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第三章 私の死の真相
オーランドとお使い
しおりを挟む「ねぇ。ねぇ。昨日オーランド様と何の話をしていたの?」
「それはここに慣れたかとか。そういうことですよ」
目を爛々と輝かせて食らいついてきたお色気メイド、キャリーさんに私は淡々と返した。
「気にされているのねぇ。うらやましいわぁ。やっぱり元婚約者は違うわねぇ」
うう。嫌だ。
目がめっちゃ怖い。
翌朝、朝食を使用人用の食堂で食べているとキャリーさんがやってきた。
食事の時間は担当部署ごとに決められている。だけれども、なぜかキャリーさんが姿を見せた。そして隣に体を押し込むようにして座ると、質問攻めが始まる。
今日キャリーさん、休みじゃなかったっけ?
街で噂になっているくらいだから、この屋敷の人たちも私の前世がマリーであることを知っている人が多い。けれどもハレット家の使用人のように腫れ物を扱うような態度で接してこないから助かっている。問題はこのキャリーさんだけ。
私が、私の前世がオーランドの元婚約者であることが許せないらしい。
ああ、気が重い。だけど、ハレット家で軟禁生活するよりはましなので、どうにか耐える。
「キャリーさん。時間みたいですよ。行きますね」
朝食時間はわからないけど、メイドの姿は周りからかなり消えていて、メイド長による朝礼の時間が近づいているのがわかる。
キャリーさんは不服そうだったけど何も言わず見送ってくれた。
いや、見送ってはないか。
朝礼が終わり、仕事が始まる。
今日の私の担当は奥様のメリー様だ。ハレット家と同じようにこの屋敷にも侍女はいない。毎回違うメイドが、オーランドの両親である大旦那様、大奥様、現当主であるジャック様とその奥様のメリー様を担当する。
メリー様、気さくでとても優しい人なんだけど、難点が一つ。
恋バナ好きなのだ……。
「ジャネット。オーランド兄様は今日はずっと家にいらっしゃるみたいよ。お茶でも一緒にしない?」
「とんでもないです。私はメイドですし、仕事がありますから」
「えー?つまんない」
メリー様は子供みたいに頬を膨らませた。
屋敷の女主人にはふさわしくない子供っぽさだ。けれどもメリー様は使い分けがうまくて、こんなふうに子供っぽくなるのはごく僅かな人たちの前だ。
私もなぜか、そのごく僅かない人に含まれているので疑問だ。
「美味しいお菓子も買ったのに~」
うわあ。お菓子ぃいい。
思わず参加させてくださいと言いそうになったけど、堪える。
ハレット家ではロンに毎日お菓子をもらっていたから、本当贅沢だった。まあ、軟禁だったけどね。
毎日美味しいお菓子を食べれられても閉じ込めらるのは嫌。
なので、諦める。
別に食べられないわけじゃない。うん。
メグとまたマリーナに行くんだから。
「オーランド兄様も残念がると思うわ」
どうかな。それは。なんか、お茶会とか絶対好きじゃなさそうだし。お菓子もね。あ、でも最初見た時、マリーナにいた。ってことは甘党かな?
「そうだわ。いいこと思いついた!」
オーランドの好みを考えていると、急にメリー様が声を張り上げた。
「私のお使いにいってくれない?」
目を輝かせてそう頼まれてしまった。
☆
「オーランド、様。なんだかすみません」
「いや、別に。何かあったらロンに殺されるからな」
「大袈裟な」
「いや、本当に奴はやるぞ」
真顔で答えられて、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
メリー様が突然思いついたお使い、それは刺繍糸を買いに行くというものだった。必要な刺繍糸の色と種類が書かれた紙を渡され、ぽんと部屋を出される。
メイド長に断って外出しようとしたら、使用人が出入りする裏玄関で待っていたのはオーランドで、半強制的に一緒にお使いに行くことになった。
「そうだ。お菓子が食べたいはずだとメリーが言っていた。買っていくか?」
「いえ、買わなくても大丈夫です」
速攻断ってから、目的の手芸用品のお店に足を向ける。案内してくれるのはオーランドだ。マリーの時は手芸などまったく興味がなかったし、今の私も同様。しかもハレット家で手芸用品を買う用事を言いつけられることもなかったので、店自体を知らなかった。それもあってこうしてオーランドが案内してくれるのは有り難い。でもなんとなく居心地が悪い。
なんだろう?キャリーさんにまた絡まれる。そう思うと憂鬱だからかな?
「着いたぞ」
店に入らず、外で待ってもらってもよかったのだけど、オーランドは律儀に一緒に店に入る。
「おお。副団長。今日は非番ですかな」
店主と思われる優しいそうな壮年の男性が彼に話しかけてきた。
「そうだ。何か変わったことはないか?」
「お陰様で」
オーランドは非番にも関わらず店主とそんな会話を交わす。私は無視された形なんだけど、興味はあるみたいで店主の視線が時たま私に向けられる。これは説明したほうがいいのかな?
そう思っていたけど、結局彼は何も説明せず、メイドである私が自己紹介を始めるのもおかしいので黙って刺繍糸を選んでいた。
「お買い上げありがとうございます」
「またな。店主」
でしゃばるのもあれなので、私は頭だけを下げてオーランドと共に店を後にした。
「説明したほうがよかったか?」
少し歩いたところで彼が聞いてきた。
「えっと、」
答え辛い。
説明したらしたで、変な興味を持たれる。ああ。でも説明しないほうがもっと憶測を呼ぶのかな?ああ、でもジャネットというメイドがハレット家のマリーの前世という話は広まっていても顔は知られてないはずだから、大丈夫か。
「説明してもらわなくて、よかったと思います」
「そうか。だったらいいが。どこか、寄りたいところあるか?」
「別にありません」
普通に歩いているだけなのに、人がチラチラ窺うように私たちを見ていく。一人で歩いてる時とは大違いだ。今度お使い頼まれる時は、オーランドの案内はいらないとメリー様に言わないと。
心にそう決めて、私たちはガント家に戻った。
裏門をくぐると嬉しそうに、キャリーさんに迎えられる。
あれ、この人、今日お休みだよね?
興奮した彼女から放たれた言葉で、そんな疑問がぶっ飛んだ。
「ハレット家のロン様がお待ちよ」
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