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1『セイン』
1 第四章第三十一話「ダークネスの猛攻」
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エイラはリア城の地下へと向かう螺旋階段を下っていた。一階のホールでの戦闘が軽く済み、強敵が登場したところでエリスに任せて地下へ向かったのだ。
螺旋階段を下り終えて目の前の扉を開けると、細い通路にダークネスが三人いた。一階同様三人共武装はしていない。その場所があまりに深い地下あるため上での騒動に気付いていなかったのだ。
ダークネス:
「っ、何奴!?」
扉が開いた音で三人がエイラに気付くが、その時点で既に勝敗は決してしまっていると言っても過言ではない。
エイラ:
「《サンダーボルト・リフレクト!》」
エイラから雷が迸り、細い通路を反射しながら三人へと襲い掛かっていく。三人が転移する暇もなく、雷は三人を飲み込み真っ黒に身を焦がしていた。
倒れていく三人を通り抜けてエイラは先へ進んでいく。その細い通路の先には左に曲がる道しかなかったためそこを左に曲がると、そこにはかなり長い通路が続いていた。そしてその左右には牢屋がたくさんあり、その通路の最奥には扉があった。
エイラ:
「ここ、みたいですね……」
エイラは左右へ目を配りながらその通路を歩いた。牢の中にはたくさんの女性が囚われている。そしてその状態は目が虚ろだったり、気がおかしくなっていたり、果ては外傷が惨たらしかったりと拷問のひどさを物語っていた。
だが、そんな中にもまだしっかり意識を保っている女性は少なからず存在しており、エイラに気付いて声をかけていた。
女性:
「ねぇ、あなた! もしかして私達を助けに来たの!?」
エイラ:
「そのつもりですが。鍵などなくてもこの牢を壊せばいいのでしょうか」
エイラが手元に無詠唱で風の刃を生成する。だが、それを見てその女性は慌てて止めた。
女性:
「駄目よ! そんなことしたらあいつが飛んでくるわ!」
エイラ:
「あいつ?」
女性:
「そうよ。今まで何人か忍び込んで助けに来てくれた人達がいたわ。でもね、全部そいつに返り討ちに遭うの! そいつは恐ろしく強いのよ!」
そう語る女性の目には恐怖が映っていた。
エイラはその女性を直視した後、
エイラ:
「分かりました。では、その方を倒せば何も問題ありませんね」
と言って牢に風の刃をコツンと当てた。
女性:
「あぁあああ! なんてことを!」
女性が悲痛の叫びをあげる。
と、同時にエイラの目の前に太った巨体が転移してきた。瞬間、牢の中の女性全てが例外なく震え始める。
ダークネスβ:
「あー、今度はおまえかー。んー、なかなかの上玉だなー」
エイラ:
「お褒め頂きどうもありがとうございます」
エイラは丁寧にお辞儀をして応える。その様子に巨体は満足そうだった。
ダークネスβ:
「うん、育ちも良いし、これは拷問し甲斐があるなー」
エイラ:
「そちらはどうやら脳に問題があるみたいですね。私の仕える方も頭に障害を持っていますので扱いには慣れてますよ」
今度は笑顔でエイラはそう答えた。すると、その言葉に巨体が顔を歪める。
ダンドオ:
「失礼な奴だなー! このダンドオ様にそんな態度をとるなんて!」
エイラ:
「わざわざ自己紹介ありがとうございます。私はエイラと申します。よろしくお願いしますね」
エイラの舐めた態度にダンドオの顔が真っ赤になっていく。
ダンドオ:
「この世とは思えないような経験をさせてやる!」
そして、エイラとダンドオの戦いが始まった。
………………………………………………………………………………
一階ホールの中央階段の横には大量にダークネスが積み重なっている。エリスがあらかた片付けたのだが、今度はその山の上に一人の黒髪ロングの男が座っていた。
ダークネスΩ:
「ふん、どうやら手応えのある敵が来たようだな」
エリスはその男へセインを向けていた。
エリス:
「そっちこそ、その登場の仕方! さては四天王の内の一人だな!」
シオルン:
「エリスさん! 四天王とかまだいるとは分かってないですよ!」
ダークネスΩ:
「いや、いる」
シオルン:
「いるんですか!?」
カーレグ:
「確かに俺は四天王の内の一人だ。名をカーレグという」
カーレグは立ち上がると黒い穴を宙に開け、そこから弓型のセインを取り出した。
それを見てエリスが警戒を強める。
エリス:
「……四天王ってみんな特殊能力の使えるセインを持ってるっぽいな」
カーレグ:
「その通りだ。特殊なセインを持っているのは三天王と四天王だけだ」
エリス:
「……三天王?」
カーレグ:
「天地谷に向かって行ったモル達のことだが、帰ってこないところを見るとおまえ達にやられたようだな」
エリス:
「……ブフッ!」
エリスは少し思案している様子だったが、次の瞬間突如噴き出した。
エリス:
「それってただの七天王じゃん! 分ける意味!」
可笑しそうに笑うエリスの言葉に、カーレグは眉をピクリと動かした。
カーレグ:
「そいつは……言ってはいけない決まりだ!」
カーレグが弓を構え矢を番える。矢は真っ黒な魔力で出来ていた。
だが、カーレグが矢を放つよりも早くエリスがカーレグの横に移動した。そしてそのまま片方のセインを薙ぐが、カーレグはそれを屈んで回避し、そのままエリスへ向けてではなく、シオルンに向けて矢を放った。
エリス:
「っ!」
シオルンにはシールドがかけられているが、それでもエリスはすぐさまシオルンの元まで移動し矢をセインで掻き消した。
エリス:
「てめぇ……!」
カーレグ:
「やはり、その女が弱点だったか」
カーレグは再び矢を番え、エリスへと問いかけた。
カーレグ:
「さぁ、おまえはその女を守れるかな」
カーレグが矢を放つと、今度はその矢が突如現れた黒い穴の中に消えた。
そして次の瞬間、エリス達を包み込むように黒い穴が無数に出現した。そして、その全ての穴から矢が同時に飛び出したのである。
エリス:
「……っ! 《サンダーフィールド!》」
エリスがセインを地面に突き刺す。瞬間、薄い雷の膜が周囲へ広がり矢を包んだ。すると、四方八方にあった矢が一か所に集まっていく。磁力によって集められているのだ。
エリス:
「《エレクトリア!》」
そしてセインから放たれた雷がその矢を一瞬にして掻き消した。
エリス:
「どうだ、守れるに決まっ―――」
カーレグ:
「俺はまだ矢を一本しか放っていないが、随分大変そうだな」
エリス:
「っ!」
カーレグの言う通り、カーレグは矢を一本しか放っていない。だが、黒い穴の中に入った瞬間、それは無数に増えてエリスを襲っていた。
カーレグの持つセインの能力はずばり指定した無機物を増殖させるというものだった。つまり、矢を収納した黒い穴を無限に増殖させているのだ。
カーレグ:
「さて、次は連続でどんどん放っていくぞ。おまえは何本まで耐えられるかな」
エリス:
「……っ!」
再びカーレグが矢を番える。
カーレグ:
「よし、まずは三本だ。そこからどんどん増やしていく。さっきの数の三倍、防げるかどうか見物だな」
カーレグが矢を三本放ち、それは黒い穴の中に消えていった。
そして、エリスとシオルンを囲うように再び黒い穴が出現し、一つの穴から三本の矢が一気に飛び出した。
エリス:
「っ、うおおおおおお!」
雷の膜は未だに張られているため矢の勢いを磁力によってある程度抑えつつ数か所にまとめて、エリスは最高速度で駆け回り矢をことごとく掻き消していった。
カーレグ:
「ほら、まだまだ行くぞ」
カーレグが次々と矢を放っていく。
エリス:
「くそっ!」
矢の勢いをどうにか殺してはいるのだが、なにぶん磁力を操らなければならない対象の数が多く、何本か操りそこなっている矢があった。
シオルン:
「エリスさん、後ろ!」
そして、その操りそこなっている矢の一つがエリスの方に突き刺さる。
エリス:
「うっ!」
エリスが少し体勢を崩し、同時に磁力の操作が乱れる。
次の瞬間、勢いを殺されていた矢が勢いを取り戻してエリスとシオルンに殺到した。
鮮血が宙を舞った。
………………………………………………………………………………
ダリルとシガレは向かい合っていた。
そして、長テーブルの上からシガレが後ろへと跳ぶ。瞬間、ダリルが一気に間合いを詰めに行くが、シガレが椅子をダリルへと蹴飛ばした。その椅子に手をかざしてダリルが炎で消し炭にする。そしてすぐさまシガレの元へ向かったが、その一瞬の隙の間にシガレはメリルの背後へと回っていた。
ダリル:
「っ、メリル!」
シガレ:
「俺はお兄さんと二人きりでやりたいわけよ。だから、君は邪魔なんだよ!」
メリル:
「っ!」
シガレが黒い穴の中から巨大な大剣を取り出してメリルへと片手で振り下ろす。
メリルは背後から迫る大剣を振り向く暇もなかったため咄嗟に左に飛んで回避した。黒い穴からセインを取り出す時間がなければ間違いなく真っ二つだっただろう。
だが、咄嗟の動きだったためそのまま床に倒れ込むメリルへシガレは振り下ろしたセインの刃をメリルへ向けて薙いだ。
メリルへと大剣のセインが迫るが、すんでのところで大剣とメリルの間にダリルが剣を突き刺してどうにかその攻撃を防いだ。
ダリル:
「ぐっ……!」
剣を持つダリルの左腕が震えていた。シガレの振るう大剣から伝わってくる力が尋常ではないのだ。剣が床に突き刺さっていなければ吹き飛ばされていただろう。実際、剣にはヒビが入ってしまっている。
ダリル:
「……メリル!」
ダリルが振り向かずに後ろのメリルへと右手を向ける。
メリル:
「っ、分かったわ!」
メリルはしっかりその行動の意味を理解し、胸元からセインを取り出してダリルへと渡した。
セインを受け取ったダリルは地面に突き刺した剣を軸に反時計回りし、そのままセインをシガレの胴めがけて薙いだ。
シガレはそれを屈むことで回避すると、突き刺さっているダリルの剣を押して反動を利用しながら時計回りし、セインをダリルの足元へ薙いだ。
ダリル:
「(これを跳んで避ければメリルが危ない……!)」
ダリルは右から左へ薙いでいたセインを逆手持ちすると、柄の先から炎を噴出させて素早く自身の目の前の床に突き刺した。同時にシガレのセインがぶつかる。
甲高い音を立てて両者のセインがぶつかり合っていた。その間にメリルが二人から距離を取る。
ダリルはどうにかシガレのセインを防いでいたが、少し違和感に気付いた。
ダリル:
「(こいつ、どんどん力が増している……!)」
シガレ:
「ほらほら、どうした!」
そして次の瞬間、シガレはダリルを大剣で右に吹き飛ばした。ダリルが床にセインを突き刺していたにも関わらずである。
ダリル:
「ぐっ!」
吹き飛ばされたダリルはテーブルを粉砕し、そのまま向こう側の壁に激突した。壁が大きな音を立てて崩れる。
ダリルは壁に頭から激突しており、血を流していた。一瞬意識を飛ばしそうになり、意識はどうにか保ったものの、視界がブレ、平衡感覚がおかしくなっていた。
ダリル:
「ぐっ、くそっ……!」
メリル:
「ダリル!」
そんなダリルへメリルが駆け寄ろうとする。だが次の瞬間、メリルの目の前にシガレが転移した。
シガレ:
「チャンス到来!」
シガレがそのままセインを縦に振り下ろす。メリルは再び咄嗟に横へ飛ぼうとしたが今度は間に合わない。
次の瞬間、シガレのセインがメリルの右腕を吹き飛ばしていた。鮮血が辺りに飛び散っていく。
ダリル:
「メリル!」
そして、シガレはメリルへとどめを刺すべく、振り下ろしたセインを今度は右斜め上に振り上げた。
………………………………………………………………………………
城門前にはたくさんの敵が集まっていた。その半分以上をジェガロが相手をしており、残りをレン達が相手をしている。
そしてある程度敵の数が減って来た時、それは起こった。
ジェガロ:
「【敵が温すぎるわ! もっと骨のあるやつはおらんのか!】」
ジェガロが方向を轟かせながら叫ぶ。
レン:
「あんなに好戦的だったのか」
コルン:
「言うて竜ですからね」
レンは向かってくる敵に一閃を浴びせながらジェガロの方を向く。ジェガロはダークネスとの戦い方を完璧に熟知したようで、それはもう大勢の敵を屠っていた。
そんなジェガロの鼻先に転移した男がいた。眼鏡をかけ、黒髪にはパーマがかけられている。その男の名はウルホズロという。
ウルホズロ:
「見ていたが、だいぶ強いな。流石竜と言ったところか」
ジェガロ:
「【なんじゃ、そこからどけぃ!】」
ジェガロが鼻先へ氷の槍を複数放っていく。だが、ウルホズロは避けようとしなかった。
ウルホズロは手元に黒い穴を開けると、中から円形で真ん中に穴が開いた物体をちろだし、人差し指に穴を通した。いわゆるチャクラと言われるものである。
ウルホズロのセインはチャクラムの形をしていた。
ウルホズロがそのセインを氷の槍へと投擲すると、氷の槍と接触する瞬間セインを中心に黒い空間が球状に広がった。そしてそこに氷の槍が触れた瞬間触れた先から消えて無くなっていく。
ジェガロ:
「【むっ!】」
やがてウルホズロの手元にはセインが戻り、ジェガロは少なからず目の前で起きた出来事に驚いていた。そんなジェガロへウルホズロが親切にも説明する。
ウルホズロ:
「これが俺のセインだ。セインを中心ン半径三メートル程球状に黒い空間を生む。その空間に触れたものは残らず異次元行きだ。それがたとえ体の一部でもな!」
ウルホズロがジェガロの眉間めがけてセインを投げる。
ジェガロ:
「【くっ!】」
ジェガロはどうにか頭を下げてそれを回避するが、ジェガロは体が大きすぎたためセインはそのままジェガロの背中へと向かった。背中へと向かう途中でセインから黒い空間が発生し、その状態のままジェガロの背にぶつかる。
するとセインは一切の抵抗を受けずにジェガロの背を貫通して入っていき、やがてジェガロの腹から飛び出した。セインが通った後には円状に綺麗な穴が開いており、次の瞬間大量の血が噴き出した。
ジェガロ:
「【グアアッ!】」
大きな音を立ててジェガロが崩れ落ちる。無理もない、背中から原まで半径三メートルの球が貫通したのだ。竜ですらかなりの深手である。
ジェガロ:
「【ぐ、うぅうっ……!】」
ウルホズロ:
「ふん、まだ息があるのか。素直に死んでおけ!」
ウルホズロは地上に降りて再びセインを投擲しようとするが、次の瞬間横から凄まじい殺気を感じ、直感で屈んだ。
その直感は見事に当たっており、屈んだ直後に元々ウルホズロの首があった場所をレンの刀が通過した。
レンはその居合斬りの勢いのまま一度距離を取ってウルホズロと対峙する。その顔は怒りに満ち溢れていた。
レン:
「貴様、よくもジェガロを!」
ウルホズロ:
「……なかなか、早いな!」
ウルホズロがセインをレンに投擲する。レンは半径三メートル以上横に飛び跳ねてそれを回避した。だが、次の瞬間、レンは目を見開く。
レン:
「なに!?」
回避したはずのセインがもう一つ目の前に迫っていたのだ。
ウルホズロ:
「ついさっきは重ねていただけだ。このセインはもともと二対なんだよ」
レンへとセインが迫る。セインから半径三メートル程黒い空間が展開されていく。
避けたばかりのレンに、その範囲から抜け出る方法はなかった。
螺旋階段を下り終えて目の前の扉を開けると、細い通路にダークネスが三人いた。一階同様三人共武装はしていない。その場所があまりに深い地下あるため上での騒動に気付いていなかったのだ。
ダークネス:
「っ、何奴!?」
扉が開いた音で三人がエイラに気付くが、その時点で既に勝敗は決してしまっていると言っても過言ではない。
エイラ:
「《サンダーボルト・リフレクト!》」
エイラから雷が迸り、細い通路を反射しながら三人へと襲い掛かっていく。三人が転移する暇もなく、雷は三人を飲み込み真っ黒に身を焦がしていた。
倒れていく三人を通り抜けてエイラは先へ進んでいく。その細い通路の先には左に曲がる道しかなかったためそこを左に曲がると、そこにはかなり長い通路が続いていた。そしてその左右には牢屋がたくさんあり、その通路の最奥には扉があった。
エイラ:
「ここ、みたいですね……」
エイラは左右へ目を配りながらその通路を歩いた。牢の中にはたくさんの女性が囚われている。そしてその状態は目が虚ろだったり、気がおかしくなっていたり、果ては外傷が惨たらしかったりと拷問のひどさを物語っていた。
だが、そんな中にもまだしっかり意識を保っている女性は少なからず存在しており、エイラに気付いて声をかけていた。
女性:
「ねぇ、あなた! もしかして私達を助けに来たの!?」
エイラ:
「そのつもりですが。鍵などなくてもこの牢を壊せばいいのでしょうか」
エイラが手元に無詠唱で風の刃を生成する。だが、それを見てその女性は慌てて止めた。
女性:
「駄目よ! そんなことしたらあいつが飛んでくるわ!」
エイラ:
「あいつ?」
女性:
「そうよ。今まで何人か忍び込んで助けに来てくれた人達がいたわ。でもね、全部そいつに返り討ちに遭うの! そいつは恐ろしく強いのよ!」
そう語る女性の目には恐怖が映っていた。
エイラはその女性を直視した後、
エイラ:
「分かりました。では、その方を倒せば何も問題ありませんね」
と言って牢に風の刃をコツンと当てた。
女性:
「あぁあああ! なんてことを!」
女性が悲痛の叫びをあげる。
と、同時にエイラの目の前に太った巨体が転移してきた。瞬間、牢の中の女性全てが例外なく震え始める。
ダークネスβ:
「あー、今度はおまえかー。んー、なかなかの上玉だなー」
エイラ:
「お褒め頂きどうもありがとうございます」
エイラは丁寧にお辞儀をして応える。その様子に巨体は満足そうだった。
ダークネスβ:
「うん、育ちも良いし、これは拷問し甲斐があるなー」
エイラ:
「そちらはどうやら脳に問題があるみたいですね。私の仕える方も頭に障害を持っていますので扱いには慣れてますよ」
今度は笑顔でエイラはそう答えた。すると、その言葉に巨体が顔を歪める。
ダンドオ:
「失礼な奴だなー! このダンドオ様にそんな態度をとるなんて!」
エイラ:
「わざわざ自己紹介ありがとうございます。私はエイラと申します。よろしくお願いしますね」
エイラの舐めた態度にダンドオの顔が真っ赤になっていく。
ダンドオ:
「この世とは思えないような経験をさせてやる!」
そして、エイラとダンドオの戦いが始まった。
………………………………………………………………………………
一階ホールの中央階段の横には大量にダークネスが積み重なっている。エリスがあらかた片付けたのだが、今度はその山の上に一人の黒髪ロングの男が座っていた。
ダークネスΩ:
「ふん、どうやら手応えのある敵が来たようだな」
エリスはその男へセインを向けていた。
エリス:
「そっちこそ、その登場の仕方! さては四天王の内の一人だな!」
シオルン:
「エリスさん! 四天王とかまだいるとは分かってないですよ!」
ダークネスΩ:
「いや、いる」
シオルン:
「いるんですか!?」
カーレグ:
「確かに俺は四天王の内の一人だ。名をカーレグという」
カーレグは立ち上がると黒い穴を宙に開け、そこから弓型のセインを取り出した。
それを見てエリスが警戒を強める。
エリス:
「……四天王ってみんな特殊能力の使えるセインを持ってるっぽいな」
カーレグ:
「その通りだ。特殊なセインを持っているのは三天王と四天王だけだ」
エリス:
「……三天王?」
カーレグ:
「天地谷に向かって行ったモル達のことだが、帰ってこないところを見るとおまえ達にやられたようだな」
エリス:
「……ブフッ!」
エリスは少し思案している様子だったが、次の瞬間突如噴き出した。
エリス:
「それってただの七天王じゃん! 分ける意味!」
可笑しそうに笑うエリスの言葉に、カーレグは眉をピクリと動かした。
カーレグ:
「そいつは……言ってはいけない決まりだ!」
カーレグが弓を構え矢を番える。矢は真っ黒な魔力で出来ていた。
だが、カーレグが矢を放つよりも早くエリスがカーレグの横に移動した。そしてそのまま片方のセインを薙ぐが、カーレグはそれを屈んで回避し、そのままエリスへ向けてではなく、シオルンに向けて矢を放った。
エリス:
「っ!」
シオルンにはシールドがかけられているが、それでもエリスはすぐさまシオルンの元まで移動し矢をセインで掻き消した。
エリス:
「てめぇ……!」
カーレグ:
「やはり、その女が弱点だったか」
カーレグは再び矢を番え、エリスへと問いかけた。
カーレグ:
「さぁ、おまえはその女を守れるかな」
カーレグが矢を放つと、今度はその矢が突如現れた黒い穴の中に消えた。
そして次の瞬間、エリス達を包み込むように黒い穴が無数に出現した。そして、その全ての穴から矢が同時に飛び出したのである。
エリス:
「……っ! 《サンダーフィールド!》」
エリスがセインを地面に突き刺す。瞬間、薄い雷の膜が周囲へ広がり矢を包んだ。すると、四方八方にあった矢が一か所に集まっていく。磁力によって集められているのだ。
エリス:
「《エレクトリア!》」
そしてセインから放たれた雷がその矢を一瞬にして掻き消した。
エリス:
「どうだ、守れるに決まっ―――」
カーレグ:
「俺はまだ矢を一本しか放っていないが、随分大変そうだな」
エリス:
「っ!」
カーレグの言う通り、カーレグは矢を一本しか放っていない。だが、黒い穴の中に入った瞬間、それは無数に増えてエリスを襲っていた。
カーレグの持つセインの能力はずばり指定した無機物を増殖させるというものだった。つまり、矢を収納した黒い穴を無限に増殖させているのだ。
カーレグ:
「さて、次は連続でどんどん放っていくぞ。おまえは何本まで耐えられるかな」
エリス:
「……っ!」
再びカーレグが矢を番える。
カーレグ:
「よし、まずは三本だ。そこからどんどん増やしていく。さっきの数の三倍、防げるかどうか見物だな」
カーレグが矢を三本放ち、それは黒い穴の中に消えていった。
そして、エリスとシオルンを囲うように再び黒い穴が出現し、一つの穴から三本の矢が一気に飛び出した。
エリス:
「っ、うおおおおおお!」
雷の膜は未だに張られているため矢の勢いを磁力によってある程度抑えつつ数か所にまとめて、エリスは最高速度で駆け回り矢をことごとく掻き消していった。
カーレグ:
「ほら、まだまだ行くぞ」
カーレグが次々と矢を放っていく。
エリス:
「くそっ!」
矢の勢いをどうにか殺してはいるのだが、なにぶん磁力を操らなければならない対象の数が多く、何本か操りそこなっている矢があった。
シオルン:
「エリスさん、後ろ!」
そして、その操りそこなっている矢の一つがエリスの方に突き刺さる。
エリス:
「うっ!」
エリスが少し体勢を崩し、同時に磁力の操作が乱れる。
次の瞬間、勢いを殺されていた矢が勢いを取り戻してエリスとシオルンに殺到した。
鮮血が宙を舞った。
………………………………………………………………………………
ダリルとシガレは向かい合っていた。
そして、長テーブルの上からシガレが後ろへと跳ぶ。瞬間、ダリルが一気に間合いを詰めに行くが、シガレが椅子をダリルへと蹴飛ばした。その椅子に手をかざしてダリルが炎で消し炭にする。そしてすぐさまシガレの元へ向かったが、その一瞬の隙の間にシガレはメリルの背後へと回っていた。
ダリル:
「っ、メリル!」
シガレ:
「俺はお兄さんと二人きりでやりたいわけよ。だから、君は邪魔なんだよ!」
メリル:
「っ!」
シガレが黒い穴の中から巨大な大剣を取り出してメリルへと片手で振り下ろす。
メリルは背後から迫る大剣を振り向く暇もなかったため咄嗟に左に飛んで回避した。黒い穴からセインを取り出す時間がなければ間違いなく真っ二つだっただろう。
だが、咄嗟の動きだったためそのまま床に倒れ込むメリルへシガレは振り下ろしたセインの刃をメリルへ向けて薙いだ。
メリルへと大剣のセインが迫るが、すんでのところで大剣とメリルの間にダリルが剣を突き刺してどうにかその攻撃を防いだ。
ダリル:
「ぐっ……!」
剣を持つダリルの左腕が震えていた。シガレの振るう大剣から伝わってくる力が尋常ではないのだ。剣が床に突き刺さっていなければ吹き飛ばされていただろう。実際、剣にはヒビが入ってしまっている。
ダリル:
「……メリル!」
ダリルが振り向かずに後ろのメリルへと右手を向ける。
メリル:
「っ、分かったわ!」
メリルはしっかりその行動の意味を理解し、胸元からセインを取り出してダリルへと渡した。
セインを受け取ったダリルは地面に突き刺した剣を軸に反時計回りし、そのままセインをシガレの胴めがけて薙いだ。
シガレはそれを屈むことで回避すると、突き刺さっているダリルの剣を押して反動を利用しながら時計回りし、セインをダリルの足元へ薙いだ。
ダリル:
「(これを跳んで避ければメリルが危ない……!)」
ダリルは右から左へ薙いでいたセインを逆手持ちすると、柄の先から炎を噴出させて素早く自身の目の前の床に突き刺した。同時にシガレのセインがぶつかる。
甲高い音を立てて両者のセインがぶつかり合っていた。その間にメリルが二人から距離を取る。
ダリルはどうにかシガレのセインを防いでいたが、少し違和感に気付いた。
ダリル:
「(こいつ、どんどん力が増している……!)」
シガレ:
「ほらほら、どうした!」
そして次の瞬間、シガレはダリルを大剣で右に吹き飛ばした。ダリルが床にセインを突き刺していたにも関わらずである。
ダリル:
「ぐっ!」
吹き飛ばされたダリルはテーブルを粉砕し、そのまま向こう側の壁に激突した。壁が大きな音を立てて崩れる。
ダリルは壁に頭から激突しており、血を流していた。一瞬意識を飛ばしそうになり、意識はどうにか保ったものの、視界がブレ、平衡感覚がおかしくなっていた。
ダリル:
「ぐっ、くそっ……!」
メリル:
「ダリル!」
そんなダリルへメリルが駆け寄ろうとする。だが次の瞬間、メリルの目の前にシガレが転移した。
シガレ:
「チャンス到来!」
シガレがそのままセインを縦に振り下ろす。メリルは再び咄嗟に横へ飛ぼうとしたが今度は間に合わない。
次の瞬間、シガレのセインがメリルの右腕を吹き飛ばしていた。鮮血が辺りに飛び散っていく。
ダリル:
「メリル!」
そして、シガレはメリルへとどめを刺すべく、振り下ろしたセインを今度は右斜め上に振り上げた。
………………………………………………………………………………
城門前にはたくさんの敵が集まっていた。その半分以上をジェガロが相手をしており、残りをレン達が相手をしている。
そしてある程度敵の数が減って来た時、それは起こった。
ジェガロ:
「【敵が温すぎるわ! もっと骨のあるやつはおらんのか!】」
ジェガロが方向を轟かせながら叫ぶ。
レン:
「あんなに好戦的だったのか」
コルン:
「言うて竜ですからね」
レンは向かってくる敵に一閃を浴びせながらジェガロの方を向く。ジェガロはダークネスとの戦い方を完璧に熟知したようで、それはもう大勢の敵を屠っていた。
そんなジェガロの鼻先に転移した男がいた。眼鏡をかけ、黒髪にはパーマがかけられている。その男の名はウルホズロという。
ウルホズロ:
「見ていたが、だいぶ強いな。流石竜と言ったところか」
ジェガロ:
「【なんじゃ、そこからどけぃ!】」
ジェガロが鼻先へ氷の槍を複数放っていく。だが、ウルホズロは避けようとしなかった。
ウルホズロは手元に黒い穴を開けると、中から円形で真ん中に穴が開いた物体をちろだし、人差し指に穴を通した。いわゆるチャクラと言われるものである。
ウルホズロのセインはチャクラムの形をしていた。
ウルホズロがそのセインを氷の槍へと投擲すると、氷の槍と接触する瞬間セインを中心に黒い空間が球状に広がった。そしてそこに氷の槍が触れた瞬間触れた先から消えて無くなっていく。
ジェガロ:
「【むっ!】」
やがてウルホズロの手元にはセインが戻り、ジェガロは少なからず目の前で起きた出来事に驚いていた。そんなジェガロへウルホズロが親切にも説明する。
ウルホズロ:
「これが俺のセインだ。セインを中心ン半径三メートル程球状に黒い空間を生む。その空間に触れたものは残らず異次元行きだ。それがたとえ体の一部でもな!」
ウルホズロがジェガロの眉間めがけてセインを投げる。
ジェガロ:
「【くっ!】」
ジェガロはどうにか頭を下げてそれを回避するが、ジェガロは体が大きすぎたためセインはそのままジェガロの背中へと向かった。背中へと向かう途中でセインから黒い空間が発生し、その状態のままジェガロの背にぶつかる。
するとセインは一切の抵抗を受けずにジェガロの背を貫通して入っていき、やがてジェガロの腹から飛び出した。セインが通った後には円状に綺麗な穴が開いており、次の瞬間大量の血が噴き出した。
ジェガロ:
「【グアアッ!】」
大きな音を立ててジェガロが崩れ落ちる。無理もない、背中から原まで半径三メートルの球が貫通したのだ。竜ですらかなりの深手である。
ジェガロ:
「【ぐ、うぅうっ……!】」
ウルホズロ:
「ふん、まだ息があるのか。素直に死んでおけ!」
ウルホズロは地上に降りて再びセインを投擲しようとするが、次の瞬間横から凄まじい殺気を感じ、直感で屈んだ。
その直感は見事に当たっており、屈んだ直後に元々ウルホズロの首があった場所をレンの刀が通過した。
レンはその居合斬りの勢いのまま一度距離を取ってウルホズロと対峙する。その顔は怒りに満ち溢れていた。
レン:
「貴様、よくもジェガロを!」
ウルホズロ:
「……なかなか、早いな!」
ウルホズロがセインをレンに投擲する。レンは半径三メートル以上横に飛び跳ねてそれを回避した。だが、次の瞬間、レンは目を見開く。
レン:
「なに!?」
回避したはずのセインがもう一つ目の前に迫っていたのだ。
ウルホズロ:
「ついさっきは重ねていただけだ。このセインはもともと二対なんだよ」
レンへとセインが迫る。セインから半径三メートル程黒い空間が展開されていく。
避けたばかりのレンに、その範囲から抜け出る方法はなかった。
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