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第一章 王の生まれ変わり
27 温もり
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ユウタたちが次に王ロイと会ったのは、三日後の夜だった。
王宮へ行くとフロランたちに気づかれるため、ロイが秘密の通路を渡って王宮から出て、廃墟である教会で会うことになった。
王妃ジョアンヌが王の不在をフロランとソレーヌの目から隠すため、ロイの部屋にジョアンヌが待機している。表向きはロイの体調不良という設定だ。
ユウタとタリダスは目立たないようにマント深くかぶり、屋敷からこの廃墟へやってきた。表で会話するよりも通路で話をしたほうがいいと、二人は壁の壁画を動かし、扉を抜けて、秘密の通路へ侵入した。
しばらくすると、足音がひたひたとして、二つの影が近づいてきた。
空気の少ない場所で松明を使うのは自殺するようなものなので、暗闇で四人は対峙する。
「父上、ユータか」
「はい。陛下」
影の一人はロイであり、その声を聞いてからユウタは返事をした。
四人はそれぞれがほっと息を吐く。
「来てくれてありがとう。これでゆっくり話せそうだ。お茶くらいほしいものだが、無理な相談だな」
「お茶はこの次にいただきます。まずはあなたのことが心配です」
ロイの顔色は暗くてよくわからない。しかし声に張りがなく、ユウタは心配になった。
「ご心配ありがとうございます」
ロイは王としてではなく、アルローの息子として答える。
それを懐かしく思う気持ちが込み上げてきて、ユウタは胸が痛くなった。
「父上、いえ。ユータ。あなたに私に代わって王になっていただきたい。その話うけていただけますか?フロランが妨害するでしょうが、命懸けで阻止します」
ロイの側にいるのはリカルドだ。暗闇に目を慣れてきて、顔の輪郭がはっきり見えた。前回この話をロイがした時は驚いたが、今回は無表情だった。表情がわかりやすい彼にしては珍しい反応で、ユウタは彼がこの件に反対していることを悟る。
彼の反対の意志など関係なく、ユウタはこの話に乗る気はなかった。
「ロイ。私にその意志はない」
ユウタはアルローの口調で答える。そのほうがロイにとっていいと判断したからだ。そばにいたタリダスの動揺が伝わってきたが、ユウタは気づかないフリをした。
「王はお前だ。私は死んだ身だ。そして今はユウタという普通の少年だ。タリダスに私の生まれ変わり、ユウタを探すように頼んだのは、王になるためではない」
「それでは、なぜ」
ロイは驚き、その声は震えている。
「聖剣のためだ。……魔物の出現に備えるため、聖剣が使えるものが必要なのだ」
「……私が汚れた血だから」
「ロイ。何を言っているのだ。お前の血は汚れてなどいない」
ユウタとロイの間で交わされる会話、タリダスとリカルドはそれを聞きながら、消え去った噂を思い出していた。
ロイが、アルローの子ではないという話だ。
それなら誰の子となり、緑色の瞳を持つことから、フロランが父親だと噂がたったことがあった。アルローとフロランは激昂して、その噂を流したものたちに処罰を加えた。
二人の苛烈な反応から、噂は噂に過ぎないと人々はそれぞれの脳裏から噂を消し去ることになる。
「ロイ。お前は私の子だ。わかったな」
「……はい」
「話はそれだけか?もうそんなことを考えるのはやめよ。フロランも心配する」
「しかし、父上、あなたは」
「昔のことだ。私は死した身。今はユウタなのだから。タリダス。戻ろう」
「父上」
「陛下。僕はユウタですよ。あなたは確かにアルロー様の子です。正当な王です」
「………」
ロイは頭を抱え、座り込む。
「陛下!」
リカルドがロイの身を案じて、同様にしゃがみ込んだ。
「ロイ。立て。今までハルグリアを立派に治めてきたのはお前だ。お前が王として治め続けなくてどうする。私はお前をずっと見守っている」
「父上」
ユウタは涙を堪えて、屈み込んだロイを抱きしめた。
大人の体躯を包み込むことなどは不可能で、抱きついたというのは正しい言い方だ。
「あ、ありがとうございます」
「もう、大丈夫だね。今度、王妃様にも会わせてください」
「あ、ああ。是非」
涙を交えた声でロイが答え、ユウタは彼の頭を一度撫でると立ち上がった。
「今度は王宮へ会いに行きます」
「ま、待っている」
ユウタはロイに一礼すると、呆然として様子のタリダスの側に近づいた。
「タリダス。戻ろう?」
「は、はい」
様子がおかしいタリダスは、頷くと歩き出す。
「タリダス。ちょっと待って」
足の長さが違うのだ。
ユウタは彼に追いつこうとして、バランスを崩す。
「すみません」
タリダスの反応は早く、転ぶ前にユウタの身を抱きしめた。
「ありがとう。ごめんなさい」
「謝る必要などありません。私の方こそ、申し訳ありません」
「謝る必要なんてないよ。僕が、アルロー様なのが嫌になった?」
「そ、そんなこと!」
「隠さなくてもいいよ。タリダス。僕もわからないんだ。今はアルロー様の気持ちがわかるし、アルロー様ならこうするだろうなあと思うと自然に体が動くんだ。でも、自分の意志だよ」
「そうですか」
「タリダスは、やっぱりこんな僕は嫌?」
「そんなことはありません!」
「アルロー様のしたことが犯した罪は重い。だからアルロー様である僕ことが嫌いなのはわかる。だけど、僕はタリダスが大事だ。タリダスの役に立ちたい」
「私がユータ様を嫌いなどありえません。アルロー様のことも私は尊敬しています。けども気持ちが落ち着かないのです」
「うん。嫌われていなくてよかった。ごめんなさい」
「謝れなくてもいいです。お願いですから」
「うん」
「ユータ様、手を掴んでもいいですか?」
「うん。いいけど」
ユウタがそう答えると、そっとタリダスがユウタの手に触れ、掴む。
タリダスの手は自分よりかなり大きくてゴツゴツしており、温かかった。
彼の手はユウタに安心感を与えて、先ほどまでの緊張が一気に解けた。
「ありがとう」
「どうしてお礼を?」
「こうしてタリダス様の手に触れると、安心するんだ」
「私もです」
「一緒だね」
「そうですね」
そうして二人は手を繋ぎながら歩く。
通路の終わりがきて手を離す。
扉を開け、二人が目にしたのはフロランと、その騎士たちだった。
王宮へ行くとフロランたちに気づかれるため、ロイが秘密の通路を渡って王宮から出て、廃墟である教会で会うことになった。
王妃ジョアンヌが王の不在をフロランとソレーヌの目から隠すため、ロイの部屋にジョアンヌが待機している。表向きはロイの体調不良という設定だ。
ユウタとタリダスは目立たないようにマント深くかぶり、屋敷からこの廃墟へやってきた。表で会話するよりも通路で話をしたほうがいいと、二人は壁の壁画を動かし、扉を抜けて、秘密の通路へ侵入した。
しばらくすると、足音がひたひたとして、二つの影が近づいてきた。
空気の少ない場所で松明を使うのは自殺するようなものなので、暗闇で四人は対峙する。
「父上、ユータか」
「はい。陛下」
影の一人はロイであり、その声を聞いてからユウタは返事をした。
四人はそれぞれがほっと息を吐く。
「来てくれてありがとう。これでゆっくり話せそうだ。お茶くらいほしいものだが、無理な相談だな」
「お茶はこの次にいただきます。まずはあなたのことが心配です」
ロイの顔色は暗くてよくわからない。しかし声に張りがなく、ユウタは心配になった。
「ご心配ありがとうございます」
ロイは王としてではなく、アルローの息子として答える。
それを懐かしく思う気持ちが込み上げてきて、ユウタは胸が痛くなった。
「父上、いえ。ユータ。あなたに私に代わって王になっていただきたい。その話うけていただけますか?フロランが妨害するでしょうが、命懸けで阻止します」
ロイの側にいるのはリカルドだ。暗闇に目を慣れてきて、顔の輪郭がはっきり見えた。前回この話をロイがした時は驚いたが、今回は無表情だった。表情がわかりやすい彼にしては珍しい反応で、ユウタは彼がこの件に反対していることを悟る。
彼の反対の意志など関係なく、ユウタはこの話に乗る気はなかった。
「ロイ。私にその意志はない」
ユウタはアルローの口調で答える。そのほうがロイにとっていいと判断したからだ。そばにいたタリダスの動揺が伝わってきたが、ユウタは気づかないフリをした。
「王はお前だ。私は死んだ身だ。そして今はユウタという普通の少年だ。タリダスに私の生まれ変わり、ユウタを探すように頼んだのは、王になるためではない」
「それでは、なぜ」
ロイは驚き、その声は震えている。
「聖剣のためだ。……魔物の出現に備えるため、聖剣が使えるものが必要なのだ」
「……私が汚れた血だから」
「ロイ。何を言っているのだ。お前の血は汚れてなどいない」
ユウタとロイの間で交わされる会話、タリダスとリカルドはそれを聞きながら、消え去った噂を思い出していた。
ロイが、アルローの子ではないという話だ。
それなら誰の子となり、緑色の瞳を持つことから、フロランが父親だと噂がたったことがあった。アルローとフロランは激昂して、その噂を流したものたちに処罰を加えた。
二人の苛烈な反応から、噂は噂に過ぎないと人々はそれぞれの脳裏から噂を消し去ることになる。
「ロイ。お前は私の子だ。わかったな」
「……はい」
「話はそれだけか?もうそんなことを考えるのはやめよ。フロランも心配する」
「しかし、父上、あなたは」
「昔のことだ。私は死した身。今はユウタなのだから。タリダス。戻ろう」
「父上」
「陛下。僕はユウタですよ。あなたは確かにアルロー様の子です。正当な王です」
「………」
ロイは頭を抱え、座り込む。
「陛下!」
リカルドがロイの身を案じて、同様にしゃがみ込んだ。
「ロイ。立て。今までハルグリアを立派に治めてきたのはお前だ。お前が王として治め続けなくてどうする。私はお前をずっと見守っている」
「父上」
ユウタは涙を堪えて、屈み込んだロイを抱きしめた。
大人の体躯を包み込むことなどは不可能で、抱きついたというのは正しい言い方だ。
「あ、ありがとうございます」
「もう、大丈夫だね。今度、王妃様にも会わせてください」
「あ、ああ。是非」
涙を交えた声でロイが答え、ユウタは彼の頭を一度撫でると立ち上がった。
「今度は王宮へ会いに行きます」
「ま、待っている」
ユウタはロイに一礼すると、呆然として様子のタリダスの側に近づいた。
「タリダス。戻ろう?」
「は、はい」
様子がおかしいタリダスは、頷くと歩き出す。
「タリダス。ちょっと待って」
足の長さが違うのだ。
ユウタは彼に追いつこうとして、バランスを崩す。
「すみません」
タリダスの反応は早く、転ぶ前にユウタの身を抱きしめた。
「ありがとう。ごめんなさい」
「謝る必要などありません。私の方こそ、申し訳ありません」
「謝る必要なんてないよ。僕が、アルロー様なのが嫌になった?」
「そ、そんなこと!」
「隠さなくてもいいよ。タリダス。僕もわからないんだ。今はアルロー様の気持ちがわかるし、アルロー様ならこうするだろうなあと思うと自然に体が動くんだ。でも、自分の意志だよ」
「そうですか」
「タリダスは、やっぱりこんな僕は嫌?」
「そんなことはありません!」
「アルロー様のしたことが犯した罪は重い。だからアルロー様である僕ことが嫌いなのはわかる。だけど、僕はタリダスが大事だ。タリダスの役に立ちたい」
「私がユータ様を嫌いなどありえません。アルロー様のことも私は尊敬しています。けども気持ちが落ち着かないのです」
「うん。嫌われていなくてよかった。ごめんなさい」
「謝れなくてもいいです。お願いですから」
「うん」
「ユータ様、手を掴んでもいいですか?」
「うん。いいけど」
ユウタがそう答えると、そっとタリダスがユウタの手に触れ、掴む。
タリダスの手は自分よりかなり大きくてゴツゴツしており、温かかった。
彼の手はユウタに安心感を与えて、先ほどまでの緊張が一気に解けた。
「ありがとう」
「どうしてお礼を?」
「こうしてタリダス様の手に触れると、安心するんだ」
「私もです」
「一緒だね」
「そうですね」
そうして二人は手を繋ぎながら歩く。
通路の終わりがきて手を離す。
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