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恋なんて関係ない。
1-15 まずは問題を解決してから考えよう。
しおりを挟む「ジュネ」
城に戻りすぐに、私はミラナの眠る部屋を見舞った。彼女はベッドで静かに眠っていた。部屋にはベリジュもいて、何やら紙に文字を書き出している。
「ベリジュ。お前も少し休んだらどうだ?」
「大丈夫よ。ああ。後で別のベッドを運んでもらってもいい?ミラナには誰かがついていたほうがいいから。きっと目覚めたら、色々思い出すわ」
それは多分、アンに毒を持ったことなどだろう。
もっと早く彼女の状態に気がついていれば、こんなことにはならなかったのに。投書主を調べるなど、していれば……。
「あんたこそ。休んだほうがいいんじゃないの?顔色相当悪いわよ」
「いや。大丈夫。ちょっとな」
「まあ、気持ちはわかるけど。でもどうしもようもないわよ。あんたのせいじゃないし。団長って肩書きを背負っているけど、まだまだ甘いしね。あんた。ファリエスみたいに力も抜けないし。まあ、そんな生真面目なところがみんな好きなんだけどね」
ベリジュは立ち上がり、ベッドの傍まで来るとミラナに視線を落とす。
「この子、利用されちゃったのね。あんたか、アンを傷つけるため」
「……私のせいだ」
「そうね。城に侵入者を許したことは、団長の責任だわ。それ以外に落ち度はないけどね。城の者が安心してすごせるように、頑張んなさいね」
「ああ。頑張る」
「いやあ。本当。あんたって男前だよね。惚れ惚れするわ。でもこうして女の子を毎日診るのは楽しいけど、たまに野郎の体もみたくなるのよね」
「な、なんだ。それは!」
「あんたはひん剥いても女だからねぇ。男前だけど。あ、アンは結構いい体してたわね。あの子、痩せてるって思ったけど、そうでもないわよ」
「なんで私を見る?」
ベリジュはにやけた笑みを浮かべ、私を見上げていた。
「アンに、黄昏の黒豹。どちらも美味しそう」
「お、美味しそう?!」
た、食べるのか?
「いただいたら感想教えてね」
「食べるか!」
そう思いっきり返して、ベリジュが口元に指を当てた。
声が大きかったと反省し、ミラナを見るが、彼女は眠ったままだ。
「大丈夫なのか?」
「うん。まあ、寝ていたほうがいいかもね。起きると思い出すし、ハリアリ草が切れて、禁断症状が出ると思うし」
「禁断症状……」
そこまでハリアリ草の中毒が酷いのか。
私は少し痩せたように見える彼女の頬をなでる。
まだ十四歳。これからの人生だ。
色々可能性を持っている。
それを潰して溜まるか。
「団長さん。あたしが診てるから大丈夫。それよりちょっとアンの様子を見てきたら?二番隊の子たちが悪さしてるかもしれないわよ」
「ありえない。そんなことは」
「そうかしら。あの柔らかそうな頬とか、長いまつげとか、見てみたらむらむらしちゃうかもよ」
「それはベリジェだけだろう!」
再び声を上げてしまい、ベリジェが静かにと言って笑う。
こいつわざとだな。
アンのことは最初から見舞いに行くつもりだったんだ。まずはミラナの様子を見てからだと思って。
だけどベリジュは意味深な笑いを浮かべたままで、私は苛立ちながら部屋を後にした。
☆
医務室の前には、二番隊の中でも真面目な団員が直立不動で守りを固めており、私は彼女を労うと、中に入る。
部屋の中は真っ暗だった。
明かりをつけようかと一瞬だけ迷ったが、アンの眠りの妨げになると目が闇に慣れるまで待ってから、ベッドに近づいた。
「アン」
小さく彼の名を呼ぶ。
二年前、彼を崖の下で見つけたときは少女だと勘違いした。身に着けている服は男子のものであったが、長い髪に女性的な顔で、そう思ってしまった。
あの時は、本当にまだ私よりも背が低くて、頼りなさげで、団長に引き取られてからも何度も足を運んだ。
半年後の彼の初舞台を見て、心が震えた。
とても煌びやかで、華やかで、誰よりも美しかった。
誰もが彼を彼女だと疑わず、私がそれを褒めると少し寂しげに笑った。ちょうど城で完璧な女装ができる男性を探していたので、私はすぐにアンに頼んだ。彼はすぐに承諾してくれて、こうして毎週城を訪ねてくれることになった。
記憶がもどっていたなんて、アンはどうして言わなかったんだ。
平民の暮らしよりも、貴族の暮らしがずっと楽なはずなのに。
いや、戻りたかったが、戻れない理由があるのか。命を狙われているところもあるし。
「アン」
ベッドで眠るアンの寝顔は安らかだ。
それを見て、安心する。
起きてから聞いてみよう。いや、記憶がもどっていることを知ってること自体、だめなのか。カラン様に口止めされているし。
なんで、口止めするんだ。
私に皆んなに知られてたくないのか。でもテランス殿は知ってそうだった。あの疎外感。そうかこの秘密を私だけが知らなかったんだ。私も他言しないのに。なんで教えてくれなかったんだ。
「ジュネ様」
「起こしてしまったか?」
何はともあれ今は身体のことが大切だ。
私はぼんやりと目を開けたアンの頭を撫でる。
「まだ夜は長い。寝た方がいい。明日の朝カラン様が迎えに来るから」
「ナイゼルが?」
アンは朧げにそう返した。
カラン様を呼び捨てか。やはりアンは相当身分が高いのか。その事実を寂しく思いながら私は彼の頭を撫で続ける。
「僕は子どもじゃないのに」
アンは拗ねたようにそう言い、また目を閉じる。
そのうち寝息が聞こえてきた。
相当疲れているんだな。
「おやすみ。アン」
質問、疑問をぶつけるのは彼が元気になってからだ。
まずはやるべき事をやろう。
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