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1『セイン』
1 第四章第三十五話「兄弟喧嘩」
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リア城の四階にある玉座の間にて、カイは全力疾走していた。その後ろから炎の球がカイを追尾している。
ライナス:
「どうした、戻ったおまえの魔力の力を見せてくれるんじゃなかったのか?」
カイ:
「うっせー! こっから見せるんだよ!」
カイは振り返りながら立ち止まり唱えた。
カイ:
「《ウォーターレーザー!》」
細長い水のレーザーが炎の球を掻き消していく。
だが、その直後カイの後ろにライナスが転移した。そしてそのまま右手に持った剣を振り下ろしていく。
カイ:
「うおっ!」
カイは咄嗟に左に避けてそれを回避すると、そのまま振り向きざまに右手に持つ剣をライナスへと叩きつけた。
その攻撃は剣で受け止められ、ライナスはさらに左手に炎の剣を生成した。
ライナス:
「《フレイムブレイド》」
そのまま炎剣をカイめがけて薙ぐ。
カイ:
「《ブルーリフレクト!》」
カイはそれが当たる直前で唱え、水の反射シールドを展開した。
シールドと炎剣が接触し合う。途端、蒸発音を響かせ、次の瞬間水蒸気爆発が起きた。
ライナス:
「っ!」
カイ:
「うわっ!」
二人は吹き飛び、ライナスは上手に着地したが、カイは二転三転し頭から柱に激突した。
カイ:
「いでっ!」
頭を押さえるカイを見てライナスが冷笑を浮かべる。
ライナス:
「確かに前よりはやるようになっているが、やはりその性格は変わらんか」
カイ:
「性格?」
カイが膝に手をついて立ち上がりながら首を傾げる。
ライナス:
「そう、性格だ。おまえのその性格は時より人を馬鹿にしているようだ。今もそう、殺し合いをしているというのにどこかふざけている」
カイ:
「誰がふざけてなんか―――」
ライナス:
「おまえは俺を殺す気でいるのか?」
カイ:
「っ!」
その問いにカイの目が見開かれた。
ライナス:
「ミーアをこの場から去らせたのはあいつに俺を殺すなんて出来ないからだろう。だが、おまえはどうだ? まだどこかで殺し合いではなく兄弟喧嘩の延長だと思ってないか?」
カイ:
「っ、おれは……!」
ライナス:
「剣にも迷いが生じているぞ!」
瞬間、カイの目の前にライナスが転移し、そのまま剣を突き出した。
カイは急いで剣を立ててそれを左に弾き、そのままライナスの腹を裂くべく剣を右に薙いだ。
だが、その剣はライナスの左手にいとも容易く受け止められていた。
カイ:
「なっ!?」
ライナス:
「これがおまえの迷いの結果だ!」
先程弾かれた剣が再びカイへと横から叩きつけられる。
カイ:
「っ、《巨人の大盾!》」
カイが左腕に巨大な盾を装着してそれを防ぐが、いつのまにかカイの息は荒くなっていた。
カイ:
「(やべぇ、思ったよりも本当に魔力が微量だった。もう六回ぐらい魔法唱えたけどあともって三回が限界だな……。どうする、魔法が無いときついぞ!)」
ライナス:
「戦闘中に考え事とはな!」
カイ:
「っ!」
隙をついてライナスがカイの懐に膝蹴りを放った。
カイ:
「ガハッ!」
モロに入り、酸素が一気に吐き出される。
そしてライナスはそのままカイの右側頭部に回し蹴りをぶち当てた。
カイ:
「ぐあっ!」
カイは勢いよく吹き飛び、玉座の背後にある壁にぶつかった。その際ライナスが剣を掴んでいたため、吹き飛ぶと同時にカイは剣を取られてしまっている。
ライナス:
「俺を殺そうとしないおまえに、勝ち目は無い」
吹き飛んだカイの元へライナスが歩いていく。
その時、玉座の間が、強いて言うならばリア城全体が大きく揺れた。
ライナス:
「どうやら、下は相当激しく暴れているようだ」
ライナスは一度下を見て笑みを浮かべ、再びカイへと歩き出した。
ライナス:
「まさか、逃げ出したこの国の王女がおまえの所に転がり込むとはな。運が良いんだか悪いんだか分からないが、少なくともおまえを夫として選んだのは間違いだったな」
そしてカイの目の前まで辿り着くと、剣を振り上げた。
ライナス:
「何か最期に伝えておきたい言葉でもあるか? イデア・フィールスへと伝えておいてやろう」
すると、カイはライナスを見上げて笑みを浮かべた。
カイ:
「イデアへの遺言なんて考える必要ないね。だってまだ死なねえし。でもおまえに言う言葉ならあるよ」
そう言うと、カイが真剣な表情でライナスを見つめた。
カイ:
「おれを夫にしたのが間違いだった? 何言ってんだよ、それを決めるのはおまえじゃねえ……!」
精一杯息を吸って、カイは叫んだ。
カイ:
「イデアだろうが!」
その瞬間、突如玉座の間の右壁が吹き飛んだ。
ライナス:
「何だっ!?」
壁が吹き飛び大きな穴が開く。すると外から入って来たのはミーアと、そして巨大な大きい四角形の物体だった。
ミーア:
「お兄ちゃん! 連れてきたよ!」
イデア:
「カイ!」
するとその四角形、つまり部屋の窓からイデアが顔を覗かせた。その窓が開くことはないが、確かにその声はカイに届いていた。
カイ:
「イデア!」
カイの姿を捉えてイデアが目に涙を溜める。
イデア:
「よかった、本当に生きてて良かった……!」
ライナスがイデアの登場に驚愕する。
ライナス:
「馬鹿な!? あの防壁を破ったとでも……っ、まさかミーア、おまえ!」
ミーア:
「へへん、そうだよ! 破れなかったから部屋ごと持ってきたの!」
ミーアがどや顔で腰に手をやる。その顔には大量の汗が浮かんでいた。部屋の重量が重たすぎるのである。
ミーア:
「甘いよライ兄! わたしだってお兄ちゃんの妹なんだからね! 破天荒さには定評があるんだよ!」
カイ:
「それどういう意味!?」
イデアが精一杯カイへと叫ぶ。
イデア:
「カイ、セインを渡させてください! あの時、あの時渡せなかったセインを、今!」
天地谷では受け取る直前にライナスという邪魔が入った。だが今度こそはとイデアがカイへ視線を向ける。
カイはそれに頷いて見せた。
だが、今回もライナスがそれを阻もうとする。
ライナス:
「ちっ!」
ライナスがカイを殺すべく視線を戻した時、カイは掌に炎の球を浮かべて笑っていた。
カイ:
「戦闘中に余所見は禁物だろ?」
カイはライナスへと炎の球を叩きつけた。
ライナス:
「ぐっ!」
咄嗟に剣でガードしたが、ライナスはそのまま後ろへ吹き飛んでいく。
その間にカイは立ち上がってイデアの元へと駆け出した。
ライナス:
「っ、させるか!」
ライナスは吹き飛んだ体勢から地面を一度蹴って跳躍しカイの眼前に転移した。
カイ:
「くそっ、弟の恋路を邪魔すんなよ! 僻みか! まだ自分が結婚出来てないから―――」
ライナス:
「いいから死ね!」
足を止めたカイにライナスが剣を振り下ろす。カイは残り少ない魔力で魔法を唱えようとするが、カイの魔法よりも先にミーアが唱えていた。
ミーア:
「《ウォーターストライク!》」
水の波動がライナスに直撃する。
ライナス:
「ぐっ!」
吹き飛んでそのまま壁にぶつかったライナスへ、ミーアが叫んだ。
ミーア:
「二人の邪魔はライ兄でも許さないよ!」
ライナス:
「ミィイアっ!」
ライナスが強い殺気をミーアへと向ける。ミーアは一瞬怯えたが、それでも毅然とした態度でライナスを睨みつけた。
その間にカイは窓越しにイデアと再会を果たしていた。
そして二人を包むように青白い円が形成され、その空間においてカイとイデアは二人きりになった。
イデア:
「我、いかなる時もあなたを想い、ここにわたしの心をあなたの矛として捧げ、あなたを守る剣とすることを、イデアフィールスが、誓います……!」
イデアが唱え、イデアの胸の中心からセインが飛び出していく。それは、窓をすりぬけてカイの目の前に浮遊した。
イデア:
「カイ、これがわたしの答えです。わたしと、結婚してください……!」
イデアが目に涙を溜めながら笑顔でそう語り掛ける。天地谷でプロポーズしてくれたカイへの答えを、ちゃんと言葉にして、セインにして。
ライナス:
「カイイイイイっ!」
その瞬間、セインの授与を防ぐべくライナスがカイの背後へと転移した。
ミーア:
「っ、お兄ちゃん!」
慌ててミーアが叫ぶ。
だが、カイは振り向くことなくイデアへ微笑んだ。
カイ:
「ああ、結婚しような」
そして、カイはセインを掴んだ。
瞬間、カイを中心に衝撃波が周囲を襲い、ライナスは後ろに吹き飛ばされた。
ライナス:
「くっ!」
どうにか足を踏ん張って耐えたライナスへ、カイが振り向く。その手に掴まれたセインは煌々と青白い光を放っていた。
そして、視線を向けることなくミーアへカイが告げる。
カイ:
「ミーア、イデアと一緒に下に降りてくれ。ここにいると巻き込んじまう」
ミーア:
「わ、分かった!」
ミーアが急いでイデアもとい部屋の近くまで寄り、その後、部屋と一緒に先程の穴から外へ飛び出した。
イデア:
「カイ……」
カイ:
「イデア、もうやられねえから。信じて待っててくれ」
イデア:
「……うん!」
そしてイデア達がこの場を去っていく。その間、ライナスはカイを終始睨みつけるに留まっていた。
カイ:
「いいのか? すんなり行かせて」
ライナス:
「別に構わん。どうせおまえを殺さなくてはあの王女は無意味だ。なら、先におまえを殺すだけだ」
その言葉にカイが真剣な表情でライナスを睨みつける。
カイ:
「引き返すなら、やめるなら今だぞ」
ライナス:
「馬鹿なことを。その言葉が無意味なのは最初から分かっているはずだぞ」
カイ:
「……おまえにとって、この戦いは兄弟喧嘩にはなんねぇのかよ」
その言葉にライナスが一瞬目を伏せ、再びカイへ視線を向けた。
ライナス:
「……兄弟喧嘩にしては、周りを巻き込み過ぎだ。もう、取り返しのつかないところまで来ているのさ」
カイ:
「ライナス……」
ライナス:
「無駄話はやめだ」
ライナスが剣をカイへと突きつける。
ライナス:
「俺のために、死ね、カイ」
カイは一度目を閉じ、そしてセインを構えて目を開けた。
カイ:
「おまえのために、おれはおまえを止めるんだ、ライナス!」
両者が向かい合う。お互い一歩も動かず、場違いの沈黙が一瞬この場を支配していく。
そしてその沈黙を掻き消すべく同時に叫んだ。
カイ:
「ベルセイン!」
ライナス:
「《ダークインフェルノ!》」
カイは青い光に、そしてライナスは漆黒の闇に包まれたのだった。
ライナス:
「どうした、戻ったおまえの魔力の力を見せてくれるんじゃなかったのか?」
カイ:
「うっせー! こっから見せるんだよ!」
カイは振り返りながら立ち止まり唱えた。
カイ:
「《ウォーターレーザー!》」
細長い水のレーザーが炎の球を掻き消していく。
だが、その直後カイの後ろにライナスが転移した。そしてそのまま右手に持った剣を振り下ろしていく。
カイ:
「うおっ!」
カイは咄嗟に左に避けてそれを回避すると、そのまま振り向きざまに右手に持つ剣をライナスへと叩きつけた。
その攻撃は剣で受け止められ、ライナスはさらに左手に炎の剣を生成した。
ライナス:
「《フレイムブレイド》」
そのまま炎剣をカイめがけて薙ぐ。
カイ:
「《ブルーリフレクト!》」
カイはそれが当たる直前で唱え、水の反射シールドを展開した。
シールドと炎剣が接触し合う。途端、蒸発音を響かせ、次の瞬間水蒸気爆発が起きた。
ライナス:
「っ!」
カイ:
「うわっ!」
二人は吹き飛び、ライナスは上手に着地したが、カイは二転三転し頭から柱に激突した。
カイ:
「いでっ!」
頭を押さえるカイを見てライナスが冷笑を浮かべる。
ライナス:
「確かに前よりはやるようになっているが、やはりその性格は変わらんか」
カイ:
「性格?」
カイが膝に手をついて立ち上がりながら首を傾げる。
ライナス:
「そう、性格だ。おまえのその性格は時より人を馬鹿にしているようだ。今もそう、殺し合いをしているというのにどこかふざけている」
カイ:
「誰がふざけてなんか―――」
ライナス:
「おまえは俺を殺す気でいるのか?」
カイ:
「っ!」
その問いにカイの目が見開かれた。
ライナス:
「ミーアをこの場から去らせたのはあいつに俺を殺すなんて出来ないからだろう。だが、おまえはどうだ? まだどこかで殺し合いではなく兄弟喧嘩の延長だと思ってないか?」
カイ:
「っ、おれは……!」
ライナス:
「剣にも迷いが生じているぞ!」
瞬間、カイの目の前にライナスが転移し、そのまま剣を突き出した。
カイは急いで剣を立ててそれを左に弾き、そのままライナスの腹を裂くべく剣を右に薙いだ。
だが、その剣はライナスの左手にいとも容易く受け止められていた。
カイ:
「なっ!?」
ライナス:
「これがおまえの迷いの結果だ!」
先程弾かれた剣が再びカイへと横から叩きつけられる。
カイ:
「っ、《巨人の大盾!》」
カイが左腕に巨大な盾を装着してそれを防ぐが、いつのまにかカイの息は荒くなっていた。
カイ:
「(やべぇ、思ったよりも本当に魔力が微量だった。もう六回ぐらい魔法唱えたけどあともって三回が限界だな……。どうする、魔法が無いときついぞ!)」
ライナス:
「戦闘中に考え事とはな!」
カイ:
「っ!」
隙をついてライナスがカイの懐に膝蹴りを放った。
カイ:
「ガハッ!」
モロに入り、酸素が一気に吐き出される。
そしてライナスはそのままカイの右側頭部に回し蹴りをぶち当てた。
カイ:
「ぐあっ!」
カイは勢いよく吹き飛び、玉座の背後にある壁にぶつかった。その際ライナスが剣を掴んでいたため、吹き飛ぶと同時にカイは剣を取られてしまっている。
ライナス:
「俺を殺そうとしないおまえに、勝ち目は無い」
吹き飛んだカイの元へライナスが歩いていく。
その時、玉座の間が、強いて言うならばリア城全体が大きく揺れた。
ライナス:
「どうやら、下は相当激しく暴れているようだ」
ライナスは一度下を見て笑みを浮かべ、再びカイへと歩き出した。
ライナス:
「まさか、逃げ出したこの国の王女がおまえの所に転がり込むとはな。運が良いんだか悪いんだか分からないが、少なくともおまえを夫として選んだのは間違いだったな」
そしてカイの目の前まで辿り着くと、剣を振り上げた。
ライナス:
「何か最期に伝えておきたい言葉でもあるか? イデア・フィールスへと伝えておいてやろう」
すると、カイはライナスを見上げて笑みを浮かべた。
カイ:
「イデアへの遺言なんて考える必要ないね。だってまだ死なねえし。でもおまえに言う言葉ならあるよ」
そう言うと、カイが真剣な表情でライナスを見つめた。
カイ:
「おれを夫にしたのが間違いだった? 何言ってんだよ、それを決めるのはおまえじゃねえ……!」
精一杯息を吸って、カイは叫んだ。
カイ:
「イデアだろうが!」
その瞬間、突如玉座の間の右壁が吹き飛んだ。
ライナス:
「何だっ!?」
壁が吹き飛び大きな穴が開く。すると外から入って来たのはミーアと、そして巨大な大きい四角形の物体だった。
ミーア:
「お兄ちゃん! 連れてきたよ!」
イデア:
「カイ!」
するとその四角形、つまり部屋の窓からイデアが顔を覗かせた。その窓が開くことはないが、確かにその声はカイに届いていた。
カイ:
「イデア!」
カイの姿を捉えてイデアが目に涙を溜める。
イデア:
「よかった、本当に生きてて良かった……!」
ライナスがイデアの登場に驚愕する。
ライナス:
「馬鹿な!? あの防壁を破ったとでも……っ、まさかミーア、おまえ!」
ミーア:
「へへん、そうだよ! 破れなかったから部屋ごと持ってきたの!」
ミーアがどや顔で腰に手をやる。その顔には大量の汗が浮かんでいた。部屋の重量が重たすぎるのである。
ミーア:
「甘いよライ兄! わたしだってお兄ちゃんの妹なんだからね! 破天荒さには定評があるんだよ!」
カイ:
「それどういう意味!?」
イデアが精一杯カイへと叫ぶ。
イデア:
「カイ、セインを渡させてください! あの時、あの時渡せなかったセインを、今!」
天地谷では受け取る直前にライナスという邪魔が入った。だが今度こそはとイデアがカイへ視線を向ける。
カイはそれに頷いて見せた。
だが、今回もライナスがそれを阻もうとする。
ライナス:
「ちっ!」
ライナスがカイを殺すべく視線を戻した時、カイは掌に炎の球を浮かべて笑っていた。
カイ:
「戦闘中に余所見は禁物だろ?」
カイはライナスへと炎の球を叩きつけた。
ライナス:
「ぐっ!」
咄嗟に剣でガードしたが、ライナスはそのまま後ろへ吹き飛んでいく。
その間にカイは立ち上がってイデアの元へと駆け出した。
ライナス:
「っ、させるか!」
ライナスは吹き飛んだ体勢から地面を一度蹴って跳躍しカイの眼前に転移した。
カイ:
「くそっ、弟の恋路を邪魔すんなよ! 僻みか! まだ自分が結婚出来てないから―――」
ライナス:
「いいから死ね!」
足を止めたカイにライナスが剣を振り下ろす。カイは残り少ない魔力で魔法を唱えようとするが、カイの魔法よりも先にミーアが唱えていた。
ミーア:
「《ウォーターストライク!》」
水の波動がライナスに直撃する。
ライナス:
「ぐっ!」
吹き飛んでそのまま壁にぶつかったライナスへ、ミーアが叫んだ。
ミーア:
「二人の邪魔はライ兄でも許さないよ!」
ライナス:
「ミィイアっ!」
ライナスが強い殺気をミーアへと向ける。ミーアは一瞬怯えたが、それでも毅然とした態度でライナスを睨みつけた。
その間にカイは窓越しにイデアと再会を果たしていた。
そして二人を包むように青白い円が形成され、その空間においてカイとイデアは二人きりになった。
イデア:
「我、いかなる時もあなたを想い、ここにわたしの心をあなたの矛として捧げ、あなたを守る剣とすることを、イデアフィールスが、誓います……!」
イデアが唱え、イデアの胸の中心からセインが飛び出していく。それは、窓をすりぬけてカイの目の前に浮遊した。
イデア:
「カイ、これがわたしの答えです。わたしと、結婚してください……!」
イデアが目に涙を溜めながら笑顔でそう語り掛ける。天地谷でプロポーズしてくれたカイへの答えを、ちゃんと言葉にして、セインにして。
ライナス:
「カイイイイイっ!」
その瞬間、セインの授与を防ぐべくライナスがカイの背後へと転移した。
ミーア:
「っ、お兄ちゃん!」
慌ててミーアが叫ぶ。
だが、カイは振り向くことなくイデアへ微笑んだ。
カイ:
「ああ、結婚しような」
そして、カイはセインを掴んだ。
瞬間、カイを中心に衝撃波が周囲を襲い、ライナスは後ろに吹き飛ばされた。
ライナス:
「くっ!」
どうにか足を踏ん張って耐えたライナスへ、カイが振り向く。その手に掴まれたセインは煌々と青白い光を放っていた。
そして、視線を向けることなくミーアへカイが告げる。
カイ:
「ミーア、イデアと一緒に下に降りてくれ。ここにいると巻き込んじまう」
ミーア:
「わ、分かった!」
ミーアが急いでイデアもとい部屋の近くまで寄り、その後、部屋と一緒に先程の穴から外へ飛び出した。
イデア:
「カイ……」
カイ:
「イデア、もうやられねえから。信じて待っててくれ」
イデア:
「……うん!」
そしてイデア達がこの場を去っていく。その間、ライナスはカイを終始睨みつけるに留まっていた。
カイ:
「いいのか? すんなり行かせて」
ライナス:
「別に構わん。どうせおまえを殺さなくてはあの王女は無意味だ。なら、先におまえを殺すだけだ」
その言葉にカイが真剣な表情でライナスを睨みつける。
カイ:
「引き返すなら、やめるなら今だぞ」
ライナス:
「馬鹿なことを。その言葉が無意味なのは最初から分かっているはずだぞ」
カイ:
「……おまえにとって、この戦いは兄弟喧嘩にはなんねぇのかよ」
その言葉にライナスが一瞬目を伏せ、再びカイへ視線を向けた。
ライナス:
「……兄弟喧嘩にしては、周りを巻き込み過ぎだ。もう、取り返しのつかないところまで来ているのさ」
カイ:
「ライナス……」
ライナス:
「無駄話はやめだ」
ライナスが剣をカイへと突きつける。
ライナス:
「俺のために、死ね、カイ」
カイは一度目を閉じ、そしてセインを構えて目を開けた。
カイ:
「おまえのために、おれはおまえを止めるんだ、ライナス!」
両者が向かい合う。お互い一歩も動かず、場違いの沈黙が一瞬この場を支配していく。
そしてその沈黙を掻き消すべく同時に叫んだ。
カイ:
「ベルセイン!」
ライナス:
「《ダークインフェルノ!》」
カイは青い光に、そしてライナスは漆黒の闇に包まれたのだった。
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……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない
しめさば
ファンタジー
急遽異世界へと転生することになった九条颯馬(30)
小さな村に厄介になるも、生活の為に冒険者に。
ギルドに騙され、与えられたのは最低ランクのカッパープレート。
それに挫けることなく日々の雑務をこなしながらも、不慣れな異世界生活を送っていた。
そんな九条を優しく癒してくれるのは、ギルドの担当職員であるミア(10)と、森で助けた狐のカガリ(モフモフ)。
とは言えそんな日常も長くは続かず、ある日を境に九条は人生の転機を迎えることとなる。
ダンジョンで手に入れた魔法書。村を襲う盗賊団に、新たなる出会い。そして見直された九条の評価。
冒険者ギルドの最高ランクであるプラチナを手にし、目標であるスローライフに一歩前進したかのようにも見えたのだが、現実はそう甘くない。
今度はそれを利用しようと擦り寄って来る者達の手により、日常は非日常へと変化していく……。
「俺は田舎でモフモフに囲まれ、ミアと一緒にのんびり暮らしていたいんだ!!」
降りかかる火の粉は魔獣達と死霊術でズバッと解決!
面倒臭がりの生臭坊主は死霊術師として成り上がり、残念ながらスローライフは送れない。
これは、いずれ魔王と呼ばれる男と、勇者の少女の物語である。
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