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1『セイン』

1 エピローグ

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 フィールス王国での戦いが終わって二日後、レイデンフォート王国はとても賑わっていた。というのも無理はない。何故なら今日はレイデンフォート王国第三王子とフィールス王国第二王女の結婚式があるからである。第二王女というのはつまりイデアのことであり、第一王女だったイデアが第二王女になったのは、第一王女がメリルになったからである。
カイ:
「てか早すぎるだろ! まだ戦い終わって二日だぞ!」
 カイが結婚式用の色々豪華な装飾の付いた衣服に身を包みながら叫ぶ。
ダリル:
「まぁいいだろ、レイデンフォート王国に来ているフィールス王国の国民を元気にするためだと思って頑張ってこい」
 ダリルも正装に身を包んでいた。スーツが恐ろしいほど似合っている。その隣にはまたもや正装のレンが立って腕を組んでいる。
レン:
「これも必要なことだと思え。それともカイ、イデアとちゃんとした場で結婚したくないのか?」
カイ:
「ぐっ……したいです」
 今、カイとダリル、そしてレンは控室でイデアの着替え待ちであった。女性の方がやはり着付け等が大変なのである。
 するとその時、突然控室にヴァリウスが転移してきた。ヴァリウスはとても興奮した面持ちで口を開く。
ヴァリウス:
「おい! イデアちゃん、超絶綺麗だったぞ!!」
カイ:
「なっ! てめえ、転移を使って覗きやがったな!」
ヴァリウス:
「いやー、カイの魔力がイデアちゃんと結婚したいって言ってるよ! 僕も今から頑張っちゃおうかな!」
カイ:
「いい度胸じゃねえか! 表出やがれ! そのおれの魔力ごと消し去ってやる!」
 そしてカイがヴァリウスに飛びかかろうとした時、控室の扉が開いた。
 入って来たのは正装姿のエイラ、ミーア、メリルとそして、ウエディングドレスに身を包まれたイデアだった。
カイ:
「……!」
入って来たイデアの姿にカイは言葉を失った。イデアがあまりに美しかったのだ。イデアは純白のドレスに包まれ、その顔にはヴェールがかけられている。
イデア:
「カイ、お待たせ」
カイ:
「……」
 イデアが声をかけるも、カイは未だにイデアに釘付けだった。
エイラ:
「カイ様、最初にイデア様に出会った時も言いましたが、視姦は―――」
カイ:
「いや待て、してねえからな! やめろよこんな時に!」
 顔を赤くしてカイがエイラに叫ぶ。そして、改めてイデアへと目を向けた。
カイ:
「……すっげえ綺麗で可愛い」
イデア:
「ありがとう!」
 イデアが顔いっぱいに笑顔を浮かべる。
 この瞬間、カイは死んでもいいと思った。
ミーア:
「お兄ちゃんいいな、わたしもかっこいい人と結婚したいなー。あ、お兄ちゃんがかっこいいって意味じゃないから」
カイ:
「余計な一言を……。ふっ、ちんちくりんには無理だよ!」
 カイが調子に乗って奇妙なポーズで格好つけながらミーアを馬鹿にした。
 ミーアは全員の予想と違えずカイへと突進したが、カイの腕一本に頭を押され敗亡していた。
 それを笑って全員が見ている中、ダリルの横でメリルがイデアを見ながら呟いた。
メリル:
「あたしもあそこまで綺麗になれるかな……」
ダリル:
「大丈夫だ、メリルは今でも十分綺麗だからな」
 ダリルの言葉にメリルが顔を赤くする。そして、少し口を尖らせながらダリルへ尋ねた。
メリル:
「……それ、狙って言ってるの?」
ダリル:
「ん?」
 ダリルが不思議とばかりに首を傾げる。
メリル:
「天然さんはこれだから困るわ」
 メリルはそっぽを向きながらボソッと呟いた。その呟きにダリルはますます首を傾げていく。
 すると、控室の扉の前にコルンとランが訪れた。
コルン:
「皆様、そろそろ時間です」
カイ:
「よし、行くか」
 カイ達がぞろぞろと控室を出て目的地へと歩き始める。
カイ:
「そういや、エリス達はどうなんだ? 来れるのか?」
 カイは廊下でふと誰に向けたでもなく呟いた。
 エリスはシオルンを連れ立ってチェイル王国へと戻った。そしてシオルンをハンに紹介したところ、普通に反対をくらったのだ。それからエリスとハンの親子喧嘩が始まり、今日の結婚式に顔を出せるか分からないのである。
レン:
「さあな、まぁエリスなら雷でも纏って飛んでくるだろ」
カイ:
「それもそうだな、あいつならそのまま壁とか壊したり―――」
 と、その時カイ達の歩いている廊下の目の前の壁が大きな音を立てて吹き飛んだ。
カイ:
「何だっ!?」
 全員が警戒態勢に入る中、土煙の中から場違いである陽気な声が聞こえてきた。
???:
「やべえ、勢い余って壊しちゃった」
???:
「まったくエリスが調子に乗るからですよ」
エリス:
「とか言って、シオルンも楽しんでたくせに」
 その土煙の中からは、正装姿のエリスとシオルンが現れた。
 予想通り過ぎる登場の仕方にカイも失笑しか出てこない。
カイ:
「……本当に壊すかよ」
シオルン:
「あ、皆さん!」
エリス:
「お、どうやらタイミングばっちしみたいだな!」
 カイ達に気付いたエリスが胸に抱いたシオルンを下ろしながらそう言う。
カイ:
「エリス、おまえ親父さんとは上手く行ったのか?」
エリス:
「いや全然! 今日だって話の途中にこっちへ飛んできたからね!」
カイ:
「……はぁ、馬鹿」
ミーア:
「お兄ちゃん、一応エリスの頭に回復魔法でもかけてみる?」
カイ:
「それでエリスの馬鹿が治るならおれも治してほしいね」
エイラ:
「カイ様、馬鹿だって自覚あったんですね……」
 カイ達が廊下で騒いでいると、カイ達の背後からゼノとルーシェンが姿を現した。
ゼノ:
「ほらおまえら、急いで準備しろ! ていうか何だこの壁の穴は!」
カイ:
「や、やべ! めんどくさくなる前に急ごう!」
 カイ達が逃げるようにして結婚式場へと向かおうとする。だが、何故だかイデアだけがゼノとルーシェンに止められていた。というより絡まれていた。
ゼノ:
「イデアちゃん、すっごく綺麗だね!」
イデア:
「あ、ありがとうございます!」
ゼノ:
「お義父さん、ときめいちゃいそう!」
ルーシェン:
「イデア、父さんはおまえの晴れ舞台が見れて嬉しいな! 本当は嫌だけど!」
カイ:
「こんの馬鹿親父共が! 時間ないんじゃねえのか!」
 ドタバタしながら結婚式までの時間は進んでいった。
………………………………………………………………………………
 カイとイデアは今大きな扉の前にいる。場所はレイデンフォート王国にある第一闘技場だ。本来稽古や決闘のために使われるこの場所だが、今は地面の材質を全て大理石にし、席から何まで置かれていた。全てゼノの魔法によるもので、そこには現在レイデンフォート王国にいる人々ほとんどが詰めかけていた。
カイ:
「……なんだか緊張するな」
ミーア:
「何言ってるのお兄ちゃん、ビシッとしてよね」
 ミーアはイデアのスカートが床を引きずらないように後ろの方を持つ係である。
イデア:
「ミーア、ありがとうございます」
ミーア:
「ううん、任せて! 塵一つつけさせないよ!」
 イデアはカイの腕に手を回している。それだけでカイはどぎまぎしていた。
ミーア:
「お兄ちゃん、顔赤いよ?」
 ミーアがからかうようにカイへ声をかける。
カイ:
「う、うっせー! ほっとけ!」
 カイ達の目の前にある扉の向こう、つまり会場からはダリルの声が聞こえてきていた。ダリルは司会進行役なのである。
ダリル:
「『それでは、新郎新婦の入場です』」
ミーア:
「ほら出番だよ」
カイ:
「分かってるよ」
 カイが気を引き締めたその時、イデアがぼそりとカイに耳打ちした。
イデア:
「カイ」
カイ:
「ん?」
イデア:
「あのね、お願いがあるんだけど―――」
 そしてイデアがあることをお願いする。カイはそれを聞いて表情を変えた。
カイ:
「ここに来て無茶振り!?」
ミーア:
「ほらお兄ちゃん! 扉開いちゃうよ!」
イデア:
「カイ、行こう!」
 イデアが笑顔をカイへ向け、その腕を引っ張った。
 そして次の瞬間、カイ達の目の前にある大きな扉が開き、カイとイデアはその中へ足を踏み入れた。
 辺りから聞こえるこの大歓声を、カイは生涯忘れることはないだろうと思った。たくさんの人々が自分達を祝福してくれているのである。
 カイとイデアは真ん中に敷いてある赤い絨毯の上をゆっくりと踏みしめながら歩いた。
 会場の前列には今までにカイ達と関わってきたたくさんの者達が優しく微笑み拍手をしながら座っている。
 カイ達はその人々の横を抜け、遂に一番奥へと辿り着いた。
 本来、その奥には神父がいるはずなのだが、そこに神父の姿はない。
 それに気付いたカイは、イデアへ苦笑しながら視線を送った。
カイ:
「イデア、最初からそのつもりだったろ」
イデア:
「バレた?」
 イデアがまるでいたずらがバレた子供のように無邪気に笑う。
カイ:
「それなら、もっと前もって言ってくれよな……」
 先程のイデアのお願いとはこういうものだった。
イデア:
「カイ、お願いがあるんだけど、結婚の誓いを立てる時、わたしいつもの口上を言ってセインをカイに渡すからね、その前にカイも何か口上を言ってほしいの」
 カイは戸惑った。結婚式が始まる直前にまさかの無茶振りだったのだ。
 事実今もカイは戸惑っているが、花嫁のお願いを聞かないわけにもいかない。
カイ:
「(ええい、こうなったら自棄だ!)」
 結婚式で自棄というのもおかしな話であるが、それでもカイは決心をしてイデアの顔にかかっているヴェールを後ろに除けて、イデアの顔を露わにさせた。
 そして、すぅ、と大きく息を吸い、次の瞬間、大きな声を会場中に轟かせた。
カイ:
「我、カイ・レイデンフォートはイデア・フィールスを生涯愛し、生涯守り抜き、そして生涯幸せにすることをここに誓う!」
 カイの声が会場中に響き渡った。そして直後会場中がどよめいていた。無理もない、このような結婚式の進行だとは誰も聞いていなかったのである。
 カイは顔を真っ赤にしていたが、何故か羞恥よりもやりきった満足感の方が大きかった。
 そしてカイの言葉を受けて、イデアが笑顔で答える。その頃には会場の観客もそういうものなのだと理解しておとなしくなっていた。
イデア:
「我、いかなる時もあなたを想い、ここにわたしの心をあなたの矛として捧げ、あなたを守る剣とすることを、イデア・フィールスが誓います!!」
 その口上と共に、イデアが胸からセインを取り出し、カイへと捧げた。
 カイはそれを両手で受け取ると、カイとイデアの間に突き刺し、身を乗り出した。
カイ:
「これはおれ達の愛の証だもんな、やっぱ結婚するならこれがないと」
イデア:
「うん、そうだね」
 そう答えるイデアもまた身を乗り出している。
 カイとイデアの顔は幸せで満ち溢れていた。
 やがて、カイとイデアの顔がだんだん互いに近づいていく。
 そしてセインを中心に、セインを挟んでカイとイデア、二人の影は重なった。
………………………………………………………………………………
 そこにはある女が立っていた。その女の目の前には両開きの巨大な扉が二つそびえ立っている。片方の扉には太陽の、もう片方の扉には星の紋様が描かれている扉だ。
???:
「まさか、死んだと思っていたけどそっち側にいるとはね……」
 その女はニヤリと口角を上げ、星の紋様が描かれている扉を見上げていた。
???:
「待ってな、すぐに見つけてあげる……エイラ!」
 その女の目は、本来白くあるべき部分が黒く、そして瞳孔は赤く縦に細長かった。
  カイ~魔法の使えない王子~ 「1 セイン」 END
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