上 下
38 / 43
第二章 魔王

2-10 戦いの後

しおりを挟む
「旦那様、おかえりなさい」

 屋敷へ戻ると、雰囲気が妙だった。浮かれているような。
 そんなことを思っていると、部屋に案内され、彼はベッドの上のユウタと対面した。

「ユータ様!」

 タリダスは駆け足で一気にベッドまで詰め、ユウタを抱きしめる。

「いたい、いたいから。タリダス」
 
 強めの抱擁で、ユウタは彼の背中を叩きながら、抗議する。

「どうしてすぐに知らせなかった?」
「待って、タリダス。僕がみんなに言ったんだ。僕は元気だし、タリダスの邪魔をしたくなかったから」

 噛み付くように控えていた執事ジョンソンに問いただしたタリダスをユウタが慌てて止める。
 ユウタの目覚めに気がついた侍女長マルサが、城にいるタリダスに知らせを送ろうとしたのをユウタが止めた。彼にも説明したように仕事の邪魔をしたくなかったからだ。

「邪魔など、あなたのためなら何がなんでもすぐに戻ってきました」
「それが嫌なんだ。僕は。あなたの邪魔をしたくないから」
「わかりました。とりあえず体に異常がないか確認させてください」
「うん」

 すぐに医師が呼ばれ、ユウタの体を検査する。それは別室にいるアズに対しても同じだった。

「アズも大丈夫かな」
「大丈夫でしょう」
「アズの様子見に行ってもいい?」
「今からですか?」
「うん」
「いいでしょう。ただし私が連れていきます」
 
 タリダスはベッドの上のユウタの体を抱き上げる。それは横抱きの、いわゆるお姫様だっこで、ユウタの頬が一気に真っ赤に染まる。

「タリダス。僕は自分で歩くから」
「一週間もベッドの上にいらしたんです。まともに歩くことはできないしょう」

 タリダスは淡々とそう言い、ユウタを抱いたまま歩き出す。

「恥ずかしいから」
「アズに見られることがですか?」
「そ、それもそうだけど」
「なら、なおさら見せつけて」
「タリダス?」
「失礼しました」

 タリダスは何事もなかったように涼しい顔をして、ユウタを運ぶ。

「アズ、入るぞ」
「はい!」

 タリダスが扉を叩くと、素直な返事が返ってくる。
 ユウタはその反応の驚きながら、タリダスと一緒に部屋に入る。

「ゆ、ユウタ様?」
「あ、アズ。元気?」

 タリダスにお姫様だっこされているユウタと対面して、アズはぎこちない笑みを浮かべる。

「元気だぞ。ユウタ様も元気そうでよかった」
「うん」

 アズもまだ歩けないらしく、ベッドの上に座っている状態だ。そうなると見下ろす形で、ユウタは居心地が悪かった。

「タリダス、おろしてもらってもいい?」
「はい」

 器用に椅子を動かして、ユウタをゆっくりと椅子の上に座らせる。かと思えて、タリダスはユウタを抱えたまま、椅子に座る。

「タリダス?」
「何か問題がありますか?」

 ユウタはタリダスの変わりように驚きを隠せない。
 アズは何か悟ったように余計なことを言うことはなかった。

 ☆

「ユータ様がお目覚めになったそうです」

 ケイスはフロランに報告する。
 すると彼は心の底から安堵したような表情をして、ケイスは疑問を浮かべる。
 それはフロランにも伝わり、苦笑された。

「ケイス。私はアルロー様の身を案じているのですよ。心の底から」

 ケイスはフロランの言葉を信じられない。今までの態度、言葉から彼がアルローの心配をしている素振りがみれなかったからだ。

「私も遊びすぎましたね。そろそろ、もういいでしょうか。彼は、アルローではないですし」

 いつもの軽口を叩く言い方ではなく、フロランが語る。

「ケイス。あなたを私の護衛から解任し、騎士団へ再入団させます。先日の魔物との戦いお疲れ様でした」
「宰相閣下?」
「おや、不思議そうな顔をしてますね。私に護衛はもういりません。騎士団も人手が必要になりますし。あなたがウィルの罪に問われることはないのです。親子といえども他人です」
「はい」

 しみじみと話すフロランはいつもと違う人物のようで、ケイスは釈然としなかった。

「用事はユータ様のことだけですね。もう戻ってもいいですよね。明日からこちらに来る必要はありません。騎士団に直接通ってください」
「はい。短い間でしたがありがとうございました。また騎士団へ再入団の件もありがとうございました」

 ケイスは深々と頭を下げたが、フロランは興味がないようで、ヒラヒラを手を振り、彼に背を向ける。
 そのような態度は変わらず、ケイスは幾分安堵して宰相室を後にした。

「さあ、行きますか」

 ケイスが退出し、フロランは身支度を整えると王の執務室へ向かう。そこに前王妃のソレーヌも来るはずだった。

 密談に適した王の部屋、寝室とは別に作れたら執務も可能な場所。
 扉や壁が厚く、中で何が起きているのかわかりずらい。窓もなく、扉を守っている護衛は王が中にいる時、王の許しがない限り何人も中に入れることはできない。
 すでに王から聞かされていることもあり、扉は簡単に開かれた。フロランは躊躇なく足を踏み入れる。
 そこにはすでにソレーヌの姿もあった。

「これで揃ったな」

 ロイは確認するようにフロランに問い、彼は満足そうに頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】《BL》拗らせ貴公子はついに愛を買いました!

白雨 音
BL
ウイル・ダウェル伯爵子息は、十二歳の時に事故に遭い、足を引き摺る様になった。 それと共に、前世を思い出し、自分がゲイであり、隠して生きてきた事を知る。 転生してもやはり同性が好きで、好みも変わっていなかった。 令息たちに揶揄われた際、庇ってくれたオースティンに一目惚れしてしまう。 以降、何とか彼とお近付きになりたいウイルだったが、前世からのトラウマで積極的になれなかった。 時は流れ、祖父の遺産で悠々自適に暮らしていたウイルの元に、 オースティンが金策に奔走しているという話が聞こえてきた。 ウイルは取引を持ち掛ける事に。それは、援助と引き換えに、オースティンを自分の使用人にする事だった___  異世界転生:恋愛:BL(両視点あり) 全17話+エピローグ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
BL
 俺、春翔は至って平凡な男子高校生だ。  だというのに、ある日トラックにつっこむ女子高生を助けたら……異世界に転移してしまった!  しかも俺が『聖女』って、どんな冗談?  第一王子、カイン。宮廷魔法師、アルベール。騎士団長、アーサー。  その他にも個性的な仲間に囲まれつつ、俺は聖女として、魔王にかけられた呪いを解く仕事を始めるのだった。  ……いややっぱおかしくない? なんか色々おかしくない?  笑ってないで助けろ、そこの世話係!! ※作中にBL描写はありますが、主人公が通してヘテロ、最後まで誰とも結ばれないため、「ニアBL」としています。 ※全体コメディタッチ~部分的シリアス。ほぼ各話3000文字以内となるよう心掛けています。

ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】

君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め × 愛を知らない薄幸系ポメ受け が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー ──────── ※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。 ※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。 ※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。 ※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。

《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ

ぽむぽむ
BL
交通事故死により中世ヨーロッパベースの世界に転移してしまった主人公。 セオリー通りの神のスキル授与がない? 性別が現世では女性だったのに男性に?  しかも転移先の時代は空前の騎士ブーム。 ジャンと名を貰い転移先の体の持ち前の運動神経を役立て、晴れて騎士になれたけど、旅先で知り合った男、リシャールとの出会いが人生を思わぬ方向へと動かしてゆく。 最終的に成り行きで目指すは騎士達の目標、聖地!!

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

人生に脇役はいないと言うけれど。

月芝
BL
剣? そんなのただの街娘に必要なし。 魔法? 天性の才能に恵まれたごく一部の人だけしか使えないよ、こんちくしょー。 モンスター? 王都生まれの王都育ちの塀の中だから見たことない。 冒険者? あんなの気力体力精神力がズバ抜けた奇人変人マゾ超人のやる職業だ! 女神さま? 愛さえあれば同性異性なんでもござれ。おかげで世界に愛はいっぱいさ。 なのにこれっぽっちも回ってこないとは、これいかに? 剣と魔法のファンタジーなのに、それらに縁遠い宿屋の小娘が、姉が結婚したので 実家を半ば強制的に放出され、住み込みにて王城勤めになっちゃった。 でも煌びやかなイメージとは裏腹に色々あるある城の中。 わりとブラックな職場、わりと過激な上司、わりとしたたかな同僚らに囲まれて、 モミモミ揉まれまくって、さあ、たいへん! やたらとイケメン揃いの騎士たち相手の食堂でお仕事に精を出していると、聞えてくるのは あんなことやこんなこと……、おかげで微妙に仕事に集中できやしねえ。 ここにはヒロインもヒーローもいやしない。 それでもどっこい生きている。 噂話にまみれつつ毎日をエンジョイする女の子の伝聞恋愛ファンタジー。    

処理中です...