偽りの王女と真の王女

ありま氷炎

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終章

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 一週間後。
 裁きも弁明もないまま、死刑が執行されようとしたことに反感を覚える者もおり、ヴィートの予想通り、ハランデン国王、王太子の面前で裁きが行われることになった。
 リーディアも「王女アレナ」として傍聴の席にいる。
 国王や貴族の前で行われるとあって、ボフミルの長く伸ばされた顎鬚は綺麗に整えられ、質素であるが清潔な服装に身を包んだ彼は、ラウラから少し離れた場所に立たっている。
 ヴィートが現れるまではラウラの髪は光沢をなくし、その頬もこけ始めていたのだが、彼がきてからは規則正しい生活をさせられているため、以前のままの美しさを保ったまま、ラウラは裁きに臨んだ。
 そんな彼女を一瞥だけして、ボフミルは国王に向き直る。
 裁判官というものは存在しておらず、宰相によって裁きは進められた。

「ボフミル・アデミツによると、ラウラが王女になりたいと望み、それに手を貸したとある。ラウラよ。これは正しいことか」
「……私は確かに王女になりたいと願いました。けれども口に出したことはありません。私の望みなどボフミルは知らなかったはずです」

 ラウラはその青い瞳を宰相に真っ直ぐに向け答える。

「ボフミル。ラウラはそう答えている。お前は虚偽を申し立てたのだな」
「いいえ。その娘は確かに妹ではなく、自身が王女になりたいと言った。だからこそ、アレナ王女のものである指輪を勝手に持ち出し、私にまるで自身のものであるかのように見せびらかしたのです」
「ち、違います!」
「ラウラ。今は発言するところではない」
「申し訳ありません」

 宰相に冷たく言い渡され、ラウラは口を閉じた。
 リーディアはいつ自身が発言をしたほうが効果的か、じりじりと時を待っていた。
 エリアスが傍にいれくれれば、どんなに心強いかと思いながらも、彼女はラウラ、ボフミル、宰相のやり取りを聞き続けた。
 裁きにおいて、隣国の者は傍聴を許可されていない。
 ヴィートは牢屋番として変装し、ラウラの傍にずっといたため、疑問を持たれることなく、彼女の監視役として傍に控えている。
 それが少し羨ましいと思いつつ、リーディアは自身の出番を待った。

「ボフミル。それであれば、お前はただラウラを連れ出せばよかったのではないか。なぜ、わざわざラウラの両親、アレナ王女の殺害を企てたのだ」
「それは、口封じのためです。ラウラも同意した上で、私は御者に頼み、馬車が崖から落ちるように計画を立てました」

 リーディアの脳裏にあの時の場面が蘇り、額を押さえる。
 ここで倒れたら姉を救えないと懸命に平静を装って、聞き続けた。

「ラウラよ。ボフミルはこのように主張しているが、お前の意見を申してみろ」
「私は同意しておりません。王女であればと願っただけです。口にもしておりませんし、両親とアレナ王女の殺害など考えたこともありません」

 ラウラは淡々と答え、それが冷たくも思える。
 
「ボフミルとラウラの両者の主張は異なる。しかし、ラウラが同意していなかったとしても、この九年事実を話さず、我らを騙していたことは事実だ。よって、ラウラにも反逆の意志があったと考え、二人を死刑に処するのが妥当だと考えられます」
「待ってください!」

 まるで初めからその予定だったように宰相がすらすらと最終的な裁断を述べ、リーディアは立ち上がり口を挟んだ。

「アレナ王女。王女とはいえ、発言は許されおりません」
「宰相閣下。王太子として王女に発言の許可をいただけますか」
「しかし」

 リーディアに冷たく返した宰相に、王太子が援護射撃を入れる。しかし、宰相は納得できないように国王を仰ぎ見た。

「フレク。王女に発言の許可を与える」

 そう国王が口にして、リーディアに発言の許可が下りる。

(私がここでしっかりしなければ)

 視線が痛いほど自身に集まるのを感じた。
 彼女は凛と前を向き、話し始めた。
 
「ラウラは私が幼い時から、優しくしてくれました。私を養ってくださったラウラの家族は貧しくパンが行き渡らない日もあるくらいでした。けれどもそんな時も彼女はパンを私に分けてくれました。指輪は私が貸したものです。わずか八歳の女の子といえば、可愛いものが好きでしょう。父上が母上に贈ってくださった指輪はとても美しく、女の子であれば誰でも欲しがるものですわ」

 そこで言葉を一旦切るとリーディアは国王に微笑む。
 笑みを返した国王に礼をして、再び話を続けた。

「私は自身の出生の秘密を知りませんでしたので、よくラウラとお姫様になれたらと話をしておりました。それもあり、彼女はお姫様、王女に焦がれたと思います。それは普通の感情です。ラウラは王女に憧れ、ボフミルに唆され私の代わりを務めました。九年間、ラウラは皆様を騙し続けた。それは宰相閣下のおっしゃるとおり、事実です。けれども、彼女は私の代わりに立派に王女の役目を果たした。私は真の王女でありますけれども、ラウラもその真意において偽りの王女ではなかったと私は思うのです」
「詭弁です。アレナ王女」

 リーディアが発言を終え、沈黙が訪れる。
 声を最初にあげたのが宰相のフレクだった。彼女の雰囲気、発言に飲まれそうだった貴族たちはそれで我に返った様で、フレクに賛同する意見も聞こえ始める。
 心の底から思ったことを伝え、王女の発言であればと事態を甘く考えていたリーディアは、絶望的な心境に陥った。ここで諦めたらラウラの命が終わってしまう。
 そう思い再び発言をしようと顔をあげたところで、ボフミルが切り出した。

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