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第二章 魔王
2-2 二人の溝
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「タリダス!」
油断していたのか、魔物がタリダスに迫っていた。
人型ではあるが、真っ黒に黒焦げた奇怪な生き物。それが歯を剥いて彼の背後を突こうとしていた。
黒い奇妙な物、魔物を消し去ったのはユウタの聖剣だった。
ユウタは今やハルグリアの英雄となっていた。
黒い奇怪な物体、それは人型だったり、獣のような四本足だったりしたが、どれも黒焦げで人に襲いかかり、食らおうとする。伝説にしか残っていないもの、人々はそれを魔物を呼んだ。
その魔物がによって一つの村が蹂躙されてから、二週間が経過しようとしている。
最初はユウタの存在に戸惑っていた者も、騎士団と共に前線で魔物の群れと交戦し続けている彼の姿を見て、その存在を認めつつあった。
それに対して複雑な思いを浮かべるのはタリダス、そしてロイ派の貴族と前王妃ソレーネだった。
「ありがとうございます。ユータ様」
「礼なんていらないから」
ユウタは深々と頭を下げるタリダスに困ったように答える。
魔物との戦いが始まり、タリダスとユウタの間に溝が生まれ、それは徐々に深くなっていた。
タリダスは、守るべきユウタが聖剣を持ち、アルローのように戦うことに戸惑い、ユウタとどう接していいかわからなくなっていた。
「ユータ様。素晴らしかったです」
「あ、うん。ありがとう。ケイス。あなたはフロランの護衛でしょう?王宮に戻らなくてもいいの?」
三日前に、王宮からフロランの使者がきた。それはケイスで、フロランの命で魔物との戦闘に参加している。彼の目となり、報告を義務付けられているということだった。
ユウタは、ケイスといるとアルローの感情に呑まれそうになるので、すぐにタリダスを探す。彼の傍にいると感情の波にのまれずに済む。タリダスはこの時は素直にユウタの傍にいて、彼にされるがままになっていた。
はたから見たら奇妙な関係に見える。それがわかっているから、ケイスはユウタがひとりでいる時を狙おうとするのだが、いつもタリダスが駆け付け邪魔をされていた。
「ところで、ユータ様。魔物はどうしたら完全にいなくなるのでしょうか?」
「魔物の王、魔王を倒す必要があると、聖剣は言ってます」
「魔王、ですか?それは、どこにいるのですか?」
「多分魔物の中心か、一番後ろだと思う。早く魔物を蹴散らして、魔王にところにいけたらいいんだけど、難しい」
「ユータ様は精いっぱい頑張ってます」
ケイスは励ますようにそう言うが、タリダスは心ここにあらずというように、ユウタの傍に立っているが言葉を発しようとしなかった。
(タリダス。どうして)
ユウタはタリダスが傍にいると安心できた。しかし、今はタリダスが何を考えているかわからず、不安になることもあった。
☆
「タリダス。話がしたい」
魔物は活動時間が夜だ。
ユウタは日中は眠るように心がけていて、眠りにつく前にタリダスと話がしたかった。
「かしこまりました」
タリダスはアルローに対するように返事をした。
その距離感を寂しく思いながら、ユウタはタリダスを天幕に誘う。
最初はタリダスと同じ天幕で過ごしていたが、ユウタが英雄視されるようになり、彼専用の天幕が用意された。用意したのはフロランの命を受けたケイスだ。
少し大きめの天幕に一人、使用人など置きたくなく、身支度はすべて一人でしていた。
「立ったままじゃ落ち着かないから、座って」
ユウタは椅子をタリダスに進め、自身もその向かいの椅子に座る。それを確認してからタリダスも腰かけた。
「タリダス。僕はユウタだ。余所余所しくするのはやめてほしい。お願いだから」
ユウタはそう切り出し、タリダスを見つめる。
彼は目を細めて、ユウタを見つめなおす。
「あなたは、本当にユータ様ですか?」
「そうだよ。僕はユウタだよ」
「アルロー様がユータ様の振りをしているのではないのですか?」
「違う。それは違う。今の僕は、ユウタだけど、アルローでもある。タリダスは、こんな僕は嫌い?」
「嫌いなどと、恐れ多いことです」
「……そうだよね」
タリダスは以前のようにユウタに対して優しい笑みを見せなくなってしまった。アルローに対して見せる敬意。それをひしひしから感じる。同時にアルローに対する怒りも。
ユウタ自身は、アルローの気持ちを感じることができても、以前と変わらないつもりだった。けれども、周りの者の対応はどんどん変わっていく。
変わらないのはケイスとフロランくらいだった。
それは、彼らがユウタに対して最初からアルローとして対応していたから。
魔物と戦うため、王宮から出てきて二週間。
周りはユウタを英雄視し始めた。
それは、アルローの記憶からすると当然のことだが、ユウタとしては戸惑う気持ちしかなかった。しかもタリダスもこのような態度で、ユウタは酷く悲しかった。
「わかったよ。タリダスの気持ちは」
アルローがタリダスにした仕打ちは酷いものだ。
彼がケイスの父ウィルに処罰を与えなかったため、ウィルはタリダスを傷つけることになった。
アルローのせいだ。
だから、ユウタはこれを罰だと思うことにした。
日本から連れてきてもらい、優しくしてもらった。それだけで十分だと彼は諦めた。
アルローの記憶を見て、彼と融合して、ユウタは自身の役目を理解した。
災厄である魔王を殺し、魔物を消滅させる。
そのための聖剣の使い手として、彼は転生した。
自分の役目を果たそう。
ユウタはそう思い、自身の気持ちに蓋をする。
感情を閉じるのは日本でやってきたことだった。彼にはタリダスや屋敷の者たちに優しくされた思い出がある。それだけで十分だと自身に言い聞かせた。
「もう下がっていいよ。タリダスもしっかり休んで。僕も休むから」
泣きそうになる気持ちを押さえて、彼は視線をタリダスから外して言う。
ユウタはタリダスの顔を見ることができなかった。
油断していたのか、魔物がタリダスに迫っていた。
人型ではあるが、真っ黒に黒焦げた奇怪な生き物。それが歯を剥いて彼の背後を突こうとしていた。
黒い奇妙な物、魔物を消し去ったのはユウタの聖剣だった。
ユウタは今やハルグリアの英雄となっていた。
黒い奇怪な物体、それは人型だったり、獣のような四本足だったりしたが、どれも黒焦げで人に襲いかかり、食らおうとする。伝説にしか残っていないもの、人々はそれを魔物を呼んだ。
その魔物がによって一つの村が蹂躙されてから、二週間が経過しようとしている。
最初はユウタの存在に戸惑っていた者も、騎士団と共に前線で魔物の群れと交戦し続けている彼の姿を見て、その存在を認めつつあった。
それに対して複雑な思いを浮かべるのはタリダス、そしてロイ派の貴族と前王妃ソレーネだった。
「ありがとうございます。ユータ様」
「礼なんていらないから」
ユウタは深々と頭を下げるタリダスに困ったように答える。
魔物との戦いが始まり、タリダスとユウタの間に溝が生まれ、それは徐々に深くなっていた。
タリダスは、守るべきユウタが聖剣を持ち、アルローのように戦うことに戸惑い、ユウタとどう接していいかわからなくなっていた。
「ユータ様。素晴らしかったです」
「あ、うん。ありがとう。ケイス。あなたはフロランの護衛でしょう?王宮に戻らなくてもいいの?」
三日前に、王宮からフロランの使者がきた。それはケイスで、フロランの命で魔物との戦闘に参加している。彼の目となり、報告を義務付けられているということだった。
ユウタは、ケイスといるとアルローの感情に呑まれそうになるので、すぐにタリダスを探す。彼の傍にいると感情の波にのまれずに済む。タリダスはこの時は素直にユウタの傍にいて、彼にされるがままになっていた。
はたから見たら奇妙な関係に見える。それがわかっているから、ケイスはユウタがひとりでいる時を狙おうとするのだが、いつもタリダスが駆け付け邪魔をされていた。
「ところで、ユータ様。魔物はどうしたら完全にいなくなるのでしょうか?」
「魔物の王、魔王を倒す必要があると、聖剣は言ってます」
「魔王、ですか?それは、どこにいるのですか?」
「多分魔物の中心か、一番後ろだと思う。早く魔物を蹴散らして、魔王にところにいけたらいいんだけど、難しい」
「ユータ様は精いっぱい頑張ってます」
ケイスは励ますようにそう言うが、タリダスは心ここにあらずというように、ユウタの傍に立っているが言葉を発しようとしなかった。
(タリダス。どうして)
ユウタはタリダスが傍にいると安心できた。しかし、今はタリダスが何を考えているかわからず、不安になることもあった。
☆
「タリダス。話がしたい」
魔物は活動時間が夜だ。
ユウタは日中は眠るように心がけていて、眠りにつく前にタリダスと話がしたかった。
「かしこまりました」
タリダスはアルローに対するように返事をした。
その距離感を寂しく思いながら、ユウタはタリダスを天幕に誘う。
最初はタリダスと同じ天幕で過ごしていたが、ユウタが英雄視されるようになり、彼専用の天幕が用意された。用意したのはフロランの命を受けたケイスだ。
少し大きめの天幕に一人、使用人など置きたくなく、身支度はすべて一人でしていた。
「立ったままじゃ落ち着かないから、座って」
ユウタは椅子をタリダスに進め、自身もその向かいの椅子に座る。それを確認してからタリダスも腰かけた。
「タリダス。僕はユウタだ。余所余所しくするのはやめてほしい。お願いだから」
ユウタはそう切り出し、タリダスを見つめる。
彼は目を細めて、ユウタを見つめなおす。
「あなたは、本当にユータ様ですか?」
「そうだよ。僕はユウタだよ」
「アルロー様がユータ様の振りをしているのではないのですか?」
「違う。それは違う。今の僕は、ユウタだけど、アルローでもある。タリダスは、こんな僕は嫌い?」
「嫌いなどと、恐れ多いことです」
「……そうだよね」
タリダスは以前のようにユウタに対して優しい笑みを見せなくなってしまった。アルローに対して見せる敬意。それをひしひしから感じる。同時にアルローに対する怒りも。
ユウタ自身は、アルローの気持ちを感じることができても、以前と変わらないつもりだった。けれども、周りの者の対応はどんどん変わっていく。
変わらないのはケイスとフロランくらいだった。
それは、彼らがユウタに対して最初からアルローとして対応していたから。
魔物と戦うため、王宮から出てきて二週間。
周りはユウタを英雄視し始めた。
それは、アルローの記憶からすると当然のことだが、ユウタとしては戸惑う気持ちしかなかった。しかもタリダスもこのような態度で、ユウタは酷く悲しかった。
「わかったよ。タリダスの気持ちは」
アルローがタリダスにした仕打ちは酷いものだ。
彼がケイスの父ウィルに処罰を与えなかったため、ウィルはタリダスを傷つけることになった。
アルローのせいだ。
だから、ユウタはこれを罰だと思うことにした。
日本から連れてきてもらい、優しくしてもらった。それだけで十分だと彼は諦めた。
アルローの記憶を見て、彼と融合して、ユウタは自身の役目を理解した。
災厄である魔王を殺し、魔物を消滅させる。
そのための聖剣の使い手として、彼は転生した。
自分の役目を果たそう。
ユウタはそう思い、自身の気持ちに蓋をする。
感情を閉じるのは日本でやってきたことだった。彼にはタリダスや屋敷の者たちに優しくされた思い出がある。それだけで十分だと自身に言い聞かせた。
「もう下がっていいよ。タリダスもしっかり休んで。僕も休むから」
泣きそうになる気持ちを押さえて、彼は視線をタリダスから外して言う。
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