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第一章 王の生まれ変わり
12 穏やかな日々
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翌日、侍女長マルサによって起こされた。
まずは顔を洗いましょうと柔らかそうな布で顔を拭かれる。お湯につけた布はあったかく、心地よかった。
そこで、ユウタは気が付いた。
一昨日までマルサに触れられるのが嫌だったはずなのに、全然嫌悪感がわかなかったのだ。
さすがに歯磨きまでしようとしていたので、ユウタは慌てて止めた。
「あの、自分でできますから」
「はい。それでは失礼しますね。終わったら教えてください」
マルサはそう言って部屋を出ていく。
柔和な笑顔を崩すことなく、その笑みにもおかしなところはない。
疑う気持ちはまだあったが、素直に歯磨きをして、口を注いで、その後に着替えた。
「終わりました」
扉をたたくと、マルサがやってきて、昨日身に着けていた服や使用済の布を桶にいれる。
「朝食をお待ちしますね。少しお待ちください」
マルサは再び出ていき、湯気が立つミルク粥を持って戻ってきた。
日本で食べたことがなかったミルク粥。とろとろにの煮込まれた穀物にちぎったパンが浸されていて、ユウタはこれが大好きだった。それをタリダスが知ったのか、三日続けて朝食はミルク粥だが、飽きることはなかった。
今日もミルク粥を最後まで食べて、おかわりが必要か聞かれるくらいだった。
朝食の後は、読書だ。
部屋で退屈しないようにとタリダスが手配したらしく、さまざまなジャンルの本が持ってこられた。
またチェスのようなものも運ばれてきたが、ユウタはルールがわからない。
結局、本を読むことにした。
日本語とは全く違うし、英語でもない。
そんな言葉をユウタはスラスラと読む。
やはり、自分がこの世界の人間なんだと嬉しくなった。
しかし、視界に聖剣が入るとその喜びも霧散する。
彼はアルローであるから、この国の言葉が読める。
タリダスはアルローを待ち望んている。
ユウタはチラリと聖剣に視線を向けた。淡い光が聖剣から放たれている。
「やっぱり、触れた方がいいのかな」
本を閉じて、聖剣に歩み寄る。
触れようとしたが、その直前で動きを止めた。
「明日こそ、触ろう」
そう自分に言い聞かせて、再び本を読み始めた。
夕方になり、タリダスが戻ってきた。彼は着替えるとすぐにユウタの部屋にやってくる。
「何か不便なことはありましたか?」
「ないです。色々ありがとうございます」
「ああ、夕食は私が持ってきます」
「あの、お仕事帰りで疲れているんじゃないですか?大丈夫ですよ」
「でも、あの私がしたいのです」
「えっと、それならお願いします。ああ、でも僕に構わず夕食は取ってくださいね」
「それなら一緒に食べてもいいでしょうか?」
「あの、」
一緒に食事をするなど学校以外でユウタは経験したことがなかった。家では常に一人でご飯を食べていたからだ。しかも部屋の隅っこで、与えられる食事はスーパーかコンビニで安くなったもの。離婚してから母親が料理している姿を見たことはなかった。
「嫌でしょうか?」
「そうではなくて、僕、慣れていないので」
「慣れていない?」
「いつも一人で食べるのが普通だったんです」
「そうですか。私もですけど。試しに今日は一緒に食べましょう」
タリダスにそう言われ、ユウタは戸惑いながら頷いた。
ユウタの部屋に食事が運ばれてくる。さすがに二人分だったので、マルサも一緒に食事を運んできた。
柔らかく煮込んだ鶏肉に、野菜のスープ。パンが添えられている。
「いただきます」
家にいた時は使ってことがなかった言葉。だけど反射的にユウタはそう口にしていた。
「いただきます?食事の前に神にでも祈る言葉でしょうか?」
「うーん。わかりません。感謝の言葉だと思います。僕も普通は言っていないのでびっくりしました」
「それでは、私もいただきます」
タリダスがそう言った後、スプーンを掴んだのでユウタはおかしくなってしまった。
「何がおかしいのです?」
「あの、タリダスが面白いなあと思って」
「面白い? そんなことを言われたのは初めてですよ」
「そうですか?」
ユウタは子供っぽく拗ねたようなタリダスの新しい顔に、意外な彼の姿を見た感じがして嬉しくなった。
「ユータ様も少しおかしいですよ。私のことが面白いなんて」
「そうは思わないですけど」
くだらないやりとり、しかしユウタはタリダスとこのようなやり取りができて、喜んでいた。
「さあ、冷めないうちに食べましょう」
「はい」
タリダスに指摘され、ユウタは慌ててフォークを手にした。
トマトソースで煮込まれた鶏肉は柔らかく、彼はこの世界に連れてきてもらって本当に良かったと思った。
「今日はもしかして退屈でしたか?」
「全然、本をずっと読んでました」
「何か面白いものはありましたか?」
「勇者の話がとても面白かったです。聖剣もでてきました」
「ああ、勇者の話。アルロー様の先祖様ですね」
「あの、今は魔物はいないのですか?」
「はい。この千年の間、魔物と呼ばれるものが出現したことはないはずですよ」
「そうですか」
タリダスの答えに、ユウタは少しがっかりしたような気持ちになり、反省した。
物語の魔物は魔法や剣によって倒すことができる。
現実はわからない。
この世界にはどうやら魔法が存在していないので、魔物が出現したらどうなるのかという恐怖心もある。
聖剣で倒す、おそらくそれしかないのだろうが、そうなるとユウタの出番。
ユウタも人並みにヒーローにあこがれるが、実際問題は異なる。
彼は死に対して恐怖心があるのだ。
「どうしたのですか?」
急に黙り込んだユウタにタリダスが問いかける。
「あの、魔物が現れたら嫌だなと思って」
「そうですね。それは本当に困ります」
真剣にタリダスが答え、ユウタは自分から振った話なのに困ってしまった。
「大丈夫です。聖剣もありますし。私があなたを守りますから」
「あ、ありがとうございます」
聖剣を扱うのはアルローの生まれ変わりであるユウタ、しかしタリダスは守ってくれるという。
なんだか申し訳なくなって、ユウタは礼を言う。
「本当に、ユータ様は。そのように畏まる必要はないのです。私はあなたの騎士なのですから」
それはユウタがアルローの生まれ変わりだからだ。
ただのユウタには守ってくれる騎士はいない。
それに気が付いて、ユウタは曖昧に微笑んだ。
まずは顔を洗いましょうと柔らかそうな布で顔を拭かれる。お湯につけた布はあったかく、心地よかった。
そこで、ユウタは気が付いた。
一昨日までマルサに触れられるのが嫌だったはずなのに、全然嫌悪感がわかなかったのだ。
さすがに歯磨きまでしようとしていたので、ユウタは慌てて止めた。
「あの、自分でできますから」
「はい。それでは失礼しますね。終わったら教えてください」
マルサはそう言って部屋を出ていく。
柔和な笑顔を崩すことなく、その笑みにもおかしなところはない。
疑う気持ちはまだあったが、素直に歯磨きをして、口を注いで、その後に着替えた。
「終わりました」
扉をたたくと、マルサがやってきて、昨日身に着けていた服や使用済の布を桶にいれる。
「朝食をお待ちしますね。少しお待ちください」
マルサは再び出ていき、湯気が立つミルク粥を持って戻ってきた。
日本で食べたことがなかったミルク粥。とろとろにの煮込まれた穀物にちぎったパンが浸されていて、ユウタはこれが大好きだった。それをタリダスが知ったのか、三日続けて朝食はミルク粥だが、飽きることはなかった。
今日もミルク粥を最後まで食べて、おかわりが必要か聞かれるくらいだった。
朝食の後は、読書だ。
部屋で退屈しないようにとタリダスが手配したらしく、さまざまなジャンルの本が持ってこられた。
またチェスのようなものも運ばれてきたが、ユウタはルールがわからない。
結局、本を読むことにした。
日本語とは全く違うし、英語でもない。
そんな言葉をユウタはスラスラと読む。
やはり、自分がこの世界の人間なんだと嬉しくなった。
しかし、視界に聖剣が入るとその喜びも霧散する。
彼はアルローであるから、この国の言葉が読める。
タリダスはアルローを待ち望んている。
ユウタはチラリと聖剣に視線を向けた。淡い光が聖剣から放たれている。
「やっぱり、触れた方がいいのかな」
本を閉じて、聖剣に歩み寄る。
触れようとしたが、その直前で動きを止めた。
「明日こそ、触ろう」
そう自分に言い聞かせて、再び本を読み始めた。
夕方になり、タリダスが戻ってきた。彼は着替えるとすぐにユウタの部屋にやってくる。
「何か不便なことはありましたか?」
「ないです。色々ありがとうございます」
「ああ、夕食は私が持ってきます」
「あの、お仕事帰りで疲れているんじゃないですか?大丈夫ですよ」
「でも、あの私がしたいのです」
「えっと、それならお願いします。ああ、でも僕に構わず夕食は取ってくださいね」
「それなら一緒に食べてもいいでしょうか?」
「あの、」
一緒に食事をするなど学校以外でユウタは経験したことがなかった。家では常に一人でご飯を食べていたからだ。しかも部屋の隅っこで、与えられる食事はスーパーかコンビニで安くなったもの。離婚してから母親が料理している姿を見たことはなかった。
「嫌でしょうか?」
「そうではなくて、僕、慣れていないので」
「慣れていない?」
「いつも一人で食べるのが普通だったんです」
「そうですか。私もですけど。試しに今日は一緒に食べましょう」
タリダスにそう言われ、ユウタは戸惑いながら頷いた。
ユウタの部屋に食事が運ばれてくる。さすがに二人分だったので、マルサも一緒に食事を運んできた。
柔らかく煮込んだ鶏肉に、野菜のスープ。パンが添えられている。
「いただきます」
家にいた時は使ってことがなかった言葉。だけど反射的にユウタはそう口にしていた。
「いただきます?食事の前に神にでも祈る言葉でしょうか?」
「うーん。わかりません。感謝の言葉だと思います。僕も普通は言っていないのでびっくりしました」
「それでは、私もいただきます」
タリダスがそう言った後、スプーンを掴んだのでユウタはおかしくなってしまった。
「何がおかしいのです?」
「あの、タリダスが面白いなあと思って」
「面白い? そんなことを言われたのは初めてですよ」
「そうですか?」
ユウタは子供っぽく拗ねたようなタリダスの新しい顔に、意外な彼の姿を見た感じがして嬉しくなった。
「ユータ様も少しおかしいですよ。私のことが面白いなんて」
「そうは思わないですけど」
くだらないやりとり、しかしユウタはタリダスとこのようなやり取りができて、喜んでいた。
「さあ、冷めないうちに食べましょう」
「はい」
タリダスに指摘され、ユウタは慌ててフォークを手にした。
トマトソースで煮込まれた鶏肉は柔らかく、彼はこの世界に連れてきてもらって本当に良かったと思った。
「今日はもしかして退屈でしたか?」
「全然、本をずっと読んでました」
「何か面白いものはありましたか?」
「勇者の話がとても面白かったです。聖剣もでてきました」
「ああ、勇者の話。アルロー様の先祖様ですね」
「あの、今は魔物はいないのですか?」
「はい。この千年の間、魔物と呼ばれるものが出現したことはないはずですよ」
「そうですか」
タリダスの答えに、ユウタは少しがっかりしたような気持ちになり、反省した。
物語の魔物は魔法や剣によって倒すことができる。
現実はわからない。
この世界にはどうやら魔法が存在していないので、魔物が出現したらどうなるのかという恐怖心もある。
聖剣で倒す、おそらくそれしかないのだろうが、そうなるとユウタの出番。
ユウタも人並みにヒーローにあこがれるが、実際問題は異なる。
彼は死に対して恐怖心があるのだ。
「どうしたのですか?」
急に黙り込んだユウタにタリダスが問いかける。
「あの、魔物が現れたら嫌だなと思って」
「そうですね。それは本当に困ります」
真剣にタリダスが答え、ユウタは自分から振った話なのに困ってしまった。
「大丈夫です。聖剣もありますし。私があなたを守りますから」
「あ、ありがとうございます」
聖剣を扱うのはアルローの生まれ変わりであるユウタ、しかしタリダスは守ってくれるという。
なんだか申し訳なくなって、ユウタは礼を言う。
「本当に、ユータ様は。そのように畏まる必要はないのです。私はあなたの騎士なのですから」
それはユウタがアルローの生まれ変わりだからだ。
ただのユウタには守ってくれる騎士はいない。
それに気が付いて、ユウタは曖昧に微笑んだ。
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