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第三部
異変
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ぎこちない昼食を挟み、結局アレンは夕方近くまで居座った。残りは王宮で仕上げると言い、誕生祝賀会参加への念を押してから屋敷を後にする。
アレンと共に壁際で重圧をかけ続けていた二人もいなくなり、屋敷中で安堵の溜息が漏れた。
「ジャスティーナ様。久々にご夕食一緒にいかがでしょうか?このような中途半端な時間ではお屋敷に戻る前にお腹が空いてしまうでしょう」
ハンクの誘いに、イーサンは何かを言いかけたが、咳払いすると彼女に向き直った。
「ジャスティーナ。帰りは責任を持って送らせる。だから一緒に食事をしないか?」
何やら頬をすこし赤らめているのが不思議だったが、ジャスティーナは笑顔でそれに答える。
「もちろん喜んで」
両親の顔が一瞬過ぎったが、婚約している間柄なので問題ないだろうと彼女は久々のデイビス家の夕食を楽しむことにした。
多少の葡萄酒を嗜みながら、ジャスティーナは運ばれてくる料理を味わう。ニコラスの腕はやはりとても美味しくて舌鼓を打った。
「ジャスティーナ様がこの屋敷に住んでくださったら、毎日好物をお作りしますよ」
「私も毎日ジャスティーナ様のお世話を張り切ります」
「そうなると、モリーが暴走しないように、私が見張る必要があるねぇ」
「マデリーン。お前は部屋で大人しくしてなさい。私がモリーのことは監督するから大丈夫だ」
口々に使用人達が話し始め、ジャスティーナは噴き出ししまいそうになり、ナプキンで慌てて口を押さえた。
「まったくお前達は気が早い。まだプロポーズもしてないのだ」
だが、イーサンの言葉でジャスティーナは笑いを引っ込める。
「ジャスティーナ。屋敷に戻る前にすこし話をしたい。いいか?」
彼の黒い瞳が煌めき、ジャスティーナの鼓動が一気に早まった。
「も、もちろん」
そう答えた時、屋敷内に何がが盛大に割れる音がした。同時に番犬のブロディの唸り声も。
「ニコラス。この音は正面の門だ。確認を頼む」
「はい」
イーサンの緊迫した声にニコラスが答える。
――どういうこと?
屋敷の和やかな雰囲気が一気に、険しいものに変わった。
「ジャスティーナ。念のため、モリーと執務室へ」
「イーサン様?」
「大丈夫だ。念のためだ」
「ジャスティーナ様」
後ろ髪を引かれる思いだったが、ジャスティーナはモリーの案内で執務室に移動することになった。
☆
当主の寝室と執務室は隣同士になっており、それぞれの部屋に隠し扉があって、そこから地下室へ行くことができる。
屋敷も森に隠されるように存在し、建物の周りに魔法具を設置していた。なので、内部に侵入するのは至難の技である。が、先代達が念のために避難所として地下室を作った。
じめじめとする空気、明かりもなく、ジャスティーナは隣にモリーの気配を感じ安堵する。
「イーサン様、大丈夫かしら」
「大丈夫に決まっております。ニコラスもいますので」
闇に慣れた目で、モリーが自信をもって胸を叩いているのがうっすらと見える。
彼女のこうした行為と言葉は心配で胸が押し潰れそうになるジャスティーナを勇気付けた。
音がまったく聞こえない。
ただ心配だけが募る。
どれくらい部屋にこもっていたのか、ふいに扉が叩かれた。
それは何か暗号のようなリズムを持っており、モリーが扉に駆け寄る。
「ニコラスですわ。大丈夫と思いますが、ジャスティーナ様は少し物陰をお隠れください」
「ええ」
彼女の指示通り、ジャスティーナは木箱の積まれている場所へ身を隠した。
「お父さん?」
モリーが扉を開けて驚いた声を上げた。そこいたのは、ニコラスではなく、ハンクであった。
アレンと共に壁際で重圧をかけ続けていた二人もいなくなり、屋敷中で安堵の溜息が漏れた。
「ジャスティーナ様。久々にご夕食一緒にいかがでしょうか?このような中途半端な時間ではお屋敷に戻る前にお腹が空いてしまうでしょう」
ハンクの誘いに、イーサンは何かを言いかけたが、咳払いすると彼女に向き直った。
「ジャスティーナ。帰りは責任を持って送らせる。だから一緒に食事をしないか?」
何やら頬をすこし赤らめているのが不思議だったが、ジャスティーナは笑顔でそれに答える。
「もちろん喜んで」
両親の顔が一瞬過ぎったが、婚約している間柄なので問題ないだろうと彼女は久々のデイビス家の夕食を楽しむことにした。
多少の葡萄酒を嗜みながら、ジャスティーナは運ばれてくる料理を味わう。ニコラスの腕はやはりとても美味しくて舌鼓を打った。
「ジャスティーナ様がこの屋敷に住んでくださったら、毎日好物をお作りしますよ」
「私も毎日ジャスティーナ様のお世話を張り切ります」
「そうなると、モリーが暴走しないように、私が見張る必要があるねぇ」
「マデリーン。お前は部屋で大人しくしてなさい。私がモリーのことは監督するから大丈夫だ」
口々に使用人達が話し始め、ジャスティーナは噴き出ししまいそうになり、ナプキンで慌てて口を押さえた。
「まったくお前達は気が早い。まだプロポーズもしてないのだ」
だが、イーサンの言葉でジャスティーナは笑いを引っ込める。
「ジャスティーナ。屋敷に戻る前にすこし話をしたい。いいか?」
彼の黒い瞳が煌めき、ジャスティーナの鼓動が一気に早まった。
「も、もちろん」
そう答えた時、屋敷内に何がが盛大に割れる音がした。同時に番犬のブロディの唸り声も。
「ニコラス。この音は正面の門だ。確認を頼む」
「はい」
イーサンの緊迫した声にニコラスが答える。
――どういうこと?
屋敷の和やかな雰囲気が一気に、険しいものに変わった。
「ジャスティーナ。念のため、モリーと執務室へ」
「イーサン様?」
「大丈夫だ。念のためだ」
「ジャスティーナ様」
後ろ髪を引かれる思いだったが、ジャスティーナはモリーの案内で執務室に移動することになった。
☆
当主の寝室と執務室は隣同士になっており、それぞれの部屋に隠し扉があって、そこから地下室へ行くことができる。
屋敷も森に隠されるように存在し、建物の周りに魔法具を設置していた。なので、内部に侵入するのは至難の技である。が、先代達が念のために避難所として地下室を作った。
じめじめとする空気、明かりもなく、ジャスティーナは隣にモリーの気配を感じ安堵する。
「イーサン様、大丈夫かしら」
「大丈夫に決まっております。ニコラスもいますので」
闇に慣れた目で、モリーが自信をもって胸を叩いているのがうっすらと見える。
彼女のこうした行為と言葉は心配で胸が押し潰れそうになるジャスティーナを勇気付けた。
音がまったく聞こえない。
ただ心配だけが募る。
どれくらい部屋にこもっていたのか、ふいに扉が叩かれた。
それは何か暗号のようなリズムを持っており、モリーが扉に駆け寄る。
「ニコラスですわ。大丈夫と思いますが、ジャスティーナ様は少し物陰をお隠れください」
「ええ」
彼女の指示通り、ジャスティーナは木箱の積まれている場所へ身を隠した。
「お父さん?」
モリーが扉を開けて驚いた声を上げた。そこいたのは、ニコラスではなく、ハンクであった。
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