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第二章 魔王
2-9 黒髪の少年と金髪の少年
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「アズ。大丈夫?」
「大丈夫。あんたは?なんで、こんなこと。俺のことなんてほっといてくれたらよかったのに!」
「できないよ」
「ああ、あんたは聖剣の使い手だもんな。魔王は敵だ」
「うん。そうなんだけど、それだけじゃないんだ。君は僕なんだ」
「は?」
ユウタと魔王になってしまっていた少年アズは草原の中に二人だけだった。
そこは草原が無限に広がっていて、空はどこまでも青い。
静かな世界だった。
「僕は、異世界から連れてこられた」
「異世界?なんだそれ」
「この世界ではない別の世界だ。君のように黒髪に黒い瞳の人がいっぱいいるんだ」
それを聞いてアズが目を瞬かせる。
「僕はそこで浮いた存在だった。両親や親戚の誰にも似ていない。両親たちは皆黒髪に黒い瞳だった。君のように」
ユウタがそう言うとアズは気がついたようで、目を見開く。
「僕には誰にも味方がいなかった。誰からも嫌われていて、近づいてくる人は嫌な目をしていて、体を触ってきた」
ユウタはそこで目を伏せてしまった。
アルローの記憶があり、今はあの場所から遠いところにいる。
しかし、思い出すと気分が悪くなる。
「あんた、大丈夫だったのかよ!」
「……タリダスが救ってくれたんだ。あの世界から彼が僕を救い出してくれて、この世界へ連れてきてくれた。まあ、僕は元々この世界の人の生まれ変わりだったんだけど」
ユウタは気まずそうな表情をしているアズに笑いかける。
「君の気持ちはわかる。僕もタリダスが救ってくれなければ、どうなっていたかわからない」
「ふん。それでわざわざか」
「……余計なお世話なのはわかってる。だけど、僕は君を殺したくなかった。だって、君の気持ちがわかるから」
「救ってもらっても一緒さ。どうせ俺は殺される。村人を全部殺してやったからな」
「僕が殺させない。絶対に。一緒に逃げよう。僕がこの世界の人間だったみたいに、君も元々は日本人かもしれない」
「ニホン?」
「うん。そのうち記憶を取り戻すかもしれない。一緒に旅をしようよ」
「旅か。いいな。俺、村から出たことないから」
「僕だって、この世界に来てから、タリダスの家とお城、あの森しか知らないけど」
「なんだ。頼りないな。二人で旅なんて無理だろう」
「だけど、僕は君を殺されたくない。絶対に」
「あ、いま気がついたけど、あんた、なんて名前?」
「今、それ聞くの?」
「だって、今気がついたらからさ」
「僕の名前はユウタ。こっちの人はみんなユータって呼ぶ」
「ユウタか」
「あ、アズは僕の名前ちゃんと呼べるんだね。やっぱり元は日本人かもしれないね」
「ニホン人?だったら、面白いな」
「そうだね」
二人は笑い合う。
「ユータ様!」
「タリダス?!」
草原の中に扉が現れ、そこからタリダスが姿を見せた。
「え?なんでここに?夢の中だよね」
ユウタは戸惑い、その後ろのアズは怯えた様子で彼の背後に隠れている。
身長はアズの方が少し高いので、隠れてはいないが。
「起きてください。本当はこのまま連れていきたいですが、これはきっと夢の中なので、どうなるかわからないので」
「起きるって言われても。ねえ。アズ」
「おう」
ユウタは背後のアズに確認するように尋ねる。
「夢だとわかっているなら、目覚めることができるはずです。そう願えば。ユータ様。どうか、目を覚めしていただき、私に元気な姿をみせてください。もう一週間も眠り続けてます」
「一週間も?!」
そう言ったのはアズと同時だった。
タリダスはそれが面白くなかったようで、不機嫌な顔になり、アズは怯えてまたユウタの後ろに隠れようとする。
「アズ、だったか。お前の体も我が屋敷で預かっている。安心しろ。ユータ様がお前を救いたいと言ったのだ。私はユータ様の意志を第一に考える」
タリダスがそう言うとアズはほっとしたように隠れるのはやめた。
「ユータ様。お願いです」
タリダスの時間が来たようで、彼の姿が薄くなっていく。
「ユータ様!」
彼を呼ぶ声を最後にタリダスの姿が完全に見えなくなった。
「あれがタリダスか。あんたを救ったって言う」
「うん。そうだよ。優しい人なんだ」
「そ、そうか」
アズは目を逸らしたながらそう返事した。
☆
「くそっつ」
ユウタ達の姿が消えたと思ったら、タリダスは城の地下室にいた。
魔物が消えてから、ユウタが目覚めなくなった。それは魔王だった少年アズも一緒だ。
アズについて、ケイスを含め村人から話を聞いた者に箝口令を敷いた。いつかは漏れることはわかっていたが、少しその時間が遅まればとタリダスはケイスに頼んだ。
その場のケイスも、ユウタの言葉を聞いており、ユウタが少年を守りたいと思っていることは知っていた。胸糞悪いが、タリダスはケイスのユウタへの気持ちを利用した。
ユウタと少年アズを自身の屋敷へ連れ帰り、一週間。
疲労のために休んでいるにしては長すぎた。医師にも見せたが原因不明だった。
ユウタの体にまとわりついた黒い影、そして黒く染まった聖剣。
騎士団長として、報告しなければならない。
しかし、彼はただユウタが魔王を倒したとしか、報告しなかった。黒く染まった聖剣は鞘に入れ、屋敷へ持ち帰っている。
ユウタを目覚めさせる手がかりはないかと、城の地下室へ行った。そこで彼はユウタの声を聞いた気がして、異世界への扉を開けた。
(あれは夢の中だったのか。やけにあの少年と仲良さげだった)
タリダスは同じ年頃であろう二人が気安く話をしているのに、少し嫉妬した。
(こんな時に馬鹿なことを)
自嘲して彼は地下室から外に出た。
「大丈夫。あんたは?なんで、こんなこと。俺のことなんてほっといてくれたらよかったのに!」
「できないよ」
「ああ、あんたは聖剣の使い手だもんな。魔王は敵だ」
「うん。そうなんだけど、それだけじゃないんだ。君は僕なんだ」
「は?」
ユウタと魔王になってしまっていた少年アズは草原の中に二人だけだった。
そこは草原が無限に広がっていて、空はどこまでも青い。
静かな世界だった。
「僕は、異世界から連れてこられた」
「異世界?なんだそれ」
「この世界ではない別の世界だ。君のように黒髪に黒い瞳の人がいっぱいいるんだ」
それを聞いてアズが目を瞬かせる。
「僕はそこで浮いた存在だった。両親や親戚の誰にも似ていない。両親たちは皆黒髪に黒い瞳だった。君のように」
ユウタがそう言うとアズは気がついたようで、目を見開く。
「僕には誰にも味方がいなかった。誰からも嫌われていて、近づいてくる人は嫌な目をしていて、体を触ってきた」
ユウタはそこで目を伏せてしまった。
アルローの記憶があり、今はあの場所から遠いところにいる。
しかし、思い出すと気分が悪くなる。
「あんた、大丈夫だったのかよ!」
「……タリダスが救ってくれたんだ。あの世界から彼が僕を救い出してくれて、この世界へ連れてきてくれた。まあ、僕は元々この世界の人の生まれ変わりだったんだけど」
ユウタは気まずそうな表情をしているアズに笑いかける。
「君の気持ちはわかる。僕もタリダスが救ってくれなければ、どうなっていたかわからない」
「ふん。それでわざわざか」
「……余計なお世話なのはわかってる。だけど、僕は君を殺したくなかった。だって、君の気持ちがわかるから」
「救ってもらっても一緒さ。どうせ俺は殺される。村人を全部殺してやったからな」
「僕が殺させない。絶対に。一緒に逃げよう。僕がこの世界の人間だったみたいに、君も元々は日本人かもしれない」
「ニホン?」
「うん。そのうち記憶を取り戻すかもしれない。一緒に旅をしようよ」
「旅か。いいな。俺、村から出たことないから」
「僕だって、この世界に来てから、タリダスの家とお城、あの森しか知らないけど」
「なんだ。頼りないな。二人で旅なんて無理だろう」
「だけど、僕は君を殺されたくない。絶対に」
「あ、いま気がついたけど、あんた、なんて名前?」
「今、それ聞くの?」
「だって、今気がついたらからさ」
「僕の名前はユウタ。こっちの人はみんなユータって呼ぶ」
「ユウタか」
「あ、アズは僕の名前ちゃんと呼べるんだね。やっぱり元は日本人かもしれないね」
「ニホン人?だったら、面白いな」
「そうだね」
二人は笑い合う。
「ユータ様!」
「タリダス?!」
草原の中に扉が現れ、そこからタリダスが姿を見せた。
「え?なんでここに?夢の中だよね」
ユウタは戸惑い、その後ろのアズは怯えた様子で彼の背後に隠れている。
身長はアズの方が少し高いので、隠れてはいないが。
「起きてください。本当はこのまま連れていきたいですが、これはきっと夢の中なので、どうなるかわからないので」
「起きるって言われても。ねえ。アズ」
「おう」
ユウタは背後のアズに確認するように尋ねる。
「夢だとわかっているなら、目覚めることができるはずです。そう願えば。ユータ様。どうか、目を覚めしていただき、私に元気な姿をみせてください。もう一週間も眠り続けてます」
「一週間も?!」
そう言ったのはアズと同時だった。
タリダスはそれが面白くなかったようで、不機嫌な顔になり、アズは怯えてまたユウタの後ろに隠れようとする。
「アズ、だったか。お前の体も我が屋敷で預かっている。安心しろ。ユータ様がお前を救いたいと言ったのだ。私はユータ様の意志を第一に考える」
タリダスがそう言うとアズはほっとしたように隠れるのはやめた。
「ユータ様。お願いです」
タリダスの時間が来たようで、彼の姿が薄くなっていく。
「ユータ様!」
彼を呼ぶ声を最後にタリダスの姿が完全に見えなくなった。
「あれがタリダスか。あんたを救ったって言う」
「うん。そうだよ。優しい人なんだ」
「そ、そうか」
アズは目を逸らしたながらそう返事した。
☆
「くそっつ」
ユウタ達の姿が消えたと思ったら、タリダスは城の地下室にいた。
魔物が消えてから、ユウタが目覚めなくなった。それは魔王だった少年アズも一緒だ。
アズについて、ケイスを含め村人から話を聞いた者に箝口令を敷いた。いつかは漏れることはわかっていたが、少しその時間が遅まればとタリダスはケイスに頼んだ。
その場のケイスも、ユウタの言葉を聞いており、ユウタが少年を守りたいと思っていることは知っていた。胸糞悪いが、タリダスはケイスのユウタへの気持ちを利用した。
ユウタと少年アズを自身の屋敷へ連れ帰り、一週間。
疲労のために休んでいるにしては長すぎた。医師にも見せたが原因不明だった。
ユウタの体にまとわりついた黒い影、そして黒く染まった聖剣。
騎士団長として、報告しなければならない。
しかし、彼はただユウタが魔王を倒したとしか、報告しなかった。黒く染まった聖剣は鞘に入れ、屋敷へ持ち帰っている。
ユウタを目覚めさせる手がかりはないかと、城の地下室へ行った。そこで彼はユウタの声を聞いた気がして、異世界への扉を開けた。
(あれは夢の中だったのか。やけにあの少年と仲良さげだった)
タリダスは同じ年頃であろう二人が気安く話をしているのに、少し嫉妬した。
(こんな時に馬鹿なことを)
自嘲して彼は地下室から外に出た。
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