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2『天使と悪魔』
2 第三章第三十二話「アッシュの力」
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カイ:
「さぁ、世代交代の時間だ!」
アッシュの大剣を受け止めながら、そう叫ぶカイ。その顔には笑みが浮かんでいたが、額には汗が滲み、血管が浮き出ていた。それ程までに全身に力を入れていたのである。
カイ:
「(おいおい、こっちは本気で受け止めてんのに……こいつマジか……!)」
アッシュの大剣から伝わってくる力は、カイの全力をも凌駕していた。たとえ悪魔族の右手と左足をもってしてもだ。
カイはじりじりと後ろへ押されていた。
カイ:
「(このままじゃ、押し斬られる……!)」
と、その前にアッシュはもう片方の大剣を振り上げた。カイを両断すべく振り上げられたそれは、目的を果たそうとカイへ向かって行く。
だが、直前に解とは反対方向にウェルムが出現して叫んだ。
ウェルム:
「《風神の太刀、絶空!》」
目にも止まらぬ速さで刀がアッシュを襲う。それを目で追えている者は一人としていないだろう。
襲われているアッシュ以外は。
アッシュはその攻撃全てを大剣で弾いていた。決して盾として構えて防いでいるのではなく、一撃一撃をしっかりあの大剣で弾いているのだ。あの重厚感溢れる大剣を容易く振り回して。
ウェルム:
「こいつ、俺の速さに……!」
ウェルムは驚いていた。本気の速度で剣撃を放っているからだ。
ウェルム:
「(あの敵ですら俺のスピードにはついて来れなかった。こいつ、今までの奴と格が違う……!)」
その直後、ウェルムは大きく剣を弾かれて胴ががら空きになる。その胴めがけてアッシュが大剣を薙ごうとする。
ヴァリウス:
「《豪炎砲火!》」
それを止めるべく、ヴァリウスがアッシュの頭上に転移して唱えた。灼熱の業火がアッシュへと降り注いていく。
さらに、側面にはシェーンが姿を見せ、凄まじい速さで刺突を繰り出した。
アッシュは、二人を一瞥すると唱えた。
アッシュ:
「《怒黒》」
ヴァリウス:
「っ!」
アッシュの頭上に魔法陣が展開され、黒いレーザーが炎へと飛び出す。それは炎を容易く飲み込み、ヴァリウスの姿を一瞬にして掻き消した。
そして、アッシュはそのままウェルムへ大剣を薙ぐ。シェーンの方は見向きもせずに。
だが、アッシュが一瞥している間にウェルムはどうにか剣を戻していた。そのおかげで大剣を防ぐことが出来たが、一気に吹き飛ばされた。
さらに、アッシュは薙いだ勢いで回転し、側面にいるシェーンへと大剣を叩きつける。
シェーン:
「くっ」
シェーンもまた受け止めきれずに吹き飛び、カイも遂に大剣を受けきることが出来ず、吹き飛んだ。
カイ:
「がぁっ」
カイは後ろにいたセラに受け止められながらも一緒に吹き飛ばされ、ウェルムとシェーンはそのまま建物を崩しながら吹き飛んでいった。
それは一瞬の出来事だったが、アッシュの実力を示すには十分であった。
セラは地面にレイピアを突き立て、どうにか勢いを殺す。
セラ:
「っ、カイ、大丈夫!?」
カイ:
「わ、悪い母さん、助かった」
セラ:
「いいえ、感謝するのは私の方だわ。助けてくれてありがとう。あなたが来てくれなきゃ今頃私は死んでいたわ」
セラがカイへ微笑む。そこに、ヴァリウスが転移してきた。
ヴァリウス:
「カイ、無事かい?」
カイ:
「ヴァリウス! 無事だったか!」
ヴァリウス:
「ギリギリ転移が間に合ってね」
そう言うと、ヴァリウスは黒い穴を宙に開ける。その中から、ウェルムとアグレシア、シェーンが飛び出して来た。
ヴァリウス:
「ついでに三つ拾い物してきたよー」
セラ:
「アグレシア、大丈夫ですか!」
アグレシア:
「セラ様こそご無事――」
シェーン:
「セラ様!」
アグレシアを押しのけてシェーンがセラに近寄る。
シェーン:
「ご無事でしたか……!」
セラ:
「シェーンこそ無事で何よりです」
顔をグイグイ押されていたアグレシアが、シェーンの手を押しのけ叫ぶ。
アグレシア:
「シェーン! よくも生きてたものだ、あの君が!」
アグレシア:
「そっくりそのまま返してやろう。そしてセラ様に近づくな、この歩く公然わいせつ罪が」
アグレシア:
「どこら辺がだ! そっくりそのまま返してやる!」
シェーン:
「返すな! 私のどこが公然わいせつだ! くたばれ!」
いがみ合う二人を宥めようとするセラに、その様子に呆れていたカイ達だったが、当然それを敵が悠長に見てくれるわけもなく。
アッシュが高速で突っ込んできていた。二つの大剣がカイ達へ迫る。
カイ:
「っ!」
カイは、セインを両手で持ち黒い魔力を纏わせ、力をかけあわせながら大剣一つを受け止めた。カイの足元を中心に亀裂が走る。
カイ:
「っ、おおおおおおおおお!」
カイにのしかかる凄まじい圧力。だが、カイは全力でそれを上に弾き返した。それとほぼ同時にもう一振りの大剣がカイへと迫るが、ウェルムが受け止める。
当然のごとくそこに力の差はあり、ウェルムが受け止められたのはわずか一秒にも満たない時間。
だがその間に、カイは振り上げたセインをそのまま大きく振り下ろした。
カイ:
「ストリームスラッシュ!」
黒い魔力の乗った黒いエネルギーの奔流がアッシュへと殺到する。
アッシュは弾かれた大剣をすぐさま構えてそれを防ぐが、そのまま後ろに押し返された。
直後、カイが背後のセラ達へ叫ぶ。
カイ:
「おれがどうにかあいつを抑えるから作戦でも立ててくれ! 無策じゃあいつには勝てねえ!」
セラ:
「カイ!」
セラの声が聞こえたが、カイは既に駆けだしていた。
これでも最初にアッシュへ襲い掛かった時、カイ達は協力して攻撃を行った。それでも尚傷一つつけられなかったのだ。無策のままバラバラに攻撃しても勝ち目はないだろう。
黒いレーザーに押されていたアッシュだったが、魔力を籠めてそれを振り払った。
その直後、カイがアッシュへと飛びかかる。セインを両手で全力で握り、大きく振り下ろす。
だが、大剣に弾かれ、カイは宙に吹き飛んだ。瞬間にもう片方の大剣が真横文字に振るわれたが、身をかがめることでギリギリ回避していた。大剣が顔を掠め、鮮血が滲む。
アッシュ:
「《怒黒》」
その直後、アッシュの目の前に魔法陣が展開され、黒いレーザーがカイを飲み込まんと飛び出した。
カイ:
「っ、ストリームスラッシュ!」
急ぎカイが黒いエネルギーを放つ。それは黒いレーザーと激しくぶつかり合い、そして大きな爆発を巻き起こした。
周囲がと煙に覆われ、カイの姿が見えなくなった。
アッシュ:
「……」
わざわざ視界の悪い煙の中に飛び出すことなく、アッシュは動かず待っていた。
すると、煙の中から黒いエネルギーが何本もアッシュへ向けて殺到した。
アッシュは両の大剣に再び魔力を籠めた。先程は押し返されたが、魔力を籠めれば問題ないと判断したのだ。その判断は正しくエネルギー達をどんどん掻き消していく。だが、そのエネルギーはアッシュの足元にも殺到しており、足元は崩れ、アッシュは宙に浮いた。
そこに煙の中からカイが斬りかかる。
カイ:
「おおお!」
全力で振り下ろされるセイン。今度は弾かれずに受け止められた。
まだ終わらせまいとカイがセインを強く握り、魔力を籠める。
カイ:
「ストリーム――」
だが、カイが放つ前にアッシュがセインを弾く。魔力を籠めた際に生じた一瞬の緩みをアッシュは見逃さなかった。
そして、もう片方の大剣をカイへと薙ぐ。
カイ:
「くそっ!」
カイはどうにかセインで受け止めるが、そのまま横に吹き飛ばされた。
その勢いが弱まる前にアッシュが唱える。
アッシュ:
「《怒黒》」
黒いレーザーがカイへと殺到する。吹き飛ばされている風圧のせいでカイは体勢を変えることが出来なかった。
カイ:
「(くっ、避けれねえ……!)」
だが、寸前でカイの隣にヴァリウスが転移し、カイを引っ張って避けさせた。
ヴァリウス:
「大丈夫かい!」
と、そのままカイをセラ達へ向けて全力で投げ飛ばした。
カイ:
「やり方があんだろうがああああああ!」
見事、セラ達の元へ顔面から着地したカイ。そこにヴァリウスが笑顔で帰ってきた。
ヴァリウス:
「いやね、最善だったと思うよ」
カイ:
「だとしたら選択肢少なすぎるだろ!?」
顔をさすりながらカイが憤慨する。セラがカイに駆け寄った。
セラ:
「カイ、大丈夫!? あなたのお陰で作戦がたてられたわ、ありがとう」
カイ:
「大丈夫だ、母さん。なら、突っ込んでいった甲斐があるってもんだ」
ヴァリウス:
「カイだけにね」
カイ:
「ヴァリウス、おまえ後で拳骨な」
セラの手を借りてカイが立ちあがり、アッシュへ体を向ける。
カイ:
「じゃあ、反撃開始といこうか!」
セラがカイに耳打ちして作戦を伝える。
その間にシェーン、アグレシアがアッシュへと飛び出した。
シェーン:
「しっかり役目を果たせよ、アグレシア!」
アグレシア:
「誰に言ってるのかな!」
二人はそれぞれ側面に回りアッシュを挟み込んだ。
シェーン:
「《神速剣・乱れ桜花の舞!》」
アグレシア:
「《神速剣・大輪!》」
シェーンが高速で剣撃を繰り出し、アグレシアは魔力を籠めた強烈な一撃を振り下ろした。
そのどちらも両の大剣で軽々と受け止めるアッシュだったが、直後作戦を聞いたカイがアッシュへ飛び出す。
カイ:
「おおおおお!」
斬りかかるカイ。しかし、アグレシアの剣を弾いて今度はカイの攻撃を止めた。
三人がかりでアッシュに攻撃するが、全て捌かれていた。
アッシュ:
「その程度か」
カイ:
「っ」
だが、カイ達の役目はアッシュの大剣を封じることであった。
セラがアッシュの頭上から勢いよく落ちてくる。両手が塞がり、三人の相手をしているアッシュにはそれを受け止める方法はなかった。
だが、アッシュは焦ることなく唱える。
アッシュ:
「《怒黒》」
アッシュが魔法陣を展開した。だが、それはセラのいる頭上にではなく、アッシュの背後にであった。
アッシュ:
「あれは、おまえの作った幻だろう」
アッシュがアグレシアを一瞥する。アグレシアは唇を噛んだ。が、直後ニヤリと笑う。
アグレシア:
「確かにその通りだ。だが、予定通りでもある」
アッシュ:
「なんだと……?」
その瞬間、ヴァリウスが魔法陣のすぐ近くに転移し黒い穴を開ける。その中から声が響いた。
ウェルム:
「《風魔斬り》」
穴からウェルムが飛び出し、魔法陣を一閃する。すると、魔法陣は割れてなくなり黒いレーザーが飛び出すことはなかった。
アッシュ:
「っ!」
アッシュは急ぎカイ達を吹き飛ばして背後へ振り向こうとするが、三人共全力でアッシュを抑え込む。
そして、アッシュの背後で姿を現したセラが叫んだ。
セラ:
「《聖光神刺突!》」
セラの肉体は瞬時に神速の域に到達し、一瞬でアッシュの眼前に出現する。そして、セラのレイピアがアッシュの頭を貫こうとした。
その時だった。アッシュは唱える。
アッシュ:
「《リベリオン》」
突如、カイ達全員がアッシュを中心に四方へ吹き飛ばされた。
カイ:
「がぁっ」
建物を破壊しながら地面を転がっていく。
全員、何が起きたのか全く分からなかった。それでも分かることが一つだけ。
ようやく勢いがなくなり、顔を上げたカイ達の目の前には、アッシュが。目は悪魔のそれとなり、三メートルを超えていた巨躯は赤がかった黒に硬質化され、腕の数は十本。それが脇や背中から飛び出しており、その手全てに大剣が握られている。
アッシュ:
「……あいつ、全然本気じゃなかったんだ」
アッシュは異形の姿と化していたのだった。
「さぁ、世代交代の時間だ!」
アッシュの大剣を受け止めながら、そう叫ぶカイ。その顔には笑みが浮かんでいたが、額には汗が滲み、血管が浮き出ていた。それ程までに全身に力を入れていたのである。
カイ:
「(おいおい、こっちは本気で受け止めてんのに……こいつマジか……!)」
アッシュの大剣から伝わってくる力は、カイの全力をも凌駕していた。たとえ悪魔族の右手と左足をもってしてもだ。
カイはじりじりと後ろへ押されていた。
カイ:
「(このままじゃ、押し斬られる……!)」
と、その前にアッシュはもう片方の大剣を振り上げた。カイを両断すべく振り上げられたそれは、目的を果たそうとカイへ向かって行く。
だが、直前に解とは反対方向にウェルムが出現して叫んだ。
ウェルム:
「《風神の太刀、絶空!》」
目にも止まらぬ速さで刀がアッシュを襲う。それを目で追えている者は一人としていないだろう。
襲われているアッシュ以外は。
アッシュはその攻撃全てを大剣で弾いていた。決して盾として構えて防いでいるのではなく、一撃一撃をしっかりあの大剣で弾いているのだ。あの重厚感溢れる大剣を容易く振り回して。
ウェルム:
「こいつ、俺の速さに……!」
ウェルムは驚いていた。本気の速度で剣撃を放っているからだ。
ウェルム:
「(あの敵ですら俺のスピードにはついて来れなかった。こいつ、今までの奴と格が違う……!)」
その直後、ウェルムは大きく剣を弾かれて胴ががら空きになる。その胴めがけてアッシュが大剣を薙ごうとする。
ヴァリウス:
「《豪炎砲火!》」
それを止めるべく、ヴァリウスがアッシュの頭上に転移して唱えた。灼熱の業火がアッシュへと降り注いていく。
さらに、側面にはシェーンが姿を見せ、凄まじい速さで刺突を繰り出した。
アッシュは、二人を一瞥すると唱えた。
アッシュ:
「《怒黒》」
ヴァリウス:
「っ!」
アッシュの頭上に魔法陣が展開され、黒いレーザーが炎へと飛び出す。それは炎を容易く飲み込み、ヴァリウスの姿を一瞬にして掻き消した。
そして、アッシュはそのままウェルムへ大剣を薙ぐ。シェーンの方は見向きもせずに。
だが、アッシュが一瞥している間にウェルムはどうにか剣を戻していた。そのおかげで大剣を防ぐことが出来たが、一気に吹き飛ばされた。
さらに、アッシュは薙いだ勢いで回転し、側面にいるシェーンへと大剣を叩きつける。
シェーン:
「くっ」
シェーンもまた受け止めきれずに吹き飛び、カイも遂に大剣を受けきることが出来ず、吹き飛んだ。
カイ:
「がぁっ」
カイは後ろにいたセラに受け止められながらも一緒に吹き飛ばされ、ウェルムとシェーンはそのまま建物を崩しながら吹き飛んでいった。
それは一瞬の出来事だったが、アッシュの実力を示すには十分であった。
セラは地面にレイピアを突き立て、どうにか勢いを殺す。
セラ:
「っ、カイ、大丈夫!?」
カイ:
「わ、悪い母さん、助かった」
セラ:
「いいえ、感謝するのは私の方だわ。助けてくれてありがとう。あなたが来てくれなきゃ今頃私は死んでいたわ」
セラがカイへ微笑む。そこに、ヴァリウスが転移してきた。
ヴァリウス:
「カイ、無事かい?」
カイ:
「ヴァリウス! 無事だったか!」
ヴァリウス:
「ギリギリ転移が間に合ってね」
そう言うと、ヴァリウスは黒い穴を宙に開ける。その中から、ウェルムとアグレシア、シェーンが飛び出して来た。
ヴァリウス:
「ついでに三つ拾い物してきたよー」
セラ:
「アグレシア、大丈夫ですか!」
アグレシア:
「セラ様こそご無事――」
シェーン:
「セラ様!」
アグレシアを押しのけてシェーンがセラに近寄る。
シェーン:
「ご無事でしたか……!」
セラ:
「シェーンこそ無事で何よりです」
顔をグイグイ押されていたアグレシアが、シェーンの手を押しのけ叫ぶ。
アグレシア:
「シェーン! よくも生きてたものだ、あの君が!」
アグレシア:
「そっくりそのまま返してやろう。そしてセラ様に近づくな、この歩く公然わいせつ罪が」
アグレシア:
「どこら辺がだ! そっくりそのまま返してやる!」
シェーン:
「返すな! 私のどこが公然わいせつだ! くたばれ!」
いがみ合う二人を宥めようとするセラに、その様子に呆れていたカイ達だったが、当然それを敵が悠長に見てくれるわけもなく。
アッシュが高速で突っ込んできていた。二つの大剣がカイ達へ迫る。
カイ:
「っ!」
カイは、セインを両手で持ち黒い魔力を纏わせ、力をかけあわせながら大剣一つを受け止めた。カイの足元を中心に亀裂が走る。
カイ:
「っ、おおおおおおおおお!」
カイにのしかかる凄まじい圧力。だが、カイは全力でそれを上に弾き返した。それとほぼ同時にもう一振りの大剣がカイへと迫るが、ウェルムが受け止める。
当然のごとくそこに力の差はあり、ウェルムが受け止められたのはわずか一秒にも満たない時間。
だがその間に、カイは振り上げたセインをそのまま大きく振り下ろした。
カイ:
「ストリームスラッシュ!」
黒い魔力の乗った黒いエネルギーの奔流がアッシュへと殺到する。
アッシュは弾かれた大剣をすぐさま構えてそれを防ぐが、そのまま後ろに押し返された。
直後、カイが背後のセラ達へ叫ぶ。
カイ:
「おれがどうにかあいつを抑えるから作戦でも立ててくれ! 無策じゃあいつには勝てねえ!」
セラ:
「カイ!」
セラの声が聞こえたが、カイは既に駆けだしていた。
これでも最初にアッシュへ襲い掛かった時、カイ達は協力して攻撃を行った。それでも尚傷一つつけられなかったのだ。無策のままバラバラに攻撃しても勝ち目はないだろう。
黒いレーザーに押されていたアッシュだったが、魔力を籠めてそれを振り払った。
その直後、カイがアッシュへと飛びかかる。セインを両手で全力で握り、大きく振り下ろす。
だが、大剣に弾かれ、カイは宙に吹き飛んだ。瞬間にもう片方の大剣が真横文字に振るわれたが、身をかがめることでギリギリ回避していた。大剣が顔を掠め、鮮血が滲む。
アッシュ:
「《怒黒》」
その直後、アッシュの目の前に魔法陣が展開され、黒いレーザーがカイを飲み込まんと飛び出した。
カイ:
「っ、ストリームスラッシュ!」
急ぎカイが黒いエネルギーを放つ。それは黒いレーザーと激しくぶつかり合い、そして大きな爆発を巻き起こした。
周囲がと煙に覆われ、カイの姿が見えなくなった。
アッシュ:
「……」
わざわざ視界の悪い煙の中に飛び出すことなく、アッシュは動かず待っていた。
すると、煙の中から黒いエネルギーが何本もアッシュへ向けて殺到した。
アッシュは両の大剣に再び魔力を籠めた。先程は押し返されたが、魔力を籠めれば問題ないと判断したのだ。その判断は正しくエネルギー達をどんどん掻き消していく。だが、そのエネルギーはアッシュの足元にも殺到しており、足元は崩れ、アッシュは宙に浮いた。
そこに煙の中からカイが斬りかかる。
カイ:
「おおお!」
全力で振り下ろされるセイン。今度は弾かれずに受け止められた。
まだ終わらせまいとカイがセインを強く握り、魔力を籠める。
カイ:
「ストリーム――」
だが、カイが放つ前にアッシュがセインを弾く。魔力を籠めた際に生じた一瞬の緩みをアッシュは見逃さなかった。
そして、もう片方の大剣をカイへと薙ぐ。
カイ:
「くそっ!」
カイはどうにかセインで受け止めるが、そのまま横に吹き飛ばされた。
その勢いが弱まる前にアッシュが唱える。
アッシュ:
「《怒黒》」
黒いレーザーがカイへと殺到する。吹き飛ばされている風圧のせいでカイは体勢を変えることが出来なかった。
カイ:
「(くっ、避けれねえ……!)」
だが、寸前でカイの隣にヴァリウスが転移し、カイを引っ張って避けさせた。
ヴァリウス:
「大丈夫かい!」
と、そのままカイをセラ達へ向けて全力で投げ飛ばした。
カイ:
「やり方があんだろうがああああああ!」
見事、セラ達の元へ顔面から着地したカイ。そこにヴァリウスが笑顔で帰ってきた。
ヴァリウス:
「いやね、最善だったと思うよ」
カイ:
「だとしたら選択肢少なすぎるだろ!?」
顔をさすりながらカイが憤慨する。セラがカイに駆け寄った。
セラ:
「カイ、大丈夫!? あなたのお陰で作戦がたてられたわ、ありがとう」
カイ:
「大丈夫だ、母さん。なら、突っ込んでいった甲斐があるってもんだ」
ヴァリウス:
「カイだけにね」
カイ:
「ヴァリウス、おまえ後で拳骨な」
セラの手を借りてカイが立ちあがり、アッシュへ体を向ける。
カイ:
「じゃあ、反撃開始といこうか!」
セラがカイに耳打ちして作戦を伝える。
その間にシェーン、アグレシアがアッシュへと飛び出した。
シェーン:
「しっかり役目を果たせよ、アグレシア!」
アグレシア:
「誰に言ってるのかな!」
二人はそれぞれ側面に回りアッシュを挟み込んだ。
シェーン:
「《神速剣・乱れ桜花の舞!》」
アグレシア:
「《神速剣・大輪!》」
シェーンが高速で剣撃を繰り出し、アグレシアは魔力を籠めた強烈な一撃を振り下ろした。
そのどちらも両の大剣で軽々と受け止めるアッシュだったが、直後作戦を聞いたカイがアッシュへ飛び出す。
カイ:
「おおおおお!」
斬りかかるカイ。しかし、アグレシアの剣を弾いて今度はカイの攻撃を止めた。
三人がかりでアッシュに攻撃するが、全て捌かれていた。
アッシュ:
「その程度か」
カイ:
「っ」
だが、カイ達の役目はアッシュの大剣を封じることであった。
セラがアッシュの頭上から勢いよく落ちてくる。両手が塞がり、三人の相手をしているアッシュにはそれを受け止める方法はなかった。
だが、アッシュは焦ることなく唱える。
アッシュ:
「《怒黒》」
アッシュが魔法陣を展開した。だが、それはセラのいる頭上にではなく、アッシュの背後にであった。
アッシュ:
「あれは、おまえの作った幻だろう」
アッシュがアグレシアを一瞥する。アグレシアは唇を噛んだ。が、直後ニヤリと笑う。
アグレシア:
「確かにその通りだ。だが、予定通りでもある」
アッシュ:
「なんだと……?」
その瞬間、ヴァリウスが魔法陣のすぐ近くに転移し黒い穴を開ける。その中から声が響いた。
ウェルム:
「《風魔斬り》」
穴からウェルムが飛び出し、魔法陣を一閃する。すると、魔法陣は割れてなくなり黒いレーザーが飛び出すことはなかった。
アッシュ:
「っ!」
アッシュは急ぎカイ達を吹き飛ばして背後へ振り向こうとするが、三人共全力でアッシュを抑え込む。
そして、アッシュの背後で姿を現したセラが叫んだ。
セラ:
「《聖光神刺突!》」
セラの肉体は瞬時に神速の域に到達し、一瞬でアッシュの眼前に出現する。そして、セラのレイピアがアッシュの頭を貫こうとした。
その時だった。アッシュは唱える。
アッシュ:
「《リベリオン》」
突如、カイ達全員がアッシュを中心に四方へ吹き飛ばされた。
カイ:
「がぁっ」
建物を破壊しながら地面を転がっていく。
全員、何が起きたのか全く分からなかった。それでも分かることが一つだけ。
ようやく勢いがなくなり、顔を上げたカイ達の目の前には、アッシュが。目は悪魔のそれとなり、三メートルを超えていた巨躯は赤がかった黒に硬質化され、腕の数は十本。それが脇や背中から飛び出しており、その手全てに大剣が握られている。
アッシュ:
「……あいつ、全然本気じゃなかったんだ」
アッシュは異形の姿と化していたのだった。
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侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
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