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2『天使と悪魔』

2 第三章第三十三話「世代交代の世代交代」

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 ゼノが赤い剣、セインで肩を叩く。
ゼノ:
「なんだかんだシロを呼ばなくてもどうにかなったんだけどな。助かったよ」
シロ:
「(でしょうね、こんな雑魚、あたしを呼ぶ意味を感じられないわ。というよりゼノ、あんた弱くなったわね)」
ゼノ:
「確かに、聖戦以来戦いっちゅう戦いはなかったからな」
 セインと化したシロと話しているゼノの後方には、縦に真っ二つに両断されたバルサが地面に転がっていた。ゼノにやられたわけであるが、一方でゼノに傷は一つもなかった。
 シロが来てからというもの、勝負は一瞬だったのである。たった一振り。それで勝敗は決してしまった。
 ゼノはある方向へ視線を向けた。
ゼノ:
「あっち、随分な魔力が集まってるな」
シロ:
「(そうね、それにセインの気配もするわ)」
ゼノ:
「ってことはカイもいるのか。どれ、様子見に行ってやるか。セラを助けに行くついでにな」
シロ:
「(まったく、しゃーないわね)」
 そして、ゼノはその場から一瞬で姿を消した。
………………………………………………………………………………
 シャイスに西側では、大きな音を立てて建物が次々と崩れていた。
 それらに視線を向けながら、ウルがため息交じりに呟く。
ウル:
「建物壊し過ぎだよ、君達」
シーナ:
「おまえが避けるからだ!」
 建物の上を駆け抜けていくウルの上からシーナが硬質化させた腕を振り下ろす。だが、それは軽々と避けられ建物に当たった。一瞬で建物が崩れていく。
 そして、避けたウルに今度はエリスが高速で向かって行く。
シーナ:
「いい加減当たれ!」
ウル:
「君達もいい加減諦めなよ」
 エリスがセインを横に薙ぐが、ウルは空中で体を捻り容易く躱した。そのままウルは手に持った銃をエリスの額に当てる。
エリス:
「うわっ」
 引き金が引かれる前に慌てて首を曲げて銃口から逃げる。直後、銃口から極太の魔力の弾が放出された。
 その魔力の弾は建物にぶつかった瞬間に激しい爆発を引き起こした。
エリス:
「っ、おまえの方が建物壊してるだろ!」
ウル:
「君達が避けるからだよ」
 ウルはそのまま体を捻ってエリスを地面に蹴り飛ばした。
エリス:
「ぐっ」
 もちろんその足は硬質化されており、エリスはすさまじい勢いで叩きつけられた。
 その間にシーナが黒い翼をはためかしてウルへと襲いかかる。
シーナ:
「責任転嫁は良くねえぞ!」
ウル:
「そっくりそのまま返すよ」
 シーナの拳をウルが首を傾げて躱す。逆にウルの放つ魔弾をシーナは体を捻って躱した。
お互い幾度となく至近距離で肉弾戦を交えた戦いをする。
ウル:
「シーナ、まさか君が裏切るなんてね。四魔将に似たの力を持つ君が。まぁでも単純だもんね、きみ」
 ウルの放った蹴りをシーナが腕で受け止める。
シーナ:
「うるせえ! まぁ確かに戦えりゃなんでもいいけどよ、案外居心地が良いんだよ! それに、おかげでお前と戦えている!」
ウル:
「それは良かったね」
 そのままシーナが拳を放つが、ウルはその拳に銃口を突きつけて撃った。
シーナ:
「っ!」
 硬質化しているとはいえ、シーナの腕が大きく上に弾かれる。
 間髪入れずにウルが魔弾を放った。シーナは直撃して魔弾と共に建物へと飛んでいく。そして、激突と共に大きな爆発を起こした。
 ウルは上空からエリスを見下ろした。
ウル:
「君達、まだ本気じゃなさそうだけど大丈夫?」
エリス:
「っ、今から本気出すんだよ! ベルセイン!」
 エリスがそう叫ぶと、光に包まれた後に黄色い甲冑を纏い、右手が大きな槍と化していた。
 そして、爆煙から飛び出したシーナも全身を硬質化しており、既に《リベリオン》を解放していた。
シーナ:
「本気でおまえをぶっ潰してやる!」
ウル:
「……バルサ並みに口が悪いね」
 と、その時だった。ウルを凄まじい魔力の圧が襲ったのだ。
ウル:
「っ!」
 ウルが南へと目を向ける。その魔力は、やがて国の中心へと凄まじいスピードで向かって行った。
 ここに来て、初めてウルの表情に動揺が走る。
ウル:
「あれは……ゼノ・レイデンフォートか! まずいな、バルサがやられた!」
 そして、ウルがその魔力を追って国の中心へと向かい始める。
エリス:
「なっ、おい、どこに行く!」
ウル:
「悪いけど、君達を構っている暇がなくなった。君達はこの中で遊んでいてくれ」
 そう言うと、追ってくるエリスとシーナに手を向け唱えた。
ウル:
「《ナイトオブボックス》」
 その瞬間、二人は躱す間もなく闇に包まれた。
エリス:
「何だよここ!」
 辺り一面真っ黒な世界。試しにエリスは雷を放ってみるが、奥へと進むにつれて見えなくなる。
エリス:
「っ、壁とかないのかよ!」
シーナ:
「くそっ、出しやがれ!」
 暗闇の中で暴れる二人。その二人を閉じ込めた黒い箱を一瞥した後、ウルはシャイスの中心へと向かった。
………………………………………………………………………………
 アッシュはゆっくりセラめがけて歩いていく。
アッシュ:
「……まさか、この姿にさせられるとはな」
 十本の腕全てが硬質化され、その手には大剣が。最早アッシュは人の姿ではなかった。
セラ:
「うっ……」
 セラの腹部からは血が大量に流れ出ており、そのせいでセラは力が入らず立ち上がることが出来ずにいた。
 他の者も同じような状況で、立ち上がれる者はいなかった。
ただ一人を除いて。
アッシュ:
「……まだ、立つか」
カイ:
「当たり、前だ……」
 セラの前に、カイが立ちはだかっていた。カイは胸から腹部にかけて斜めに斬られており、そこから夥しい量の血を流していた。
セラ:
「っ、カイ! あなたそんな傷で……! 駄目よ、逃げなさい!」
カイ:
「馬鹿言え、母さん。言ったろ、世代交代だってよ」
 そう言って、カイはセインを構える。だが、その身体はふらついていた。
 正直、カイは立っているのもやっとであった。既に体力の限界なのだ。もう、セインを振るう体力すら残されていない。
 アッシュはカイの目の前まで辿り着くと、その十本の腕を全て振り上げた。
アッシュ:
「無駄なことだ。時間稼ぎにもなるまい」
セラ:
「カイ!」
 セラが悲痛な声で叫ぶが、アッシュは止まらない。
 そして、大剣全てがカイへと振り下ろされた。
 カイは死を運ばんとする大剣を呆然と見ていることしか出来なかった。
カイ:
「(やべえ、死ぬ……!)」
 目前まで迫る死。カイの脳裏をよぎるのはイデアの顔だった。
カイ:
「(イデア……!)」
 だが、寸前のところでその視界に何者かが飛び込んでくる。
 そして、その者はいとも容易くその大剣全てを弾いてみせた。
アッシュ:
「っ!」
 アッシュの目に驚きが走る。
ゼノ:
「……カイ、世代交代してるところ悪いが、まだまだ俺の世代は現役だぞ。交代するには早いな」
カイ:
「親父……!」
 ゼノがカイにニヤリと不敵に笑う。
アッシュはすぐさまゼノから距離を取った。その表情には余裕などなく、額には汗が滲んでいた。
アッシュ:
「ゼノ・レイデンフォート……!」
 ゼノは、アッシュを一瞥した後に、カイへと足を向けた。
カイ:
「親父」
ゼノ:
「よくやったな、カイ」
 そう言って、ゼノはカイの頭を乱暴に撫でた。
ゼノ:
「よく、母さんを守ってくれた。それでこそ俺の息子だ」
カイ:
「……ったく、来るのが遅いんだよ。どこで道草食ってた」
ゼノ:
「悪い悪い、随分と成長した草だったもんでな。食べるのに時間がな」
 すると、いつの間にかカイの傷から流れていた血が止められていた。
 そして、今度はセラの元へ。
ゼノ:
「遅れてすまなかった、セラ」
セラ:
「いいえ、ゼノ……よく来てくれました」
 セラが目に涙を浮かべてゼノを見つめる。ゼノが来てくれた安堵はセラを笑顔にしていた。
 セラの腹部にゼノが手を伸ばす。一瞬にしてその血を止めた。
ゼノ:
「とりあえずは応急処置で。あいつをサクッと倒したらちゃんと治すよ」
セラ:
「ゼノ、無茶はしないように」
 セラの言葉にゼノが笑う。
ゼノ:
「誰に言ってるんだよ。俺が無茶しない時なんて今まであったか?」
シロ:
「(そこは嘘でもしないって言いなさいよ!)」
 ゼノの持つ赤い剣からシロの声が響く。
セラ:
「あら、シロもいるのですね? 久しぶりですね、シロ」
シロ:
「(そうね、セラ。とにかく任せておきなさい。あたしがいるんだもの、無茶なんてする必要がないわ)」
 カイは、ゼノの持つ赤い剣から聞こえてくる声に驚きを隠せずにいた。
カイ:
「(なんだ、あの剣は。会話できるって一体……でも、あの感じ、あの時のイデアみたいだ……)」
 似たような感覚をカイは覚えていた。それはフィールス王国奪還時のライナスとの決戦中。イデアが一瞬だけセインそのものになったのだ。その時の力は段違いで、そのお陰でライナスに勝てたようなものだった。
カイ:
「(じゃあ、あれはセインなのか……?)」
 そもそもあの事象がセイン故に起きたことなのか、カイは見当がついていなかったが、ただゼノの持つ赤い剣にはセインと同じようなものを感じていた。
 赤い剣を注視しているカイだったが、ゼノがその剣を構えたのに気づき、ゼノを見上げる。
 ゼノは、軽く後ろを見やって告げた。
ゼノ:
「さて、カイ。こっからは親父が良いところを見せてやろう」
 ゼノが再び不敵に笑ったのだった。
………………………………………………………………………………
 その頃、レイデンフォート王国では。
 レイデンフォート城が大きな音を立てて崩れ落ちていた。
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