カイ~魔法の使えない王子~

愛野進

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1『セイン』

1 第四章第三十話「兄弟喧嘩の始まり」

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 フィールス王国を囲っている石壁の上で見張りを行っている二人のダークネスがいた。そのうちの一人が少し空を見上げ、そして目を見開く。
ダークネス1:
「……あれ、なんだ?」
 その一人の視界の先には鳥のようなシルエットが映っていた。だが、鳥にしてはかなり大きい気がしたのだ。
ダークネス2:
「あぁ? あんなのただの鳥だろ」
 もう一人は見張りに全くやる気を出しておらず、今もその鳥らしきものを一瞥して椅子に深く座り込んでいる。
ダークネス1:
「そう、か……」
 そうは言うものの納得していない一人は、その鳥を注視し続けていた。そして、驚愕する。
ダークネス1:
「お、おい、あれ、鳥なんかじゃないぞ……!」
ダークネス2:
「じゃあ何だって言うんだよ」
 そう言って下へ向けていた視線を上にあげたもう一人は、先程とは光景が違うことに気付いた。鳥だと思っていたものがいつのまにかかなり近くまで降下してきたのだ。そしてそうすることで鳥らしきものの全景が明らかとなる。
ダークネス2:
「あれは……ドラゴンか!?」
 見張りがジェガロに気付くのと、ジェガロがリア城の城門前に勢いよく着地したのはほぼ同時だった。
………………………………………………………………………………
 ジェガロの着地と同時に全員ジェガロから飛び降りた。
カイ:
「じゃあ、ここは任せたからな!」
レン:
「ああ、任された。そっちもイデアを必ず助けろよ」
カイ:
「おう!」
 カイとレンがハイタッチを交わす。そしてカイ達は城門へと駆け出していく。
 レンとコルン、ランは既に剣を抜いて構えていた。
レン:
「あの時、この国を奪われた屈辱を今ここで晴らすぞ!」
コルン&ラン:
「はい!」
ジェガロ:
「【その前にまずは儂の出番じゃ。ほれ、来たぞ】」
 そして次の瞬間、大量のダークネスがレン達の眼前に転移してきた。だが、襲い掛かっては来ない。全員何かしら喚いており、竜であるジェガロを前に怯えていたのだ。
 その敵全員にジェガロが咆哮する。
ジェガロ:
「【死にたい奴からかかってこい!】」
 ジェガロの口から勢いよく火の海が吐き出される。その火の海は前方を飲み込み、数多くのダークネスをも飲み込んだ。威圧されていた彼らは一瞬反応に遅れたのだ。そしてその一瞬で全てが灰と化していった。
 もちろん避けてジェガロの周囲に転移した者達もいる。だが、それもジェガロの前では無意味だった。
ジェガロ:
「【おまえらの相手の仕方は分かっておる!】」
 ジェガロが無詠唱で重力魔法を唱え、ダークネス達はことごとく地面に叩きつけられた。範囲はレン達の目の前までで、範囲内の地面が一気に砕け散る。重力魔法の威力は前回モル達に加えた力よりも強く、地面に叩きつけられた瞬間に潰れて絶命した者も多く存在していた。
 だが、即座に安全圏を把握してレン達の傍に転移した者もいる。
 レンの後ろに転移した敵はそのままレンへ斬りかかったが、気付いた時には自身の首が飛んでいた。
 レンが刀を戻しながら周囲を確認する。レン達は既に複数のダークネスに囲まれていた。
レン:
「全員セインを持っているな。中には特殊能力持ちもいるかもしれん」
コルン:
「レン様、気を引き締めてくださいね」
レン:
「フッ、誰に言ってる」
 レンは鼻で笑い、居合の構えに入る。
レン:
「むしろ気を引き締め過ぎて千切れそうだ!」
 その言葉と同時にレンは敵一体へと高速で向かっていた。その敵は転移をするために跳躍しようとするが、足が地面から離れた時点でレンはその相手の命を既に奪っていた。
 崩れ落ちる敵に目もくれずそのまま横の敵に居合斬りを放つ。敵は受け止めたつもりだったがそれはあまりにレンの動きが速すぎたことによる残像で、気付けば心臓を一突きにされていた。
 即座にレンが危険だと判断した敵二体はレンの背後に転移したが、突如横から襲ってきたコルンのセインを防ごうとして、そのまま真っ二つに切断された。
 そのコルンの背後にも敵が転移して斬撃を放ったがそれをランが受け止める。そしてその間にレンがその敵の横から一閃。敵の首がごろりと地に転がった。
ジェガロ:
「【ほぅ、やるのぅ】」
レン:
「どうやら今まで襲ってきた奴らが特別だっただけのようだ。こいつらはただの雑魚だな」
 レンの言う通りなのであった。今までカイ達と戦闘を繰り広げてきたロジ、ジア、モル達は力を認められていたからこそカイ達の元へ送られていたのであって、全員があれ程強いわけではないのである。
 そしてレン達を囲むようにたくさんのダークネスが次から次へと転移してくる。
ジェガロ:
「【ふむ、人気者じゃの】」
レン:
「戦力分散の意味では良い成果だがな」
ラン:
「どんどん来ますね……」
レン:
「やるしかない、それだけだ!」
 レン達は向かってくる敵の集団へ飛びかかっていった。
………………………………………………………………………………
 レン達と別れたカイ達は石造りの橋を通って城門へと向かう。すると城門前には門番がいた。
門番:
「まさか竜に乗ってくるとは思わなんだ! だが、ここは通さ―――」
エリス:
「ちょっと邪魔だよ!」
 エリスが瞬時に門番の横まで移動しそのままセインで吹き飛ばした。門番はそのまま国を囲う壁を貫通して飛び出していく。
カイ:
「なんかあの光景チェイル王国でも見た気がするな!」
ダリル:
「先に向かうぞ」
 カイ達の目の前の城門は閉ざされていたが、エリスがセインを一振りすると粉々に砕け散った。
 そして城内に入ったカイだったが、一回のホールには数え切れないほどのダークネスが待ち構えていた。その敵の向こうには二回へと続く階段が。カイ達はあそこに行かなければいけないのである。
カイ:
「……ライナスめ、わざわざ配置しておいたな」
エイラ:
「きっと、誰かかしらがイデア様を取り返しにくると思ってたんでしょうね」
ダリル:
「だが、これほど早いとは思ってなかったようだな」
 目の前にいる数え切れないほどの敵は、戦闘態勢にはかけ離れていた。ジェガロの着地時の地震で不審には思ったものの、緊急事態だとは思っていなかったのだ。そのためかまだ手元にセインは存在していない。
 慌ててセインを出そうとしている者もいるが、それをわざわざ待つ義理はカイ達になかった。
エリス:
「《雷鳴!》」
 エリスが前方一直線にいる敵をレーザーで塵にする。
エリス:
「ここは俺一人で大丈夫そうだ! カイ達は早くイデアちゃんの元へ!」
カイ:
「エリス、サンキューな!」
 カイとミーア、ダリルとメリルがそのレーザーで作られた道へ走り出す。エイラは地下に用があるため階段には上がらない。
シオルン:
「わ、わたしは……」
 エリスの近くにいなければならないシオルンだったが、エリスは先程から縦横無尽にホールを駆け回っている。もちろんシオルンがついていけるわけがない。
すると、シオルンを包むようにシールドが突如展開された。
エイラ:
「これで、大丈夫ですよ」
 エイラがシオルンに微笑む。シオルンはそれに笑顔で頷いた。
シオルン:
「はい! ありがとうございます!」
 カイ達はレーザーで作られた道を走っていたがもちろん敵が襲ってこないわけがない。
 カイ達の左右から、そして頭上にも転移してダークネスが襲い掛かっていく。
エリス:
「邪魔しないでくれるかな!」
 だが、それをエリスが見過ごすわけがない。
 エリスがカイ達の頭上にいる敵全員をセインで突き刺す。そしてそのまま空中から左右にいる大勢の敵へ二振りのセインを片方ずつ向け唱えた。
エリス:
「《エレクトリア!》」
 セインの先から枝分かれするように雷が放たれる。その速度は雷と変わらず避ける間もなく大勢が雷を浴びていた。
 だが数が多いため、それでもカイ達の元へ転移する敵がいた。振り下ろされる凶刃。だが、それが当たったのは見えない防護膜だった。
エイラ:
「カイ様、早く行ってくださいよ」
 エイラが階段の途中にいるカイへ声をかける。エイラが全員にシールドを張っていたのだ。
カイ:
「分かってるよ!」
 カイの目の前でダリルが道を塞ぐ敵を無双している。カイは魔力を少し持っているが、ライナスまで温存するという話になったため、今のところ敵の相手は全てダリルとメリル、ミーアに任せている。つまり、カイは今手持ち無沙汰であった。
エイラ:
「カイ様、やることが無いんですか?」
 エイラはカイへ話しかけながら敵の首を風魔法で斬り裂いていた。鮮血が周囲へ飛び散っていく。
カイ:
「うるさいな! 模索中だよ!」
エイラ:
「敵本陣でやることがないなんて、いる意味あるんですか?」
カイ:
「敵本陣で絡んでくるなよっ!」
シオルン:
「エイラさん、その言葉、わたしにも効きます……」
エイラ:
「あ、シオルン様は大丈夫ですよ? いるだけでエリスの力が何倍にも膨れ上がるわけですし」
エリス:
「これが愛の力だぁ!」
 エリスがダークネスを次々となぎ倒していく。
 そしてようやくカイ達は主にダリルの火力のお陰で階段を上りきった。ちなみにダリルはまだセインを使っていない。
 カイは後ろを向いて交戦中のエリス達へ叫んだ。
カイ:
「絶対、くたばんなよ!」
エリス:
「誰に言ってるんだよ! 任せて!」
 カイが叫ぶ間にもカイ達へ敵が襲い掛かっていく。
ダリル:
「カイ、早く行くぞ!」
カイ:
「ああ!」
 そうしてカイ達は階段の先にあった扉を開けて先に進んだ。
 敵がそれを追おうとするがエリスに背を向けた敵は全員一撃で屠られていた。
エリス:
「あいつらを追おうとするな! 少しでも隙を見せたら死ぬと思え!」
 エリスが相手の群れへと飛び込む。
シオルン:
「エ、エリスさん大丈夫でしょうか」
 シオルンがシールドの中で心配そうにエイラに尋ねる。
エイラ:
「大丈夫ですよ、あんなに血を浴びて嬉しそうに戦ってますから」
 そういうエイラも血を浴びながらニコッと笑った。
 シオルンは住む世界が違うなと実感した。
………………………………………………………………………………
 カイは後ろを振り向くが、転移してくるものはほとんどいない。
カイ:
「エリス達、頑張ってくれているみたいだ」
ダリル:
「私達も先を急ごう」
カイ:
「ああ!」
 カイ達は長い通路を抜け、広々とした空間に出た。
メリル:
「ここが、宴の間よ。たしかね」
 そこには長方形のとても長いテーブルが置かれており、さらに豪華な椅子がいくつも並べられていた。カイ達から見て右は全てがガラス張りで、外の景色がよく見える。リア城は左右に森があるためそこからは森が見えた。
 カイ達から向かって右奥に扉があり、カイはそこへ向かう必要があった。そこから三階へ通じているのだ。
 そのためカイ達はその扉へ向けて走り出す。そして同時に疑問を口にした。
カイ&ミーア:
「敵が、いない?」
 その宴の間には一体もダークネスが存在していなかったのだ。
カイ:
「流石に変じゃないか?」
ダリル:
「……疑っていても仕方がない。とりあえずあの扉へ―――」
 その時だった。
 カイ達が走り出してテーブルの横に差し掛かったとき、テーブルの上に一人だけ転移してきたのだ。
ダークネスα:
「よいさ! 行かせはせんぞ! 侵入者め!」
 そいつはダリルと同じように黒髪を後ろに全部流して縛っていた。左目には傷跡が残っていて閉じられており、手には剣では無く酒を持っていた。
カイ:
「……また随分な敵が来たな」
 立ち止まるカイにダリルが声をかけた。
ダリル:
「カイ、ミーアを連れて上に行け。ここは私達に任せてもらう」
カイ:
「……分かった。二人共死ぬんじゃねえぞ!」
ダリル:
「当たり前だ」
メリル:
「もちろんよ」
 カイとミーアはその扉へと向かった。テーブルの敵はそれをずっと見ていた。
 ダリルは流石に不思議に思って声をかける。
ダリル:
「いいのか? 通して」
ダークネスα:
「よい! あいつは通していいと言われている!」
 その男はカイへと視線を向ける。その間にカイとミーアは扉から出て行った。
ダリル:
「カイか。つまりライナス様はカイが生きていることに気付いたということか。で、ミーアも通ってよかったのか?」
ダークネスα:
「え、今二人いた? いっけね、酒飲みすぎた。まあでも一人くらい構わんだろ」
メリル:
「ちゃらんぽらんな人ね」
 メリルが苦笑すると同時に強く睨みつける。一方で男はにへらぁと笑っていた。
ダークネスα:
「それに、今転移しようとしてもお兄さんが飛んできそうだからね」
 確かにダリルは転移しようと飛んだ瞬間、一瞬で間合いを詰めて攻撃するつもりだった。
ダリル:
「……敵はおまえ一人でいいのか」
ダークネスα:
「ん? ああ、良いんだよ。他の奴なんているだけ邪魔だし」
ダリル:
「どうやらおまえはセインを持っているようだな、それも他の奴とは格別の。特殊能力が使えるのか」
シガレ:
「お、よく分かったね。そうだよ、今うちの仲間で特殊能力持ちのセインを持っているのは四人だけだよ。その内の一人が俺、シガレね。よろしく! いやー、お兄さん強そうだし楽しみ!」
ダリル:
「こちらは楽しんでいる暇など無い。悪いがすぐに終わらせてもらう」
 ダリルが剣を構える。
シガレ:
「それは困るね。下だってきっと楽しんでるはずだ。カーレグがそっち行ったし」
ダリル:
「そいつもおまえと同じ特殊能力持ちか」
シガレ:
「そうだよ。だからね、こっちもそれなりに楽しもうか!」
 そしてシガレが後ろに跳躍した。
………………………………………………………………………………
 カイとミーアは無事三階に到着していた。
カイ:
「敵がいないな、全然」
ミーア:
「たぶんこれはライ兄が仕組んでるね、絶対」
カイ:
「同感」
 カイ達はライナスがいそうな場所へと目指す。そこは玉座の間と呼ばれる場所だった。
 ライナスがどこにいるかという話になったとき、レイデンフォート組は満場一致で偉そうなところという意見になった。そして示されたのが玉座の間である。
 玉座の間は四階にあり三階から階段を上るとそのまま玉座の間に着く。
 カイ達は三階の階段前まで急いで走った。そして階段を目の前にしてげんなりした。
カイ:
「……階段、長くね?」
ミーア:
「お兄ちゃん、これが最後の試練、イデアちゃんへ続く愛の試練なんだよ!」
カイ:
「むむ、そう言われると頑張らなくちゃな!」
ミーア:
「言われなくても頑張ってよ……」
 カイ達は階段を駆け上がっていった。途中挫折しそうになってはイデアのことを思い出し、たまにミーアの魔法に頼ったりと色々あったがどうにか階段を上りきり、カイ達は大きな扉を前にした。
カイ:
「……よし、行くぞ!」
ミーア:
「うん!」
 カイが扉を開く。そこには確かにライナスが玉座に座っていた。イデアの姿はない。
ライナス:
「来たか、カイ。まさか生きているとはな。ん、ミーアもか。まあいい、さておまえた―――」
カイ:
「ほらな、言ったろ。絶対玉座の間って言うくらいだから玉座あるって。絶対座ってるって。ふんぞり返ってるって」
ミーア:
「ほらなじゃないよ。皆分かってたことでしょ。ライ兄はそういうとこあるんだから。この前だってこっそりお父さんの玉座座ってたし」
カイ:
「ああ、あれな。もう侍女から執事、最終的には見習いまで皆知ってるもんな」
 カイとミーアはライナスを無視して二人だけで会話していた。
 ライナスの顔に青筋が浮かぶ。
 それを見てカイがミーアに大きな声で耳打ちする。
カイ:
「見ろ、短気で有名なライナスが怒ったぞ」
ミーア:
「本当だ! 世界的に短気で有名なライ兄が怒っ―――」
ライナス:
「貴様ら、死にたいようだな」
 突如カイとミーアの後ろにライナスが転移した。
カイ:
「うおっ!?」
ミーア:
「きゃあっ!?」
 二人は急な後ろからの声に振り向きながら尻餅をついた。
 カイはライナスを真剣な目で見上げる。その目で見たものはもう無視できなかった。
カイ:
「……やっぱり、敵なんだな」
 その言葉にライナスは笑い声を上げた。
ライナス:
「はっはっは! カイ、おまえは本当にお人好しだな! おまえを刺した俺をまだ敵だと認識してなかったのか」
カイ:
「いいや、敵だとは思っていた。でもそれはイデアを賭けたライバルとしてだ。おれを殺して手に入れるくらいおまえもイデアを好きだったのかと思って。まだおまえを本当に害をなす敵とは認めたくなかった。例え刺されてもな。でも、その移動方法、どうやら認めざるを得ないようだ」
 カイが膝に手を当てて立ち上がる。
 ミーアは尻餅をつきながらライナスに叫んだ。
ミーア:
「ライ兄、どうしてこんなことするの!」
ライナス:
「……そうだな。メイドの土産に俺の話を聞かせてやろう」
 ライナスはゆっくりとカイとミーアの横を抜けて玉座へと戻っていく。
ライナス:
「まずはおまえ達の疑問の一つ、何故俺が転移を行えるのかだ」
 そしてライナスが玉座に偉そうに座り込む。
ライナス:
「俺は昔から様々な研究を秘密裏にやってきた。まあ、その研究も最初に始めたのはカイ、おまえのためだったのさ」
カイ:
「おれの?」
ライナス:
「おまえには魔力が無かったからな。魔力を無いものに魔力を与える方法を研究していたのさ。だが気付けば俺は力を求めていた。魔力無いものに魔力を与えられるのなら、魔力あるものから魔力を奪うことも可能なはずだ。俺はそう信じて様々な遺跡を回ったよ。そんな古代魔法があるんじゃないかと考えてな。そして奴らを見つけたのは遺跡巡りの最中だった。驚いたよ。転移もそうだが一番驚いたのがこの何でも入れることのできるという黒い穴だ」
 そう言ってライナスは手元に黒い穴を展開させた。
ライナス:
「これは素晴らしいものだ。知っているか? この黒い穴は相手の体内にも開くことが出来るのさ。奴らにはそんな発想はないようだが。つまりだ、相手の魔力回路に黒い穴を展開させれば相手の魔力が穴の中になだれ込んでくるのさ。本来他人の魔力というのは相容れないものだが、黒い穴の中で時間をかけて自分の魔力と馴染ませればそれは自分の力になる。それに気付いた俺はまず奴らの内一人を暗殺し、そいつの血を自分の中に取り込んだ。奴らの転移はどうやらある血筋の特異的な力らしくてな。だから血を取り込んだ。拒絶反応で死ぬかと思ったがまあこの通り生きている。そして俺は手に入れたのさ。転移の力とこの黒い穴をな。そして、俺は奴らを武力で手懐けた。これからの戦いに必要だと思ったからな」
カイ:
「これからの、戦いだと?」
 カイがライナスを睨む。対してライナスは冷たく笑っていた。
ライナス:
「そうだ。俺の目的、それはレイデンフォート王国を襲撃し、父、ゼノから政権を剥奪して俺がそれを握ることだ」
カイ&ミーア:
「なっ!?」
 カイとミーアに衝撃が走る。
ミーア:
「どうしてそんなことを!?」
ライナス:
「ふっ、簡単に言えば反抗期だ。俺はゼノの国は認めない。ゼノは『民があってこその王だ』と言うが違う。王があってこその民だ! ゼノは何も分かっちゃいない! あのままではあの国はいずれ終わる。その前に俺が終わらせ、新たな国を作るのさ!」
カイ:
「……」
 真剣な表情でカイはライナスを見つめる。そしてカイはミーアに手を差し出してミーアを立ち上がらせた。
カイ:
「いいや、分かってないのはおまえだ、ライナス」
ライナス:
「ふん、聞く耳を持たないな」
カイ:
「だろうな、どうせ平行線だ。けどな、おれがおまえに教えてやるよ! 父の偉大さって奴を!」
 カイは腰に差していた剣を抜く。
 ライナスは剣を抜きながら笑っていた。
ライナス:
「ならば教えてもらおうか。どうせおまえは殺さないといけないところだ。おまえが生きているということは、まだイデア・フィールスの中におまえのセインがある可能性がある。おまえは徹底的に殺さなければならない」
カイ:
「やれるもんならやってみな! ミーア、というわけで予定通り頼む!」
ミーア:
「うん、分かった!」
 ミーアが急いで玉座の間を出ようとする。だが、それをライナスが許すことはなかった。
ライナス:
「俺がそれを通すとでも!」
 ライナスは転移してミーアの頭上に剣を振り下ろした。だがカイが剣でその攻撃を受け止める。
カイ:
「ライナス、おまえの相手はおれだ! ていうか、実の妹に手ぇ上げるつもりかよ!」
 二人が剣で鍔迫り合いを行っている間に、ミーアは階段を降りていった。
ライナス:
「馬鹿を言え、既に弟には上げているだろうが」
カイ:
「それもそうだな!」
 カイとライナスはお互い剣を引いて距離をとった。
カイ:
「……随分簡単にミーアを通してくれたな」
ライナス:
「どうせミーアはイデア・フィールスを助けに行ったのだろう。別に構わない、あの部屋から奴を出すことは不可能だ。それに、奴を救出したところで既におまえは死んでいる。むしろおまえ一人になってくれて都合がいいくらいだ」
カイ:
「おまえはおれを舐めすぎだ。見せてやるよ、微量ながらも戻ったおれの魔力を!」
 カイは魔力を一気に解き放った。
カイ:
「始めようか、兄弟喧嘩を!」
 そしてカイはライナスへと駆け出した。
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