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1年生篇 夏の章
第十話「ジーク」
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暗い地下水道の中を照らすミカの炎斧。
その赤に地下水道の闇を混ぜたような、赤黒い死の証があちこちに飛び散っていた。
「血……だよね、これ」
恐怖という静寂を切り裂いたのは、タグマの震えた声だった。
言葉にされたことで、余計に目の前の光景が恐ろしく映る。
夥しい血痕。こんなもの、見る機会なんてない。ない方が良いに決まっている。
最悪な想像を捨てるように、ミカが言う。
「魔物の血、とかじゃねえの?」
「……残念だけど、その可能性は低いと思うわ」
リリィが目を血痕から逸らさずに返した。
「どうしてだよ」
「だって、思い返しなさい。地下に降りてきてからというもの、私達は一匹の魔物にも会っていないわ。それがどういうことか分かる?」
「……日々、騎士が巡回して駆除してるってわけか」
ナツキの言葉にリリィは頷いた。
「でも、さっき魔物を倒した可能性だって――」
「こんな血痕を残して? この血の飛び散り方、ただ駆除するだけじゃこうはならないわ」
「……」
リリィに言われて、ハルナは押し黙った。
壁、床、天井という四方に飛び散ったその血痕が示しているのは、圧倒的な残虐性だった。
「騎士が日々のストレスで魔物に当たっている可能性もなくはないでしょうけど……」
「……どうやら人によるものではないみたい。ミカ、少し先を照らしてもらえる?」
フルルに言われてミカが炎斧を前にかざす。血を踏むのは嫌なようで、ギリギリまで近づくものの先へ進もうとはしなかった。
炎に照らされることで血痕の先が見える。
そこには、獣の足跡が血で刻まれていた。
四本指の大きな足が、血だまりから遠ざかるように、闇へ向かって伸びていた。
リリィの額から冷や汗が流れる。
「……つまり、魔獣の類がこれを?」
「それなら爪痕やこの凄惨さも納得できるが……結局何の血なのかって話だ。魔物じゃないなら……人だって言うのかよ」
ナツキの言葉にゾッとしてしまう。目の前の血全てが、とある人の命の終わりを示しているという可能性が、とてつもなく恐ろしい。
「……人だと変じゃないですか? だって、衣服一つありませんよ」
「そう言われれば、妙だな」
ナツキが改めて凄惨な光景を見る。
もしこれが人であるとすれば、仮に骨まで食い尽くすような魔獣だったとしても、衣服までは食べないだろう。だが仮に襲われたのが魔物だったとして、体毛一つ落ちないものだろうか。
現場に残っているのは大量の血痕と爪痕だけ。
とても恐ろしいはずなのに、どこか片付けられているような……。
話が難しいとミカが頭を抱える。
「もう訳分かんねえ……要は魔獣が魔物を襲ったって話か?」
「いや待て……そもそもリリーシアのさっきの言葉が正しいと仮定したとき、どうしてそんな獰猛な魔獣がこの地下にいる? 巡回している騎士が見過ごすわけないだろ」
「というかさ……その騎士ってどこにいるんだろうね」
「……」
タグマの言葉に、ハルナ達は周囲を見渡した。炎の先は漆黒。目の良いフルルには見えているだろうが、生憎ハルナには何一つ見えやしない。
人の気配なんて、どこにもなかった。
「――戻った方がいいんじゃないかしら」
リリィが言う。
「何の血にせよ、これ以上は一介の学生が首を突っ込んでいいものではない気がするわ。異変がある、ということを騎士に伝えましょう」
闇ギルド《ディレイズ》の件で忙しいからと、最初は騎士を頼らない方針だったが、既に目の前の光景が異常事態であることを物語っていた。
もしかすると《ディレイズ》にも関連する何かかもしれない。
リリィの言う通りだ。一度戻った方がいい。
ひたっ――。
「――え」
音がした。
ひたっ、ひたっ、ひたっ――。
何度も音がした。ハルナ達の目の前、その暗闇の中。
音が、進んでいく。
音が、近づいてくる。
「嘘、そんな……」
フルルが息を呑んでいる。その目は恐怖に揺れ、闇を見つめていた。
ハルナ達も同様だった。
突然聞こえてきた音。遠くから聞こえてきたわけではなく、突如近くに沸いたかのような音。
命の、気配――。
「闇の、中から――」
それ以上フルルの言葉は続かない。
闇の中に黄色い眼光が大量に現れていた。
その内の一つが、ミカの掲げる灯りの中に姿を見せる。
それは犬狼種の魔物ガロスだった。四足は鋭利な爪をもち、大きな口は餌を待ちきれないかのように涎を垂れ流している。体躯は人程に大きく、噛みつきだろうと切り裂きだろうと、人にとっては容易く致命傷になり得る。
アイズ・エルカインドが英雄となった際に討伐した魔狼ボロスガロスは、このガロスの特殊個体だった。
ガロスが闇の中からゆっくりと、得物を狙う狩人がごとくハルナ達へと迫ってくる。
間違いなく、命を奪いに来ている。
その獰猛な視線に、ハルナは恐怖が背筋を駆け上るのを止められなかった。
自分から命を賭けることはあった。でも、他者から命を狙われるようなことは今まで一度もなかった。
今目の前の獣は明確な殺意をもってハルナ達へと近づいてきている。殺そうとしている。
ここから先は命のやり取り。命の奪い合い。
齢十六の彼女達にとって、それは未知の領域であった。
「――リリーシア」
「分かってるわよ」
血痕の上に、ナツキは足を踏み出した。その左手へリリィが氷の盾を形成する。
「俺がタンクをやる。タグマとミカは近接攻撃、リリーシアとフルルは遠距離から援護を頼むぞ――《絶風》」
ナツキの右手に、可視化されるほど凝縮された風の大剣が生み出された。
彼の瞳は既に覚悟を決めている。その背中を見ると、不思議とハルナは震えが止まった。
戦わなければ、命を取られる。
護らなければ、これから先の未来はなくなってしまう。
それが嫌ならやることは至ってシンプルだった。
木刀をギュッと握って、ハルナはナツキの横に並ぼうとして――。
「ハルナ、今回は休んでおきなさい」
「え」
リリィに引っ張られるようにして最後列に回された。
「どうして!?」
「目が覚めてから、まだ二週間も経ってないのよ。用心してここは私達に任せなさい」
氷の弓を形成して、リリィがそこに氷の矢を番える。ミカも炎斧を構えながら、背後のハルナへ笑いかけた。
「そうだな。どうせ《ライフ》の力使おうとするだろうし。ここは私達に任せておけって!」
ミカが指を鳴らすと、この通路一帯に等間隔で火の玉が現れた。一気に視界が広くなり、闇が遠ざかる。
そして、大量に向かってきているガロスの姿が改めて確認された。
大雑把に数えても三十匹はいるだろう。
「どうやっても逃がしてもらえなさそうだね」
タグマは雷の槍を中段で構えた。フルルも短銃の銃口をガロスへと向ける。その銃口が恐怖で震えているのを、ハルナは見逃さなかった。
「フルル……」
「……大丈夫。強くなるって決めたんだから」
大きく息を吐き、フルルは睨むようにガロスと対峙する。
大量のガロスが喉を鳴らす。今にも前列が飛び掛からんと前屈した瞬間、ナツキは動き出した。
「おらっ」
風でできた大剣を勢いよく横に薙ぐ。瞬間駆け抜ける突風は不可視の斬撃となってガロスの群れを襲った。
それでも勘が良いのだろう。前列のガロス達は横殴りの斬撃を飛び越えるように跳躍し、そのまま先頭のナツキへと飛び掛かった。
その時、破裂音が弾け、弦の音が響く。
空中のガロス達は弾丸と矢を身体に浴びて血を噴き出しながら落命していた。
リリィとフルルの援護射撃だ。
「フルル、前も思ったけれど流石の命中率ね」
「……ごめんリリィ、私あんまり話す余裕ない」
言葉通り、フルルの表情は覚悟こそ決まっているものの強張っていた。
ナツキの振るった斬撃は前列のガロスが飛び越えてしまったので、後ろのガロス達を吹き飛ばしていた。まるで鎌鼬に斬り刻まれたかのように、体中から血をまき散らしている。
それでもまだ数は多く残っている。
「《風翠(ふうすい)!》」
身体に風を纏ってナツキはガロス達へと特攻した。その速度は素早く、まるで一迅の疾風だ。
軽やかに跳躍してガロスの真上に舞ったナツキ。その手に握られていた風の大剣を掌に凝縮し、真下のガロスへと投げつける。
「《烈破!》」
凝縮された風が、ガロス達の元へ辿り着いた瞬間に拡散されていく。暴風がガロス達を斬り刻んでいた。
暴風のお陰で空いたガロス達の中心に降り立ち、ナツキは再び大剣でガロス達へ襲い掛かっていく。一切の危なげなく、時にリリィが生成した氷の盾で器用に捌きながら、風のようにガロスの中を駆け抜ける。
ナツキさんって、こんなに強かったんだ……。
「こりゃ俺達の出番なしかな!」
「おい早く仕事しやがれ!」
「ナツキばかり目立ってんじゃねえぞ!」
ナツキへ意識を向けているせいで、ガロスの背後がおざなりになっていた。そこへミカとタグマが飛び出す。
「《爆裂フルスイング!》」
ミカが腰を捻って大きく振りかぶり、勢いよく炎の斧をガロスへ振るった。気づいたガロスが振り向こうとするがすでに遅し。凄まじい速度で振るわれたそれは、ガロスに接触した瞬間前方を一瞬で爆発させた。
飛び散るガロスの鮮血と肉塊。
その中を、タグマが雷を纏って縦横無尽に駆け回る。
「《ボルトライン!》」
彼の通った後を遅れて雷の軌跡が辿っていく。その頃には近くのガロスは絶命して地に伏していた。
タグマの一撃は鋭く、全てが致命傷を一撃で貫いている。
「どう、ハルナちゃん! 俺もなかなかやるでしょ!」
戦いの最中だというのに、タグマが熱烈な視線をハルナに向けてくる。
だが、その背後からガロスが飛び掛かっていた。
「タグマさん、危な――」
ハルナの警告が言い終わる前に、フルルの魔弾が空を駆ける。
「《マジックバレット・3》」
魔弾は青い稲妻へと変わり、高速でタグマを狙っていたガロスの眉間を貫いた。
痙攣して動かなくなるガロスと、ようやく事態に気づいたタグマが振り返るのを見て、フルルはため息をついた。
「……あの人、どうしてあんなに馬鹿なんだろ」
「助けなくても良かったのかもしれない――わね!」
リリィの視線の先、ナツキの背後へじりじり寄っていた数体のガロスがいた。そこへリリィが指を鳴らす。
瞬間、ガロス達の足が凍り付き、その場から動けなくなっていた。
「ナツキ、貸しよ」
「それ言うならヘイト買ってやってるんだ、こっちの方が貸し大きいだろ!」
リリィへ言葉を返しながら、ナツキは危なげなくガロスを処理していく。
ハルナは、驚きと共に彼らの戦いを見ていた。
ナツキ達が強いのは分かっていた。ケリントとの決闘の為に訓練してくれたあの時から、彼らの練度の高さは理解していたつもりだった。
ただ、実戦でここまでだとは。
圧巻の一言だった。
ナツキが風を上手く使いながらガロス達の注意を惹きつけ、その間にミカとタグマが次々とガロスを葬っていく。更に視野の広いリリィとフルルが遠距離からガロスを撃ち抜き、前三人を援護していく。
一切の危なげがない。最早安心して見ていられるくらいだった。
何よりナツキとリリィの功績が大きい。ナツキは大量のガロスに囲まれながら一撃も喰らっておらず、リリィは氷の弓だけでなく適宜氷で壁を作ったりガロスの足元を凍らせたりしながら、この場をコントロールしていた。
ケリントと五分五分の戦いができると以前言っていたが、五聖家の実力は確かなものだった。
「これで、終わりだ!」
風の大剣が最後の一匹を両断する。
大量にいたはずのガロスはいつの間にか全滅していた。
ふぅ、とナツキが息を吐く。その身体には返り血一つ付いていない。纏っていた風が全てを吹き飛ばしていた。
「流石にちょっとしんどいな」
「ナツキ、ハルナちゃんの前だからって張り切り過ぎたんだよ」
「それお前な」
「正直暴れ足りないぞ、私は!」
「私はもう十分。何だか疲れた」
「お疲れ、フルル。良かったわよ」
各々が声を掛け合いながらハルナの元へ戻ってくる。リリィとフルルも遠距離勢だったため返り血一つないが、ミカとタグマはガロスの鮮血で制服を濡らしていた。
顔に血を付けたミカが、ハルナへ勝利のVサインを向けてくる。
「どうよハルナ! 私達結構強いだろ!」
「うん……すごい、凄いよ皆!」
ポケットからハンカチを取り出して、その血を拭ってあげながら、ハルナは全員を見た。
最初は恐怖で身体が震えていたけれど、自分に彼らが傍に居るんだと思ったら、気付けば恐怖は止まっていた。
なんて頼りになる人達で、尊敬できる人たちなんだろう。
「……しかし、俺達は俺達でちょっと荒らしちまったな」
ナツキの言葉でハルナ達は周囲を見渡した。確かに、ガロスの死体、肉片、鮮血があちこちに撒き散らされ、水路にも浮かんで水を汚していた。
「ま、水道施設で綺麗にされた水が市街に送られるはずだから、一旦それは置いておきましょう。問題は、ガロスがどこから湧いて出たのか、よ」
「そういや気のせいかもしれないけど、こいつ等急に湧いて出なかったか?」
ミカの言葉にはハルナも同じ見解だった。
足元も何もなかったはずなのに、突然目の前で気配がしたような、そんな感覚。
「……ミカの言う通り、このガロス達は急に湧いたんだよ」
フルルはガロスから目を逸らさずに言った。
「どういうこと?」
ハルナが尋ねる。フルルは暗闇だろうと見ることのできる瞳を持っている。だから、ハルナ達には見えなかったものが見えているのかもしれない。
フルルは、ようやく顔を上げて全員に向けて言った。
「言葉通りだよ。このガロス達は突然闇の中から現れたんだ」
「闇の中って、そりゃこの地下水道は暗いし……」
「そういう意味じゃなくて――真っ暗なこの通路の床の中から突然現れたんだよ」
床の中、と言われて全員が自分達の足元を見つめる。何の変哲もない床。大量の血で汚れてしまっているが、特別な床には思えない。
ミカが首を傾げる。
「何だよ、その手品」
「分からないよ。でも、そうとしか形容できない。まるでプールから上がるような感覚で、ガロス達はこの床から出てきたんだ」
「……」
状況が分からず、誰もが口を閉ざしてしまう。
その時だった。
「――こっちか!」
曲がり角からガシャ、ガシャと音が聞こえてくる。だんだんとその通路から灯りが差し込んできて。
「っ」
即座に臨戦態勢を取ったハルナ達だったが、そこから出てきたのは二名のディアルタルカ騎士だった。
「騎士……?」
その姿を見て、一気に身体から力が抜けていく。
騎士が来てくれた。彼等がいるだけで安心感がある。
二名の騎士は、驚いたように立ち止まってハルナ達を見た。そして、飛び散っているガロスの死体へと視線を移す。
「戦闘音が聞こえて向かってみたら、まさか《ローディナス》の学生がいるとは……」
「これはどういう状況だ?」
少し駆けるようにして騎士達がハルナ達の元へ。騎士達も炎の球を灯り代わりにしており、照らされた騎士の影は色濃くなっている。
まるで、真っ暗闇のようだった。
騎士の身体を漆黒の大剣が貫いた。
「――」
時が止まったかのように、全員がその大剣から眼を離せない。
大剣は、騎士の影から飛び出していた。
「がっ、ぎっ」
全身を駆け抜ける痛み、それを我慢してどうにか振り向こうとする騎士。だが、無慈悲にも大剣はそのまま上に振り上げられ、頭部を真っ二つに両断した。
血しぶきと共に騎士が倒れていく。
その影から闇を纏うようにして、黒い大剣を携えた銀髪の男が現れた。
目の前の光景が理解できなくて唖然とするハルナ達と、すぐさまその男に飛び掛かるもう片方の騎士。
だが、大剣は騎士の上半身と下半身を容易く分かつ。ガロスの生み出した血だまりを広げるようにして、二名の騎士は絶命していた。
一瞬の出来事だった。
何も理解ができなかった。
ただ、理解できるのは目の前の男が何もかもの元凶だということ。証拠もないのに確信に至っている。
男は大柄で、屈強な筋肉が服の上からでも主張していた。真っ黒なシャツに黒ズボン、その上に茶色のレザーコートを着ている。
そのレザーコートの袖口から見えた男の甲には――。
――真っ黒な蛇の刺青があった。
無精ひげに触れながら、男はハルナ達を見た。
「よう、ガキ共。派手にやってくれたじゃねえの」
男が不敵に笑う。
死が微笑んでいるようだった。
何をせずとも、ハルナ達の呼吸は荒くなっていた。心臓は狂ったように鳴り、最早視界が歪んでしまったような錯覚にも陥ってしまう。
何だ、何なんだこの男は。
突如影の中から姿を現した男が、いとも簡単に騎士を二人殺した。
命を奪った。
ガロスが向けていた殺気なんて可愛いものだ。今死そのものと対峙している。
これから死ぬことは、最早確定した未来のようだった。
オールバックの銀髪を掻き上げながら、男は言う。
「俺はジーク。《ディレイズ》の……まぁ副団長みてえなもんだ」
「――」
誰一人言葉は発せず。ただ、全員が臨戦態勢に入った。
抵抗しても無意味かもしれない。だが、抵抗しなければ待っているのは間違いなく死だった。
闇ギルド《ディレイズ》。人殺しに窃盗など、犯罪行為を元手に金を稼いでいる犯罪集団。
その副団長が今、目の前にいた。
「ということは、やはり《ディレイズ》はこの国で何かを企んでいるのね」
強がるようにリリィが口角を上げる。ジークは彼女を見て嬉しそうに笑った。
「いいねぇ。やはり世の中まずは対話だよな!」
「――じゃあ何で殺したんですかっ!」
気づけばハルナは叫んでいた。ハルナの声はことのほか大きく、水路に響き渡っていく。
ハルナは怒っていた。
目の前で命を失わせてしまった自分の弱さに。目の前の男の、命を奪っておきながら悪びれない姿に。
ジークは更に嬉しそうにする。
「そりゃそういう作戦だからよ。でもって、お前達の存在はイレギュラーって奴だ。だから、対話ぐらいしても許されるだろうよ」
「その流れでただ会話して解散――……ってわけにはいかないよな」
ナツキが風の大剣、その切っ先をジークに合わせる。
「まぁ、そうだな。地下に潜伏していることもバレたわけだし、何より俺の大事な大事なペットを殺っちまったんだ。……折角ディアルタルカを恐怖のどん底に陥れてやろうと思ってたのによ」
ジークの言葉でフルルは合点がいった。
「だからガロスだったんだ。《魔狼ボロスガロス》という恐怖をこの国が知っているからこそ……!」
「もしかして、上に解き放とうとしてたってこと?」
「いやはや、最近の学生は頭まで賢いと来た。俺が昔の頃なんて……あれ、どんなんだったかな?」
ジークは大剣を地面に突き刺し、顎に手を当て首を傾げていた。
一見隙だらけだが、一切攻めどころが見当たらない。中途半端に攻撃してしまえば、かえって自分の命がないのは明白だった。
「――ナツキさん、戦うなとは言わないですよね」
「ハルナ」
今度こそ、ハルナはナツキの横に並んだ。
「全員で戻るんです。地上に――だって、私達は皆で騎士になるんだから」
怖い。今にも身体の震えが再び始まってしまいそうだけれど。
それ以上の気持ちでがちがちに固めて。
ハルナは木刀をジークに向けて構えていた。
ナツキも、生半可な覚悟でこの場を切り抜けられないのは理解している。
だから、頷いた。
「そうだ。全員で帰る。だから絶対に死ぬなよ!」
「はいっ――《ライフ・ワン!》」
体内の魔力を一割力に変える。一気に溢れ出る薄紅色の妖気と、全身を突き刺すような激痛。
それでも、今は必要な力だった。
「……おい、待て」
その時、ジークは驚いた様子でハルナを見つめていた。
「嬢ちゃん、それ――」
「待ちません!」
言下、ハルナはジークへと飛び出した。木刀に妖気を纏わせ、木刀ながら鋭利な刃を形成する。
「《刹月華――》」
鞘こそないが、左手を鞘のようにしてハルナが居合を構える。
「《風翠!》」
すかさずナツキがハルナの身体を風で包み込んでいく。身体が途端軽くなり、速度も急激に上昇していった。
「《――春息吹!》」
「っ」
すれ違いざまに数度の斬撃をジークに叩き込む。ジークは大剣を拾わずに両腕を胸の前で交差して防御していた。
ジークの身体から鮮血が飛び散るも、ハルナの攻撃はジークの筋肉を多少斬ったに過ぎなかった。
なんて防御力なの……!?
「やっぱりそうだ! 嬢ちゃん、それ《ライフ》だろ!」
「っ」
喜々とした表情でジークはハルナへ振り返った。傷つけられたことなど忘れているかのようだ。
「いやぁ、久しぶりに見たぜ! 何だかテンションが上がってきたぞ!」
「勝手に上げてろ!」
背後からミカが炎斧を叩きつけるように振り下ろす。それをジークは片手で受け止めていた。
「なにっ」
「ミカ!」
「でも、誰に教わった? もうアレを教えられるような奴はいないと思ってたんだが……」
「放せ! 《爆裂――》」
「今、良いところなんだよ、うるさいなぁ!」
「っ」
ジークは炎斧ごとミカをぶん投げた。いつの間にか横から突き刺そうとしていたタグマも巻き込んで、間の水路を飛び越え、そのまま勢いよく壁に激突した。ミカとタグマが崩れ落ちるように、壁から倒れていく。
「っ、お前!」
ナツキが素早く風の大剣を突き出すも、ジークは首を傾けて避けてみせた。
だが、それでもジークの頬が斬れる。
「へえ、面白い小細工じゃないか」
何度も振るわれる風の大剣。ちゃんと躱しているはずなのにジークの皮膚が斬られていく。
だが、既にジークにネタは割れていた。奴が何もないはずの空中を掴む。
「くっ……!」
ナツキは大剣を引くことができなかった。実は風の大剣を包むように不可視の風の刃を付与していたのである。視覚で捉えている間合いと違うわけだが、それでもジークには見切られていた。
「《マジックバレット・1!》」
背後からフルルが魔弾を飛ばす。魔弾は炎を轟々と巻き起こし、そのままナツキの大剣に飲み込まれた。
「――っ」
意図に気づいてナツキが大剣を放して離れた直後、ナツキの大剣が爆発的に炎を放つ。風が炎の勢いを強めていた。
手で持っていたジークは炎の旋風に飲み込まれていく。
「《アイスロック!》」
その炎を冷ますように吹雪が取り囲んでいく。
氷は融かされ水になり、水は高温の炎と接触して膨張していく。
次の瞬間、ジークを中心に水蒸気爆発が発生した。
激しく揺れる大地。霞みがかった視界。だが、ジークの言葉が止まることはない。
「もし生き残りがいるってんなら是非会いてえ! なぁ、嬢ちゃん! 教えてくれよ! 《ライフ》は誰から教えてもらったんだ!?」
煙の中から、無傷のジークが姿を現す。気づけばハルナとナツキにつけられたはずの頬の傷もなくなっていた。
強い、強すぎる……!
ハルナは木刀を握る力を強くした。今のところ五人がかりで全くダメージを与えられていない。与えたはずの僅かな傷も回復してしまっている。
まだ向こうは得物を使っていないというのに、既に実力差が現れていた。
こうなったら《ライフ》の段階を――。
「ハルナ、絶対使うなよ!」
逆側の通路で、炎斧を突き立ててミカが立ち上がっていた。当たり所が悪かったのか、頭から出血しており、左眼を開けられなくなっていた。
表情にでも出ていたのだろうか。ミカが何を使うなと言っているのか、これでもかと伝わってくる。
「そうだ、《1》が譲歩できるギリギリだぞ。ハルナ」
「それだって体中が痛いんでしょ。やめておきなさい」
ナツキとリリィもミカの言葉に続く。
「そうだな、確かに『人間』が使うもんじゃねえな。それは」
そして、あろうことかジークも同じように言った。
「嬢ちゃんが『人間』じゃねえのなら話は別だが、話を聞くにそういうわけじゃないんだろ? やめとけやめとけ、苦しむだけだ」
「何を、言って――」
敵のはずなのにハルナの身体を心配してくる意味も分からないが。
それ以上におかしいことを言っていることにジークは気づかないのだろうか。
《ライフ》という呪いは、体内魔力を持っている人間にしか使用できない。魔物や魔獣は特殊個体や一部の例外を除いて体内魔力を有してはいないのだ。
だが、ジークの言いぶりだとまるで――。
『人間』のような容姿でありながら、『人間』ではない種族が存在しているかのようだ。
ハルナの脳裏に浮かぶ、小さな少女。
この力を与えてくれた、大切な師匠。
彼女は、確かに『人間』だったはずだ――。
……本当に?
その時だった。
ジークの胸に突如大きな穴が開いた。
「あ?」
視線を下げ、胸の大穴を見るジーク。穴からは大量の血が滝のように流れていた。
そこへ高速で駆け抜けていく紫の稲妻。
グレイスが、雷を纏った長剣をジークへ勢いよく振り下ろしていた。
「――はっ」
ジークは地面に突き刺していた大剣を抜いてその攻撃を受け止める。雷と闇が周囲に迸った。
「グレイス・サンドライト! こんなところまで出張ってくるとはな!」
血を吐き出しながら、ジークは変わらず不敵に笑う。
「――っ」
グレイスは一旦弾いて距離を取った。
強く睨みつけながら、あり得ない目の前の男に思わず思考が奔る。
なぜあれほどの致命傷を受けていながら、容易く攻撃を受け止められるのだろうか。胸を貫通されているのだ、力が入るわけなどないのに。
そして、あり得ない事象が起こる。
開いたはずの大穴がだんだんと塞がっていった。
「なっ」
ハルナ達も驚かずにはいられなかった。
グレイスが来てくれたことに歓喜するのもつかの間、ジークという男の規格外さに言葉も出ない。
常人であれば間違いなく死に至るはずの傷も、ジークはあっという間に直してみせた。
こんなの、不死身と変わらない。
どうやって倒せというのか。
「……まぁ今日はいいか。グレイス・サンドライトも来るんじゃ、少し動きにくいしな」
そう言うと、ジークは大剣を掻き消した。向けられていたはずの殺気が途端になくなる。
「逃がすと思うのか」
グレイスは変わらず殺気を向けるも、もうジークは乗らない。
「一対一なら逃げるのも一苦労だろうが、そっちには大事な大事な騎士の卵たちがいるだろ。……ま、やるなら付き合うぜ! 久々本気を出したいとも思っていたところだったんだよ」
「……」
グレイスが動かないのを見て、今日は営業終了だとジークは自身から闇を溢れ出させた。
「しっかり警戒しておけよ、ディアルタルカ騎士団。その調子だぜ。俺達《ディレイズ》は、常に狙っているからよ」
「目的は何なんだ」
「そこまで考えるのが楽しいんだろうが。――それじゃ嬢ちゃん、また会おうぜ」
闇に消える直前、ジークはハルナを見つめ手を振った。生憎答えるつもりのないハルナに、
「つれないな。今度は一緒に楽しもうぜ」
そう言って闇に飲まれてジークは消えたのだった。
警戒を緩めずに周囲を見渡すグレイス。その背後から、遅れてカーフが到着し、現場の悲惨な光景に「ひっ」と息を呑んでいた。
ガロスの死体や肉片に、騎士二名の凄惨な死がまだ当たり前に転がっていた。
「……どうして君達がここにいるのか、何があったのか聞かなければならないが……まずは地上に戻ろう。ここは危険だ」
「はい……」
グレイスに連れられる形でハルナ達は地下水道を後にした。地上に戻るまで、ハルナ達の誰一人として言葉を発することはなかった。
その赤に地下水道の闇を混ぜたような、赤黒い死の証があちこちに飛び散っていた。
「血……だよね、これ」
恐怖という静寂を切り裂いたのは、タグマの震えた声だった。
言葉にされたことで、余計に目の前の光景が恐ろしく映る。
夥しい血痕。こんなもの、見る機会なんてない。ない方が良いに決まっている。
最悪な想像を捨てるように、ミカが言う。
「魔物の血、とかじゃねえの?」
「……残念だけど、その可能性は低いと思うわ」
リリィが目を血痕から逸らさずに返した。
「どうしてだよ」
「だって、思い返しなさい。地下に降りてきてからというもの、私達は一匹の魔物にも会っていないわ。それがどういうことか分かる?」
「……日々、騎士が巡回して駆除してるってわけか」
ナツキの言葉にリリィは頷いた。
「でも、さっき魔物を倒した可能性だって――」
「こんな血痕を残して? この血の飛び散り方、ただ駆除するだけじゃこうはならないわ」
「……」
リリィに言われて、ハルナは押し黙った。
壁、床、天井という四方に飛び散ったその血痕が示しているのは、圧倒的な残虐性だった。
「騎士が日々のストレスで魔物に当たっている可能性もなくはないでしょうけど……」
「……どうやら人によるものではないみたい。ミカ、少し先を照らしてもらえる?」
フルルに言われてミカが炎斧を前にかざす。血を踏むのは嫌なようで、ギリギリまで近づくものの先へ進もうとはしなかった。
炎に照らされることで血痕の先が見える。
そこには、獣の足跡が血で刻まれていた。
四本指の大きな足が、血だまりから遠ざかるように、闇へ向かって伸びていた。
リリィの額から冷や汗が流れる。
「……つまり、魔獣の類がこれを?」
「それなら爪痕やこの凄惨さも納得できるが……結局何の血なのかって話だ。魔物じゃないなら……人だって言うのかよ」
ナツキの言葉にゾッとしてしまう。目の前の血全てが、とある人の命の終わりを示しているという可能性が、とてつもなく恐ろしい。
「……人だと変じゃないですか? だって、衣服一つありませんよ」
「そう言われれば、妙だな」
ナツキが改めて凄惨な光景を見る。
もしこれが人であるとすれば、仮に骨まで食い尽くすような魔獣だったとしても、衣服までは食べないだろう。だが仮に襲われたのが魔物だったとして、体毛一つ落ちないものだろうか。
現場に残っているのは大量の血痕と爪痕だけ。
とても恐ろしいはずなのに、どこか片付けられているような……。
話が難しいとミカが頭を抱える。
「もう訳分かんねえ……要は魔獣が魔物を襲ったって話か?」
「いや待て……そもそもリリーシアのさっきの言葉が正しいと仮定したとき、どうしてそんな獰猛な魔獣がこの地下にいる? 巡回している騎士が見過ごすわけないだろ」
「というかさ……その騎士ってどこにいるんだろうね」
「……」
タグマの言葉に、ハルナ達は周囲を見渡した。炎の先は漆黒。目の良いフルルには見えているだろうが、生憎ハルナには何一つ見えやしない。
人の気配なんて、どこにもなかった。
「――戻った方がいいんじゃないかしら」
リリィが言う。
「何の血にせよ、これ以上は一介の学生が首を突っ込んでいいものではない気がするわ。異変がある、ということを騎士に伝えましょう」
闇ギルド《ディレイズ》の件で忙しいからと、最初は騎士を頼らない方針だったが、既に目の前の光景が異常事態であることを物語っていた。
もしかすると《ディレイズ》にも関連する何かかもしれない。
リリィの言う通りだ。一度戻った方がいい。
ひたっ――。
「――え」
音がした。
ひたっ、ひたっ、ひたっ――。
何度も音がした。ハルナ達の目の前、その暗闇の中。
音が、進んでいく。
音が、近づいてくる。
「嘘、そんな……」
フルルが息を呑んでいる。その目は恐怖に揺れ、闇を見つめていた。
ハルナ達も同様だった。
突然聞こえてきた音。遠くから聞こえてきたわけではなく、突如近くに沸いたかのような音。
命の、気配――。
「闇の、中から――」
それ以上フルルの言葉は続かない。
闇の中に黄色い眼光が大量に現れていた。
その内の一つが、ミカの掲げる灯りの中に姿を見せる。
それは犬狼種の魔物ガロスだった。四足は鋭利な爪をもち、大きな口は餌を待ちきれないかのように涎を垂れ流している。体躯は人程に大きく、噛みつきだろうと切り裂きだろうと、人にとっては容易く致命傷になり得る。
アイズ・エルカインドが英雄となった際に討伐した魔狼ボロスガロスは、このガロスの特殊個体だった。
ガロスが闇の中からゆっくりと、得物を狙う狩人がごとくハルナ達へと迫ってくる。
間違いなく、命を奪いに来ている。
その獰猛な視線に、ハルナは恐怖が背筋を駆け上るのを止められなかった。
自分から命を賭けることはあった。でも、他者から命を狙われるようなことは今まで一度もなかった。
今目の前の獣は明確な殺意をもってハルナ達へと近づいてきている。殺そうとしている。
ここから先は命のやり取り。命の奪い合い。
齢十六の彼女達にとって、それは未知の領域であった。
「――リリーシア」
「分かってるわよ」
血痕の上に、ナツキは足を踏み出した。その左手へリリィが氷の盾を形成する。
「俺がタンクをやる。タグマとミカは近接攻撃、リリーシアとフルルは遠距離から援護を頼むぞ――《絶風》」
ナツキの右手に、可視化されるほど凝縮された風の大剣が生み出された。
彼の瞳は既に覚悟を決めている。その背中を見ると、不思議とハルナは震えが止まった。
戦わなければ、命を取られる。
護らなければ、これから先の未来はなくなってしまう。
それが嫌ならやることは至ってシンプルだった。
木刀をギュッと握って、ハルナはナツキの横に並ぼうとして――。
「ハルナ、今回は休んでおきなさい」
「え」
リリィに引っ張られるようにして最後列に回された。
「どうして!?」
「目が覚めてから、まだ二週間も経ってないのよ。用心してここは私達に任せなさい」
氷の弓を形成して、リリィがそこに氷の矢を番える。ミカも炎斧を構えながら、背後のハルナへ笑いかけた。
「そうだな。どうせ《ライフ》の力使おうとするだろうし。ここは私達に任せておけって!」
ミカが指を鳴らすと、この通路一帯に等間隔で火の玉が現れた。一気に視界が広くなり、闇が遠ざかる。
そして、大量に向かってきているガロスの姿が改めて確認された。
大雑把に数えても三十匹はいるだろう。
「どうやっても逃がしてもらえなさそうだね」
タグマは雷の槍を中段で構えた。フルルも短銃の銃口をガロスへと向ける。その銃口が恐怖で震えているのを、ハルナは見逃さなかった。
「フルル……」
「……大丈夫。強くなるって決めたんだから」
大きく息を吐き、フルルは睨むようにガロスと対峙する。
大量のガロスが喉を鳴らす。今にも前列が飛び掛からんと前屈した瞬間、ナツキは動き出した。
「おらっ」
風でできた大剣を勢いよく横に薙ぐ。瞬間駆け抜ける突風は不可視の斬撃となってガロスの群れを襲った。
それでも勘が良いのだろう。前列のガロス達は横殴りの斬撃を飛び越えるように跳躍し、そのまま先頭のナツキへと飛び掛かった。
その時、破裂音が弾け、弦の音が響く。
空中のガロス達は弾丸と矢を身体に浴びて血を噴き出しながら落命していた。
リリィとフルルの援護射撃だ。
「フルル、前も思ったけれど流石の命中率ね」
「……ごめんリリィ、私あんまり話す余裕ない」
言葉通り、フルルの表情は覚悟こそ決まっているものの強張っていた。
ナツキの振るった斬撃は前列のガロスが飛び越えてしまったので、後ろのガロス達を吹き飛ばしていた。まるで鎌鼬に斬り刻まれたかのように、体中から血をまき散らしている。
それでもまだ数は多く残っている。
「《風翠(ふうすい)!》」
身体に風を纏ってナツキはガロス達へと特攻した。その速度は素早く、まるで一迅の疾風だ。
軽やかに跳躍してガロスの真上に舞ったナツキ。その手に握られていた風の大剣を掌に凝縮し、真下のガロスへと投げつける。
「《烈破!》」
凝縮された風が、ガロス達の元へ辿り着いた瞬間に拡散されていく。暴風がガロス達を斬り刻んでいた。
暴風のお陰で空いたガロス達の中心に降り立ち、ナツキは再び大剣でガロス達へ襲い掛かっていく。一切の危なげなく、時にリリィが生成した氷の盾で器用に捌きながら、風のようにガロスの中を駆け抜ける。
ナツキさんって、こんなに強かったんだ……。
「こりゃ俺達の出番なしかな!」
「おい早く仕事しやがれ!」
「ナツキばかり目立ってんじゃねえぞ!」
ナツキへ意識を向けているせいで、ガロスの背後がおざなりになっていた。そこへミカとタグマが飛び出す。
「《爆裂フルスイング!》」
ミカが腰を捻って大きく振りかぶり、勢いよく炎の斧をガロスへ振るった。気づいたガロスが振り向こうとするがすでに遅し。凄まじい速度で振るわれたそれは、ガロスに接触した瞬間前方を一瞬で爆発させた。
飛び散るガロスの鮮血と肉塊。
その中を、タグマが雷を纏って縦横無尽に駆け回る。
「《ボルトライン!》」
彼の通った後を遅れて雷の軌跡が辿っていく。その頃には近くのガロスは絶命して地に伏していた。
タグマの一撃は鋭く、全てが致命傷を一撃で貫いている。
「どう、ハルナちゃん! 俺もなかなかやるでしょ!」
戦いの最中だというのに、タグマが熱烈な視線をハルナに向けてくる。
だが、その背後からガロスが飛び掛かっていた。
「タグマさん、危な――」
ハルナの警告が言い終わる前に、フルルの魔弾が空を駆ける。
「《マジックバレット・3》」
魔弾は青い稲妻へと変わり、高速でタグマを狙っていたガロスの眉間を貫いた。
痙攣して動かなくなるガロスと、ようやく事態に気づいたタグマが振り返るのを見て、フルルはため息をついた。
「……あの人、どうしてあんなに馬鹿なんだろ」
「助けなくても良かったのかもしれない――わね!」
リリィの視線の先、ナツキの背後へじりじり寄っていた数体のガロスがいた。そこへリリィが指を鳴らす。
瞬間、ガロス達の足が凍り付き、その場から動けなくなっていた。
「ナツキ、貸しよ」
「それ言うならヘイト買ってやってるんだ、こっちの方が貸し大きいだろ!」
リリィへ言葉を返しながら、ナツキは危なげなくガロスを処理していく。
ハルナは、驚きと共に彼らの戦いを見ていた。
ナツキ達が強いのは分かっていた。ケリントとの決闘の為に訓練してくれたあの時から、彼らの練度の高さは理解していたつもりだった。
ただ、実戦でここまでだとは。
圧巻の一言だった。
ナツキが風を上手く使いながらガロス達の注意を惹きつけ、その間にミカとタグマが次々とガロスを葬っていく。更に視野の広いリリィとフルルが遠距離からガロスを撃ち抜き、前三人を援護していく。
一切の危なげがない。最早安心して見ていられるくらいだった。
何よりナツキとリリィの功績が大きい。ナツキは大量のガロスに囲まれながら一撃も喰らっておらず、リリィは氷の弓だけでなく適宜氷で壁を作ったりガロスの足元を凍らせたりしながら、この場をコントロールしていた。
ケリントと五分五分の戦いができると以前言っていたが、五聖家の実力は確かなものだった。
「これで、終わりだ!」
風の大剣が最後の一匹を両断する。
大量にいたはずのガロスはいつの間にか全滅していた。
ふぅ、とナツキが息を吐く。その身体には返り血一つ付いていない。纏っていた風が全てを吹き飛ばしていた。
「流石にちょっとしんどいな」
「ナツキ、ハルナちゃんの前だからって張り切り過ぎたんだよ」
「それお前な」
「正直暴れ足りないぞ、私は!」
「私はもう十分。何だか疲れた」
「お疲れ、フルル。良かったわよ」
各々が声を掛け合いながらハルナの元へ戻ってくる。リリィとフルルも遠距離勢だったため返り血一つないが、ミカとタグマはガロスの鮮血で制服を濡らしていた。
顔に血を付けたミカが、ハルナへ勝利のVサインを向けてくる。
「どうよハルナ! 私達結構強いだろ!」
「うん……すごい、凄いよ皆!」
ポケットからハンカチを取り出して、その血を拭ってあげながら、ハルナは全員を見た。
最初は恐怖で身体が震えていたけれど、自分に彼らが傍に居るんだと思ったら、気付けば恐怖は止まっていた。
なんて頼りになる人達で、尊敬できる人たちなんだろう。
「……しかし、俺達は俺達でちょっと荒らしちまったな」
ナツキの言葉でハルナ達は周囲を見渡した。確かに、ガロスの死体、肉片、鮮血があちこちに撒き散らされ、水路にも浮かんで水を汚していた。
「ま、水道施設で綺麗にされた水が市街に送られるはずだから、一旦それは置いておきましょう。問題は、ガロスがどこから湧いて出たのか、よ」
「そういや気のせいかもしれないけど、こいつ等急に湧いて出なかったか?」
ミカの言葉にはハルナも同じ見解だった。
足元も何もなかったはずなのに、突然目の前で気配がしたような、そんな感覚。
「……ミカの言う通り、このガロス達は急に湧いたんだよ」
フルルはガロスから目を逸らさずに言った。
「どういうこと?」
ハルナが尋ねる。フルルは暗闇だろうと見ることのできる瞳を持っている。だから、ハルナ達には見えなかったものが見えているのかもしれない。
フルルは、ようやく顔を上げて全員に向けて言った。
「言葉通りだよ。このガロス達は突然闇の中から現れたんだ」
「闇の中って、そりゃこの地下水道は暗いし……」
「そういう意味じゃなくて――真っ暗なこの通路の床の中から突然現れたんだよ」
床の中、と言われて全員が自分達の足元を見つめる。何の変哲もない床。大量の血で汚れてしまっているが、特別な床には思えない。
ミカが首を傾げる。
「何だよ、その手品」
「分からないよ。でも、そうとしか形容できない。まるでプールから上がるような感覚で、ガロス達はこの床から出てきたんだ」
「……」
状況が分からず、誰もが口を閉ざしてしまう。
その時だった。
「――こっちか!」
曲がり角からガシャ、ガシャと音が聞こえてくる。だんだんとその通路から灯りが差し込んできて。
「っ」
即座に臨戦態勢を取ったハルナ達だったが、そこから出てきたのは二名のディアルタルカ騎士だった。
「騎士……?」
その姿を見て、一気に身体から力が抜けていく。
騎士が来てくれた。彼等がいるだけで安心感がある。
二名の騎士は、驚いたように立ち止まってハルナ達を見た。そして、飛び散っているガロスの死体へと視線を移す。
「戦闘音が聞こえて向かってみたら、まさか《ローディナス》の学生がいるとは……」
「これはどういう状況だ?」
少し駆けるようにして騎士達がハルナ達の元へ。騎士達も炎の球を灯り代わりにしており、照らされた騎士の影は色濃くなっている。
まるで、真っ暗闇のようだった。
騎士の身体を漆黒の大剣が貫いた。
「――」
時が止まったかのように、全員がその大剣から眼を離せない。
大剣は、騎士の影から飛び出していた。
「がっ、ぎっ」
全身を駆け抜ける痛み、それを我慢してどうにか振り向こうとする騎士。だが、無慈悲にも大剣はそのまま上に振り上げられ、頭部を真っ二つに両断した。
血しぶきと共に騎士が倒れていく。
その影から闇を纏うようにして、黒い大剣を携えた銀髪の男が現れた。
目の前の光景が理解できなくて唖然とするハルナ達と、すぐさまその男に飛び掛かるもう片方の騎士。
だが、大剣は騎士の上半身と下半身を容易く分かつ。ガロスの生み出した血だまりを広げるようにして、二名の騎士は絶命していた。
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ただ、理解できるのは目の前の男が何もかもの元凶だということ。証拠もないのに確信に至っている。
男は大柄で、屈強な筋肉が服の上からでも主張していた。真っ黒なシャツに黒ズボン、その上に茶色のレザーコートを着ている。
そのレザーコートの袖口から見えた男の甲には――。
――真っ黒な蛇の刺青があった。
無精ひげに触れながら、男はハルナ達を見た。
「よう、ガキ共。派手にやってくれたじゃねえの」
男が不敵に笑う。
死が微笑んでいるようだった。
何をせずとも、ハルナ達の呼吸は荒くなっていた。心臓は狂ったように鳴り、最早視界が歪んでしまったような錯覚にも陥ってしまう。
何だ、何なんだこの男は。
突如影の中から姿を現した男が、いとも簡単に騎士を二人殺した。
命を奪った。
ガロスが向けていた殺気なんて可愛いものだ。今死そのものと対峙している。
これから死ぬことは、最早確定した未来のようだった。
オールバックの銀髪を掻き上げながら、男は言う。
「俺はジーク。《ディレイズ》の……まぁ副団長みてえなもんだ」
「――」
誰一人言葉は発せず。ただ、全員が臨戦態勢に入った。
抵抗しても無意味かもしれない。だが、抵抗しなければ待っているのは間違いなく死だった。
闇ギルド《ディレイズ》。人殺しに窃盗など、犯罪行為を元手に金を稼いでいる犯罪集団。
その副団長が今、目の前にいた。
「ということは、やはり《ディレイズ》はこの国で何かを企んでいるのね」
強がるようにリリィが口角を上げる。ジークは彼女を見て嬉しそうに笑った。
「いいねぇ。やはり世の中まずは対話だよな!」
「――じゃあ何で殺したんですかっ!」
気づけばハルナは叫んでいた。ハルナの声はことのほか大きく、水路に響き渡っていく。
ハルナは怒っていた。
目の前で命を失わせてしまった自分の弱さに。目の前の男の、命を奪っておきながら悪びれない姿に。
ジークは更に嬉しそうにする。
「そりゃそういう作戦だからよ。でもって、お前達の存在はイレギュラーって奴だ。だから、対話ぐらいしても許されるだろうよ」
「その流れでただ会話して解散――……ってわけにはいかないよな」
ナツキが風の大剣、その切っ先をジークに合わせる。
「まぁ、そうだな。地下に潜伏していることもバレたわけだし、何より俺の大事な大事なペットを殺っちまったんだ。……折角ディアルタルカを恐怖のどん底に陥れてやろうと思ってたのによ」
ジークの言葉でフルルは合点がいった。
「だからガロスだったんだ。《魔狼ボロスガロス》という恐怖をこの国が知っているからこそ……!」
「もしかして、上に解き放とうとしてたってこと?」
「いやはや、最近の学生は頭まで賢いと来た。俺が昔の頃なんて……あれ、どんなんだったかな?」
ジークは大剣を地面に突き刺し、顎に手を当て首を傾げていた。
一見隙だらけだが、一切攻めどころが見当たらない。中途半端に攻撃してしまえば、かえって自分の命がないのは明白だった。
「――ナツキさん、戦うなとは言わないですよね」
「ハルナ」
今度こそ、ハルナはナツキの横に並んだ。
「全員で戻るんです。地上に――だって、私達は皆で騎士になるんだから」
怖い。今にも身体の震えが再び始まってしまいそうだけれど。
それ以上の気持ちでがちがちに固めて。
ハルナは木刀をジークに向けて構えていた。
ナツキも、生半可な覚悟でこの場を切り抜けられないのは理解している。
だから、頷いた。
「そうだ。全員で帰る。だから絶対に死ぬなよ!」
「はいっ――《ライフ・ワン!》」
体内の魔力を一割力に変える。一気に溢れ出る薄紅色の妖気と、全身を突き刺すような激痛。
それでも、今は必要な力だった。
「……おい、待て」
その時、ジークは驚いた様子でハルナを見つめていた。
「嬢ちゃん、それ――」
「待ちません!」
言下、ハルナはジークへと飛び出した。木刀に妖気を纏わせ、木刀ながら鋭利な刃を形成する。
「《刹月華――》」
鞘こそないが、左手を鞘のようにしてハルナが居合を構える。
「《風翠!》」
すかさずナツキがハルナの身体を風で包み込んでいく。身体が途端軽くなり、速度も急激に上昇していった。
「《――春息吹!》」
「っ」
すれ違いざまに数度の斬撃をジークに叩き込む。ジークは大剣を拾わずに両腕を胸の前で交差して防御していた。
ジークの身体から鮮血が飛び散るも、ハルナの攻撃はジークの筋肉を多少斬ったに過ぎなかった。
なんて防御力なの……!?
「やっぱりそうだ! 嬢ちゃん、それ《ライフ》だろ!」
「っ」
喜々とした表情でジークはハルナへ振り返った。傷つけられたことなど忘れているかのようだ。
「いやぁ、久しぶりに見たぜ! 何だかテンションが上がってきたぞ!」
「勝手に上げてろ!」
背後からミカが炎斧を叩きつけるように振り下ろす。それをジークは片手で受け止めていた。
「なにっ」
「ミカ!」
「でも、誰に教わった? もうアレを教えられるような奴はいないと思ってたんだが……」
「放せ! 《爆裂――》」
「今、良いところなんだよ、うるさいなぁ!」
「っ」
ジークは炎斧ごとミカをぶん投げた。いつの間にか横から突き刺そうとしていたタグマも巻き込んで、間の水路を飛び越え、そのまま勢いよく壁に激突した。ミカとタグマが崩れ落ちるように、壁から倒れていく。
「っ、お前!」
ナツキが素早く風の大剣を突き出すも、ジークは首を傾けて避けてみせた。
だが、それでもジークの頬が斬れる。
「へえ、面白い小細工じゃないか」
何度も振るわれる風の大剣。ちゃんと躱しているはずなのにジークの皮膚が斬られていく。
だが、既にジークにネタは割れていた。奴が何もないはずの空中を掴む。
「くっ……!」
ナツキは大剣を引くことができなかった。実は風の大剣を包むように不可視の風の刃を付与していたのである。視覚で捉えている間合いと違うわけだが、それでもジークには見切られていた。
「《マジックバレット・1!》」
背後からフルルが魔弾を飛ばす。魔弾は炎を轟々と巻き起こし、そのままナツキの大剣に飲み込まれた。
「――っ」
意図に気づいてナツキが大剣を放して離れた直後、ナツキの大剣が爆発的に炎を放つ。風が炎の勢いを強めていた。
手で持っていたジークは炎の旋風に飲み込まれていく。
「《アイスロック!》」
その炎を冷ますように吹雪が取り囲んでいく。
氷は融かされ水になり、水は高温の炎と接触して膨張していく。
次の瞬間、ジークを中心に水蒸気爆発が発生した。
激しく揺れる大地。霞みがかった視界。だが、ジークの言葉が止まることはない。
「もし生き残りがいるってんなら是非会いてえ! なぁ、嬢ちゃん! 教えてくれよ! 《ライフ》は誰から教えてもらったんだ!?」
煙の中から、無傷のジークが姿を現す。気づけばハルナとナツキにつけられたはずの頬の傷もなくなっていた。
強い、強すぎる……!
ハルナは木刀を握る力を強くした。今のところ五人がかりで全くダメージを与えられていない。与えたはずの僅かな傷も回復してしまっている。
まだ向こうは得物を使っていないというのに、既に実力差が現れていた。
こうなったら《ライフ》の段階を――。
「ハルナ、絶対使うなよ!」
逆側の通路で、炎斧を突き立ててミカが立ち上がっていた。当たり所が悪かったのか、頭から出血しており、左眼を開けられなくなっていた。
表情にでも出ていたのだろうか。ミカが何を使うなと言っているのか、これでもかと伝わってくる。
「そうだ、《1》が譲歩できるギリギリだぞ。ハルナ」
「それだって体中が痛いんでしょ。やめておきなさい」
ナツキとリリィもミカの言葉に続く。
「そうだな、確かに『人間』が使うもんじゃねえな。それは」
そして、あろうことかジークも同じように言った。
「嬢ちゃんが『人間』じゃねえのなら話は別だが、話を聞くにそういうわけじゃないんだろ? やめとけやめとけ、苦しむだけだ」
「何を、言って――」
敵のはずなのにハルナの身体を心配してくる意味も分からないが。
それ以上におかしいことを言っていることにジークは気づかないのだろうか。
《ライフ》という呪いは、体内魔力を持っている人間にしか使用できない。魔物や魔獣は特殊個体や一部の例外を除いて体内魔力を有してはいないのだ。
だが、ジークの言いぶりだとまるで――。
『人間』のような容姿でありながら、『人間』ではない種族が存在しているかのようだ。
ハルナの脳裏に浮かぶ、小さな少女。
この力を与えてくれた、大切な師匠。
彼女は、確かに『人間』だったはずだ――。
……本当に?
その時だった。
ジークの胸に突如大きな穴が開いた。
「あ?」
視線を下げ、胸の大穴を見るジーク。穴からは大量の血が滝のように流れていた。
そこへ高速で駆け抜けていく紫の稲妻。
グレイスが、雷を纏った長剣をジークへ勢いよく振り下ろしていた。
「――はっ」
ジークは地面に突き刺していた大剣を抜いてその攻撃を受け止める。雷と闇が周囲に迸った。
「グレイス・サンドライト! こんなところまで出張ってくるとはな!」
血を吐き出しながら、ジークは変わらず不敵に笑う。
「――っ」
グレイスは一旦弾いて距離を取った。
強く睨みつけながら、あり得ない目の前の男に思わず思考が奔る。
なぜあれほどの致命傷を受けていながら、容易く攻撃を受け止められるのだろうか。胸を貫通されているのだ、力が入るわけなどないのに。
そして、あり得ない事象が起こる。
開いたはずの大穴がだんだんと塞がっていった。
「なっ」
ハルナ達も驚かずにはいられなかった。
グレイスが来てくれたことに歓喜するのもつかの間、ジークという男の規格外さに言葉も出ない。
常人であれば間違いなく死に至るはずの傷も、ジークはあっという間に直してみせた。
こんなの、不死身と変わらない。
どうやって倒せというのか。
「……まぁ今日はいいか。グレイス・サンドライトも来るんじゃ、少し動きにくいしな」
そう言うと、ジークは大剣を掻き消した。向けられていたはずの殺気が途端になくなる。
「逃がすと思うのか」
グレイスは変わらず殺気を向けるも、もうジークは乗らない。
「一対一なら逃げるのも一苦労だろうが、そっちには大事な大事な騎士の卵たちがいるだろ。……ま、やるなら付き合うぜ! 久々本気を出したいとも思っていたところだったんだよ」
「……」
グレイスが動かないのを見て、今日は営業終了だとジークは自身から闇を溢れ出させた。
「しっかり警戒しておけよ、ディアルタルカ騎士団。その調子だぜ。俺達《ディレイズ》は、常に狙っているからよ」
「目的は何なんだ」
「そこまで考えるのが楽しいんだろうが。――それじゃ嬢ちゃん、また会おうぜ」
闇に消える直前、ジークはハルナを見つめ手を振った。生憎答えるつもりのないハルナに、
「つれないな。今度は一緒に楽しもうぜ」
そう言って闇に飲まれてジークは消えたのだった。
警戒を緩めずに周囲を見渡すグレイス。その背後から、遅れてカーフが到着し、現場の悲惨な光景に「ひっ」と息を呑んでいた。
ガロスの死体や肉片に、騎士二名の凄惨な死がまだ当たり前に転がっていた。
「……どうして君達がここにいるのか、何があったのか聞かなければならないが……まずは地上に戻ろう。ここは危険だ」
「はい……」
グレイスに連れられる形でハルナ達は地下水道を後にした。地上に戻るまで、ハルナ達の誰一人として言葉を発することはなかった。
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