カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

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2『天使と悪魔』

2 第二章第二十一話「奪還に向けて」

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 最上階の王の間にはカイとイデア、シーナ、そしてドライル達の姿があった。王の間は広く大人達全員は入らないもののかなりの人数を収納できていた。
カイ:
「―――というわけで、シーナは仲間になりました」
時間をかけてこれまでの話をし、どうにかシーナを仲間にしたという説明をドライル達にしたカイ。カイはリノの父親によって回復してもらいある程度動けるようになっていた。
だが、当然のごとくドライル達の反応は芳しくない。
ドライル:
「正気か!?」
カイ:
「あぁ、正気だ」
リノ:
「正気なの!?」
カイ:
「だから正気だって」
イデア:
「カイ、正気?」
カイ:
「イデアはさっきその場にいただろ!?」
 案の定の様子に頭を掻きながら、カイがどうにか理解してもらおうとする。
カイ:
「だからな、シーナはデバントとかいう宰相の操り人形だっただけなんだって。本当に悪かったのはそのデバントとかいう奴なんだよ」
ドライル:
「それは分かっているが……」
 実際にデバントと戦ったドライルはそれを理解していたが、だからと言って納得はいっていなかった。
ドライル:
「だが、そいつがこの国の人々を殺しまくったのも事実だろう」
カイ:
「それは、そうだけど……じゃあ、どうすれば気が済むんだよ」
 カイが渋々そう言うと、大人達が声を荒げた。
大人1:
「今すぐ殺すべきだ!」
大人2:
「罪を償わせろ!」
 次々とそういう声が上がっていく。
 当のシーナは眼を閉じて表情を変えずに黙っていた。
 その大人たちの様子に、カイがため息をつく。
カイ:
「あのなぁ―――」
 と、その時だった。
ドライルの父親:
「やめろ、おまえ達」
ドライル:
「親父……」
 ドライルの父親が周囲の大人達を止める。
ドライルの父親:
「この革命はこの人族とドライル達子供のものだ。奴隷だった俺達が口出すべきものじゃない」
大人達:
「……」
 ドライルの父親の言葉に大人達が大人しくなっていく。そしてドライルの父親はドライルへと声をかけた。
ドライルの父親:
「ドライル、おまえはどうすべきだと思うんだ」
ドライル:
「俺は……」
 ドライルがカイへと視線を向ける。そして数秒間無言で二人は見つめ合った。
 全員が固唾を呑んでドライルの言葉を待つ。
 すると、やがてドライルが目を閉じて笑みを浮かべた。
ドライル:
「別に。特にどうしろということはない」
 その言葉にカイが疑うような表情を浮かべていた。
カイ:
「……さっきはシーナが殺しまくっただのどうだの言ってただろ? いいのか?」
 その問いにドライルは首をすくめながら答える。
ドライル:
「そこに関しては事実だろう。だが、だからと言ってどうしろということもない。第一、もう既に王はおまえのものなのだろう。ならば、おまえの所有物に俺達がケチをつけてもしょうがない。結局はおまえ次第だろ」
カイ:
「それは……まぁそうだな。おまえ達が何と言おうとシーナはもうおれ達の仲間だ。殺すなんて言語道断だ」
シーナ:
「ご主人……」
 カイのその言葉に今まで黙っていたシーナが眼を開けてカイを見つめる。カイはシーナに微笑んでやった。
 その二人のやり取りにドライルはさらに言葉を付け加えた。
ドライル:
「それにカイ、おまえが王の主人だと言うのならば問題はあるまい」
 ドライルの言葉にカイは頷き、力こぶを作ってみせた。
カイ:
「おう任せろ! 駄目なことは駄目ってちゃんと教えるから!」
シーナ:
「なんだか私、ご主人の子供みたいだな!」
イデア:
「わたし、親を殺しかけるような親不孝者の子供はいや!」
 あーだこーだとやりとりを交わしていくカイ達。その様子にドライルは大丈夫だと確信した。
 と、その瞬間だった。
???:
「カイ!」
 突如カイ達の頭上からカイを呼ぶ声が聞こえてきたのである。
 その声の先に視線を向けると、そこにはヴァリウスが転移してきていた。
カイ:
「おおっ、ヴァリウス! 久しぶりな気がするな! 元気してたか?」
ヴァリウス:
「いやぁ、カイこそ……ってカイ、その手足と目、どうしたの?」
カイ:
「え? あー、まぁこれは色々あってな……」
 カイが悪魔化した手足に目を向ける。カイの手足は依然硬質化されたように真っ黒な状態である。いくら時間が経っても元に戻る事はなかった。
 カイの手足にヴァリウスが興味深そうな視線を送るが、ふと首を振って我に返った。
ヴァリウス:
「って、それどころじゃないんだ、カイ。緊急事態だ。おそらくダリルもエイラ同様捕まった。間違いなく処刑されちゃうよ」
カイ:
「何だって!? 本当か!?」
ヴァリウス:
「うん、メリルの元にセインだけ帰って来た。セインがあるってことはまだ生きてるってことだけどそれも時間の問題のはず。とにかく話は後! まずは王都まで行くよ!」
 そう言ってヴァリウスが黒い穴を空中に展開する。
カイ:
「分かった! よし、シーナ! あの黒い穴に突っ込め!」
シーナ:
「了解したぜ、ご主人!」
 カイの命令を受けてシーナが躊躇なく穴の中に入っていく。
 これにはヴァリウスが驚いていた。
ヴァリウス:
「いやあの子誰!?」
カイ:
「話は後なんだろ! ほら、イデアも!」
イデア:
「うん!」
 カイがイデアを持ち上げて穴の中へと入れてあげる。
 そしてカイも、というところでカイはあることに気付いてドライル達へ振り返った。
 カイは心配そうな表情を浮かべながら尋ねた。
カイ:
「あのさ、おれ達はこれからシーナと一緒にエイラを助けに行くけどさ、この国は大丈夫か? シーナが悪魔全体に寝返ったことバレるし、この国を表向き治めていたシーナが寝返ったとなると別の悪魔が新しく来るかもしれないだろ」
 カイの言う通りシーナが寝返ったことがバレる以上、このジョードイン国には何かしらの措置がなされることが考えられる。
 だが、カイの懸念を振り払うようにドライルは明るい表情で返した。
ドライル:
「確かにそうだろうな。だが問題はない。この国は戦うことを覚えた。それにデバントの呪縛からも解放されてこの国から出て行くことも出来る。たとえこの国を出て行こうとも俺達が生きている限りこの国は滅びない」
 そう言ってのけるドライルの表情はカイが初めて出会った頃よりもずっと凛々しいものだった。
 カイは自然と笑顔を浮かべていた。
カイ:
「……そうか。強くなったんだな、この国は」
ドライル:
「……おまえのおかげだ、ありがとう」
 突然のストレートな言葉にカイが照れながら頬を掻く。
カイ:
「へへっ、あれだな、きっとこれからおれ達は悪魔全体を敵に回すことになるかもだけど、ドライル達とは仲良くありたいな」
 カイのその言葉に、ドライルは一瞬思案した後にこう言った。
ドライル:
「……もし、おまえ達人族が悪魔族と戦争を始めるなら、俺はおまえを助けに行こう」
カイ:
「本当か!?」
 ドライルが頷く。
ドライル:
「ああ、おまえは間違っていないと、そう思えるからな」
カイ:
「っ、ありがとう!」
 カイがドライルの手を取る。そして二人は熱い握手を交わした。
 と、そこへ黒い穴から声が聞こえてくる。
メリル:
「ちょっとカイ! 早く来てよ! ダリルを早く助けに行かなきゃ!」
ミーア:
「メリル、落ち着きなよ。今きっとお兄ちゃん良いところなんだよ」
 聞こえてくる声にカイとドライルは苦笑する。
ドライル:
「おまえの仲間、おまえに似て賑やかだな」
カイ:
「それ本人達に言ってみな、半殺しにされるぞ。おれと似てるってどういうことだーってな」
 カイとドライルは笑い合い、そして手を離した。
カイ:
「それじゃあな」
ドライル:
「ああ、本当にありがとう。エイラ・フェデルのこと、助けられるといいな」
カイ:
「おう、絶対助けてくる! じゃあ、元気でやれよ!」
 次々とカイにお礼の言葉が投げかけられていく。
 その全てが悪魔からであるが、この場において人族や悪魔族という壁は存在しなかった。
 そのお礼を背中に浴び、ジョードイン国へ別れを告げながらカイは黒い穴の中へと入った。
 そしてカイを待っていたのは殺伐とした空間だった。
メリル:
「カイ、遅いじゃないの!」
シーナ:
「ご主人、この女凄く五月蠅いぞ!」
メリル:
「てか、この子供誰よ!」
ミーア:
「わたしと身長そんなに変わんないなんて、なんて逸材を連れてきたのお兄ちゃん! ってあれ? お兄ちゃんの手足どうしたの?」
 全部を全部捌き切れなくて、カイはとりあえず外界にいるヴァリウスへと声をかけた。
カイ:
「ヴァリウス、王都まではどれくらい時間かかる?」
ヴァリウス:
「『一瞬だよ、ほら着いた』」
 と、ヴァリウスに言われて外に出てみれば、そこは魔界の王都アイレンゾードを一望できる丘であった。
カイ:
「そういや転移があったな」
 全員が黒い穴から出てアイレンゾードを一望する。アイレンゾードには、エイラの処刑を見るために大勢の悪魔が集まっており、丘からでもそれが見えた。
 ミーアがヴァリウスに尋ねる。
ミーア:
「ねぇ、何で中に転移しなかったの?」
ヴァリウス:
「さっきはおそらくこの王都の中にいたからバレたんだよ。だから、中に入るわけにはいかないのさ」
 そしてヴァリウスが全員へ視線を向ける。
ヴァリウス:
「さて、皆聞きたいことだったり全員で共通しておかなきゃいけないことだったりがあると思うから、ひとまずここでお話といこうか」
カイ:
「ダリルは今すぐ殺されるわけじゃないのか?」
ヴァリウス:
「敵さんは生け捕りだって言ってたし、たぶんエイラの処刑と一緒に殺されるんじゃないかな。だから明日ってことさ。つまり、時間はまだあるんだ。この間に情報を共有して確実にエイラとダリルを助けよう」
 そこにメリルが手を挙げて発言する。
メリル:
「転移で今すぐに助けることは出来ないの? 処刑にはたくさんの悪魔が来てるでしょうし、危険度が上がるでしょ」
ヴァリウス:
「まぁそうなんだけどね。でも今すぐの方が危険なんだ」
メリル:
「何でよ」
 ヴァリウスが難しい顔で理由を説明する。
ヴァリウス:
「城のどこかに囚われてるのは確かかもしれないけど、僕の転移は行ったことのある場所と見える範囲にしか行けないからね。適当に城の中を探して敵にバレたりしたら大変だよ。それよりかは、処刑の瞬間、一瞬でエイラとダリルの傍に転移して奪い去った方がまだ確率としては高いと思うな。相手は強いし即回収、即離脱の方がいいよ」
メリル:
「……なるほど」
 メリルも相手の強さは先程痛い位に思い知っていたため、納得せざるを得なかった。
ヴァリウス:
「というわけで、まずは話し合おうよ」
 そう言ってヴァリウスがカイへと視線を向ける。それに頷いてカイは話し始めた。
カイ:
「そうだな。それじゃあ、まずはこっちから―――」
 そうしてカイ達は情報を共有し合い、作戦を立てていったのだった。
………………………………………………………………………………
セラ:
「……そういうことですか」
ゼノ:
「はい、そういうことです」
 現在、天界にてゼノはセラの前に正座させられながら無事説明を終えた。
 その光景にエリス達はセラの認識を改めていた。
エリス:
「ほんわかしてんのに怒ったときの迫力がヤバいな」
デイナ:
「母様、俺に怒ってた時は本気じゃなかったんだな」
シオルン:
「わたしもああいう風になれるでしょうか」
エリス:
「シオルンはそのままでいて!?」
 セラがゼノの周りをゆっくりと歩いていく。ゼノは冷や汗を掻きながらセラの言葉を待っていた。
 やがて、セラがゼノの目の前に止まってため息をつく。
セラ:
「状況は分かりました。つまり、来たる悪魔族との戦争に向けて力を貸してほしいということですか」
ゼノ:
「そ、そういうことだ。あ、いや、です」
 ゼノが思わず敬語になるほど怒ったセラは恐ろしいものであった。
セラ:
「それについては問題ありません。そういう状況である以上、協力は惜しみません」
 その言葉に、ゼノが嬉しそうに顔を上げる。
ゼノ:
「本当か! ありがとう! 流石は俺の嫁だな、話が分かる!」
セラ:
「……」
 嫁、という言葉にセラの顔は少し赤くなっていた。これでも結婚してから二十年以上経っているのだが、そういう言葉にセラは弱かった。
エリス:
「カイのお母さんって意外と初心なんだな」
デイナ:
「母様はそういうところがある」
シオルン:
「可愛いですね」
 エリス達が言いたい放題言っているのを聞いて、セラがゴホンと咳ばらいをする。
セラ:
「だ、だからと言ってカイを魔界に行かせたこと、許してませんからね!」
 顔を赤くしつつセラがそっぽを向く。
 その様子に苦笑しながら、ゼノは告げた。
ゼノ:
「大丈夫だって。あいつは全てを取り戻して帰ってくるさ」
 あまりに確信をもって言ってのけるゼノにセラが尋ねる。
セラ:
「……その根拠は?」
 その問いにゼノは一言、
ゼノ:
「根拠は一つ、息子達の中であいつが一番俺に似た馬鹿だからだ」
 ニッと笑ってそう言ったのだった。
………………………………………………………………………………
 そして、迎えた処刑当日。
カイ:
「さぁ、エイラとダリル、全部取り返すぞ!」
イデア:
「うん!」
 カイ達のエイラ&ダリル奪還作戦が開始されようとしていた。
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