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第一章 王の生まれ変わり

22 前日

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「いよいよ、明日だね」
「怖くありませんか?」
「怖いよ。でも、僕、頑張る」

 ケイスから渡されたフロランの手紙、それは王宮への招待状だった。
 念には念をいれてか、現王ロイの署名もされたその手紙は王命と同等の意味を持つ。
 アルローの生まれ変わりと主張し、前王の権限を使い断ることも可能だった。
 しかし、ユウタは王宮に騒ぎを持ち込むつもりはなかった。
 不満そうなタリダスを説得し、予定通り、明日、ユウタはジニーを護衛として、タリダスと共に王宮へ参る。

「やはりやめましょう」
「ううん。僕は王宮に行くよ」
「どうしてですか?」
「僕に害意がないことをわかってもらいたいんだ」
「そんな事わかってくれるわけが」
「うん。難しいだろうね。だけど、このままタリダスの屋敷にずっといるわけにもいかないだろう?」
「そんなことは。ユータ様は一生私の屋敷で暮らしてもらっても構いません。窮屈かもしれないですが」
「タリダス。僕はあなたに迷惑をかけたくないんだ。僕の問題は僕が解決しなきゃ」
「僕の、って。アルロー様の問題ですよね」
「タリダス。最近、おかしいよ。僕とアルロー様は同じだよ。僕の前世はアルロー様だ」
「ですが、あなたとアルロー様は違います」
「うん。だけど」
「私はあなたに行ってほしくない」
「だめだよ。タリダス。僕は逃げたくない」

 アルローは、過去の自身の過ちから逃げ続け、それが新たな問題を引き起こした。
 ユウタはこれ以上、タリダスに傷ついてほしくなかった。だから、自分が動いて少しでもタリダスの負担を減らしたかった。

「決意は固いのですね」
「うん。そのために頑張ってきたし」
「そうですね」

 ユウタは部屋から出て活発に人を話すようになった。おかげで、大人と一緒にいても怖くなくなった。アルローの記憶の影響かもしれない。しかし、ユウタにとっては大きな前進だった。

「では、明日。予定通り、王宮へお連れします」
「お願いします」
「ジニーを常に傍に置くようにしてくださいね」
「うん。わかってるよ」

 今はタリダスがそばにいるために、部屋に控えていないが、ジニーはユウタの護衛として常に傍に控えるようになっていた。
 はじめは大きな図体に鋭い眼光が気になっていたが、彼は気配を消すことにたけているらしく、ユウタが慣れるのは早かった。

「それにしても、この服は派手だよ」
「そうですか?」

 ユウタはベッドの上に置かれた正装を指さし、タリダスに抗議する。今更変更は利かないことはわかっているので、言ったところで無駄なことはわかっていた。しかし、ユウタは文句を言わずにはいられなかった。
 ジャケットの色は鮮やかな赤色。中のシャツは白色だが、襟がフリルで縁取られ、スカーフには細かな刺繍がされている。

「よく似合ってらっしゃいましたよ」
「そう?だけど、派手で、ちょっと恥ずかしいよ」
「なぜですか?とても綺麗ではないですか」
「綺麗?そういうのは女の人に対して使う言葉だよ」
「すみません」
「え?どうして謝るの?」
「あなたを女性だと思ったことはありません」
「あ、当たり前だろう。タリダスは変なことを言う。僕は気にしていないから。ほめられるのは嬉しいし」
「そうですか。よかった」

 タリダスは心底安心したように微笑む。
 それを見て、ユウタは笑ってしまった。

「どうしたんですか?」
「ううん。タリダスって結構いろいろ気にするんだね」
「そうですか?」
「うん、そうだよ。僕にそんなに気を使わなくていいからね。アルロー様のことで、気になるのはわかるけど」
「アルロー様は関係ありません」

 タリダスは少し語調を強めていい、ユウタはまだ彼がアルローに対して怒りを覚えていることを実感する。

「タリダス。アルロー様の誤りは僕の誤りでもある、本当にごめんなさい」
「そう思うなら、王宮に行くのをやめてもらえますか?」
「タリダス……」
「冗談です。申し訳ありません」
「タリダス。謝らないで。悪いのは僕だから」

 ユウタを頭を垂れたタリダスに顔を上げてほしくて、その肩に触れた。
 途端に体をびくっと揺らして、タリダスは顔を上げる。
 見開かれた藍色の瞳が光を帯びて、明るく見えた。 
 その瞳に映るのは驚いた顔をしたユウタだった。

「ごめんなさい」
「いえ、私こそ」

 その後、ユウタとタリダスはぎくしゃくした会話を繰り返し、別れた。



「楽しみだわ。明日やっとアルローが来るのね。ああ、ユータだったわね」
「アルロー様ですよ。ソレーネ様」
「ユータはアルローとは違うでしょう?」
「一緒ですよ」
「本当、フロラン。あなたはおかしい人ね」
「退屈しないでしょう?」
「ええ、そうね」

 ソレーネはフロランへ微笑みを返す。

「タリダスが紹介してくれた針子も面白い人だったわ。王宮がにぎやかになりそうね」
「ええ。とても賑やかになるでしょう」
「ロイを悲しませることだけはやめて頂戴ね」
「ええ。当然です」

 前王妃の苦言にフロランは即答する。
 しかし、その口元は笑みを讃えたままで、ソレーネは溜息をつく。

「あなたがしたいようにすればいいわ。だけど、ロイを巻き込むのはやめて。わかるでしょう?」
「わかっております。ソレーネ様」
「アルローのことになると、本当にあなたは嫌な人だわ」
「それは褒め言葉でしょうか?」
「そんなわけないでしょう?ロイを傷つけたら、どうなるかわかっているかしら?」
「それこそ、あなたこそ、どうなるかわかっているのですか?」
「……私の負けだわ。私はどうなってもいいわ。あなたの遊びにも付き合ってあげる。これまでと同じように。だけど、ロイだけはだめ。お願い」
「アルロー様は優しい方です。陛下を傷つけるようなことはしないでしょう」
「ええ。そうよ。アルローはね。あなたは、違うでしょう?」
「私だって、陛下を傷つけるようなことはしません」
「約束よ」
「ええ」

 ソレーネはフロランを睨みつけ、その返事を聞いた後、踵を返した。
 そして逃げるように宰相執務室を出ていく。

「陛下はすでに気が付いているのですよ。ソレーネ様。あなただけがそれを知らない」

 部屋に取り残されたフロランは、ソレーネが出ていった扉を眺めながら憐れむようにつぶやいた。

 
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