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第三章 私の死の真相

ガント家の日常

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 3-1

「ジャネット!会いたかった!」
「うん。私も!」

 私たちはマリーナの前でぎゅっと抱き合う。
 メグと会うのは五日振りなんだけど、久々に会った気分だった。

 六日前ピクニックの途中で、オーランドに遭遇して、翌日、私はガント家に移った。もちろん、使用人、メイドとしてだ。
 ハレット家ではまだ試行期間でむやみやな状態になっていて、正式な契約を結んでいなかったので、ガント家に勤務先を変えるのは簡単だった。
 正式雇用だとやっぱり書類のやりとりが面倒だから、ちょうどよかった。
 迎えに来たのはオーランドだったけど、ロンとのやりとりがまたなんか居た堪れなくて、メグとの挨拶もそこそこになってしまった。お父様、大旦那様たちにもかなり引き止められたけど、軟禁状態は嫌だったので、振り切った。
 今家を離れてわかるのだけど、お父様たちいや、大旦那様たちは私の前世がマリーとかあまり考えてなくて、ロンのために私を引き止めたのかなあって。
 娘が軟禁状態なのに止めないのはやっぱりちょっとおかしい。
 本当に私がマリーだと思っているなら、あんな状態にしなかったはず。
 もちろん、こんなこと聞けないので、心の中にしまっておくつもり。
 私の前世は確かにマリー・ハレットかもしれない。だけど、今はジャネットだもの。
 少し冷静に考えられるようになって、屋敷を出てよかったと思っている。

 今日、メグと会えるのもオーランドが中に入って彼女の彼氏と連絡をとってもらったからだ。本当、オーランドには感謝している。

「ジャネットがいなくなって、ものすごい寂しいんだから」

 店内でそう話しながらメグはメニューを広げる。

「そ、そう?」
「私はもちろんなんだけど、お屋敷全体から何か明かりが消えた感じなんだよね」

 想像できる。
 なんとなく。
 でも元に戻るのはいやだ。やっぱり。

「でもジャネットは元気そうでよかった。やっぱり部屋に閉じ込めれているのは嫌だもんね」
「うん。ありがとう」

 メグにそう言われてほっとする。

「で、旦那様はどんな感じ?やっぱり一緒?」
「うーん。旦那様はドヨーンとしているけど、前みたいにおかしな行動はしていないわ」
「よかった!」

 それだけが気がかりだった。
 でも心のどっかで、何となく物足りない、そんな気持ちになって、慌てて頭を振る。

「ジャネット?どうしたの?」
「ううん。なんでもない。それより早く頼もう。私はこの生クリームとイチゴジャムのパンケーキにする」

 メグとはそれから他愛のない話をして別れた。次の約束は2週間後だ。私がガント家に移ってメグは最初の予定通り3カ月にハレット家を辞めて結婚する事にしたみたい。ベンが喜んでると聞いて、もしかしてオーランドは部下の幸せも考慮して私をガント家に引き抜いたのかなと邪心。
 まあ、オーランドに少しでも得ることがないのは申し訳なかったからいいけど。

「ジャネット」

 裏門からガント家の使用人用の寄宿舎に戻る途中、裏庭でオーランドに呼び止められた。

(そういえば今日は戻って来る日って言ってたっけ)

 オーランドは月一で屋敷に戻って来るようだ。
 彼が警備兵団に入団、正規の兵士になってから、オーランドのご両親、叔父様達は跡取りの事を考えて養子を迎えた。それは彼にとっては従兄弟にあたるジャック様で、今ではガント家の当主だ。
  十歳でガント家に入ったジャック様は養子と言えども実の子のように可愛がられた。オーランドにとっても弟のような存在だと言っていた。
 本来であれば当主はオーランドだ。けれども彼は兵士になる夢を追って、ジャックを巻き込んだ。自身がジャック様の邪魔にならないようにと、戻らないようにしていたら、ジャック様自身から月一で戻って来るように頼まれたらしい。実際願ったのは彼の両親なのに、ジャック様自身が自分の頼みだと言い切ったと、オーランドは笑っていた。
 うん。ジャック様はよく出来た人だな。
 ロンより年下だけど、なんか貫禄があるんだよね。

「ジャネット?」
「オーランド、様!」

 遠くから声をかけてきたと思っていたのに、いつの間にか側にいてびっくりした。
 で思わず周りを見渡す。
 お色気メイドの姿がなくて、ほっと胸を撫で下ろして、オーランドを見上げる。

「お陰様で今日はメグとのデートを楽しんで来ました。ありがとうございます」
「お陰様?あ、そうか。そうだな。まあ、俺は橋渡しをしただけだ。気にするな」

 オーランドはガハハと笑う。こういうところ、おっさんだなあと思うけど、年齢的におっさんなので変ではない。

「えっと、オーランド様はどうして私を呼び止めたんですか?ご用でも?」
「用事はないぞ。ガント家の居心地はどうかと思ってな」
「よくして頂いてます。サイモンさんとまた働けて嬉しいですし」

  エドワーズ様のお屋敷で別れた以来、三ヶ月ぶりに会ったサイモンさんは、眼鏡をかけていた。そうしてるとハレット家の執事のカーネルに似てると思ったら、サイモンさんは彼の甥っ子らしい。カーネルから私の前世の話を聞いてるのか、どうなのか、彼の態度は変わらなかった。
 私の顔まで知られていないけど、どうやら巷ではマリーの前世がジャネットという女性、という噂は広がっているみたいだ。それで、なぜか前世持ちみたいにいう輩も増えていると聞いた。私は多分本物だけど、記憶って思い込みもあるから、勘違いしている人もいるんだろうなあ。
 考えてみれば、私のことだって思い込み、勘違いで片付けられることだからなあ。
 なので情報収集能力が高いサイモンさんはカーネルに聞かなくても、私の前世がマリーであることをしっているはずだ。信じているかは、わからないけど。

「オーランド様ぁ」
「げっ」

 私ではない。声はオーランドから出たものだけど、私も同じ気持ちだ。甘えた声に吐き気が出そうになる。

「お茶の用意が出来てます。どうぞ、こちらへ」
   
    声の主はお色気メイドのキャリーだ。私と同じくらいの歳なんだけど、胸もお尻も大きくて、腰はきゅっと絞られている、妖婦のようなお色気メイドだ。仕事は意外に真面目なんだけど、オーランドにベタ惚れで、私はよく絡まれる。
 今日はオーランドと話してるところ見られてるから、明日から面倒だろうなあ。
 っていうか今日は休みだった。

「オーランド様、キャリーさん、ごゆっくり~」

  せっかくの休みはゆっくり過ごしたい。巻き込まれたくない。
 二人にペコリと頭を下げると私は逃げるように寄宿舎に駆け込んだ。
  
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