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第一章 王の生まれ変わり

18 アルローとユータ

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 ユウタことアルローと共に食事をとってから、タリダスは自室に戻った。
 疲れたので休むと言われたからだ。

 あの男と同じ顔をした男、ケイスが傍にいるだけで苦痛が伴い、あの顔を見るだけで、動機がして動揺を抑えるだけで大変だった。
 また彼は何もできない自分に苛立った。
 アルローは彼を守るようにケイスと話をし、フロランともやり合う。
 さすがわが主人と誇る気持ちと、自身の不甲斐なささが恥ずかしくなる。
 同時にアルローであってよかったと心の底から思った。
 ユウタであれば、あのフロランに翻弄されていたかもしれない。
 またケイスがユウタを親しげに話す様子を見ただけで、我を忘れそうな自分が想像できた。
 アルローとユウタ。
 同じはずなのに、タリダスの中で別人のような扱いになっていた。

「私はいったい」

 ユウタが気になるのは、大切にしたいのは、アルローの生まれ変わりだからだ。
 タリダスはずっとそう思っていた。
 しかし、こうしてアルローが表に出てきて、それが違うことに気が付いた。

「ユータ様」

 タリダスは、ユウタが戻ってくることを祈っている。
 それがアルローが消えることにつながっても。

「……なんてことだ」

 タリダスは自身の想いが信じられなくて、椅子に座り込んだ。

 ☆

「ユウタ」

 アルローは、自分の中で眠るユウタの意識に語りかける。

「王宮にいくことになった。もう少し眠っているがいい。フロランが何を考えているのか知りたいのだ」

 ユウタの意識は答えない。

「ユウタ。タリダスがお前を待っている。私は邪魔者だな」

 アルローは苦笑する。

「もう少し、眠っているといい。目覚めたとき、少しでもお前にとって優しい環境にするつもりだ」

 彼はロイの邪魔をするつもりはなかった。
 フロランとソレーネが犯した罪についても、彼は黙っているつもりだった。
 ユウタとして知らないふりをする。
 フロランを欺き通して、無害な存在だと思わせる。
 アルローが目指すところはそこだった。

「しっかし、この体は細すぎだ。よく食べて、鍛えなければ」

 アルローが十四歳の頃、身長はかわらないがもう少し肉付きがよく、うっすらと筋肉もついていた気がした。
 しかしユウタの体は筋肉どころか、肉付きがよくない。頬は少しふっくらとしてきたが、手足はまだもやしのようだった。

「このハルグリアで、お前は幸せになるのだ。ユウタ。そのために、体を鍛えるぞ」

 悩んでいる時間はない。
 フロランが仕掛けてくるのは王宮に行ってからだ。それまでにこの体を少しでも鍛えようとアルローは横になったベッドから立ち上がった。

 ☆

「体を鍛える?」
「そうだ」

  夕食をタリダスと取りながら、アルローはユウタの貧相な体を鍛えることを提案していた。

「お前は日中、王宮だろう。その間、私は走ったりして、体術や剣技を学びたいのだ。過去の記憶を探れば、自分で学べるだろうが、私は一人でやっていたら怪しまれるだろう?」
「確かにそうですね」
「お前の使用人で、元騎士がいるだろう。一人ユウタに付けろ。私は、ユウタとして振る舞うから。今後の護衛にもなるだろう」
「……わかりました。私が手配しましょう。後ほど連れてきます。今日中に挨拶等は済ませておいたほうがいいですからね」
「すまんな。頼む」

 タリダスは突然の願いにも拘わらず、アルローの希望を叶える。
 これは昔からそうで、懐かしくなった。

「お前は以前と一緒だな。感謝している。ユウタを探してくれたことも本当に」
「アルロー様。そんなお礼なんて」
「あのままユウタが日本にいたならば、どうなっていたかわからない。お前は命と心の恩人だ」
「アルロー様」

 タリダスを傷つけたのは自身の過去の過ち。
 それを話してしまえばどうなるのか。
 尊敬の眼差しがなくなるのは当然で、憎まれるかもしれない。
 アルローは彼を見ながら、想いに耽る。
 
「タリダス。過去の過ちはすべて私の罪だ。ユウタには関係ない。どうか、ユウタを頼む」
「アルロー様」

 まだ話す勇気はなかった。
 しかし、ユウタの口からアルローの過ちを語らせるのは間違っているとわかっていた。
 王宮に行く前に話そうと、アルローはそのことを考えるのはやめた。

「それでは、後ほど連れてきます」

 ユウタの意識が眠りにつき、アルローが表に出てくるようになってからも食事は一緒に取るようにしていた。ユウタの生活を急に変えるのは屋敷の者に疑問を持たせると思ったからだった。

 タリダスが出ていき、アルローは残されたお茶を口にする。
 少し冷えてしまったが、まだほんのり温かい。

「ユータ様」

 タリダスが再度部屋を訪れるまで、わずかな時間だった。
 余計なことを考える前に彼が来てくれたことをありがたく思い、入室を許可する。

「ユータ様。彼は普段庭師をしているジニーです。十年前まで騎士をしていて、引退の際に声を掛けました」

 タリダスが連れてきたのは、壮年の屈強な男だった。
 髪は反り上げていて、眼光は鋭い。
 ユウタであれば震えていたかもしれない、アルローはそう思いながらジニーを見上げる。

「ユータ様。ジニーです。明日からよろしくお願いします」
「ジニー。僕はユウタです。よろしくお願いします」

 ユウタの口調と態度を意識しながら、アルローはジニーに挨拶を返す。
 タリダスがまた微妙な表情をしていて笑いそうになった。

「ジニー。あなたが暇な時間に合わせたい。いつの時間帯が空いている?」
「えっと、あの」

 そう聞かれると予想していなかったらしく、ジニーはタリダスに視線を送った。

「ジニー。言われたとおりに答えていい。ユータ様は心優しい方で、お前の邪魔をしたくないのだ」
「そ、そうですか。それならば、午後のお茶の時間あたりでよろしいでしょうか?」
「わかりました。その時間になったら庭に出ます」
「いえ、ジニーに迎えに行かせましょう。いいな。ジニー」
「はい」

 ユウタは人見知りをする。というよりも大人を怖がっている。そんな彼がひとりで屋敷を出歩くのは時期早々だ。
 タリダスの言葉に、アルローはユウタへのタリダスの想いを感じる。

「それではジニー。よろしくお願いします」
「は、はい。ユータ様」

 挨拶はそれで、ジニーはタリダスに促されて、先に部屋を出ていった。
 二人っきりになってから、アルローは再び口を開く。

「助かったぞ。タリダス」
「アルロー様。ユータ様はまだおひとりで屋敷を歩いたことがありません。なので気をつけてください」
「わかってる。ついな。だが、王宮ではそうはいかんだろう。今のうちに少しずつ一人で行動するようにしなければ」

そうならばユウタを今目覚めさせればいいのか。
アルローはふと考える。
しかし王宮で待つ困難を浮かべ、その考えを打ち消した。

「アルロー様」
「タリダス。しばらくした私は王宮にいかなければならない。色々問題が片付くまで、ユウタには寝ていてもらうつもりだ。再会がおくれるがすまんな」
「何をおっしゃってるのですか。アルロー様」

 タリダスはかなり動揺しており、アルローはおかしな気分になった。

「私は二人のお邪魔虫だな。しばらく我慢してくれ」
「お邪魔虫?」
「日本の言葉だ。仲のいい二人の間に入る者を揶揄する言葉だ」
「アルロー様。私は決してそんなこと思っておりません」
「どうであろうかな」
「アルロー様!」
「冗談だ」
「ひどい冗談です」
「すまん、すまん。タリダスは揶揄いがいがあるな」

 タリダスと話していると昔の穏やかな気持ちに戻る。
 それはとても心地よい。
 しかし、彼は近々ウィルのこと話さなければならないと思っていた。
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