虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎

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第二章 魔王

2-10 戦いの後

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「旦那様、おかえりなさい」

 屋敷へ戻ると、雰囲気が妙だった。浮かれているような。
 そんなことを思っていると、部屋に案内され、彼はベッドの上のユウタと対面した。

「ユータ様!」

 タリダスは駆け足で一気にベッドまで詰め、ユウタを抱きしめる。

「いたい、いたいから。タリダス」
 
 強めの抱擁で、ユウタは彼の背中を叩きながら、抗議する。

「どうしてすぐに知らせなかった?」
「待って、タリダス。僕がみんなに言ったんだ。僕は元気だし、タリダスの邪魔をしたくなかったから」

 噛み付くように控えていた執事ジョンソンに問いただしたタリダスをユウタが慌てて止める。
 ユウタの目覚めに気がついた侍女長マルサが、城にいるタリダスに知らせを送ろうとしたのをユウタが止めた。彼にも説明したように仕事の邪魔をしたくなかったからだ。

「邪魔など、あなたのためなら何がなんでもすぐに戻ってきました」
「それが嫌なんだ。僕は。あなたの邪魔をしたくないから」
「わかりました。とりあえず体に異常がないか確認させてください」
「うん」

 すぐに医師が呼ばれ、ユウタの体を検査する。それは別室にいるアズに対しても同じだった。

「アズも大丈夫かな」
「大丈夫でしょう」
「アズの様子見に行ってもいい?」
「今からですか?」
「うん」
「いいでしょう。ただし私が連れていきます」
 
 タリダスはベッドの上のユウタの体を抱き上げる。それは横抱きの、いわゆるお姫様だっこで、ユウタの頬が一気に真っ赤に染まる。

「タリダス。僕は自分で歩くから」
「一週間もベッドの上にいらしたんです。まともに歩くことはできないしょう」

 タリダスは淡々とそう言い、ユウタを抱いたまま歩き出す。

「恥ずかしいから」
「アズに見られることがですか?」
「そ、それもそうだけど」
「なら、なおさら見せつけて」
「タリダス?」
「失礼しました」

 タリダスは何事もなかったように涼しい顔をして、ユウタを運ぶ。

「アズ、入るぞ」
「はい!」

 タリダスが扉を叩くと、素直な返事が返ってくる。
 ユウタはその反応の驚きながら、タリダスと一緒に部屋に入る。

「ゆ、ユウタ様?」
「あ、アズ。元気?」

 タリダスにお姫様だっこされているユウタと対面して、アズはぎこちない笑みを浮かべる。

「元気だぞ。ユウタ様も元気そうでよかった」
「うん」

 アズもまだ歩けないらしく、ベッドの上に座っている状態だ。そうなると見下ろす形で、ユウタは居心地が悪かった。

「タリダス、おろしてもらってもいい?」
「はい」

 器用に椅子を動かして、ユウタをゆっくりと椅子の上に座らせる。かと思えて、タリダスはユウタを抱えたまま、椅子に座る。

「タリダス?」
「何か問題がありますか?」

 ユウタはタリダスの変わりように驚きを隠せない。
 アズは何か悟ったように余計なことを言うことはなかった。

 ☆

「ユータ様がお目覚めになったそうです」

 ケイスはフロランに報告する。
 すると彼は心の底から安堵したような表情をして、ケイスは疑問を浮かべる。
 それはフロランにも伝わり、苦笑された。

「ケイス。私はアルロー様の身を案じているのですよ。心の底から」

 ケイスはフロランの言葉を信じられない。今までの態度、言葉から彼がアルローの心配をしている素振りがみれなかったからだ。

「私も遊びすぎましたね。そろそろ、もういいでしょうか。彼は、アルローではないですし」

 いつもの軽口を叩く言い方ではなく、フロランが語る。

「ケイス。あなたを私の護衛から解任し、騎士団へ再入団させます。先日の魔物との戦いお疲れ様でした」
「宰相閣下?」
「おや、不思議そうな顔をしてますね。私に護衛はもういりません。騎士団も人手が必要になりますし。あなたがウィルの罪に問われることはないのです。親子といえども他人です」
「はい」

 しみじみと話すフロランはいつもと違う人物のようで、ケイスは釈然としなかった。

「用事はユータ様のことだけですね。もう戻ってもいいですよね。明日からこちらに来る必要はありません。騎士団に直接通ってください」
「はい。短い間でしたがありがとうございました。また騎士団へ再入団の件もありがとうございました」

 ケイスは深々と頭を下げたが、フロランは興味がないようで、ヒラヒラを手を振り、彼に背を向ける。
 そのような態度は変わらず、ケイスは幾分安堵して宰相室を後にした。

「さあ、行きますか」

 ケイスが退出し、フロランは身支度を整えると王の執務室へ向かう。そこに前王妃のソレーヌも来るはずだった。

 密談に適した王の部屋、寝室とは別に作れたら執務も可能な場所。
 扉や壁が厚く、中で何が起きているのかわかりずらい。窓もなく、扉を守っている護衛は王が中にいる時、王の許しがない限り何人も中に入れることはできない。
 すでに王から聞かされていることもあり、扉は簡単に開かれた。フロランは躊躇なく足を踏み入れる。
 そこにはすでにソレーヌの姿もあった。

「これで揃ったな」

 ロイは確認するようにフロランに問い、彼は満足そうに頷いた。
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