偽りの王女と真の王女

ありま氷炎

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第三章 暴かれる秘密

06

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「王女アレナ……」

 隣国の王女の名前を聞いて、リーディアの脳裏を何かが過ぎった気がした。

「どうしたんだい?」

 ジャガイモの皮を剥く作業をやめ、突然宙を見つめた彼女にシアラは声をかける。

「なんでもない。なんでもないの」

 その何かを探ろうとすると、ずきずきと嫌な頭痛がして、彼女は考えるのをやめる。すると頭痛は嘘のように止んだ。
 考えないほうがよいのだと自分に言い聞かせると、リーディアは再びジャガイモの皮を剥き始めた。
 


「だから、単なる嫉妬なんだって。君はめちゃくちゃ男前だから、アレナ王女にあわせたくないの。まあ、君がアレナ王女に惚れることはないと思うけど」
「当たり前でしょう」

 翌日エリアスはやっとヴィートと会うことができた。
 配属を外された理由を聞くとやはり団長の説明したとおりだった。

「殿下。直接言ってもらいたかったです」
「そうだね。それは反省してる。アレナ王女が帰ったら、また配属戻してもらうから。それまで少し我慢してよ。頼むね」
「殿下。それはいいですけど。来年結婚されたらどうするんですか?今度は国境に左遷でもするつもりですか」
「それはないよ。安心して。今回だけだから。まあ、三週間だけだから、よろしくね」

 ヴィートは急かすようにそう言うと、話は終わりと彼を部屋から追い出そうとする。実際、忙しいかもしれないが、こういう態度がエリアスの疑問が払拭されない理由だ。

「殿下」
「エリアス。頼む。この三週間だけだから」

 言い募ろうとするが真摯の目を向けられ、彼は大人しく部屋を出て行くしかなかった。



 ハランデンとセシュセの国境を越え、王女一行はセシュセに入った。
 アレナは馬車の窓から外を眺める。
 セシュセに戻るのは九年ぶりだ。別の国といっても陸続きなので、空も森も一緒で感じる空気も変わりがない。
 
 ――お姉ちゃん

 ふいに幼い「アレナ」の声が聞こえた気がして、車内を見回す。同行する侍女一人が心配そうな視線をアレナに向けた。

「少し疲れているみたいなの。王都に入ったら声をかけてくれる?」
「はい。畏まりました」

 眠れるわけがないのだが、目を閉じて自分だけの世界に浸りたかったアレナは、侍女に言付けると目を閉じた。
 揺れる車内、窓から入ってくる心地よい風。
 アレナはいつの間にか眠りに落ちていた。
 最近再び見始めた悪夢を見るとも知らずに。

 今回の夢は少し違った。
 より現実に近い夢だった。
 

 セシュセの王都に入り、隣国の王女として馬車から民衆に手を振る。
 そうして彼女は、ある娘を視界に入れる。
 
 茶色の髪に、緑色の瞳の娘で、王女に対して恐れることもなく、真っ直ぐな視線をこちらに向けていた。
 茶色の髪は一般的で珍しくない。けれども、その緑色の瞳はハランデンの国民なら王の瞳を連想する。

「偽りの王女。よくこの地に戻ってきたわ。真(まこと)の王女として、あなたの化けの皮を剥いでみせるわ」

 娘はアレナを指差し、高らかに宣言した。

「わ、私は本物よ。あれは偽者の王女よ。とらえなさい!」

 アレナがそう命じるが誰も動こうとしなかった。
 それどころか娘が命じると騎士が動き、馬車から彼女をひきずり降ろす。

「裁きをうけなさい。私と、実の両親を殺し、王族を騙すという反逆罪の」
 
「アレナ殿下、アレナ殿下!」
「ゆ、夢?」
「大丈夫ですか。かなりうなされていましたよ」
「大丈夫。ありがとう。今はどこ?」
「もうすぐ王都です。セシュセの国民へのお披露目の場でもあるので、仕度をいたします」
「ありがとう。お願いね」

 侍女に答えながら、夢でよかったと本当に心の底からアレナは思った。
 けれども夢にしてはかなり現実に近くて、正夢ではないかと怖くもなる。

「王都に到着しました。ここからセシュセの騎士団案内で、街に入ります」

 ボフミルの声がして、彼女は同じ立場の彼に先ほどの夢のことを話したくなった。けれども、そのような時間があるわけもなく、秘密の話をできる場所もない。
 アレナは腹をくくり、セシュセの国民へお披露目の時を待った。

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