上 下
14 / 28
第一章 王の生まれ変わり

14 アルロー・ハルグリア

しおりを挟む
 聖剣に触れ、倒れてしまったユウタを抱き上げ、タリダスはベッドに運ぶ。
 抱き上げた際に握っていた聖剣が床に落ちたが、彼は気に留めている余裕はなかった。
 ユウタの言葉が彼の耳に残っている。

『わかってるから。タリダス。僕はもう終わりにする。僕はアルロー様になる』

 タリダスにとってユウタとアルローは同じ人物だ。
 しかしユウタは終わりにすると、アルローになると彼に告げた。
 それはユウタが消えるという意味ではないか。
 その考えに至り、タリダスは寒気を覚えた。

「うっ」

 ユウタの声が耳に届き、タリダスは考えを中断する。
 ベッドの上でユウタが目を覚まし、体を起こしていた。

「ユータ様!」
「タリダス」

 名を呼ばれタリダスは違和感を覚える。
 違和感の正体はわからない。しかしユウタの顔を見て、はっきりと理解した。
 彼を見つめる眼差しは落ち着いており、表情には自信が満ち溢れている。

「アルロー様」
「お前にはわかるか」

 ユウタは微笑む。
 無邪気な笑みではなく、自信に満ちた微笑だ。
 念願のアルローと対面し、彼は嬉しいはずなのにユウタを失った喪失感が彼の心を揺るがす。

「タリダス。心配するな。ユウタの意識は消えていない。聖剣に触れたため情報が一気に彼の中に流れ込み、彼の許容範囲を超えたのだ。だから、私が代わりに出てきた」
「……ユータ様は、大丈夫なのでしょうか?」
「そうだな。しばらくかかるかもしれない。その間は私がユウタの代わりを務めよう」
「ユータ様の代わり、アルロー様が?」
 
 おかしなことを聞かされているのに、タリダスはユウタが消えていない事実に安堵していた。

「まったく薄情な臣下だな。久々の対面で私のことより、ユウタのことを心配するとは」
「も、申し訳ありません」
「冗談だ。私も彼の中でずっと彼を見てきた。とても可哀そうな子供だ。せめて生まれてくる国が別であったらよかったのだが」
「生まれてくる国ですか?」
「ああ。異世界にはいくつもの国がある。ユウタの生まれた国は黒髪と黒目が大半を占める民族で、私のような外見はとても珍しいのだ。それで、彼は酷い目にあってきた。聖剣に触れたことで、私はユウタの意識の一部として存在することができ、こうして表面に出てくることができた。それでなければ、私はユウタの意識の中で何もできないままだ。というよりも私はアルローであるが、すでにユウタなのだ」

 アルローから説明されるが、タリダスはよくわからずただ聞いているだけだった。
 ふと彼が手にかけた男も黒髪だったことを思い出し、怒りを覚える。

「タリダス。私はアルローではなく、ユウタとして振る舞うつもりだ。なので、誰にも私のことを話すな。ソレーネ、フロランにも話すつもりもない。ちょうどよい。ユウタとして二人には接しよう。ユウタには荷が重いからな」

 十四年前、彼が仕えたアルローそのままの口調で、ユウタは話す。

「タリダス。心配するな。ユウタは戻ってくる。私がこうして出てくるのはしばらくの間だ。そうだな。ユウタは環境があれだったから、痩せすぎだ。私がよく食べ、体を鍛え、彼の体調を管理しよう」
「それはよろしいですね」

 アルローの提案にタリダスは素直にうなずく。
 ユウタは来たばかりの頃よりは少しだけふっくらしているが、やはり痩せているのには変わりない。手足はとても細く、触れたら折れてしまうのでないかとタリダスは時折心配していた。

「まずは、酒でも飲んで、再会を祝おうじゃないか」
「アルロー様。その体はユータ様のもので、まだ小さい。お酒はよくないかと思います」
「そうか。そうだな。残念だ」

 本当に残念そうにアルローが言い、タリダスは苦笑する。
 ユウタがしたことのない表情をアルローは見せる。
 アルローとしては普通のことだが、タリダスはユウタの無邪気で幼い表情を思い出し、少し切なくなった。

「相変わらずだな。タリダス。辛気臭いぞ。ユウタは必ず戻ってくる。それよりも、目下の問題はソレーネとフロランだろう。二人は何を思ってユウタと会いたいと思ったのか。邪魔にしかならんだろう」
「アルロー様もそう思われますか」
「ああ」

 アルローは短く答え、タリダスは彼の予想がかなりあっているのではないかと考える。

「タリダス。過去は過去だ。ロイの治世で平和は保たれ、国民は幸せなのだろう。私はそれを乱すつもりはない」
「それなら、アルロー様はなぜ私に、あなたを探すように伝えられたのですか?」

 アルローの死はタリダスにとっては辛く、「私を探せ」と言われたことが彼の生きがいにもなった。

「理由は二つだ。一つはお前だ。私のことを後追いしそうだったからな。そう伝えれば、お前は私を探すために生き続けると思ったのだ。もう一つは聖剣だ。ロイは聖剣を扱えないだろう?聖剣の後継者は必ず必要だ。現時点で、聖剣の後継者足るものは王族にはいない」
「それは、なぜですか?」

 タリダスはずっと前から疑問だった。
 ロイはアルローの子であり、聖剣の後継者にふさわしいはずだった。しかし彼は聖剣に触れることはできても、その鞘を抜くことができなかった。アルローの従兄弟にあたるフロランも同じくだ。だからこそ、聖剣は地下に隠されようとしていた。

「理由はお前にでも言えない。記憶を共有したユウタは知っている。彼が目覚め、お前に話すようであれば聞くがいい。私から話すことはない」

 アルローの意志は強固で、タリダスはこのことを聞くのを諦めた。

「そういうことで、タリダス。ユウタをこの屋敷においてやってくれないか。なんならお前の息子にしてもいい」
「息子?それはちょっとなんでも」
「そうだな。お前には大きすぎるか」

 年齢ではなく、息子というよりも対等の立場で傍にいてほしいとタリダスは考えていたが、アルローには話さなかった。

「ユウタは、日本ではとても苦労していた。ハルグリアでは彼を愛してやってくれ。彼は純粋な愛を知らない」
「愛、ですか?」

 アルローからそう言われても、タリダスには理解できなかった。
 確かに両親には愛されて育った。愛というならばそれだと思う。
 しかし、タリダスはユウタに対してそういう思いを持っていない。
 大切にしたいという気持ちはある。
 守りたいとも。

「まあ、私が言わなくても、お前はユウタを大切にしているな。余計なお世話だったか。それよりも何か食べさせてくれないか。確かお前も夕食はまだだったな?」
「ああ、そうでした。すぐに用意します」
「ありがとう。それに聖剣も拾って、壁にでも立てかけておいてくれ」
「はい。そういたします」

 タリダスはアルローに頭を下げるとまずは床から聖剣を広い、壁に立てかける。それから夕食の準備のために部屋を出た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと

糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。 前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!? 「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」 激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。 注※微エロ、エロエロ ・初めはそんなエロくないです。 ・初心者注意 ・ちょいちょい細かな訂正入ります。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣

彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。 主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。 とにかくはやく童貞卒業したい ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。 美人攻め×偽チャラ男受け *←エロいのにはこれをつけます

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

推しの悪役令息に転生しましたが、このかわいい妖精は絶対に死なせません!!

もものみ
BL
【異世界の総受けもの創作BL小説です】 地雷の方はご注意ください。 以下、ネタバレを含む内容紹介です。 鈴木 楓(すずき かえで)、25歳。植物とかわいいものが大好きな花屋の店主。最近妹に薦められたBLゲーム『Baby's breath』の絵の綺麗さに、腐男子でもないのにドはまりしてしまった。中でもあるキャラを推しはじめてから、毎日がより楽しく、幸せに過ごしていた。そんなただの一般人だった楓は、ある日、店で火災に巻き込まれて命を落としてしまい――――― ぱちりと目を開けると見知らぬ天井が広がっていた。驚きながらも辺りを確認するとそばに鏡が。それを覗きこんでみるとそこには―――――どこか見覚えのある、というか見覚えしかない、銀髪に透き通った青い瞳の、妖精のように可憐な、超美少年がいた。 「えええええ?!?!」 死んだはずが、楓は前世で大好きだったBLゲーム『Baby's breath』の最推し、セオドア・フォーサイスに転生していたのだ。 が、たとえセオドアがどんなに妖精みたいに可愛くても、彼には逃れられない運命がある。―――断罪されて死刑、不慮の事故、不慮の事故、断罪されて死刑、不慮の事故、不慮の事故、不慮の事故…etc. そう、セオドアは最推しではあるが、必ずデッドエンドにたどり着く、ご都合悪役キャラなのだ!このままではいけない。というかこんなに可愛い妖精を、若くして死なせる???ぜっったいにだめだ!!!そう決意した楓は最推しの悪役令息をどうにかハッピーエンドに導こうとする、のだが…セオドアに必ず訪れる死には何か秘密があるようで―――――?情報を得るためにいろいろな人に近づくも、原作ではセオドアを毛嫌いしていた攻略対象たちになぜか気に入られて取り合いが始まったり、原作にはいない謎のイケメンに口説かれたり、さらには原作とはちょっと雰囲気の違うヒロインにまで好かれたり……ちょっと待って、これどうなってるの!? デッドエンド不可避の推しに転生してしまった推しを愛するオタクは、推しをハッピーエンドに導けるのか?また、可愛い可愛い思っているわりにこの世界では好かれないと思って無自覚に可愛さを撒き散らすセオドアに陥落していった男達の恋の行く先とは? ーーーーーーーーーー 悪役令息ものです。死亡エンドしかない最推し悪役令息に転生してしまった主人公が、推しを救おうと奮闘するお話。話の軸はセオドアの死の真相についてを探っていく感じですが、ラブコメっぽく仕上げられたらいいなあと思います。 ちなみに、名前にも植物や花言葉などいろんな要素が絡まっています! 楓『調和、美しい変化、大切な思い出』 セオドア・フォーサイス (神の贈り物)(妖精の草地)

BLゲームの脇役に転生した筈なのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろはある日、コンビニに寄った際に不慮の事故で命を落としてしまう。 その朝、目を覚ますとなんと彼が生前ハマっていた学園物BLゲームの脇役に転生!? 脇役なのになんで攻略者達に口説かれてんの!? なんで主人公攻略対象者じゃなくて俺を攻略してこうとすんの!? 彼の運命や如何に。 脇役くんの総受け作品になっております。 地雷の方は回れ右、お願い致します(* . .)’’ 随時更新中。

処理中です...