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第三部

ウィリアム・ハンズ伯爵

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 ジャスティーナがハンクに送られホッパー家に戻ると、父と母がすぐに姿を現した。

「戻ってきてよかったわ」

 そう言いながら抱きしめられ、ジャスティーナは複雑な気持ちになった。けれども隣の父も安堵したような顔をしており、二人に心配をかけていたのだと反省する。

「婚約者の屋敷に一泊するなど心配することじゃないと何度も話したのだ。アビゲイルはずっと朝までお前を待っていたぞ」
「そうなの?お母様。ごめんなさい!」
「大丈夫よ。旦那様もお付き合いくださって心強かったわ」

 二人は見つめ合い頷き、ジャスティーナは二人の距離がますます縮まっている気がして、そんな場合ではないのに嬉しくなった。

「アビゲイル。ジャスティーナも戻ってきたし、部屋で休みなさい。ジャスティーナも部屋に戻ってゆっくりするがいい。軽食が必要ならば、運ばせる」
「お父様。色々あって一睡もしてないの。少し休むので食事は必要ないわ。着替えも自分でできるから」

 デイビス家では自分のことは自分自身で世話をする習慣をつけるため、彼女は複雑なドレスを着ていない時以外は、一人で着替えをしていた。今日身につけているドレスは新調したものではなく、昨晩着替えたイーサンの母親のドレスだった。
 シャーロットの趣味がそうだったのか、それともジャスティーナのように一人で着替えを行うためだったのか、本当の理由は不明だが、彼女の残したドレスは単純な作りが多かった。
 社交の場に着ていくには地味だが、普段身につけるには十分なものだった。

 部屋に戻って扉を閉め、寝間着のドレスに着替えると、ジャスティーナはすぐにベッドに横になった。
 去り際に見せたイーサンは元気そうで、腫れも引いており、次に会う時には完全に元に戻っているはずだった。

 ――だけど、私ったら、なんてことしてしまったのだろう。
 
 心配だったので、他に何も考えられなかったのだから仕方ない。だけど、お腹を見ようとシャツを捲り上げようとしたり、手を握りしめて愛の言葉に近いことを言っていた気がする。
 ジャスティーナは己の行動を思い出し、顔を火照らせ、手で頬を包む。
 しばらく悶々と物思いに悩まされたが、体は何よりも正直で、疲れていたジャスティーナはそのうち眠りに落ちていた。

 ☆
 
「ははは。元気そうでよかったよ」

 ウィリアム・ハンズ伯爵は軽快な笑い声を執務室で漏らした。
 彼の訪れを聞き、応接間に場所を移そうとしたのだが、顔を見に来ただけだと執務室での面談になった。
 笑い事ではないイーサンは思わず、苦い顔をしてしまう。
 それに気がつき、ウィリアムはすぐに笑いをおさめた。

「その腫れなら誕生祝賀会には大丈夫だな」

 ――そのことまで知っているのか?

 イーサンが第二王子の誕生祝賀会に参加することは、王とジャスティーナ、デイビス家の使用人しか知らないことのはずだ。
 
 ――王宮ですでに噂になっているのか?昨日の今日なのに。

「イーサン。陛下から聞いたのだよ」

 頭を悩ます彼にウィリアムがおどけたような笑みを浮かべる。

「私と陛下は同じ趣味を持つ同士でもあってね。君のことは実は以前から陛下から聞いていたんだ」

 だからこそ、彼は最初から彼に好意的だったのか。
 イーサンは少し納得そして落胆の思いを抱える。

「また、君はおかしなことを考えているな。君のことを友人だと思えるようになったのは、陛下から聞いたことがきっかけになっているが、決めたのは私だ」

 己を心配してくれる家族のような使用人はいるが、友人はいないイーサンにとって、ウィリアムの言葉は胸に響く。

「おや、泣かせてしまったかな」
「泣いてなどありません!」
「ははは。元気そうでよかった。陛下から話を聞いた時は目が飛び出るかと思ったからな」

 ウィリアムは本当に顔を見に来ただけで、モリーが用意したお茶を少しだけ飲むと帰ってしまった。

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