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第三章 海と空
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「大丈夫ですか?」
西の碧雲国まで藍達は一気に飛んだ。呪術師である藍とその師、典はけろっとして碧雲国の大地に降り立ったが、強は明らかに青ざめた顔で、その足元はふらついている。
「大丈夫だ」
そう答える声もどうしても無理をしているようにしか聞こえない。
無理しないでもいいのに。
藍はふらつく足元を頑張って大地に根付かせ、すくっと立つ強に目を向ける。
いつもであればその親友が無敵の警備隊長殿に「本当は苦手なのに、強がらなくもいいのに」などと痛恨の口撃を加えるのだが、師はめずらしく渋い顔をして、森の中を見ていた。
「……何年ぶりなんだ?」
何年ぶり?
顔色が元に戻り始めた強が親友にそう尋ねる。
「……十五年かな」
典は目を細め、森の中を見つめる。
「帰ってないのか?」
「帰れないだろう」
どういう意味?
帰る?
「すっかり日が暮れてしまったね。今夜が村に泊まるしかなさそうだ」
「……大丈夫か?」
「ああ、多分ね」
どういう意味?
藍は目をぱちくりさせて、2人のやり取りを聞いていた。
「藍。君にはまだ説明してなかったね」
典は腑に落ちない表情をしている弟子に笑いかける。
「実は麗は私の従姉妹なんだよ。村は私の出身地だ」
宮京に辿りついた凛と草はまず宿を取った。本格的に動くのは明日からにするつもりだった。
凛はまず空に連絡をとることにした。そのためには空の部下、紺に連絡を取る必要がある。
紙に文字を書き、気をこめる。すると紙はくしゃっと音をたて、小さな鳩に変化する。
凜は紙の鳩を掴むと窓を開け、空に向かって投げた。それは風に乗ると、上空に吸い込まれるように飛んでいった。
「夜には空から連絡が入るはずだ。その前に夕食でもとっておこう」
「はい」
草は、紙鳩が消えた、星が輝き始めた空から目を話すと、にっこり笑った。
「麗?」
日が暮れたばかりの村に藍達が到着し、村人は銀髪に緑色の瞳の藍を見ると騒ぎ始めた。
しかし、その横に典の姿を確認すると、今度は非難や敵意の視線に変わる。
「典、どういうつもりだ?久々に帰って来たと思ったら趣味の悪いいたずらか」
背が高く、筋肉隆々の男が井戸から水を汲む作業を中断して、出てきた。
「田、久しぶり。麗のことで聞きたいことがある。この子は呪いで麗の姿に変わってしまったんだ」
「ふん。お前に話すことなど何もない。裏切り者が!」
「そうはいかない。知ってることを話してもらおう。帝の命がかかってるんだ」
強が田の鋭い視線から典を守るようにその前に立ちふさがる。手はいつでも刀が抜けるよう腰の鞘に当てられている。
物騒だな。強様。
でもそれくらいしないと、答えてくれなさそうだ。
でもなんだろう。
典様が裏切り者だなんて。
天下の呪術司に吐く言葉じゃないけど。
しかも私を見る視線が微妙だ。
友好的ではない。かといって敵意ってわけでもない。
十五年前に何があったの?
「田。久々に帰ってきた典に挨拶くらい返したどうなの?そこの男前の人も、そう物騒にしてもらっても困るんだけど」
少しつやっぽい声がして、藍の現在の姿、麗に似た姿の女性が現れる。
「翠……」
「お久しぶりね、典。田、話くらい聞こうじゃない。麗に似たその子も困ってるみたいでし」
うわ。
すんごい色気だ。
藍は女性に見つめられ、どきどきするのがわかった。
「その男前も、刀から手を放して。さあ、話を聞きましょう。私の家についてきて」
「翠!」
「大丈夫。浮気はしないから」
「俺はそんなこと、」
ふとそう言われ真っ赤になった筋肉男に翠が微笑む。
夫婦?
かなりでこぼこだけど。
「田。あともう少しお水が必要だから。お願いね。さ、典、他の二人もついてきて」
翠はそう言うとくるりと背を向け、元来た道を戻っていく。典はその後を追い、強と藍は顔を見合わせる。
「強様。強様は事情を知ってるんですか?」
「俺も詳しくはしらない。話したがらないからな。とりあえず、あの翠って女性について行こう。なにか手掛かりがあるかもしれない」
「そうですね」
藍は強と共に典の後を追う。
田はため息をついたが、井戸の方へ中断した作業を続けるために戻っていく。村人も藍達に視線を送るのを止め、それぞれの家に戻っていくのが見えた。
なんだか、わからないけど。
色々秘密がありそう。
気になるのはやけに大人しい典様だけど。
翠さんとどういう関係なのかな。
この今の私の姿に似てるってことは麗さんの姉妹かなにか?
え、じゃあ、容疑者だ!
藍がそう結論を出したところで、 目の前に茅葺き屋根の家が見えて来る。窓からぼんやりと光が溢れていた。
「さあ、どうぞ。入って」
翠は扉を開けると、藍達を招き入れた。
西の碧雲国まで藍達は一気に飛んだ。呪術師である藍とその師、典はけろっとして碧雲国の大地に降り立ったが、強は明らかに青ざめた顔で、その足元はふらついている。
「大丈夫だ」
そう答える声もどうしても無理をしているようにしか聞こえない。
無理しないでもいいのに。
藍はふらつく足元を頑張って大地に根付かせ、すくっと立つ強に目を向ける。
いつもであればその親友が無敵の警備隊長殿に「本当は苦手なのに、強がらなくもいいのに」などと痛恨の口撃を加えるのだが、師はめずらしく渋い顔をして、森の中を見ていた。
「……何年ぶりなんだ?」
何年ぶり?
顔色が元に戻り始めた強が親友にそう尋ねる。
「……十五年かな」
典は目を細め、森の中を見つめる。
「帰ってないのか?」
「帰れないだろう」
どういう意味?
帰る?
「すっかり日が暮れてしまったね。今夜が村に泊まるしかなさそうだ」
「……大丈夫か?」
「ああ、多分ね」
どういう意味?
藍は目をぱちくりさせて、2人のやり取りを聞いていた。
「藍。君にはまだ説明してなかったね」
典は腑に落ちない表情をしている弟子に笑いかける。
「実は麗は私の従姉妹なんだよ。村は私の出身地だ」
宮京に辿りついた凛と草はまず宿を取った。本格的に動くのは明日からにするつもりだった。
凛はまず空に連絡をとることにした。そのためには空の部下、紺に連絡を取る必要がある。
紙に文字を書き、気をこめる。すると紙はくしゃっと音をたて、小さな鳩に変化する。
凜は紙の鳩を掴むと窓を開け、空に向かって投げた。それは風に乗ると、上空に吸い込まれるように飛んでいった。
「夜には空から連絡が入るはずだ。その前に夕食でもとっておこう」
「はい」
草は、紙鳩が消えた、星が輝き始めた空から目を話すと、にっこり笑った。
「麗?」
日が暮れたばかりの村に藍達が到着し、村人は銀髪に緑色の瞳の藍を見ると騒ぎ始めた。
しかし、その横に典の姿を確認すると、今度は非難や敵意の視線に変わる。
「典、どういうつもりだ?久々に帰って来たと思ったら趣味の悪いいたずらか」
背が高く、筋肉隆々の男が井戸から水を汲む作業を中断して、出てきた。
「田、久しぶり。麗のことで聞きたいことがある。この子は呪いで麗の姿に変わってしまったんだ」
「ふん。お前に話すことなど何もない。裏切り者が!」
「そうはいかない。知ってることを話してもらおう。帝の命がかかってるんだ」
強が田の鋭い視線から典を守るようにその前に立ちふさがる。手はいつでも刀が抜けるよう腰の鞘に当てられている。
物騒だな。強様。
でもそれくらいしないと、答えてくれなさそうだ。
でもなんだろう。
典様が裏切り者だなんて。
天下の呪術司に吐く言葉じゃないけど。
しかも私を見る視線が微妙だ。
友好的ではない。かといって敵意ってわけでもない。
十五年前に何があったの?
「田。久々に帰ってきた典に挨拶くらい返したどうなの?そこの男前の人も、そう物騒にしてもらっても困るんだけど」
少しつやっぽい声がして、藍の現在の姿、麗に似た姿の女性が現れる。
「翠……」
「お久しぶりね、典。田、話くらい聞こうじゃない。麗に似たその子も困ってるみたいでし」
うわ。
すんごい色気だ。
藍は女性に見つめられ、どきどきするのがわかった。
「その男前も、刀から手を放して。さあ、話を聞きましょう。私の家についてきて」
「翠!」
「大丈夫。浮気はしないから」
「俺はそんなこと、」
ふとそう言われ真っ赤になった筋肉男に翠が微笑む。
夫婦?
かなりでこぼこだけど。
「田。あともう少しお水が必要だから。お願いね。さ、典、他の二人もついてきて」
翠はそう言うとくるりと背を向け、元来た道を戻っていく。典はその後を追い、強と藍は顔を見合わせる。
「強様。強様は事情を知ってるんですか?」
「俺も詳しくはしらない。話したがらないからな。とりあえず、あの翠って女性について行こう。なにか手掛かりがあるかもしれない」
「そうですね」
藍は強と共に典の後を追う。
田はため息をついたが、井戸の方へ中断した作業を続けるために戻っていく。村人も藍達に視線を送るのを止め、それぞれの家に戻っていくのが見えた。
なんだか、わからないけど。
色々秘密がありそう。
気になるのはやけに大人しい典様だけど。
翠さんとどういう関係なのかな。
この今の私の姿に似てるってことは麗さんの姉妹かなにか?
え、じゃあ、容疑者だ!
藍がそう結論を出したところで、 目の前に茅葺き屋根の家が見えて来る。窓からぼんやりと光が溢れていた。
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