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第二章 魔王

2‐6 立案

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「少年を救いたい?」
「うん。どうするかはわからない。だけど、もしかして対話したら何か方法が見つかるんじゃないかって思うんだ」

 着替えを済ませてさっぱりしたところで、タリダスを呼んでユウタは考えを伝えた。
 甘い考えだと思うが、彼はそれを捨てきれなかった。
 熟考した後、タリダスは大きく息を吐き、口を開く。

「対話できるように、騎士団がほかの魔物を押さえるんですね」
「うん。魔王は恐らく後ろにいるから、一気に魔物を突破して、魔王の元まで行きたい。もし対話してだめなら、僕は魔王を殺すよ。僕の手で」

 救いたいと思っている。
 しかし彼のアルローとしての部分が、冷静さをユウタに訴える。

「わかりました。馬で一気にかけましょう。ユータ様は私の馬に乗ってください。騎馬隊を組んで、一気に中央突破しましょう」

 昼は魔物を探すのは難しい。
 夜になると森から魔物が現れる。
 それはユウタの聖剣に惹かれるようにやってくる。

「ありがとう。負担をかけることになるけど」
「お任せください。私は作戦を立て、分隊長に伝えますので、ユータ様は夜までお休みください」
「それは悪いよ」
「我々は騎士ですから、体力があります。ユータ様の体力は我々の半分以下でしょう?聖剣の力は強大です。けれどもユータ様はユータ様のままですから」
「うん。その通りだね。足でまといになるのが一番よくないよね」
「そんなことは思っておりません」
「分かってるよ。タリダス。しっかり休んで、今夜で決着をつけよう。民を不安から解放するんだ」
「はい。よろしくお願いします」

 タリダスはそう言うとユウタから離れた。手に持っているのは桶と彼の汚れた衣服だ。

「洗い物までごめん」
「洗い物には担当者がいますから。ご心配なく。それではお休みください。邪魔が入らないようにジニーに言いつけておきます」
「う、うん。ありがとう」

 タリダスは何か思い出したのか、藍色の瞳が剣吞な色を帯びていた。ユウタは少し驚きながらも素直に返事する。
 天幕を出ていく彼を見送り、ユウタはベッドに倒れ込んだ。
 鞘に入った聖剣を胸に抱き、目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。



 タリダスが分隊長を呼び出し、作戦を伝えると動揺が広がる。
 無理だという反応が大半だった。

「時間をかければかけるだけ、我々の兵力が減るだけだ。魔王がいる限り、魔物は生み出され続ける。
今夜一気に片を付ける」

 中央突破の構図は簡単だ。
 軍の配列を細くして槍のように攻め入る。突入に失敗したら包囲される危険な作戦だった。
 なのでタリダスは中央突破だけでなく、前方と後方から挟み撃ちにする手も加えることにした。

「軍を全部投入することはしない。軍を三つに分ける。先行部隊、突入部隊、後方部隊だ。先行部隊は突入部隊が動く同時に動き、魔物の群れの外側から回り込み、前方からたたく。突入部隊は私とユータ様と共に馬に乗って中央を突破する。後方部隊は我々が後ろから狙い撃ちされないように、魔物を叩いてほしい」

 言葉にするのは簡単だ。
 それを実行できるのかは疑問が残る。 
 
「第一分隊と第二分隊は先行部隊、第三は突入部隊、第四と五は後方を頼む。鍵は魔王と魔物を分断させることだ。皆、最善を尽くしてくれ。今夜が最後の戦いになるように」

 タリダスは静かに、しかし迷うことなく、命令を下す。
 騎士団の分隊長はタリダスの決断に従うしかない。沈黙が天幕を覆ったが、それを破ったのはケイスだった。

「宰相閣下が魔王討伐に参加したものには特別に褒美を与えると言っておりました。魔王を倒して生き残りましょう」

 そう言うと、分隊長たちが急に活気づく。

「それは本当ですか!ケイス殿」
「本当です。私は宰相閣下から言付かっております」
「うぉ!」
「やるぞ!」

 タリダスは分隊長の様子に目を瞬かせる。
 ケイスがそのことを彼に伝えなかったことに抗議しようかと一瞬だけ考えた。
 しかし、折角生まれた分隊長たちの覇気を削る真似はできない。
 一瞬だけケイスを睨んだ後、分隊長たちに声をかける。

「ケイス殿は宰相閣下の護衛騎士だ。彼が言うなら間違いはないだろう。私からも宰相閣下に申し出よう。今夜で魔王を打破する。皆、いいな!」
「はっ!」

 分隊長全員が起立し、敬礼する。
 そうして、それぞれの分隊の準備を整えるため天幕から出ていった。

「ヘルベン卿。私も第三分隊の突入部隊に加えていただきます」
「それは宰相閣下の命令か?」
「そうとも言えますね」

 はっきりしない物言いにタリダスは苛立つ。
 自分を汚そうとした男の息子、同じ顔で同じ空間にいるだけで気分が悪くなった。
 こうして言葉を交わすことも本来は嫌なのだが、騎士団長として話さなければならない。また今回の魔王打倒のために宰相代理である彼の存在は分隊長たちのやる気をみなぎらせる役目も果たした。
 無下にはできない。
 魔王を打倒できずともユウタが納得する結末を迎えさせたい。 
 タリダスは魔王になった少年についてこれといった思い入れがないので、ただユウタのことを思い行動している。
 国を守る騎士団の頭としては不適切な考えだと思いつつ、タリダスはユウタを第一に考えるようになっていた。

「決して足手まといにはなりません。ユータ様を守り切って見せましょう」
「頼むぞ」

 頼みたくなどないが、ユウタを完璧に守るため、タリダスは自身の気持ちを押し殺しケイスに答えた。
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