偽りの王女と真の王女

ありま氷炎

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第三章 暴かれる秘密

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 アレナ王女一行は、セシュセの王都の民衆に盛大な歓迎を受け、王宮へ辿り着いた。
 出迎えたのは第二王子ヴィートで、アレナを王の元へ案内する。

「熱烈な歓迎を受けたみたいだね。アレナ王女。僕より人気があるかもしれないね」
「ヴィート様」

 彼は、彼女にだけ聞こえるようにそう言って笑う。
 冗談にしても、何にしても答えづらいことを彼はよく彼女に言った。アレナが困った顔をするのが楽しいようで、最後にはいつも冗談だよと纏める。
 
「その人気の秘密はやっぱり美しさかな。君は綺麗だもんね。とても」
 
 けれども今日はそう微笑を浮かべるだけで、彼女はますます返答に困ってしまった。 
 そんな会話をしているうちに、王室へ到着し、扉番の騎士が敬礼をする。ヴィートとアレナ到着の旨を声高らかに告げると、中から返答があり、ゆっくりと扉が開かれた。
 王女として教育を受けてきたアレナにとっても、隣国の王に会うことは特別だ。粗相をしなように心がけ、どうにか謁見を終えた。
 再び王と王妃、そして第一王子と会うのは今夜の晩餐会になる。
 長旅で疲れていることを考慮され、夜までは部屋で寛ぐことができる。そのことに安堵しながらも、アレナは気を張った状態で王室を退出した。



 アレナ王女がセシュセ王との謁見を終え、用意された部屋に入るのを確認して、ボフミルはその扉に張り付く。
 彼女を守る騎士としては当然の行為だ。
 けれども、彼は伯爵の身分に登りつめたのにも関わらず、こうして一介の騎士扱いされることに内心不満を持っていた。
 自国――ハランデンであれば何かと理由をつけて、彼専用に用意された自室で休むことができ、このように扉の前で番人のように立つことはない。
 こういうことを想定して、彼自身もセシュセに来ることを望んでいなかった。
 それなのに、第二王子ヴィートの願いでこうして彼は騎士の真似事をしなければならない。
 溜息、憂鬱そんな表情が出ないように心がけて、前を向く。

 ふと見覚えのある銀色の髪が視界をちらつく。目を凝らせば先ほど街中で見た騎士に類似した中年の男であることがわかる。
 男の身分は分からないが、貴族であることは確かだ。

(あの娘の身元を確かめたい)

 しかし隣国の騎士の彼は無闇に王宮を歩くことは不審がられる。なので、彼は隣のセシュセの騎士に確かめた。

「ドロヴナー殿。銀色の髪というのは、珍しいですかな」

 先ほど自己紹介を受けた騎士の名を呼び、世間話の一つであるように彼は話を始めた。
 不意の質問に、騎士は一瞬戸惑うがボフミルの視線の先に、銀色の髪の貴族――ドミニク・フラングス男爵がいるのを確認して納得したようだ。

「珍しいといわれれば珍しいかもしれません。フラングス男爵を始め、数人くらいしか私は見たことがありません」
「そうなのですね。我が国では見たことがなかったので、あちらの……フラングス男爵でしたかね。見かけて驚いてしまいました」
「ははは。フラングス男爵は見目もよいですからな。そのご子息など今回もそのせいでアレナ王女殿下の警備から外れたようで……」

 騎士はよほど世間話に飢えていたのか、そう軽々しく口にして慌てて口を閉じる。

「ご安心を。先ほどの話は聞かなかったことにいたしますから。私の胸にだけ、とどめておきます」
「助かります」

 騎士は多少青ざめた顔をしていたが、ボミフルの言葉に安堵する。

 見目がいい、そのために警備を外されたなど、彼にとってもどうもいい情報で、大切なのはあの娘がフラングス男爵の使用人という事実だけであった。



 目を覚ましたリーディアはそのまま寝付くこともできず、また今寝ると夜眠れない恐れもあったので、制服に着替えた。
 今の時間帯であれば夕食の準備に手伝いが必要かもしれないと厨房に顔を出す。
 
「リーディア。起きてきたのかい?」
「うん。休ませてもらったので、もうすっかり元気よ」
「しょうがない子だね」

 シアラはその頭を撫でると、野菜の下準備を頼む。
 人参、ジャガイモの皮を剥き、緑色の野菜を水洗いする。切る作業は料理人が行い、その手際よさに感心する。
 いつものことなのだが、何度見ても鮮やかに見えて、リーディアは褒め称える。
 そうして調子に乗った料理人が一品多く作ってしまい、厨房は賑やかさを増していく。
 暖かな雰囲気、優しい人々、リーディアは自分を悩ましていた頭痛がすっかりなくなっていることに安堵する。
 そして願わくば、二度とあの名前を聞きたくないと思うのだが、隣国の王女の名前であり、今話題の人物だ。それは願わぬことだと思う。

(そんなこと思うこと自体が不敬なのかもしれない。エリアス様が知ったら軽蔑されてしまう。どうして、私はあの名前が苦手なのだろう)

 そう考えると少し頭が痛くなってくるような気がして、リーディアは考えるのをやめた。

(考えないほうがいいってことよ。きっと)

 そう自身に言い聞かせて、彼女は屋敷の主人たちのために夕食の場を整え始める。
 
 
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