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第三章 私の死の真相

父からの手紙

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 ロンと会うのは六日ぶり。
 少し痩せた気がするのは、きっと勘違いかな。

「あね、ジャネット。久しぶりです。元気そうでなによりです」

 彼は眩しそうに私を見て、口元を緩めた。
 なんか、ちょっと悲しそうなんだけど、これもきっと気のせいだよね。

「はい。お陰様で元気です」

 私が答えると彼は頷く。

 部屋にいるのは私、ロン、オーランドの三人だけだ。
 ロンに言われて、オーランドが人払いをしたのだ。
 しかもあまり人に聞かせたくない話らしく、メイドとして距離を取りたかったけど、向かい合うソファの間に椅子を置いて、そこに座らされている。ロンにもオーランドにも触れそうな距離で、キャリーさんがみたら絶叫しそうだ。

「で、ロン。何の用だ。しかも人払いまで。ジャネットに関することなんだろう?」
「ええ。ジャネット。これが君宛に届きました」

 ロンから茶色の封筒を渡される。
 宛名は私、差出人は……クソ親父だ。
 どうせお金の無心とかろくでもないことに違いない。

「待って」

 その場で破り捨てようとした私をロンが慌てて止める。

「ジャネット。それは読んだほうがいい。何か嫌な予感がする」
「きっとお金の無心ですよ。読んでも嫌な気分になるだけ」
「それなら、僕が読んでもいいだろうか?」
「え?どうしてそんな」

 今日のロンはちょっとおかしい。
 っていうか、一度も私をマリーとして扱わない、それはちょっと寂し、じゃなくて、なにか物凄い深刻そう。あのくそ親父の手紙なんて読まずに捨てたほうがいいのに。

「ちょっと気になることがあるんだ。やっぱり僕が読むのはおかしいから、君に先に読んでほしい」

 水色の瞳がじっと私に向けられる。

「ジャネット。読んだ後、嫌な内容であれば捨てればいい。ロンがこんな風にいうには何か訳があるはずだ」

 それまで黙っていたオーランドがそう口を出してきて、くそ親父への嫌な気持ちは消えないけど、読むことにした。

 ☆

 ーー我娘、ジャネットへ。

 そう始まり、私は悪寒がしたけど、読み続ける。
 読んでいるうちに、嫌な汗が出てきて、気が遠くなる。

 なんてこと。
 そんなの。

 手紙の内容はクソ親父、お父さんの懺悔だった。
 十七年前、父はマリーの事故現場にいた。そして彼は事故が起きることを知っていた。止められなかった彼だが、実際に犠牲が出て、実行犯に差しせまった。けれども金銭と脅しに負けて、彼は口をつぐんだ。
 けれども罪の意識は消えなくて、酒に溺れた。そして私が産まれ、彼は思った。

 ーーある小さな悪戯で、少女の命は消えてしまった。その悪戯をそそのかしたのは悪意を持った男。正義を語る汚い騎士。俺は止めることができた。だが恐れ、とめなかった。あの少女が死に、わんわんと泣き叫ぶ少年を見て、俺はあいつらに詰め寄った。けれども、俺は金と脅しに負けて黙った。そんな俺が娘を持った。可愛がることなんてできるわけがない。あの少女の命は戻ってこない。何度か真実を言おうとしたが、あの男の立場を考えると、殺されるだけだと俺は隠れるようにして生きた。
 お前の母さんにもこの秘密は言えなかった。死んだ少女は十五歳だったそうだ。孤児院が全焼して十五歳のお前が側にいるようになって怖くなった。だからどこかへ売り飛ばそうと思った。
 最低だ。俺は本当に。
 だけど、お前がまさかあの少女ーーマリー様の生まれ変わりだったなんて。
 小さい時から苦労をかけてすまなかった。あんな風に殺された上に、生まれ変わっても俺のために幸せな生活が送れなかった。

 せめて、お前の前世マリー様の事故の真実を明かしたいと思ってる。
 今度お前に会うときは胸を張っていたい。
 今まですまなかった。

 父より

 手紙はそう締めくくられていて、過去の色々な記憶が蘇ってくる。
 父に関する記憶はどれもこれも良くない。
 優しくされた記憶などどこにもない。
 身勝手な言い分、マリーを見殺しにして、そんな怒りで心が支配されるかと思ったけれども、そうではなかった。

「ジャネット?!」

 ロンの驚いた声で、私は気がつく。
 なぜか涙が溢れていて、頬を伝って手紙を濡らしていた。
 ハンカチを慌てて取り出し、彼は私の涙を拭いながら、聞いてくる。

「ロン、様」

 ただ名前を呼ぶことしかできない。
 私自身が混乱していて、説明できないのだ。

「ジャネット」

 そんな私に彼はただ優しく微笑む。
 今の私は使用人だ。こんな風にしてもらうわけにはいかない。
 けれども私は動けなかった。
 泣くしかできない。

 マリーの死は単なる事故じゃなかった。
 ロンを逆恨みした子供の悪戯だった。悪意をもった大人に唆されて、その子は悪戯をするつもりで、小さな鏡で光を反射させて馬を驚かせた。大人であれば馬が暴走してとんでもないことになることは容易に想像できたはずだ。
 その子は単にロンを驚かせたかった。
 ロンが大好きだったその子は、邪険にされて怒っていた。だから憂さ晴らしになると言われ、そのを実行した。
 彼を庇ったことを後悔したことはない。けれども真実を話すことは彼にとっていいことではない気がする。単なる事故ではなく、ロンを逆恨みした悪戯の果てに起った惨劇だったなんて。




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