虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎

文字の大きさ
上 下
28 / 43
第一章 王の生まれ変わり

28 次なる試練

しおりを挟む
「これは、これはユータ様とヘルベン卿。こんなところで何をされているんでしょうか?」
「それは私こそが聞きたい。宰相閣下」

 悠々と質問したフロランに、真正面から聞き返したのはタリダスだった。
 ユウタは、どう答えるのがよいか悩んでいた。
 ふと、フロランの傍にいたケイスと視線が合いそうになり、慌てて逸らす。
 アルローの、ケイスの父ウィルへの想いは深く、吞まれそうになるのだ。気が付くと彼はタリダスのローブの端をつかんでしまっていた。
 タリダスは驚いたようにユウタを振り返る。

「ユータ様。何か怯えさせてしまったようですね。申し訳ありません」
 
 フロランはそんな二人の様子を興味深けに眺めてながら、仰々しく話した。

「宰相閣下。僕とタリダスはこの辺を散歩していただけです。なのに騎士たちに囲まれ驚いてしまいました」

 ユウタはタリダスのローブの裾を掴みながら、視線を落として言葉を口にする。アルローとしてフロランと会話するつもりはなかった。彼がそれを望んでいたしても。

「そうですか。それは失礼いたしました。こんな廃墟で散歩とはおかしなものですね」
「……異世界からなので珍しいものばかりなのです」
「なるほど」

 フロランがそう言い、ユウタはほっと胸を撫でおろした。
 しかしそう簡単にいくわけがない。

「アルロー様。私は不思議なのですよ。なぜ、あなたが生まれ変わる必要があったのか?歴代で生まれ変わった王はいないでしょう?なぜなのでしょうね」
「さあ、僕は知りません」
「陛下が、王としてふさわしくないからでしょうか?」
「何を!」

 ユウタは自身の出自に悩み傷ついたロイを先ほど見た。なので、フロランのこの言葉にとっさに反応してしまう。

「ははは。やはり、記憶はあるのですね。アルロー様。そんな少年の仮面などは剝ぎ取ってしまえばいいのに」
「僕は、ユウタだ。アルロー様の記憶はある。だけど、僕はユウタだ。僕が偽物のように話すのはやめてください」
「あなたは、アルロー様だ。無垢で、美しくて、残酷な王」
「宰相閣下!それはアルロー様に対して礼を欠く言葉ではないか?」

 タリダスはフロランの言葉に我慢できず、とうとう口火を切った。

「怖い怖い。タリダスの忠誠心はさすがですね。さすが異世界までアルロー様の生まれ変わりを探しにいっただけだけあります」
「フロラン。お前は何が言いたいのだ。私はお前の邪魔をする気はない。放っておいてくれないか?」

 フロランののらりくらりとした言い方に、ユウタはもう隠すのをやめることにした。そうしないといつまでもこのバカげたやりとりを続けるのがわかっていたからだ。

「やっと、やっと話してくれますか。アルロー様。私はあなたが戻ってくるのを待っていました。私の邪魔?どういう意味でしょう?私はあなたが王位に就くのに反対してませんよ。だって陛下は、」
「フロラン。黙れ。お前は、お前という男は!」
「アルロー様。怒りましたね。ははは」

 フロランは狂ったように笑い、彼の騎士に動揺が広がる。
 ユウタはアルローの記憶から、フロランの常軌を逸した行動を知っているので、驚くことはなかった。タリダスはユウタの傍で呆然としていた。

「冗談ですよ。冗談。陛下は立派な王ですとも。私が仰ぐべく王です。アルロー様」

 ユウタはフロランに対して心底怒りを覚えた。しかし、アルローである意識の一部は彼に対して別の感情を持っていた。同情、罪悪感、そんな感情だ。
 正統な皇太子の子でありながら、王になれなかった。
 病弱な皇太子は執務に耐えらず、皇太子を退いた。
 王になったのは弟であったアルローの父。聖剣の導きもあり、アルローの父から、アルローに王位は継承され、フロランが表の場に出ることはなかった。
 優秀なフロランは、アルローに直談して宰相の位へ上り詰めた。
 忘れられた王子と陰で呼ばれたこともある彼だが、その才覚で人の口を黙らせてきた。

「宰相閣下。お戯れはその辺で十分でしょう。僕は王位には興味ありません。それを理解していただけますか?」
「あなたの考えはわかりました。アルロー様」
「僕はユウタです」

 ユウタはアルローとして答えないように、毅然と答えた。その側にはタリダスが守るように立つ。
 ケイスが動き、フロランの前に立った。
 それだけで、ユウタは思考が乱れそうになった。アルローの感情が剥き出しになりそうで、彼はタリダスの腕を掴んだ。するとユウタとしての自分の意志が保てるような気がした。

「おやおや。いじめすぎましたか。ケイス。大丈夫ですよ」

 フロランが笑い、ケイスを下がらせる。
 視界から彼の姿がきて、アルローの思いがやっと収まる。

「ユータ様?」
「うん。大丈夫だから」
「ユータ様。ぜひ今度は王宮でお茶をゆっくり飲みましょう。お待ちしております」
「うん。わかった」

 そういえば、フロランは引く。
 わかっているので、ユウタは茶会への参加を了承した。
 隣のタリダスは何か言いたげだが、何も言わなかった。

「さあ、王宮に戻りましょうか」

 フロランの言葉に、騎士たちが一斉に緊張を解く。そして王宮へ戻り始めようとした時、一人の兵士が飛び込んできた。

「宰相閣下!ああ、騎士団長もこちらへ」

 兵士の息は乱れ、目は血走っていた。

「何かありましたか?」

 フロランが問いかける。

「ま、魔物が出ました。西のシシスの村は壊滅です」
「魔物?それは確かなのですか?」
「動物でも、人でもない化け物が一斉に村を襲ったようです。命からがら逃げてきたものがそう言っております」
「確かめる必要があるな。宰相閣下は王宮へ、私は一度屋敷に戻ってから王宮へ行きます」
「タリダス。このまま王宮へ行こう。お願い。フロラン。いいよね?」
「勿論ですとも」

 このような状況なのにフロランは嬉しそうに笑う。

「ユータ様」
「僕がやらなければならない。この為に再び生を得たのだから」

 不安げなタリダスにユウタがはっきりと答える。
 それをフロランは満足そうに、ケイスは眩しそうに見惚れていた。

(一章 完)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...