ!」
 セラの目の前の空間に突然一筋の光の線が現れた。やがて、それは扉のように開くと、中からゼノがセインで肩を叩きながら出てきた。
セラ:
「っ、ゼノ!」
 ゼノの姿を留めるや否や、セラが勢いよくゼノへと抱きついて行く。
ゼノ:
「おー、よしよし。悪いな心配かけたか」
 その頭を撫でながら辺りを見渡すと、ゼノは苦笑しか出来なかった。
ゼノ:
「だいぶ酷いことになってんなー」
シェーン:
「ゼノ、おまえどうやってあの攻撃から逃れたんだ?」
ゼノ:
「ん? あぁ、ちょっと次元の狭間に逃げてた。別の次元と繋げるのは無理だけど、一点を開いて戻るくらいならギリギリな」
 そう言ってのけるゼノだったが、その表情は暗い。シロがゼノに話す。
シロ:
「(あのさ、どうするつもりなの? これ、結構ヤバい状況よね)」
ゼノ:
「ああ、そうだな。このままじゃ、勝ち目ないかも知らん」
セラ:
「なっ」
 その言葉にセラ達が驚きを見せる。
セラ:
「勝ち目ないかもって……」
アグレシア:
「おいおい君、以前は奴と渡り合ったんだろ?」
ゼノ:
「あの頃とは比べ物にならなかったんだよ。あいつ、ちょっと強すぎだ。全部一蹴されちまった」
セラ:
「じゃあ……」
 ゼノの言葉は、セラ達を絶望させるには十分であった。天界の首都シャイスがクレーターになってしまっている状況も、それを促進させる。
 だが、暗くなりそうな雰囲気をゼノが遮った。
ゼノ:
「待て待て! かもしらんってだけだ! 策はある!」
セラ:
「え?」
 ゼノの言葉にセラが顔を上げる。シロが説明を始めた。
シロ:
「(あたし達、本気であいつを倒すつもりなかったのよ。あいつの口ぶり、然程長居はしないと思ってね。ここで本気で戦うよりは、現段階のあいつの実力を見極めることにしたってわけ)」
 ベグリフはウルにその内帰ると告げ、加えて少し遊ぶと言っていた。天界に来たのは予定になかったとゼノとシロは判断したのだ。故に早々に帰ると考えたのである。
ゼノ:
「もちろん、ある程度はマジで戦ったけどな。最後なんて思いっきり全力でぶつけたのに全然効かなかったし」
シェーン:
「っ、それはつまり勝てないってことではないか!」
 詰め寄るシェーンをゼノが宥める。
ゼノ:
「待て待て、魔力じゃ勝てないってだけだ。方法はあるんだって。俺とシロならな」
シロ:
「(ふんっ、余裕よ、あたし達にかかれば)」
 シロがセインの状態から人型に戻る。黄色の結われた長髪が風に靡いていた。
ゼノ:
「あいつは俺達を見限ったようだが、誰も手の内を全て見せたとは、言ってないしな」
 ゼノの視線に、シロがニヤリと笑う。
シロ:
「次はあたしの能力、お見舞いしてやるわ」
セラ:
「シロの能力……」
 そう言えば、セラもシロのセインの能力については知らなかった。聖戦時も使っていた覚えはない。
ゼノ:
「ま、とにかく今は後片付けだ。セラ、おまえも天界の女王としてこの騒ぎどうにかしなきゃいけないだろ」
セラ:
「あっ、そうだわ!」
 すっかりそのことを忘れていたセラは、すぐにゼノから離れるとシェーンとアグレシアに指示を出し始めていた。
 その変わりように苦笑しながら、ゼノが空を見上げる。夕暮れだった空もいつの間にか陽が落ちようとしており、だんだんと暗くなっていた。
ゼノ:
「シロ」
シロ:
「なによ」
 横目で視線を向けてくるシロに、ゼノは呟いた。
ゼノ:
「カイにあーは言ったけど、やっぱり世代交代かな」
シロ:
「……バーカ、まだ現役なんでしょ。なに弱気になってるのよ」
 シロの言葉にゼノは苦笑する。
 確かに弱気になってたな。
 ベグリフと戦ってその実力を思い知って。正直なところやはり今の自分が勝てるとは思えなかったのだ。
 ゼノの背中をシロが勢いよく叩く。
シロ:
「あんた一人じゃ勝てなくても、皆で戦えば余裕よ。聖戦で何学んだのよ? 同じ過ち繰り返したいの?」
 ヒリヒリする背中と、その厳しい言葉は全てシロの優しさだった。それを分かってるから、ゼノも心を奮起させる。
ゼノ:
「そうだな。またセラに正座させられて説教喰らうのは勘弁だ」
シロ:
「なかなか強烈だったものね、あれ。ベグリフの目の前でだし。大した度胸よ」
セラ:
「何か言いましたか?」
 振り返るセラに、ゼノとシロは顔を見合わせた後、笑い合って何もないよと手を振ったのだった。
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