6 / 27
1章 異世界転移
06 普通の王様
しおりを挟む
ジャファードが退室した後、江衣子は危機に見舞われていた。
生理現象である。
部屋に戻ってきたミリアに訴えると、部屋の奥に案内され、彼女は愕然とした。予想はしていたが、石造りの小さな小部屋の床に穴があけられており、そこに壺が置いてあった。近くには紙らしくものは見当たらず、葉っぱが置かれていたので、これが紙代わりだと理解した。
大の時は死んでしまうなどと思いながらも、小さいほうをしてから部屋を出ると、水の張った桶を持っていたミリアが傍にいて、彼女は祈りを捧げたくなった。
(ありがとう。ミリア。これで少しはましかもしれない)
手を洗い拭いてから、彼女は椅子に座る。
(ごゆるりとって言われても何もすることないんだけど……。そういえば、経典って文字が書かれているのよね?私、この国の文字が読めるのかな?)
「ミリア。あの、何か本を持ってきてもらってもいい?」
「本ですか?」
「うん。何でもいいわ。文字が書いていれば」
ミリアは腑に落ちない表情を浮かべながらも、本を探しに行ってくれた。
(これで文字読めなかったらシャレにならない。だって文字から勉強しないといけないんだもん。そういえば、要、違った。ジャファードが日本に来た時はどうだったのかな。やっぱり勉強したんだろうな。うわ、たった3週間で異国の言葉をマスターとか、無理すぎるんだけど)
ヤキモキしてまっているとミリアが戻ってきてくれて、本を差しだす。
「読める!」
それは「ルナマイールの歴史」と書かれており、江衣子は喜びのあまり叫んでしまった。
それで、またミリアに不思議そうな顔をされてしまい、一人で照れる。
「あ、ごめんね。本ありがとう。これで時間を潰せそう」
やることもないので、江衣子はその本を読むことにして、本格的に椅子に座り込んだ。
木の実がたくさん入ったパンに、野菜スープに、フルーツという昼食が終わって、わざわざ着替えさせられた。
王が訪ねてくるためと説明され、江衣子の気分が落ち込んだ。
着替えも、江衣子からしたら同じようにしか思えなかったのだが、ワンピースを何枚も着せられ、大神官が来ていたような長い丈の上着を着せられた。
堅苦しく思いながら待っていると、恰幅のある人物が姿を見せた。
「お前が聖女か」
それは貫禄と肥満の間のような体形、くるくるな金色の巻き毛に鼻髭、赤いマントという、絵にかいたような王だった。
「初めてお目にかかります。江衣子(えいこ)です」
苗字は井ノ上だ。しかし要の姓のため、名乗れず、旧姓をつけるも気が進まなかったため、彼女はそう名乗った。
「おお、エイコーという名なのか」
(あ、やばい。忘れていた)
名乗ってしまい後悔したが、今更後悔しても遅いようだった。
「エイコーよ。この度はルナマイールに来てくれて感謝しておるぞ。神隠れの時は国が闇に包まれる。そんな時わし一人の力では足りないのだ。お前が祈りを捧げてくれることで、国が守られる」
(たかが日食なんだと思うんだけど)
王の言葉を聞きながら江衣子はそう思ったが、水を差すのもあれだったので、黙って聞く。
「西の神殿へ明日出発だと聞いている。民衆へ聖女のことを広め、神隠れの祈りの儀式に備えてくれ」
王はそう締めくくり、部屋を出て行く。
あまりにも早いお帰りで、江衣子は呆気にとられたが同時に安堵もしていた。
おかげで、彼女はまたすることもなく本を読み、夕食を取って、部屋で湯あみ。そして就寝という1日を過ごした。
「なんだかんだ。まあ、長い休暇をとってると思えばいいのかな」
就寝には早すぎると思いながらも、江衣子は早めにベッドについた。
一人でゆっくりしたかったせいもある。
何かあればハンドベルを鳴らすということも教えてもらったので、安心してベッドに横になる。
衛生面のことだけが気になるが、あとはかなり気ままな1日を過ごした。
「確かに上げ膳据え膳の生活よね。きらびやかとはちょっと違うけど。要は久々に国に戻ってきて嬉しいでしょうね。……私との生活なんて絶対に思い出さないんだろうなあ」
そう考えると悲しくなるが、江衣子はその考えを頭から追い出す。
「人生のやり直しかあ。16歳から。聖女の仕事が終わったら日本でまた……」
伯父の家に戻ることを考えたらぞっとして、新しい人生も味気のないものに思えてしまう。
「要の馬鹿!人生のやり直しなんて別に望んでなかったのに」
彼のことを考えないようにしているのに、思考はどうもそこへ行きつく。そうすると今度は眠れなくなってしまった。
結局、江衣子は寝不足のまま翌朝を迎えることになった。
生理現象である。
部屋に戻ってきたミリアに訴えると、部屋の奥に案内され、彼女は愕然とした。予想はしていたが、石造りの小さな小部屋の床に穴があけられており、そこに壺が置いてあった。近くには紙らしくものは見当たらず、葉っぱが置かれていたので、これが紙代わりだと理解した。
大の時は死んでしまうなどと思いながらも、小さいほうをしてから部屋を出ると、水の張った桶を持っていたミリアが傍にいて、彼女は祈りを捧げたくなった。
(ありがとう。ミリア。これで少しはましかもしれない)
手を洗い拭いてから、彼女は椅子に座る。
(ごゆるりとって言われても何もすることないんだけど……。そういえば、経典って文字が書かれているのよね?私、この国の文字が読めるのかな?)
「ミリア。あの、何か本を持ってきてもらってもいい?」
「本ですか?」
「うん。何でもいいわ。文字が書いていれば」
ミリアは腑に落ちない表情を浮かべながらも、本を探しに行ってくれた。
(これで文字読めなかったらシャレにならない。だって文字から勉強しないといけないんだもん。そういえば、要、違った。ジャファードが日本に来た時はどうだったのかな。やっぱり勉強したんだろうな。うわ、たった3週間で異国の言葉をマスターとか、無理すぎるんだけど)
ヤキモキしてまっているとミリアが戻ってきてくれて、本を差しだす。
「読める!」
それは「ルナマイールの歴史」と書かれており、江衣子は喜びのあまり叫んでしまった。
それで、またミリアに不思議そうな顔をされてしまい、一人で照れる。
「あ、ごめんね。本ありがとう。これで時間を潰せそう」
やることもないので、江衣子はその本を読むことにして、本格的に椅子に座り込んだ。
木の実がたくさん入ったパンに、野菜スープに、フルーツという昼食が終わって、わざわざ着替えさせられた。
王が訪ねてくるためと説明され、江衣子の気分が落ち込んだ。
着替えも、江衣子からしたら同じようにしか思えなかったのだが、ワンピースを何枚も着せられ、大神官が来ていたような長い丈の上着を着せられた。
堅苦しく思いながら待っていると、恰幅のある人物が姿を見せた。
「お前が聖女か」
それは貫禄と肥満の間のような体形、くるくるな金色の巻き毛に鼻髭、赤いマントという、絵にかいたような王だった。
「初めてお目にかかります。江衣子(えいこ)です」
苗字は井ノ上だ。しかし要の姓のため、名乗れず、旧姓をつけるも気が進まなかったため、彼女はそう名乗った。
「おお、エイコーという名なのか」
(あ、やばい。忘れていた)
名乗ってしまい後悔したが、今更後悔しても遅いようだった。
「エイコーよ。この度はルナマイールに来てくれて感謝しておるぞ。神隠れの時は国が闇に包まれる。そんな時わし一人の力では足りないのだ。お前が祈りを捧げてくれることで、国が守られる」
(たかが日食なんだと思うんだけど)
王の言葉を聞きながら江衣子はそう思ったが、水を差すのもあれだったので、黙って聞く。
「西の神殿へ明日出発だと聞いている。民衆へ聖女のことを広め、神隠れの祈りの儀式に備えてくれ」
王はそう締めくくり、部屋を出て行く。
あまりにも早いお帰りで、江衣子は呆気にとられたが同時に安堵もしていた。
おかげで、彼女はまたすることもなく本を読み、夕食を取って、部屋で湯あみ。そして就寝という1日を過ごした。
「なんだかんだ。まあ、長い休暇をとってると思えばいいのかな」
就寝には早すぎると思いながらも、江衣子は早めにベッドについた。
一人でゆっくりしたかったせいもある。
何かあればハンドベルを鳴らすということも教えてもらったので、安心してベッドに横になる。
衛生面のことだけが気になるが、あとはかなり気ままな1日を過ごした。
「確かに上げ膳据え膳の生活よね。きらびやかとはちょっと違うけど。要は久々に国に戻ってきて嬉しいでしょうね。……私との生活なんて絶対に思い出さないんだろうなあ」
そう考えると悲しくなるが、江衣子はその考えを頭から追い出す。
「人生のやり直しかあ。16歳から。聖女の仕事が終わったら日本でまた……」
伯父の家に戻ることを考えたらぞっとして、新しい人生も味気のないものに思えてしまう。
「要の馬鹿!人生のやり直しなんて別に望んでなかったのに」
彼のことを考えないようにしているのに、思考はどうもそこへ行きつく。そうすると今度は眠れなくなってしまった。
結局、江衣子は寝不足のまま翌朝を迎えることになった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる